ガールズ&パンツァー~地を駆ける歩兵達~   作:UNIMITES

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いよいよ、葛城凛祢と西住みほが同じ戦場に立ちます。
二人はどんな思いで戦場を歩むのか?


第2話 歩兵疾走

 歩兵道の授業が始まる初日。

 横須賀学園の校庭にあるガレージには戦車道と歩兵道を選択した生徒達が立っていた。

「そんなボロボロでなんとかなるの?」

 明らかに古びて使い物にならなそうな戦車を見た沙織がみんなが思っていることを言った。

「多分……」

「ねえ、みぽりん。男と戦車は新しいほう方がいいと思うなー」

「それを言うなら女房と畳ではないでしょうか」

「同じようなものよ、それに一両しかないじゃん」

 自信ののなさそうに答えるみほ。

 彼女の友人である女子生が後に続きつぶやく。

 なんでも新しいものを欲しがるとはなんて贅沢な女だ。鞠菜曰く、新しい武器よりも使い慣れた武器のほうが扱いやすいし自身の能力を活かせるらしい。新型も使い慣れれば別だが。

「えっと、この人数だったら」

「全部で五両必要です」

 柚子が戦車道の人数を数え、桃が必要な車両数を答える。

「男子のほうは主武装(メインアーム)と副武装(サブアーム)だから」

「銃だけでも三十から四十丁ぐらいは必要だな。ナイフのほうも数はあまりないようだしな」

 宗司と雄二はガレージ内のコンバットナイフを数を数えながら言った。

 ガレージに放置されていた戦車は『Ⅳ号戦車D型』。短砲身の中戦車でありドイツ製だとみほが説明する。

 正直言って強い戦車と比べると弱いほうだ。ちなみに他にガレージ内に放置されていた武器は自動拳銃『ベレッタM92』が一丁と狙撃銃『Kar98K』一丁、黒塗りの『コンバットナイフ』が十二本、プラスチック爆薬『C4爆弾』が三つほど使えるだけだった。

「ってことは圧倒的に数が足りないわけか」

「うーん、じゃあみんなで戦車と武器探そっか」

 英治と杏の発言に全員が驚きを隠せずにいる。

「ええー」

「まあ、そうなるよな」

「探すって」

「どういうことですか?」

 次々にガレージ内に声が響く。

「我が校と大洗男子においては何年も前に戦車道と歩兵道が廃止になっている」

「だが、当時使用していた戦車と武器がどこかにあるはずなんだ」

「「いや、必ずある」」

 桃と雄二がそう言いながら当時の資料をこちらに見せてくる。 

「明後日、戦車道と歩兵道の教官がおみえになる」

「それまでに残り四両と銃を三十丁を見つけ出すこと」

 なんて無茶なことを言いだすんだこの生徒会は。そもそも戦車道と歩兵道を復活させると言いながら戦車と銃がないんじゃ始まらないだろうに、一体どういうつもりなんだ。

「して、一体どこに?」

「それがわかんないから探すの」

「すまない、実のところ手掛かりはない」

 赤マフラーを巻いた女子生徒の質問に帰ってきたのは情報なしという答え。

 杏はお手上げといった感じ、英治は深く頭を下げている。

「なんにも手掛かりないんですか?」

「それはきついですよ」

「ない!」

「杏会長、もうちょっと危機感をだな」

 英治が杏の発言に頭を抱えている。

「探す前に戦車道と歩兵道のメンバーの自己紹介をしましょう、お互い名前で呼び合えるほうがいいでしょうから」

 柚子が戦車道と歩兵道受講生徒の名簿を見てそう言った。

 確かに、いつまでもコミュニケーションが取れないのはこちらとしても不都合だ。

 数十分後、全員の自己紹介を終えてそれぞれ男女混合のチームに別れる。

 最初に葛城凛祢、先導八尋、坂上翼、坂本塁(さかもとるい)に西住みほ、武部沙織、五十鈴華、秋本優花里の八人、二年生チーム。

 次に円藤辰巳(えんどうたつみ)、九条漣(くじょうれん)、一ノ瀬淳(いちのせじゅん)、枢木迅(くるるぎじん)に磯部典子、佐々木あけび、河西忍、近藤妙子の八人、バスケ&バレーチーム。 

 次にアーサー、シャーロック、ジル、景綱(かげつな)にエルヴィン、カエサル、左衛門佐、おりょうの八人、歴史男女チーム。恐らく全員本名ではない。

 次に梅本亮(うめもとりょう)、黒田アキラ、葉山翔(はやましょう)、柿崎礼(かきざきらい)、沼倉歩(ぬまくらあゆむ)、城島銀(じょうじまぎん)に澤梓、大野あや、山郷あゆみ、宇津木優季、坂口桂利奈、丸山紗希の十二人、一年生チーム。

 最後に相川英治、石田宗司、緑間雄二に角谷杏、小山柚子、河嶋桃の六人、生徒会チーム。

「では、捜索開始!」

 すべてのチーム分けが終了したところで桃の鋭い叫びと共に生徒たちの「えー」と言う声が響く。

「おい、凛祢こんな話聞いてないぞ。お前、わかってたんじゃないだろーな」

「予想はしてた」

 八尋は凛祢の肩を掴み前後に揺らす。

「話が違うじゃねーか!歩兵道やってるとモテるんじゃねーのかよ」

「明日美人な教官がくるって英治会長が言ってたぞ」

「マジで?よし、やってやるぜ!ついでに女子にもいい所見せてやるぜ!」

 横から翼が止めに入った。八尋は「綺麗な教官」という言葉にいつもの元気を取り戻したようだった。

 隣では沙織と華が同じようなやり取りをしていた。

「行ってきまーす!」

「行くぜー!」

 八尋と沙織は早足でガレージを出ていく。

 あっちにも似たような人がいたか。まったく単純だな、あいつら。でも八尋と沙織、意外と気が合いそうだな。

 

 

「「とは、言ったものの」」

「どこにあんだよー!」「どこにあるっていうのよー!」

 八尋と沙織が駐車場で叫んでいた。

「車ってついてるから駐車場を探すとか安直すぎるだろ……」

「さすがに駐車場に戦車は止まってないかと」

 翼と華がもっともな結論を出した。

 八尋と沙織は落ち込んだような表情をしている。

「うーだってー」  

「しゃーねーな、山林のほうに行ってみるか」

「あー何とかを隠すには林の中っていうしね」

「それは森です」

 沙織の間違えにしっかりとツッコミを入れる華。

 次の目的地に向けて歩き出す六人。その後ろを追いかける二人。

「おい!」

「あの!」

 しびれを切らした凛祢の声となんとか話しかけようとするみほの声がガレージの時と同じように重なった。

「葛城さんから」

「いいよ、西住が話せ。多分俺と考えてることは同じだ」

「え、はい。あの御二人もよかったら一緒に探さない?」

「「いいんですか?!」」

 急に声を上げる塁と優花里。

「えっと、普通Ⅱ科二年B組坂本塁です」

「あ、あの普通Ⅱ科二年C組秋本優花里って言います」

「自己紹介はさっきしただろ。とにかくチームなんだからこっちにこい」

 凛祢はやれやれと首を振る。

「「葛城凛祢殿、西住みほ殿よろしくお願いします」」

 塁と優花里は同時に啓礼のポーズをした。

 この二人どことなく似てるな。それにみほや自分を見ているときの目が他の生徒に向ける目と少し違う気がする。

 二年生チームの八人は戦車を探すため山林に向かうのだった。

 

 

 一方、一番人数の多い一年生チームの十二人は大洗女子学園の図書室で戦車道と歩兵道の記録を探していた。

 元々女子校と男子校が一つだったころは大洗女子学園のほうが本校だった。別れるにあたって建てられた大洗男子学園には当時の資料などはないのである。

「使ってた戦車の記録見つかった?」

「そっちはどうだ、歩兵道の記録あったか?」

 奥から資料を持って歩いてくる亮、その隣を梓が歩いている。

「戦車のせの字もないよ」

「うちの学校が戦車道やめたころからさっぱり」

「全然だめだ、情報ゼロ」

「歩兵道のほうもさっぱりです」

 桂里奈とあやが読み漁っていた資料を机に広げる。

 アキラと歩も読んでいた資料を閉じて本棚に戻した。

「なんで戦車道と歩兵道やめちまったのかな?」

「そもそも戦車道がなくなったから歩兵道もなくなったらしいぞ。戦車がなきゃ歩兵って戦えないからってさっき読んだ本に書いてた」

「へー、歩兵って戦車がなきゃダメなのか」

「じゃあなんで突然戦車道やめちゃったのかな?」

「やっぱ人気なくなったんでしょ、昔っぽいから」

「そっかー」

 調べ終えた資料を戻しに行っていた翔、礼、あゆみ、優季の四人がそんな話をしながら戻ってくる。

 元々おとなしい銀と紗希の二人は無言で資料とは関係ない小説などを読んでいた。

 

 

 凛祢たちは学園近くの山林を探していた。

 みほと優花里が地図を見ている。

 山林に入ってすぐに華が何かを感じ取ったのか一人歩き出す。

「どうした五十鈴さん。何か見つけたのか?」

「いえ、においが……」

 翼が華に声をかける。

 においだと?彼女は何を言っている?

