ガールズ&パンツァー~地を駆ける歩兵達~ 作:UNIMITES
前回の投稿からまた一か月ほど経ってしまいました。
4月がもう終わりますがようやく私のリアルも落ち着いてきました。
継続戦も後半です。
では、どうぞ
大洗連合の戦車と継続&冬樹連合の戦車は互いに行進間射撃で戦闘を開始していた。
戦闘が始まる中、凛祢はⅣ号に掴まり、後方に視線を向けていた。
これまでの戦闘で凛祢は装備していた武器をほぼ使い果たしていた。
凛祢にとって唯一の銃、ブローニング・ハイパワーDAの予備弾倉は残り3本。手榴弾は1つ。そして、工兵にとって最強の武器であるヒートアックスは4個。
残りのヒートアックスで確かにフラッグ車を倒せるが、それもギリギリの数なので無駄撃ちはできない。
だが、やるしかない。勝つにはそれしかないのだから。
「……」
凛祢は1度深呼吸をした後、亮に通信を送る。
「亮、アンクは確かに黒鉄中学出身だが、あいつは自分より弱い敵を相手にすると慢心する癖がある。そこを突けば勝機はある……任せたぞ」
「はい!必ず勝って見せます!」
亮は強気に軽く頷いた。
正直、亮は……いや、ヤマネコ分隊の3人が協力してアンクに挑んだとしても勝利するのは難しいだろう。
アンクだってそれなりの腕を持っている。望めば、黒森峰にだって入学できたほどに。
BT-42の車内ではミカがカンテレで演奏を始めていた。
ミッコがⅣ号と38tを発見し、速度を上げていく。
「フラッグ車および随伴の戦車を発見したよ!凛祢君もいる」
「先にあのⅣ号を走行不能にしておくべきだね……アキ、装填をいつもより早く!」
「わかった」
瞼を閉じて演奏するミカが指示を出すとアキが頷き、ミッコも唇をなめるように舌を出して見せる。
「アンク、ミッコ!相手はあの凛祢だ、油断するなよ」
「はい!」
「分かってるって!」
凛祢をよく知る2人だからこそ、凛祢の思考と動きはよくわかっている。だが、それが油断につがらないとは限らない。
司とアンクもアイコンタクトを取るとⅣ号と38tの後を追って行く。
「こちらⅣ号。敵のフラッグ車を引き付けました」
「……」
みほの通信と同時に凛祢の視線が走行するBT-42と司たち歩兵が搭乗するジープの姿を確認する。
Ⅳ号も後方に向けて砲撃するがBT-42は回避し、距離を縮めていく。
「みんな行くよ!」
「任せて!」
「あい!」
「いくぞ!」
梓の指示で動き出すM3とヤブイヌ分隊、ヤマネコ分隊、カニさん分隊。
BT-42とジープの後方から現れると、砲撃を開始する。
「……ミッコ!」
「フッ!」
ミカの凛とした声を合図にBT-42はドリフトするように車体を傾ける。
流れるように軽やかな動きで車体が後方を向く。
「アキ!」
「はい!」
アキがレバーを引くとBT-42から砲弾が吐き出される。
「なっ!」
「まず!」
砲弾は数秒でM3に着弾する。
瞬時に行動不能を告げる白旗が上がった。
「くらえ!」
雄二もMGL-140を構え、1発撃った。
榴弾が放たれたと同時にMGL-140はその回転式弾倉を回転させる。
弾頭は緩い弧を描きながら、ほぼまっすぐに飛んで行く。
「そんな攻撃……」
司は落ち着いてスコープを覗き込み引き金を引いた。
銃弾は向かってくる弾頭とぶつかり、弾頭は誘爆する。
「ぐっ!」
「うっ!」
爆風を受けて、ヤブイヌ分隊とヤマネコ分隊の搭乗するジープ2輌が大きく揺れる。
「英治、翼くん。ジープの転輪を狙えますか?」
「なんとか」
「やってはみるが……」
宗司が視線を向けると英治はスコープを覗く。翼も同じようにスコープ越しに見つめる。
「司、あっちの駆動車を潰せば動きを制限できるが、どうする?」
「そうだな……やろう」
冬樹学園の歩兵の1人が問い掛けるが、司はスコープを覗いたまま短く返答する。
