ガールズ&パンツァー~地を駆ける歩兵達~ 作:UNIMITES
今回は黒森峰戦終盤です。
では、本編をどうぞ。
マウスの撃破に成功した大洗連合。
しかし、黒森峰連合の猛攻は続いていた。すでに大洗連合の戦力は半分以下にまで減少している。
それでも勝利条件であるフラッグ車を撃破するためであるために凛祢たちは戦場を進んでいた。
後方を走行する敵フラッグ車であるティーガーⅠとフラッグ隊長である黒咲聖羅の搭乗しているキューベルワーゲンが迫ってきている。
すると通信機から声が響く。
「こちらタイガーさん分隊のヤガミです。言われた通りの準備できたよ」
「こちらワニさんチームのアーサー。準備オーケーですよ、葛城隊長」
「ありがとうございます。レオポンチームと合流次第作戦通りにお願いします」
ヤガミとアーサーの声に返答すると凜祢は深く息を吐いた。
泣いても笑ってもあと数十分で決着はつくだろう。
後方の駆動車には聖羅と他の歩兵3人しかいないところを見ると、ビスマルクとグラーフは他の部隊の援護に回っているのか。
それはそれで、好都合だ。こちらは、あの3人全員を相手にできる余裕などない、一対一でも勝率は絶望的なのだから。
整備部であるタイガーさん分隊はフィールド内に建っている校舎内玄関でバリケードを作りをしていた。
「にしても、こんな机や棚で作ったバリケードが本当に役に立つのかな……」
「葛城が言うには校舎内の机や椅子は全部防弾加工されてるんだってよ。まあそうでもなきゃ、こんなところで試合なんて出来ねーだろ。ヤマケン、お前残弾幾つくらいだ?」
ヤガミが作り終えたバリケードをトントンと叩く。すると氷室がヤマケンに視線を向ける。
「榴弾はあと10発ですね。正直時間稼ぎなんて数分が限界でしょうね」
「そうか。僕たちは言われた通りやるだけだよ」
するとヤガミは通信機に手を付ける。
一方、同じく校舎内裏口でバリケード作りをしていた歴史男子であるワニさん分隊も作業を終えていた。
「ふう。他のみんなはどうしているのかな」
「どうだろうね。ヤマネコの全滅は予想以上に早かったのを考えると塁くんたちもそう長くは持たないんじゃないじゃないかな」
シャーロックは現状を分析して、状況を確認する。
「確かに、ヤマネコをやった敵の歩兵っていったいどんな人なんだろうね」
「俺も気になります」
「今考えても仕方ないだろ。それより行くぞ」
「「ほーい」」
アーサーの指示でシャーロックたちも移動を開始する。
時を同じくして、オオカミチームの巡航戦車キャバリエと小梅の搭乗しているパンターと交戦していた。
お互いに砲撃を続けるもののなかなか決定打を与えることはできていなかった。
「セレナ、もっと揺れないようにしてよ!」
「戦闘中に止まったらやられるわよ」
「あーもう!あのパンチーだかパンツ―だか何だか知らないけど当たってくれよー」
華蓮だけでなく風香も砲弾を抱えて文句を言い始める。
「パンチ―じゃなくてパンターね」
「まじかよ、塁ちゃん!?」
「不知火、どうしたの?」
英子が不知火に問い掛ける。
「塁ちゃんの作戦が駄目になったってよ」
不知火の言葉に風香が「そんなー」と気の抜ける声を上げる。
「そっか、流石黒森峰ね。セレナ、やっぱりやるしかないわよ」
「やるしかないのね……」
セレナは少し、笑って見せた。
すると今度は華蓮が「やるって何を?」と問い掛ける。
「決まってるでしょ、零距離砲撃よ。不知火と英治は塁たちの手助けに行って」
「いいのか?」
「いいから行きなさい」
「オオカミチーム感謝する」
何も言わずに不知火は頷くと英治と共に左右に跳躍する。
着地後、すぐに駆け出す。
「さあ、やるわよ!チャンスは一度きり」
英子の言葉でオオカミチームも攻撃準備に入る。
まもなくHS地点に入る。
「レオポンチームどこですか?」
「こちらレオポン。HS入りました」
「0017に移動してください」
