ガールズ&パンツァー~地を駆ける歩兵達~   作:UNIMITES

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どうもUNIMITESです
今回からプラウダ戦です。
では、本編をどうぞ。


第16話 プラウダ&ファークト戦開始

 体育祭の日から数日後、大洗女子学園のガレージ内には修理、整備した戦車たちと、そして改修したⅣ号、そして戦車道と歩兵道を履修した生徒たちの姿があった。

 Ⅳ号は砲身を戦車と武器捜索で見つけ出した長砲身に換装し、外観も変えられている。

 その姿は、Ⅳ号D型からⅣ号戦車F2のように見えるようになっていた。

「葛城君、こっちも整備完了したよ。照月さんに頼まれてた品もいっしょに入れておいたから」

「ありがとうございます」

 凛祢はヤガミから渡されたアタッシュケースを受け取る。

「中身は何が入ってるんだ?」

「それはだな……」

 八尋を横目に凛祢はアタッシュケースのロックを外す。

 中には2丁の自動拳銃FN ブローニング・ハイパワーDAと両手用のオープンフィンガーグローブが収納されていた。

「拳銃のほうはいままでのFiveseveNと同様に整備しておいたから。あとはグローブだけど、照月さんの注文通り素材にはTNKワイヤーを使っていて、手甲のところには金属板を埋め込んでるよ」

