ガールズ&パンツァー~地を駆ける歩兵達~   作:UNIMITES

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世間ではGWだったそうですが自分にとってはGWなにそれ?という感じでした
では、本編をどうぞ


第6話 第63回戦車道&歩兵道全国高校生大会

 聖グロリア―ナ女学院&聖ブリタニア高校との試合から数週間後、遂に第63回戦車道&歩兵道全国高校生大会されることとなった。

 大洗のあんこうチーム(Aチーム)とカメさんチーム(Eチーム)、ヤブイヌ分隊(α分隊)とカニさん分隊(ε分隊)が抽選会にやってきている。

 抽選会の会場である、さいたまスーパーアリーナに足を運んでいた凛祢たち。

 先日、試合をしたグロリア―ナ女学院とブリタニア学園以外にも様々な高校の生徒たちが抽選会に来ていた。

 グロリア―ナはイギリス人ぽかったが他校も多彩な国を思わせる特色を持っている。

 アメリカにイタリア、ロシアにフランスと本当に多種多様だ。

 と言ってもこの場にいる大半が日本人なのだが。

 抽選会は順調に進み、ようやく大洗の番が回ってきた。

 代表であるみほが、抽選箱が置かれたステージ上に上がり、抽選札を引く。

 高く上げた札には『8』の数字が書かれていた。

「大洗連合、8番!」

 アナウンスが告げると、大型モニターに映し出された試合の組み合わせ表の枠に大洗連合の名が刻まれる。

 対戦相手の抽選は完了し名前が上がっている、大洗連合の一回戦の相手はサンダース大学付属高校とアルバート大学付属高校からなる『サンダース&アルバート連合』だった。

「よっし!!」

 サンダースの女子生徒と思われる女子が、声を上げる。

 無理もない。大洗なんて名前は去年までなかった上に名前が知られているわけでもない。

 当然、勝てると思っているのだろう。

「サンダースとアルバート連合ですか……」

「それって強いの?」

 優花里に向かって、沙織が尋ねる。

「優勝候補の一つです」

「え?またかよ、グロブリの時も同じようなこと言ってたじゃねーか……」

 優勝候補と聞いて、八尋がため息をついた。

 グロブリと言うのはグロリア―ナとブリタニアの事だろう。

「初戦から強豪ですね」

「どんな事があっても……負けられない」

 離れた席に座る柚子の声に桃は真剣な表情をしている。

「そうだ、負けたら俺たちの……」

「「……」」

 雄二も真剣な眼差しをモニターに向けている。

 英治と宗司は無言ではいるが表情はどこか険しそうだった。

「アルバートが最初の相手か……」

 凛祢もそう口にすると、少しだけ安堵の表情を浮かべていた。

「厳しいな……」

「初戦から優勝候補とか、くじ運なさすぎだろ……」

「駄目ですよ、そんなこと言っちゃ。アルバートですか、隊長は確か『アメリカの星』という二つ名を持つとか」

 翼と俊也は初戦の相手に辛そうな表情を受かべる。

 塁はネットで調べたアルバート大学付属高校のデータメモに目を通している。

「サンダースは戦車の保有数が最も多い学校だ。参加できる車両が少ない初戦で当たったのは不幸中の幸いだろう」

 凛祢が二人に向かって言う。

 しかし、八尋と俊也は勝つことが無謀だと思っている様子だった。

 正直、自分もどこかで思っている。この戦いははっきり言って無謀だと。

 それでも、戦う前から諦めるのは嫌だ。

 凛祢自身はまだ気づいていない、そう思うのは自分の『眠れる本能』が目覚めつつあるからだということに。

 

 

