ガールズ&パンツァー~地を駆ける歩兵達~   作:UNIMITES

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どうもUNIMITESです。
なんとか5月中に上げることができました。
では本編をどうぞ


第27話 決戦前夜

 継続&冬樹学園との試合の翌日。

 登校すると校舎に「祝、決勝進出」と書かれていた張り紙が廊下の壁に貼りだされていたことに気づいた。

 ウチの学園の新聞部は仕事が早いと実感する。

「おー、俺たち学園艦中の有名人だな!これは俺へのファンレターが来るのは時間の問題だぜ」

「八尋、お前はいつも元気でいいな。俺は決勝戦が心配だってのに」

 翼も履き替えた靴を下駄箱に入れる。

「こいつは馬鹿なだけだろ……」

「んだとゴラァ?」

「まぁまぁ。喧嘩しないで」

 俊也が吐き捨てるように呟くと塁が間に割って入った。

「大丈夫さ、ここまで来たんだ。必ず勝利の道は作るよ」

「凛祢殿の言う通りですね」

 凛祢たちは再び歩き出すと教室へと向かう。

チャイムの音を合図に、午前の授業を終えて戦車道と歩兵道の授業をするべく履修者たちは校庭のガレージに集まっていた。

 バレー部にバスケ部、歴女チームと歴史男子チーム、一年生チーム、風紀委員と青赤黄の委員会役員、英子たちオオカミチーム、生徒会役員の姿はすでにガレージ内にある。

 少々遅れてガレージ前にやってきた凛祢たちヤブイヌ分隊の5人もガレージ内に入っていく。

「次はいよいよ決勝戦だ!対戦相手は黒森峰女学園と黒森峰男子学園による黒森峰連合!」

「前年の準優勝校とはいえ、それまで黒森峰連合は9連覇を達成していた学校だ!」

 桃と雄二の説明に凛祢は去年の事を思い出していた。

 去年の全国大会で黒森峰連合は、プラウダ&ファークト連合に敗北したものの実力は拮抗していた。

 いや、もしかしたら実力は黒森峰連合の方が上だったかもしれない。

 それでも、少しの油断とミスで戦局はひっくり返ることがある。

 ミカたち継続&冬樹連合の試合の様に。準決勝で自分たち大洗連合はなんとか勝てたとはいえ、ギリギリの勝利であったことは明白だ。

 たとえ、最後の一輌、一人になっても戦い続ける。そして、この学園を……守って見せるさ。

「全校の期待がかかっているから頑張ってよー!」

「決勝戦まで来て負けてしまってはプラウダやファークトの連中にも悪いしな」

 杏と英治も自分たちが期待されていることを再確認させるように言葉を送る。

「本日はみんな戦車の整備に当たってください。歩兵の皆さんはそれぞれの装備の確認を」

「「「はい!」」」

 宗司の言葉を合図に大洗連合は返事をしてそれぞれの仕事にあたる。

 そして凛祢とみほ、英子たちはオオカミチームに生徒会役員は大洗女子学園、生徒会室にて作戦会議を行っていた。

「決勝戦は20輌までいいそうですから……おそらく相手戦車の配置はティーガー、パンター、ヤークトパンター……これではあまりに戦力が」

「はぁ、戦車の名前を聞いただけで戦力的差があるのがわかっちまうぜ」

 みほが用紙に描かれた相手を現す四角に丸を付けていく。

 その様子を見ていた不知火は思わずため息をついた。

「歩兵だってファークトの様に砲兵中心である編成の上に、狙撃兵と突撃兵、数は少ないが偵察兵にも抜かりはない」

 塁たちがまとめていた黒森峰の歩兵データを確認していた凛祢も非情な現実を突きつける。

「で、でも、みほさんは黒森峰にいたんでしょ?相手の弱点とか分かるんじゃないの?」

「えっと、お姉ちゃんや聖羅さんには隙が無くて……」

 続けて凛祢の言葉を聞いていた英子は何とかならないかと言わんばかりにそんなことを問い掛ける。

 しかし、求めた答えは返ってこなかった。

 厄介なのは、戦車だけじゃない。黒森峰の歩兵だってその実力は確かなものだ。

 武器や戦車の数と質だって、一目見れば差がはっきりしすぎている。

「「「うーん……」」」

 戦う前から圧倒的劣勢な状況に、生徒会役員だけでなく英子たちまで視線を落としていた。

「どこかで戦車叩き売りしてませんかね?」

「色んなクラブが義援金出してくれたんだけど、戦車は無理かもねぇ」

「その分は、今ある戦車の補強、または改造に回しましょうか。駆動車も1輌増やせればいい所ですね」

「そうですね」

「そうするしかないですね」

 杏たちの提案に、凛祢とみほも賛成する。

「じゃあ他には――」

 英子が「どうするの」と言い出そうとした時だった。

 生徒会室の扉が勢いよく開け放たれる。

「話は聞かせてもらった―!」

「……え?」

 急な叫びに、視線はその少女に集まる。

「ちょ、ちょっと風香!」

