ガールズ&パンツァー~地を駆ける歩兵達~   作:UNIMITES

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どうもUNIMITESです。
今回でプラウダ戦もpart3ぐらいですね。
戦闘はここからが本番と言った感じとも思います。
では本編をどうぞ。


第18話 雪空の死闘

 暗い空の下、揺り続く雪の中で大洗連合の偵察チームは雪原を進んでいた。

 偵察部隊Aのアーサーや優花里、エルヴィンは軍歌『雪の進軍』を歌って元気に雪原を進んでいる。

 その時、塁は後ろを歩くセレナに気づいた。やはり廃校を黙っていたことを気にしているのか、距離を置いていた。

 ふと偵察に出る前の凛祢の言葉を思いだす。

 セレナはサンダースとアルバートに潜入したときに助けてくれた人だったと言うこと。

 塁も驚いたが、確かにあの時聞いた声はセレナと同じだったような気がした。

 記憶なんて曖昧なものだが。それでも今は信じたかった。

「秋月殿。ちょっといいですか?」

「坂本君……セレナでいいわよ」

 塁はセレナの速度に合わせて歩く。

「……じゃあ、セレナ殿。会長たちの言い分はわかりました。でも、どうして黙っていたのですか?少なくとももっと早く知ることができていれば僕たちはもっと訓練を、みんな強くあろうと思っていたはずです。それをどうして」

「廃校なんてこと話さずに優勝できたならどんなによかったか……英治たちはね葛城君や西住さんには思うがままに歩兵道と歩兵道をしてほしかったのよ。少なくともこんな勝利を脅迫するような形にはなってほしくなかった」

 セレナは申し訳なさそうに視線を落とした。

 塁もそんなセレナを見て、嘘をついてはいないと理解した。

「こんな私たちを見て軽蔑したでしょ。所詮私たちは凛祢君と西住さんを……を勝つための道具に利用しただけにすぎない」

「本当に凛祢殿と西住殿を『勝つための道具』だなんて思っているんですか?」

「……」

 塁のそんな言葉にセレナは何も言わなかった。

 それでも言わなければならないと思って言葉を続けた。

「なら、どうしてサンダース大学付属高校とアルバート大学付属高校に潜入した時、セレナ殿は真っ先に僕たちを助けたんですか?凛祢殿だけを助ければよかったはずなのに、あの潜入は僕たちの勝手な行動だったから」

 塁は全国大会1回戦の数日前に行った潜入作戦の事を思い出していた。

 あの時、確かにセレナは自分たちが逃げる手助けをしてくれた。

「それは……あなたたちが捕まれば葛城君は助けようとすると思って」

「確かに葛城殿ならそうするかもしれません。でもセレナ殿は危険を冒してまで僕と優花里殿を助けてくれました」

「……」

 セレナは思わず塁の顔を見つめた。

 わからなかった。どうして塁はこんな言葉をかけてくれるのか。

「確かに廃校だってことには驚きました。でもだからって騙されたことを恨んだりしません。僕は歩兵道やっててよかったです。歩兵道が無かったらきっと凛祢殿や優花里殿、そしてセレナ殿にも出会えませんでしたから!」

「それ告白のつもり?」

 セレナは不敵に笑ってそんな言葉を返した。

 その顔は少々赤く染まっていた。

「え?あ、いや!ち、違いますよ!」

「ふふ。冗談よ、冗談」

 塁は思わず顔を真っ赤に染めて弁解する。

 その顔を見てからかうようにセレナは微笑んだ。

「ありがとう。そんな風に言ってもらえると嬉しいわ」

「そ、そうですか?……あ、みんなもうあんなに遠くに行ってますよ!僕たちも行きましょう!」

 塁はセレナの顔を見るのが恥ずかしいのか、早口で呟くと急ぐように歩いていく。

「……そうね。葛城君と西住さんならきっと大洗を救ってくれる」

 セレナも歩いていく塁を見て少々頬を染めていた。

 そして合流した塁と優花里たちは偵察を続けるのだった。

 

 