「ちっ!さすがはミカ……M3をあんな一瞬で走行不能にするなんて」
凛祢はⅣ号に掴まったままBT-42を見つめると、再びこちらを向くBT-42の正面窓からミッコの顔を確認する。
ミッコが笑みを浮かべると、凛祢も無意識に笑みを浮かべた。
「凛祢さん、どうしたんですか?」
そんな表情を見て、キューポラから上半身を乗り出していたみほが首を傾げる。
「やはり、歩兵道はいいものだと思ってな……」
かつて自分はこんな戦場を駆けていたんだな、仲間と共に……。
凛祢は昔を思い出すと再び後方に視線を向ける。
敵は、継続&冬樹連合は徐々に距離を縮めていた。
「ふう……あと2輌か」
「ミカ?大丈夫?」
BT-42の車内でミカは瞼を閉じて涼しい顔を浮かべているが、一筋の雫が頬を伝っていた。
そんな様子を見て、アキが心配そうに声をかける。
するとミカはカンテレを鳴らしたまま笑みを浮かべた。
「なんでもないよ……少し疲れただけさ」
「アキー、ちょっと飛ばすよ……」
ミッコはアクセルを踏み込むと速度を上げる。
それと同時にお互いの駆動車の転輪が勢いよく吹っ飛んだ。
「「「ぐっ!」」」
地面を抉る音と振動を与えながら共に駆動車たちはその車輪を止めた。
「なっ!みんな!」
凛祢もその状況を確認し、驚きの表情を浮かべる。
「「考えることは同じってことか……」」
司と英治が呟いた。
「結局、俺の相手はあんたたちすか」
「……ああ」
アンクの前に亮、礼が立っている。
そして司や他の歩兵たちも大洗連合を相手にしていた。
「散開!」
司の声が響き射撃戦を開始する歩兵たち。
一方、ルノー、Ⅲ突、ポルシェティーガーおよび歩兵小隊はKV-1および歩兵部隊を相手にしていた。
「戦力としてはこちらが有利だ」
「なら、さっさと走行不能にして葛城隊長たちの元に行くよ」
「油断するな……有利と言ってもこちらだって無傷で戦場に立っているわけじゃないんだ」
戦力的有利を再び得ていた大洗の中でも、笑みを浮かべて引き金を引いたワニさん分隊の景綱とジルを横目にアーサーは周囲を警戒していた。
「塁ちゃんよ」
「なんですか?」
「そろそろ残弾が切れんだけどどうする?突撃しちまってもかまわんかね?」
「え……?」
不知火がスコープを覗きながら呟くと、塁は耳を疑うように視線を向ける。
その表情は凍り付いていた。
「何でもっと早く言わないんですか!」
「だ、だってよ!残弾ないんだからしょうがないだろ!」
「ないならないで、部隊を分ける時に教えてくださいよ!」
塁も思わず大声で叫ぶ。
それもそのはずだろう。B小隊の中でも狙撃兵なのは不知火だけだったからだ。
タイガーさん分隊のヒムロも狙撃兵寄りの突撃兵であるとはいえ、翼はおろか不知火ほどの狙撃の腕もなかったのだ。
「どうするんですか!?」
「だから突撃するって言ってんだろ!」
「僕たちが突撃したらすぐに蜂の巣にされるのは目に見えてるじゃないですか!」
「うるせー!先輩に文句つけんなー!」
不知火は勢いのまま塁の頬を殴りつける。
塁は盛大に地面に倒れ込む。
「な、殴りましたね……!凛祢殿にも――」
「ああ、殴って何が悪い!じゃなくて……いいからお前の銃貸せよ」
「うう……不知火殿、酷いです」
「何とでもいいな。1度近接で戦ってみたかったんだよ」
不知火は塁のFALと予備弾倉を奪い取る様に腰のマガジンケースにしまうと突撃準備に入る。
塁も、FN FiveseveNを手に移動し始めた。
その時だった。発砲音が響いた数秒後にⅢ突が急停止する。
「おりょう、止まるな!」
「違うぜよ!急に動かなくなって!」
「まさか……履帯をやられたのか?」
エルヴィンやカエサルもⅢ突が動きを止めたことに焦りを見せる。
続けて砲撃の轟音が響き渡り、走行不能を告げるⅢ突から白旗が上がっていた。
