ガールズ&パンツァー~地を駆ける歩兵達~   作:UNIMITES

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どうもUNIMITESです。
今回から本格的なプラウダ戦がスタートです。
凛祢たちは前年の優勝校に勝てるのか?乞うご期待ですね。
では本編をどうぞ。


第17話 極寒の夜戦(ナイトレイド)

 いよいよ開始された3回戦。

 大洗連合の対戦相手は去年の優勝校プラウダ&ファークト連合。

「……」

 揺れる九七式軽戦車の車体に掴まりながら凛祢は短く白い息を吐く。

 凍えるような風が全身を吹き抜け反射的に身震いした。

「どうした葛城?緊張してるのか?」

「……そうかもな。プラウダ&ファークト連合という強敵との戦いだから少し緊張してるかも」

「ふーん。まあ最善を尽くそうぜ」

 隣で同じように掴まっていた不知火は笑みを浮かべる。

「そうよ凛祢。今の貴方は十分強くなっているわ」

「そうだといいがな」

 キューポラから頭を出した英子は双眼鏡で辺りを見渡す。

 凛祢も腰のマガジンケースから単眼鏡を取り出し同じように見渡した。

 

 

 一方、プラウダ&ファークト連合の戦車と15輌の小型軍用車両『UAZ-469』は雪原を迷いのない走りで全速前進していた。

 前方を走行するT-38/85、IS-2。その後を追いかけるようにKV-2が走行している。

「いーい?あいつらにやられた車両と歩兵はシベリア送り、25ルーブルよ!」

「日の当たらない教室で25日間の補習ってことですね」

 カチューシャの言葉を直訳するようにノンナが呟く。

「それは御免だな」

「そうならないためにも戦死しない事だ。周防……いや葛城凛祢には気をつけたほうがいい」

 顔を青ざめるエレンにアルベルトが通信を送る。

 過去の姿だとは言え、凛祢と言う男の実力を知るアルベルトは警戒を怠っては居なかった。

 過大評価であっても警戒しておくことに意味はある。

 それは彼自身が今まで培った「経験」からくるものだった。

「行くわよ!あえてフラッグ車だけ残して後はみんな殲滅してやる!」

「穏やかじゃないな、同志カチューシャ」

 カチューシャの叫びを聞いてアルベルトも口を開いた。

 するとカチューシャの視線がアルベルトに向いた。

「いいのよ!アルベルトも敵歩兵は無慈悲に殺しなさい!なんなら死体蹴りしてもいいわよ!力の差を見せつけてやるんだから!」

「お前は本当に無茶言うな……敵を殲滅するってのは賛成だがな」

 アルベルトはやれやれとため息をついたが、その目は集中する時の目つきに変わっていた。

「さあ行くわよ!」「さあ行くぞ!」

「「「「ウラーー!!」」」」

 カチューシャとアルベルトの声が重なりプラウダの戦車部隊とファークトの歩兵部隊から返事の声が上がる。

 すると戦車内の音楽プレイヤーから歌が流れる。

 歌は「カチューシャ」である。カチューシャやノンナも音楽に合わせて歌い始める。

「なあアルベルト。毎回毎回よく歌うよな……」

「フッ、そうだな」

 2人は寒さで白くなった息を吐いて呟いた。

 

 

 そして、大洗連合も全速力で雪原を前進していた。前方を走行するⅢ突とⅣ号を追いかけるように九七式、八九式、38t、M3、ルノーB1が走行している。そしてヤブイヌ分隊とヤマネコ分隊の搭乗するジープ2輌、オオワシ分隊とワカサギ分隊の搭乗する九五式小型乗用車2輌、カニさん分隊とシラサギ分隊の搭乗するキューベルワーゲン2輌も戦車を囲うように走行している。

「さ、さみー」

「走行して風を感じてるから予想以上に寒さが効くな」

「そうですね」

「まだ、地に足ついてねー分マシだろ」

 塁の操縦するするジープの車内でヤブイヌ分隊のメンバーが呟く。

 そしてⅣ号や他の戦車車内にも容赦なく寒さは入り込んでいた。

「……」

「ひ、冷える……」

「一気に決着をつけるのは正解かもしれませんね」

「うん……」

 みほも周りに注意を向けながら見渡す。

「ポットにココア入れてきました」

 優花里が紙コップに入れたココアをみほに渡す。

 みほもココアに口をつける。

「ありがとう……凛祢さん、大丈夫ですか?」

「大丈夫だ……今は周りにも敵影はなし」

 みほと通信を送りあい凛祢も周辺に視線を送る。

 しかし、凛祢や他の大洗歩兵の気づいていなかった。

 すでに自分たちの姿は索敵部隊によって発見されていたことに。

 

 

「敵は全車、北東方面に走行中。時速約20キロ……」

 索敵部隊の報告を聞いてカチューシャはボルシチを頬張る口をもごもごとさせる。

「一気に攻める作戦に出たか……周防らしくはないが、2年も経てば考え方も少しは変わるか」

 隣で温かいコーヒーを飲むアルベルトは少し不信感を感じていた。

「ノンナ、エレン」

「わかっています」

「了解です」

 指示を聞いたノンナとエレンは飲み終えたコーヒーの紙カップをごみ袋に放り込むと部隊を連れて早々と準備を始める。

 

 