「了解」
ポルシェティーガーも裏から学校の敷地内に侵入、グラウンドを横切って校舎へと向かう。
Ⅳ号とティーガーⅠ、ジープをキューベルワーゲンが校舎の中庭に続くゲートをくぐると、続けてポルシェティーガーがゲートを塞ぐように停車する。
窓から校舎外に出たタイガーさんチームの3人が、その後ろに陣取る。
「さーここを死守するよ!」
「はいよ!」
レオポンチームとヤガミがそれぞれ発砲した。
すぐに砲撃戦が始まる。
「なにやってんの!?失敗兵器相手に!隊長待っていてください!」
「エリカ、そっちの状況は?」
悠希がエリカに通信を送って来る。
「悠希!?貴方今どこに!?」
「俺たちは、エリカたちとは逆方向にいる。そっちではドンパチやってるみたいだけど」
正門の方はエリカたち戦車部隊が押さえていたものの、裏は悠希と第2分隊だけであった。
「悠希、中に隊長たちがもう入ってるわ!あなたもさっさとそっちを突破しなさい!」
「言われなくてもやるけどね。じゃあ――」
悠希が進もうとした時、銃弾が放たれ伏せる。
裏に陣取っていたアーサーたちワニさん分隊の姿があった。
「ちっ!面倒だな……俺が切り込む。他は中に入って敵隊長を見つけて潰して」
「りょ、了解」
悠希もソードメイスを手に駆け出す。
「あいつの武器って近接タイプか!?」
「僕が行く!」
「アーサー、任せた!」
アーサーも鞘から引き抜いた青白い刀剣武器「エクスカリバー・アルビオン」に接近していく。
お互いの距離が詰まり、剣を揮う。
甲高い金属音が響き渡る。
「なに!?こいつ……」
「へぇ。聖ブリタニア以外にも金属剣を使う奴いたんだ」
悠希がそう呟くと、剣を振る。
アーサーもなんとか防ぐ。
その横を通り過ぎていく3人の第二分隊が搭乗するキューベルワーゲン。
「なんとしても死守する」
シャーロックたち3人も引き金を引いた。
中庭を抜けて、Ⅳ号とティーガーⅠの停車してお互いを見つめていた。
凜祢たちももジープを下りて、屋内に侵入する。
「黒咲隊長、どうしますか?」
「葛城を追うぞ。分かっているんだろうなあいつ。俺たちも主武装の弾がすでに切れてたってことに」
「こっちは4人だ、いくぞ」
聖羅たちも校舎内に侵入する。
「よし、来た。ここまでは予想通り」
凛祢たちはその姿を確認して教室棟へと向かう。
その頃、オオワシ分隊唯一の生き残り辰巳はビスマルクと対峙していた。
「おらぁぁ!」
ビスマルクは伸ばした警棒を振るが、辰巳は軽いフットワークで避ける。
「ちっ!避けんなゴラァ!」
「そんな大振りじゃあー、当たんないよ!」
辰巳のコンバットナイフがビスマルクの右肩を切り裂く。
「ぐっ!こいつ……!」
辰巳は凛祢とのCQC戦闘を思い出す。
かつて自分も凛祢に受けた技を今ここでやる。
再び振り下ろされた警棒をナイフで受け流し、太ももに2発発砲する。
続けて左の脇腹をナイフで切り伏せる。
「こいつのナイフ捌き、凛祢と同じか!」
「いける、これならいける!」
辰巳は勝機を感じていた。辰巳だけではない。
「すげぇ、辰巳ってあんなに近接戦闘に強かったっけ?」
「そりゃあ葛城隊長とずっと戦ってたわけだしな」
「一番戦ってたのは彼だから。でもあれなら勝てるかもしれないね」
リタイアしていたオオワシ分隊も戦闘を見つめていた。
ビスマルクも警棒を振り回すが、辰巳も拳銃を叩き落とされるが、ナイフを腹に突き立てた。
「これで!」
「がっ!……舐めんな!」
ビスマルクも腕に力を込めると、辰巳の腹部に拳を打ち込む。
「う!はあ!」
辰巳の身体が地面に落ちる。
腹部に走る痛みに、堪らず手で覆う。
「「辰巳!」」
「やってくれるじゃあねーか」
歩み寄り再び腹部を蹴り飛ばす。
その様子に、漣が声を上げる。
「てめー!やめろ!」
「終わらせてやる」
ビスマルクが警棒を振り上げる。
うずくまっていた辰巳は軽く笑みを浮かべていた。