「「なに!?」」
「これは……九七式の時と同じ!」
カバさん分隊の3人も思わず足を止める。
その隙を狙うように数人の突撃兵が現れた。
「おい!ぼーっとすんな!さっさと逃げろ!」
不知火が通信を送るが、ジルと景綱は銃弾の雨を浴び、戦死判定のアラームを鳴らしてその場に倒れる。
アーサーも被弾こそしたもののなんとか木陰に身を隠し、生存していた。
しかし、敵との距離が近くいつ襲われてもおかしくなかったのだ。
「……悪いが俺は司と違って安全な場所から敵を狙い撃つのが好みでな」
対戦車銃『ラハティL-39』を構えるヴィダールは笑みを浮かべて次の目標であるルノーへと狙いを定める。
冬樹学園の歩兵たちの中でも数少ない対戦車銃を操る歩兵であり、隊長であるヴィダールの得意分野は中距離から長距離までの狙撃であった。
昔から狙撃兵としてその腕を磨いてきた彼もケンスロットやメッザルーナと同じく相当な実力者である。
「ねぇ、不知火くんー?」
「んあ?なんだ!」
「敵の狙撃兵君をどうにかしないとあっという間に戦車も僕たちもやられちゃうんだけどー」
「分かってるよ!でも……」
ヤガミからの通信に不知火は頭を働かせ考える。
敵はこちらからは発見できない位置から確実に狙い撃ちしてくる。しかし、不知火たちは翼や英治のように長距離狙撃の腕はない。
そう、射程外から狙われれば手出しはできないのだ。
なら、どうする?射程外から撃って来るなら、こちらの射程内に入る様に接近すればいい!
不知火は視線をさきほどⅢ突の履帯を撃ち抜いた銃弾が放たれた方向へと視線を向ける。
「フッ……アーサー、ヤガミ、ヒムロ!突撃行くぞ!俺に続け!」
「「「え?」」」
一気に駆ける不知火を見つめるアーサーとヤガミ、ヒムロ。
先ほどジルと景綱を屠った歩兵をFALを発砲して屠っていく不知火は足を止めることはない。
「さっさとしろ!」
「何言ってんだ!このアホ!無理に決まって――」
「うっせー!いいから続けって言ってんだ!」
ヒムロの制止を無視するように不知火はFALの引き金を引きながら駆けていく。
「はー。ヤマケンこっちの援護お願い!」
「ったく。あの人もなかなか無茶を言ってくれる!」
ヤガミとアーサーはため息をつきながらも続くように駆けだす。
「だー!どうなっても知らねーぞ!」
ヒムロはやけくそになったように後を追う。
「ちょっと!不知火くん!?何してるのよ!」
「おっと、あぶな!」
「緊張感あるねー」
緑子が通信を送るが不知火たちは返事をすることなく森林の奥へと消えて行った。
KV-1の砲撃を回避したポルシェティーガーの車内でナカジマとツチヤが思わず呟いた。
「ヤマケン殿、僕たちも行きましょう」
「了解でーす」
塁とヤマケンはポルシェティーガーを追いかけるように駆けていく。
森林を進む不知火たちは次々に現れる敵歩兵を狙い撃ちながらジグザクに奥へと進んで行く。
「おい、不知火!本当にこっちに敵の狙撃兵がいるのか!?」
「ああ、しっかり確認してから来たからな!」
「それってお前の主観じゃねーか!それに敵が狙撃兵なら俺たちだって辿り着く前に狙撃でやられちまうだろうが!」
不知火の勝手な言葉にヒムロは思わず叫ぶと――
甲高い音が響き渡った。
予想通り、森林内の奥で敵が発砲したのだ。
「……あっぶねー」
1発の銃弾が不知火の右に立っていた樹木を貫通していく。
「……そういうことですか」
「あ?」
「ん?」
アーサーが頷くとヤガミとヒムロだけがわからないと言わんばかりに周囲に視線を向ける。
「動き回る俺たちと邪魔な樹木があれば射程内まで近づくことは難しくねーってことだ!」
動きを予測されれば終わりなんだけどな……。
不知火たちは確実にヴィダールとの距離を縮めていた。