 ヤガミは説明を終えると一息つく。

「おい、ヤガミ先輩、俺にもこのグローブ作ってくれよ」

「八尋。これはあくまでも格闘術で戦う際に手を傷ためないようにするために作ってもらったんだぞ」

「え?そうなの?悪い悪い」

 凛祢が説明すると八尋は頭を掻いて謝罪する。

「アーサー、君の剣も大分痛んできてるんじゃないか?」

「もう1戦くらいはいけるだろ……大丈夫だって」

 アーサーも手入れを終えた鋼鉄刀剣『カリバーン』を鞘に収納する。

 正直、3連戦替えもなし、少しの手入れと研ぐくらいで使い続ければ刀剣でも痛んでくる。

「「ありがとうございました。自動車部と整備部の皆さん」」

「いえいえー。まあ大変だったけど凄くやりがいがありました」

「確かにそうだよね。戦車や本物の銃を整備することになったし、なにより楽しかったですから!」

 ナカジマとヤガミがお互いを見た後に言い放つ。

 ツチヤやヤマケンも後ろで笑みを浮かべている。

「砲身が変わって、新しい戦車が2輌。増えた歩兵は4名」

「そこそこ、戦力と装備の補強はできたな」

 ルノーとⅣ号に目を向けた柚子と桃が呟く。

「あの、ルノーに乗るチームは?」

「俺も気になってました。ルノーの随伴歩兵も」

 みほと凛祢が疑問を口にすると、ガレージの扉を開けて7人の生徒がやってくる。

「今日から参加することになった園緑子と風紀委員です。よろしくお願いします」

 顔がそっくりな女子3人がお辞儀をする。

「どうも、大洗男子学園の風紀委員長やってる青葉誠一郎(あおばせいいちろう)です!よろしくお願いします!」

「図書委員長の赤羽哲也(あかばてつや)だ……」

「保健委員長の黄場裕也(きばゆうや)です」

 青髪の男子生徒ほうは1人は元気そうだが、残りの2人はそっぽを向いていた。

 麻子は少し驚いたような表情を浮かべる。

 そして、最後にもう1人が1歩前に出る。

「元船舶科!今は3年普通Ⅰ科A組、衛宮不知火だ!よろしく!」

 凛祢や英子は知っているが、みんなの前で自己紹介をしたのははじめてだった。

 衛宮不知火。九七式軽装甲車発見に助力してくれた生徒であり、船舶科から転科してきた男だ。

「略してそど子と愉快な仲間たちだ!いろいろ教えてやってねー」

「会長、名前を略さないでください!」

「何チームにしよっか?照月ちゃんたちもまだ決めてないし」

 呼び名に緑子が反論するが杏は無視するように話を進める。

「うーん。B1ってカモっぽくないですか?」

「んじゃ、カモに決定!」

「カモですか!?」

 みほの意見に杏は即決定する。緑子はオーバーリアクションでもしているかのように驚く。

「葛城君、分隊名を決めて」

「えーと。カモさんチームなのでなのでシラサギとかどうですか?同じ鳥類ですし」

「ハイ決定!委員長組はシラサギさん分隊ね!」

 凛祢が口にすると杏はカモさんチームと同様に即決定する。

「シラサギですよ!」

「「はいはい、そうですね」」

「2人ともノリが悪い!というか、シラサギって鳴くんでしょうか?」

 青葉はテンションが高いが他の2人は、やけに静かだった。

「杏、私たちのチーム名は?」

「うーん照月ちゃんたちはどうしようか……」

 英子が声を掛けると再び杏は考える。

「随伴歩兵は衛宮1人だし、オオカミとか」

「いいねーそれ!1匹狼だね。照月ちゃん、秋月、衛宮君は3人でオオカミさんチームってことで!」

 杏は親指を立ててグッドっと言わんばかりに凛祢に向ける。

「オオカミって……どうせなら犬でしょ」

「いいんじゃない?イヌとオオカミ、なんか似てるし」

 英子が苦笑いしていると秋月は笑みを浮かべる。

「オオカミか……わおーんってか」

 不知火もオオカミの鳴きまねをして見せる。

「戦車の操縦は冷泉さん、銃射撃は東藤君が指導してください」

「えー」

「マジかよ……俺以外にもいるだろ」

 宗司の発言に2人は露骨に嫌そうな顔を浮かべる。

「私が冷泉さんに!?」

 そど子は驚いて見せる。

「成績がいいからっていい気にならないでよね!」

「だったら自分で教本見て、練習すればいいだろ」

「なに無責任なこと言ってるの!ちゃんとわかりやすく、懇切丁寧に教えなさいよ!」

「はいはい」

 麻子は面倒な生徒を押し付けられたと思いながら返事をする。

 一方、俊也の方と言えば。

「銃の撃ち方を教えてください」

「引き金を引くだけ」

「……え?」

 青葉は俊也の返答に思わず、耳を疑う。

「えっと、もう1度言ってもらっていいですか?」

「だから、引き金を引くだけだって言ってんだろ。そこからは自分でやれ」

「いやいやいや、おかしいでしょ。引き金引いたら銃弾が出ることぐらいミリタリー好きじゃなくても分かりますよ!」

「知ってんなら教える必要ねぇだろ。あとは頑張れ」

 俊也はその言葉を最後に逃走しようとするが、青葉が腕を掴んで引き留める。

「何逃げようとしてるんですか!ちゃんと教えてくださいって」

「めんどくせぇ、先輩だな。わかったよ」

 俊也も麻子と同様にチームの義理と言う理由で仕方なく教育係りを引き受ける。

「次は3回戦だ!対戦相手は去年の優勝校、プラウダ高校とファークト高校から編成された連合だ!絶対に勝つぞ!負けたら終わりなんだからな!」

「どうしてですか?」

「負けても次があるじゃないですか?」

「相手は去年の優勝校だし」

「胸を借りるつもりで」

「そうそう気楽に気楽に……」

 桃の言葉に違和感を感じた1年生たちが言うと。

「それじゃ駄目なんだ!」

 雄二の鋭い声がガレージ内に響き渡った。

 その場にいた誰もが驚きを隠せなかった。

 そんな中、生徒会役員とたった1人秋月だけは真剣な顔をしていることに気づく。

「勝たなきゃダメなんだよね……」

「そう……俺たちに負けると言う選択肢はない」

 杏と英治は静寂の中で一言、口にした。

 その瞬間、「何故?」という疑問が凛祢の脳内に浮かぶ。

 いや、もっと前から凛祢は疑問に思っていた。

 生徒会はどうしてここまでして勝利にこだわるのだろうか?

 あの日、セレナが口にした言葉、「最後の希望」。その意味も今はわからないままだった。

 大事なもののために勝利しなければならない理由が。

「英……」

 凛祢が口を開いたとき、甲高い音と共に全員の視線がガレージの隅に向いた。

 時々ガレージに現れる野良猫が、予備の砲弾を落とした音だったことを理解するのは数秒もかからなかった。

「……西住、葛城。号令を」

「「はい、これより訓練を開始します!」」

 雄二に言われ、凛祢とみほが指示を出すと一斉に戦車に乗り込み外に出ていく女子生徒たち、男子生徒たちも銃火器を手に外に出る。

「西住ちゃん、葛城君。あとで大事な話があるから生徒会室に来て」

「え?」

「……了解です。行くぞみほ」

 みほは杏の言葉を理解できないまま訓練に向かう。一方、凛祢は疑問を抱えたまま訓練に向かうのだった。

 次のフィールドは雪原というのもあり、大洗学園艦も次のフィールドに向かっているため屋外は雪が降っていた。そのため、屋外の季節はまさに冬のように寒くなり始めている。

 

 

 数時間後、外も真っ暗になり生徒たちが下校したにも関わらず大洗女子学園の生徒会室には明かりが灯っていた。

 凛祢とみほは目の前の光景に少し驚いていた。

 目の前には大きめのコタツ。その上に用意されたガスコンロと鍋料理と小皿。生徒会役員は寒さを凌ぐために半纏を身に着けている。

 凛祢も防寒用のロングコートを身に着けているが。

 みほは制服にマフラーと言う格好をしていた。

「いやー寒くなってきたねー」

「同感だ。最近まで夏の気分だったってのに」

 杏と英治が笑みを浮かべて呟く。

「北緯50度を超えましたからね」

「次のフィールドは北なんだろ?歩兵は特製制服で戦場を駆けて大丈夫なのか?」

 桃が言うと雄二が生徒会室内のストーブを点けた。

「それについては、試合開始直前までは制服の上にコートとか着ていいみたいですよ」

「それでも寒そうですから、カイロとかも持ってた方がいいですね」

 柚子と宗司も寒そうにコタツに入る。

「まったく試合会場をルーレットで決めるのはやめてほしい」

 ストーブの前に立っていた桃が淹れたての緑茶と紅茶をお盆に乗せてやって来る。

「あの話って……」

「どうしたんですか?」

 みほと凛祢も生徒会役員に問い掛ける。

「まあまあ、あんこう鍋でも食べて!」

「会長の作るあんこう鍋は絶品なのよ」

「まずね、あん肝をよく炒めるといいんだよ、そこにみそを入れて……」

「杏会長、料理が趣味でしたもんね。俺もあんこう鍋の作り方聞きたいです」

 杏の説明に凛祢も興味を惹かれ、コタツに入ろうとする。

「り、凛祢君!?そんなこと聞いてる場合?」

「あ、悪い悪い。杏会長の料理はうまいからさ」

 みほに呼ばれて凛祢は申し訳なさそうに頭を掻いた。

 歩兵道を始めてからいろんな人と食事をしたが、料理を作る側としての腕は沙織と杏以外はまったくと言っていいほどからっきしだった。

 この前のサバイバル合宿の時はなんてひどかったものだ。1年生がバーベキューの食材をすべて炭に変えてしまって、そこを杏会長が助けてくれたんだよな。あの時の野菜炒めの味はよく覚えている。