 一方、時を同じくして偵察部隊Bといえば。

 緑子と青葉が戦車を見てけだすために辺りを見渡している。

「あそこにT-34/85。で奥にモロトフ」

「そんな戦車ありませんよ、そど子さん。あそこにKV-2です」

「ちょっと間違えただけでしょ!スターリンの2。大体なんで私があなたたちと偵察に出なきゃいけないのよ!」

 緑子の発言にツッコミを入れる青葉。

「うるせーな全員視力が2,0あるからだろ。テメェは静かに偵察できーねのか?北西にIS-2だ、冷泉」

「落ち着け俊也。そど子はそう言うやつだから」

「な、なによ!あなたたちは冷泉麻子だからレマコよそっちは東藤俊也……トシヤよ!」

 文句を言っている俊也の報告を聞いて麻子も静かにメモ用紙に書き記す。

 すかさず緑子が強気に言い放つ。

「そのままじゃねーか」

「そうですね」

「うるさいわよ!」

 青葉と俊也の視線を感じながら緑子は拗ねたように言った。

「あぁ?」

「ひっ!べ、別に……怖くないんだからね!」

 俊也が鋭い眼光を緑子に向ける。

 その顔はまるで喧嘩をしていた頃の俊也の顔だった。

 俊也を見て、緑子は怯えるように青葉の後ろに身を隠した。

 やれやれと青葉は口を開いた。

「駄目ですよ東藤くん。そんな怖い顔で女の子を睨んじゃ」

「うっせーよ、青葉。代わりにお前がその女を躾けとけ」

 俊也は視線を前方に戻し、偵察を続ける。

「それは勘弁してくださいよー。……そど子さん、東藤君は怒ると怖いので怒らせないでください」

「あ、青葉くん!あなた、それでも風紀委員長なの!?そんな問題児を野放しにしておいて!」

「んだと?ぶっ飛ばすぞ!テメェ」

「まーまー落ち着けって俊也。お前もだぞ、そど子」

 見かねた不知火も俊也を止めに入る。

 緑子はその後ろに隠れて俊也に視線を向けた。

「んだよ衛宮。こいつは拳で分からせなきゃならねーんだよ」

「おいおい、せっかく喧嘩沙汰がなくなって平和な大洗男子学園になってんだからやめとけって」

「そうですよ。今度、お昼1回奢ってあげますから」

「冷泉みたく、食いもんで釣られると思ってんじゃねーよ」

 青葉の言葉に思わずいつもの表情に戻ってツッコミを入れた。

 それを聞いた麻子も口を開く。

「別に私は食べ物に釣られてないぞ」

「釣られてるだろ。この前、武部が言ってたぞ。お前にお菓子を与えれば大体言うこと聞くって」

「沙織め。余計なことを」

 麻子は恨むように沙織の名を口にした。

「そど子も言い過ぎだ。それに問題児とか軽々しく言うな、俊也だって根はいい奴だぜ」

「そど子さん。こういう時はごめんなさいするべきですよ」

 不知火と青葉も謝罪するように緑子を促す。

「……悪かったわよ」

 流石に悪いと思ったのか緑子は小さめの声でそう口にした。

「あ?聞こえねーな。なんだって?」

 煽るように俊也が緑子の顔を覗く。

 すると、ワナついていた緑子は息を吸い込む。

「あーもう。私が悪かったわよ!これで満足なの!?」

「「あ……」」

「おい、馬鹿!」

 緑子の大声の謝罪に思わず不知火も声を上げた。

 するとプラウダとファークト連合の生徒がこちらの存在に気づいたように声を上げた。

「敵だ!」

「捕まえろ!」

 声の方を一度見た後5人は一斉に反対方向へと駆け出す。

「本当に余計な事しかしねーな。クソ風紀委員」

「あなたのせいでしょ!冷泉さん、あそこにIS-2がもう1輌!」

「はいはい」

 俊也の文句を聞いて言葉を返す緑子。

 麻子は走りながらも緑子の報告をメモ用紙に書き記す。

「まったく人のせいにしちゃ駄目ですよ、そど子さん」

「うるさいわね!」

「いいからさっさと逃げるぞ」

 風紀委員長2人のやり取りをみた不知火が急かすように言った。

 そして偵察部隊Bはそのまま撤退していくのだった。

 

 

 天気も荒れ始め、静かに目を閉じていたアルベルトとエレンが同時に目を見開いた。

「風が強くなってる。大きいのが来る……」

「吹雪いてきたな……いくぞエレン。同志ノンナ。カチューシャを起こせ」

 エレンがヘッドフォンをずらして首にかけるとアルベルトやノンナがカチューシャを連れて移動を始める。

 

 

 教会内で戦闘の準備を進めていた大洗連合もようやくひと段落付き始める。

 凛祢もC-4爆弾をネジって数cm程の大きさにカットすると英子が用意していたマッチに火を着ける。

 マッチの先が温かい火へと変わる。

「それ、どうするんですか?」

「こうする」

 横から覗いていたみほの視線を感じながら凛祢はマッチをC-4の元に近づけた。

 するとC-4爆弾に火が付き煌々と燃焼し始める。

「C-4爆弾はベトナム戦争で固形燃料の代わりにしてしたらしい。こんな事態に備えて今回はヒートアックスの量を減らしてC-4爆弾と半分ずつの量を用意していてよかった」

「凛祢さん準備がいいですね……ってこれじゃあ工兵の武器が減っちゃうんじゃ――」

 説明を聞いたみほの言葉を遮る様に凛祢は手で合図する。

「別に大丈夫だ。ヒートアックスだっていつも余らせて全部使い切ることなんてそうそうないから」

「で、でも!」

「今はみんなに暖を取らせることを優先すべきだ。それに焚火を見てると落ち着くだろ?」

 凛祢は煌々と燃焼し続けるC-4を見てそんな言葉を口にした。

「……確かに。そうですね」

 みほも同じように燃焼している炎を見つめて呟いた。

「お、火は起こせたみたいだな」

「はい。残ってるC-4は全部焚火の燃料に回します」

「おい正気か?」

「大丈夫です。このままじゃ動けませんから」

 英治の質問に答えた凛祢は英子や八尋たちが集めた石を円状に並べる。

 そしてさっきと同様にカットしたC-4を置いて、マッチを使って燃焼させる。

 湿っている枝を何本か傍に置いて乾かす。

「おー焚火じゃん、あったけー。てか、これって何を燃やしてんだ?」

「会長たちが用意した固形燃料だ」

「へー、会長たち珍しいもの用意してるな」

 八尋と翼はそう言って出来立て焚火の傍で暖を取っていた。

「なんだよ。あるなら早く出してくださいよ。火おこし頑張って損した!」

「まあ、そう言うなって」

 同じように焚火に集まる歩や礼。他の生徒たちも続々と集まって来る。

「葛城。なんで……」

「いいんです。会長たちが用意したって言った方がみんなの為になります」

 凛祢はそう言ってC-4をすべて英治に預ける。

「でも……」

「その代わり、もう隠し事はしないでください。俺たち、もう仲間じゃないですか」

「葛城君……うんそうだね。もう隠し事なんてしない。みんなで勝とう。ね、英治」

「ああ、そうだな。俺たちみんなで」

 英治と杏は笑みを浮かべそう言い合う。

「戦車が冷えるので素手で触らないようにしてください」

「手の空いたものは暖を取れ!」

「スープ配りまーす」

 みほの声に続いて桃と柚子の声が響いた。

 凛祢も軽くなったバックパックを地面に降ろして壁に背中を預ける。

「ふう……」

 大きく息を吐いた。

 さて、次の作戦はどうするかな。

 どう頑張っても歩兵ではプラウダの戦車を撃破するのはほぼ不可能。そこはみほたちに頑張ってもらうとしても。

 自分たちはどうすればいい?

