ガールズ&パンツァー~地を駆ける歩兵達~   作:UNIMITES

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三話まで書いて気づくこと、執筆って大変です。
それでも書いていて楽しい、これにつきます。
読んでもらえるだけで嬉しいです。



第3話 聖グロリア―ナ女学院、聖ブリタニア高校

 戦車の砲を放つ轟音が響く演習場。

 分かれ道を抜けて、凛祢と塁は戦闘態勢に入っていた。

 塁は急いで電管付きのC-4爆弾を地面に置く。

 Ⅳ号は寝っ転がっていた少女の前で停止する。

「危ないからこっちに……あ、今朝の」

 みほは声をかけるが見覚えのある顔に驚く。

 寝っ転がっていた黒髪の少女は今朝みほが助けた少女、冷泉麻子だった。

「ん?麻子じゃん」

 キューポラのハッチを開き、沙織が顔を出した。

「沙織か……」

 麻子も沙織を見て、表情一つ変えずに呟く。

「お、お友達??」

「うん、幼馴染。何やってんの、こんなところで?今授業中だよ」

「知ってる」

 平然と麻子は答える。

 すると後方からの至近弾が地面を抉る。

「まだか!もう、射程距離に入ってるぞ!」

 凛祢はインカム越しに叫ぶと使い慣れない狙撃銃バリスタを撃つ。

 同時に塁が煙幕手榴弾を二つ投擲する。煙幕手榴弾から大量の煙が立ち込めた。

「あの!危ないから中に入ってください!」

「わかった……」

 みほに言われ、麻子は沙織と共にⅣ号車内に乗り込む。

「葛城さん!後退してください!」

「了解!全速後退だ!」

「はい!」

 みほの声を聞いて凛祢と塁は低い体勢で八九式とⅢ突を背に走っていく。

 

 

「くっ!煙幕か!」

「気にせず撃て!弾幕を張れば勝手に当たる」

 Ⅲ突の車長であるエルヴィンが顔を出して叫ぶが、β分隊の分隊長であるでアーサーが冷静な表情で言った。

「僕とシャーロックは左右の草むらから強襲を掛ける、淳とジル、景綱はⅢ突と八九式を援護しつつ前進だ!」

 アーサーの指示を聞くとジル、景綱が一斉にワルサーMPを撃つ。

 

 

 状況はいいとは言えない、むしろ不利な方だ。せめて歩兵がもう一人いれば……。

 凛祢は渋い表情で必死に作戦を考える。

「ううー、酸素が少ない……」

「大丈夫ですか?」

 調子の悪そうな麻子を見て優花里は心配そうに声をかける。

「麻子、低血圧で……」

「今朝も辛そうだったもんね」

 みほは今朝の事を思い出しながら言った。

「麻子と会ったの?」

「うん」

「あーだから遅刻ギリギリだったんだね」

 沙織はみほに向かって言うと轟音とともに戦車内が大きく揺れた。

「もーやだー、どうすればいいのよー!」

 頭を抱えて叫ぶ沙織。

「前方に吊り橋があるぞ!どうする?」

 凛祢はインカムに向かって言うとみほが側面の窓から顔を出した。

「停車してください!」

「今出るのは危ないのでは?」

「大丈夫だ、次弾発射までは少しだけ時間がある。塁は後方確認を」

 吊り橋の前で停止したⅣ号を下りたみほに向かって塁が言うが、凛祢の言葉にⅣ号の後ろに回る。

「ゆっくり前へ」

 吊り橋の上で指示するみほの声にゆっくりと前進し、吊り橋を渡っていくⅣ号。

 凛祢は先に渡り切って前方を確認しつつ後方にも目を向ける。

 ゆっくり進むⅣ号の履帯が吊り橋のワイヤーを切断すると吊り橋が大きく揺れる。

「落ちる―!」

「やだー!」

 Ⅳ号から悲鳴を上げる華と沙織。塁は後方を見て叫ぶ。

「Ⅲ突が来ます!」

「撃てー!」

 エルヴィンの声を合図にⅢ突の砲が火を噴く。

 放たれた砲弾はⅣ号に命中。急所を外れたおかげでなんとか行動不能は免れた。

「坂本君!」

「五十鈴殿!操縦士失神、走行不能!」

 Ⅳ号から顔を出した沙織と優花里が声を上げる。

 塁はなんとか両手で橋の鉄板に掴まっているだけだった。体は宙ぶらりんの状態。

 華も頭を打ったのか操縦席で気絶していた。

「塁!くっ、西住は五十鈴さんの方を頼む」

 凛祢はバリスタをその場に投げ捨て、急いで橋を渡りⅣ号を乗り越える。塁の腕を掴むと引き上げるために力を込める。

「凛祢殿、このままじゃ狙い撃ちです!」

「馬鹿!この高さから落ちたらいくら特製制服でも無事じゃないだろ!」

「でも、Ⅲ突とγ分隊はそこまで来てます!」

 塁の声を聞かずに凛祢は引き上げる。

「居た、見た、撃った!」

「Ⅳ号とα分隊にはここで消えてもらう!」

 エルヴィンとカエサルはⅣ号を見て興奮気味に言った。

「ナイスアタック!追撃するよ!」

 ちょうど追いついた八九式の車長である典子が声を掛ける。

 同時に前進を始める三突と八九式、β&γ分隊。

 みほも華を操縦席から空席に運びこみため息をつく。

「操縦は苦手だけど私がやるしか……」

 すると突然Ⅳ号が後退したかと思うとすぐに停止した。

「麻子、運転できたの?!」

「今、覚えた」

 沙織の声にまた表情一つ変えずに答える。

「今?」

「流石、学年主席!」

 驚きを隠せない優花里の隣で納得した沙織が言った。

 すると発砲音と共にうめき声を上げたジルはその場に倒れる。

 音はⅢ突たちとは逆方向から聞こえた。

「ありがとうございます、あの狙撃って」

「γ分隊を狙っていたが……誰だ?」

 ようやく塁を引き上げた凛祢が橋の先を見ると見覚えのある黒髪の男が特製制服姿でバリスタを構えていた。

 昨日、食堂で千円札を貸した男だった。

 一体なぜ?どうしてここにいるんだ?