 沙織の料理もおいしかったが、どこかありきたりな味と言うか、そんな感じがした。

 だが、杏会長はおいしいが沙織とは違うオリジナリティがあると言うか、隠し味がしっかり存在している気がした。

 それでも、どちらもおいしいのに変わりはない。

「えっと、みそを入れてね……」

「いえ、鍋の作り方はいいです」

 みほの言葉に沈黙が流れる。

「コタツ熱くない?」

「はい、大丈夫です」

 柚子の気づかいに凛祢が答える。

「小山がやりくりして買ったコタツなんだよ!去年も学園祭前にみんなで溜まった仕事を整理したっけなー」

「あれは大変だったが、いい思い出だな」

 杏と英治が去年の事を思い出すように言った。

 凛祢も去年の学園祭の事を思い出す。そういえば去年は早めに冬がやってきたっけ。

「他にも色々買ってましたしね。冷蔵庫とか電子レンジとかホットプレートとか」

「もはや、生徒会室にあっていいものじゃないだろ」

 宗司の言葉に雄二がツッコミを入れる。

「体育祭や合唱祭や学園祭の前にはここでよく寝泊まりしたからなー」

「あったなー。俺たちは理科準備室で寝泊まりして大変だったけ」

 すると今度は思い出話を始める生徒会役員。

 一体、何を言いたいのか分からない。

「去年は大カレー大会もやってたな」

「あーありましたね。2年のカレーがハヤシライスだったていう」

「いや、思い出話はいいですから……」

 みほはまたも話を遮る様に促す。

 みほの気持ちも分からなくもないが……って、こんな話、前にも聞いたような。

 いつだったけ……そうだ、英治会長たちに歩兵道をしてほしいと言われた時だ。

 凛祢はその時の事を思い出す。

「あ、私たちと英治会長たちはね、1年生の時から生徒会やっててね」

「そうだ、珍しいものがあるんだよ、これ」

 杏がそう言って持ってきたのは6人のアルバムだった。

 数ページめくったところで6人が学園の前で写っている写真があった。

 桃は眼鏡をかけておらず、雄二もどこか優しそうな顔をしている。6人全員が笑顔の写真だった。

「ほら、河嶋が笑ってる。緑間君もまだ根暗だったよね」

「そんなもの見せないでくださいよ!」

「そうですよ。てか、俺は根暗じゃないですし」

 桃と雄二は少し恥ずかしそうに写真を見る。

 色々な写真を見た。今の生徒会役員決定時の写真、学園祭や体育祭の写真、英治や杏が仮装している仮装大会の写真なんかもあった。

 他にも、夏の水かけ祭り、泥んこプロレス大会の写真。

「楽しそうですね」

「まさに形のある思い出ですね」

 みほと凛祢も少し笑みを浮かべて写真に目をやる。

「うん、楽しかった」

「だよな、今の俺たちの成り立ちみたいなものだしな」

 杏が思い出すように言うと続くように英治も口を開いた。

「本当に楽しかったですね」

「ああ、本当にな」

「ですね」

「あの頃は……」

 桃や雄二、宗司、柚子も同じような表情を浮かべていた。

 だが、どこか悲しげな顔をしている。

 なんだろう、この違和感は。

「ん?ん?」

 みほは生徒会役員の顔を見る。どうしていいかわからなそうなみほに凛祢が気づく。

「……あの、鍋煮えてるんですけど」

「……そ、そうだな。食べよ!」

 凛祢の声に生徒会役員は顔を上げて、あんこう鍋を取り分けていく。

 

 

 1時間ほどで食事を終えて凛祢とみほは下校するために廊下を歩いていた。

「結局何だったんだろう。話って……」

「本当にそうだよな……あ、やべ。財布忘れた。悪いみほ先行っててくれ」

「え、私もいっしょに行くよ?」

「いや、1人で大丈夫だ。玄関で待っててくれ」

「うん、わかった」

 凛祢は1人、生徒会室を目指した。

 嘘をついた。財布は鞄から出していないから忘れるはずがない。

 まだ生徒会には聞きたいことがある。

 それを聞かないうちは……やっぱり納得できない。

 凛祢が階段を上り終えた時、廊下の先に人影を発見した。

「あら、まだ残ってたの?もう遅いし下校した方がいいわよ?」

「秋月か……」

 凛祢の視線の先には英子の友人である秋月の姿がある。

 覚悟を決めて視線を向ける。

「秋月、俺たちが『最後の希望』。お前ならこの言葉の意味を知ってるんじゃないか?」

「……なんのことだかわからないわね。なんか変よ、葛城くん」

「とぼけるな。じゃあ、なんでこんな時間まで学校に残ってるんだ?」

 凛祢は鋭い視線を向けた。

 現時刻は7時半過ぎ、こんな時間まで残っているのは不自然だった。

「忘れ物しちゃってね。授業のノートを取りにきただけよ。そういう君だって残ってどうしたの?」

「俺は会長たちと話を……」

 秋月は静かにそう言ったが、凛祢には不信感があった。

 彼女は生徒会とこそこそあっていた。

 大洗に情報を提供していた「セレナ」という女。そして、彼女の名は「秋月セレナ」。

 2回戦の後、凛祢と不知火は2人だけで楯無教諭の元を訪れた。

 楯無教諭は学園内、全ての生徒の顔と名前を知っている。彼女の名前を知る事は難しくはなかった。

 そして、諜報活動に長けたセレナは確実に秋月だってことはわかってる。

「答えろ、生徒会が勝利にこだわるのはなんでだ?」

「わからないわよ」

「秋月、いやセレナ!教えてくれ!何か知ってるんじゃないのか!?」

「……言ったでしょ。わからないって」

 セレナの言葉は変わらない。多分、このまま聞いても絶対に答えない。

 これで答えるようなら、もう話しているからだ。

 もはや、これしかない。

「くっ!わかったよ、秋月と生徒会がそう言うつもりなら構わない。会長たちに伝えろ。次の試合に勝ったら隠してることを洗いざらい話せって。じゃなきゃ俺は……準決勝と決勝戦に出場しない!」