 いままで快速に進んでいた大洗連合だったが登り坂と下り坂を何度も進んでいるうちにカモさんチームのルノーとシラサギさん分隊のキューベルワーゲンが少々遅れ始める。

「そど子、何している!」

「青葉ー、遅れているぞ!」

 様子を見ていた桃と雄二が通信を送る。

 凛祢と不知火も視線を後方に向けた。

「ごもよ。前に進むのよ!」

「進んでいるつもりなのよ、そど子!」

「黄場ー、何やってるんですか!遅れてますよ」

「う、うるせーよ。だったらお前が操縦しろよ!」

 それぞれの操縦手に声を掛ける緑子と青葉。

 しかし、車輪と履帯は雪上で空回りするだけだった

「それを言っちゃーおしまいですよー」

「カモさんチームとシラサギ分隊は一旦後退してください」

「ちょっと頼む」

「はい」

 みほの通信を聞いて麻子は操縦席を立ち、車外へと出ていく。

「僕もお手伝いに行ってきた方がいいでしょうか?」

「いやいい。俊也、お前が行ってこい」

「は?なんで俺が……」

「操縦もできるだろ。ちゃちゃっと済まして来い」

 翼に言われ俊也も舌打ちしながら跳躍して降りると地に足をつく。

 それぞれルノーとキューベルワーゲンの元にたどり着くと車内に乗り込む。

「「ちょっと変われ」」

 2人はそう言うと、操縦席に座り操作し始める。

「ありがとう」

「人の戦車に勝手に入ってきて何してるのよ!」

「気にするな」

 操縦していた麻子はそど子に笑みを見せて答えた。

「ったく。これだから初心者は嫌なんだよ」

 俊也は不機嫌そうにハンドルを握っていた。

 慣れた手つきでハンドルを操作しアクセルを踏み込む。

「なんだと?俺たちだってやりたくて歩兵道に来たんじゃねーぞ」

「なんだよ。あんたらも俺と似た境遇ってことか。俺も面倒ごとに巻き込まれてやってるからな」

 黄場の言葉を聞いてほんの少しの共感を感じる俊也。

「東藤君、少し変わりましたね。4月まで不良だったのが嘘みたいです」

「元々、不良になりたくてなったわけじゃねぇ。野球部のクソみたいな先輩に幻滅しただけだ」

 俊也は鋭い視線を前方に向ける。

「それは他言無用なんじゃないのか?」

「赤羽は何か知ってるんですか?」

「保健委員長だからな、怪我した奴の話は先生からよく聞いてる」

 青葉の問いに答えた赤羽も数メートル先の雪山に視線を向けた。

 しばらく進むと、雪に道がふさがれている地点を発見する。

「凛祢さん、お願いします」

「よし、工兵の出番だな。塁、翔、C-4を仕掛けるから手伝ってくれ」

「「了解です」」

 工兵である凛祢を中心に塁と翔がC-4爆弾を仕掛ける。

 数十秒後、仕掛け終えた凛祢がスイッチを押すとC-4爆弾が起爆。

 塞がれた雪の壁を一瞬で吹き飛ばした。

「これを見ていると気分爽快だぜ」

「そうか?俺はそうでもないけど」

 再び九七式にしがみついていた不知火と凛祢が言い合う。

 数秒後に大洗連合の車両は再び前進を始める。

 

 

 その様子を見ていた観客席では、興奮気味の鳥海がスクリーンに釘付けだった。

「おー葛城兄ちゃん、すげー!小鳥姉ちゃん見たか?すげー爆発だったな!」

「鳥海。静かにして見てよ」

「なんだよ。爆発はロマンだぜ、小鳥姉ちゃん」

「何言ってんのよ……」

 興奮する鳥海とは対称に小鳥はやれやれとスクリーンに視線を向ける。

「まったく戦車道なんて……」

「ここまで来たんですから応援してあげてください」

 華の母親、五十鈴百合は相変わらず戦車道を嫌っているようだった。

 そんな百合をなだめるように新三郎が声を掛ける。

「なんだよ、おばさん。応援しないのか?俺たちの兄貴もあの戦場にいるんだぜ!」

「お、おばさん?」

「ちょ、鳥海!何やってんの!あの、すみません!」

 小鳥は鳥海の腕を引っ張り、必死に頭を下げる。

「いえお気になさらず……君たち2人だけで見に来たのかい?」

「そうだぜ!ウチの親は仕事が忙しくて兄貴の試合見に来ないんだよ」

「鳥海は黙ってて!」

「……」

 小鳥に睨まれてしまい鳥海はそっぽを向いた。

「あの……もしかして華道で有名な五十鈴百合さんですか?」

「……そうですが」

 小鳥は百合の顔をまじまじと見つめる。

「す、凄い!私、五十鈴さんの大ファンなんです!五十鈴さんみたいな女性になりたくて、華道も始めました!」

「あら、そうなの?確かにあなた綺麗な手をしてるわね」

「そ、そうですか?ありがとうございます!」

 小鳥と百合は意気投合したのか、お互いに話があったのか、会話に華を咲かせる。

「小鳥姉ちゃん?」

「奥様?」

 2人は鳥海と新三郎に気づくことなく会話を続けていた。

 話について行けず取り残された2人は途方に暮れる。

「君たちもよかったら一緒に見ないか?温かい緑茶もあるから、飲むかい?」

「いいの?ありがとうお兄さん!」

 仕方ないと思った新三郎は鳥海を隣の席に座らせ観戦を続ける。

 

 