 それよりもどうして特製制服を着ている?だが、味方ならば!

「塁、Ⅲ突の右隣の草むらをFALで撃て!」

 塁もFALを草むらに撃ち込む。すると、ちょうど草むらから現れたシャーロックに弾が命中した。

「しまった!」

「やりました!」

 シャーロックと塁の声と同時にシャーロックから戦死判定のアラームが鳴った。

「何?!」

「とにかく打ち込め!」

 エルヴィンと左側の草むらから現れたアーサーはⅣ号の動きと塁の射撃に焦り出したように叫ぶ。カエサルも重い砲弾を何とか装填させている。

「連続アターック!」

「「「それそれそれ!」」」

 典子の声に合わせてあけび、忍、妙子が叫びながら備え付けの機銃を撃つ。

「なんか後ろに下がってるけど!」

「分かってる」

 後退しているⅣ号の動きに沙織が叫んだ。だが、麻子は落ち着いてギアを入れた。

 前進を始めるⅣ号の前方にを砲弾が放たれるが、Ⅳ号は問題なく前進する。

「外れた!」

「次だ、次!」

 エルヴィンと典子が同時に声を上げた。

 戦車内の揺れで目を覚ます華。何が起きたのかわからずに右左を見る。

「大丈夫?」

「あ、すみません」

 みほが声をかけると華は申し訳なさそうに謝る。

「ううん、少し休んでて」

「いえ、大丈夫です!」

 華のしっかりとした声を聞いて、みほは優花里を見た。

「優花里さん、砲塔回して!」

「了解」

 優花里が返事をする。すると、Ⅳ号の砲塔がゆっくりと回転し始める。

 それを見た凛祢は腰のリモコンを掴みアーサーたちのいる方に向け、スイッチを押した。Ⅲ突の傍に置かれたC-4爆弾が爆発する。砂埃がⅢ突の視界を奪う。

 Ⅲ突の近くに居たアーサーと景綱は爆風で尻もちをついた。

「早く回って!撃たれる前に撃っちゃってよー!」

 沙織が急かすように言う。

「塁、耳を塞いで伏せろ!」

「了解です!」

 凛祢と塁は両手で耳を塞ぎ、うつ伏せで倒れる。

「発射用意!」

 砲塔を回し終え、みほの声と同時にⅣ号が停車する。

 優花里が照準を微調整すると、完全にⅢ突を捉えた。

「撃てぇ!」

 みほの号令が下った瞬間、優花里はトリガーを引いた。

 轟音と共にⅣ号から放たれた砲弾はⅢ突の砲塔右側に命中。爆発音が響いたかと思うと、Ⅲ突から行動不能を意味する白旗が上がる。

「やった!」

 塁が歓声を上げた。

「はああ……スゴッ!」

「ジンジンします……」

「なんだか、気持ちいいー」

 Ⅳ号の車内でも初めての砲撃の衝撃に、沙織と華、優花里が刺激のような感覚を覚えていた。

 麻子も声こそ出していないが驚きの顔を見せていた。

 そんな中、みほは次発の砲弾を装填している。

「有効!Cチーム行動不能!」

「殲滅戦ルールに従い、γ分隊は全員失格だ!」

 通信機とインカムから聞こえる亜美と敦子の声。

「なに?」

「マジですか?!」

 アーサーとジルが信じられないと言った声を出す。

「今度は八九式!」

「はい!」

 みほの指示に優花里は続いて、Bチームの八九式に狙いを定める。

「来てる来てる!フォーメーションB!」

「「「はい!」」」

 焦りを見せた八九式は先手必勝と言わんばかりに砲撃する。

 しかし、砲弾はⅣ号に掠りもせずに飛んでいく。

 そして、反撃するようにⅣ号が砲撃。

 Ⅳ号から放たれた砲弾は、八九式の車体前面の中央に命中。衝撃によって僅かに後退した八九式から行動不能を意味する白旗が上がる。

「くっ!やられた!」

 淳も地面に拳をぶつけて言った。

「おい!こっちからも敵が来てるぞ!」

 インカムから聞こえた男の声に凛祢は吊り橋の反対側に目を向ける。声の主はバリスタを持った男。

 彼の言葉通り、吊り橋の先にはEチームの38tとε分隊の姿があった。後ろからはM3とΔ分隊が居る。

 Ⅳ号の砲塔が再び前を向き始める。

「おい、お前。聞こえてるなら指示に従え、俺たちが行くまで敵を引き付けろ!」

「は?ふざけんなよ!敵は何人いると思ってんだ!」

「敵は38tとM3に歩兵が合計九人だ!」

 インカムに向かって叫びながらⅣ号を乗り越える。塁も後を追うようにⅣ号によじ登る。

「くそっ!どうしろってんだ!……俺は昨日の借りを返しに来ただけなのによ」

 黒髪の男も苦しそうな顔でバリスタを撃つ。

「会長、歩兵の中に歩兵道受講者ではない者がいますが……」

「いつの間に増援を呼んだのかは知らんが気にするな」

 宗司が木陰に隠れながら言うと英治がkar98kのスコープ越しに構えながら言った。

「フッフッフッ……ここがお前たちの死に場所だ!」