「何を馬鹿なことを言ってるの?」

「言葉通りだ。秋月が何か知っていようとなかろうと、俺は真実を知らなきゃ試合には参加しない」

 凛祢はセレナの顔を横目に見て階段を下りて行った。

 セレナも凛祢の姿が見えなくなった後、その場を去った。

「悪い、遅くなった」

「いえ大丈夫です。ありましたか?財布」

「ああ。杏会長が拾ってくれてたみたいだった」

 みほに答えるように凛祢も言うと靴を履いたあと雪の降り続く中、帰路に向かった。

「あの凛祢さん……」

「どうした?」

「こんな私を支えてくれて、一緒にいてくれてありがとうございました」

「別に気にするな。俺はただ寄り添っていただけだ、それが誰かの為になるならと思って……」

 あの日、自分の選択は間違っていなかったはず。

 自分が何もかも背負えばいいと思っていた。だが……今思えば逃げたのかもしれない。

 戦う理由もなくなってしまったから。

 でも、今は違う。寄り添いたいと思った人が……戦う理由をくれた人がいる。

 孤独の辛さは自分が一番よく知ってるから。

「感謝するのは俺のほうだ。みほが居てくれたから。俺は戦場に戻ってくることができた」

「凛祢さん……」

「必ず勝って、優勝しよう」

「はい!」

 凛祢とみほは降り続く雪の冷気を感じながら、帰路を進んだ。

 

 

 生徒会室では片づけが行なわれていた。

「言えなかったじゃないですか……」

「そうだな……」

「これでいいんだよ。転校してきたばかりで重荷背負わせるのもなんだし」

 桃と雄二が落ち込むように言うと、杏が天井を見上げて言った。

「ですが……」

「事実を知って委縮するより、伸び伸びやらせてやるのが俺たちの務めだろ?結局俺たちは無理強いをしたようなものなんだから」

 英治は生徒会室の窓から暗くなった外を見つめていた。

「……僕、お茶入れますね」

「はー、終わりか……」

「まだわからないだろ?最後まで全力でやって行こう」

 雄二の気の抜けた声に英治が呟くのだった。

 

 

 そして、黒森峰学園艦。西住家には聖羅とまほが訪れていた。

 畳部屋で3人は正座をして向き合う。

「あなたたちは知っていたの?」

「はい」

「ああ、抽選会の時点で知っていた」

 しほの質問にまほと聖羅が答える。

「西住の名を背負っているのに勝手な事ばかりして……」

「……」

「何もそこまで言うことねぇだろ。まほが悪いことしたわけでもねぇのに」

 まほの辛そうな表情を見た聖羅は思わず口を出してしまう。

「あなたは黙ってなさい。これ以上、生き恥をさらすことは許さないわ。『撃てば必中、守りは固く進む姿は乱れ無し』、鉄の掟、鋼の心、それが西住流」

「……」

「っ……」

 無言のまほを見ていた聖羅がもう一度口を開こうとするが、しほの鋭い視線に口を開くのをやめる。

「まほ……」

「わ、私と聖羅はお母様と同じで西住流そのものです。でも、みほは……」

「もういいわ」

 まほの答えにしほは立ち上がる。

「ちょっと待てよ。なんだってそんなにイラ立ってんだよ?」

「あなたには関係ないわ」

「関係アリだよ。生き恥だ?笑わせんな。試合の結果が全てだって言ったのはあんただろ。だったら俺たちが大洗に勝てばいい。今年の全国大会で優勝すれば文句ねーだろ」

「聖羅……やめろ。お母様の前なんだぞ!」

「まほは黙ってろ。俺は何も西住の名が欲しいわけじゃない。俺は俺が信じたものの為に戦う、黒咲の名を歴史に刻むために。だから――」

 聖羅の叫びを遮る様に、乾いた音が室内に響き渡る。

 まほの右手が聖羅の左頬を叩いた音だった。

 しほはまほの行動を静かに見ていた。

「やめろ……やめてくれ聖羅」

「まほ……お前」

「お前まで失ったら私は……」

 まほは顔を伏せていた。しかし、体は震えていた。

 聖羅もそんな様子を見て、理解する。

 みほのことで、一番傷ついていたのは……まほなんだと。

「そうかよ……悪かったよ。俺は帰る、じゃあな」

「聖羅……」

 聖羅はその一言を残して、西住家を出ていく。

 まほは手を伸ばそうとするがその手が聖羅に触れることはなかった。

 しほも去る聖羅を止めることはしなかった。

「まほ……」

「お母様、聖羅は!」

「あの男の事はひとまず保留とするわ。3回戦は私と歩兵道連盟の葛城も見に行く。あの子に勘当を言い渡すためにね」

「はい、お母様……」

 静かな室内でしほとまほの声が響くのだった。

 勘当を言い渡す。それは親が子との縁を切ること。まほもそれくらい知っている。しかし、自分にはできる事はない。

 しほはそれ以上何も言わなかった。まほもまた何も言えなかった。

 