 大洗連合が森林地帯に侵入し始めると、小動物たちが一斉に移動を始める。

 すると、あゆみが木々の枝を移動するリスを発見した。

「リスだよ!」

「かわいい!」

「捕まえてくるか」

「やめとけやめとけ」

 相変わらず楽しむことを忘れないウサギさんチームとヤマネコ分隊。

「雪、ロシア、戦争と聞くと」

「スターリングラードを連想するな」

「縁起でもないぜよ」

「ソ連はスターリンが有名だけど。ロシアの偉人と言えば?」

「アレクサンドル・フネスキーかな」

「エカチュリーナ」

「イヴァン4世だな」

「「「それだ!」」」

 歴史上の人物に例えるカバさんチームとワニさん分隊。

 最後に3人がジルを指さす行為はいつものカバさんチームを真似ているのだろう。

 そんな中、Ⅳ号たち大洗連合は全速力で前進していく。

「「っ……」」

 辺りを警戒しながら視線を向ける凛祢とみほが何かに気づいたように単眼鏡、双眼鏡をそれぞれ手に取る。

 お互いに眼鏡を覗き込む。

 その先には雪原に紛れるようにプラウダの白い戦車が停車していることに気づく。

「11時に敵戦車!各車警戒!」

 みほの指示に大洗連合の戦車はその陣形を変化させる。

「3輌だけか……みほ、どう思う?」

「外郭防衛線かな?」

「かもな……!」

 凛祢が通信を送った時、敵戦車もこちらに気づいたように攻撃を開始する。

「気づかれた、長砲身になったのを生かすのは今かも!」

「狙撃兵は長距離から狙撃を!八尋、前に出るなよ!」

 みほが車内に頭を下げると同時に凛祢が通信で指示を出す。

「「「了解!」」」

 インカムからみんなの返事が返ってくる。

「衛宮、初陣で悪いが狙撃を任せる」

「了解だっての。当たらなくても文句言うなよ」

 不知火は九七式から手を放し跳躍して冷たい雪原に着地する。

 お互いに頷いた後に行動を開始した。

「砲撃用意してください!カバさんチーム、射撃!」

 通信機から響くみほの指示に合わせてⅢ突の砲が火を噴く。

 Ⅲ突の放った砲弾は吸い込まれる様にT-34/76の砲塔右下に命中。白旗が上がった。

「あんこうチームも砲撃します!」

 続くようにⅣ号も停止し発砲すると砲弾はもう1輌のT-34/76に命中し、白旗が上がる。

 更に翼と英治、迅と不知火も長距離からの狙撃を決めて2人の歩兵を屠った。

「「よし!」」

 狙撃を決めた翼と迅も思わずガッツポーズを見せる。

「当たったぜ、見たか?!おい、葛城!」

 不知火も初狙撃で命中させたことに感動しているのか、凛祢に歩み寄る。

「命中しました!」

「凄ーい!一気に2輌も!」

 彼らだけではなくⅣ号車内の優花里や沙織。

「やった!」

「昨年の優勝校を撃破したぞ!」

「時代は我らに味方している!」

 Ⅲ突から上半身を乗り出すエルヴィンとカエサル。

「これはいけるかもしれん!」

「この勢いでGOGOだね!」

 そして、桃と杏も勢いを味方につけたように士気を上げていた。

「ナイスショットでしたね。英治」

「……」

「どうかしましたか?」

 宗司が声を掛けても英治はKar98Kを手に難しい顔をしていた。

 英治だけではない。凛祢とみほも同じようにその顔に笑みはなかった。

「葛城、西住うまくいきすぎてる……よな」

「「はい」」

「こんなにも早く敵の戦車を撃破できるなんて、少し怖いくらいです」

 凛祢がインカム越しに呟く。

 なにより、歩兵の数も少なすぎる。

 その時、砲撃音と共に振動が大洗連合の方に響く。

 一気に、全員の顔から笑みが消えた。

 さっきの音は残った敵戦車の発砲だと言うのはすぐに理解する。

「全車両前進!追撃します!」

「衛宮!早く九七式に乗れ!おいていくぞ!」

「おいおい、初撃破したんだから少しは誉めろよな……」

 不知火や他の狙撃兵もすぐに駆動車の乗り込み、大洗連合は再び前進を始める。

 この戦場を観戦している者の中には驚いている者もいるだろう。

 何せ大洗が先にプラウダの戦車を撃破した。

 そして今は大洗連合が全車両でプラウダの戦車1輌を追撃している。

 凛祢やみほも少し怖いくらいだった。その順調な滑り出しに。

「何で逃げてるの?」

「こっちが全車両で追いかけているからじゃないですか」

「そうだよねー。何故か追いかけると逃げるよねー男って!」

「武部みたいな女に追っかけられるのは嫌だろ普通。束縛しそう」

「俊也君!それどういう意味!?」

 インカムから響く沙織たちの声に凛祢や翼がやれやれとため息をつく。

「あそこに固まってる……敵フラッグ車発見しました!」

「でも、随伴もたくさんついてますよ!」

 梓と亮から通信が入る。

「千載一遇のチャンス!よし突撃!」

「突貫だ!」

「「いけー!!」」

「アターック!!」

「英子、当てなさいよ」

「わ、分かってるわよ!砲撃って結構難しいんだから!」

 大洗連合の戦車はそれぞれの射的距離に入ると同時に一気に砲撃を開始する。

 次々に戦場を砲弾がすれ違う。

 そんな中、英治が敵歩兵に気づく。

 敵歩兵3人が並んで構えているのはロケットランチャー『RPG』だった。

「弾幕を張れ!RPGがくるぞ!」

 英治の声に一早く気づいた凛祢と八尋。

「弾幕を張るなら俺のP90が一番早い!」

 放たれたロケット弾に向けて八尋がP90を連射発砲する。

 すると空中で銃弾が命中したためロケット弾は誘爆し、威力のない衝撃破だけが凛祢たちの体を突き抜ける。

 流石と言うべきか。P90の連射はかなり強力だが、マシンガン系の武装はどうしても連射によって照準が狂う。

 それでもP90を使う八尋の照準はまったくと言っていいほどぶれない。八尋自身がP90を使い慣れているが故だろう。