 そう言いながら、桃は吊り橋の上のⅣ号に狙いを定める。

「やらせるか!」

 声と共にⅣ号の前に飛び出した凛祢は、右手に持つ手榴弾のピンを抜き、38tに向けて投擲した。同時に英治が発砲する。

 手榴弾は弧を描きながら飛んで行き38tの手前に落ち、爆発する。

「ぐっ!」

 爆発音と振動に、桃が一瞬怯む。

 英治の放った銃弾は凛祢の右肩に命中するが凛祢は表情一つ変えない。

「なに?!」

 命中したはずの凛祢を見て驚く英治。

「隙ができました!」

 Ⅳ号の前に飛び降りた塁がインカム越しに叫ぶ。

「撃てぇ!」

 みほの号令で、Ⅳ号は砲撃する。

 同時に、38tも砲撃するが、砲弾はⅣ号の上を通り過ぎて行った。

 Ⅳ号の砲弾は38tを完全に捉えており砲塔の右側、丁度7.92mmMG37重機関銃に直撃していた。38tからも行動不能を告げる白旗が上がる。

「なにー?!」

「やれやれ……」

「一撃で撃破とは……」

 木陰に隠れていた雄二と宗司、草むらに隠れていた英治が顔を出した。

 雄二は頭を抱えているが、宗司はこんな状況でも仕方ないかと笑みを浮かべている。

「あーやられちゃったねー」

「桃ちゃん、ここで外すー?」

「桃ちゃんと呼ぶなー!」

 戦車内で杏、柚子、桃がそんな声を上げる。

「みんなやられちゃったよ」

「てか、あの人誰?」

 アキラと翔がⅣ号とα分隊の戦いを見て驚きの顔を見せる。

「こういう場合って逃げるべきじゃね?」

「作戦的撤退だな!痛いのやだし」

 礼と歩が逃げるように促す。

「馬鹿か、時間稼ぐぞ。怖いけど、戦車が逃げる時間を」

 亮の言葉で全員が震えながらも銃を構える。

 M3もゆっくり旋回する。

「あとはDチームとΔ分隊だな」

 凛祢がコンバットナイフとファイブセブンをホルスターから抜く。

「おい、お前。その銃貸せ。こっちは弾切れだ」

「え?でも……」

 黒髪の男にFALを貸すように言われ戸惑う塁。

「待て、お前名前は?」

「東藤俊也(とうどうとしや)……」

 黒髪の男は低い声で名乗る。。

「東藤か、援護を頼んでもいいか?駄目なら塁に頼むが」

「分かったからさっさと貸せ。それに逃げられるぞ」

 俊也はM3の方を指さした。

「分かった。塁貸してやってくれ」

「凛祢殿がそう言うなら……」

「ありがとよ……」

 塁のFALを受け取った俊也は感謝の言葉を述べた。

「じゃあ、援護頼むぞ」

「当たっても文句言うなよ!」

 凛祢がΔ分隊目掛けて突撃すると、その後を俊也が追っていく。

「ちょっ!突っ込んできたよ!」

「いいから撃てって!」

 アキラは震えた声で言うと隣にいた亮がトンプソン・サブマシンガンを撃つ。

 発砲音を聞き、ビビりながらも五人も撃つ。

 しかし、恐怖で震えた手では照準が定まらず銃弾はあらぬ方向へ飛んで行く。

 それを見て呆れた表情を見せる俊也。容赦なく引き金を引くと銃弾が次々と命中していく。

 アキラ、翔、礼という順で戦死判定のアラームが鳴っていく。

「くそくそくそ!」

 亮が銃を捨て、コンバットナイフを手に向かってくる。

「遅い……」

 そう言って亮の攻撃を最小限の動きで避けるとそのままM3に突撃していく。

「悪いな、あとはお前だけだ」

 俊也はFALを肩に乗せ、亮の前に立つと左手でM3の方を指さす。

 五人の歩兵は倒れ、凛祢の前に立ち塞がる歩兵はいない。

 M3も泥濘に填り、まだ動けていなかった。

「……」

 凛祢はM3目掛けて跳躍。車体の後方に着地するとコンバットナイフとファイブセブンをホルスターにしまう、バックパックのC-4爆弾全てをエンジンルームに仕掛けていく。

「うわぁ!」

「取りつかれた?!」

 梓たちの悲鳴にも似た声を聞きながらも爆弾を仕掛け終え再び跳躍する。

 着地と同時に右手のリモコンのスイッチを押した。

 エンジンルームに仕掛けられたC-4爆弾が爆発。

 M3エンジンルームからは炎と黒煙が上がっており、続いて行動不能を現す白旗が上がった。

「終わったか……」

 凛祢は両手を腰に当て一息つく。

「か、葛城君……」

「凄い……」

「一緒にいたあの人も凄いですが、それ以上に凄いです」

「無茶をするな……」

「ですが、凄い突撃でしたね」

 Ⅳ号車内でその様子を見ていたみほ、沙織、華、麻子、優花里が驚きと呆れの声を漏らす。

「DチームM3、Eチーム38t、CチームⅢ号突撃砲、Bチーム八九式、いずれも行動不能」

「よって、AチームⅣ号とα分隊の勝利!」

 亜美と敦子がそう告げるとみほたちは席のハッチを開けて外に出る。