 約二時間程経過してようやく全校の抽選が終了した。

 凛祢たちも他の学校の生徒と同様にさいたまスーパーアリーナを後にする。

 グロブリ連合の番号は2番ということもあり再戦は決勝近くになることはすぐにわかった。

「西住ちゃん、葛城君。私たちは手続してくるから、どっかでお茶でもしてて」

「あ、はい。わかりました」

「俺たちも行こうか?」

 杏に英治が尋ねる。

「そう?じゃあ、来てもらおうかな」

「了解だ」

 杏が言うと英治も笑みを浮かべて後を追う。

「それじゃーねー」

 杏は手を振りながら柚子と桃、英治たち生徒会を連れて手続きに向かった。

「お茶つってもな、店とかよく知らねーし」

「でしたら、この近くに良い喫茶店があるので、行ってみませんか!」

 八尋が振り返ると優花里が挙手して言った。

「喫茶店?」

「はい!『戦車喫茶ルクレール』ってお店なんです!」

「……そういうことな」

 翼に向かって優花里が答えると、俊也がやれやれと呟く。

「いいんじゃないでしょうか?そこにしましょう」

「代金は八尋の奢りで」

 華が賛同すると俊也が八尋に目線を向ける。

「なんでだよ?!」

「お前言ったよな?アイス奢るって。それがお茶に変わっただけだろ」

「お前、いらねーとか言ってたじゃねーか!……てか、覚えてたのかよ」

 俊也の言葉に八尋も思わず叫んだ。

「はぁ。流石に全員のを奢るのはきついんだけど」

「安心しろ。冗談だ」

「お前なー、ふざけんなよ」

 俊也の思わぬ無茶ぶりにため息をつく八尋。

 そんな光景を見て、みんなが笑いあう。

 こんな風に友人と笑いあえる時間こそが青春というものなのだろうか。

「本当に、先導君は面白いね」

「はい」

「そ、そうか?ははは……」

 沙織と華が笑いながら言うと八尋は少し赤くなりながら笑って見せた。

 八尋はやっぱり沙織に気があるのかもしれないな。

「じゃあ、行きますか」

「ほら麻子!」

「眠い……」

 相変わらず眠そうな麻子に肩を貸す沙織が歩き出すと、他のメンバーもそれに続いて歩き出すのだった。

 

 