「なーによー?」

「そんないきなり入っていったら迷惑でしょ」

「大丈夫だって!ウチの生徒会なんていつもこんな感じっしょ?」

 扉を開け放った少女を制止しようと170㎝を越えるであろう長身長の女が現れる。

「ん?涼月ちゃんに初月ちゃん?」

「やっほー杏。久しぶりー。話は聞かせてもらったよ。あたしとスズも戦車道を履修するよ!」

 風香は書類を前に突き出した。

 その書類は戦車道を履修するために選択授業を変えるという書類だった。

 杏が書類に目を通し再び、目の前に立つ2人に視線を向ける。

「ま、いいんじゃない?」

「本当!?さっすが杏!」

「そんなテキトーで本当に大丈夫なの?」

 嬉しそうに笑みを浮かべる風香とは真逆に華蓮は心配そうな視線を向けた。

「2人が戦車道を履修してくれるのは嬉しいんだけど……」

「今は2人が乗れる戦車なんてないぞ」

 柚子と桃も杏から受け取った書類に目を通すとそんなことを呟く。

 すると風香は待ってましたと言わんばかりにまったく育っていない胸を張った。

「あたしらを侮ってもらっちゃー困るってもんよ!それにその話はさっき外で扉越しに聞いた!」

「なんで、自信満々なの……?」

「だって、あるもん。戦車は!ねぇスズ!」

「確かにあるけど……どんなのかは見てもらった方が早いかな?」

「これなら!」

「もしかすると……」

 風香が笑みを浮べていると華蓮も呟いた。

 そんな様子を見て、柚子と桃は希望を抱いて顔を見合わせる。

 

 

 ガレージ内に運び込まれた戦車を凛祢や他の生徒たはと同様に妙味深く見つめる。

 その戦車は、クルセイダーなど同じ巡航戦車であり、その後継型にあたる巡航戦車Mk.Ⅶ『キャバリエ』であった。

 性能としては悪くはないが、巡航戦車でありながらⅣ号と変わらない速度しか出せず巡航戦車の中でも最も低速であったため歴史でもあまり活躍しなかったって聞いたけど。

 確か車長と砲手、操縦手以外にも装填手などが必要だったはず……。

「へぇー、キャバリエですか!」

「イギリス製の戦車がまさか大洗にあったなんて!」

「「凄いです!」」

 目を輝かせていた優花里と塁は口裏を揃えて、そんな言葉を口にしていた。

 他の生徒たちもキャバリエを見て、驚きの視線を向けている。

「いいねぇいいねぇ。このあたしらを見直したかのような視線!いいぞ、もっとやれ」

「調子に乗らないでよ……」

「つれないねぇ」

 お調子者の風香とは真逆にクールで落ち着いた様子の華蓮が呆れた視線を向ける。

「性能としては悪くないよねー」

「確かに、巡航戦車としては遅くてもⅣ号とそう変わりませんから」

「そうですね」

 杏たちも納得したように頷いていた。

「みんな、新しく加わった涼月ちゃんと初月ちゃんだよ!」

「涼月華蓮です。よろしくお願いします」

「はーい!あたし初月風香って言うんだ!よろしくねー!」

 紹介され、華蓮と風香は自己紹介をする。

「なんだ、照月さんたちの知り合いだったのか?」

「うん。3年間同じクラスだったしね」

 不知火の問いに英子も返答する。

「そうだよ!照月さんたちを見て、私たちもしたくなったんだ戦車道!スズを連れてくるのは大変だったけどねぇ」

「別に、やることにしたからいいでしょ。私も少しは興味あったし……」

 英子たちと話始めると風香はまた満面の笑みを浮かべていた。

 おそらく彼女たちも3年生であるのだろう。

 英子やセレナとは結構仲が良さそうであり、それは一目でわかった。

「ねえ、風香。でも、この戦車は……」

「それなら大丈夫だって!あたしらで動かせばいいんだから!」

 華蓮の言葉を遮る様に風香は自信満々であった。

 するとセレナが口を開いた。

「ねぇ、キャバリエって車長に砲手、装填手と操縦手。最低でも乗員4人は必要なんじゃないかしら?」

「んえ?そうなの?……どうしよ、スズ?」

「私に言われても……」

「うーん……なら、照月ちゃんたちと涼月ちゃんたちが一緒に乗ろうか?キャバリエに。そしたら4人だし、照月ちゃんは通信手とかも兼任してたから」

 2人の様子を見つめていた杏は少し考えた後、思いついたように再び視線を向ける。

「ちょ、ちょっと待ってよ!私たちは九七式(テケ)があるでしょ!」

「まあ、そうよね」

 英子が慌てて反論するとセレナも苦笑いを浮かべる。

「そこをなんとかさー。ねー照月ちゃーん」

「風香まで、ちゃん付けで呼ばないでってば!」

「いいじゃない英子。テケは戦車道で使うには少し軽かったし、なによりキャバリエなら私たち4人で乗れるんだもの」

「はぁ、もう分かったわよ!やればいいんでしょ……」

 英子はようやく納得したのか声を上げる。

 