「私たち、勝っちゃったの?」

「みたいです……」

 まだ勝利したことに実感の湧かない沙織と華が呟く。

「凄い……西住殿と葛城殿のおかげです!」

「ふわ?!」

 そこで感極まったのか優花里がみほに抱き付いた。

「勝ったと言うか、他のチームが脱落したと言うのが正しいな」

「その通りだな。今回は他のチームが全員未経験者だったと言う事に助けられたのが大きいだろう」

 麻子が冷静に言っていると凛祢が痛む肩を押さえながら言った。

「葛城殿!先ほどの戦いお見事でした!」

「別に、東藤が歩兵をすべてリタイアさせたからだ」

 優花里が目を輝せながら言うと、凛祢は俊也を見て言った。

「どうでもいいよ、そんなこと。ほらよ」

 俊也はポケットから千円札一枚を取り出すと凛祢の胸元に押し付ける。

「これって昨日の?」

「ああ、そうだよ。利子はさっきの戦闘の援護でチャラだ。借りは返したから俺は帰る」

 俊也はFALを塁に返し歩いていく。

「待て、お前。歩兵道受講者じゃないだろ?どうしてこの試合に参加した?」

「選択科目は弓道だ……参加したのは成り行きだよ」

 振り向いて俊也は足を止めて答える。

「成り行きって……」

「そんな理由で参加したのか」

 沙織と麻子がそう言って俊也を見た。

「歩兵道の経験は?」

「ないよ、銃の使い方なんて知らないし使ったこともない」

「じゃあなんでバリスタで狙撃ができたんですか?それも一撃で命中させるなんて」

「別に、銃があったから使っただけだ。手元に銃がある、目の前に敵がいる。なら敵を撃つってなるだろ、使い方なんて見て真似したに過ぎない」

「普通そうはなりませんし見ただけで銃を扱うことはできませんよ」

 塁は俊也の説明を聞いて、ため息をついた。

 まあ、他からしてみれば見ただけで銃を扱えなんて無理な話ってもんだ。 

「できたもんはできたんだよ。もう帰ってもいいか?」

「なら、せめて教官の前に顔くらいは出せ。この試合に参加したってことは弓道の授業をサボったって事だろ、それくらいは別にいいだろ?」

 仕方がないという感じで凛祢に従う俊也。

「回収班を派遣するので、行動不能の戦車はその場に置いて、戻ってきなさい」

 亜美の通信が入り、大洗女子学園に戻って行く。

「フッ……やはり、彼女に戦車道を受講させたのは正しかった」

「葛城君にも歩兵道をさせてよかったですね」

「作戦通りだね」

 撃破された38tの中では桃、柚子、杏がそう言い合っていた。

 こうして大洗女子学園と大洗男子学園による合同演習授業は凛祢とみほのAチーム&α分隊の勝利で終わった。

 

 

 日も傾き始め行動不能となった戦車は自動車部と整備部によって運ばれていた。

 特製制服から大洗の制服に着替えた凛祢たちとみほたちは大洗女子学園ガレージ前に整列していた。

 特製制服が入れてあるコンテナは敦子の呼んだ業者の人間が運ぶ準備をしている。

「みんな、グッジョブ!ベリーナイス!初めてでこれだけガンガン動かせれば上出来よ!!」

「豚共もそれなりにやっていたな。まだまだ、歩兵として足りないものはあるもののセンスはある」

 亜美と敦子は素直に戦車道、歩兵道受講者を褒めていた。

「特に、Aチームとα分隊、よくやったな」

 敦子は凛祢とみほを見て笑みを浮かべる。

 整列している中でも麻子は眠そうな表情をしており、俊也はそっぽを向いてあくびをしている。

「……」

 凛祢とみほは複雑そうな表情で亜美と敦子を見ている。

 経験者である自分とみほがいるチームには少なかれアドバンテージがあった。

 そういう面を話してくると思っていたが。

「うまく動けなかった者もいるだろう。ならば訓練に取り組め、明日から再訓練だ!」

「はい!」

 敦子の優しくも厳しい声と共に歩兵道受講者の声が校庭に響く。

「戦車道のみんなも、後は日々走行訓練と砲撃訓練に励んでね。わからないことがあったら、何時でも連絡してね」

「一同、礼!」

「ありがとうございました!」

 桃の号令で、凛祢たちとみほたちは一斉に、亜美と敦子に向かって礼をする。

「東藤俊也、お前に話がある。まだ帰るな」

「っ……」

 敦子に呼び止められ舌打ちをする俊也。

「お前は歩兵道をやる気はあるか?」

「は?ねーよ、歩兵道なんて興味ないね」

 俊也は凛祢たちは異なる態度で敦子の質問に答える。

「東藤殿……」

「やりたくなければいい。だが、お前のことは学園側から聞いた。成績こそいいが、度重なる遅刻と授業のボイコットによって単位が足りていない上にこのままいけば留年らしいな」