 凛祢も臭覚を頼りにしてみるが変わったにおいなどしない。

 近くの塁や八尋も変わったにおいなど感じないようだった。

「においでわかるんですか?」

「花の香りにほんのりと鉄と油のにおいが」

「華道やってるとそんなに敏感になるの?」

 華はゆっくりとにおいを感じる方へ歩いていく。

 優花里と沙織だけでなく八尋や翼も驚いていた。

「私だけかもしれないですけど」

「よし。ではパンツァーフォー!!」

 華の歩いていく方を指さし優花里が大声で叫ぶ。

「パンツのアホー?!」

「パンツフォー……パンツが四つ?」

 八尋と沙織がまた似たような反応で優花里を見た。

「パンツァーフォー、戦車前進って意味なの……」

「ちなみに歩兵道では歩兵疾走という意味でオーバードライブという掛け声があります。ということでオーバードライブ!!」

 苦笑いして説明するみほ。塁も優花里と同様に指さしをして叫ぶ。

 パンツァーフォーにオーバードライブ。正直、使ってるやつ見たことないけどな。

 華の後を追うように五人が歩いていく。

「待て、西住みほ」

「え?あのなんでしょうか、葛城さん」

 凛祢は低い声でみほを呼び止めた。

「……去年の全国大会決勝戦のことは知ってる。それでもし西住が心の傷を抱えているのなら無理に戦車に乗らなくていいんじゃないか?」

 彼女は昔の自分と同じだ。自身の道を貫いたがためにチームは負けた。

 それでも後悔はしていない、それが自分の最善だったのだから。

「……ありがとうございます。でも、大丈夫です」

 みほは笑みを浮かべてお礼を言った。

「私、本当は戦車道がないから、大洗に転校してきたんです。でも戦車道が復活することになって、生徒会が戦車道を選択しろって……」

「そうか。まさか戦車道を選択した経緯まで歩兵道を選択した俺と同じだったとはな」

 凛祢も思わず笑みを浮かべる。

 生徒会もずいぶん必死だな、どうしてそこまでして?

 急な戦車道と歩兵道の復活話といい不審な点がないわけではない。

「それじゃあ葛城さんも?」

「ああ、生徒会に歩兵道を選択するように言われてな。それで八尋と翼もついてきたわけだが」

「私にも武部さんと五十鈴さんがいてくれました。二人は私のことを庇ってくれて、それで私……もう一度だけ戦車道やろうと思ったんです」

 みほは強い信念のある目で凛祢を見た。

 そうか、みほは迷いを捨てたようだ。

 みほは強い、自分と似ていながらこんなにも強い。

 それなら自分にできることは……。

「誓おう。俺は全身全霊を持って君を助け、君を守り抜く。君の弱さと優しさを守り、勝利へと導く盾となろう」

 右手を左胸元にあて、みほに向けて言った。

「え……?ええーー!!そ、そんな」

 みほは思わず叫び声を上げた。

「あんまり大きな声を出すなよ、結構恥ずかしいんだから」

「だって、葛城さん。そんな誓うだなんて……!」

 凛祢はみほから目を逸す。

 みほも頬を赤らめながら目を逸らしていた。

「みぽりーん、葛城くーん」

「今行きます!」

「行くぞ、西住」

 沙織の呼ぶ声に我に返った二人は急いで後を追った。

「何の話してたの?」

「えっとその……」

「戦車道を選択した理由を聞いただけだ、それにしてもこの戦車……」

 沙織の質問にみほは頬を赤くする。それに対し凛祢は平然とした表情で答え、森林の中にはとても場違いな戦車を見た。

 その姿はガレージのⅣ号と同様にところどころ錆びつきとても動くようには見えなかった。

「38t……」

「なんかさっきの奴より小っちゃい。ビスだらけでポツポツしてるし」

「38tと言えば、ロンメル将軍の第七装甲師団でも主力を務め、初期のドイツ電撃戦を支えた重要な戦車なんです。軽快で走破性も高くて、はっ!tというのはチェコスロバキア製ということで重さの単位のことではないんですよ!」

 優花里は軽戦車38tに頬をすりすりと擦り付けながら説明を始める。

「おー、車内にはモーゼルC96とMP18が二丁もありますよ!」

 塁が38tに登って中を覗き込み、興奮した声を上げた。

 38tにモーゼルC96、MP18……いずれもドイツ製の代物だな。

「MP18と言えば帝政ドイツ軍が採用した世界初の短機関銃なんですよ!ミカエル作戦にも投入されて一時は戦線を60キロも突破することに成功したんですよ。まあ、ミカエル作戦は失敗したんですが。モーゼルC96も通常の自動拳銃と違ってトリガーの前にマガジンハウリングを持つスタイルだから自動拳銃のはぐれものみたいでかっこいいですよね!」

「「……あ」」

「二人とも今生き生きしてたよ……」

「いわゆるミリタリー好きって奴だな」

 ちょっと引き気味の沙織や八尋たちの表情を見て、我に返った様子の塁と優花里は小さめの声で「すみません」と言った。

 戦車を発見したことを報告するため凛祢が携帯端末をポケットから取り出す。

「こちら葛城凛祢と西住みほチーム、戦車38tをとモーゼルC96、MP18を発見しました」

「了解。ご苦労、運搬は自動車部と整備部に依頼しておくのでお前たち男子は戻ってこい。西住たちは引き続き捜索を続けるように」

 電話の相手である桃はそう言ってすぐに電話を切った。

「一両と銃四丁が見つかりました」

「やればできるもんだね、あむ」

 桃が振り向きそう言うと杏は椅子に座ってくつろぎながら干し芋を一口食べた。

「なあ、杏会長ってあれで会長なのはどうなんだ?」

「不真面目に見えますがやるときはやる人ですし」

 ガレージ内の掃除と備品の整理をしながら雄二が不満を口にする。宗司は苦笑いしながら言う。

「そうだ緑間。今は我慢してくれ」

「会長がそう言うなら了解です」

 英治の言葉に納得したように雄二は手を動かす。

「え?ちょっと――切りやがった。俺たちは戻るようにって西住たちは引き続き捜索だってよ」

「なに?なんで戻るんだよ、めんどくせーな」

「一体何のために僕たちだけ戻るんでしょうか?」

「知らん。西住、後の捜索は頼んだ」

 西住にそう言うと凛祢は不満気な八尋と翼、塁を連れて大洗女子学園に戻る。

「は、はい。……えっと葛城さんたちも頑張ってください!」

「頑張ってねー」

 西住や沙織たちの激励を受けて八尋はより一層士気が上がっていた。

 

 

 凛祢たちは数分かけて大洗女子学園校庭のガレージ前に戻ってきた。

 ガレージ前には椅子に座りくつろいでいる杏会長その隣に立つ柚子と桃。

「てか、あんたらなんもしてねーのかよ女子校の生徒会さんよ」

「落ち着けよ八尋。なんで俺たちを戻るように?」

「それについては俺が説明しよう。ガレージ内でこんなものを見つけてな」

 そう言って雑巾やデッキブラシを持った宗司と雄二、手ぶらの英治がガレージ内から出てきた。

 こっちの生徒会はちゃんと仕事してたんだな。

「それは……鍵ですか?一体どこの?」

 英治が手に持っていたのは一つの鍵。少し錆びれていていかにも古そうな鍵だった。

「これは大洗学園の……いや大洗女子学園地下の鍵だ」

「地下?大洗女子学園に地下とかあるのか?」

「実はガレージ内に残っていたこの鍵と資料を見つけてな。昔、戦車道と歩兵道が残っていた頃は大洗女子学園の地下を歩兵用の武器庫として使っていたらしいんだ」

「本当ですか?!それが本当なら銃などがまだ残ってるかもしれないじゃないですか!」

 塁は目を輝かせながら一歩前に出る。

「残っている確率は低いかもしれないが行くだけ行ってみようと思ってな。それでお前たちにはこの地下武器庫に行ってきてほしいと思っているんだ」

「なんであんたらが行か――」

「わかりました、行きます。すぐ行きます!我々が行きます!」

 八尋の口を抑えて、塁が行くように進言する。

「そうか行ってくれるか」

「俺は構わないが」

「そうか、なら俺も行ってやる」

 凛祢の発言に翼も後に続く。

「八尋殿も行くって言ってます!」

 塁はまだ八尋の口を抑えている。

「では頼んだぞ」

 そう言って英治は凛祢に鍵を渡す。

「では、行ってまいります!」

 その後無理やり話をつけてきた塁が啓礼のポーズをとってあいさつした後、柚子に案内されながら凛祢たち四人は大洗女子学園に入っていく。

「塁!テメーふざけんなよ、まじで!」

「八尋殿、落ち着いてください!もしも地下武器庫にいい銃があったらそれを見つけてきた我々が優先的に使うことができます!会長殿としっかり約束してきました」

「は?そもそも残ってないかもしれねーのに、銃がなかったらどうすんだ?」

「……」

「なんにも残ってなかったらマジでぶっ飛ばす」

「きっとありますよね、凛祢殿」

「俺に言われても……」

 こちらを見る塁とちょっと不機嫌な八尋を見て凛祢は苦笑いしながら答えた。

「ふふ、あなたたちとても仲がいいんだね」

「仲がいい?こんな奴今日知り合ったばかりの同級生にすぎませんよ。凛祢と翼は友人ですがね」

 柚子が笑いながらつぶやくと、八尋は腕を組みながら塁を睨んだ。

「ひどいです八尋殿。我々はもう悪友じゃないですか!」

「何言ってんだお前。お前と悪友になったつまりはねーよ」

「まあ、そう言うなよ八尋。友人が増えることはいいじゃねーか」

 翼が眼鏡を中指で上げながら言った。

 それにしても大洗女子学園に地下武器庫なんてあったとはな。朱音はなんにも話してくれないし、そもそも昔に戦車道と歩兵道があったこと自体知らなかったんだよな。

 大洗女子学園の廊下を進み、図書室の隣の廊下を抜け職員室前を通りその先の教材保管室の前で足を止めた。

「資料によるとここから入れるはずなんだけど」

 柚子はあらかじめ開けてもらっていたドアを開き室中へ入る。

 室内はあまり広くなく棚がいくつもあり、数学や英語の教材が綺麗に収納されていた。そして壁際の床には大きめの扉らしきものが見えた。凛祢は静かに室内へ入ると英治から受け取った鍵を鍵穴に差し込む。