しかし、ヴィダールもその引き金を引き続けた。
放たれた銃弾がアーサーの胸を撃ち抜き、戦死判定のアラームが響く。
「ぐっ!」
再び放たれた銃弾が次はヒムロの右太ももを撃ち抜く。
「ぐあ!」
ヒムロは痛みに思わず膝をついた。不知火も声を掛ける。
「馬鹿!止まるな!」
「いいからすすめ――」
とどめをさすようにヒムロの左肩に銃弾が命中し、戦死判定のアラームが響き渡る。
「まさか、狙撃兵を相手に突撃してくるとは……でも、あと2人くらいならどうにかするしかないか。近接戦闘はそこまで慣れてないんだけどな」
ヴィダールはラハティL-39を置いたまま立ち上がると、近距離戦闘の準備へとかかる。
そして3分も経たないうちに不知火、ヤガミは森林を抜けた先で冬樹学園隊長であるヴィダールの前に立った。
「見つけたぜ!狙撃野郎!」
「本当にいた……」
「信じてなかったのかよ!」
不知火が勝ち誇る様に叫ぶと、ヤガミは少し驚きつつもキャリコM950の銃口を向けた。
ヴィダールは何も言わぬまま副武装であるH&K MP5を構える。
「英子さんたちの仇を討たせてもらうぜ!」
「……」
不知火の叫びを合図にヴィダールは引き金を引いた。
次々に吐き出される銃弾。
反射的に2人は左右に分かれる。
「作戦はあるの?」
「あいつを……やっちまうのさ!」
不知火の持つFALとヤガミの持つキャリコから放たれる銃弾は次々に空を滑り、ヴィダールの元へと向かって行く。
しかし、ヴィダールは走り回り銃弾を回避していく。
「あたらないなぁ。なら、コンテンダーのほうで!」
「……!」
ヤガミが懐に手を伸ばすのをヴィダールは見逃さなかった。
数発の発砲音と共に不知火とヤガミは驚きを隠せなかった。
懐から引き抜いたコンテンダーの銃口を向けようとした瞬間、MP5から放たれた数発の銃弾がコンテンダーを後方へと吹っ飛ばしたからだ。
「ぐぅー……」
「フッ……」
ヤガミは右手に走る鋭い痛みに表情を歪ませる。
再びヴィダールが笑うとMP5をヤガミに向けようとする。
「くっそー!」
不知火は声を上げて一気に駆けだした。
そんな不知火に気づき、ヴィダールはゆっくりとMP5を向けると数発発砲する。
不知火は手足を被弾し、FALを地面に落とした。
その場に倒れ込む。
「不知火くん!えい!」
「……」
腰のホルスターから引き抜いたコンバットナイフを振るがヴィダールもコンバットナイフを手に防御する。
ヤガミが何度も攻撃を仕掛けるがヴィダールは涼しい顔ですべて捌いていた。
「うおー!――かは!」
声を上げた時、ヴィダールはヤガミの腹部に蹴りを入れた。
ヤガミは痛みに耐えきれず、背中から地面に倒れ込む。
「終わりだな……」
「オラ―!」
不知火は立ち上がり再び駆けだすと、ホルスターから抜いた自動拳銃『SIG SAUER P220』の銃口を向けると数回引き金を引いた。
ヴィダールも不知火の存在に気づくが2発被弾する。
瞬時にMP5を不知火に向けようとするが、その手から銃が弾き飛ばされた。
「なにっ!?」
「えへ……」
上半身を起こしていたヤガミがキャリコを発砲し銃を弾き飛ばしたのだ。
「だらっしゃー!」
「だっ!?」
拳銃を持ったままヴィダールの腰に手を回した不知火は勢いのままタックルする。
体制を崩し、後方の坂を滑り落ちていく。
「不知火くん!」
ヤガミも急いで追うように坂を下っていく。
転がる様に坂を滑り落ちて行った2人はそのまま投げ出されるように増水していた川底へと落下して行った。
走行不能となり回収されていた八九式と九七式。
英子たちはスクリーンに映る戦いを見つめていた
「不知火……!」
「まさか衛宮くんがあそこまでするなんて……」
秋月も素直に不知火の戦いに驚いていた。
「すげぇな、不知火先輩」