 敦子は俊也に言うと凛祢の方に目を向けた。

 俊也も余計なことを言われたために敦子を睨みつけている。

 凛祢は敦子の言葉の意図に気づいた。

「東藤、歩兵道をやれば遅刻を二百日見逃す上に単位を三倍もらえるんだ。このまま留年するよりは歩兵道をやったほうがお前のためになるんじゃないか?」

「凛祢の言う通りだ。このままいくとお前、俺たちの事『先輩』って呼ぶ羽目になるぜ」

 急に話に混ざってきた八尋が煽るように言った。

「くっ!でも、今更選択科目を変えることなんてできねーだろ!」

「できるさ」

 英治がそう言うと雄二が書類を前に出す。

「他の選択授業から戦車道と歩兵道に選択授業を移すことだけは可能なんだ。逆は無理だが学園長も許可している」

「な、に……」

 俊也は引きつった顔で書類を見た。

「さっきの口ぶりからやる気はあるみたいだから次の授業からは歩兵道にこい」

「ぐぬぬ……わかったよ!やってやるよ歩兵道、その代わりちゃんと単位三倍よこせよ!」

 敦子は怖い笑みを浮かべる。

 そんな敦子を見て俊也は腹を括ったのかやけくそ気味に言った。

「それは努力次第だろ。てか、選択授業を歩兵道に変更なんてできたんだな」

 翼は雄二の出した書類を興味深そうに見ていた。

「そろそろ時間ね。さあ照月、帰りましょうか」

「そうだな。まあ、今後の訓練に励むんだな新兵たち……」

 そう言い残して亜美と敦子はATFディンゴに乗り込み夕焼けの彼方に消えて行った。

 10式戦車を乗せたトラックも後を追って消えていった。

「お疲れ様です。蝶野教官、照月教官」

「お疲れー!」

「ああ、ご苦労だったな」

 運転手と挨拶をかわし、後部座席に座る亜美と敦子。

「大洗かぁ……これからの成長が楽しみだわ」

「だったらもう少し真面目に指導したらどうなんだ?」

 大洗の生徒たちの素質を感じ、その成長に期待する亜美と亜美の様子にため息をつく敦子。

「随分と熱心なのね。やっぱり、周防少尉の弟子が居ると気合が違う?」

 亜美は意地の悪そうな笑みを浮かべて、敦子に言った。

「別に、周防少尉は私の目標だった……その人の弟子が『もう一度歩兵道をやる』って聞いて見に来ただけに過ぎない。それにあの人の弟子でも指導するとなったら話は別よ」

「まったく、素直じゃないわね。あんなに少尉のこと好きだったのに……」

「うるさいぞ……」

 そんな話をしながらディンゴは輸送機の着陸場に向かった。

 解散の命令が出ると麻子を含むAチームと俊也を含むα分隊は集まって話をしていた。

「いやー勝ててよかったですね」

 優花里が興奮気味に言った。

「全員で手にした勝利だ」

「俺が来た時にはそこの二人は居なかったけどな」

 凛祢がそう言うと俊也がさっきの仕返しとばかりに八尋と翼を煽るように呟く。

「うるせーよ。途中参戦しておいて何言ってんだ。お前なんてチームに必要ねーから引っ込んでろ!」

「んだと?」

「やるか、この野郎?」

 八尋と俊也はお互いに喧嘩腰で睨み合っている。

「やめろ、お前ら。勝って気持ちよく終わったんだから喧嘩なんてするな」

「そうですよ、八尋殿も東藤殿も仲良くいきましょうよ」

「「ふん!誰がこんな奴と!」」

 翼と塁がやめるよう言うが二人は不機嫌なままそっぽを向いた。

「でも凄かったよね。最後に一年生チームに突っ込んでいったとこなんてかっこよかったよ!」

「見事な突撃でした」

 沙織と華は凛祢を見て言った。

「別に、俺は自分にできる事をしただけだ」

「でも、今日は何度も葛城君に助けてもらったよ。本当にありがとう」

 みほは凛祢に向かって改まってお礼を言う。

「ああ……」

 凛祢はいつも通りの返事で返す。

「そろそろお風呂入り行こっか?」

 話が一段落したところで、沙織がみんなに提案する。

「そうですね。汚れてしまいましたし、汗も掻きましたから」

「ああー、それじゃあ僕たちも銭湯に行きましょうか?」

 華が沙織に賛成すると塁も行かないかと聞いてくる。

「それもそうだな。大洗女子学園の隣って銭湯だから」

「お前も来いよ、東藤。あそこの銭湯、学園の生徒は無料で利用できるし」

「わかったよ」

 翼と八尋、俊也も行くらしく、凛祢も行くことにした。

「ねえ、帰りに寄りたいところあるんだけど。葛城君たちも付き合ってくれない?」

「構わないが……」

「俺もいいぜ」

「俺も構わない」

「僕もです」

「俺は行かねー」

 沙織からの誘いに凛祢、八尋、翼、塁は付き合うが俊也だけは行かないと言う。

「なんでだよ?」

「帰らせろよ……歩兵道とやらのせいで疲れたんだよ」

 八尋が聞くと正直に答える俊也。

「ああ、わかった。俺たちだけで行くから東藤は先に帰ってくれ」

「そうさせてもらう」

 俊也はそう言うと銭湯に向かって歩いていく。

 愛想はないが歩兵としての才能を持っていた、あいつならきっと有力な戦力になる。それにしても照月教官は自分たちのことを初めて『新兵』って呼んだな。あの人も自分たちに期待しているのかもしれない。

 

 

 

 一時間後、銭湯で汗を流した凛祢たちとみほたちは街のホームセンターに向かった。

「……ホームセンター?」

「なんでここなんだ?」

 ホームセンターに来た理由を理解できない凛祢たちと麻子。

「てっきり、戦車道ショップに行くのかと……」

 それを期待していた優花里が、落ち込んだ様子を見せる。

「だって、もうちょっと乗り心地良くしたいじゃん」

 沙織はそう言いながらクッション売り場の前に立つ。

「乗ってると、お尻痛くなっちゃうんだもん」

「ええ?クッション引くの?!」

 沙織の意図を理解したみほが驚きの声を出す。

「駄目なの?」

「駄目じゃないけど……戦車にクッション持ち込んだ選手って、見たこと無いから」

 初心者ならではの発想だな、それは。

 沙織とみほの会話を聞いて、凛祢は内心でそう思う。

「あ、これ可愛いくない?!」

「こっちも可愛いです!」

 沙織がハート型のクッション、華が座布団型のクッションを手に取って言う。

「ねえねえ、どうかな?」

「ああ、えっと……」

「そうですね……」

「俺はいいと思うぜ、沙織さんらしくて」

 沙織に尋ねられ、凛祢と塁が返答に困っていると八尋が無責任に返答する。

「ホント?ありがとう!」

 沙織はそう言うと華と一緒にクッションを買い物カートに入れる。

 それを見て、少々驚きの顔をする八尋。

 本当に買うのかよ。八尋の奴も半分は冗談だったろうに。

「あとさー、土足禁止にしない?」

「「ええ?」」

 沙織の更なる提案にみほと優花里が困惑の声を上げる。

「だって汚れちゃうじゃない」

「土禁はやり過ぎだ」

 スリッパを見ながら言う沙織に麻子がツッコミを入れる。

「ええー」

「流石にやり過ぎじゃないか、武部さん。スリッパなんかで操縦なんかしたら支障がでるだろう」

 納得の行かない様な沙織に、翼が最もな事を言う。

「そっかー……あ、じゃあ色とか塗り替えちゃ駄目?」

「色って迷彩柄を変えるんですか?」

 思わず聞き返す塁。

「そうそう、もっと可愛く……ピンクとかさ」

「ピ、ピンクー?駄目です!戦車はあの迷彩色がいいんです!」

 優花里はあまりにも常識はずれな事を言う沙織に詰め寄る。

「あ、芳香剤とか置きません?」

「ズゴー?!」

 華から出た言葉に優花里はズッコケる。

「鏡とかも欲しいよね。携帯とか充電できないのかなぁ?」

「……」

 沙織と華の買い物をみほは呆然と見ていた。

「やれやれだな」

「葛城君、どうしよう?」

 凛祢は呆れていると、みほが訪ねてくる。

「まあ、好きにさせてあげる方がいいのかもしれないかな?」

 流石にここまでくると凛祢も返答に困り、思わず疑問形になってしまう。

「あ、あはははは……」

 みほも乾いた笑いをこぼしていた。

 

 