 聖羅は帰路を歩きながらため息をついた。

「あーあ。またやっちまった……。すぐに口を開くのは悪い癖だな」

 聖羅が夜空を見上げると星と満月が輝いていた。

 昔は戦友と見た空だと言うことは今でも覚えている。

 寮に到着し、扉を開く。

「ただいま」

「お兄ちゃん、お帰りなさい!ご飯できてるよ」

「遅くなったな」

 寮に帰宅した聖羅を1人の少女が出迎える。セミロングの黒髪、中学生と変わらない身長、華奢な体、幼さの残る顔つき。

 彼女の名は黒咲聖菜(くろさきせな)。聖羅のたった1人の妹である。

「お兄ちゃん、何かあった?」

「別に、まほとちょっと喧嘩しただけだ」

 すぐに部屋に入ると聖菜が夕食の準備を始めている事に気づく。

 数分ほどで聖羅は聖菜と夕食を食べ始める。

「西住さんと?珍しいね、仲いいのに」

「そんなに仲良く見えるか?」

 聖羅は思わず聖菜の顔を見た。

 正直、聖羅自身はそこまで仲良くしていた記憶はない。時々、一緒に出掛けるくらいだった。

「仲いいじゃん。いっそ付き合えばいいのに……」

「ぶっ!馬鹿言うな、あっちは西住流だぞ」

 味噌汁を口に運んだ聖羅も思わずむせ返る。

 そんな聖羅を聖菜は笑いながら見つめる。

「ふーん、黒森峰で歩兵道始めた頃は『西住流も島田流も関係ない』とか言ってたじゃん。それにお兄ちゃん黒咲流を歴史に残すんでしょ?」

「いいんだよ、俺とまほは今のままで。黒咲流を残すか、そんなことも考えてたな……まったく現実はうまくいかないぜ」

 聖羅は再び煮物を口に放り込む。

「えー、お似合いなのに……」

「お前こそ、誰かと付き合わないのかよ?」

「え?わ、私?私は、凛祢さんと……」

 聖菜は少し恥ずかしいのか、視線を泳がせる。

「なんだ、凛祢のこと。まだ好きだったのか」

「か、関係ないでしょ!凛祢さんも黒森峰に入学していれば……あ」

「……ごめんな」

 聖羅は茶碗を置いて、視線を落とした。

 凛祢の過去を知る聖羅と聖菜。聖羅は凛祢が歩兵道を辞めてしまったことを思い出す。

 目を背け続けた過去。

 あいつが、凛祢が居たら去年のようなことにはならなかっただろうに。

「あ、ごめん。お兄ちゃん!私、また……本当にごめんなさい」

「いいんだ……凛祢にだけ責任を押し付けたから。それに西住妹も……」

 聖羅は拳を強く握った。凛祢は犠牲になっただけなのに、ここまで来てしまった。

 そして、聖羅は去年の試合で再び過ちを繰り返してしまった。西住みほと言う犠牲のもとに。

 

 

 大洗連合とプラウダ&ファークト連合の対戦である3回戦、試合前日。大洗女子学園校庭ガレージ内では大洗連合の最後の準備が行なわれていた。

「おまたせー」

「おーい、言われたもの買ってきたぞー」

 段ボールを抱える沙織と八尋が戻り、凛祢やみほたちが集まる。

 段ボールの中にはカイロ、マフラー、防寒用のコートなどが入っている。

「カイロまでいるんですか?」

「戦車の中には暖房ないから」

 華とみほが興味深そうに段ボールの中を覗きこむ。

「俺たちは直接雪原を駆けるのか……長時間狙撃地点で動かないのはしんどそうだ」

「確かにな。でも、1番つらいのは突撃兵かな?雪原を走り回るのって結構大変だから。物資はできるだけ用意した方がいいぞ。非常食とかな」

 翼と凛祢もカイロを手に持って内容を確かめる。

「タイツ二枚重ねにしようか?」

「ネックウォーマーもしたほうがいいよね」

「それより、リップ色がついたのにした方がよくない?」

「コート着ていいんだっけ?」

「長靴もいいでしょ」

「髪の毛をワックスでガッチガッチに固めようぜ」

「多分、雪で濡れて、大変な事になるぞ」

「3回戦だからギャラリーも増えてるだろうし、やってもいいじゃん」

 ウサギさんチームとヤマネコ分隊からもそんな声が聞こえてくる。

「どうだ」

「私はこれだ!シャーロックは片眼鏡が似合ってるね」

「そうかい?」

 カツラを被った左衛門座と草花の冠を乗せたカエサル、片眼鏡をつけるシャーロック。

 他にもジルがどこから持ってきたのか知らないが鎧を装着していたり、景綱も笛を演奏していた。

「あなたたち、メイクは禁止!仮装も禁止!ちょっと、青葉君!あなたも注意しなさいよ!」

「えー、もう注意しても聞かないじゃないですかー。ほっといたほうが楽ですよ、そど子さん」

 真面目そうな緑子とは真逆に笑みを浮かべる青葉。

「そど子って呼ばないで!あなた、それでも風紀委員長なの!?」

「風紀委員長の青葉です!みなさん校則は守りましょうー」

 青葉は持っていた軽機関銃RP-46の銃口を向けると棒読みで言った。

「ちょっと、危ないから銃口向けないでよ!」

「あはは、すみません!でも、いいじゃないですか、皆さん楽しそうですし」

「これは授業の一環なのよ?校則は守りなさい!それにあなたパイプ煙草吸うのもやめなさい」

「これはレプリカだよ」

 いつも笑ってのんびりしている青葉とは異なり、緑子は怒りの表情を浮かべている。まさに水と油と言ったところか。

 すると、緑子の肩にアーサーとエルヴィンが手を乗せた。

「「自分の人生は……自分で演出する」」

「何言ってんの!?」

 2人がドヤ顔していると緑子は訳が分からなくなったのか声を上げた。

「今度はみんな結構見に来ますよ!」

「戦車にバレー部員募集って書いて貼っておこうよ!」

「いいね!」

 忍と妙子が言うと、賛成するように典子が声を上げた。

「俺たちもバスケ部募集する?」

「でも俺たちのほうは人足りてるぞ」

「そうですよねー。レギュラー争い激しいですから」

 漣が言うと迅と淳が続くように呟いた。

 すると、ガレージ内に九七式軽装甲車が入って来た。緩やかな動きで八九式の隣に停車した。

 そして、搭乗していた英子とセレナが降りてくる。

「だいぶ上達したんじゃない?」

「それは冷泉さんにあれだけしごかれたもの」

 英子とセレナが会話して歩いてくる。

 九七式軽装甲車に搭乗するのは英子とセレナの2人のみ。そもそも2人乗りだからだ。

 ただし1人で二役も三役もすることになるが。

 ちなみに車長兼砲手兼通信手が英子。操縦手がセレナといった配置だ。

「英子、秋月。お疲れ様」

「うん」

「今日はもう上がっていいかしら?」

「ああ構わないよ」

 凛祢が答えるとセレナは早足にガレージを出て行った。

「凛祢」

「ん?」

「秋月となんかあった?」

「え?いや、なんもないけど……」

 英子のドストライクな質問に鼓動が早くなった。

 この前話して以降、セレナは凛祢を避けている。

 凛祢も気づいているが。今のままでもしょうがなかった。自分自身、次の試合に集中したかったから。

「なら、いいんだけど」

 英子もそう言ってみほたちの元に歩いていく。

 セレナは英子にも隠し事を話していないみたいだった。

 それほど隠し通したい事なのだろうか?