「あんな強い相手に一歩も引かず、向かって行くなんて」
そして、戦死判定を受けていた辰巳や漣も驚いた表情を浮かべていた。
その頃、アンクは亮と礼を相手に戦っていた。
「は!」
「ぐっ!」
アンクはコンバットナイフを振る。
亮もなんとかコンバットナイフで防御するが、何度も繰り返される攻防でその体は疲弊していた。
そんな隙を見逃すはずもないアンクだが、礼の援護がそれを阻んだ。
「邪魔だよ!」
片手でRK-42を持ち、引き金を引いた。
安定しないまま放ったものの銃弾は礼に数発命中した。
それでも礼を屠るには十分だった。
戦死判定のアラームが響き、礼はその場に倒れ込む。
その隙をついて、亮が弾切れのトンプソン・サブマシンガンの砲身を握り鈍器の如く振り下ろす。
「だー!」
「きかないっての!」
ナイフで攻撃を受け流すと、カウンターするように亮の横っ腹を蹴り飛ばす。
腹部に受けた鈍い痛みを感じて倒れ込んだ。
「うう……」
「手間取らせてくれたね」
アンクは吐き捨てるように言うと振り返り歩き出す。
亮は腹部に感じる痛みに耐えるように奥歯を噛み締める。
「ここで立たなきゃ……何も変わらない!」
左手が何かに当たる。
トンプソン・サブマシンガンが左手に振れたことに気づいた。
腰のマガジンケースから予備弾倉を引き抜き、交換して発砲可能にする。
「……せめてあいつでも屠ってやる!」
亮は上半身を起こし立ち上がるとリアサイトに目を近づける。
そして、引き金を引いた。
「なっ!」
発砲音に気づきアンクは振り返るが連続して放たれた銃弾は胸元に命中していった。
距離が20m以上離れていたものの、弾倉が空になるまで撃ち続けたことで装弾数の半分以上は被弾した。
それでも、アンクを屠るには十分な量だった。
「う、そ、でしょ……」
アンクは膝から崩れるように地面に倒れた。戦死判定のアラームを鳴らして。
「ちゃんと屠ったかどうかくらい確かめな……」
亮もやり切ったように仰向けに倒れた。
「後は先輩たちに任せます」
肩で息をしたまま右に視線を向けると、うつ伏せに倒れていた礼も親指を立てていた。
「アンクがやられただと!?」
「馬鹿!避けろ!」
「え?――ぎゃー!」
投擲された手榴弾の爆発で狙撃兵の1人を屠った俊也が駆け出す。
敵歩兵の使っていたラハティL-39を掴み取り、再び駆け出した。
「ちっ!」
次々に戦死していく仲間たちを見て焦りを見せる司は対峙していた八尋に視線を向ける。
「へっ!俺たちだって必死なんだよ!」
八尋はP90の引き金を引くと銃弾が吐き出される。
しかし、森林の木々に隠れていた敵を狙い撃つのは困難だった。
「くっ!俺たちが……負ける?」
「嫌だ……」
司は短く呟いた。
「司?」
「負けられないんだ!」
「なら、戦死するその瞬間まであがいてやろうぜ!」
司と歩兵たちは覚悟を決める。
「司、まずいぞ!敵の歩兵がBT-42の後を追ってる!」
「司、お前がいけ!」
「こっち任せた!」
司もBT-42とⅣ号、38tの向かった方へと駆け出す。
「ほらよ!」
「おっと、投げるなよ……」
俊也はラハティL-39を翼に向けて投げると翼も両手で受け取る。
「本当に敵の銃を奪ってくるとはな」
「いいから、さっさと行くぞ!あのBTなんとかって戦車は動きが他とはちげぇからよ」
「わかってる」
合流した2人は再び走り出す。
「行かせるか!」
「あいつは!」
翼が驚いたように後方に視線を向けるとその先にはこちらを追いかける司の姿がある。
「翼、いけ!」
「わかった!」
翼が再び駆けだすと俊也は司の方へと駆け出す。
お互いに主武装の銃は弾切れ。残るは副武装の拳銃とナイフしか残ってはいなかった。
「まったく、CQC戦闘はきついぜ」
俊也がFiveseveNを引き抜くと司もブローニングハイパワーを引き抜いた。