一瞬速く動いてビスマルクの腹部に飛び込む。
「な!お前何を!」
「後は任せたよ葛城隊長!」
握られていた手榴弾が起爆する。
爆発の後、倒れていた2人分の戦死判定のアラートが鳴っていた。
再び放たれる砲弾を受けてポルシェティーガーは傷ついていた。
「うう、なかなか……」
「くそ!ヤガミ、もう長く持たないぞ!」
「そう言われても死守するのが仕事だし」
ヤガミもキャリコの残弾を撃ち終えると地面に置き、懐のコンテンダーを引き抜く。
「先輩、こんな攻撃受けてたら死んじゃいますよ本当に!」
「もう少し頑張って整備部のみんな、もう少しだけ」
ナカジマが励ますように通信を送る。
悠希の剣劇をなんとか受けきるアーサーだったが彼も違和感を感じていた。
「はぁ、はぁ」
「……」
悠希の剣を受けて、息を荒くしていた。
「ささっとどいて」
悠希は眉一つ動かさず、そんな事を呟く。
彼には、剣劇と呼べるほどの技量はないのだ。
しかし、反射神経は葛城凛祢の超人直感とよく似ている。
ただただ、力のごり押しと、その人間離れした反射神経で敵を倒してきたのだろう。
悠希のソードメイスがアーサーのエクスカリバー・アルビオンを弾き飛ばす。
「ここまでですか……」
「俺たちは、負けるわけにはいかないんだよ」
「戦いには負けました。でも試合に勝つのは僕たちです!」
アーサーは最後にそう言い残し悠希に切り伏せられた。
すると、ワニさん分隊も時を同じくして全滅したのかモニターに映るワニさん分隊の4人と塁、翼は英治、不知火にバツマークがついた。
キャバリエは路地を抜けて、広場に出ると方向転換してパンターへと向かって行く。
「セレナ、一瞬だけ狙い付けさせて。風香も装填は最速で」
「わかったわ」「了解だよーん」
セレナと風香が返事をする。
「一発撃って、狙いを点けて……」
「あなたならできるわよ。華蓮!」
「うん」
華蓮は、トリガーを握りなおすと照準器を覗く。
「いました、敵戦車!」
「向かってきてます!」
「大丈夫。一発当てれば撃破できる!」
小梅も指示を出す。
お互いに砲撃するとキャバリエの砲撃がパンターの履帯に命中、機動力を奪う。
キャバリエへの砲撃は掠めるだけに留まる。
「風香!」
「はいよ!」
すぐに次弾を装填する。
パンターの砲身は現在も動き、こちらへと向けられている。
キャバリエがパンターの横に滑り込むと同時に砲撃。
轟音と共に、黒煙が上がる。
旗の上がる音と共にパンター、キャバリエの2輌どちらからも走行不能の白旗が上がっていた。
「ふう。あとはあなたたち次第よ。西住さん、凛祢」
深く息を吐いて、英子は目を閉じる。
時を同じくして集中砲火を浴びたポルシェティーガーと八九式が走行不能になったことが告げられる。
すぐにモニターに映っていた歩兵達にも戦死判定のバツマークがついていく。
その放送で会場へとざわめきが走る。
「あと1輌」
「歩兵も凜祢を含めた3人か」
オレンジペコとガノスタンの表情が曇る。
「どうするんだよ、大洗連合?」
「しかし、このままではデータ的に勝機は……」
「データなんてどうでもいい!なんとかしてくれよ大洗!」
ケンスロットとモルドレットも思わず立ち上がっていた。
ポルシェティーガーを撃破した黒森峰連合がゲートに近づく。
しかし、ゲートはポルシェティーガーとヤガミたちの用意したバリケードによって完全に封鎖されていた。
「ポルシェティーガーとバリケードが邪魔で通れません!」
「回収車急いで!バリケードは吹っ飛ばしなさい!」
「「ゆっくりでいいよー」」
バリケードの奥にいたヤガミと車内にいたナカジマが呟いていた。
一方、凛祢、八尋、俊也は教室棟に到着すると3方向に分かれる。
凛祢は階段を掛け上げり、八尋と俊也はそれぞれ左右に駆けていく。
「待て!」
「……」
聖羅は腰の手榴弾を一つ握ると、十字路に投げ込む。
すぐに手榴弾が起爆する。