 敵にはアルベルトがいる。それに長距離狙撃に長けたスナイパーエレンもいる。

「凛祢。大丈夫?」

「……英子か」

「あなた考え事してると怖い顔するのね」

「そうか?」

 凛祢は英子の言葉に、気にするように顔を触る。

「へくちっ!……ごめんね。少し寒くて」

「ほら……そんな変わらないと思うが」

 不意にくしゃみをした英子の様子を見て凛祢は羽織っていた防弾加工外套を英子の前に差し出した。

「ありがとう」

 英子は素直に受け取って外套を羽織る。

「英子……俺はやっぱり戦場を望んでいたのかもしれない。戦場に立って仲間と葛藤することで俺は生きていると実感できた」

「そう。やっぱりあなたは歩兵道を嫌いになってなかったのね」

「俺は結局捨てられなかった。今の俺があるのは歩兵道があったおかげだから。そして英子やみんな……そしてみほのおかげだ」

 凛祢はそう言って顔を上げた。

「うん。私も信じてる。この試合もそして準決勝も決勝も勝つって」

「ああ。絶対だ」

 凛祢は残っていたスープを一気に飲み干し立ち上がる。

 そして、みほの元へと駆けて行った。

 英子は静かに見送ると桃や柚子のいる方へと歩いていく。

「こんなに吹雪いていたら、偵察に出たみんなは」

 みほが吹雪いている外を見てそう口にしたとき、雪の進軍を歌って戻ってきた偵察部隊Aと全力疾走したように肩で息をする偵察部隊Bが帰還してきた。

「「只今帰還しました!」」

「「こっちも偵察終わりました!」」

 塁と優花里が入り口で敬礼する。その隣では息を切らした青葉と緑子が報告する。

 偵察部隊の報告を聞いて、地図に急いで敵の配置を書き記す。

 さっきまで真っ白だった地図には緑のペンで敵戦車の配置を示す印と青ペンで随伴の数などが記されていた。

「あの雪の中でこんなに詳細に」

「流石だな塁、優花里、セレナ」

「「へへへ」」

「まあね。こういうのには慣れてるから」

 みほや凛祢の声を聞いて照れる様子を見せる2人とセレナ。

「俺たちは褒めねーのかよ」

「俊也たちもよくやってくれた。今度昼飯奢るから」

「だからなんでそうなるんだよ!」

 俊也は先ほども聞いた言葉に思わず声を上げた。

「ま、これで作戦が立てられるから。お手柄なのは間違いない」

「はい、これなら勝利の糸口もあるかもしれません!」

 みほも少し元気を取り戻したようだった。

 偵察部隊に感謝しながら作戦立案戻る。

「雪の進軍は楽しかったです!」

「うん。楽しかった」

「まさかあそこまでやるとは思ってなかったけどね」

「いいじゃないですか。結果的に成功したんですから」

 塁たちはさきほどの偵察の事を思い出して笑みを浮かべていた。

 何をやったのか知らないが。アーサーの様子を見る限り、結構危ない橋を渡ったようだ。

「敵に見つかって逃げ回ったのがかえってよかったな」

「それは結果論だろ。そど子せいで余計に体力使う羽目になっただろうが」

 スープを飲みながら焚火で暖を取る麻子と俊也が視線を横に向ける。

「何よ!見つかったのも作戦よ!」

「えーそうだったんですかー?僕はてっきりそど子さんがドジで駄目な子なのかと」

「青葉君!」

「冗談ですよーそど子さん」

 緑子の怒った顔を見て青葉は笑いながらスープに口を付けた。

「お前ら元気だな……俺は疲れたよ」

「うふふ……でも、おしろい子たちね」

 やれやれとため息をついた不知火とは別にセレナは微笑んでその様子を見ていた。

 

 

「ただいま。試合を続行するかどうか協議しております。繰り返します」

 外からのアナウンスが観客席とフィールド、教会内に響く。

「ますます大洗連合には不利ですね。敵に四方を囲まれて、この悪天候……きっと戦意も」

 心配そうにスクリーンを見ていたオレンジペコ。

 そんな彼女とは裏腹にダージリンやケンスロットは涼しい顔をしていた。

「それはどうかしら」

「案外わからないもんだぜ」

「ガノの言う通りだ。葛城は戦車にだって向かって行くような男だ。この程度では決して折れないはずだ」

 ケンスロットはそう口にして視線をスクリーンへと向けた。

 再戦は果たせなかった。が好敵手が他の誰かに敗れる姿は見たくない。だからこそ勝ってほしいとケンスロットは思っていた。

 

 

 