CQC戦闘では突撃兵である俊也に有利だと思われたが結果は違った。
司は狙撃兵であってもCQC戦闘に慣れている。
それが萩風司という男だった。数回の攻防でそれは明白。
一方的な戦闘だったが俊也はまだ立っていた。
「いってーなー」
「まだ、立つのか……」
司はうんざりと言わんばかりに表情を歪ませる。
そんな中、翼がようやく狙撃地点に到着した。
「……さぁ、チャンスはたった3発。ったく俊也の奴これじゃあぶっつけ本番じゃないか……」
ラハティL-39を地面に置いてスコープを覗く。
スコープの数十m先でⅣ号とBT-42が交戦しているのを確認する。
「こちら、翼。いつでも狙える」
「……みほ、頼んだ」
凛祢が短く呟く。
するとみほはキューポラを閉じて車内に戻る。
「はい、麻子さん」
「わかった……」
みほの合図で麻子も頷いた。
勝負は一瞬。この一撃にかける。
「当たれ!」
翼が引き金を引くと放たれる銃弾。
その時ミカが瞼を開いた。
「ミッコ、ブレーキ!」
「……!」
ミカの凛とした声にミッコが車体を操作する。
またもドリフトするように車体が動き、180回転して銃弾を回避した。
翼がラハティL-39で放った銃弾は地面にを抉っただけだった。
「なに!?」
「華さん!」
「後退!」
みほの声で華がトリガーを引くと、Ⅳ号が砲撃。
ほぼ同時に凛祢がⅣ号から跳躍した。
しかし、同時にミカが声を上げるとBT-42はそのまま後退したことで砲弾を回避した。
その瞬間、翼とみほだけでなくⅣ号車内にいた全員の表情が凍り付いた。
隣に停車するBT-42の砲塔はⅣ号の側面を向いている。
もはや必中の距離であった。
「え?」
照準器を覗くアキは思わずそんな声を漏らした。
Ⅳ号の砲塔にはあんこうチームを現すエンブレムが描かれている。
しかし、アキの覗く照準器の先にはそのエンブレムを覆い隠すように何かがへばりついていた。
橙色のそれは、アキにも見覚えはあった。
そう、ヒートアックスだった。
「アキ、トュータ(撃て)!」
「これで……最後だ」
ミカが声を上げるとアキはトリガーを引いた。空を舞う凛祢も手に握っていたリモコンのスイッチを押した。
2つの轟音が響き渡り、砂埃が舞い上がる。
ヒートアックスの爆風は跳躍して空にいた凛祢の体を容赦なく吹き飛ばした。
爆風を受け、地面に落ちてからもその体は投げ着けられたように地面を転がった。
すぐに凛祢の特製制服から戦死判定のアラームが響き渡る。
俊也と対峙していた司は轟音を聞き、ゆっくりと銃を下ろした。
「はぁ、はぁ」
「決着が着いたようだ……」
肩で息をする俊也は地面に伏せていた。
観客席には数秒間の沈黙が走っている。
「どうなったの、かな?」
「わかんないけど……」
風香の問いに華蓮は、そう答える事しかできなかった。
「うう……あ!」
体中に走る痛みに耐え、視線をゆっくりとⅣ号とBT-42の方向へと向けた。
砂埃が晴れ、ようやく2輌の状態を確認する。
Ⅳ号、そしてBT-42からは同じ白旗が上がっていた。
「Ⅳ号、BT-42共に走行不能!フラッグ車走行不能により大洗連合の勝利!」
そのアナウンスが響き渡ると、観客席から大きな歓声が上がる。
「勝ったの……?」
「みたいだな……」
「私たち勝ちました!」
「勝ったんですよ!」
「うん!」
Ⅳ号車内でもそれぞれが喜びの声を上げる。
「いやー負けちゃったかー」
「あれはどうやっても避けられないよー」
「……」
BT-42の車内でもミッコやアキが残念がっていたものの、ミカはやり切ったような表情を浮かべカンテレを短く鳴らした。
「凛祢さん!」
キューポラを開き飛び出したみほは、凛祢の元へと駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