 

 一方、風紀委員である緑子たちと青葉たちの6人は軽トラックで学園艦内を周っていた。

「大洗女子学園、大洗男子学園の皆さまの風紀を守る、皆さまに愛されている皆さまの風紀委員です!」

「風紀委員以外にも図書委員長と保健委員長もいますよー」

 緑子が拡声器を使って呼び掛けている隣で青葉や赤羽は戦車道、歩兵道の歴史が書かれた書類に目を通していた。

「戦車や銃火器を見かけたら、速やかにお知らせください!」

「街中で戦車と銃火器が見つかるとは思えないけどな」

「赤羽先輩。駄目ですよ、そんなこと言っちゃ」

「「……」」

 後方で皮肉を口にする赤羽に、モヨ子が注意するように声をかける。

 黄場と希美は無言のまま外に視線を向けていた。

「もう、あなたたちもちゃんと呼びかけしなさいよ!」

「拡声機は一つしかないんだから、しょうがないじゃないですか。そうだ、そど子さん。次は商店街のほうに行ってみましょう」

「……行先は青葉くんに任せるわ」

 運転している青葉がハンドルを操作し、車体は商店街の方へと向かって行った。

 

 

 そして、ウサギさんチームとヤマネコ分隊は駐車場内で戦車を探し回っていた。

「戦車を見かけた方はお知らせください!」

「他にも銃火器なんかもあったらお知らせください!」

 梓と亮が拡声機を使って呼びかけをしている。

「ご不要の戦車があったら回収しまーす!」

「違うじゃーん」

「言ってみたくなるじゃん」

 あやの言葉に優希がツッコむと他の者も思わず笑い声を上げた。

「あやさんたちは相変わらずだな」

「でもさ、仮に戦車見つかったところで乗る奴いなくね?」

「まあ結局のところ履修者が増えなきゃ、意味ない気もするけど……何もしないよりいいんじゃないの?」

『それでも、やれることはやっておくべき』

 歩に続いてアキラ、礼がそんな言葉を口にすると銀がまとめるようにメモ帳を見せる。

「本当、馬鹿だなぁあやは」

「酷ーい!よりによって優希ちゃんに言われた!」

 あやが叫ぶと再び笑い声が響いていた。

 

 