 どれぐらい時間が経っただろうか。用意したC-4爆弾もすべて燃焼し尽くし教会内は再び冷え始める。

「降伏時間まであと何時間だ?」

「うん、1時間」

「1時間をこの状態で待つのか……」

 桃と柚子は悪化していく状況に苦し気な表情を浮かべていた。

「いつまで続くのかな。この吹雪」

「寒いねー」

「うん」

「お腹空いた」

 毛布を6人で分け合うウサギさんチーム。

 あやと優季がそんな言葉を口にすると続くようにあゆみと桂里奈が呟いた。

「はぁ、どうするよ?」

「確か、痛みを感じると温かくなるって言うよな」

「じゃあ殴り合ってみる?」

「やめろ。先輩に怒られるぞ」

「亮だってぶるぶる震えてるじゃん」

 ヤマネコ分隊のメンバーも体を震わせながら言い合う。

「これは薄幸だ」

「やっぱり諦めが肝心なのでは?」

「天は我々を見放した……」

「私には難題すぎたかな……」

「隊長!あの木に見覚えがあります!」

「何!?どれだ?」

 カバさんチームとワニさん分隊も吹雪いている外を暗い表情で見つめていた。

「いいこと考えた……ビーチバレーじゃなくスノーバレーってどうですかね?」

「いいんじゃない?知らないけど」

「もはや逆転不可能な状況なのだよ」

「くそ!俺に『帝王の眼』があれば……」

「淳、どこのキセキの世代だ?」

 隅っこにひっそりと座るアヒルさんチーム。そして八九式の隣に立つオオワシ分隊。

「寝ちゃだめだよ、ぱぞみ」

「青葉は、凄く眠いです……すぴー」

「寝るな、青葉!寝たらマジで死ぬぞ!」

「痛いですよ……黄場」

 眠りかけていた希美を緑子が声を掛けて起こす。カモさんチームは毛布に包りまるで寝袋に包まれているようだった。

 一方、寝言を言いだす青葉を往復ビンタで起こす黄場。赤羽はその様子を黙ってみている。

「残りの食料は?」

「こういう事態は予測してなかったですからさっきのスープ以外は乾パンぐらいしか」

 雄二の問いに宗司は気を落としていた。

「くそ!こんなことなら飯をちゃんと食っておくんだった」

「食い貯めでどうにかなる状況じゃないだろ」

「だってさー。俺今月厳しくて今日の夕飯は食パン1枚だったんだぜ?」

 英治がツッコむが不知火は腹を抑えてひもじそうにしていた。

「試合前くらいは飯ちゃんと食っておけよ」

「うう……ひもじいぜ」

「何も食べるものなくなっちゃったね」

「偵察の時、プラウダはボルシチとか食べてました」

 不知火を見て沙織や優花里もそんな言葉を呟いていた。

「……」

 凛祢は再び室内に視線を向ける。

 マズイな。寒さと空腹で精神的な苦痛が大きいみたいだ。

 自分は昔から寒さや空腹感には慣れているがみんなはそんな経験もなければ、特訓もしていない。

 予想以上に戦意喪失し掛けているようだ。

「凛祢さんちょっといいですか?」

 みほはそう言って凛祢の耳元で囁いた。

「おいしそうだな」

「それにあったかそうです」

「やっぱりあれだけの戦車そろえている学校ですからね」

「学校……なくなっちゃうのかな」

 また弱気になり始めるあんこうームのメンバー。

 その様子を見てヤブイヌ分隊のメンバーも視線を落とし始める。

「そんなの嫌です。僕はみんなと、ずっとこの学校にいたい!」

「俺も同じだ。この学校で学んで、みんなで卒業したい」

 塁と翼が強めの口調で思いを口に出した。

「そんなの分かってるよ……」

「どうして廃校なんてことになっちまったんだよ!」

 沙織の様子を見て、八尋は思わず拳を壁にぶつけた。

「ここでしか咲けない花もあるのに……」

「「……」」

 華がそんな言葉を漏らすと俊也と麻子も悔しそうな表情を浮かべた。

「みんなどうしたの?元気出していきましょう!」

「「うん……」」

 みほの励ましに返ってきたのは弱々しい声だけだった。

「さっきみんなで決めたじゃないですか!降伏しないで最後まで戦うって!」

「「「はーい」」」

「分かってまーす」

 みほは言葉を続けるがはやり返ってくるのは小さな声だけだった。

「っ……」

 凛祢は奥歯を噛み締め、脇のホルスターに収納されていたブローニング・ハイパワーを引き抜いた。

 そのまま天井に銃口を向ける。

 引き金を引くと耳を刺すような乾いた音が教会内に響いた。

 続くように排出された空薬莢が1発が地面を跳ねる。

「「「!」」」

 誰もが驚きを隠せずにいた。

 凛祢がなぜそんな事をしたのか理解できなかったからだ。

 ゆっくりと手を下ろして口を開いた。

「確かに弱気になるのも分かる。だが、気持ちで負ければ本当に敗北だ」

 生半可な行動や言葉では到底士気は上がらない。上がるわけがないのだ。

「だから俺は」

「私は」

 羞恥心を……捨てる!

 凛祢とみほはお互いに頷き合い、行動を起こした。

 みほの歌に合わせて2人は大洗連合の視線が集まる中で踊り始める。

「り、凛祢?」

「西住さん……」

 英子とセレナが少々引き気味の様子を見ていた。

 2人が踊っていたのはこの場にいる誰もが1度は見た事のある踊り……「あんこう踊り」だったからだ。

「みぽりん!?」

「おいおい……凛祢?」

 沙織と八尋が理解不能な行動に最初に驚く顔を見せた。

「「どうしたんですか!?」」

「冗談きついぜ……」

 優花里と塁も思わず声を上げた。俊也も顔を青ざめつつも視線を向ける。

「あんこう鷹?」

「そう言うことですか。考えましたね」

 カバさんチームとワニさん分隊が驚く中でもアーサーはわかったように笑みを浮かべる。

 他の者も同様に2人を傍観するしかできなかった。

「「燃やして壊してゆーらゆらー」」

 曖昧な記憶を辿り歌い始めた凛祢も踊りを続けている。

「みんなも歌ってください!私と凛祢さんが踊りますから!」

「やめてよ……冗談でしょ?」

「やるしかないでしょ。行くわよ英子、衛宮くん」

「へいへい……」

 オオカミさんチームの3人はいち早くその踊りに参戦する。

「照月さんたちまで」

「逆効果だぞ!」

「うるさいわね!ここまで来たら見てないでやりなさいよ!仲間でしょ!」

 宗司と雄二が声を掛けるが涙目を浮かべる英子が強気に言い放つ。

 凛祢とみほも止めずにあんこう踊りを続ける。

「凛祢の奴……壊れたのか?」

「恥ずかしがり屋のみほさんが」

 翼と華も開いた口が塞がらなかった。

「みんなを盛り上げようと」

「プライドを捨ててまで」

 優花里と塁もようやく意図を理解していた。

「微妙に間違ってるけどな」

「斜め上に行きすぎだろ。あれはもうふざけているとしか――」

「凛祢がこんな状況でふざけるわけねーだろ。あいつはいつだって自分の信じたことをやってる奴だ!」

 麻子に続いて俊也が呆れた視線を送ると、八尋が遮る様に声を上げた。

「私も踊ります!」

「行きましょう!八尋殿!」

「おっしゃー!あの日あんこう踊りを踊った時からプライドはもうボロボロだ!」

 八尋も聖グロ&聖ブリ戦後のあんこう踊りを思い出す。

 3人はズンズンと歩みを進める。

「やりましょう!」

「しょうがねーか」

「みんな行くよ!」

「仕方あるまい。行くぞ東藤」

「……マジでやんのかよ」

 華や翼も後に続き、俊也も露骨に嫌そうな表情を浮かべていた。

 再び13人の歌が響き、次々と大洗連合のメンバーは重い腰を上げた。

 

 

 観客席のスクリーンには大洗連合が踊る姿が映し出されていた。

「……」

「嘘……!」

「お嬢が……」

「兄貴ー!どうしちまったんだ!?」

 スクリーンから大洗連合のあんこう踊りを見ていた百合や新三郎、坂上姉弟も驚いてしまう。

 五十鈴百合にとっては自分の娘の品を疑ってしまったから。そして坂上姉弟にとっても兄の威厳が失われかけたからだ。

「ほう。あんこう踊りか……」

「英子があんこう踊りを踊ってますよ!玄十郎さん!」

 玄十郎が興味深く視線を送ると麗子は英子があんこう踊りを踊っていたことに感動していた。

「「「「……」」」」

 同じくそれを見ていた西住しほ、まほ、聖羅、朱音も眉一つ動かさずにその様子を見つめていた。

 

 

「ハラショーですわね」

「だははは!なんだあれ?おもしれ―な、ケン!」

「そ、そうだな……」

 笑みを浮かべたダージリン。

 ガノスタンはよっぽどツボにはまったのか腹を抱えて大笑いしていた。

 ケンスロットは引きつった表情で視線をスクリーンに向けている。

 

 

 もうどれぐらい踊り続けているだろうか?

 数分いや、数十分?もしかしたら1時間ぐらいは経っただろうか?