 ふと視線を向けると八尋がドヤ顔していることに気づいた。

 Ⅲ突の右側面を砲弾が掠めたかと思うと、続けて発砲。

 またもT-34/75に命中し白旗が上がった。

 続けて九七式の砲弾が敵のUAZ-649に命中し横転させる。搭乗していた3人を屠った。

「やった!」

「当たった!」

「照月さん、ナイスショット!」

 左衛門座と英子がほぼ同時に歓喜の声を上げた。

 その様子をスクリーンで見ていた西住しほ、まほ、黒咲聖羅。そして葛城朱音は眉一つ動かさずにいた。

 また、ダージリンやケンスロットも戦場の様子に少しの違和感を感じていた。

「ほう。凛祢たちが一歩リードと言ったところかのう」

「玄十郎さん。英子の車両が敵を倒しましたよ」

「当たり前だ。照月家は強くあらねばな。だが、戦場とは海と同じ。弱き波があれば強き波もあるもの……」

 嬉しそうな麗子の横では玄十郎が意味ありげな言葉を口にしてあごひげを触る。

 その時またもプラウダの戦車とファークトの歩兵が逃亡を開始。

 大洗連合の車両も逃がすまいと更なる追撃に向かう。

「追え追え!!」

「いくぞー!」

 先行するⅢ突と38t、ワニさん分隊とカニさん分隊の車両。

「速攻!ダンクシュート!」

「ストレート勝ちしてやる!」

「ぶっ殺せー!」

「ぶっ潰せー!」

「お前を殺す……」

「みんな口が悪い!」

 続くように八九式とM3、オオワシ分隊とヤマネコ分隊の車両も後を追う。

「やっちまえー!」

「待ちなさいよー」

「待ってくださーい」

 それを追いかけるルノーとキューベルワーゲンも前進していく。

「ちょっと待ってください!」

「何を勝手に!」

 凛祢とみほが声を掛けても大洗連合が止まることはない。

「凛祢!西住さん!みんなを止めないと!」

 九七式のキューポラから頭を出す英子も少々焦ったような顔を見せる。

「くそ!馬鹿が!みほ、英子とりあえず行くぞ!」

 凛祢も急いでⅣ号の上に飛び乗る。

「はい!」

「わかったわよ」

 Ⅳ号と九七式とヤブイヌ分隊も急いで坂を下りていく。

 坂を下るとそこには山小屋や協会が建てられており、村の様な見た目になっていた。

 ようやくⅢ突や38tに追いつく。

 そんな中、大洗連合の車両は怒涛の砲撃を続けていた。また小屋を盾にしてファークトの歩兵も反撃してくるがまったくといっていいほど無意味だった。

 次々に放たれる砲弾の雨。

 しかし、プラウダのフラッグ車のT-34/85も小屋に隠れたり前後に動き、華麗にこちらの攻撃を回避していた。

「くっ!フラッグ車さえ倒せば……」

「勝てる!!」

 桃と左衛門座は必死に照準を定める。

 しかし放った砲弾はことごとく回避される。

 そんな時凛祢がある事に気づく。

「はっ!みほ、後ろだ!」

「え?あ!」

「おいおい、マジかよ」

 凛祢の傍にいた不知火は背中を合わせる。凛祢が必死に視線を全方位に向けるが、もう手遅れと言わざる得なかった。

「東に移動してください!急いで!」

「駄目だ!南南西に!」

「無理よ、もう囲まれてるわ!」

 みほや凛祢、英子の声が通信機を通して全員の耳に入る。

 凛祢たちの言う通り、東にはIS-2が2輌。南南西にもT-34/85が1輌。他にも次々に敵戦車が姿を見せる。

 ようやく全員が気づいたすでに包囲されていたことに。

「周り全部敵だよ!」

「やっべーぞ……」

 沙織の声に八尋が言葉を漏らした。

「罠だったのか……」

「嘘だろ……」

「「「えっ!」」」

 大洗連合は全員が驚いていた。

「やられた……。この戦術、昔にも」

 凛祢が呟くと同時にプラウダの戦車たちが反撃を開始する。

 次々に砲弾と銃弾の雨あられが大洗連合を襲う。

「げえっ!」

 一発の銃弾が不知火の右胸に命中し、うめき声を上げた。続くように宗司と雄二もどこからか放たれた狙撃に被弾する。

 他にも放たれた砲弾がM3の副砲部分に命中する。

「衛宮!くそ!どこかに逃げ道は……」

「葛城君!南西の教会になら抜けられそうよ!」

 秋月の声に凛祢が視線を向けると確かに南西になら逃げられそうな道が続いていた。

「衛宮、動けるか?」

「おいおい先輩をなめるなよ。九七式に飛び乗るくらいいけるぜ……」

「よし。みほ!」

「全車南東の大きな建物まで移動してください。あそこに立てこもります!」

 みほの指示を聞いて凛祢たち大洗連合は教会に向かって全速力で向かう。

 1番に八九式とオオワシ分隊、次にM3とヤマネコ分隊。

 続くようにルノーB1と38t、九七式が教会内に侵入する。更にワカサギさん分隊、カニさん分隊、ヤマネコ分隊がそれぞれ侵入する。

 すると凛祢はバックパックを開き、数個のヒートアックスを手に再び外に出ていく。

 すれ違うようにワニさん分隊のキューベルワーゲンが侵入し、Ⅲ突も侵入しようとするが敵砲撃によって履帯と転輪を破壊され停止する。

「履帯と転輪をやられました!」

 敵戦車がⅢ突を狙おうとするがすぐにⅣ号が入り口の前に立ち塞がり発砲する。

 凛祢も力いっぱいヒートアックスを遠くへ投擲する。

 敵の砲撃を受けたⅣ号はなんとか耐えるものの。無傷とはいかなかった。

 すぐに凛祢もヒートアックスを起爆させ、巻き上げられた雪が霧状に舞い一時的な目くらましを作る。

「砲塔故障!」

「後退!凛祢さん早く!」

「了解!」

 凛祢もⅣ号がⅢ突を押して室内に侵入するのを確認し、室内に滑り込む。

 外ではまだプラウダの戦車による攻撃が続いていた。

 その砲撃は教会内を大きく揺らす。

「……」

「はあ、はあ……」

 凛祢も息を荒くしてⅣ号に背中を預ける。