 すると鍵は右に回り、小さな金属音を上げた。隣にいた翼と共に扉の取っ手を上げる。

「おおー」

 凛祢たち四人の声が重なる。

「誰から降りる?」

「「塁だろ」」

 柚子の声に八尋と翼の目線が塁を向いた。

「ええ?僕ですか?」

「俺が先行く、ライト渡せ。あと小山先輩はここにいてください、ここからは俺たちだけで行くので」

「うん、わかった。気を付けてね」

 凛祢は翼からライトを受け取り鉄梯子を降りていく。

 梯子を降りる音だけが闇に響く。三分ほどで下まで到着する、ゆっくり降りたとはいえ少し深かった。

 真っ暗な闇に凛祢の持つライトだけが光る。

 暗いな、こういう場所ってすぐに明かりのスイッチがあると思うんだけど。

 しかし、ライトで照らしてもスイッチらしきものは見つからない。

「暗いな、おい」

「明かりはないのか?」

「手持ちのライトだけだな、行くぞ」

 そう言って凛祢たち四人は歩き出す。

 数メートル歩くとすぐに広い空間に到着した。

「ここだな」

「お、明かりのスイッチっぽいのありましたよ。押してみます?」

「そうだな、さすがに探しづらい」

 翼がそう言うと塁はスイッチはを押した。すると数秒後に明かりがついた。

 全員が地下武器庫内を見回す。

「おー!!FALにバリスタ、P90とファイブセブン!どれもFÑ社が開発した銃じゃないですか!」

 先に声を上げたのは塁だった。興奮した声が室内に響く。

 武器庫に残っていたのは自動小銃『FÑFAL』が二丁、狙撃銃『FÑバリスタ』とサブマシンガン『FÑP90』が一丁、自動拳銃『FÑファイブセブン』が四丁、対戦車プラスチック爆薬『ヒートアックス』が四つ。

 FÑ社(一般的にはFÑハースタル)。ベルギーの銃器メーカー。正式名称はファブリケ・ナショナル・デルスタル・ド・ゲール。

 ヒートアックスは歩兵道連盟が開発した武器で、C4爆弾の七倍の威力を持つプラスチック爆薬。グレネードランチャ―や対戦車狙撃銃なども使われる歩兵道では学校によって武器や戦車の差が出てくる、それを少しでも緩和するため歩兵道においては第二次世界大戦までの武器という制限を無くし、ヒートアックスの使用が許可された。しかし、グレネードランチャ―などは遠距離で使えるがヒートアックスは戦車に近づく必要があるなどの制約もある。手榴弾ほどの質量で戦車履帯を切ることも可能であり、戦場でたびたび使われている。

「P90じゃねーか」

「よかったな、お前の愛銃じゃないか」

 八尋は壁に掛けられたP90を手に取っていた。そんな姿を翼が隣で見ている。

「愛銃?」

「ああ、俺と八尋はサバゲ―、サバイバルゲームやっててさ。P90は八尋のサバゲ―での主武装だからさ」

 凛祢が問いかけると翼がそう言った。

「八尋殿と翼殿もサバゲ―やってるんですか?僕もやってるんですよ!」

「塁!さっきの話本当だろうな」

「さっきの話?」

 八尋の声に塁は首を傾げる。

「ここの銃は、俺たちが優先的に使えるって話だ」

「はい……そうですけど」

「なら、いい。P90は俺が使う、バリスタは翼だ」

「いいのか?他の奴も使うかもしれないのに」

 八尋の言葉に翼が心配そうに言った。

「いいんだよ。ここの銃以上にいい銃が見つかるとは思えない。ファイブセブンも俺たちで使うんだよ、なあ凛祢」

「俺はいい、銃は残った物を選ぶから」

「相変わらず無欲な奴だな」

 八尋と翼はP90やバリスタを室内に残っていた鞄にしまっている。

 他に使えそうなものを探してみたが使えそうなもの見つかることはなく仕方なく武器庫を後にした。

「大丈夫だった?」

「はい、有力な銃も見つかりましたし」

「よかった。みんなお疲れ様」

 武器庫から戻ってきた凛祢たちは柚子の笑顔に迎えられ八尋、翼、塁の表情が固まる。

「どうしたお前ら」

「いや、別に……」

「なんでもない……」

「なんでもないです……」

 八尋、翼、塁は柚子から目を逸らした。三人の顔が赤くなっていた気がした。

 まさか、こいつら。

「あの、みんな大丈夫?」

「大丈夫です!!」

 柚子が問うと三人は大きめの声で即答した。

 やっぱり。こいつら小山先輩に惚れてるっぽい。

「それじゃあ、戻るか」

「そうだね、行こ」

 前を歩く柚子の後をを凛祢たち四人が追いかけるように歩いて行った。

「小山先輩ってかわいくね?」

「たしかに美人だと思う」

「年上っていいですね」

 小声で話す三人の会話を聞きながらため息をつく。

 こいつらなんて話をしてるんだ。八尋なんてさっきまで「沙織さんマジかわいい。付き合いたい」とか言ってたじゃないか。

 凛祢たちが校庭のガレージ前に戻るとそこにはさっきまでとは異なる光景が写っていた。

 ガレージ前に並んだ五両の戦車、その前に乱雑に置かれた銃の数々。

「凄いですね、これ」

「よく見つけてきたな」

 塁と凛祢は素直に驚きの顔を見せた。

「『百式軽機関銃前期型』が三丁、『九七式狙撃銃』が一丁、『桑原軽便拳銃』と『九四式拳銃』が二丁。『Kar98K』と『ベレッタM92』が一丁、『MP18』と『モーゼルC96』が二丁。『トンプソン・サブマシンガン』が六丁、『コルトM1903』と『コルトM1851』が三丁。『ワルサーMP』が三丁『マイクロUZI』が一丁、『ワルサーP38』が四丁。そして『FÑP90』と『FÑバリスタ』が一丁、『FÑFAL』が二丁、『FÑファイブセブン』が四丁です」

「八旧式中戦車甲型、38t中戦車、M3中戦車Lee、Ⅲ号突撃砲F型、それから四号中戦車D型。どう振り分けますか?」

 雄二と桃が集まった戦車と銃の名前と数を書類にメモしていた。

 八旧式と日本製の銃は崖下の洞窟に眠っていたのをバレー&バスケ部が発見。Ⅲ突とワルサーとUZIは湿地地帯の沼に沈んでいたものを歴史男女が発見。M3とアメリカ製の銃は兎小屋や馬小屋、牛小屋にあったものを一年生が発見。

 第一火力がⅢ突、Ⅳ号は立ち回りでやりくりすればどうにか。だが、総合的に対戦車戦闘には乏しいな。

 そこは歩兵隊でカバーするしかないか。

「見つけたもんが見つけた戦車に乗ればいいんじゃない?銃のほうも見つけたものが使うってことで」

「そんなことでいいの?」

「38tは我々が」

 杏は相変わらずテキトーな決め方をした。柚子はまずそうな顔をしていたが、桃も気にしていないような感じで38tを選んだ。

「じゃあ、我々は主武装にKar98KとMP18、副武装としてベレッタとC96を使わせてもらおう」

「葛城くんたちは地下で見つけた銃を使ってもらってかまわないから、こっちは使わせてもらうね」

「まったく会長があんな約束をしなければよかったのに」

 英治や宗司はガレージ内の銃や38tと一緒に見つけた銃を選ぶことになったが、雄二だけは少し不服そうだった。

 塁の約束とやらは本当だったらしいな。まあ、そのおかげで自分たちは比較的いい銃を使えるわけだが。

「お前たちはⅣ号で」

 桃がそう言うとみほも「え、はい」と返事した。

「ではⅣ号がAチーム、凛祢たちが歩兵α分隊。八旧式がBチーム、歩兵β分隊がバスケ部。Ⅲ突がCチーム、歩兵γ分隊が歴史男子。M3がDチーム、歩兵Δ分隊が一年生男子。38tがEチーム、歩兵ε分隊が生徒会」