「アンツィオとアルディーニに勝ってからみんな盛り上がってますよね!」

「期待もされてるからな」

「でも、僕は少し緊張します。対戦相手はプラウダとファークトですから」

 優花里や俊也、塁も笑みを浮かべる。

「次は母と新三郎も見に来ると言っています」

「クラスのみんなも来るし、まけらんねーな」

「当たり前だ。俺の兄弟も来るらしいからな」

「翼の妹と弟か。懐かしいな、デカくなったか?」

 華と八尋、翼も強気に言い放つ。

 家族……か。

 訓練を終えて、みほと英子を連れて帰路を歩いていた凛祢は携帯端末に目を落とす。画面には不在着信が何度も来ていた。

 相手は「葛城朱音」。

 どうやら朱音も気づいたようだ。凛祢が歩兵道を始めていたことを。

 週刊雑誌にも載っていたし、バレるのは時間の問題だったのだが。

 だが、凛祢は電話に出なかった。

 携帯端末を胸ポケットにしまい、最後の作戦確認のためにみほの家を目指す。

「15輌対7輌。それにあっちはT-34/76と85にKV-2、IS-2……」

「歩兵は1分隊6人×15の90人。しかも、サンダースの時と違って計算高い隊長のアルベルトか。爆弾作戦は雪上では少し不利。キツイな」

「短時間で一気に進出してフラッグ車を叩くのも手だけど失敗したときに取り返しがつかないわけね」

 みほ、凛祢、英子がそれぞれの書類を見てため息をついた。

「プラウダは引いてからの反撃が得意だから……挑発に乗らず慎重に」

「ファークトは狙撃兵、砲兵を多めに配置し、残りは突撃兵と数名の偵察兵。まあ、工兵を使う学校なんてウチとアルディーニくらいか……でも、その分、工兵の攻撃は奇襲になりやすい。まあ乱戦になったら勝ち目ないからな」

 みほと凛祢はそう口にして作戦を考えるのだった。

 

 

 3回戦当日、両校の学園艦がフィールドに到着しそれぞれの陣地にて待機している。

 フィールドは雪原。空は日が沈んで夜。大洗にとっては初の夜戦だった。

「寒すぎだってこれ!まじで凍え死にそう」

「やべぇ、小便行きたくなってきた」

「俺もです、衛宮先輩。連れション行きましょう」

 八尋と不知火はがたがた震えながら岩陰のほうに歩いていく。

 みほたちが戦車たちの確認をしている中、凛祢も自身の装備を確認していた。

 ヒートアックス入りのバックパック。2丁のブローニングハイパワーDA、コンバットナイフ。手榴弾を数個。

「塁、これ」

「これってFiveseveN?」

 凛祢は隣にいた塁に、FiveseveNと予備弾倉を渡した。

「俺はこっちがあるから使えよ。訓練で何度も撃ってるから慣れてるだろ?」

「は、はい。いいんですか?」

「拳銃を3丁も持ってても使えないからな。塁が持っとけ」

「ありがとうございます。凛祢殿の使っていたFiveseveNですか……」

 塁もFiveseveNを見て目を輝かせる。

 凛祢はそんな様子を見て、なんで嬉しいのかと疑問を抱くが見なかったことにしようと武器を収納していく。

 腰のホルスターにナイフを、わきのホルスターにブローニング・ハイパワーを収納する。

 予備弾倉と起爆用リモコンもベルトのマガジンケースに収納して、バックパックを背負う。

 最後にオープンフィンガーグローブと防弾加工外套を装備する。

 今回、大洗のフラッグ車は八九式。よって、分隊長兼フラッグ隊長の辰巳がもう1つの防弾加工外套を羽織っている。

 Ⅲ突のキャタピラはウィンターゲッテにして、ラジエーターに不凍液も入れた。

 できる事はやった、後は勝つだけだ。

「「……」」

「あの、大丈夫ですか?」

 凛祢がみほとともにカモさんチームとシラサギ分隊の元に向かい声を掛ける。

「だ、だだ、だだだ、大丈夫でっす、よ!青葉は、頑張ります!」

「おい、緊張しすぎだろ青葉」

「テンパり過ぎだよ」

 青葉は緊張しすぎていつもと違う感じを見せていた。赤羽と黄場はあまり緊張していないようだが。

「いきなり試合で大変だと思いますけど、落ち着いて頑張ってくださいね」

「分からない事があったら無線で連絡してくれ、そど子」

 みほと麻子が風紀委員の3人に向けて言った。

「おい、東藤。お前も何か言ってやれよ」

「んあ?まあ、葛城の指示通りにやれば間違いはない。あとは教えた事をそのまま実戦に出せばいいだけだ」

 凛祢が声を掛けると俊也も言い放つ。

「はい!青葉頑張ります!」

「そんなに期待してねぇよ」

「少しくらい期待してくださいよ!」

 皮肉を言うように呟く俊也を見て青葉が声を上げる。

 凛祢やみほたちが笑っていると、雪合戦しているウサギさんチームとヤマネコ分隊、武田信玄型の雪だるまを作るカバさんチームが目に入る。他にもかまくらを作るオオワシ分隊とワニさん分隊。