 できれば早く終わってほしい。こんな踊りは正直キツイ。

 凛祢がそんなことを考え始めた頃、プラウダ高校のパンツァージャケットに身を包む生徒が声を上げた。

「あ、あの!」

「プラウダ校の……」

「もうすぐ時間ですから、降伏は?」

「降伏はしない。最後まで……全滅するその瞬間まで俺たちは戦う」

 ファークト高校の生徒の前に立った凛祢はそう口にした。

 

 

「土下座は?」

「降伏はしないそうです」

 目を覚ましたカチューシャの問いにノンナが答える。

「何よ、待ったかいがないわね。それじゃあさっさと片付けておうちに帰るわよ」

「はい。同志アルベルト、エレン準備を急いでください」

 ノンナの声を聞いて同時に紙コップを握りつぶす2人。

「エレン。アレは持ってきてきたか?」

「持ってきたけどカチューシャは武器の名が落ちるから使うなって言ってたぞ」

「最悪使っても構わない。アレなら戦車でも落とせるからな」

 アルベルトも準備を急がせてそう言った。

 

 

 みほは戦車に乗り込みながら心配そうな視線を向けた。

「本当にいいんですか?」

「ああ。生き残ることができたら合流もできるだろ。たとえ俺たちがやられてもみほならやってくれるって信じてる」

 凛祢はバックパックを背負って答えた。

 防弾加工外套もアーサーに渡している。

「任せておいて」

「そうそう。先輩にも意地ってのがあるのよ」

「葛城だけは借りてくけどな」

 続くようにオオカミ―チームの3人が準備をしながらそう言った。

「でも……」

「いくぞ、杏」

「うん。行くよ!」

「はい!」

 杏の掛け声で全員が戦車と駆動車に乗り込む。

「西住ちゃん、葛城くん。私らをここまで連れて来てくれてありがとね」

「それはこの試合に勝ってから言ってくださいよ」

 凛祢はグローブを嵌め直す。

 続くように英治も銃を背負い口を開いた。

「確かに。まだ早いぞ杏」

「うん。そうだね」

 その言葉を最後に大洗連合は包囲網からの脱出作戦を決行する。

 外には包囲網を完成させた敵。数も上なら戦車の性能も武器の性能すらも上。

 それでも勝つんだ。

 凛祢は瞑想しているように目を閉じて、息を吐いた。

「ではこれより敵の包囲網を突破する『ところてん作戦』を決行します!戦車前進(パンツァーフォー)!」

「包囲網突破後はみんな作戦通りに。歩兵疾走(オーバードライブ)!」

 2人の声が通信機とインカムから響いた。

 

 

 T-34/85のキューポラから上半身を乗り出し腕を組むカチューシャ。その顔は勝ち誇っていた。

「あえて包囲網に緩い所作ってあげたわ」

「裏目に出なければいいがな」

 アルベルトは思わずそんな言葉を呟きながらナガン・M1895の引き金部に指を通し、回転させている。

「大丈夫よ!奴らはそこを突いてくる。着いたら挟んでお終いよ」

「……うまくいけばいいのですが」

「カチューシャの作戦が失敗するわけないじゃない!今回はアルベルトの意見も取り入れたんだから!それに第2の策で万が一フラッグ車を狙いに来たとしても隠れているカーベータン(KV-2)がちゃんと始末してくれる」

 ノンナもそんな言葉を掛けるがカチューシャは抜かりないといった表情で説明をする。

「臨機応変に対応はできる。エレンもいるしな」

「それなら安心です」

「用意周到のカチューシャ戦術とアルベルトの柔軟な戦術合わせれば敵なしよ!」

 カチューシャは再び笑みを浮かべて腕を組んだ。同時にアルベルトがホルスターにナガンを差し込んだ。

 

 