爆発で陣取っていた八尋と俊也が数歩後退した。
その隙に聖羅が階段を掛け上げる。
「しまった!」
「くそ!」
すぐに八尋と俊也が引く金を弾くと2人に銃弾を命中させる。
そして、聖羅が階段を上り終えた時だった。
爆発音とともに後方の道が消える。
天井に仕掛けられていたヒートアックスを起爆したことで瓦礫が1階、3階に続く階段を完全に封鎖したのだ。
「これで正真正銘一騎打ちってわけか」
「……決着を付けよう聖羅。俺たちのすれ違いに」
凛祢が銃口を向けると、聖羅も自動拳銃「H&K USP」の銃口を向ける。
彼の言う通り、この階には正真正銘2人だけ。逃げ道も無ければ助けもすぐには来ない。
二人が引き金を引くと同時に、教室内に滑り込む。
「……」
すぐに立ち上がり凛祢が先に仕掛ける。
右手で腰からコンバットナイフを引き抜く。
刃を突き立てるが、聖羅も伸縮式警棒を伸ばし応戦した。
「くっ!」
数回の打ち込みの中で二人の戦闘は激化していた。
お互いに一歩も引かない攻防。
銃弾が命中すれば、すぐに片が付くことは分かっている。
だからこそ、お互いに撃たせないように銃口を絶対に向けさせなかった。
先に聖羅の警棒が銃身を叩きつけたことで凛祢の手から拳銃が離れる。
「なにっ!」
しかし、凛祢も「覇王流・紫電脚」で足を蹴り上げ聖羅の態勢を崩す。
倒れ込みながらも拳銃を向けようとする聖羅の拳銃を回し蹴りで蹴り飛ばした。
「くそが!」
「これで!」
凜祢がナイフを突き刺そうとするが、聖羅も横に転がり回避する。
一方敵歩兵を倒した八尋と俊也。
「ふう。終わったな」
「後は凛祢に――トシ!」
声を上げて体を押し飛ばす。
すると、後方から現れた悠希のソードメイスが空を切る。
「ちっ!」
「なんだこいつ!?」
八尋がP90を構えようとするが横腹をソードメイスで叩きつけられる。
うめき声をあげて、倒れ込む。
「この!」
俊也がホルスターから引き抜いたFiveseveNを発砲するがソードメイスを体の前で構え、防ぐ。
「「マジかよ、こいつ!?」」
二人が思わず同じ反応を見せる。
再び、ソードメイスを振り上げると俊也をソードメイスで薙ぎ払う。
「がぁぁ」
「うぉぉ!」
コンバットナイフを手に接近するが悠希は簡単に回避して、八尋と俊也を壁に叩きつけていた。
「「はぁ、はぁ」」
肩で息をしてお互いを見つめる。
そんな二人の戦闘を見守る映像記録用ドローン。
その映像はモニターにも映し出されていた。
「葛城凛祢が黒咲聖羅と互角!?」
「CQC戦闘能力が群を抜いている!あれはもはや全盛期の超人の領域!」
カチューシャとアルベルトが興奮気味に声を上げる。
再び二人の武器がぶつかり合う。
「かつて俺が切り捨てた凜祢と西住みほが最後の障害となるとは……これも因果か」
「俺は必ず勝つ。勝たなくちゃならないんだ!」
凛祢が烈風拳を撃ち込んだ。
腹部にもろに受けた聖羅も堪らず一歩後退する。しかし、一歩で踏みとどまった。
「俺の歩兵道を否定していながら自分は勝利するだと……?ふざけるな!お前の歩兵道は俺と同じだ!」
「うっ!」
聖羅の警棒は凛祢の頭部に叩きつけられていた。
一瞬凛祢の意識が飛びかける。
流血が頬を伝って行く。
「何が俺を否定するだ!お前だって勝利するために仲間を犠牲にしてきたんだろ!?それの何が違うと言うのだ!?結局、お前も俺と同じ道を歩むことになるんだよ!」
聖羅の攻撃は次々に凛祢へと浴びせられた。
腹部を蹴り飛ばされたことで凛祢の身体が床に転がる。
「うう……」
「もう立ち上がるな。痛い思いをするだけだ」
体中が痛む。意識が飛びそうだ。
このままでは……。
「葛城!」
「葛城先輩!」
「葛城くん!」
杏たちだ生徒会だけではない。ウサギさんチームやヤマネコ分隊、カモさんチームとカバさんチームもモニターに映る凛祢を見つめていた。
「……あいつは絶対立つ!」
「そうです。凛祢ならきっと!」