「なんとか……」
凛祢は短く答えるとゆっくりと体を起こし、みほに視線を向ける。
森林内を流れる川の下流で不知火は陸へと這い上がる。
横には冬樹学園の隊長、ヴィダールの姿もあった。
2人とも水を飲み込んでしまい、激しく咳き込んでいる。
「不知火くん!」
「げほ!……ヤガミ、か」
目の前に現れたヤガミを確認する。
「試合は僕たちが勝ったよ!」
「そうか、ならよかった」
不知火は仰向けに空を見上げる。
「にしても、よくこっちの人も引っ張り上げたね」
「船舶科は大体の奴が泳げるからな。逆に普通科はかなづちが多いんだよ……」
「……かなづちで悪かったな」
不知火がやれやれと呟くと不意にそんな声が返答する。
「うお!狙撃野郎……起きてたのかよ」
「ああ、先ほどな。試合ではウチが負けたみたいだな。敗北は受け入れるさ」
「素直だね」
ヤガミは思わず呟く。
ヴィダールは体を起こして濡れた制服に手を当てる。
「負けたことをいつまでも拗ねるのは性に合わないからな。おっと、そろそろ陣地に戻らなければな」
「そうだった。不知火くん僕たちも行くよ!」
「おう……ヴィダール、だっけ?いつか再戦しようぜ」
「いつか、また」
ヴィダールと不知火はそんな約束を交わすとゆっくりと別々の方向へと歩き出す。
陣地に戻った凛祢たちは再び歓喜の声を上げていた。
「まさか、最後に西住ちゃんがあんな捨て身な技を仕掛けるとはねぇ」
「あ、それなんですけど……」
「「「えーー!あれって作戦じゃなかったんですか!?」」」
みほの説明に思わず大洗連合の生徒たちが声を上げた。
「凛祢さんがヒートアックスを使うとは聞いていたんですけど……」
「凛祢、お前なぁ……」
「勝ったんだからいいじゃねぇか」
雄二が鋭い視線を向けるが、俊也が呆れたように返答した。
「そのためにⅣ号諸とも爆破する奴があるか!」
「それでも勝ったじゃないですか……俺の狙撃だって回避されてしまいましたし、どちらにしても凛祢の判断は正しかった」
「まぁ、結果的には勝ったからな……」
雄二の隣にいた桃もしぶしぶ納得したように凛祢を見つめる。
「まあまあ、良いじゃねぇか。俺たちが勝って決勝進出したんだから!」
「そうですよね」
不知火と亮が話の間に入る。
今回の戦いで2人はそれぞれの強敵と対峙した。
勝敗を勝ちと呼べるのかは分からない結果だったがであった2人は成長したのだ。
「決勝か……」
「決勝戦……」
「「相手は黒森峰……」」
みほと凛祢が同時に呟いた。
決勝戦は凛祢にとってもみほにとっても、最も因縁のあるチームだった。
歩兵道界の西住流である黒咲聖羅と西住流家元である西住まほの2人。
それが最後の相手なのだから……。
試合が無事に終了し凛祢たちは、大洗学園艦に帰還していた。
学園艦内の銭湯には大洗連合の姿があった。
「ふぅー。やっぱ、勝利の後の風呂はいいもんだなー」
「本当ですよねー」
「いてぇ……」
「大丈夫か、俊也?」
ヤブイヌ分隊の4人も湯船に浸かり、疲れを癒していた。
そんな中、サウナにいた凛祢と不知火の前には冬樹連合の3人の姿があった。
「いやー銭湯が学生は無料だなんて太っ腹ですよねー」
「確かにな、冬樹学園にはこんな施設はないからな」
アンクとヴィダールはサウナを満喫していた。
「なぁ、司」
「なんだ?」
「答えたくなかったら答えなくてもいいけど。なんでお前たちはわざわざ冬樹に入学したんだ?司やアンク、ヴィダールさんだって、その腕があればファークト、黒森峰にだって行けただろう?」
凛祢は思わず質問を投げかけた。
ずっと気になっていた。実力がありながら……どうして彼らは冬樹学園へと辿り着いたのか。
「理由なんかない。俺はただ隊長ってのをやりたくなったから冬樹学園に来ただけだ」