 教会内の静寂には戦車と駆動車のエンジン音だけが響いていた。

 凛祢も高めた集中の中で目を開く。

「いくぞ、小山!」

「作戦開始だ、宗司!」

「「はい!」」

 杏と英治の声を合図に戦車と駆動車が移動を開始する。

「突撃!」

 ‪一斉に教会内を出ていく戦車と駆動車たち。

「予想通りね!流石私」

「いや、そうでもなさそうだぞ」

 カチューシャの注意を仰ぐようにアルベルトが通信を送る。

 大洗連合はカチューシャのいる包囲網の最も厚い場所を目指して走行している。

 戦車が単縦陣からその陣形を変化させていく。

「こっち!?馬鹿じゃないの?」

「だから言っただろう!」

「あえて、分厚い所来るなんて」

 カチューシャはいそいそとヘルメットを被る。

 すると一斉に大洗連合の戦車が発砲。砲撃戦が開始された。

「河嶋!代われ!」

「はっ!」

 杏はそう言って砲手の席に座り照準器を覗く。

「やっぱ37㎜じゃまともにやっても勝てないからねー」

「まあ、そうよね。私たちのも効かないし」

 杏と英子がそんな言葉を呟く。

「小山!セレナも危ないけどギリギリまで近づいちゃって!」

「「はい!」」

 柚子とセレナの声が響く。

「うおー。こえー!」

「揺れ過ぎで酔いそうだぜ」

 激しい振動に不知火はそんな事を言い出していた。

「小山先輩。セレナ!合図は俺が出します!」

 凛祢は、単眼鏡でT-34/76を見つめる。

 いまこそ、「直感」を信じろ。メッザルーナの時は失敗したが……

 ゆっくりと敵戦車も照準を38tと九七式に向ける。

 一瞬。敵の砲が照準を合わせたその瞬間。

「避けろ!」

 凛祢の合図に2輌は左右に避け敵の砲撃を回避した。

 瞬時に照準を合わせた杏と英子が発砲。砲弾をほぼ零距離で命中させ敵戦車を1輌撃破した。

 その隙を見逃す大洗連合は全速力で敵戦車の間を抜けていく。

「やったなー。後続何としても阻止!」

「やってくれたな。これぐらいじゃないと張り合いがないがな!」

 カチューシャは指示を出して、アルベルトたちも追撃を開始する。

「前方敵4輌!」

「歩兵30!」

 みほとアーサーの声が通信機とインカムから響いている。

「こちら最後尾。後方からも4台来ています!」

「駆動車も4輌いますね」

 最後尾で走行するカモさんチームとシラサギさん分隊も報告をする。

「囲まれる前に陣形を乱さないよう10時の方向に旋回してください!」

「「正面の敵は先輩に任せて」」

 38tと九七式はそのまま前進していく。

 英治も通信機に向けて声を掛ける。

「うまくいったら後で合流しよう!」

「凛祢さんをお願いします!」

「ああ。任せておけ」

 みほは通信を送り離れていく凛祢の背中に目を向けた。

「あいつなら大丈夫だって」

「ちゃんと生きて戻って来るだろ」

 八尋と俊也がそう声を掛けるとみほも視線を前方に戻した。

「T-34/76に85にスターリンか。堅そうで参っちゃうな」

「さらに、RPG持ちの砲兵が18いや20か。ったくアルバートといい砲兵が多すぎだろ。工兵を採用しろよ」

 照準器で見つめる杏とスコープを覗く英治が愚痴をこぼした。

「さーて。ここからは片道切符だ。帰りのタクシーはないぞ」

「うう、胃が痛いです……」

「ぜってぇ負けねぇよ」

 不知火の声に宗司は苦笑いすると雄二も自分の武器を握る手に力を込める。

「無駄話もそこまでよ。敵の懐に潜り込んでキツい1発をお見舞いするわよ」

「こんな戦車でプラウダの戦車に挑むなんて……」

 37㎜戦車砲弾を装填した英子の言葉にセレナはため息をついた。

「衛宮行くぞ!」

「了解だ」

 狙撃兵である英治と不知火がそれぞれ跳躍し雪原に足をつくとそれぞれの狙撃ポイントに向かう。

「みほ行け!会長たちを信じろ!」

「わかりました。気を付けて!」

「そっちもねー」

 凛祢の声に、みほも覚悟を決めて戦車を旋回させていく。

「英子。無理はするなよ」

「あなたも無理はしないでね」

 英子の顔を確認して凛祢も白い息を吐いた。

「たとえ38tでも……」

「テケでも……」

 杏と英子はトリガーに手を掛ける。

「「零距離なら!!」」

 機動力を活かして次々に敵を翻弄し攻撃していく。

 いつの間にか九七式に掴まっていた凛祢の姿もない。

「次!」

「はい!」

 杏の声を合図に桃が次弾を装填する。

「セレナ。9時の方向の敵行くわよ!」

「ええ!」

 セレナも指示通りに戦車を走行させる。

「何やってる!さっさと敵戦車を倒せ!」

「わかってるよ!」

 ファークト高校の砲兵部隊もRPGを構える。

 が、そうはさせまいとキューベルワーゲンに搭乗している雄二が発砲する。

 ほとんどは地面を抉るが数発の銃弾を命中させた。

「どんなもんよ!」

「くそ!先にあいつを!」

 他の歩兵がキューベルワーゲンを狙おうとするが、英治と不知火の狙撃に阻まれる。

 一瞬の隙をついて闇に紛れていた凛祢は全力で距離を詰めた。

「なっ!?」

「覇王流……」

 1歩踏み込んだ凛祢は敵砲兵の顎目掛けて流星掌打を放つ。

「ぐはっ!」

 敵砲兵はなにが起きたのかを理解できぬままうめき声を上げて倒れる。

「こいつ!」

「!」

 敵砲兵がPK機関銃を構えるが、瞬時に振り向いた凛祢は右手で銃口を掴み取る。

 そして、左手に持っていたブローニング・ハイパワーのグリップを顔面に叩きつけた。

「な……に!」

「彗星封じ……」

 倒れた敵にブローニングハイパワーを向けると数発発砲する。

 敵歩兵からアラームが響いた。

 ファークトの突撃兵2人も凛祢の存在に気づき狙いを定める。

 距離は1,2メートル程。手持ちのSKSカービンなら十分狙い撃てる距離だった。

 この距離で完全回避は不可能……のはずだった。

「くらえ!!」

 敵歩兵が引き金を引くと銃口から銃弾が吐き出される。

 しかし、敵歩兵は目の目の出来事に驚く結果となった。

 自分たちの放った銃弾は凛祢ではなく自軍の歩兵に命中していたからだ。

 銃弾を背中に受けたファークトの歩兵からは戦死判定のアラームが響いている。

 その歩兵は凛祢が先ほど流星掌打を見舞った男だった。

「なにー!?」

「マジかよ。こいつ」

 2人も思わず声を上げた。

 凛祢は倒れている歩兵の胸倉を掴み取ると無理やり引っ張り上げ盾としたからだ。

 すぐに男を2人の方へと押し返すと移動を開始する。

「くそ!逃がすか!」

「おい、早く退けよ!」

「お、おう」

 戦死判定を受けた歩兵もあまりの出来事に反応が遅れていた。

 それが命取りだった。

「あいつだけでも!」

「あれ?こいつ手榴弾持ってたっけ?」

 ようやく戦死した仲間を引き剥がし地面に寝かせ銃を構えた瞬間。

 倒れた仲間のベルトにぶら下がっていた手榴弾2つが起爆した。

 爆発に巻き込まれた2人からも戦死判定のアラームが響いている。

「よし……次だ」

 凛祢は指に引っ掛けていたピンを捨てると単独で敵歩兵に向かって行く。

 フリーだった右手にもブローニングハイパワーを握り、二丁拳銃(デュアル)での戦闘を開始する。

 これが現在、葛城凛祢には最も合っている戦闘スタイルだった。

 二丁拳銃だからと言って片手の時より攻撃力が2倍とはならない。