「なにやってんだ、あいつら……」

「あははは……」

 凛祢がため息をつくと、みほも乾いた笑いを漏らした。

 すると、音を立てて現れたのは軍用車両『カチューシャ』。荷台部分にはロケット弾を撃つカタパルトが備え付けられている。

 すぐにプラウダのパンツァージャケット姿の小学生の様な背丈の少女と背の高い女子生徒、赤を中心に緑で彩られた特製制服と赤い軍帽を被る2人の男子生徒が現れる。

「あれは……」

「プラウダとファークトの隊長と副隊長……」

「プラウダの隊長、地吹雪のカチューシャとブリザードのノンナですね」

「男子のほうはファークトの隊長、リボルバー・アルベルトと副隊長スナイパー・エレンです」

 あらかじめプラウダ&ファークト連合を調べていた優花里と塁。

 去年の優勝校であるプラウダとファークトの隊長、副隊長のことは凛祢も知っている。

 2人とも奇襲、奇策などの戦術を得意とするため誘いに乗ればあっという間に戦力を削られる。

 そして、プラウダの戦車とファークトの歩兵用武装はソ連(ロシア)のものが中心だ。

 今回はフィールドは「雪原」。地の利も戦い慣れているあちらにある。大洗にとっては厳しい戦いになることは明白だ。

 降りた4人はゆっくりと大洗連合のほうに歩み進めてくる。

 凛祢やみほたちにも静寂の緊張が走る。

 しかし、それは思いもしない形で崩れた。

「ふふ、はははは!このカチューシャを笑わせるためにこんな戦車を用意したのね」

「なんだなんだ?このちびっこ?おい、小学生。観客席はあっちだぞ」

 岩場の裏から戻ってきた不知火が親切のつもりで観客席を指さした。

 その瞬間、凛祢やみほ、生徒会役員に冷や汗が流れる。

「衛宮、なにやってんだ!」

「だってこいつが……」

「私は……17歳よ!」

 カチューシャは衛宮を睨みつける。

 よっぽど衛宮の言葉が気に入らなかったのか威嚇するように睨んでいた。

「えー嘘だろ!杏会長より小さい高校生っているのかよ!」

「衛宮ーあとで袋叩きなー」

 杏が棒読みするように叫ぶ。

「えー、なんでー!?」

「いいから、あっち行ってろ!」

「「行きますよ衛宮先輩」」

 不知火は八尋と翼に引っ張られる様に後方に行く。

 さっきのやり取りを聞く限り、杏も身長のことは少し気にしているのかもしれないな。

 今後、口にしないように気を付けよう。

 改めて英治と杏たちの生徒会役員が前に出ていく。

「やーやー、カチューシャ。よろしく、生徒会長の角谷だ」

「ウチの生徒の無礼を許してくれ。君がアルベルトだね、同じく生徒会長の相川だ。よろしく」

 会長2人が挨拶と自己紹介をして手を差し出す。

「どうも、ファークト高校の隊長、アルベルトです。同志カチューシャの事はお気になさらず」

「ノンナ!」

 握手をしているアルベルトと英治の横では、ノンナが無表情のまま、カチューシャを肩車する。

「あなたたちは何もかもカチューシャより下なの。戦車も技術も身長もね」

「肩車してるじゃないか……」

「口うるさいチビだな」

「聞こえたわよ!よくもカチューシャを侮辱したわね、粛清してやる!行くわよノンナ!アルベルト、エレン!……あれ、あなた」

 振り向きざまに見慣れ顔を発見したカチューシャは視線を向ける。

 大洗の中でカチューシャの知る人間と言えばただ1人、元黒森峰女学院にいた西住みほだった。

「あら、西住流の……」

「……!」

 カチューシャの視線の先に、アルベルトやエレンも視線を向けた。

 みほの隣に立っていた凛祢とアルベルトの視線が合った。

「去年はありがとう。あなたのおかげで私たち優勝できたわ」

「うう……」

「今年もよろしくね、家元さん。じゃーねーピロシキ―」

「ダズビダーニャ」

 カチューシャを肩車したままノンナは振り向いて去って行く。

「久しぶり……と言うべきかな、周防」

「……」

 アルベルトは凛祢の前に来ると皮肉そうに笑みを浮かべていた。

 凛祢も数秒の沈黙の後、口を開いた。

「背、伸びたんですね」

「……それ、今言うことか?まったく、かつての好敵手(ライバル)を忘れてしまったか」

「覚えてますよ。リボルバー・アルベルト。貴方にリボルバーを勧めたのは誰だと思っているんですか」

 アルベルトの前で凛祢も笑みを見せた。

 ファークト高校の隊長アルベルトとは中学歩兵道からの顔見知りだった。中学時代は背が低かったが、今は凛祢よりも高くなっていた。170くらいはあるのではないだろうか。

「まあ中学の時は勝たせてもらったからな。今回も勝たせてもらうよ」

「……俺たちは負けません」

 凛祢は拳を強く握る。

 今負けたら戦場に戻ってきた意味がないからだ。

「まあ、せっかく戦場で会えたんだ。いい試合にしよう。超人の戦いを見せてもらうぞ……行くぞエレン」

「はいよ、ダズビダーニャー」

 アルベルトは振り向きざまに小さな声で呟くとエレンも頭を軽く下げてカチューシャに乗り込み、自分の陣地へと帰って行った。

 

 

 雪が降り続く中でも観客席に人の姿はあった。

 翼の弟、鳥海(ちょうかい)と妹の小鳥(ことり)。秋山優花里の両親や五十鈴華の母親と新三郎。

「ほら玄十郎さん。早くしないと英子の試合始まっちゃいますよ」

「フンッ。この寒さは老骨に堪えるのう」

 照月英子と敦子の祖父、玄十郎と祖母の麗子も会場に到着していた。

 体全体で雪原の寒さを感じていた玄十郎は杖を突きながらゆっくりと船から降りていく。

 すると1人の女性が待っていたように車を用意していた。

「遅かったなじじい、お待ちしていました麗子さん。こちらの車で会場まで行けますから」

「ありがとう、敦子」

 それは気づかいで照月敦子が用意したものだった。

「年寄り扱いするでない!ワシはまだまだ現役だぞ!」

「そんなこと言って……敦子が用意してくれたんだからお世話になりましょ」

「……麗子が言うなら仕方あるまい」

 2人は素直に車に乗り込み、会場へと向かう。

 敦子も見送った後に役員用のテントに向かった。

 