 さいたまスーパーアリーナ付近に店を構える戦車喫茶ルクエ―ルの店内に凛祢たちが入る。

 隣同士のテーブルに案内され腰を下ろした。

 メニューを手に注文する品を選んでいる。

「よし、、俺たちは決まった」

「はや、男の子って結構即決なんだね。私たちも早く決めよ」

 メニューを閉じて言った八尋を見て、沙織はそう言ってみほたちの方を向いた。

「ゆっくりでいいぞ」

 凛祢はそう言って店内を見渡した。

 店内にいる客は女子ばかりだ、大半の客は戦車道をしている者なのだろうが。

「決まったようだから注文するぞ」

「構わないが」

 麻子が凛祢たちの座る方を見て聞くと翼も麻子の方を向いて答える。

 優花里と塁がテーブル上のFIAT2000の形を模した置物の砲塔部を押した。

 すると、戦車砲の発砲音のような音が店内に響き渡る。

「っ……」

「こんなんで呼ぶのかよ……変わってんな」

 急な音に凛祢以外にも翼や俊也が一瞬驚いた。

「ご注文はお決まりですか?」

 みほたちと凛祢たちのテーブルへドイツ国防軍の戦車兵の制服風のウエイトレス服を着たウエイトレスがやって来る。

「ケーキセットでチョコレートケーキ二つとイチゴタルト、レモンパイにニューヨークチーズケーキを一つずつお願いします」

「承りました。少々お待ちください」

 華が言うと、ウエイトレスは手帳にメモを取り、敬礼して去って行った。

「ティーガーマウンテン五つ、ブラックで!あと、ガトーショコラ」

「芋羊羹」

「ブルーベリータルト」

「……モンブラン」

 八尋、翼、塁、俊也の順序で言うとウエイトレスは同じようにメモを取り、敬礼して去って行く。

「このボタン、主砲の音になってるんだ」

「この音は九〇式ですね」

 沙織と優花里は先ほど鳴らした戦車型の呼び出しボタンを興味深そうに見ていた。

「流石戦車喫茶ですね」

 華が言うと他の席からも発砲音が鳴り響き、忽ち店内は轟音に包まれる。

「うーん。この音を聞くと、もはやちょっと快感な自分が怖い」

「快感って……どんな神経してんだよ」

「まあ、そう言うなよトシ。これからはリアルな音を隣で聞くことになるんだから」

 そんな事を口にする沙織を俊也が気味悪そうに見ると八尋が呟いた。

 八尋の言う通りなのだが、正直耳が痛い。それにこの音で快感を感じるのはちょっと……。

 注文を済ませて少し話していると荷台に戦車型のケーキを乗せたドラゴンワゴンのラジコンが現れた。

「わ!なにこれ?凄ーい!」

「ドラゴンワゴンですよ」

 沙織がドラゴンワゴンのラジコンを見て興奮気味に言った。

「可愛い」

「ケーキも可愛いです」

 みほと華も、ドラゴンワゴンと戦車型ケーキをを見て言った。

 凛祢たちのティーガーマウンテンがスイーツと共に到着する。

「お、来た来た!」

「それじゃあいただきましょうか」

 塁の言葉に一同は注文した品に手を付け始める。

 凛祢だけはティーガーマウンテンのみを注文していた。実を言うと甘いものが苦手なのだ。

「……ごめんね。一回戦から強いとこと当たっちゃって」

 対戦カードを引いたみほが謝罪しながら言った。

「気にするな、西住。例え初戦が違うチームでもいずれは戦うことになっていた」

「そうですよ、逆に初戦は車両数や総合弾薬数が少ないから幸いでした」

 凛祢と塁がフォローするように言った。

「サンダース&アルバート連合って、そんなに強いんですか?」

「強いって言うか、凄いリッチな学校で戦車の保有台数が全国1なんです。チームも一軍から三軍まであって」

「それだけじゃなく銃火器や歩兵道受講者の保有数も全国1ですよ。毎年、新入生の五十人前後が歩兵道を選択するとか」

 華の問い掛けに、情報に詳しい優花里と塁が答える。

「新入生だけで五十人も?多すぎだろ!」

「まさに数の暴力だな、勝ち目は薄い」

 話を聞いていた八尋と翼が驚きを隠せずにいた。

「公式戦の一回戦は戦車の数は十両までって限定されてるから。砲弾や弾薬の総数が決まってるし」

「でも、十両って……うちの倍じゃん。それは勝てないんじゃ」

「歩兵数は少なく見積もっても三倍はいるだろうな」

「勝ち目ないだろ」

 沙織と俊也、八尋が弱気でいる。

 二人の言い分も分からなくもないな、技術も下なのに数も下なら負けという答えに至ってしまう。

 だが、全国大会のルールはフラッグ戦。フラッグ車を倒すのが勝利条件だ。

 ならば、少なからず勝利の糸口はある。

「単位は?」

「それは俺も気になる」

「負けたらもらえないんじゃない?」

「「……」」

 それを聞いた麻子と俊也はそれぞれのスイーツにフォークを刺し、不機嫌そうにケーキを口に運んだ。

「それより、全国大会ってテレビ中継されるんでしょ?ファンレターとか来ちゃったらどうしよう?」

 沙織がそんな事を言っていた。

「ないだろうなー」

「ないですよ流石に」

 翼と塁は苦笑いしながら言った。

「生中継は決勝だけですよ」

「じゃあ、決勝に行けるように頑張ろうー」

 沙織はそう言って、ケーキに手を付け始める。

「ほら、みほも食べて」

「うん」

 そんな沙織に促され、みほもケーキに手を付け始めようとする。

「副隊長?」

 何者かがみほにそう声を掛けた。

「!?」

「……」

 凛祢がいち早くその声に反応した。

 すぐにみほがその声に反応し、他の一同も声の方を向く。

「ああ、元でしたね」

 そこには、みほを小馬鹿にしたような態度を取っている銀髪少女と、みほとよく似た顔立ちをした少女の姿があった。

 後者の顔は前に俱楽部のニュースで見たことがある、黒森峰の隊長西住まほだ。

 西住みほの実の姉であり、黒森峰連合の隊長。そして、西住流の現有力後継者でもある。

「お姉ちゃん……」

 みほがそう言ったことで沙織や八尋も目の前の人物がみほの姉である事を知った。

「……まだ戦車道をやっているとは思わなかった」

 まほは表情一つ変えず淡々とみほに言い放つ。

「……」

 みほは俯いて黙り込む。

 酷い対応だな……。

 聖羅とは異なる性格だが、その本質はよく似ている。

「お言葉ですが!あの試合の、みほさんの判断は間違っていませんでした!」

 みほの様子を見た優花里が立ち上がり、まほたちに向けて叫ぶ。

「部外者は口を出さないで欲しいわね」

「う……すみません」

 銀髪の少女がそう言い放つと優花里は反論できずに俯いた。