 翌日。合同演習に集まった歩兵部隊とみほたちは、ガレージ前でとんでもないものを目にしていた。

「……なんだこれ?」

 唖然としている歩兵部隊たちの中で凛祢がつぶやいた。

 目の前にあるのは整備の済んだ戦車たちなのだが、昨日とは異なる外見をしていた。

 八九式の車体にはは白のペンキで、「バレー部、復活!」と書かれ、バレーボールのイラストも描かれている。

 Ⅲ突には赤、黄、白、青で塗装され、四本の旗が立てられている。

 M3Leeはオブジェクトの様にピンク一色に塗装されている。

 38tはどこぞの英雄王のごとくゴージャスな金ぴかに塗装されている。

「これは、酷い。照月教官が見たらブチ切れますよ」

「やりやがったな、こいつら。てか、なんで生徒会まで一緒になって染めてんだよ!」

 宗司と雄二も目の前のアートを見てそう言うしかなかった。

「ああー……」

 みほも思わず声を漏らす。

「カッコいいぜよ」

「支配者の風格だな」

「うむ」

「私はアフリカ軍団仕様が良かったのだが」

 派手なアートになったⅢ突の前で歴女たちの面々が言い合う。

「これで、自分たちの戦車がすぐに分かる様になったー」

「やっぱピンクだよねー」

「可愛いー」

 悲願を刻み込んだ八旧式とオブジェの様なピンクのM3Leeの傍でバレー部の四人と一年生たちが言っている。

「良いね……」

「杏会長。これは流石にやり過ぎだ……」

 金ぴかの38tを見て満足そうな杏と、もはやついて行けないという感じの英治。

「この勢いでやっちゃおうか?」

「はッ!連絡して参ります」

「え?なんですか?」

 杏が言うと桃がどこかに歩いていく。柚子も杏の考えを知らず問いかける。

「むぅー!私たちも塗り替えれば良かったじゃーん!」

「いや、戦車内に私物を持ち込むだけでも相当なもんだと思うけど」

 不満気に叫ぶ沙織に八尋も少々呆れ気味に言った。

 その通りだ。私物の持ち込みこそ許されているが色を変えていいか以前にこれはアウトだと思う。

「ああー!38tが!M3が!Ⅲ突が!八旧式が何か別の物にー!」

 戦車好きの優花里からは悲鳴の様な声が聞こえた。

「ふふ」

「西住?」

「西住殿?」

 笑い声を出すみほを凛祢と優花里が見た。

「戦車をこんな風にしちゃうなんて、考えられないけど……何か楽しいね。戦車で楽しいなんて思ったの、初めて」

「そう、よかったねみぽりん」

「はい」

 みほを見て沙織と華も笑みを浮かべて言った。

 楽しい……か。歩兵道で楽しいなんて考えたこともなかったな。訓練をして戦って勝利する、いつもそんな事ばかり考えてたもんな。あの日までは……。

 凛祢は思わず昔の事を思い出してしまった。

「凛祢、またぼーっとしてたぞ」

「あ、悪い。考え事してた」

「この前もそんなこと言ってたな。気をつけろよ」

 翼に呼ばれ凛祢は我に返った。八尋も心配して肩を軽く叩く。

 

 

 その頃、大洗女子学園の一室では桃がある場所に電話をかけていた。

「大洗女子学園?戦車道を復活させたんですの?おめでとうございます」

 電話の相手はお嬢様のような口調で話をしている。ブロンド髪と蒼玉のような色の瞳を持つ少女、ダージリンである。

「結構ですわ……受けた勝負は逃げませんもの」

 そう言ってダージリンは電話を置いた。

「試合の申し込みですか?」

 そう質問するのは大きな黒いリボンが目立つ少女、アッサムだった。

「ええ、大洗女子学園の方たちとね」

「話を聞いた限り、戦車道を復活させたばかりみたいですけど、それでウチに挑んでくるなんて……」

 控えめな性格の一年生の少女、オレンジペコが呟く。

「確かに、普通に考えれば無謀かもしれませんわね。けれど、例え相手が誰であろうと騎士道精神の名の元に正々堂々全力で戦う……それが我が聖グロリア―ナ女学院の信条ですわ」

 ダージリンはそう言うと、テーブルの上に置かれたハンドベルを鳴らした。

「失礼します」

「お呼びでしょうか?お嬢様方」

 すると部屋のドアを開き、二人のメイドが入室してくる。

「今度の日曜日に試合を行う事にしましたわ。聖ブリタニア男子高校の歩兵道の皆さんにお伝えしてくれるかしら」

「「畏まりました」」

 二人のメイドはお辞儀をすると、部屋から退出する。

「フフフ……」

 ダージリンが不敵に笑みを浮かべると紅茶を一口飲んだ。

 

 

 一方、聖ブリタニア男子高校の歩兵道演習所では、歩兵部隊が訓練を行っていた。

「全員集合してくれ!」

 教官である教師の号令を聞いて生徒たちは数秒で整列し集合する。

「モルドレッドはどうした?」

「ロードワーク中です。今日はかなり走るって言ってましたけど、まもなく帰ってくるかと……」

 男子生徒の一人が答える。

「そうか。では先に話しておく。聖グロリア―ナ女学院の戦車道、隊長であるダージリンさんから連絡があった。今度の日曜日に練習試合を行うとの事だ。相手は大洗」

「大洗?」

「聞いたことないな……」

 生徒たちは誰も大洗の名を知らなかった。

「二十年前に女子学園側が戦車道を廃止し、男子学園側も歩兵道をやめたらしいそうだが、今年から戦車道と歩兵道を復活させたそうだ」

 教官が大洗の事情を説明する。

「今年から復活って……それでウチに試合を挑んでくるとは」

「無名の学校に負けるほど落ちぶれてはいないっての」

 無名である大洗の挑戦に油断し始めている生徒たち。

「馬鹿者!相手が誰であっても全力で戦え、油断は己の首を絞めることになるぞ!騎士道に準じて戦うことが我々聖ブリタニア男子学園の誇りだ!」

 油断し始めている歩兵道部隊に言い放つ教官。

「獅子は兎を狩るにも全力を尽くす。みんな決して慢心するなよ!」

 教官に同意するように青髪の男、聖ブリタニア男子高校歩兵部隊の隊長ケンスロットが言った。

「それには同意するぜ。俺たちはまだまだ強くならなくちゃならないしな」

 ケンスロットよりも背の高い歩兵道受講者の一人、ガノスタンがケンスロットと肩を組む。

「私たちは全力で戦い、勝利するだけです」

 よくモテそうな美形と、歩兵にしては華奢な体つきの生徒、アグラウェインが言った。

 聖ブリタニア男子高校の歩兵部隊たちは気を引き締めた。

「よし、訓練に戻れ!」

「はい!」

 教官が最後に言うと歩兵部隊は教官に啓礼し、訓練に戻っていく。

「お、帰ってきたか」

 校門に目をやった教官は、校門から入ってくる男に気づく。

「只今戻りました」

 その男は教官の前まで来ると気を付けをし、報告する。

「次の日曜日に練習試合を行う事になった」

「対戦相手は?」

「大洗だ」

「大洗……」

 男は息を整えながら教官の話を聞く。

「今年から戦車道と歩兵道が復活したそうだ」

「分かりました。万全の態勢で戦います」

 教官にそう言うと他の生徒に混ざり訓練を始める。

 