 5分ほど経って、ようやく敵の発砲音が止んだ。

「砲撃が止んだ……」

 みほも閉じていた目を開き車外に出る。

 すると、プラウダとファークトの制服を着た生徒2人が入り口まで歩いてきた。

 その手には白旗が握られている。

「カチューシャ隊長の伝令を、持ってまいりました」

「降伏しなさい。全員土下座すれば許してやる。だそうです」

「え……」

「……」

 そんな発言に言葉の出ないみほと凛祢。

 他のみんなも同じだった。

「なんだと……」

「ふざけんな……あのチビ野郎」

 桃と雄二は吐き捨てるように言った。

 その顔は怒りに燃えているのかとても怖い。

「隊長は心が広いので3時間だけ待ってやる。とおっしゃています」

 そう言葉を残して2人は去って行く。

「誰が土下座なんか!」

「土下座なんてするかよ!」

「全員自分より身長低くしたいんだろ」

「くそが、女じゃなければぶん殴ってるぜ!」

 桃と雄二は怖い顔のまま38tのほうへ歩いていく。

「徹底抗戦だ!」

「右に同じ。騎士として最後まで戦うべきだ」

「戦い抜きましょう!」

 エルヴィンやアーサー、梓も戦うことを望んでいた。

「でも、こんなに囲まれていては……一斉攻撃されたらケガ人が出るかも」

「この状況は、圧倒的に不利だ」

 しかし、みほと凛祢の意見は他とは違った。

 状況は最悪。あまりに危険だったからだ

「みほさんと凛祢さんの指示に従います」

「私も!土下座くらいしてもいいよ」

「私もです!」

「3回戦まで来ただけでも上出来だ。無理はするな」

 振り向けばあんこうチームの4人が凛祢とみほの方に視線を向けていた

「ま、女の子にだけ頭下げさせるのは男じゃねーよな」

「そうだな。下手なプライドは捨ててやる」

「ですよね!」

「ったく。こんなのは今回だけだからな」

 あんこうチームに続くようにヤブイヌ分隊のメンバーも視線を2人に向けた。

「お前ら……」

「みんな……」

 凛祢は言葉が出なかった。

 そうだ。何も無理して戦うことはないんだ。

 今は立ち止まっても……。

「「駄目だ!!」」

 またも桃と雄二の声が静寂の中に響いた。

「勝たなくちゃならないんだ!」

「負けるわけにはいかん!徹底抗戦だ!」

 再び静寂の中に響いた声。

「勝つんだ。絶対勝つんだ!勝たないとだめなんだ!」

「桃、雄二君も。そんな子供みたいに叫んでどうしたってのよ!」

 桃の様子を見た英子が問い掛ける。

 英子以外にもそんな疑問を抱くものはいた。

「そんな……どうしてそんなに。初めて出場してここまで来ただけでも凄いことだと思います」

「そうだ。これは戦争じゃない。勝ち負けより大事なものがあるんだよ!」

「勝つ以外の何が大事なんだ!俺たちにはもう!」

 みほや凛祢の言葉を聞いて、雄二は思わず凛祢の胸倉に掴みかかる。

「雄二先輩!何してるんですか!」

「こんな時にやめてください!」

「そうですよ!」

「喧嘩は駄目です!」

 八尋やアーサーが急いで間に割って入る。

 辰巳と亮が雄二の体を凛祢から引き離した。

「ううっ!」

「勝ちにこだわれば、本当に大事なものを失うんだよ!それが、なんでわからないんだ!」

「うるさいうるさい!お前に何がわかる!」

 気が付けば必死に叫んでいた。

 それは……

「もうやめてください!!」

 雄二と凛祢はお互いに睨み合いながら言い合う中、みほの声が響いた。

 大洗連合の視線がみほの方に集まる。

「私、この学校に来てみんなと出会って、初めて戦車道の楽しさを知りました。この学校も戦車道も大好きになりました。だからその気持ちを大事にしたままこの大会を終わりたいんです」

「くっ……」

「みほの言う通りだ」

 自分だって少しだけ昔みたいに歩兵道を楽しめるようになっていた。みほたちのおかげで……。

 みほに続くように凛祢も言葉を続ける。

「今はここで止まることになるかもしれない、でも前進することを辞めなければ道は続く」

「何を言っているんだよ!」

「雄二、河嶋、止せ!」

「負ければ我が校はなくなるんだぞ!」

 英治の制止を無視して桃は言葉を絞り出した。

 その言葉に一瞬理解が遅れた。

「「え?」」

「学校が……な、なくなる?」

 みほも声にならない声で復唱する。

 凛祢や英子の脳内でも同じ言葉が復唱されていた。

 大洗連合の誰もが驚きを隠せなかった。

「な、なにを言い出すかと思えば。そんなこと……」

 凛祢も冗談だろうとそう呟く。

 しかし頭はそう思っていない。

 桃や雄二の悲痛の表情を見れば、嘘をついているとは思えない。

 凛祢とみほは視線を会長2人の方に向けた。

「河嶋の言う通りだ」

「そう、この大会で優勝出来なければ我が校は廃校になる」

 杏と英治は変わらない表情で淡々と言い放った。

 宗司や柚子の表情も分かっていたかのように暗くなっている。

「……」

「嘘よ!なんでそんな事今頃になって!ねえ、杏!柚子!答えてよ!」

 英子は歩みより杏の肩を掴む。

 だが、答えは返ってこない。

「話せる訳がないでしょ……ごめんね、英子」

 秋月がそう言うと不知火と共に生徒会の隣に立つ。

「秋月?衛宮?」

「わりぃな照月さん、葛城。俺も知っていたんだ」

「衛宮。まさかお前も……?」

 凛祢は少し驚きながら拳を強く握る。

 秋月いやセレナは知っているだろうと思っていたがまさか不知火まで知っていたとは思わなかったからだ。

「俺がこっちに転科してきたのもこれが理由なんだぜ。英治たちにはこの選択しかなかった」

「皆にはすまないことをしたと思っている」

 頭を深く下げた英治は謝罪する中で今年の4月の事を思い出していた。

 

 