「明後日はいよいよ教官がおみえになる。粗相のないよう綺麗にするんだぞ」

「そういえば教官ってどんな人かな」

「会長も綺麗としか言ってないしな」

 隣にいた八尋と翼は銃をガレージ内にしまいながら言った。

「がっちりしてますねー」

「いいアタックできそうです」

 なんでもバレーにかけるバレー部の声。

「狙撃銃は俺だろ!」

「いやスリーポイントの名手である俺だ!」

「どっちでもいいから早く決めろ!」

 その隣で争うバスケ部。

「砲塔が回らないな」

「像みたいぜよ」

「パオーン」

「戯け!Ⅲ突は冬戦争でロシアの猛攻を押し返したすごい戦車なんだぞ!フィンランド人に謝りなさい!」

「「「すみません」」」

 中のよさそうな歴女チーム。

「ワルサーってかっこ悪くね?」

「あー確かに」

「形が気に入らないな」

「「「剣は銃よりも強し!!」」」

「剣が銃よりも強いわけないだろ。剣なんか使っていたらハチの巣にされるよ」

 その横でワルサーの悪口を言っている歴史男子の三人とそれに反発するシャーロック。

「大砲が二本あるね」

「おっきくて強そう」

 と戦車をみて関心の目を向ける一年生女子。

「主武装はみんなお揃いだな」

「銃ってかっこいいな!」

「俺、実銃さわるの初めてだよ!」

 その横で一年生男子が初めて触る銃に興味津々だった。

「うわ、べたべたする!」

「これはやりがいがありますね」

「これじゃあ中も……うわ。車内の水抜きをして、錆び取りをしないと古い塗装も剥がしてグリースアップもしなきゃ」

 慣れた足取りでⅣ号によじ登り中を確認するみほ。その様子を横で見ている優花里。目が輝いている。

 戦車の洗車をするのは大変だろうな。一台だけならそうでもないが五両もあるとな。幸い銃のほうは今晩中に大洗男子学園の整備部が調整や整備してくれるらしいから。

「じゃあ、俺たちも手伝うか」

「待て男子のみんな。急遽、歩兵道の教官が今日おみえになることになった。よって午後からは女子とは別行動だ」

「なに?」

 生徒会を除く男子全員の足が止まった。

 ふざけるな、いやだという不満の声が聞こえると思ったが凛祢の予想とは違う声が聞こえた。

「まじで?」

「美人な教官にあえるの?」

「やったー!」

 そんな喜びの声を上げる男子生徒たちが凛祢には少し怖くも見えた。

 こいつら正気か?教官がくる……それは歩兵道受講者にとっては授業が地獄に代わるも同然なのだ。

 厳しい訓練内容に、優しさの欠片もない教官の追い打ち、最後まで立っていることもできないほど。

「みんな学園に戻るぞ!」

 英治の声に合わせて男子たちが「了解!」という声を上げた。

「凛祢行くぞ!教官が俺たちを待ってるぜ!」

「お前、歩兵道選択したこと絶対後悔するぞ……」

「凛祢、それってどういうことだ?」

「いいから行くぞ翼!」

 説明する間もなくすぐに学園に戻っていく八尋や翼、その他の男子たち。最後まで残っていたのは凛祢と塁だけだった。

「どうします?」

「戻るしかないだろ。塁、お前も覚悟しておいた方がいいぞ」

「え……はい」

 ため息をつきながら凛祢と塁は学園に戻る男子たちを追った。

 

 

 英治に言われた通り、動ける格好である大洗男子学園の体育着に着替えた凛祢たちは校庭で教官が来るのを静かに待っている。

 教官が拝見する書類を再度確認している生徒会。

 体育着姿に白のパーカー着たアーサー、青色のマフラーを巻いたジル、黒のハチマキをつけた景綱、赤のパイプ煙草を口に銜えたシャーロック。パイプ煙草は本物ではなくプラスチック製のレプリカである。

 円陣を組んでいるバスケ部の四人、「バスケ部ファイト―」と聞こえた。

 一年生の六人は体育座りで会話をしながら盛り上がっている。

 自動車のエンジン音と共に現れたのはATFディンゴ。ドイツ製の歩兵機動車である。

 道路から校庭へと侵入し、ドリフトをしながらATFディンゴは前方数十メートル先で停止した。

 校庭にいた全員が小隊ごとに列となり並ぶ。

 ATFディンゴから降りてきたのは一人の自衛官制服の女性。助手席から降りてきたところを見るともう一人が運転をしてきたようだ。

 女性の容姿と言えばまず先に出る言葉は若く、美人な女性であることだ。

 長く美しい銀髪は後ろでまとめられポニーテール状に。自衛隊制服姿の、その体は上と下で出ているところがしっかりと出ている。

 絵に描いたような美貌の女性だった。

「お前たちが大洗男子学園の歩兵道受講者か?」

「はい。本日はお忙しい中来ていただきありがとうございます。こちらが受講者の名簿と書類になります」

 英治は書類を女性に渡し、深々と頭を下げる。それに合わせて全員が頭を下げた。

 女性も書類を受け取り、数秒間目を通しこちらに目を向ける。

「そうか……私は特別講師の歩兵教導隊。照月敦子(てるづきあつこ)だ。私の訓練に生き残れた時、お前たちは立派な歩兵となり、活躍できるだろう。その日までお前たちは豚だ!私の指導は厳しいぞ、ついてこられるか?!豚共!」

「……え?」

 そんな声を出したのは八尋だった。

「返事はどうした?!豚共!」

 すぐに敦子の声が男子たちの耳を貫いた。男子たちも勢いで「はい!!」と叫ぶ。

「よし、返事だけは一人前だな豚共。お前たちにはこの書類を記入してもらい、すぐに訓練を始める!」

「え?訓練って、そんなの聞いてないですよ!」

「予告はしていないのだから当たり前だ。わかったら三分でこの書類を記入しろ」

 敦子は持ってきた書類とペンを全員に配ると始めの合図として合掌する。

 一斉に書類にペンを走らせる。

 書類の内容は歩兵道経験者であるか、中学校で歩兵道があったか、実銃を撃ったことがあるか、実戦CQC(近接戦闘)の経験があるかなど質問に答えるだけのものだった。

 他には制服のサイズというのも記入するところもある。

 書類を回収し、列の前に敦子が立った。

「では、これより訓練を始める。まず言っておく、私はお前たち全員に公平だ。優等生でも劣等生でも決して見捨てないし対応は変わらない。だから、お前たちは必死に走れ!必死に学べ!必死に敵に向かっていけ!決死の覚悟を持てば誰でも戦場で輝く花となるだろう!」

「はい!!」

「よし、まずはグラウンドを倒れるまで走れ!行け、豚共!!」

「はい!!」

 敦子の声に男子生徒たちは校庭を走る。

「おいおい、どういう冗談だ?」

「見た目とは違って性格はそうとうヘビーだぞ」

 八尋が頭を抱えていた、翼もあの教官にはさすがに堪えたようだ。

「でも、確かに美人な方ですね」

「そうだけどさ!凛祢これも予想してたのか?あの人の訓練で一年間生きてられるのか?」

「安心しろ、死ぬことはない。ただ、教官は授業を地獄は変える」

 どれだけつらいか知っている凛祢はそう言うしかなかった。

「ノーー!!」

「黙って走れ!!」

 敦子の厳しい声が大洗男子学園の校庭に響いた。

 それから敦子の厳しい訓練は続き、休むことすらも許されない過酷な訓練に凛祢たちは無言で耐え続けた。

 

 

 日も傾き、辺りは夕焼け空へ変わり始めた頃……。

 大洗女子学園のガレージ前には、戦車の洗車を終えたみほたちが整列している。

 錆びつき汚れてボロボロだった戦車は、嘘のように綺麗になっていた。

「よし、良いだろう。後の整備は自動車部の部員にやらせる。それでは本日は解散!」

 五両の戦車を見た後、桃がみほたちの方を振り返った。

「はーーい……」

 戦車道の受講者たちは疲れた様子で返事をして返す。

「早くシャワー浴びたーい」

 洗車で汚れた沙織が、愚痴るようにつぶやく。

「早く乗りたいですね」

 優花里がみほに言うと「あ……う、うん」とみほも目を背けて返した。それを見て優花里は首を傾げる。

「ねえ、これから歩兵道の様子見に行かない?」

「え?今から?」

 沙織が思いついたように提案する。

「だって歩兵道の方はもう教官が来てるんでしょ?男子がどんな表情してるか、ちょっと興味あるしー」

「沙織さんったら、また……」

 頬を染めながらそう言う沙織を華が呆れた様子で見ていた。

「でも確かに気になりますね。予定を早めて来て下さった教官の方ですし」

「……うん。じゃあ少しだけ」

 優花里の賛成の意見を聞いて、みほも行くことを決める。

「それじゃあ、男子校へレッツゴーッ!!」

 沙織は拳を空に挙げて、歩き出す。

 

 

 数十分後……。

 シャワーを浴びて、着替えを終えたみほたち四人は大洗男子学園へと辿り着く。

「ここが、男子校かー」

「同じ学園艦ですが私、来るのは初めてです」

 沙織と優花里が大洗男子学園、正門の前で言った。

「そうなんだ」

「歩兵道の授業はどこで行われているのでしょうか?」

 みほと華は周りを見回していると……。

「おい、豚共!休むな、動け!」

 学校中に響くような怒声が聞こえて来た。

「な、なに今の?」

「校庭の方でしょうか?」

「行ってみよ!」

 全員が驚きを隠せない表情だった。

 華が校庭の方を指さすと沙織が走り出す。みほと華、優花里も後を追う。

 そして、そこに広がっていたのは……歩兵道の訓練と思われるものに取り組む男子生徒たちの姿だった。

「まったく、なんてざまだ!お前たちは心技体、全てが足りない。ならば根性で訓練を乗り越えろ!」

 容赦なく罵声を浴びせている敦子の姿だった。

 更に男子生徒たち受けている訓練も決して優しいものではない。

 ある者たちはロープで繫いだタイヤを引きずりながら走っており、ある者たちは小銃を持ってひたすら匍匐前進している。

 またある者たちは数え方が無限ループしている腕立て伏せや腹筋をしており、ある者たちはナイフに見立てた木製のダミーナイフでCQC(近接戦闘)訓練を行っていた。

 どれも本物さながらの兵士訓練である。

「す、凄い。本物の兵士の訓練ばかりですよ!!」

「やり過ぎじゃない?みんな死んじゃうよ」

 興奮してみている優花里とは逆に沙織は少し引き気味な様子を見せる。

「皆さん、辛そうな顔をしてますね」

「ハハハハ……」

 男子生徒たちを見ながら心配をしている華、みほは乾いた笑いを漏らした。

「よし、今日の訓練はここまでだ!」

 敦子がそう言った瞬間、男子生徒たちは一斉に校庭に倒れていく。

「し、死ぬ……」

「……」

「これほどまでに、厳しい、訓練だとは……」

 八尋、翼、塁も大の字になり、息を切らしている。

「きつ過ぎるだろ……」

「流石に……でも、みんなよく耐えましたね」

「根性だけは、あったみたいだな。体力不足って怖いな」

 雄二や宗司、英治も倒れこみながら途切れ途切れに話す。

 そんな中、ただ一人だけは校庭に立っていた。

 唯一の歩兵道経験者である葛城凛祢であった。

 息も切れて、汗も大量にかいているが立っている。

「ほう、よく立っていられるな。お前は何者だ?」

「……葛城凛祢!歩兵道経験者です!」

「葛城凛祢……お前が……そうか。お前たちも葛城を見習え!言っておくが、今日の訓練は初歩中の初歩だ!今後はもっと厳しくなる、覚悟しろ!」

「ええーー?」

「俺、歩兵道やめよっかな」

「もう変更できねーだろ」

 敦子の言葉に、悲鳴を上げる一年生の六人。他にも辛そうな表情をしている歩兵道受講者たち。

 そんな中、ただ一人凛祢は笑みを浮かべていた。

 自分はこの場所に戻ってきた、もう一度歩兵道を始めたのだと。

 