 決勝戦への準備の日々が進む中、ガレージ内では杏が自慢げに胸を張っていた。

「義援金と売却したテケのお金でヘッツァー改造キットとキューベル・ワーゲン買ったから38tに取り付けよう!」

「え?テケ売っちゃったの!?」

「テケはー売っちまったぜー、ワイルドだろぉ?」

「風香は黙ってて!」

 驚いていた英子の隣で風香も自慢げに呟く。

 しかし、すぐに英子が鋭い視線を向けるとびくついたように視線を逸らした。

「怒られちまったぜー」

「もう、馬鹿言ってないで行くよ風香」

 風香はそんな事を口にすると華蓮と共にキャバリエの方へと歩いて行った。

「結構無理やりよねぇ」

「後はⅣ号にシュルツェンを取り付けましょう」

「いいねぇ!」

 桃や杏も戦力を少しでも強化しようといろんな事を提案していた。

 みほもそんな様子を見て笑みを浮かべる。

「葛城、他には何かやることはあるか?」

「ヤブイヌ分隊のFiveseveNをロングマガジンに変更するのはどうでしょう?」

「悪くないかもな。ヤブイヌ分隊はマガジンの共有もできるし」

 英治たちもどんなに小さな改善でも実行していくことを決めた。

 その時、大きなあくびをしてガレージ内へと侵入しているヒムロの姿が現れた。

 凛祢たちは思わず視線を向ける。

「ふぁー……よう、来てたのか英治」

「ヒムロ。お前が登校してきたってことは、例の物はできたのか?」

「おう、俺の持てる力全部使って作り上げたぜ……」

 ヒムロは背負っていた刀剣を鞘ごと英治に渡すと、ヘッツァー改造キットとキャバリエが目に入る。

「って、おいおいいつの間に戦車を増やしたんだ?それになんでヘッツァーの頭がここにあんだ?」

「ヒムローちょうどよかった。ヘッツァー改造キットを38tに取り付けるから手伝ってー」

「はぁ?ったく、少しは休ませろっての……ヤガミ、ヤマケン。チェーンを繫げ、38tに取り付けんなら滑車で吊り下げた方が速い。にしても随分無理やりなことを考えんな」

「「りょうかーい」」

 眠そうな目で準備を始めるヒムロの指示で、ヤガミとヤマケンもヘッツァーの頭にフックを繫いだ鎖を取り付け始める。

「ヒムロくん何か手伝えることはある?」

「ヤガミたちの手伝いでもしてくれ。ふぁー」

「随分眠そうだね」

「そりゃあ、この数日間ロクに寝てねぇからな。ずっとアーサーの奴の剣を打ってたからな……ま、スズキやホシノも悪かったな。こっちの整備を任せっきりにして」

 ヒムロも鎖を引っ張り上げると機械にセットして操作を始める。

「いやー。そんなに大変じゃなかったよ?ヤガミくんとヤマケンくんもいたしね」

「そうそう。ヒムロくんだってさぼっていたわけじゃないし。お互い様でしょ」

 スズキとホシノは笑みを浮かべ口にするとヒムロは「それはよかった」と言わんばかりに安心した表情を見せた。

「スズキ、ホシノー。行くよー」

「いま、行くー」

「じゃあ、ヒムロくんも頑張ってね!」

 自動車部の4人も戦車の元へと歩いていく。

「実は私たちのみんなの中で一番頑張っているのはヒムロくん、なのかもね」

「確かに。戦車や歩兵のみんなの武器だけじゃなく、アーサーくんの剣を作ったり本当に頑張ってるよヒムロくんは……」

 再び2人が振り返るとヒムロはまたあくびをしていた。

「んじゃ、私たちも全力で手伝ってあげないとね」

「うん。急いで整備終わらせないと!」

 そう言ってホシノとスズキはポルシェティーガーの整備にあたる。

「「あの西住さん、葛城くん!」」

「あ、猫田さん」

「ん?君は……」

 不意に名前を呼ばれた凛祢とみほは振り返る。

 視線の先には呼んだ本人であろう生徒が立っていた。

 短い黒髪と細い体つきをしている男子生徒と腰まで伸びた髪の毛に丸メガネを掛けた女子生徒。

「だれだっけ?」

「ズゴー!……同じクラスのアインですよ!日向(ひゅうが)アイン!」

 凛祢の言葉にアインは思わずズッコケる。

「あー、居たなぁ。日向、で、どうした?」

 思い出したように頷くと気を取り直して凛祢は質問を投げかける。

「えっと、あの僕たちも戦車道と歩兵道したいんだけど……」

「その、僕たちも役に立ちたいって言うか……」

 ねこにゃーとアインは慣れていないのか短く呟く。

「それは朗報だな。戦力は多いほうがいい」

「ほ、本当?僕、エイム力には自信があるよ……」

「僕も操縦は慣れているから……」

「は?エイム力?」

 思いもよらない答えだったからかねこにゃーとアインは驚きながらも嬉しそうな表情を浮かべていた。

 しかし凛祢はアインの口から出た言葉に疑問を抱く。

 聞き覚えのない言葉だったからだ。

「おい、葛城。生徒会の許可もなく人員を増やされては困る」

「分かってますよ。ウチには戦車も歩兵用の武器がギリギリだってことくらい……日向、他に歩兵どうしたいってやつはいるか?」

「ううん。実は僕だけで……」

 日向は自信なさそうに呟く。

 そんな答えに凛祢は再び考え込むように腕を組む。

「会長。義援金ってあとどれくらい残ってます?」

「ほとんど使ってしまったからな、精々数万円程度だろう」

 英治から帰ってきた答えに凛祢は肩を落とした。

 数万円程度では自動拳銃を買うのが精いっぱいだろう。

 今まで拳銃しか銃を装備してこなかった自分が言うのもなんだが、正直拳銃だけでは戦力にならない。

 工兵であるなら別だが。

 初心者であるならなおさら、主武装にはライフルや短機関銃といった武器が必要だ。

 どうしたものか……。

「1人だけなら、雄二の使ってたMP18を使ってもらうのはどうですか?」