 

 1回戦の時と同様に、一般とは別の場所にて聖グロと聖ブリの生徒たちは試合観戦の準備をしていた。

「この寒さ、プラウダより圧倒的に劣る車両と歩兵の技術。これでどうやって勝つつもりでしょう……」

「なんだよ、ペコちゃん心配してるのか?」

「そういうわけじゃないですが。……ガノ先輩、『ペコちゃん』って呼ぶのやめてください」

 オレンジペコはガノスタンをジト目で見つめた。

「え?可愛いじゃねーか、ペコちゃん。なあ?」

「うん、ペコちゃんはかわいいよ」

「ええ、ペコちゃんはかわいいわよ」

 ガノスタンの呼び方を気に入ったのか、ケンスロットとダージリンも同じ呼び方をした。

「ケンスロット先輩やダージリン様まで。本当にやめてくださいー」

 オレンジペコは恥ずかしがるように頬を赤く染めて声を上げる。

「ごめんごめん、ペコちゃんがあんまりかわいいからさ」

「ガノ先輩は意地悪ですね……」

 オレンジペコは再びジト目で見つめていると、ガノスタンはいつものように満面の笑みを浮かべていた。

 

 

 そして、大洗連合も陣地内で最後の戦闘準備を終えていた。

「とにかく相手の車両数に飲まれないように冷静に行動してください」

「フラッグ車を守りつつ、ゆっくり前進して、まずは相手の出方を見て行こう」

 円陣を組む大洗連合の中で凛祢とみほが作戦内容を伝える。

 今回は自軍から攻めていたアンツィオとアルディーニの時とは真逆のパターンだ。

 なるべく慎重に……。

「ゆっくりもいいが……」

「ここは一気に攻めてみてはどうかな?」

 珍しくカエサルとシャーロックが作戦内容について進言した。

「え?」

 みほも思わず驚いてしまう。

 まさか、カエサルやシャーロックが異議を唱えてきたからだ。

「ふむ」

「妙案だ」

「先手必勝ぜよ」

 2人に続くようにカバさんチームのメンバーも進言する。

「そうだな、縮まっていても勝てない」

「こちらから打って出るべきだ」

「アンツィオの時みたいに勢いを持っていくべきかと」

 ワニさん分隊も同じ意見だった。

 だが、リスクが大きすぎる。それは凛祢だけでなくみほや英子も感じていたこと。

「気持ちはわかりますが、リスクが……!」

「そうよ、みんな。2回戦とは違うのよ!」

 みほや英子がなんとか思い止めようとする。

 だが、この場にいる全員が最初から攻め姿勢を取っているのだった。

「大丈夫ですよ!」

「私もそう思います!」

「勝負は速攻で!」

「攻めなければ勝てはしないのだ!スリーポイントのように効率的に」

 アヒルさんチームとオオワシ分隊も

「なんだか負ける気がしません!」

「相手は舐めてるから大丈夫っすよ!」

「ぎゃふんと言わせてやりましょう!」

「お、いいな。それ」

「「「「ぎゃふーん!!」」」」

 ウサギさんチームとヤマネコ分隊も

「よし。それでいこう」

「勢いは大切ですもんね」

「一気に勝負をかけて、短期決戦だ!」

「なんだか、アンツィオとアルディーニみたいですが。攻めの姿勢は大事ですからね」

 カメさんチームとカニさん分隊も同様だった。

「あ……」

「わかった。今回は初めから攻めて敵の戦力を削いでいこう」

「凛祢さん……わかりました。一気に攻めます!」

 凛祢が先に折れ、意見をみんなに合わせると、みほも攻めを優先することにした。

「いいんですか?」

「慎重に行くんじゃないのかよ」

「長期戦になったら俺たちが先にボロを出しちまう。この寒さや不慣れな雪上での戦いだからな、どっちにしても俺たちが全力全開で戦える時間は限られてるってことだ。寒さは俺たち歩兵の体力を奪って行くし、雪は足取りを鈍らせる……」

 心配する優花里や翼だったが俊也の説明に納得したように、それ以上は何も言わなかった。

 俊也の言う通りだからだ。

 正直、俊也がここまで戦場の状態を気にしていたとは驚きだった。

「みんなが勢いに乗ってるんだったら行きましょう!」

「創始も言ってるしな。『兵は拙速なるも聞くは、未だ巧みの久しきを賭ず』。だらだら戦うのは国家国民によくない。戦いはちゃちゃっと集中して行う方がいいんだよ!ね、西住ちゃん、葛城君」

 杏もいつものように笑みを浮かべてウインクして見せる。

「そう言うことです」

「相手は強敵ですが頑張りましょう!」

「「「おおーー!!」」」

 凛祢やみほ、そして大洗連合の声が雪原のフィールドに響くのだった。

「おいおい、こんな感じで大丈夫か?」

「みんな、こんな感じだしね。『大丈夫だ、問題ない』ってことじゃない」

「照月さんからそんな言葉が出るとはな」

「うるさいわね。殴るわよ」

「それはマジで勘弁だわ」

 英子と不知火も円陣の外側でそんな事を呟いていた。

 こうして始まりのサイレンと共に、大洗連合対プラウダ&ファークト連合との試合が開始されるのだった。




今回も読んで頂きありがとうございます。
いよいよ始まったプラウダ戦。
Ⅳ号が長砲身に換装したように、凛祢も少し武装を替えました。
プラスチック爆薬、ブローニングハイパワー、ナイフ、オープンフィンガーグローブと防弾加工外套によって、凛祢もようやくフル装備となりました。
本格的な戦闘は次回からになります。
質問と意見も募集しているので書いていただけると嬉しいです。
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