「……行くぞ」

 まほは店の奥へ歩き出す。

「あ、はい。隊長」

 銀髪の少女はそれに従うようにまほを追う。

 が、途中でみほたちの方を振り返った。

「一回戦はサンダース&アルバート連合と当たるんでしょう?無様な戦いをして、西住流の名を汚さない事ね」

「……!」

 みほの古傷を抉る様、少女は言った。

「なによその言い方!」

「余りにも失礼じゃ!」

 さすがに沙織と華が声を上げる。

「おい!お前、ふざけんなよ!」

「言っていいことと悪いことがあるだろ!」

 続くように八尋と翼も席を立ち叫ぶ。

「貴方たちこそ戦車道と歩兵道に対して失礼じゃないの。無名校の癖に……」

 立ち止まった少女はみほだけでなく凛祢たち全員を見下すように言い放つ。

「この大会はね、戦車道と歩兵道のイメージダウンになる様な学校は、参加しないのが暗黙のルールよ」

「……」

「強豪校が有利になる様に示し合わせて作った暗黙のルールとやらで負けたら恥ずかしいな」

「……同感だな、それに無名だろうが名が通っていようがお前らに指図される筋合いはねーよ」

 少女の台詞に対して麻子が毒舌を返す。俊也も後に続くように言った。

「っ!貴様……」

 少女は怒りを露わにして睨んだ。

「おい、エリカ止め――」

「調子に乗るんじゃないわよ!去年、その子があんなことをしなければ、私たちは全国大会10連覇という偉業を達成できていたのよ!それを台無しにしたののよ!」

「……!!」

 まほが止めようとした瞬間、エリカと呼ばれた少女の言葉が店内に響いた。

 みほは今にも泣きそうな表情を浮かべている。

 その時、テーブルを力強く叩く音で全員が動きを止めた。

 そして、店内の客たちの視線は……テーブルを叩いた凛祢に向いている。

 ゆっくりエリカの前に歩み寄り、エリカの顔を見た。

「……なによ!」

「……満足したか?彼女を傷つけるような真似をして。みほを責めて、お前の気は晴れるのか?」

「……え、それは!」

 凛祢はいつものように冷静を装っているが、その手は怒りを抑え込むように震えている。

 そんな様子を俊也だけが気づいていた。

「どうなんだよ?」

「どうって……貴方には関係ないでしょ!」

 エリカは凛祢の言葉に一歩下がりながらも強気に言い放つ。

「……」

「エリカ、なにしてんの?」

 男の声が響き、凛祢が振り返る。

 そこには黒森峰男子学院の制服に身を包む二人の姿があった。

「あ、悠希……これは!」

 エリカは男を見るなり、さっきとは異なる表情を見せた。

「どうでもいいけどさ、早くしてよ。俺、腹減ったんだけど、聖羅もそう思うだろ?」

「そうだぜ。わざわざ他校の奴と喧嘩するなよ」

 悠希(ゆうき)と呼ばれる男はそう言って隣の男を見た。

 また、隣の背の高い男もやれやれとエリカに目線を向ける。

「聖羅……?」

「ん?お前……凛祢か……」

 凛祢は見覚えのある顔に、名前を口にした。

 こちらに気づいた聖羅も凛祢の顔を見ている。

 更に、黒咲聖羅(くろさきせら)は、みほたちや八尋たちに目を向けると何かを理解したように笑って見せた。

「凛祢?まさか、中学歩兵道最強と呼ばれた超人で、かつて黒咲隊長の右腕だった……」

「……」

 エリカも凛祢の名を聞いて驚きの表情を浮かべる。

「そういうことか。凛祢、お前がこっちの世界に戻って来るとは思わなかった、西住妹もな……。だが、こちらに来た以上は覚悟はあるんだろうな?」

「……俺はお前の歩兵道を認めるつもりはない。今も昔も、そしてこれからも」

 聖羅は凛祢に歩み寄ると凛祢も目線を向ける。

「変わらねーな。おい、エリカもその辺にしろよ」

「黒咲隊長、しかし……」

「これ以上続けるならお前を副隊長から降ろさせるぞ」

「う、それは……」

 聖羅の言葉にはそれほどまでに力があるのか、それ以上エリカが反論することなかった。

「凛祢、戦うことがあったなら決死の覚悟で来い!行くぞ、悠希」

「ああ」

 聖羅の声に反応するように悠希は後を追う。

「凛祢とか言ったな。お前が聖羅の歩兵道を否定するなら、俺がお前の歩兵道を否定する。相手が最強と呼ばれた超人でも」

 悠希は凛祢にだけ聞こえるように言うと店内の奥へと進んで行った。

 超人か……。誰もが自分をそう呼ぶ。

 自分にとってはその呼び名は過去を思い出す悲しい呼び名だ。

「凛祢、エリカがしたことは私からも謝罪する」

「別に、貴女が謝罪することはないよ西住まほさん。だが、同じ戦車道と歩兵道を嗜む者なら次は……試合で語ってほしい」

「わかった。君たちが私たちと戦うことになった時は全力で戦おう。同じ武道を嗜む者として」

 まほは改めて凛祢に頭を下げた。

 去り際にもう一度みほを見た後に去って行く。

「葛城君、肝座ってるね。カッコイイ……」

「はい、黒森峰の方を目の前にして少しも恐れないなんて」

「流石、葛城凛祢殿ですね!」

 沙織たちは凛祢を見てそんな声を漏らした。

「確かに、よくやった凛祢。あのエリカとかいうアマ、絶対許さねーぞ」

「あんな一方的に責め立てるのはどうかと思う」

 八尋と翼はエリカの言葉に強いイラ立ちを覚えている。

「あれが黒森峰男子学院歩兵隊隊長、黒咲聖羅と副隊長、星宮悠希(ほしみやゆうき)ですか……」

「……」

 塁の言葉を聞きながら俊也は一人、ティーガーマウンテンを飲んでいた。

「ケーキ、もう一つ食べましょうか?」

「もう二つ頼んでもいいか?」

 華と麻子の言葉で凛祢たちはさっきまでの空気に戻ろうとしていた。

「あ、あの葛城さん。さっき私の名前呼んだよね、みほって」

「ごめん。俺、感情に流されてたから」

 みほの言葉に凛祢は先ほどの自身の発言を思い出す。

 確かに自分は西住ではなく、みほと呼んでいた。

「ううん。あのよかったら私も凛祢さんって呼んでもいいかな?」

「え、ああ。構わないけど」

「うん、ありがとう凛祢さん」

 みほは凛祢に感謝して笑顔を見せた。

「なあ、俺もみほさんって呼んでもいい?」

「え?」

 八尋が手を上げて発言する。

「そうだ!みんな苗字じゃなく名前で呼び合おうよ!その方が呼びやすいし」

「いい考えですね、私たちチームですから」

 沙織の提案に賛成するように華も続く。

「いいんじゃないか」

「俺はどっちでもいい」

 麻子は眠そうな表情で紅茶を飲むと俊也はテキトーに流してモンブランの栗を口に放り込んだ。

 