 むしろ二丁拳銃で銃を扱うと命中率は著しく落ちる。特に利き手ではない方。

 だが、それも訓練すれば安定させることはできる。

 次々に対人戦闘で敵歩兵を屠っていく凛祢。

 敵狙撃兵がドラグノフ狙撃銃を発砲すると銃弾が凛祢に向かって飛んで行く。

 直感的に危険を感じ取ったその体は無意識に体を捻り、銃弾を回避した。

「なに!?嘘だろ」

「覇王流……」

 狙撃兵の存在に気づいた凛祢も、目の前の歩兵の右足目掛けて速攻型の足払い技、紫電脚を放つ。

「ぐっ!」

 態勢を崩すのを見逃さず、凛祢は二丁のブローニングハイパワーを連続で発砲すると、敵歩兵から戦死判定のアラームが響いた。

 狙ってきた狙撃兵を屠るために低い体勢で移動を始める。

 同じく宗司と雄二も敵歩兵を2人、3人と屠っていた。

 凛祢が拳銃を発砲し7人目の歩兵を屠るとインカムから声が響いた。

「葛城、もういい。そろそろ撤退しろ!みんなも撤退だ!」

「了解です」

 弾切れになりスライドがホールドオープンしたブローニングハイパワーから空弾倉を排出し、それぞれ予備弾倉を差し込む。

 いち早く撤退を開始した。

 一方、38tと九七式は次々に敵戦車への攻撃を続けていた。

 有効打にならない事もあれど、桃の装填速度を生かして敵を仕留める杏。

 1人で砲手、装填手を兼任しているにも拘わらず英子も的確に履帯を狙い撃ちしていた。

 2輌で敵戦車を翻弄し、38tが零距離射撃で3輌目を撃破した。

「よし!こんくらいでいいだろ」

「そろそろ逃げるわよ!」

「りょうかーい」

「お見事です!」

 2輌も撤退しようとした時だった。

 耳を貫くような発砲音が響いたかと思うと38tが雪原で横転していた。

 砲弾を放った戦車にはノンナの姿があった。

「っ!」

「なに?」

 英子はキューポラから頭を出すと3時の方向に敵戦車の姿を確認する。

「セレナ、避け――」

 轟音と共に九七式も敵戦車数輌からの砲弾が直撃し軽い車体は数回横転し地面を滑っていた。

「動ける車両と歩兵は速やかに合流しなさい!」

「はい!」

 ノンナの指示に崩れた陣形を立て直していくプラウダ&ファークト連合。

 時を同じくして雄二と宗司の搭乗していたキューベルワーゲンも天地がひっくり返ったように逆さまになって煙を上げていた。

 車内から戦死判定のアラームは響いている。

「宗司!雄二!」

 不知火がインカムで通信を送るが応答はなかった。

「くそが!」

「不知火やめろ!」

 思いに任せて動いた不知火だったがすでに場所を把握していたファークトの砲兵から放たれたロケット弾が直撃。

「……ああ」

 不知火は力なく手を伸ばしていたがすぐに雪原に倒れこんだ。

 そして英治も銃弾の雨を浴びさせられ、まもなく戦死判定を受けていた。

 夜の暗さや単独で行動していた凛祢は幸い敵には遭遇せずにいたが爆発音を聞きつけて振り返った。

「英子、無事か!?」

「ごめんね、葛城くん。やられちゃったわ」

 凛祢の通信に答えたのは英子ではなくセレナだった。

「セレナ!?」

「英子は頭を打ったみたいで今は気を失ってる。私たちはここまでみたい後は頼んだわよ」

「……わかった。そっちも英子のことは頼んだぞ」

 セレナは車内で気絶していた英子を車外へと避難させていた。

 凛祢は急いでみほたちへと合流するため地を駆けていく。

 すると大洗連合全員の通信機とインカムから声が響いた。

「ごめん。合わせて3輌しか撃破できなかった上にやられちゃった。照月ちゃんたちや英治たちも撃墜されたみたい。あとはよろしくね」

「わかりました。ありがとうございます……凛祢さんは!?」

「大丈夫だ。俺は生きてる。今そっちに向かってるが敵の増援の合流が早いかもしれない……」

 凛祢も通信に返答しながら先ほどの小さな村を横切っていた。

「後は頼んだぞ!西住、葛城!」

「お願いね!」

「……葛城、西住、頼む!勝ってくれ!」

 桃と柚子、そしてかすれた声を絞り出す雄二の声が聞こえた。

「この窪地を脱出して、凛祢さんと合流します!全車、あんこうについてきてください!」

「はい!」

「了解!」

 みほの指示に全員が返事をして再び気を引き締めた。

 

 

 

 観客席では38t、九七式、そしてカニさん分隊と不知火の活躍ぶりに歓声を上げていた。

 応援の声はプラウダとファークトを上回りつつあった。

「みんな大洗を応援しています」

「反感ビーキと言う事かしら」

 オレンジペコとダージリンも少々驚きつつあった。

 彼女たちも大洗寄り応援しているのは確かだった。

 

 

 痺れを切らしたカチューシャが逃走する大洗を追いかけながら文句を漏らしていた。

「何やってんのよ!あんな低スペック集団相手に!全車両で包囲!」

「こちらフラッグ車!フラッグ車もすか?」

「アホか!あなたは冬眠中のヒグマ並みにおとなしくしてなさい!」

 カチューシャは帰ってきた返答にまたも怒りを露わにいていた。

「ノンナ、そっちで葛城凛祢は屠ったのか?」

「いえ、アルベルトの言っていた歩兵は単独で行動しているのか。私の部隊は対峙していません」

「葛城は本隊に合流するため、いち早く動いたのだろう」

 合流するために移動していたノンナは先ほどの事を思い出し返答した。

「まだ生きてるってことか。いつまでも隠れているようなら無理やりにでも引きずり出してやる。エレンはそのままT54地点!」

「了解」

 エレンは車内に横たわる大口径ライフルに目を向けた。

 

 

「麻子さん。2時が手薄です!一気に振り切ってこの低地を抜け出すことは可能ですか?」

「了解。多少きつめにいくぞ」

「あんこう2時、展開します。フェイント入って難易度高いです。頑張ってついてきてください」

 あんこうから通信が入る。

「了解ぜよ!」

「大丈夫?」

「大丈夫!」

「マッチポイントにはまだ早い!気引き締めていくぞ!」

「「「おー!」」」

「頑張るのよごもよ!」

「わかったよそどこ」

 それぞれの操縦手が返事をして操縦ハンドルを握る。

「なんなの?ちまちま軽戦車みたいに逃げ回って!機銃、曳光弾!砲弾はもったいないから使っちゃ駄目!」

「砲兵部隊も接近するまでRPGは撃つな。確実に命中できる距離までは機銃射撃で牽制!」

 カチューシャとアルベルトの指示に合わせてばら撒かれる数百発の銃弾。

「……!」

 みほが振り返ると銃弾が天空を舞っていた。

「見えたぞ」

「カモさん、シラサギさん敵は何輌追ってきてますか!?」

「敵戦車は6輌です!」

「駆動車も同じく6輌です!」

 後方を望遠鏡で覗く緑子と青葉。

「ぐっ!ぐわぁぁぁ!」

「青葉!」

「だ、大丈夫です……望遠鏡を壊されただけです」

「馬鹿!そんな状態で!」

 流れ弾で望遠鏡を破壊された青葉は思わず目元を両手で押さえて悲痛の声を上げた。

 赤羽が顔を覗くと目元は赤く腫れ上がっている。

「大丈夫、ですから……進んでください!」

 青葉は痛みに耐えて進むよう促した。

「カバさん、ヤブイヌはあんこうと一緒に坂を上った直後にやり過ごしてください!主力がいないうちに敵フラッグ車を叩きます!ウサギさんとヤマネコ、カモさんとシラサギさんはアヒルさんとオオワシを守りつつ前進を続けてください。この暗さに紛れるためなるべく打ち返さないで!凛祢さんと合流後は指示に従ってください」