メッザルーナと司も拳を強く握りしめてモニターを見つめる。
決めたんだ。あいつとの、聖羅との戦いでだけは逃げないって。
まだ、この体は戦死判定アラームは鳴っていない。
「ぐぅぅ……」
「凛祢、お前……」
「負けられない。この戦いだけは……それに、俺の歩兵道はお前とは違う!」
ふらふらになりながらも立ち上がる。
すでに武器はなかった。
それでも自然と怖くはない。
「いいぜ。俺が引導を渡してやる!」
聖羅が接近するように駆けてくる。
しかし、自然と左手は動いていた。
「覇王、鉄槌……」
そう呟くと攻撃を回避し、カウンター技「震電返し」が聖羅の腹部に打ち込まれていた。
「あ、ああ……」
「……うう」
覇王流の攻撃をもろに受けながら、彼は数歩後退するが戦死判定のアラームはなってはいなかった。
凛祢はもはや立っているのもやっとの状態だった。
「ふふふ、はははは!強力な覇王流も、所詮は付け焼刃!歩兵道から逃げてきたお前が!何もかも変わってしまったお前がたった一撃で状況をひっくり返せるわけがないんだよ!」
警棒を拾い上げ、再び向かっていく。
彼の言う通りだ。これまでずっと逃げ続けていた。
確かに、何もかも変わってしまったのかもしれない。
だが、変わったからこそありのままの自分でいられた。
すると、かつて何度も修行で見てきた構えを取る。
「……これは仲間たちと俺自身の未来への一撃!」
次の瞬間、聖羅の胸元に流星掌打が撃ち込まれていた。
玄十郎と敦子だけは見えていた。凛祢の神速の一撃を。
吹き飛んだ身体が教室内の黒板に叩きつけられ、まもなく聖羅から戦死判定のアラームが響いていた。
「で、できた……橘花、無拍子」
覇王流絶技、橘花無拍子を打った凛祢も膝から崩れ落ち、手をついた。
左手には激痛が走っている。
聖羅は左手を重点的に狙っていた。おそらく彼は覇王流を恐れていたのだ。
だから、利き手である左手を封じようとしていたのだろう。
「はぁはぁ。やり、きったぞ」
すると2回の砲撃音が響き渡り、アナウンスが響き渡る。
「黒森峰隊長歩兵戦闘不能!」「黒森峰フラッグ車走行不能!」
「「よって、大洗連合の勝利!」」
その言葉を聞いて、観客たちは歓声を上げる。
「勝った、のか?」
「そうだよ桃ちゃん!」
「優勝だ!」
杏も笑みを浮かべる。
「やってくれましたね」
「当然だろ。だが、あいつには感謝してもしきれない」
宗司と雄二も笑みを浮かべる。
「勝った……」
「やったぜ英治!塁ちゃん、翼!」
「はい!」
「そうっすね」
陣地に戻る途中だった英治たちもガッツポーズをする。
凛祢も戻ろうと扉に視線を向けると、一人の男の姿があった。
手にはバスターソードの様な武器を持つ男、黒森峰連合の星宮悠希だった。
「ふーん。あんた聖羅に勝ったんだ。葛城凛祢だっけ?」
「あ、ああ」
「覚えておく」
そう言い残し聖羅の元に歩いていく。
一度その様子を見た後、凛祢も教室を出て1階に向かう。
「八尋、俊也!」
「おう、凛祢……無事だったか」
「……」
ボロボロな姿で座り込んでいる二人の姿があった。
アラームが鳴っているところをみると本当にギリギリな状況だったのだろう。
「大丈夫か?」
「な、んとかな!おっと」
「丈夫なのが取り柄だからな」
俊也が肩を貸す形で二人は立ち上がる。
「お前こそ大丈夫か?」
「こっちもギリギリだったよ」
3人は再び歩き出し、玄関を出るとⅣ号から顔を出すあんこうチームを発見する。
「凛祢さん!」
「八尋くん!俊也くん!」
こちらに気づいたみほたちが駆け出す。
凛祢たちも駆け寄る。
「やったよ八尋くん!」
「俺はみんながやってくれるって信じてたぜ!」
「って凛祢殿出血してませんか!?」
優花里が凛祢の顔を見て声を上げる。
「凛祢さん、大丈夫なんですか?」
「なんとか大丈夫かな……」
凛祢は少し視線を逸らす。
「私たち勝ったんですよね……」