 時は遡り、文部科学省、学園艦教育局。

 3月が終わり、桜が咲く季節の中で英治と杏たち生徒会役員6名は文部科学省に呼ばれていた。

 その場で聞かされた話に6人は驚きを隠せなかった。

「廃校!?」

「どうして、そんなことに?」

 杏と英治が問い掛けるように言うと文部科学省の男から帰ってきたのは予想だにしなかった言葉だった。

「学園艦は維持費も運営費も掛かりますので、全体数を見直し統廃合することが決定しました。特に成果のない学校から廃止します」

「つまり私たちの学校はなくなると言うことですか?」

 柚子も身を乗り出して男の顔を覗き込む。

「納得できない!」

「そうだそうだ!」

 桃と雄二もヤジを飛ばすように呟く。

「いささかその理由で納得しろと言うのは無理があります」

「今納得できなくても、今年度中に納得してもらえればこちらとしては結構です」

 宗司の言葉を無視するように男は淡々と言葉を返した。

「じゃあ、来年度には……」

「急すぎる!」

「大洗女子学園と大洗男子学園は近年生徒数も減少しており、目立った活動もない」

 男は大洗の古い資料に目を通している。

「だから納得できないって――」

「落ち着け雄二。何か救済措置はないのでしょうか?」

 英治も納得できているわけではないが、だからと言ってどうにかなるわけではない。

 だが、このまま引き下がるつもりもない。

「昔は戦車道と歩兵道が盛んだったそうですが」

「へぇ」

「そうですか」

 杏と英治はアイコンタクトで合図し頷きあうと、口を開いた。

「じゃあ、戦車道やろうか!」

「こちらも歩兵道をやろう」

「「「「ええ?!」」」」

 杏と英治の言葉に4人は驚きの表情を浮かべる。

 それもそうだろう、戦車道と歩兵道をやっていたのは十数年も前の事だ。

 そんな状況で始めるなんて無茶だった。

「まさか戦車道と歩兵道をですか?!」

「優勝校を廃校にすることはないよな」「優勝校を廃校にすることはないよね!」

 英治と杏は一筋の希望に掛けるように男に言い放った。

 

 

 そして英治たちの説明を聞いた凛祢たちはその場に立ち尽くすだけだった。

「それで戦車道と歩兵道を復活させたんですか」

「……」

「戦車道やれば助成金も出るって聞いてたし。それに学園運営費にも回せるしね」

「これが俺たちにとっては最善だった。これに賭けるしかなかった」

 杏と英治は視線を落として言い放つ。

 凛祢はただただ無言で視線を英治に向けていた。

「じゃあ、世界大会ってのは嘘だったんですか!?」

「それは本当だ」

「こんな騙したような事をしておいて、信じてもらえませんが」

 梓の問い掛けに桃と宗司が答える。

 確かに騙したと言っても間違いではないのかもしれない。

 誰もがそう思った。

「でも、いきなり優勝なんて!」

「いやー、昔盛んだったからもっといい戦車や銃火器があると思ったんだけどねー。予算が無くていいのはほとんど売っちゃったんだよねー」

「ってことわよ。ここにあるのは……」

 杏の言葉に八尋はため息をついて歩兵たちの銃や戦車を見た。

 他にもシャーロックやジルも同じように視線を向ける。

「うん、全部売れ残ったやつ」

「それでは到底優勝なんて不可能では?」

「無謀すぎますよ、杏会長」

 信じられない試みにカエサルとシャーロックもやれやれと視線を向ける。

 カエサルたちの言う通り、こんな満足な装備もなく車両も貧弱ではあまりにも無謀だった。

 それでも……

「だが、他に考え付かなかったんだ。古いだけでなにも特徴のない学校が生き残るには……」

「ぐっ!だからって諦められるかよ!」

「無謀だったかもしれないけどさ。あと1年泣いて学校生活を過ごすより希望を持ちたかったんだよ」

 必死に拳を握っていた雄二を見て、杏も口を開いた。

 人間は弱い生き物だ。どうしても希望に縋りたくなってしまう。

「例え、茨の道でも進むしかなかった」

「みんな黙っていてごめんなさい……」

「すみませんでした」

 生徒会役員はそれぞれの思いを口にして視線を落とした。

「……」

 凛祢はまだ口を開くことなく生徒会とセレナと不知火の姿を傍観していた。

「頼むよ、みんな。英治たちを責めないでやってくれ」

「これしか私たちにできる事はなかったのよ」

 英治たちの前に立つ不知火とセレナ。

 セレナが口にした言葉の意味は『大洗を存続させるための最後の希望』……それこそが元超人の異名を持っており歩兵道経験者であった葛城凛祢と黒森峰で戦車道をしていた西住みほだったと言うことか。