 

 黒森峰連合の四人は店内の奥の席に座り注文を済ませると聖羅が話を切り出した。

「エリカ。何度も言っただろう、去年の敗北は西住妹のせいじゃない。お前は感情的になり過ぎだ」

「申し訳ございません。しかし、黒咲隊長!」

「しかしもなにもないよ。そもそも、敗北の原因は俺たち歩兵隊だ。忘れたのか?エリカが責めてばかりだからみんなだって責任感じてただろ」

「う、そうだけど」

 聖羅や悠希の発言にはどうしても反論しないエリカは返事をするだけだった。

「去年の敗北は結果だ。ならば、次は敗北しないように改善するのが私たちだ」

「そうだな、俺たちはいつだってそうしてきた」

「ああ、俺たちの覇道を阻む者がいるのならぶっ潰すだけだ」

「はい、隊長!私も日々努力します!」

 まほの言葉に聖羅たちもいつもの様子に戻っていた。

「もう敗北は許されないか……口にすると随分重いな」

「安心しろ。もう一度、俺とまほが連れってやるよ。お前も黒森峰のチームも優勝の頂に……」

 悠希に言うと聖羅は窓の外を見た。

 かつての自分と共闘した歩兵と戦車道の元副隊長が敵となって現れた。

 聖羅自身それには少々驚いた。それでも己の覇道を行くだけ。

 『勝利するための戦い』それが黒咲聖羅の歩兵道だから。

 

 

 しばらくしてルクエ―ルを後にした凛祢たちは、手続きに行っていた杏たちとの待ち合わせ場所に向かっていた。

「あー、美味しかったー」

「また来たいですね」

 ケーキを食して満足そうにしている沙織たちの後ろをみほと凛祢が歩いている。

「西ず、みほ。その、龍司は……朝倉龍司は歩兵道を続けているのか?」

「凛祢さん、朝倉さんのことご存じなんですか?」

「ああ、中学で同じ歩兵分隊だった。あいつは俺と違って聖羅の歩兵道を信じて黒森峰に進学していたから」

 凛祢はあまり思い出したくない過去が蘇っている。

 三年前、聖羅にとっては中学歩兵道最後の試合。凛祢は聖羅の言葉を無視して龍司(りょうじ)を助ける道を選んだ。

 結果、凛祢は集中攻撃を浴び、チームは敗北。

 龍司は責任を感じていたはずだ。

「朝倉さんはやめてはいないと思います。私が黒森峰を離れる時、言っていました。黒咲との約束を守らなきゃならないって」

 みほも黒森峰の学園艦を去る時の事を思い出す。

 その答えを聞いて安心した。

 龍司は今でも、あの日の誓いを守り続けていたんだ。自分は黒咲の歩兵道を認められず別の道を選んだのに。

 それが、龍司の強さだ。どんなことがあっても決して引かない。

 どうすればよかったのかを常に探し続ける。

「そうか、あいつは強いな」

「はい。朝倉さんは凄いと思います」

 二人はそう言い合って歩みを進める。

「なあ、塁。黒森峰の隊長って強いのか?」

「え?はい、とても強いです。歩兵道界での西住流と呼ばれた男ですから。あと、これは関係ありませんが大学選抜の歩兵には戦車道家元、島田流の分家である天城流(あまぎりゅう)という流派もいます」