 

 放課後、凛祢とみほたちは学園艦の公園から夕焼けを眺めていた。 

「暁の水平線は学園艦からが一番綺麗だって聞いたことがある」

「へー確かに、とっても綺麗だね」

「ですね」

 自動販売機で買った缶コーヒーを手に凛祢は言った。隣に居たみほと優花里も夕焼け空を眺めていた。

 一方、八尋と翼、塁はベンチに座って休んでいた。三人とも、訓練での疲れから立っているのもきついらしい。

「あんな訓練を受けてなんで葛城くんは平気そうなの?」

「確かに気になりますね」

 沙織と華は凛祢を見て、目を輝かせる。

「別に、ただ毎日自主トレしてるだけだよ」

「毎日しているなんてすごいことですよ。流石、歩兵道経験者ですね!」

「へー、葛城君、歩兵道経験者なんだ。なんかみぽりんと似てるね」

「ああ」

 凛祢の答えに素直に関心する優花里。沙織もみほの肩に手を乗せて言った。

「港はどっちかな?」

「あーそろそろ陸に上がりてーよな」

 みほの後に八尋が言った。八尋と翼、塁がこちらに歩いて来る。

「今度の週末に寄港するって聞いたけど」

「どこの港だっけ?私港々に彼がいて大変なんだよねー」

「それは行きつけのカレー屋さんでしょ」

 沙織の冗談のような発言にツッコミを入れる華。

 やっぱり、沙織って八尋と似てるな。前に八尋も同じようなこと言ってたしな。

「あ、あのよかったら寄り道していきませんか?」

「え?」

「ダメですかね……」

「まあ、いいじゃないですか行きましょうよ」

 優花里をフォローすように塁が言った。

 

 

 優花里についていくと着いたのは戦車&歩兵俱楽部。

 八尋や翼、塁にとっても行きつけの店らしく、この店でサバゲ―用のモデルガンなどを購入したらしい。

 中に入ると戦車や歩兵の書籍、パンツァージャケットにモデルガン、他にもいろいろな商品が置かれた店だった。

「戦車ってどれも同じじゃない?」

「違います!全然違いますー!どの子も個性というか特徴があって……。動かす人によっても変わりますし!」

 優花里は頬を染めながら明後日の方向を見た。

「華道と同じなんですね」

「うんうん、女の子だってみんなそれぞれの良さがあるしね。目指せ、モテ道!」

 沙織は納得したように聞いているようだった。

 多分、伝わってないが言っていることは間違ってないのだろう。

 一方八尋と翼、塁は歩兵の商品が置かれたコーナーにいた。

「うーん、やっぱり実銃と比べるとモデルガンって軽いな。歩兵道やったらモデルガン撃てなくなりそう」

「確かにな……そういえば歩兵道って実弾使ってるんだよな、命中したら危ないんじゃないか?」

「その心配はいりませんよ。歩兵道の試合中は実弾を使いますが歩兵の服も特殊合金繊維で作られた特製制服を着用するので、たとえ戦車の砲弾が当たっても死ぬことはありません。戦車に轢かれても死にませんがいずれも相当痛いです。ですが十分安全には配慮されています」

 塁は初心者でありながら歩兵道の『特製制服』の説明をした。その説明に納得している八尋と翼。

 特製制服。歩兵道連盟によって着用が義務付けられた制服である。塁の説明通り特殊合金繊維によって防弾加工、防刃加工、防徹甲弾加工など様々な防御加工をクリアした制服になっている。また、各部に電極が埋め込まれており一定数値の衝撃、ダメージを感知するとアラームが鳴り戦死判定(失格)となる。また、試合中に気絶した時は瞬時にアラームが鳴るなどの安全の配慮も十分にされている。

 凛祢が戦車商品のコーナーに戻るとテレビのニュースがちょうど変わった。

 その内容は戦車道と歩兵道であり、国際強化選手となった西住まほと黒咲聖羅(くろさきせら)の名前が耳に入った。

 凛祢とみほの目線は同時にテレビに向く。

「勝利の秘訣とはなんでしょうか?」

「諦めないこと。そして……どんな状況でも逃げ出さないことですね」

「勝つための秘訣……強き意思とどんな時でも孤高であることだ」

 西住まほと黒咲聖羅の言葉は他の人間にとってはインタビューの答えにすぎない。しかし、凛祢とみほにはその言葉が胸に突き刺さるような言葉だった。

 凛祢とみほはテレビから目を逸らしてしまう。

「そうだ、これからみんなで凛祢の家に遊びにでも行かないか?凛祢の家なら広いから全員で行けるし!」

「ああ、それいいかも!みぽりんも行こ」

「私も行ってみたいです」

「え……でもいいんですか?」

「ああ、構わないけど」

 八尋の提案に沙織の押しも重なって全員で家に来ることになってしまった。だが、今だけは八尋と沙織に感謝すべきだなっと思った。

「あの私も行っていいでしょうか?」

「当たり前だろ、塁も来るだろ?」

「行きます!」

 優花里と塁も含めた二年生チーム、八人で凛祢の家に向かった。

 

 

 大洗の商店街で晩御飯の買い物をして住宅街を歩いて行く。

 葛城家の門をくぐり全員を畳部屋に案内する。

「お邪魔しまーす」と言いながら入っていく。

「へー葛城君の家って広いねー。もしかしてお金持ち?」

「いや、朱音はそうでもないと思うけど」

 沙織は家の中を見回している。

「朱音さんって?」 

「育ての親だけど、今は仕事で留守にしてる」

「すみません、余計なことを聞いてしまって」

 華は深々と頭を下げた。

 他人にとって実の親がいないことは結構デリケートな話だと思われがちだが自分としてはあまり気にしていない。

「え?ああ、気にしなくていいよ慣れてるし」

「じゃあ作ろっか、葛城君台所借りるね。花はジャガイモの皮むき」

「ああ、手伝うけど」

「いいよ男子のみんなは歩兵道の訓練で疲れてるでしょ。今日はゆっくりしてて」

 沙織の言葉に八尋と翼、塁はテーブルを拭いたりして待っていた。

 優花里は鼻歌を歌いながら飯盒や皿を大きめのリュックサックから出していく。

「なんで飯盒?」

「いつでも野営できるように」

「秋本さん、サバイバルスキル高いですね!」

「いやーそれほどでも」

 塁に褒められ照れている優花里。

 いつでも野営できるようにしておくことって褒めるべきことなのかはわからないが塁にとってはそうなんだろうな。

「きゃ!すみません、花しか切ったことないもので」

 声と共に華の方を見ると指から少量の血が流れていた。包丁で切ってしまったのだろう。

「あー絆創膏はどこだったかな……」

「私、持ってるから使って」

 みほが鞄から絆創膏を出して花に渡した。

「みんな意外と使えない」

「ダメっぽいから俺も手伝うよ」

 沙織はため息をついて眼鏡をかける。

 凛祢もブレザーを脱いで腕をまくる。

「「よし」」

 

 

 数十分後、畳部屋のテーブルには肉じゃがや市販の刺身などの料理がならんでいた。

 全員が「いただきます」の声を合図に食事を始める。

 結局のところ、ほとんどの調理を行ったのは沙織と凛祢だった。

 ほぼ一人暮らしの家事スキルがこんなところで役に立つとは。

「うめー!」

「男を落とすには肉じゃがだからねー」

「確かにうまいな」

 肉じゃがに手をつけていく八尋と翼。作った本人、沙織も得意げな顔をしている。

「落としたことあるんですか?」

「何事も練習でしょ!」

「ていうか、男子って本当に肉じゃが好きなんですかね?」

「都市伝説じゃないですか?」

「そんなことないもん、ちゃんと雑誌のアンケートにも書いてあったし」

 沙織はそっぽを向き、負けじと発言を続ける。

「俺は肉じゃが好きだけど」

「俺も好物だけど」

「僕もです」

 八尋に続き翼と塁も肉じゃがが好物ときた。

 フリとかじゃなく本当なんだよな。

「お花も素敵」

「ごめんなさい、これぐらいしかできなくて」

「まあ気にすんなよ。人には得意不得意があるし。花があると部屋が明るくなるし」

 少々落ち込んでいる華に凛祢は言った。

 一時間ほどで食事を終え、全員で後片づけをした。

「あの葛城さん。あの写真は?」

 みほは凛祢の部屋の仏壇を見た。

「ああ、孤児だった俺を朱音と一緒に拾ってくれた女……周防鞠菜、俺に歩兵道をさせた女でもある」

「そうだったんだ……鞠菜さんが」

 みほは写真を見た後に手を合わせてそっと目を閉じた。

「ありがとう、手を合わせてくれて。鞠菜は嫌われ者だったから、親族もあんまりきてくれないからな」

「いえ、これくらいでもできてよかったです」

 それから数十分後みんなは帰り支度をして外に出た。

 遅くなった為、凛祢たちはみほたちを寮と家まで送りに出る。

 偶然、八尋は沙織と、翼は華と、塁は優花里と家が近所だったため送ることとなり、凛祢はみほを送ることとなった。

「それじゃーな凛祢!」

「おやすみなさーい」

 それぞれが自宅へと向かて行った。

「俺たちも行くか」

「はい……」

 二人はゆっくりな足取りで女子寮へと向かう。

 途中会話はなく、静かに歩いていた。

「ここで大丈夫だから」

 寮の入り口に到着しみほは凛祢にそう言う。

「そうか、それじゃあまた明日。おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい」

 みほと別れると凛祢も自宅に戻ろうと歩き出す。

「……」

 みほは去っていく凛祢の背中を見ながら、何かを言うべきか、言わざるべきか迷っている様子を見せる。

「あ、あの!葛城くん!」

 やがて決心して凛祢を呼び止める。凛祢も呼ばれてみほの方を振り向く。

「……?」

「やっぱり私、この学園艦に転校してきてよかったよ!」

 みほは笑みを浮かべて凛祢に向かって言った。

 それを聞いた凛祢も笑みを浮かべ手を振った。

 