 

 気が付けば訓練を行っている内に夕方になっていた。

「今日の訓練ご苦労であった!」

 整列している戦車部隊員と歩兵道部隊たちを前に桃が言った。

 一部の生徒たちは疲弊した様子で話を聞いている。

「お疲れさまでした」

 全員が揃えて挨拶を行う。

「えー、急ではあるが、今度の日曜日、練習試合を行う事になった」

「な?」

「ええ?」

 桃の言葉に一斉に声を上げる生徒たち。

 杏会長が言っていたのはこれか……。

「相手は聖グロリア―ナ女学院戦車部隊と聖ブリタニア男子学校の歩兵部隊だ」

「「ええ?!」」

 対戦相手を聞いてみほと優花里が驚きの声を上げる。

「どうしたの?」

 沙織がみほに声を掛けた。

「聖グロリア―ナ女学院、聖ブリタニア男子学園と言えば全国大会で準優勝したこともある強豪です」

「準優勝……」

 対戦相手が全校大会準優勝の記録があると聞いて沙織と華も驚く。

「大丈夫かよ……」

「普通に考えて勝率はゼロだろ」

 八尋と翼が負けを認めたような口調で言った。

「そんな事は、みんなで協力すれば……」

「無理に決まってんだろ!お前が玉砕に意味を感じるなら止めないけどな」

 塁の言葉を押し切って俊也が言う。

「それでも、試合をやるなら全力でやるしかないだろ。勝てなくてもいい最善を尽くすんだ」

 みんなの考えを一新させようとする凛祢。

「凛祢の言う通りだ、みんなで最善を尽くそう。勝ち負けはその後だ」

 賛成するように英治がみんなに言った。

「日曜は、学園前に朝六時に集合だ!遅れるなよ!」

「そんなに朝早くー?」

「早起きは苦手ですよ」

 あやと翔からそんな声が漏れる。

「やめる……」

「は?」

「やっぱり戦車道やめる」

 麻子は突然そんな事を言い出す。

「なんでだよ?!」

「そんな急にどうしたんですか?」

 八尋と塁が聞き返す。

「麻子は朝が弱いんだよ」

 幼馴染である沙織が説明すると麻子はその場を早足で去ろうとする。

「ちょっと待てって」

「そうだ、朝が弱いとかそんな理由で――」

 慌てて止める凛祢と翼。

「そんな理由だと?分かっていないな、六時は無理だ」

「モーニングコールさせていただきます」

「家までお迎えに行きますから!」

 翼の言葉に少々不機嫌な表情でそう言う麻子に優花里、華が言う。

「ほっとけよ。無理なら無理でいいじゃねーか、無理強いすんなよ……」

「「「お前は黙ってろ!」」」「東藤殿は黙っててください!」

「……なんだよ」

 凛祢と八尋、翼、塁の声に俊也は思わず後ずさりした。

「六時だぞ……人間が六時に起きれるか!」

「簡単じゃね?」

「俺たち最近は毎日五時起きだもんな。朝トレで」

「確かに」

「お前らな……低血圧はそれが辛いんだって言ってるだろ」

 麻子の言葉にアッサリと返す凛祢たちに俊也がツッコミを入れる。

「いえ、六時集合ですから、起きるのは五時くらいじゃないかと……」

「人にはできる事とできない事がある。短い間だったが世話になった」

 麻子は完全に心が折れた様子で言うと、去っていく。

「おい!お前本当にいいのか?お前も留年するかもしれないから戦車道とやらをやったんじゃないのか?」

 そんな言葉を口にしたのは……俊也だった。

「このままじゃお前進級できないんだろ?学年主席が留年とか笑いで腹イテーわ。そっちの女を先輩とか呼ぶことになるんだぜ」

「さ、お、り、せ……」

 俊也の発言に沙織を先輩付けで呼ぼうとして口籠る麻子。

「東藤!」

「女を泣かすのは流石に俺も切れるぞ?」

 凛祢の鋭い声と八尋の目線が俊也を向く。

「……そ、それにさ、ちゃんと卒業出来ないとお婆ちゃん滅茶苦茶怒るよ」

「お婆!」

「あー、婆さんってこえーもんな」

 お婆ちゃんと言う言葉に麻子は怯える様子を見せた。俊也が棒読みで呟く。

「うう……分かった、やる」

 麻子は諦めた様に呟く。

「おい、トシ。お前、煽ったか?」

「別に……」

 八尋の言葉にそっぽを向く俊也。

「ではこれより、練習試合に向けて作戦会議を行う!」

「じゃあ、我々の学園の会議室を使ってくれ。会議室はいつも開いてるから」

「いつも開いてる?」

 桃がメガホンを手にみんなに呼びかけると英治の言葉に柚子が首を傾げる。

「ウチの学園、そういうのテキトーだから。勝手に使っても文句言われねーし」

「良いねー。それじゃあ大洗男子学園の会議室へゴー!」

 雄二の説明を聞くと、杏が全員に言い放ち会議室へ向かった。

 

 

 数十分後。大洗男子学園会議室には歩兵部隊の凛祢、辰巳、シャーロック、亮。戦車部隊員からみほ、典子、カエサル、梓。そして生徒会の英二、宗司、雄二、杏、柚子、桃の十四人が集まっていた。