 俊也の珍しい問いに塁は答えた。

「歩兵道版西住流か……」

「もしも、今の僕たちと戦うことがあったなら瞬殺されるかもしれませんよ」

「瞬殺ねぇ……」

 俊也はそれ以上は何も聞かなかった。

 数十分後、手続きを終えた杏たちと合流し、学園艦に向かう連絡船を使い大洗の学園艦に帰った。

 大洗学園艦が見えてきた頃、みほが言葉を切り出す。

「凛祢君、守ってくれてありがとう」

 みほはルクエ―ルでの事を思い出して感謝の言葉を述べる。

「俺は大したことはしていないよ」

「そんなことないよ」

 笑顔で言うみほ。

「……」

 その笑顔はとても美しく、凛祢は思わず視線を逸らした。

「西住殿、葛城殿。ここでしたか」

 二人の元に優花里が姿を見せる。

「あ、秋山さん」

 優花里は二人と一緒に水平線に沈み行こうとしている夕日を眺め始める。

「全国大会……出場できるだけで、私は嬉しいです」

 優花里は不意に語りだす。

「他の学校の試合も見られるし、大切なのはベストを尽くすことです。例え負けたとしても」

「それじゃ困るんだよねぇー」

 背後から聞き覚えのある声が聞こえ、凛祢たちは振り返る。

 そこには杏たち生徒会の姿があった。

「絶対に勝て」

「え?」

 桃の言葉に困惑した様子を見せる優花里。

「我々はどうしても勝たなければならないんだ」

「そうなんです。だって負けたら……」

「しー」

 柚子の発言を遮る様に杏が声を出した。

「とにかく!全ては西住ちゃんと葛城君の肩にかかってるんだから。今度負けたら何やってもらおうかなー。考えとくね」

 杏はグロブリ戦前のような事を言ってその場を後にする。

「元々、負けるつもりはない」

 凛祢も自身の考えを述べる。

 まただ、生徒会はまた勝利することを強要するような発言をした。

 どうして、そこまでして勝利を求めるのか。

 負けるつもりはないが、やはり気になる。

「……」

「大丈夫ですよ!頑張りましょう!」

 優花里はみほを励ますように言った。

「……初戦だからファイアフライは出てこないと思う。せめて、戦車チームの編成が分かれば、戦い様があるんだけど……」

 みほはそう口して戦略を練り始めていた。

「戦略はみんなで協力して考えればいい」

「うん、ありがとう凛祢君」

 凛祢の言葉を聞いてみほは弱々しくなりながらも笑みを見せる。

「……」

 そんな二人の隣で優花里は何かを決意したような表情を見せる。

「優花里?」

「あ、大丈夫です!」

 凛祢の問いに優花里はいつも通りの元気な返事をしていた。

 

 

 翌日の早朝、いつもの日課で道路上を走っていた凛祢は気になる人影を見つけ、足を止める。

 コンビニの定期便に荷物を運びこんでいる人たち。

 そんな中、隠れながら定期便に侵入していく優花里と塁の姿があった。

「なにしてんだ?あいつら」

 凛祢はそんな疑問を抱く。

 今日も通常通り学園で授業があると言うのに。

 定期便は朝に発ったら夕方まで戻らないはずだが。

 コンビニの定期便の甲板は多数のコンテナが積み上げられている。

「よし、誰もいない」

 優花里は姿を隠しながらコンテナの間を移動していく。塁も後に続いて行く。

「OKですね」

「はい、ここなら大丈夫そうです」

 ようやく身を隠せる場所を発見した二人はその場に座り込み、安堵の息を吐いた。

「あとは見つからずにサンダースとアルバートの学園艦に潜入できれば……」

 息を殺しながら、塁は小声で呟く。

「はい、坂本殿は誰かに言って来ましたか?」

「いえ、誰にも言わずに来ました。それにしても優花里殿に誘われた時はびっくりしました」

「あはは、どうしても西住殿と葛城殿の役に立ちたくて……あ、どうぞ」

 優花里は照れるように言うと鞄からレーションを取り出した。

 封を切って一つを塁に渡す。

「ありがとうございます。なんか、僕たちスパイみたいですね」

「確かにそうですね。本物のスパイです!」

 優花里と塁は笑い合いながらレーションを食す。

「お前ら、なにやってんだ?」

 不意にそんな声が聞こえ、塁と優花里は驚く。

 周りを見渡すがあるのはコンテナと段ボールの山。

「今のは?」

「わかりません……もしかして見つかった?」

 塁と優花里はお互いの顔を見合わせる。

「こっちだ」

「え?」

「誰ですか?」

 優花里と塁は身構える。

「俺だ……」

 段ボールの裏から現れたのはジャージ姿の凛祢であった。

「凛祢殿?」

「葛城殿どうして?」

「お前らがこの定期便に入っていくのが見えたから。追ってきた」

 凛祢はここまでの出来事を二人に説明する。

 すると、大きな汽笛の音と共に定期便が出発する。

「「「あ」」」

 三人の声が重なった。

「凛祢殿、どうするんですか!?」

「もうどうしようもないだろ。てか、お前たちは何のために乗り込んだのか説明しろ」

「えっと……話すと長いですよ?」

 優花里はそう言うが凛祢の顔を見て、説明を始めた。

「ふーん、そういう事か。無茶するな……」

「「すみません」」

「まあいい、今回は俺も手伝ってやるよ。どうせ、このままだと帰れないし」

 凛祢はため息をついた。

 要は、優花里がみほのために情報を集めに行こうとした。塁もそれを手伝ってやろうとした。

 ところが、忍び込むところを凛祢が発見し、今に至ると。

 敵の情報を探るのは悪いことではない。むしろ、協会に許可されている。

 こうなってしまった以上は自分は二人を手伝うくらいしかできない。

 

 

 数時間後、凛祢たちは対戦校のサンダース大学付属高校とアルバート大学付属高校の学園艦に到着した。

 塁と優花里はコンビニの制服を着ているが凛祢はジャージ姿、どうしても目立つため隠れて侵入していく。

 サンダース高校とアルバート高校は別の高校であるが、隣同士で存在している。

 現在、三人は両校が見える位置の物陰に身を隠している。

「あれが、サンダースとアルバートの校舎か」

「やっぱり、大きいですね」

 想像以上に大きい校舎を見つめている凛祢と塁が言った。

「それで具体的に何するんだ?」

「それぞれの学校の制服を着て、潜入します」

 塁と優花里は鞄からサンダース校とアルバート校の制服を取り出す。

 一体、どのような方法で手に入れたのか知らんが、よく手に入ったものだ。

「凛祢殿は情報管理室で有力なデータをコピーしてきてください。僕たちは大会で使う銃火器や戦車の情報を調べてきます」

 塁はそう言って、USBメモリを手渡した。

「了解だ」

 凛祢は塁から借りた通信機とUSBメモリをポケットに押し込んだ。

「それじゃあ、こそこそ潜入作戦開始ですね!」

「はい!」

「了解だ」

 優花里の声に塁と凛祢も潜入作戦を開始した。

 優花里はサンダース校へ、凛祢と塁はアルバート校へ向かう。

 