「いいんじゃねぇか?俺は砲兵になってもう使わないしな」

 雄二も異論はないと言わんばかりに頷いていた。

「じゃあ、拳銃だけ購入しておきましょうか」

「あの、戦車は?」

「それは流石に……」

 みほが問い掛けると宗司は答えにくそうに視線を逸らす。

「ですよね」

 思った通りの答えに凛祢も視線を落とす。

「猫田さん、もうどこを探しても戦車が無くて……」

「あの戦車は試合には出ないの?」

「「あの戦車?」」

 ねこにゃーのくちから出た言葉に思わず聞き返す。

 そして凛祢やみほたちが学園近くの駐車場を訪れると、そこにはあった。

 確かに戦車があった。

 いつからそこにあったのか、なぜ今まで気づかなかったのか。

 問いただしたくなるほど、近くに戦車が1台あったのだ。

「こんなところに三式中戦車が」

「なんで、いままで気づかなかったんですか?」

「俺に言われても」

 アインの質問に凛祢はそう答えるしかなかった。

「あれ?これ使えるんですか?」

「ずっと置きっぱなしになってたから使えないんだと思ってました」

 桂里奈とあやは見つけてはいたのか、そんな言葉を口にする。

「いままでだって動きそうにないのを動くようにしたんだから使えるって思うだろ、普通」

「まあ、いいじゃないの。見つかったんだし」

 翔が本音を口にすると礼がフォローする。

「あはは」

「……」

 戦車を見つめていたみほも苦笑いしていた。

 

 

 翌日、午前の訓練を終えた凛祢とみほはガレージ前に戻ってきていた。

 ガレージ前には整備中のポルシェティーガー、キャバリエ、三式中戦車の姿がある。

「キャバリエはオオカミさんチームと涼月さん、初月さんに乗ってもらうとして……」

「相変わらず、歩兵は衛宮だけか。英子、車内の担当は決めたのか?」

 凛祢はキューポラから上半身を乗り出す英子に問い掛ける。

「ええ、一様ね。車長と通信手が私。操縦手はセレナ」

「砲手は私がやらせてもらってます」

「装填手はあたしがやってるよー。装填ならお任せってね!」

「俺は狙撃兵だぜ」

 英子に続いて華蓮、風香が答える。

「そうなんですか」

「衛宮の兵科はみんな知ってるよ」

「冷てーな、おい!」

「ふふ」

 凛祢と不知火の会話にみほは思わず笑みを浮かべる。

「こっちは?」

「あ、仲間はもう呼んでるから」

「仲間?」

 みほの質問に答えるようにねこにゃーが指さすと三式中戦車に前には2人の女子生徒が立っていた。

「「うわー!かっこいい!」」

「みんなオンラインの戦車ゲームしてる仲間です。あ、僕ねこにゃーです」

「は!あなたが!ももんがーです!」

「私、ぴよたんです!」

 ねこにゃーの名前を聞いて2人も自己紹介を済ませる。

「日向」

「なんですか?」

「お前もネットでFPSとか言うゲームしてるって言ってたよな。なんか似てるよな」

「そう、ですね。僕はソロですけど……」

 凛祢の言葉にアインは少々力なく返答した。

「わ、わるい……今度、塁でも誘ってみたらどうだ?そう言うのも好きだろうし」

「はい……」

 申し訳ないと凛祢は謝罪する。

 それからも決勝戦に向けての戦車と銃火器の改造、戦力アップは続いた。

 試合まで残り5日。訓練を終えた凛祢は玄十郎との格闘術訓練に取り組んでいる。

 玄十郎が放った拳を右手で切り上げるように弾く。瞬時に左手でカウンターするように拳を放つ。

「……!」

「フッ……」

 凛祢の放った拳は玄十郎の片腕によって防御されていた。

「震電返しは問題ないようだな。まさか、この短期間でここまできる様になるとは」

「……」

 凛祢は無言のまま玄十郎の方見つめていた。

 あとは無拍子だけ。ここまできたんだ、何としても取得して見せるさ。

「無拍子は神速の技法。それは知っているだろう?」

「はい……」

「凛祢直感に頼ることなく回避してみろ」

「え……?」

 玄十郎はそう言うと動いた。

 距離を詰めた瞬間。一瞬の出来事だ。

 いままでとは違う、玄十郎は一瞬で凛祢の腹部に烈風拳を見舞っていた。

 凛祢は堪らず、地面に伏せる。

 腹部には今までにない痛みを感じていた。

 技は知っている。モーションのない高速の技。しかし、使えば体への負担で動けなくなるのが難点である、それが橘花・無拍子。

「これが覇王流絶技『橘花・無拍子』だ」

「ああ、しってるよ」

 凛祢はよろよろと立ち上がる。

 玄十郎が手を抜いていたとはいえ、無拍子は高速技であるがゆえにパワーがある。

 痛みを腹部に感じつつも先ほどの動きを思い出していた。

「さあやってみろ。お前は勝つためにはこの技が必要だったのであろう?」

「ああ。聖羅に勝つにはどうしても必要だ」

 凛祢は先ほどの玄十郎と同様に構える。

 そして、速さを意識して流星掌打を放った。

 しかし、玄十郎は向かってくる凛祢の腕を掴み取ったことで技は届かなかった。

「ぐっ!」

「この程度の速さでは簡単に防御され、カウンターされるぞ」

 凛祢は素早く腕を振りほど、き一度距離を取る様に後退する。

 腕は力強く掴まれたせいか、痛みを感じた。

「さあ、どんどん打ってこい」

「はっ!」

 それから凛祢の修行は続いた。

 数時間ほど過ぎた頃だろうか、凛祢は肩で息をしていた。

 激しく疲弊していたが、それでも視線は玄十郎に向いている。

 すると玄十郎は玄関に向かって歩き出した。

「凛祢、今日は終了しよう。これ以上続けても明日の訓練に響くだろう」

「はい……」

 凛祢も視線を落とし、歩き出す。

 正直、今の状況に焦りを感じていた。

 無拍子をあと数日で本当に取得できるのだろうか?