「ヴィダール、お前マジかよ。そんな軽いもんなのか?」
「まあ赤山中学の時は、アルベルトに散々ファークトに来いって言われたけどね」
ヴィダールは笑みを浮かべていた。
「俺は聖羅の歩兵道を認めてはいない。あれが正しいとは思えなかった」
「俺だって黒咲先輩の歩兵道は嫌いだったから。だから司さんについて行こうと思ったんすよ」
「そうか……」
「おいおい、暗い話はやめよーぜ。俺たちはもう戦友だろ?」
凛祢たちの話に不知火は思わず声を上げた。
自分たちが暗い話をしていたことにようやく気づく。
「そうっすよ。司先輩、凛祢先輩!」
「悪いな……」
「そうだな。せっかく歩兵道という戦場で出会えたんだ、こんな話はやめよう」
アンクが立ち上がりそう言うと凛祢と司もお互いに笑みを浮かべる。
「あれ、葛城隊長は?」
「サウナで冬樹の連中と話してる」
「へー珍しいですね。他校がウチの学園艦の銭湯使うなんて」
アーサーと亮が返答した俊也の隣に座る。
「継続と冬樹の学園艦には銭湯なんてものはないらしい」
「そうなんですか?」
「戦車倉庫に屋根がないって話だしね」
「まじっすか!?」
英治と宗司が呟くと亮は驚いた表情を浮かべていた。
「あいつらも結構大変なんだな」
八尋は思わず呟いていた。
銭湯で汗を流した凛祢たちは継続&冬樹連合と別れるために再び本土の港にいた。
日は傾き始め、どちらの学園艦も出航の時間が近づいていた。
「凛祢」
「ミカ……?」
ミカは凛祢を見つめる。
「強き力は人を孤独にする……でも、君は少し違ったようだね」
「どういう意味だ?」
「……君は聖羅とは違う。彼とは違う強さを持っているってことだよ」
ミカはそう言い残して歩き始める。
凛祢は疑問を抱くようにその背中を見つめていた。
彼女が言っている力とは『超人直感』の事なのだろうか?
しかし、彼女もまた自分と同じ直感という才能を持っていた。
それは、あの戦いを見てすぐにわかった。
「ミカ――」
「そろそろ時間だよ」
凛祢が引き留めようとするがミカは出航時間であることを告げる。
「もう行くのか……」
「時間だからな」
凛祢を見て司も腕時計の時間を確認する。
ヴィダールやアンク以外にもアキ、ミッコの姿があった。
「凛祢くん。決勝は私たちも見に行くね」
「大洗の皆さんも頑張ってくださいね」
ミッコとアキも一歩踏み出してそう言った。
「じゃあ、また」
「ああ」
「ばいばーい」
「さよーなーらー」
ミッコとアキは最後までこちらに手を振り続けていた。
「アキさんは凄かったですね。砲手と装填手を1人でやられているなんて」
「はい!ミッコ殿もあの操縦テクはなかなかのものでした!」
「うんうん!彼女からはドライバーとしての魂を感じたね!」
「今度、一緒にドライブとかしてみたいなー。いっぱいドリフトして」
華や優花里以外にも自動車部の4人が試合の事を思い出して話に花を咲かせていた。
「じゃあ、俺たちも帰ろうか」
「はい」
凛祢とみほたちもいそいそと学園艦へ戻っていく。
学園艦に帰還した凛祢はみほを女子寮へと送り届け、自宅に帰宅した。
「疲れたな……」
今回のギリギリの試合であったことは明白であった。
こんな調子で本当に次の決勝戦で勝てるのだろうか?
凛祢はため息交じりに呟くと、布団に倒れ込む。
「まあ、次の事は明日から考えるか」
電気を消すと凛祢はすぐに眠りについたのだった。
今回も読んで頂きありがとうございます。
今回で継続戦は決着です。
時間がかかってしまって本当に申し訳ありません。
継続戦は原作にはないオリジナルだったのですが難しかったです。
準決勝に勝利し、決勝進出を決めた凛祢たちは次の対戦相手である黒森峰に勝つことができるのか?
次回は5月中には上げたいと思ってます。
意見や感想も募集中です。
次回もお楽しみに!