 

 サンダース校内に侵入した優花里は小型ビデオカメラの電源を入れる。

 すぐに、お手洗いで着替えを済ませるとカメラを持って校内を撮影する。

「これでどこから見てもサンダース校の生徒です」

 優花里が廊下を歩いていくが生徒は誰一人声を掛けない。

「ハーイ!」

「「ハーイ!」」

 すれ違うサンダースの生徒と挨拶を交わす優花里。

 サンダース校の生徒たちは、優花里が他校の生徒だとは微塵も思っていない様子だった。

「皆、フレンドリーです。バレてません」

 優花里はその様子を見ながら、小型カメラに向かって一人呟くのであった。

 

 

 一方、アルバート校へと潜入した塁は武器庫と思われる広い部屋に来ていた。

 壁際には綺麗に並べられた銃火器たち。

 右から左にかけて拳銃、サブマシンガン、アサルトライフル、狙撃銃、対戦車砲という順で並べられている。

「凄いですよ、これ」

 塁は驚きながら奥へと進んで行く。

「うん、小銃はM4カービンと。対戦車兵器はおそらく20から25は投入してきそうですね……。重機関銃なんか扱えるのでしょうか?」

 塁は一人で銃火器のメモを取り、カメラで撮影していく。

「拳銃はリボルバーが多いようですが……。おー、デザートイーグル!本物は初めて見ました!」

 塁は二丁だけ置いてあるデザートイーグルを見て興奮気味に叫ぶ。

「ん?これは……」

 一時間ほどかけて、ようやく調べ終えた塁はホワイトボードに目をやる。

 貼りだされた予定表には今日の12時にブリーフィングと書かれていた。

「これは好都合かもしれませんね」

 現時刻は11時ちょっと、すぐに向かえば十分間に合う。凛祢と優花里に連絡を入れた後、ブリーフィングの会場であるサンダース校の合同作戦会議室に向かった。

 

 

 そして、塁と別れた凛祢は通気口内を進む。

 蓋の隙間から場所を確認しながら情報管理室に向かう。

 数分後、通気口の蓋を外して情報管理室内に侵入する。

「ネズミになった気分だな」

 そんな事を言いながらパソコンの電源を入れる。

 パソコンも最新型だからなのか起動が早い。さすがは金持ち学校。

 すぐに戦車道&歩兵道のデータベースにアクセスしようとするがパスワードという壁に阻まれる。

「パスワードか……どうするかな?」

 凛祢は室内の探索を始める。

 すると、隣の部屋に続く扉を発見した。

 鍵のかかっていない扉の先は書類をまとめた部屋なのか、戸棚にはファイルがびっしりと収納されている。

「お、戦車道と歩兵道の書類もあるな」

 書類にはサンダースとアルバートの歴史のごとき、昔の戦車道と歩兵道の事が綴られている。

 運がいいことにデータベースのパスワードも載っていた。

「よし、これで……いいもの見つけた」

 凛祢はパスワード以外に、アルバート校の制服を発見した。

「ちょっと借りるぞ」

 段ボール箱に入ったアルバート校の制服に着替え、着ていたジャージを一緒に置いてあったスクールバックに押し込んだ。

 パスワードを使ってデータベースにアクセスする。

「去年までの試合記録をしっかり残してるな。それ以外にも使用戦車と使用武器、用意弾薬数。個人の性格や技量、どれだけ弾を撃ったかまで残してるなんてまめだな……」

 データを見ながら思わず呟く。

 それらをUSBメモリにコピーすると、USBメモリを引き抜きポケットにしまう。

 すると、机に置いていた通信機が鳴る。

 手に取り、通信機を口元に近づける。

「こちら塁、武器庫内での銃火器のデータ収集を終了しました。オーバー」

「こちら優花里、了解しました。こちらも、戦車倉庫内での戦車のデータ収集を終了しました。オーバー」

「こちら凛祢、了解した。こちらも有力なデータのコピーに成功した。オーバー」

 それぞれが通信機越しに通信を送る。

「こちら塁、了解しました。本日一二○○よりサンダース校、合同作戦会議室にてブリーフィングが行なわれる。各自参加せよ」

「「了解」」

 塁の指示に凛祢と優花里が返事をする。

「ふふふ。なんか楽しいですね」

「はい、私たち本物のスパイですから」

 塁と優花里が笑いながら通信を続ける。

「おい、学園艦に帰るまでがミッションだぞ。あと、インカム通信はできるようにしておいてくれ」

「「了解であります!」」

 二人は通信を終えて、それぞれサンダース校合同会議室を目指す。

 凛祢も予め下ろしていた縄梯子を使って通気口に戻り、蓋を戻した。

 