 しかし、今の自分では勝てない。それは、わかっていた。

「凛祢、ワシは明後日で学園艦を離れることになる」

「どうしてですか!?まだ、俺は――」

「ここまで技を取得したのなら、あとはお前が技法を使いこなせるかにある。お前1人でも修行できるだろう」

 玄十郎は振り返ることもなく、そう口にした。

 確かに、ここまで覇王流の技を取得した。あとはそれを組み合せ、実戦に使えるように仕上げるだけ。

「……」

「自信を持て、凛祢。お前にならできる。鞠菜の戦いを見続けてきたお前なら」

「はい」

 玄十郎の言葉に凛祢は短く返事をした。

 鞠菜の戦闘術は自分が良く知っている。

 その夜、布団の上で凛祢は鞠菜に教えられた戦闘術を思い出していた。

 ナイフ戦闘術や拳銃射撃、格闘を織り交ぜたCQC戦闘術が鞠菜を強い兵士にしていたとゲイリーやアンダーソンも言っていた。

 それは自分も同じであると。葛城凛祢の戦闘術は周防鞠菜そのものなのだから。

 そんな事を考えているうちに眠りについていた。

 

 

 時は過ぎて、訪れた試合前日。

 午前の授業から戦車道と歩兵道の授業を行うことになっていた履修者たちは朝から校庭のガレージ前に整列していた。

「さあ、いよいよ決勝戦だよ!目標は優勝だからね!」

「大それた目標なのは分かってる。だが、我々にはもう後がない」

「負ければ……そこで終わりだからな」

 杏や桃、雄二が真剣な表情で言葉を続ける。

「……」

 その様子に履修者たちも理解したと言わんばかりに真剣な眼差しを向けていた。

「それじゃ、西住さんと葛城からも一言、言ってもらおうか!」

「え?」

「ほら」

 英治が2人を見つめて、前に出るように合図する。

 隣でみほが戸惑っているのを確認して凛祢も小さく呟く。

「目標を簡単に言えばいい」

「は、はい」

 2人はゆっくりと履修者たちの前に立った。

 視線が集まり少々緊張する。

「明日対戦する黒森峰連合は……黒森峰女学院は私がいた学校です。でも、今はこの大洗女子学園が私の大切な母校で、だから、あの、私も一生懸命落ち着いて冷静に頑張りますのでみなさん頑張りましょう!」

「俺もみほと同じ気持ちだ。必ずみんなを勝利の頂に連れて行く。みんなで勝とう次の決勝戦!」

 みほと凛祢の一言を終えると履修者たちからも「おー!」という大きな歓声が響いた。

 

 

 その頃、黒森峰学園艦。

 黒咲聖羅は戦車の格納されたガレージ内に座り込んでいた。

「珍しいな、聖羅。こんなところにいるなんて」

「……まほか」

 西住まほに呼ばれ、聖羅も視線を向ける。

「龍司たちが探していたぞ」

「ああ、すぐ戻るよ」

 そう言うと立ち上がり、扉の方へと歩いていく。

「決勝戦は大洗連合だ」

「まさか、凛祢と西住妹のいる学園が決勝まで上がって来るなんてな」

 教室へと向かう廊下を歩いていると話を切り出したのはまほだった。

 聖羅にとってはかなり予想外の結果であった。

 今年の決勝の相手はプラウダ&ファークト連合であると思っていたからだ。

 それが、決勝に現れたのは、かつての戦友であり自分にとって右腕だった凛祢だった。

 これを予想できた方が恐ろしい。

「それでもみほたちはここまで来た。ならば私たちも全力で戦うだけだ」

「当たり前だ。俺たちが2年連続の敗北なんてするわけにはいかねぇ」

 まほと聖羅は信念を持った瞳で空を見上げた。

 

 