「ああ、みほのおかげで――」
そう呟くと凛祢は再び膝から崩れ落ちる。
安心したせいか。緊張の糸が切れたのだろう。
「凛祢さん!?やっぱり!」
「大丈夫……少し疲れただけだ」
体が限界であることを訴えていた。
「よかった……私たちが勝てたのは凛祢さんのおかげでもありますよ!」
「ありがとう」
そう、大洗連合は勝ったのだ。黒森峰連合に。
なんとか意識を失うことなくⅣ号に搭乗して陣地に帰還した凛祢たちを待っていたのは勝ったことを喜ぶ大洗連合であった。
「あ、先輩!」
あんこうチームと凛祢たちの姿を確認して大洗連合が駆け寄ってきた。
次々に褒め称えるような言葉が浴びせられる。
「みんな、ありがとう」
「さあ、降りよう」
凛祢が声を掛けるとⅣ号を下り、そのボロボロの車体を見つめる。
「この戦車でティーガーを」
優花里が呟いた。
「まさか、最後の最後で無拍子を決めるなんてね」
「武器のないあの状況じゃ、ああするしかなかった。それに拳が最後の武器であることを教えてくれたのは英子だろ」
「ふふ。皆伝と優勝おめでとう」
英子は笑みを浮かべ頬を染めていた。
「西住、葛城。この度の活躍、感謝の念に堪えない。本当にありがとう……」
そういうと桃は涙を流して泣き叫んでしまう。
「俺からも感謝する」
雄二も深々と頭を下げる。
そして、杏と英治が二人の前に立つ。
「西住ちゃん、葛城くん。これでウチの学校廃校にならずに済むよ」
「俺たちの学校守れたんだ」
「「はい!」」
凛祢とみほが返事をすると杏が抱き着いてくる。
「ありがとね。本当に……」
みほとアイコンタクトを取る。
「俺たちのほうこそありがとうございました」「私たちのほうこそありがとうございました」
二人も感謝の言葉を口にした。
大洗連合が勝利によっている中、凛祢たちは医療班の元で治療を受けていた。
「いやー本当に勝利できるとはな!」
「ああ、俺の遅刻とボイコットデータも削除してもらったしな」
八尋と俊也が隣で会話している中、凛祢は頭と左腕に包帯を巻いてもらっていた。
「随分やられたな、葛城」
「まさか、こんなにもひどいことになっていたとは」
照月敦子もそんな言葉を口にする。
自分が今回の試合で受けたダメージは相当のものだったようだ。
「今夜は戦車が自走できるくらいまで修理だって」
通信をもらったヤガミが報告すると
「嘘だろ?少しは休ませろよ自動車部!」
「流石にへとへとっすよー先輩」
ヒムロもヤマケンも虚空を見つめていた。
ようやく手当てを終えた凛祢はテントを出て、陣地に戻る。
「あ、凛祢さん!」
「みほ」
こちらに気づいたみほが駆け寄って来る。
「さっき歩兵道連盟の方が本部に来て欲しいって」
「本部に?いったいなんで……」
説明を受けて、少し考えこむ。
「あの……私もついて行ってもいいでしょうか?」
「ああ、構わないよ。にしてもなんで呼ばれたんだろう」
考えても分からないが、みほと共に本部へと向かう。
向かう途中、みほが先に口を開いた。
「凛祢さん。私、まだお姉ちゃんや黒咲さんたちに勝ったことが信じられません」
「俺もさ。今回ばかりは負けるんじゃないかってひやひやしてた」
彼女の言葉を聞いて同じ感想を述べていた。
黒森峰連合はそれだけ強い強敵だったと言うことだ。
「凛祢さんが傍にいてくれて本当に良かったです。ありがとうございます」
「俺が俺のままでいられたのはみんなの、みほのおかげだ。俺の方こそこんな俺を必要としてくれてありがとう」
お互いに頬染めて言葉を交わす。
しばらくして、本部に到着すると見覚えのある顔があった。
連盟の人間である朱音や西住しほ、その他にも連盟の役員が数人いる。
しかし、それだけではなかった。
「よう、葛城。遅かったじゃねーか」
「やっぱり葛城くんは選ばれているね」
アルディーニ学園のメッザルーナや冬樹学園のヴィダールがこちらを確認して、手を振る。
二人だけではない。