「バレー部復活どころか、学校がなくなるなんて」

「こんなのってあるかよ……」

 アヒルさんチームとオオワシ分隊も悔しさを感じいた。

「無条件降伏」

 おりょうも演技でないことを口にする。

「そんな事情があったなんて」

「この学校がなくなったら。私たち、バラバラになるんでしょうか?」

「そんなのやだよ!」

「そうだぜ、せっかく出会えたのによ。こんなすぐに!」

「単位昇格は夢のまた夢か」

「言ってる場合かよ……」

 あんこうチームとヤブイヌ分隊のメンバーも小さく呟く。

「「うう……」」

「おい、泣くなよー」

「そうだよー。泣いたら駄目だって」

 桂里奈や優季を慰めるように礼や翔が声を掛ける。

 凛祢は目を閉じる。

 やっとわかった。生徒会の意図も自分自身の道も。

 『何もしないで後悔くらいなら、たとえその先が地獄でも行動を起こした方がマシだ』

 そんな言葉が凛祢の中に浮かぶ。

 結局会長たちも同じだったんだ。

 後悔しないためにと、行動した。

 ならば……自分は。

 再び目を見開く。

「……まだだ、まだ負けてない!」

「凛祢さん」

「凛祢……」

 凛祢の声にみほと英子が視線を向ける。

 自分も過去から逃げず、歩兵道をすることを選んだ。

 ここまで来たならもう引き返さない。立ち止まるつもりもない。

「俺たちの道は潰えていないんだ。歩み始めた以上引き返すと言う道は……いらない!俺は戦います。最後まで」

「葛城くん……」

「葛城……」

「そうですよね。頑張るしかないです。来年もこの学校で戦車道と歩兵道したいじゃないですか。みんなで」

 凛祢とみほの言葉が静寂の中に響いた。

 気が付けば大洗連合全員の視線が2人に向いていた。

「そうですよ」

「僕も葛城殿や西住殿と同じです!」

「うん、やるならとことんやろうよ。諦めたら終わりじゃん!戦車も恋も!」

「ああ、最後の瞬間まで足掻いてやろうぜ!」

「まだ戦えます!」

「俺たちは俺たちらしく行こう」

「うん」

「そうだな」

 あんこうチームとヤブイヌ分隊は2人につられて戦う意思を取り戻す。

「降伏はしません。最後の最後まで戦い抜きます!でもみんなが怪我しないよう冷静に判断しながら」

「ああ、必ず俺たちの明日を、学園を守ってやる。戦車は修理を続けてくれ、歩兵はなるべく体を冷やさないように、寒さは体力を奪われるから」

「Ⅲ突は足回り、M3は副砲。寒さでエンジンの掛かりが悪くなっているものはエンジンルームを温めてください。時間はありませんが、落ち着いて」

「「「「はい!」」」」

 みほと凛祢の指示にみんなが返事をするとそれぞれの戦車の元へ向かう。

「我々は作戦会議だ!」

「凛祢。その様子なら大丈夫そうね」

「え?」

「ううん。なんでもない」

 桃が言うと凛祢とみほ、英子たちは会議に向かう。

 

 

 観客席ではスクリーンに映る映像に新三郎と鳥海が顔を青ざめていた。

 映像ではプラウダ&ファークト連合を現す赤いアイコンが大洗連合を現す青いアイコンを取り囲むように配置されている。

「完全に囲まれてるんですけど。お嬢と翼お兄さんは無事でしょうか?」

「兄貴たち大丈夫かな?」

「落ち着きなさい新三郎、鳥海君」

「そ、そうだよ。お兄ちゃんたちならきっと勝てるよ!」

 そんな2人を奮い立たせるように百合と小鳥は強い言葉を口にした。

 そしてダージリンやケンスロットたちは持参したテントの下で観戦していた。

「どうしてプラウダとファークトは攻撃しないんでしょう?」

「多分、プラウダの隊長がわざとそうしてんだろ」

 オレンジペコの言葉にガノスタンが答える。

「プラウダの隊長は楽しんでいるのよこの状況を。彼女は搾取するのが大好きなのよ……プライドをね」

「悪趣味だな。騎士たるもの正々堂々真剣勝負するものだ、戦車道と歩兵道ならばなおさらな」

「本当にカチューシャの事が嫌いなのねケン」

「考えの乖離は誰にでもあることだ。だが、やはりあの女のやり方は好かないな」

 ダージリンの言葉を聞いてケンスロットも少々怖い顔を見せていた。

 

 

 西住しほとまほと黒咲聖羅、葛城朱音のいた観客席でも動きがあった。

「帰るわ。こんな試合見るのは時間の無駄よ」

「待ちな……」

 立ち上がったしほを聖羅が引き留める。

「あなたに意見されるいわれはないわ」

「っ……!いいから――」

「待ってください」

 しほの鋭い眼光に圧倒されるがそれでも絞り出した聖羅の声をまほが掻き消した。

 2人とも視線をまほに向ける。

「まほ……」

「まだ試合は終わっていません」

「西住さん、あなたも娘に言いたいことがあってきたんでしょ。ならせめて最後まで見るべきよ。私だってそう決めてここにいるんだから」

「……葛城がそう言うなら最後まで見るわ」

 まほに続いて朱音の言葉を聞いて再びしほは腰を下ろした。

 お互いの子供に伝えるべきことがあったから。

「ありがとうございます。葛城さん」

 まほは朱音の方を見て感謝する。

「ねえ、まほさん、聖羅君。なんで凛祢はまた歩兵道を始めてしまったのかしら」

「「……」」

「私はあの子にもう戦場に戻ってほしくなかった、戦場で凛祢は最も大事にしていたものを失ってしまったから。だから歩兵道のなかった大洗学園艦に行かせたのに、どうしてまたあの子は戦場に行ってしまうのかしら」

 朱音は静かにそう言うとスクリーンに視線を向けた。

 まほも聖羅も考えさせられていた。

 確かに、凛祢という男はどうして今になって戦場に舞い戻ってきたのか。それはみほにも言えることだが。

 どうしてこのタイミングだったのか。

 今の彼女たちには見当もつかなかった。

 

 