 

 その頃、大洗女子学園ガレージ内では自動車整備部が戦車を修理を始めていた。

「ホシノー、レンチとってー」

「はい」

「その配線は左の方に繫いで」

「はいはーい」

 繋ぎ姿の大洗女子学園自動車部のメンバー。

 ショートヘアのナカジマ、褐色肌に高身長のスズキ、セミショートヘアにランニング姿のホシノ、肌にそばかすのある少女ホシノがボロボロの状態の戦車を整備していた。

「やっぱり明後日までに直すのは厳しいんじゃないの?」

 ホシノがスパナを回しながら言った。

 いくら自動車部が整備と修理能力が優れていてもそれは自動車に限った話。いくら戦車が車でも直すのには時間も資材も足りないというものだ。

 更には五両を四人で仕上げろと言われたら厳しかった。

「会長も人使い荒いな」

「ああー、今夜と明日は徹夜かなー」

 ナカジマが言うと、スズキもため息をついた。

 するとガレージの開く音と共に男の声が響いた。

「ナカジマ―、手伝いに来たぞー!」

「や、ヤガミ?どうして?」

「いや、会長に銃の整備と調節が終わったらこっちでナカジマたちを手伝えって言われたから」

 ヤガミと呼ばれる作業着姿の青年は手に持った銃入りの鞄をガレージ内の元あった場所に戻す。

 その後ろにいる作業着姿の二人もガレージ内に入る。

「ふーん。手伝ってくれるのはありがたいんだけど君たちは?」

「大洗男子学園整備部、部長の八神大河(やがみたいが)。三年生だ」

「同じく整備部、氷室大地(ひむろだいち)。三年生」

「同じく整備部、山本健太(やまもとけんた)。一年生です、ヤマケンと呼んでください」

 ホシノの質問に自己紹介を始める三人。

 紅玉のような赤い瞳と白髪が印象的な八神大河。

 上着を腰に巻いて眼鏡が印象的な氷室大地。

 一本のアホ毛が目立つ山本健太。

「整備部のヤガミにヒムロ、ヤマケンか。助かるよ、七人でやればきっと終わる」

「ああ、なんでも手伝う。色んなものの整備をしてきたから車でも十分に手伝えると思う」

 ホシノは三人の名前をすぐに呼んだ。

「それじゃあ時間もないしみんなやるよ!」

「「「「「「おーー!!」」」」」」

 ナカジマの掛け声と共に戦車の修理を始める。

「ありがとね、ヤガミ」

「幼馴染なんだからそういうのはなしだろ」

「そうだったね、頑張ろう」

 ナカジマとヤガミはそんな会話をしながら整備を続ける。

 

 

 

 翌日。午前の授業から歩兵道の授業は始まった。

 敦子は昨日と同様の制服姿で現れ、歩兵道受講者をスクリーンとプロジェクターのある多目的教室に集めていた。

 全員に参考書を配り、さっそく説明を始める。

「本日は歩兵道における重要な要素の一つ。兵科についての説明を行う」

 マイクを片手に、パソコンを操作する。

 すると、スクリーンの画面には歩兵の姿が映し出された。

「まずは偵察兵だ。敵の動きを偵察することを主な任務とした兵科だ。軽装備ではあるが機動力を活かして戦えば十分に渡り合える。だが、軽装備故に装甲戦闘車両等の目標に対しては無力と言わざる得ない。主な武装は軽機関銃、散弾銃だな」

 映像はまず双眼鏡を持った歩兵を映し出した。その後、軽装備と機動力を活かした偵察兵の戦闘シーンも映し出す。

「次に砲兵だ。これは対戦車戦闘を専門とした兵科だ。攻撃力の高さとある程度の機動力を持つので、対戦車戦闘では中心となる存在だ。但し歩兵に対する迎撃能力は低いため敵の歩兵に肉薄されると弱い。主な武装は対戦車ロケット投擲砲や無反動砲」

 映像が切り替わりパンツァーファウストで敵洗車を撃破した対戦車兵が映し出された。

「次は工兵だ。トラップの設置や戦車の移動を補助する工事、陣地の構成等を行う特殊な兵科だ。一見地味だが戦場における最も難しい兵科だ。弱点は直接戦闘能力に乏しいことだ。主な武装は爆薬全般だ」

 映像が切り替わりC-4爆弾を使って岩を破壊する工兵が映し出された。

「次は狙撃兵だ。名前の通り狙撃を専門とする兵科だ。息を潜めて敵を狙い、確実に狙い撃つ。更に対戦車ライフルを使えば戦車にもダメージを与えることができる。隠密性が重視されるため発見されたら偵察兵より危うくなってしまうから注意が必要だ。主な武装は狙撃銃と対戦車ライフルだ」

 映像が切り替わり、対戦車ライフルで戦車の転輪を破壊している狙撃兵の姿が映し出された。

「最後に突撃兵だ。これは歩兵の主となる兵科だ。他の兵科のあらゆる武器を使えるため、幅広い戦術が展開できる。だが、うまく立ち回らなければ器用貧乏になりやすい。拳銃とナイフ、投擲武器といった近接戦闘用装備は共通武器として全兵科が装備できる」

 映像が切り替わり、突撃銃やナイフによる戦闘を行う突撃兵の姿が映し出される。

「以上が歩兵道における兵科の説明だ。希望は取るが、どの兵科にするかは、本日の射撃訓練、戦闘訓練の結果を見て、適正と共に決める。質問はあるか?」

 敦子がそう言うと教室内の明かりがついた。

 歩兵道受講者は参考書を読んだ後に「ありません!!」と叫ぶ。

「では、早速訓練に移る。全員演習所まで走れ!」

 掛け声と共に全員が演習所を目指して走っていった。

 

 

 午前の歩兵道学科と武器訓練、戦闘訓練を終えて各自の兵科が決まった。

 偵察兵。坂本塁、緑間雄二、九条漣、一ノ瀬淳、ジルドレイ、景綱、黒田アキラ、葉山翔、柿崎礼、沼倉歩、十名。

 砲兵。零名。

 工兵。葛城凛祢、一名。

 狙撃兵。坂上翼、相川英治、枢木迅、三名。

 突撃兵。先導八尋、石田宗司、円藤辰巳、アーサー、シャーロック、梅本亮、城島銀、七名。

 という振り分けになった。

 

 

 昼休みになり凛祢たち四人は学園の食堂に来ていた。

 食券を買うため、列に並ぶ。が、前の黒髪の男は食券売り機の前で何度もポケットを探っている。

「おい、お前。さっさと買えよ」

 八尋が我慢できずに声をかける。

「あ?わかってるよ!」

 そう言って男はまたポケットを探る。

 しかし、財布が現れることはない。

「なあもしかして、財布忘れたのか?よかったら貸してやろうか?」

「なに?いや、財布を忘れてなんかねーよ!」

「じゃあ、さっさと買えよ。みんな並んでるんだよ」

 翼も男に向かって言った。

「……くっ!」

「いいから使えって。明日にでも返してくれればいいから」

 凛祢は財布から千円札を一枚出して渡した。

「っ!……この借りはいつか返す」

 舌打ちした後、小さく言うと男は受け取った千円札できつねうどんの食券を買って去っていった。

「なんだあいつ?むかつくな」

「ほっとけよ、あんなやつ」

「午後も歩兵道の授業だから急いだほうが……」

 塁の声に凛祢たちはさっさと食券を買って、食事を始める。

 

 

 午後からの授業は昨日と同様の訓練と兵科ごとに別れた訓練となりそれぞれの訓練を行っていく。

「葛城、お前はチームの中で唯一の経験者だ。それをよく考えて行動しろ」

「はい!」

 凛祢は敦子相手にCQC訓練を行っている。敦子は涼しい顔をしているが凛祢は砂で汚れ、息も荒くなっている。

「ナイフ戦闘の腕は悪くない。だが、実戦の戦闘はもっと速い!もっと早く打ち込め!」

「はい!」

 凛祢のナイフ戦闘術は一般のナイフ戦闘術とは少しだけ違い鞠菜が使っていた癖付きのナイフ戦闘術である。

 鞠菜から教わったことによって彼女の癖も吸収してしまったがむしろそれが役に立つこともあった。

 CQCは兵士にとっては最も多用される戦闘術であり、鞠菜自身は軍人の頃、狙撃兵だったらしいがCQCを使う場面は数えきれないほどあったっと言っていた。

 凛祢自身もCQCに関しては少しだけ自信がある。

「よし、残り五分。一度でも私に当ててみろ!」

「はい!」

 敦子の掛け声を合図に二人の訓練の速さは増した。

 凛祢は必死にダミーナイフで打ち込むが全て片手で受け流され、避けられる。

「くっ!」

「大振り過ぎだ……」

 凛祢は腕を伸ばしダミーナイフを突き出すが敦子はすらりと避ける。

 隙ができた凛祢にすかさずダミーナイフを向ける敦子。

 しかし、凛祢は右手で敦子の攻撃を受け流した。少々驚きの顔を見せた敦子にダミーナイフを振る。

 が、ダミーナイフの刀身は敦子の右手に白刃鳥された……次の瞬間、敦子は凛祢の腹部を蹴った。

「うぐっ!……体罰だろ」

 凛祢は痛みに顔を歪ませその場に伏せる。

「今の動きはよかった。あと、痛みに耐えてよくナイフを離さなかったな」

「……」

 凛祢の左手の中にはダミーナイフが握られている。

 戦闘中に武器を失えば、それは無防備を意味する。だからこそ、痛みに耐えてでも武器は離さない。

「私の真似をして、片手で攻撃を受け流したのは誉めてやろう。だが、まだまだ甘い」

「はい……」

 凛祢は体操服に付着した砂を落として返事をする。

「よし、今日はここまで。各自訓練を終了しろ!」

 敦子の叫びに昨日と同様に次々に倒れていく歩兵道受講者たち。

「そのままでもいいから聞け、明日は戦車道の方も教官が来る。そこでお前たちと戦車道の生徒たちの合同訓練を組んである。なので各自、今日はしっかり休め!」

「はい!」

 戦車道受講者たちは精一杯の声を出した。

「では、解散!」

 片付けの当番である凛祢たち二年生チームがダミーナイフやマラソン用のタイヤを用具倉庫にしまう。

「あー明日は合同授業かー」

「一体どんなことするんでしょうか?」

「座学じゃないか?合同での戦闘訓練は流石に無理だろ」

 八尋や翼が体を伸ばしながら話す。

「ああー確かにな。でもあの教官ならやりそうじゃね?」

「やるかもな、歩兵道の教官だしな」

 凛祢は夕暮れ空を見上げて言った。

 こうして歩兵道二日目の訓練も終了していった。

 