 日も沈みかけた頃、大洗女子学園の校庭では最後の訓練を終えた履修者たちが整列していた。

「訓練終了!やるべきことはすべてやった!あとは各自明日の決勝に備えるように!」

「はい!」

「では、解散!」

 桃の号令で履修者たちは帰宅準備を始める。

「あー、疲れた。ここんとこ毎日訓練続きできつかったぜ!」

「ですねー。でも、いよいよですね!」

「明日が終わればしばらく授業休んでもいいのか?」

「そんなわけないだろ。にしても、もう明日なのか」

 八尋に続いて塁や翼も明日の決勝のことを考えているようだった。

 彼らと同様に自分も明日の事を考えていたのだが。

「ねぇ、葛城くん」

「ん?」

「葛城くんの家でご飯会やらない?」

「あ、沙織さんのご飯食べたいです」

 沙織の言葉に続いて華が笑みを浮かべる。

「お、いいねぇ!俺も沙織さんの料理食べたい!」

「前夜祭ですね!」

「祭りじゃないだろ……」

 優花里の言葉に麻子が冷静にツッコミを入れる。

「じゃあな」

「どこ行くんだよ」

「帰るに決まってんだろ」

「お前もヤブイヌ分隊の一人だろ。前日のご飯会くらい参加しろ」

 そそくさと帰ろうとする俊也の肩を翼が掴み引き留めた。

「面倒くせーな」

「まあまあ、そう言わずに行きましょうよ俊也殿!」

 ため息をつく俊也に塁が笑顔で呟いた。

「まあ、ウチにはもう玄十郎もいないし。俺は構わないよ、みほも来るだろ?」

「はい!お邪魔させていただきます」

 凛祢の顔を見てみほも笑顔でそう答えた。

「後は試合開始を待つだけか」

「これが最後なのか」

「泣いても笑っても、明日で最後ね」

「そうですね。ここまでやれることはやってきました」

 桃や雄二だけでなく、柚子と宗司も心配そうに言葉を口にする。

 どこかで不安を感じていたのだ。ここまできたがもしかしたら明日負けてしまうのではないかと。

「ちょっと、景気付けによって行くか!」

「お、いいんじゃないか?杏」

 杏の意見に英治が賛成し生徒会役員6人はとんかつの店へと向かう。

「おじさーん、食べに来たよーってあれ?照月ちゃん?それに不知火くんたちも」

「杏たちも来たんだ」

 店に入ってきた杏たちの姿を確認した英子たちオオカミチームもいることを知らせるように顔を出す。

「よ!英治。やっぱ試合前にはかつだよなー!」

「お、おう」

「あー、それ分かるー!だよねだよね!」

「流石、風香さんノリがいいねー!」

 不知火と風香は意気投合したのか、まるで仲のいい男女のように話を続ける。

 その横ではセレナと華蓮が静かに食事をしていた。

「はい!これ奢りね!かつかつ食べてがんかつてー」

「ありがとうございます」

「がんばるよー」

 店主のおじさんも気前がよくかつを戦車型にして提供していた。

「かつっこいいねぇー」

「かつかついえばいいってもんじゃない!」

 桃は少しカリカリしているのか、声を上げる。

「桃、そんなに肩に力入れたって意味ないわよ。少しは肩の力を抜いたら?それに『かつかつしても』いいことないでしょ?」

「照月さんまで、そんなことを」

 英子から出た言葉に桃だけでなく不知火たちも少し驚く。

 英子はなかなかそんなギャグを言わない性格だからだ。

「なかなか面白いわね」

「でも、凄いよね。私たちみんな名前くらいは知ってるけど、そんなに付き合いは長くないでしょ?それなのに今はこうして同じ目標に向かってる」

「それも戦車道と歩兵道の力なのかもね」

 華蓮が笑いあって食事するみんなをみてそう言うとセレナもいつもの口調でそう言った。

 

 