 全員は入れそうになかったのでそれぞれのチームから一人づつ会議室に来た。

「中はウチとあんま変わらないねー」

「それはそうですよ。大洗女子と鏡合わせような学園を目指して作られたんですから」

 杏が拍子抜けしたように言うと宗司がそう言う。

「そんなことより会議始めますよ」

 桃が言うと雄二と共にホワイトボードにプリントアウトした聖グロリア―ナ女学院の使用する歩兵戦車Mk.Ⅱ『マチルダⅡMk.Ⅲ/Ⅳ』のデータと聖ブリタニア男子高校の使用する武器である軽機関銃『ブレン軽機関銃』、回転式拳銃『マテバオートリボルバー』などのデータを張り付ける。

「良いか。相手の聖グロリア―ナ女学院と聖ブリタニア男子高校の部隊は装甲の強固な歩兵戦車と共に隊列を組んだ歩兵部隊を進軍させるという浸透強襲戦術を得意としている」

「とにかく相手は固い。主力のマチルダⅡに対して、我々の戦車の砲は百メートル以内でないと通用しないと思え」

「百メートルって超近いじゃん」

「正直な事を言えば我々歩兵には戦車の装甲を突破する術はないですよ。葛城君の爆弾作戦だってキツいのではないかな?」

 桃と雄二の言葉に辰巳とシャーロックがそう言う。

 確かに、シャーロックの言う通りだ。実戦ではヒートアックスがあるとはいえ装甲が厚い上に歩兵たちも精鋭揃いのはずこれはまずいかもしれない。

「そこで一両と一分隊が囮となって、こちらが有利になるキルゾーンに敵を引きずり込み、高低差を活かして残りの全部隊でコレを叩く!」

「キルゾーンには予め対戦車地雷とC-4爆弾のトラップを仕掛けておく。戦場では先に高みの場所を占めるのが有利になる……」

 桃と雄二が同時にホワイトボードを思いっきり叩く。

「おー」

 完璧に見える作戦を聞いて歓声を上げる生徒たち。

 戦場は生き物、時が過ぎるように着々と形を変える。この作戦が成功するのかはわからないが失敗後の作戦も何か……。

「「……」」

 凛祢は思うところがあるような表情をし、みほは何か不安な表情をしていた。

「葛城、西住さん何か意見はあるか?」

「じゃあ、俺から。前段作戦はそれでいいとして、失敗した場合の後段作戦は?」

 英治は二人の表情を見て、何か思ったのか問いかける。凛祢も思い切って聞いてみる。

「ないぞ」

「そうですか……じゃあ失敗した後はどうするんですか?」

「失敗したときの事を考えていたら前に進めねーだろ!」

 桃の答えに凛祢が発言すると雄二が強く返してくる。

「経験豊富な強豪と我々ほぼ初心者が戦うなら戦略を増やすのも手だと言ってるんです」

「あの聖グロリア―ナは当然こちらが囮を使ってくるは想定してくるはずです。裏をかかれて逆包囲されてしまう可能性があると葛城君は言ってるんだと思います」

「黙れ!私たちの作戦に口を挟むな!」

「そんなこと言うならお前ら二人が隊長をやれ!」

 桃と雄二は息ぴったりで凛祢とみほを指さす。

「「す、すみません」」

 凛祢とみほは心から謝罪する。

「あー、まあまあ」

「んーでも。総隊長は西住さん、歩兵隊の隊長は葛城がいいかもな。葛城と西住さんが俺たちや杏会長たちの指揮を執ってくれ」

 杏と英治はお互いに顔を見合わせた後に凛祢とみほを見る。

「「ええ?」」

 凛祢とみほが驚きの表情でいると杏と英治の拍手を合図にみんなが拍手をする。桃と雄二を除いて。

「頑張ってよー勝ったら凄い商品上げるから」

「ええ?なんですか?」

「何をあげるんですか?」

 杏がみほにそう言うと柚子と宗司が問いかける。

「干し芋三日分ー!」

「いらないだろ……」

 杏が思いっきり叫び右手の指で三を現す。その隣で英治が小声で言った。

「もし負けたらどうなんの?」

 辰巳が気になったことを聞く。

「うん?うーん、代納涼祭りであんこう踊り踊ってもらおうかなー」

「「「「は?」」」」

「「「「え?」」」」

 杏は少し考えた後に言った。みほは理解できていないようだが凛祢、辰巳、シャーロック、亮、典子、カエサル、梓、柚子が声を上げる。

「杏会長、何言ってるんだ!」

「冗談ですよね?」

 英治と宗司が立ち上がる。

「あの踊りを?!」

「もはや自殺もんだよ……」

 梓と亮の声が生徒会室に響いた。

 

 

 会議を終えて下校中、作戦会議の事を凛祢が説明すると八尋たちと沙織たちもまた同じような表情を浮かべた。

「あんこう踊り……?」

「馬鹿野郎!あんこう踊りとか最高の羞恥プレイだわ!」

 缶ジュースをコンクリートに落とす程動揺した沙織。八尋も思わず缶を投げつける。

「恥ずかしすぎるー!あんなの踊ったらもうお嫁に行けない!」

「はあ、俺の人生は終わったよ……凛祢、止まるんじゃねーぞ」

「絶対、ネットにアップされて、全国的な晒し者になってしまいますー」

「これからはあんこう小僧とか呼ばれますよ」

「一生言われますよね……」

「勘弁してくれ……」

 途端に人生に絶望した少年少女は膝から崩れ落ちる。

「そんなにあんまりな踊りなの?」

 六人の様子を見て、まだ見ぬあんこう踊りへの恐怖を募らせるみほ。

「ああーもう!勝つんだ!勝たなきゃ社会的に死ぬことになる!」

「それしかなねーもうやるしかない!」

「僕も最善を尽くします!葛城殿とは一蓮托生ですから!」

 八尋、翼、塁も勝つ気満々に啖呵を切る。沙織や華、優花里もまたみほのために意気込みとともに啖呵切る。

「でもさ、私はそれより麻子がちゃんと来るか心配だよ……」

「トシの奴も日曜日は休みだとか言って来なそうだから心配だわ」

 沙織と八尋はもう一つの心配事を口にした。

「ああ」

 みんなが理解したように声を漏らした。




聖グロと聖ブリタニア。ブリタニアには円卓の騎士が出てきます。
名前は少し変わっていますが、ほぼその人の子孫です。
これからも書くので読んでもらえると嬉しいです。
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