 

 それぞれの兵科が決定された翌日。

 戦車道受講者と歩兵道受講者たちは大洗女子学園校庭のガレージ前に集合していた。

 みほも遅刻ギリギリであったが到着し、全員が揃う。

「遅いから心配しましたよ」

「寝過ごしちゃって」

 華が心配した様子で言うとみほは頭を掻きながら答える。

「遅刻ギリギリとは……豚共を見習え、根性しかないが時間は守る者たちだ」

「はい……」

 みほは敦子の言葉に落ち込んだ様子で返事をする。

「いくらなんでも言いすぎだろ」

「ちょっとひどいですね」

「おい、聞こえるとまずいから黙ってろ」

 八尋と塁の小声の会話に翼がやめるように言う。

「俺たちも遅刻ギリギリに来たらあれ以上に怖いことになる」

「マジかよ……うー、こえっ!」

 凛祢も小声でそう言うと八尋は肌を震わせる。

「それにしても教官遅ーい。焦らすなんて大人のテクニックだよねー」

「まったく、蝶野のやつ時間も守れないのか」

 沙織が言うと敦子は腕時計で時間を確認する。

 すると空からジェットエンジンの甲高い音が校庭中に響いた。

「おー飛行機じゃん」

「敵襲か?!」

 景綱に続いてカエサルの声が聞こえる。

 巨大な飛行機は航空自衛隊のC-2改輸送機だった。

 C-2改は低空飛行しながら大洗女子学園上空で後部ハッチを開く。

 すると開かれたハッチから「戦車」と「コンテナ」が射出される。

 そのままパラシュートを開き、学園駐車場に減速しながら着地する。

 戦車は10式戦車。陸上自衛隊の最新鋭の主力戦車。

 コンテナの方は高さは三メートル程の貨物輸送用のコンテナだった。

 火花を散らしながら駐車場を滑っていった10式戦車は、真っ赤なフェラーリF40を跳ね飛ばし停止する。

「学園長の車が?!」

「あーやっちったねー」

「ひでぇことするぜ!」

 柚子と雄二は思わず声を上げ、隣にいた杏は干し芋を食べながらつぶやく。

「学園長同情するよ」

「保険入ってんのかな?」

 シャーロックとアーサーがフェラーリを見て言う。

 停止した10式戦車は一度バックすると履帯でフェラーリを踏み潰した。

「もうやめろよ、学園長に恨みでもあんのか?」

「てか、あのコンテナってなんでしょう?」

 八尋に発言に続いて塁がフェラーリの奥のコンテナを指さす。

 10式戦車は方向転換し、駐車場越しにこちらまで走行する。

 そして、キューポラのハッチが開いたかと思うと、制服姿でヘルメットを被った人物が姿を現す。

「こんにちはー!」

 その人物が挨拶をしながら、ヘルメットを取ると敦子とは異なるショートの黒髪を見せた。

 やがて戦車道受講者と歩兵道受講者が整列すると、その前に歩兵道教官敦子と自衛官の女性が立つ。

「騙されたー」

「でも、素敵そうな方ですよね」

 カッコイイ教官が来ると聞いていた沙織は落胆した様子を見せ、華がそうフォローを入れる。

「特別講師の戦車教導隊、蝶野亜美一尉だ」

「よろしくね」

 桃に紹介された女性自衛官……蝶野亜美がみんなに向かってそう言う。

「戦車道は初めての方が多いと聞いていますが、一緒に頑張りましょう」

 そう言って戦車道受講者たちの顔を確認するように見回す。

「あれ?西住師範のお嬢様ではありません?」

 すると亜美の目線はみほで止まり、話しかける。

「あ……」

「師範にはお世話になっているんです。お姉様も元気?」

「あ、はい……」

 亜美の言葉に若干辛そうに返事をするみほ。

「西住師範って?」

「有名なの?」

 亜美の言葉を聞いた生徒たちがざわめきだす。

「西住流っていうのはね、戦車道の流派の中でも、最も由緒ある流派なの」

「……」

 戦車道受講者たちに説明するがやはりみほの顔は辛そうだった。

「おい、蝶野。人様の家の事をベラベラと話すな、お前の悪い癖だ」

 敦子が話を遮るように言った。

「それもそうね。それはそうとあなたの無理強いを聞いた方の身にもなりなさいよね!」

「仕方ないでしょ、実弾を使う訓練には特製制服が必要だったんだから」

 亜美に言われるが敦子も腕を組んでそう言う。

「そっちの生徒は歩兵道の生徒ね、照月敦子の教え子ってわけね」

 そう言って歩兵道受講者の顔を確認していく。

「ふーん、そういうことね。あなたが大洗男子学園の歩兵道の授業を引き受けた理由がわかったわ」

 亜美は凛祢の顔を見てからそう言った。

 どうやら蝶野亜美も自分のことを知っているようだ。

「それより、早く授業を始めるわよ」

「はいはい、それじゃあ本格戦闘練習試合を始めるわ」

「え?」

「なに?」

 亜美の言葉にそれぞれが驚きの表情を見せていく。

 っということはあのコンテナの中身は歩兵道用の特製制服や弾薬か……。

 凛祢は瞬時にコンテナに目を目を向ける

「あの、いきなりですか?」

「大丈夫よ、何事も実戦実戦。戦車なんてバッーと動かしてダッーと操作してドーンと撃てばいいんだから!歩兵の方も、同じよ!」

 柚子の問いに擬音混じりに返答する。

 あの人、あんなのでよく教官でいられるな。

「歩兵道の生徒はコンテナ内の特製制服に着替えろ。実弾を扱い危険だから、心して取り掛かれ!」

「了解!」

 歩兵道受講者たちは大きく返事をして、コンテナに向かっていく。

 歩兵道連盟貸し出し用である迷彩柄の特製制服に着替えるとそれぞれ拳銃をベルトのホルスターにしまっていく。

 凛祢はコンバットナイフをベルトの鞘に収納しC-4爆弾の入ったバックパックを背負う。

「凛祢、銃は?」

「ないけど、射撃はあんまり得意じゃないし」

「はー?そういう問題じゃ無くね?」

 八尋はそう言ってP90を持ち上げる。

「先導の言う通りだ葛城。いくら工兵とはいえ拳銃くらいは持っていけ、当たらなくても牽制になればいい」

「はい……」

 敦子にそう言われ凛祢はファイブセブンに実弾入りの弾倉を入れホルスターと共にベルトに装備する。

 見た感じ整備は行き届き、使用するうえで支障はないようだった。

「みんな、随伴する分隊分けは一昨日に言ったとおりだ」

「それぞれ緊張感を持って行動してください」

 英治と宗司もそれぞれの主武装を肩にかけて言った。

「それじゃあそれぞれ小隊ごとに指定の位置に向かえ」

 雄二の声に合わせてε分隊、Δ分隊、γ分隊、β分隊、α分隊は指定されたスタート地点に向かうため別れる。

 戦場の場所は演習所にも使われ、38tを発見した山林。

 スタート地点で随伴する戦車が現れるのを待っている。

「で、大丈夫なのか?」

「本当に実戦訓練になったぞ、おい」

 P90を持つ八尋とバリスタを持った翼が木に寄りかかりながら言った。

「それで、分隊長はどうしますか?」

「「凛祢で」」

「なんでだよ」

「「経験者だから」」

 八尋と翼は息ぴったりで凛祢に目線を向ける。

 FALを持った塁も賛成だと言っている。

 凛祢はため息をついた。

 分隊長はあんまりやりたくなかった、プレッシャーがかかるし指示はあまり出したくない。

 そんな話をしていると随伴するべき戦車、Ⅳ号がこちらに走行してくる。

「みんなスタート地点に着いたようね。ルールは殲滅戦、全ての戦車を走行不能にするだけよ」

「そして歩兵は攻撃してくる戦車と歩兵から自分の戦車を守り抜け。歩兵は失格になろうと負けにはならんが、戦車が走行不能になればそれまでだ。つまり、歩兵は戦車を守る盾であり、戦車は敵を倒す剣だ!その役割を全うせよ!」

 歩兵のインカムと戦車内女子の通信機から亜美と敦子の声が聞こえた。

「戦車道、歩兵道は礼から始まり礼に終わるの」

「一同!礼っ!」

「よろしくお願いします!」

 戦車道受講者と歩兵道受講者は礼をしながら挨拶をする。

「「試合開始!」」

 亜美と敦子の合図で、試合が開始される。

 