 みほの指示通りⅣ号とⅢ突、ヤマネコは坂を越えてすぐ左右に転回ていく。

 そして、残りの大洗連合は前進を続けて行く。

 それを追うようにプラウダ&ファークト連合の車両が追撃に向かう。

 大洗連合が目指す遥か前方では先回りしていた凛祢の姿があった。。

「こちら凛祢!アヒルさんとオオワシを確認」

「了解です!葛城隊長のところまであと400メートルだよ!根性で行くぞ!」

「「「はい!」」」

 雪原にヒートアックスを仕掛け、優花里から借りた折り畳みスコップで掘った雪洞内で凛祢は身を隠していた。

 正直、地面に仕掛けたヒートアックスではプラウダの戦車をすべて倒すことは難しいだろう。

 だが、やるしかない。

「追え追えー!」

「2輌ほど見当たりませんが……」

「そんな細かいことどうでもいいから、永久凍土の果てまで追いなさい!」

「こちらエレン。あと1分でT56に到着します」

「よし」

 アルベルトは空になっていたナガンに銃弾を1発ずつ装填していた。

 

 

 本体と別れたⅣ号とⅢ突は敵フラッグ車を討つために雪原を進んでいた。

 キューポラから全身を乗り出していたみほは辺りを見渡す。

 再び車内に戻ると通信機を手に取った。

「塁さん、翼さん。偵察に出てもらえますか?」

「了解です」「了解」

 みほの通信の後、ジープから降りた塁と翼はそれぞれ偵察へと出ていく。

 俊也がハンドルを握り、ジープは再び走り出す。塁と翼を背に去って行く。

「塁どうする?」

「高い所から偵察を……あそこがいいかもしれません」

「わかった。行くぞ」

 塁の指さす方を確認すると高い塔の姿があり、2人は急ぎ足に歩いていく。

 

 

 

 大洗連合を追いかけるプラウダ&ファークト連合を追いかけるように1輌の戦車IS-2とドラグノフ装備の狙撃部隊を乗せたGAZ-47が現れる。

「遅れてすみません!こちらIS-2ただいま合流しました!」

「同じく狙撃部隊も」

「きたー!ノンナ変わりなさい!」

「はい」

 更に増援と合流して再び士気を上げるカチューシャ。

 

 

 走行不能となり陣地に運び込まれていたカメさん、カニさん、オオカミさんはスクリーンに目を向けていた。

「やってくれるでしょうか?西住と葛城は」

 桃が呟くと

「うう……」

「照月ちゃん大丈夫?」

 ようやく目を覚ました英子は体を起こして頭を抑える。

「……し、試合は?」

「まだ、決着はついてない。あいつらもなんとか食らいついてるみたいだ」

「そう……」

 英子も心配そうにスクリーンに視線を向ける。

 

 

 塔の鉄梯子を上り、頂上にたどり着くと翼はバリスタを構えてスコープを覗いた。塁も双眼鏡で辺りを見渡す。

 北、東、南……とそこで小屋に隠れた敵戦車の姿を確認する。

「みほ隊長、塔を中心として南に敵戦車発見。他に戦車は見当たらないようだからおそらくフラッグだ」

 翼は報告して随伴歩兵の数を数えていく。

 

 

 IS-2に乗り換えたノンナは車長ではなく砲手として照準器を覗いていた。

 狙いをつけるとトリガーを引く。

 放たれた砲弾はフラッグ車である八九式の傍の地面を抉った。

 衝撃が八九式の車内を揺らす。

「なんなのよあれ!校則違反よ!」

「そうですよ!校則違反ですよ!」

 緑子に続くように青葉が叫んだ。

「アーサー!亮!作戦通り行くぞ!」

「ようやくか!」

「いつでもいけます!」

 凛祢の通信に2人が返答すると同時に起爆スイッチを押した。

 仕掛けていたヒートアックスが起爆し、次々に爆発していく。

「なに!?」

「なっ!」

 ヒートアックスは真上を走行していたT-34/85、GAZ-47をそれぞれ1輌行動不能。T-34/75、1輌の転輪を破壊し走行不能にさせた。

「やった!」

「さっすが葛城隊長!」

 典子と辰巳も後方を確認しガッツポーズをした。

「ヤマネコ行くぞ!」

「はい!」

 爆発の混乱に準じてワニさんとヤマネコの駆動車は円を描くように左右に展開していく。

「「必殺!くるりん作戦!」」

 左右から挟み込むように敵の駆動車に突っ込んで行く。

 アーサーと亮の声に合わせてワニさんの3人とヤマネコの5人が放った銃弾は残存するGAZ-47の内、1輌の車内に降り注ぐ。

 車内にいた歩兵はひとたまりもなく戦死していく。

「よし、シャーロック!」

「白兵戦ならこっちが上だ!」

 跳躍したアーサーとシャーロックは着地後、戦死判定を受けていない敵歩兵へと向かって行く。

「「……」」

 車内から飛び出したアルベルトが笑みを浮かべるとエレンも無言でライフルの引き金を引いた。

 大口径ライフルから放たれた銃弾は雪空の戦場へと飛んで行く。

 次の瞬間、アーサーと凛祢は驚きを隠せなかった。

 敵の狙撃を受けたシャーロックの体は十数メートルも吹っ飛ばされたからだ。

 すぐに戦死判定のアラームが響いた。

 それは明らかにドラグノフの狙撃によるものではない。

「なんなんだ、今の?」

 アーサーも反射的に刀剣を盾にするように体の前で構える。

「……無駄です」

 弾薬ケースから取り出した次弾を1発装填し、再び引き金を引いた。

 放たれた銃弾はアーサーに向かって飛んで行く。

 金属を砕くような豪音が響いたかと思えば、アーサーの体は力なく地面を転がって行く。制服から戦死判定のアラームも鳴っていた。

 地面に落ちた銃弾に目を向ける。それは14,5㎜弾だった。

「この威力と弾薬はまさか……で、デグチャレフ!?」

 凛祢は驚きの表情を浮かべて狙撃方向に目を向けた。

 そう、エレンの構えていた銃は対戦車ライフル『デグチャレフ』だったのだ。

 その威力はⅣ号の装甲でさえも貫通する威力を持っている。

「アルベルト!まさかデグチャレフを使ったの!?」

「悪いがここからは俺たちのやり方でやらせてもらう……ようやく決着をつけられるな、葛城!中学の時は勝ち逃げされたようなものだからな」

「アルベルト……こんな時に!」

 駄目押しするようにアルベルトが数メートル先に現れる。

 凛祢は最悪の状況に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。




気が付けば今回も本編が長くなっちゃいました。
申し訳ありません。
プラウダ戦は話を切る場所が難しいですね。
今回、最後に登場したファークトの秘密兵器は対戦車ライフルデグチャレフでした。
質問や意見も募集中です。
では、また次の地を駆ける歩兵達で!
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