 その頃プラウダ&ファークト連合は焚火を焚いて食事をしていた。

 カチューシャは呑気にボルシチを食しながら口を開いた。

「降伏の条件にウチの学校の草むしり3か月と麦踏みとジャガイモ堀りの労働をつけたらどうかしら」

「汚れてますよ」

 ノンナはまるで母親のようにカチューシャの前にハンカチを出した。

「知ってるわよ!」

 吐き捨てるように言うと口を拭いたハンカチをその場に投げ捨てる。

「エレン、そんなところで寝ていたら風邪ひきますよ」

「……寝てない。風の音を聞いてるだけだ」

 ノンナは小屋の壁に背中を預けドラグノフ狙撃銃を右肩に立てかけて目を閉じていたエレンに視線を向けた。

 エレンはヘッドフォンをつけており周りからは眠っているようにしか見えなかった。

 しかし、そのヘットフォンからは文字通り風の音。風が吹き抜けるような音が響いている。

 これは彼にとって狙撃の質を高めるための準備の様な行為であった。

「エレン、持ってきてやったぞ」

「……」

 戻ってきたアルベルトは手に持っていたレーションをエレンに向かって投げる。

 エレンは顔を動かすこともせずにレーションをキャッチした。

 するとゆっくりと目を開けた。

 レーションはノーマルなプレーン味だった。

「レーションはチョコレート味しか食べないって言った」

「それしかなかったんだから我慢しろ。嫌ならボルシチを食うんだな」

「戦闘中はレーションや非常食しか食べないのが我流だ。それに満腹になると眠くなるし、なにより狙撃の質が落ちる。どっかの誰かさん違ってな」

 エレンは1度視線をカチューシャに向けた後にレーションの封を破る。

 しぶしぶ受け取ったレーションを食すエレンを横目にアルベルトはノンナの隣に座り、温かいコーヒーを渡した。

「ありがとうございます」

「なんだ。そっちはもうお眠か?」

「別にいいでしょ……」

「ご勝手にどうぞ」

 アルベルトは視線を煌々と燃える焚火に向けた。

 焚火の熱を感じてアルベルトの体もようやく感を取り戻す。

「なんで降伏の時間に猶予を与えたんだ?」

「カチューシャがお腹が空いて、眠かったからですね」

 エレンが問い掛けるとノンナは瞼を閉じて優しく呟いた。

「違うわ!カチューシャの心が広いからよ!シベリア平原の様にね」

「広くても、相当寒いだろ。マイナス何度の平原だ?」

「うるさいわよ!もう寝る!」

 アルベルトの言葉にカチューシャは拗ねたように顔を背けて横になる。

 その様子をエレンとノンナはやれやれと見つめていた。

 

 

 

 降り続く雪が強くなり始めた頃、教会内で大洗連合は再出陣の準備を進めていた。

「直りそう?」

「なんとか動くと思うけど……」

 心配そうに見守るあけびに修理する妙子が返答する。

「マガジンは残り4本か……やっぱ無駄撃ちが多いのかな?」

「大丈夫だって。俺なんてあと三本だぜ!」

「自慢する事じゃないだろ」

 予備弾倉の残数から残弾数を気にする淳の様子を見て漣と迅が呟いた。

「流石にこれは直せないよね……」

「かわいそう……」

「包帯でも巻いておく?」

「いや、意味ないから」

 あゆみや桂里奈の呟きを聞いた優季が良かれと思ってそんな言葉を述べる。するとあやがツコッミを入れた。

「今こそ、サバイバル合宿で鍛えた火おこしをやるぜ!」

「おーやれやれ!」

「うおー!」

 M3の隣では歩と礼は木々の枝を使い見よう見まねで必死に火を起こそうとするが一向に燃えることはなかった。

「何故だー!」

「雪で湿ってる枝じゃ火なんて付くわけないだろ」

 その様子を見ていた亮が思わずそんな言葉を口にした。

「あ、そっか。じゃあどうするんだよ?」

「俺に聞くなよ」

 頭を抱えていた歩が視線を向けるが亮もいい案はなくそう返すしかなかった。

 Ⅳ号車内でも砲塔を操作していた華とそれを一緒に確認する優花里の姿があった。

「回りますね」

「ええ」

 ゆっくりとハンドルを操作していた華と優花里は砲塔が回ることを確認し安心したように笑みを浮かべる。

「問題はどうやってこの包囲網を突破するかだな……」

「敵の攻撃の直撃を受ければ一発でやられちまうぞ」

「敵の正確な配置が分かればいいんだけど」

「確かにこのままでは袋の中のネズミですからね」

 桃と雄二は相変わらず難しそうな顔をしていた。

 柚子もこの状況に弱気そうな顔をしている。宗司は何かいい案はないかと考えているのか顎に手を当てている。

「偵察を出しましょう」

「それはいい考えかもしれないな。塁!」

 みほの提案に乗る気になった凛祢は塁の名前を呼んだ。

 偵察に向いていると考えられる者を選抜し、文字通り極寒の雪原に送り出す。

 偵察部隊A。坂本塁とアーサーと秋山優花里にエルヴィン、秋月セレナの5人。雪道や偵察に慣れている5人であったために選出したチーム。

 偵察部隊B。東藤俊也と青葉誠一郎と冷泉麻子に園緑子の衛宮不知火の5人。5人共視力が2.0以上あったために選出したチーム。

「塁、1つ話しておくことがある」

「なんですか?」

 凛祢は偵察へ出る準備の間に塁を呼んだ。

「秋月いや、セレナはサンダースとアルバートへ潜入した時、俺たちを助けてくれた女だ」

「え?本当ですか!?」

 驚く塁の顔を見て凛祢は頷く。

「元々、セレナがコソコソと生徒会と会って何かしていたことには気づいていた。まあ1回戦の後だけどな」

「そうだったんですか。でもよく気づきましたね」

「別に。生徒会の言い分には薄々違和感を感じていたからな。悪いなこんな過酷な状況で偵察なんて」

 凛祢は外に視線を向けた。

 外は吹雪ではなくなったもの雪は降り続いていた。

「お任せください!僕は僕にできる事をやってるだけですから!」

「塁、お前がチームにいてくれて本当によかったよ」

 凛祢は塁の顔を見てそう呟いた。

 そして2つのチームは偵察へと出て行くのだった。




今回の話はどうだったでしょうか。
ようやく生徒会の隠していた真実も明かされ、凛祢たちは至るべき道を見据えた上で戦場へと身を投じて行きます。その運命はどこへとたどり着くのか。
プラウダはロシア(ソ連)の戦車を使用すると言うことで歩兵武器もロシアのものを使用します。今回名前が上がってきたのはRPGやドラグノフだけでしたが。
他にも色々な武器や展開を考えてます。もしかしたらプラウダ戦は4話超えるかも?です。
気が付けば「ガールズ&パンツァー~地を駆ける歩兵たち~」もお気に入り登録が20人超えてました。
自己満足から始まったこの作品を読んで頂けてUNIMITESはとても感動してます。
意見や感想も募集中です。気軽に書いてほしいです。
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