 

 Aチーム&α分隊。

「どうするんだ?」

「自分たち以外は敵だから無闇に動き回るのは得策じゃない、武部さん」

 凛祢は通信を沙織に繫ぐ。

「ん、なに?」

「作戦はあるのか?」

「あるわけないじゃん」

「そうか……最高指揮権は車長にあるからなにか作戦があったら聞きたかったんだけど」

 凛祢は通信を聞いて思わずため息をつく。

「葛城さん、今の位置からなら八旧式とⅢ突が近いですけど……」

「それもそうだ――」

「作戦ってわけじゃないけど真っ先に生徒会潰さない?教官、女の人だったんだもん」

 みほの意見を聞いて作戦を出そうとしたとき沙織によって遮られる。

「え?」

「あー生徒会か。まあいいんじゃね?」

 みほは思わず沙織を見た。

 八尋もP90の安全装置を外し射撃可能状態で言った。

 何の戦術も戦略的判断も無く、個人的な感情で判断するのは流石にまずいと凛祢とみほは思った。

「まだ言ってるんですか?」

「私が決めていいんでしょう?車長なんだから」

 運転席の華も呆れたように言うが、沙織は強引に決めようとする。

「う、うん……」

「……そうなんだが」

 その言葉に従うしかなかったみほと凛祢は引き下がる。

 歩兵である自分たちが臨機応変に対応すればなんとか……。

「決まったみたいだな」

「葛城殿、大丈夫でしょうか?」

「危なくなったら俺に従ってくれ」

「え……了解です」

 翼も狙撃銃のスコープをチェックしながら言った。凛祢は耳元で言うと塁も小声で返事をする。

 凛祢や塁、みほが少なからず不安を抱きながら行動を始めていく。

「じゃあ、生徒会チームの居る方へ前進!……で、どっち?」

 自分で命令しておきながら、そう尋ねる沙織。

「Eチームとε分隊は……」

 塁が地図を見ながら位置を教えようとした時だった。

 不意に何かに気づいた凛祢は塁の姿勢を強引に低くさせ叫ぶ。

「伏せろ!」

 その声と同時に八尋と翼もしゃがみ込む。すると、多数の銃弾が次々と上部を過ぎていく。

 実弾の飛んできた方向にはβ分隊、偵察兵である漣と淳、二人の姿があった。

「くっ!奇襲か!」

「翼、行くぞ!」

「了解だ」

 凛祢の声を聞いて、八尋は声を合図に二人に向かって走り出す。翼もその場にうつ伏せになりスコープ越しに漣を見る。

「待て!八尋!」

「大丈夫だって!」

 八尋は凛祢の指示を聞かずにP90を発砲する。銃弾は淳の腹部に命中し、痛みにしゃがみ込む。

 瞬時に漣が八尋に狙いを定めるが翼が放った銃弾が肩部に命中し、ひるんだ。

 二人の偵察兵だけ?残りの二人と八九式はどこに?凛祢は無言で周りに目を向ける。

「俺たちでも十分やれるぜ!」

 八尋は漣に向かって更にP90を発砲する。銃弾が命中し、漣が倒れこむと特製制服から戦死判定を告げるアラームが響く。

「ぐっ!」

「よし、次は――」

 漣がうめき声を上げ、八尋が淳に銃口を向けようとした瞬間、発砲音と共に銃弾が手元からP90を弾き飛ばした。

 それと同時に、Ⅳ号の履帯を砲弾が掠める。

 凛祢は砲弾の飛んできた方向に目を向けた、そこにはBチームの八九式の姿があった。

「ッ!マジかよ!」

 八尋は手の痛みに耐えながら一歩ずつ後退する。

「凄い音……」

「今、空気震えたよ」

「こんなスパイク、打ってみたい……」

 八九式の車両内ではバレー部の装填手の忍、通信手の妙子、砲手のあけびが初めて見聞きする砲撃の音と、振動に驚きの顔を見せていた。

「まずはⅣ号とアルファ分隊を叩く!」

 バレー部キャプテンの車長兼装填手、典子が次弾を装填する。

 またも発砲音が響いた瞬間、銃弾が八尋の右足を撃つ抜く。特製制服によって弾は貫通しないが痛みはあり、八尋はその場に転んでしまう。

「痛っ!やべっ!」

 その隙を見て、淳が百式軽機関銃前期型を構え、撃つ。

「ぐあー!」

 数秒間放たれた銃弾の多くは八尋に命中した。

「八尋!」

 叫ぶ翼、瞬時に地面に一つの手榴弾が投げ込まれた。

 いち早く気づき、凛祢と塁はⅣ号を盾に隠れる。

「しまっ――」

 爆発した手榴弾は翼を巻き込み轟音を立てる。

 同時に八尋と翼の戦死判定アラームが鳴り響く。

「くっ!やられた、歩兵を二人も失って、こちらの歩兵戦力は大幅ダウンした!」

 凛祢はそう言いながら電管付きのC-4爆弾を一つ地面に置く。

「塁、応戦を――」

「こわーい!逃げようっ!!」

 凛祢の声をかき消すように通信機から沙織の声が聞こえる。

 それと同時にⅣ号が発進する。

「ええ?」

「だって怖いんだもん!みんなも逃げてー!」

 沙織の声を聞き、二人はアイコンタクトを取って走る。

 が、凛祢はまた何かに気づき足を止める。

 数発の銃弾が目の前を過ぎ、木の幹に命中した、凛祢はコンバットナイフとファイブセブンを抜き構える。

 草むらからβ分隊、分隊長の辰巳が姿を現し、二人のナイフがぶつかる。

 百式軽機関銃を持っていないところを見ると、CQCの方が有効だと思ったようだな。だが、相手が悪かったな。

 低い金属音を上げながら震えるコンバットナイフ。

「さすが、やりますね」

「こんなにも早く全員で奇襲をかけてくるとは」

「バスケで速攻は得意ですから!」

 そう言って軽く笑みを浮かべる辰巳。

 おそらく、八尋を狙った狙撃もβ分隊か……。

 次々とコンバットナイフを突き出す辰巳。

 凛祢はすべて受け流し一歩ずつⅣ号の進む方に後退する。辰巳の数百メートル後方からはβ分隊の淳と迅、八九式が迫ってくる。

「もういいだろ……」

 凛祢は迫り来るコンバットナイフを持つ手を避け、右手のファイブセブンを近距離で発砲する。

 発砲音と共に二発の弾は辰巳の太ももに命中する。

「痛い!」

 そんな声を上げる辰巳の腹部を蹴り飛ばす。

 凛祢は全力で走りながらファイブセブンをホルスターにしまい、ベルトのリモコンを掴む。

 ベータ分隊と八九式が負傷した辰巳に追いついたと同時に辰巳の足元に置かれたC-4爆弾が爆発した。

「なになに?」

「やられた、罠か!」

 妙子と典子の声がバスケ部のインカムから響く。

 八九式の右側を走っていた淳は無事だったが辰巳と迅からは戦死判定のアラームが鳴る。

「悪い……俺のせいで」

「いや、まだだよ私たちは負けてない!」

 典子がそう言うと八九式はⅣ号を追いかけるため前進を始める。

 数分ほど走りⅣ号に追いつく。

 

 

「……目標は東へ向かって逃走中、随伴の歩兵は二人だけ。後ろからは八九式が追ってるね」

「これはⅣ号を倒せるチャンスだな」

 木の上で双眼鏡越しにⅣ号の動きを観察するジルと景綱。

「まずはⅣ号だ、秘密協定は締結済み」

「二対一とは騎士としてどうかと思うが、賽は投げられた!」

 ジルと景綱のインカムからⅢ突の車長であるエルヴィンとγ分隊の分隊長であるアーサーの声が聞こえた。

 

 

「分かれ道だけど左からは来てるよ!」

 Y字の分かれ道に差し掛かるが左の道からはⅢ突が前進している。

 沙織はまた頼りない声を出す。

「連戦かよ!後方からは八九式が近づいてくる、右だ!」

 凛祢はインカム越しに沙織に言う。

「獲物を捉えた!」

「南八幡第五冊!」

 装填手であるカエサルと操縦手のおりょうがⅣ号に向かって叫ぶ。

「敵は二人と一両、ここで仕留める!」

 ジルもワルサーMPを手に叫んだ。

「挟まれた!あっちに逃げよう!」

「聞こえません!」

「右斜め前!」

「塁、Ⅳ号に掴まれ!」

 操縦手である華の右肩を蹴り、沙織が叫ぶと凛祢と塁はⅣ号によじ登る。

 同時にⅣ号は全速力で前進する。

「凛祢殿、これを」

「な、翼のバリスタ?」

「回収しておきました」

 塁は肩にかけていたバリスタを凛祢に見せる。

 よくあんな状況で拾えたもんだと関心する。

 バリスタを見て、ないよりはマシかと思い受け取った。

「八尋と翼がいない以上俺たちだけで戦うしかない。気を引き締めろ」

「はい!」

 塁は凛祢の声にしっかりと返事する。

 みほはⅣ号側面の窓から顔を出してなにかに気づき叫ぶ。

「あぶない!」

 凛祢も目線を前方に向けるとⅣ号の進む先には大洗女子学園の制服を着た女子生徒の姿があった。

 本を頭に乗せ、寝っ転がっているところを見ると読書していて眠ってしまったってところだろう。

「西住、あの子を回収しよう。ここにいたら危険だ。時間は俺と塁で稼ぐ」

「わかりました」

 凛祢はそう言うと手を離し、地面に着地するとバリスタを握り直し戦闘態勢に入るのだった。




凛祢は完全にオリジナルの存在ですが他のキャラは少なからずガルパンの生徒を鏡写しの男化したものです。
読んでいて不快になったら申し訳ございません。
これからも続きを書くので読んでもらえると嬉しいです
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