ファークトのアルベルトとエレン。
聖ブリタニアのケンスロット。
アルバートのレオン。
そして黒森峰の聖羅と悠希、龍司。
合計9名がこの場に集っていた。
「これは、何の集まりなんだ?」
「なんだ知らないのか?葛城」
ケンスロットが傍に来るとそんな言葉を口にする。
「凛祢は高校歩兵道参加した初めてだし仕方ないよ」
龍司もそう言っていた。
「俺たちはこの全国大会で評価され、高校歩兵道連盟に選ばれた強襲歩兵十傑(アサルト・ツェーン)ってことだ」
レオンも顔を出す。
「アサルト・ツェーン……」
「凄いじゃないですか、凛祢さん!アサルト・ツェーンに選ばれるなんて!」
「あなたたち、全員揃ったようだから勲章授与するわよ!」
朱音が声を上げると凛祢たち10人はいそいそと整列する。
なんとカメラまでセットされ、その映像は観客席にも映し出されていた。
「これより第63回戦車道&歩兵道全国高校生大会、アサルト・ツェーン勲章授与を行います」
「アサルト・ツェーン、第一席、葛城凛祢」
「お、俺が、一席!?」
思わず声を上げる。
第一席とは、10人の中で一番上であると言うことだ。自分がそんな席にいていいのかと思ってしまう。
「いけ、凛祢。お前は選ばれしものなんだ」
「聖羅……」
隣にいた聖羅の言葉で凛祢は踏み出す。
自分は選ばれたものなんだと理解し、深く受け止める。
そして朱音の前に立つ。
「――あなたの活躍を我々歩兵道連盟が評価し、第一席葛城凛祢にネビュラ勲章を授与します」
そう口にすると朱音は凛祢の制服にネビュラ勲章を付けた。
すぐに拍手が響き渡る。
「第二席、黒咲聖羅」
その声と共に聖羅も歩いていく。
そうしてネビュラ勲章はアサルト・ツェーンに授与されていった。
第三席はヴィダール。第四席はアルベルト。第五席はエレン。第六席はケンスロット。
第七席はメッザルーナ。第八席は星宮悠希。第九席はレオン。そして第十席は朝倉龍司という結果になった。
「これにて第63回戦車道&歩兵道全国高校生大会、アサルト・ツェーン勲章授与を終わります。これからのあなたたちの活躍を願っています」
その言葉で勲章授与は終了した。
「なぁなぁ。せっかく新ツェーンが決まったんだからよ。記念撮影と行こうぜ」
「いいですね」
「悪くないな」
メッザルーナの提案をアサルト・ツェーン全員が了承する。
「おーい、西住。お前も混ざれよ!」
「え?でも……」
みほは少し戸惑う。
「みほ、来なよ」
「……はい!」
凛祢が呼び、アサルト・ツェーンの記念撮影をするのだった。
ようやく自分とみほは見つけたのだ。それぞれの歩兵道と戦車道を。
その後、戦車道の表彰式が行なわれ大洗連合に優勝旗が授与された。
こうして、全国大会は終わりを告げる。
大洗連合の優勝という形で。
夕日の中で、葛城朱音は西住しほと大洗連合を見つめていた。
「これで、よかったと思う?」
「あの子たちはちゃんと自分の足で歩いて行けるわ。私の子と、あなたと鞠菜さんの子なんだもの」
「そうね。きっとあの子たちなら大丈夫……」
二人はそう言うと再び拍手をするのだった。
翌日、凛祢とみほたち大洗連合は学園艦に帰還していた。
大洗駅前はいつもとかわならない様子だ。
「帰ってきた……」
「戻ってこれたな」
みほと凛祢が短く口にする。
「隊長、なんか言え!」
「そうですね」
杏と英治がこちらに視線を向けると大洗連合全員の視線が集まる。
「パンツァーフォー!」
「オーバードライブ!」
「「「おおーー!」」」
二人の掛け声に合わせてみんなも声を上げるのだった。
第一部 アニメ編完結。
読んで頂きありがとうございます。
これにて、ガールズ&パンツァー~地を駆ける歩兵達~第一部 アニメ編完結です。
次回からは第二部 スクワッドジャム編(オリジナル編)を執筆していこうかなと思っています。
質問、意見も募集中です。
では、また次回のお話で。