 凛祢の自宅では調理を終えたとんかつやその他の料理が並んでいた。

 あんこうチームとヤブイヌ分隊のメンバーたちは手を合わせ、同時に「いただきます」と声を上げた。

「おいしい!」

「うめー!」

「カラッと揚がってますね」

「うん、いい味付けだ」

 みほに続いて八尋や華、翼もその味を評価していた。

「いつでもお嫁に行けますね!」

「報告があります。私……」

 沙織は瞼を閉じて小さく呟く。

「婚約したんですか!?」

「マジで!?」

 優花里の発言に八尋は茶碗をテーブルに乱暴に置いた。

「八尋。茶碗割れるから優しく置け」

「そんなこと言ってる場合じゃねぇ!」

「彼氏もいないのに?」

 翼が注意するが、八尋は聞く耳持たんと言わんばかりに沙織に視線を向ける。

「違うわよ!じゃん!アマチュア無線2級に合格しました!」

「まあ」

「4級どころか2級に合格なんて!?」

 沙織が見せた免許証にその場にいた全員が驚きの表情を見せた。

「あー、よかったー……」

「八尋殿、どうかしたんですか?」

「なんでもねーよ……」

 塁が首を傾げるが八尋はそっぽを向いた。

「いやー、大変だったよー麻子と東藤くんに勉強手伝ってもらってー」

「教える方が大変だった……」

「おい、トシ!そんなの初耳だぞ!」

 俊也の名前を聞いて、八尋は思わず視線を向ける。

「あ?冷泉に付き合わされただけだ……」

「……なんで教えてくれねーんだよ」

「面倒だから」

 八尋が問うが、俊也は即答した。

 そんな様子を見て、本当に八尋は沙織に惚れているのだと実感する。

 歩兵道と戦車道が始まってからよく沙織を見つめていることがある。

「凄いですね沙織殿!」

「通信手の鑑ですね!」

「明日の通信は任せて!どんな所でも電波飛ばしちゃうから!」

 塁と優花里が褒めると沙織も自慢するように胸を張った。

「まさか、重大発表がそんなことだったとは」

「うん!婚約発表はないと思ってたけど。ね、凛祢さん」

「ああ。流石にな」

「もう、葛城くんまで!みぽりんも何気にひどい!」

 急に話を振られたことで凛祢もぎこちなく答える。

 そんな様子を見てみほは少し疑問を抱く。

「みぽりんだって、彼氏の一人でも作ってみなさいよ」

「え?あ、えっと……私は」

「……」

 沙織の口から言葉にみほは視線を凛祢に向け、頬を赤く染める。

 凛祢も少し頬を染め、視線を逸らす。

 すると八尋が口を開いた。

「あれ?沙織さんたち知らねーの?凛祢とみほさん付き合ってんだよ」

「「え?」」

「そうだったんですか!?みほさん!」

 沙織だけでなく優花里や華もみほの顔を覗き込むように見つめる。

「は、はい……」

「準決勝の少し前にな……」

 みほに続いて凛祢も呟く。

 しかし、沙織たちは驚き過ぎで表情が固まっていた。

「おい、八尋。どうすんだよ、この状況」

「俺のせいかよ!?」

「どう見てもお前が変なこと言ったからだろ」

「えー?翼、塁もなんとか言ってくれ!」

 俊也が冷たい目線を向けると八尋は翼や塁に助けを求める。

 しかし、2人もジト目で見つめていた。

「ふふ、ははは。八尋くん面白いね!」

「本当ですね!」

 沙織が笑いだすと優花里たちも笑い声を上げていた。

 それからも凛祢の家では笑い声が絶えることはなかった。

 バレー部であるアヒルさんチームはバレー部復活のために、バスケ部であるオオワシ分隊は夏の大会のためにそれぞれ練習に取り組んでいた。

 歴女チームであるカバさんチームと歴史男子チームであるワニさん分隊はシェアハウスで夕食の準備をし、アーサーは庭で竹刀を振っていた。

 自動車部であるレオポンさんチームと整備部であるタイガーさん分隊は戦車と銃火器の最終整備にあたっていた。

 ネトゲメンバーであるアリクイさんチームとアインは月の見える校庭で串カツを頬張っていた。

 風紀委員であるカモさんチームと青赤黄の委員長組であるシラサギさん分隊は委員会室で書類をまとめていた。

 一年生チームであるウサギさんチームとヤマネコ分隊は少しでも知識を増やすために戦車や歩兵のDVDを見漁っていた。

 凛祢の家での食事会が終わり、みんな帰宅したことでみほだけが残った。

「いよいよ、ですね」

「ああ、ここまできたんだ」

 星の輝く空を見つめながら2人は言葉を続ける。

「みほ、君には感謝してるよ。あの日、鞠菜を失って、歩兵道を辞めた日から俺の時間は止まっていた」

「凛祢さん……」

 そう、あの日から「葛城凛祢」の時は止まっていた。

 西住みほと出会い、歩兵道を始めたことでようやく歯車は動き始めたのだ。

 ここまで歩いてくることができた。

 みほがいたから。

「君には感謝してる」

「私もです。凛祢さんがいなかったら私もここまで来ることはできませんでしたから必ず勝って私たちの学園を」

「ああ、ここが俺たちの居場所だから……」

 みほと凛祢は決意をより固めると空の月を見つめた。

 明日の勝利を願うように。

 そして、夜は明けていく。決戦の時を迎えるために……。




今回も読んで頂きありがとうございます。
今回は黒森峰と戦う直前のカツを食べるまでの話でした。
なんとオオカミチームはテケからキャバリエに乗り換えることとなりました。
いよいよ迎える決勝戦、黒森峰戦。
次回は大洗連合最後の歩兵紹介編part3(シラサギさん分隊、タイガーさん分隊、日向アインとオオカミチームの新メンバー)を作った後に決勝戦の本編を描こうかなと思っています。
意見や感想も募集中です。気軽に書いてください。

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