 

 サンダース校合同作戦会議室。

 サンダース校側に設置されていた合同作戦会議室は、大洗を遥かに上回る設備を有していた。

 室内の広さはもちろん、大型のモニターまで完備している。

「全体ブリーフィングが始まる様です」

「緊張しますね……」

 周りは全員サンダース校とアルバート校の生徒。

 そんな中に優花里と塁が紛れ込んでいる。優花里はしっかりと録画を続けていた。

 凛祢もギリギリで室内に侵入する。

「おい、お前。遅いぞ」

「すみません。腹が……痛くて」

 すると、凛祢を見た筋肉質な大男が話しかけてくる。彼はブラッド、アルバート校の副隊長だ。第2番隊歩兵隊隊長であり兵科は砲兵。

 凛祢はいつもとは違う性格の生徒を装う。

「そうか、さっさと席に着け」

「いえ、またトイレに行くかもしれないので……ここで見てます」

「……わかった」

 凛祢の言葉にブラッドはそのまま去る……と思ったが、一度振り向いた。

「お前、名前と兵科は?」

「ジル・バレンタインであります。第17番歩兵隊、偵察兵です。ブラッド副隊長……」

「……そうか、わかった」

 ブラッドを見送り、凛祢は少し安堵の息を吐く。

 危なかった、データベースで名前を調べていなかったらバレていたかも……。

 それに、偽名でもよくバレなかったものだ。人数が多い分、全員の顔と名前までは把握しきれていないのかもしれないな。

 すると、モニターの前の壇上に三人の女子生徒と三人の男子生徒が登壇する。

「では、一回戦出場車両を発表する」

 登壇している女子生徒の一人、サンダース校戦車部隊の副隊長である茶髪のツインテールのアリサが言った。

 手に持つ用紙の内容を読み上げる。

「ファイアフライ一両、シャーマンA1・76㎜砲搭載一両、75㎜砲搭載八両」

 同時に、モニターにも使用する戦車の映像が映し出される。

「思ったよりも戦力を出してきたな」

 凛祢はそう口にする。

「歩兵隊の投入数は115名。対戦車兵である砲兵を中心に隊を編成する」

 続いてアルバート校のもう一人の副隊長であり髪型がオールバックの男、ピアーズが言うとモニターも切り替わる。

 ひゃ、115名だと?大洗の約五倍じゃないか!

 凛祢も驚く、予想を遥かに上回る数の歩兵が投入されているからだ。いや、よく考えれば元々歩兵道は多人数で行うもの。大洗の人数の方が圧倒的に少ないのかもしれない。

「じゃあ、次はフラッグ車を決めるよ?OK?」

 サンダース校の戦車部隊隊長である金髪のロングヘアのケイが生徒たちに問い掛ける。

「イェーー!」

 それに対し、大きな返事をする生徒たち。

「随分とノリがいいんですね。こんなところまでアメリカ式です」

 優花里は小声で呟く。

 そして、フラッグ車はアリサの乗るシャーマンA1に決まり、またも室内が盛り上がる。

「何か質問は?」

「あ!はい!フラッグ車の防衛はどうするんですか?」

 優花里は席から立ち上がり、そう尋ねる。

「っ!」

 後ろから見ていた凛祢は優花里の目立った行動に焦る。

「おー、良い質問ね」

「フラッグ車には歩兵部隊の小隊が一つと俺の部隊から五人を防衛に回す。敵は少数で技術もない、一気に攻めて叩き潰すだけだ」

 ケイが反応すると、ブラッドが答える。

「でも、敵にはⅢ突が居ると思うんですけど……」

 今度は塁が挙手しながら立ち上がり発言する。

「大丈夫!一両でも全滅させられるわ!」

 ケイは笑ってそう答える。

「「「……」」」

 左右にいるアリサとサンダース校もう一人の副隊長ナオミが優花里と塁の顔を見つめる。

 更に、登壇しているブラッドも二人の顔を見た。

 これは……マズイ!

 凛祢はバレないように室内のブレーカーボックスに近づく。

「見慣れない顔ね」

 凛祢の予想通り、ナオミが優花里に言い放つ。

「へ?」

「いっ!」

 その一言で、生徒たちの視線が一斉に二人に集まる。

「えっと……」

 塁も焦りだしているの確認して凛祢が動く。

「所属と階級は?」

「第15番歩兵隊、クリス・レッドフィールド!兵科は砲兵であります!」

 優花里の顔を見た塁が適当に浮かんだ名前や番号を叫ぶ。

「え?あの、第六機甲師団オッドボール三等軍曹であります!」

 優花里も続くように偽名を叫ぶ。

「偽物だ!捕まえろ!」

 アリサの声と同時に室内の明かりが消えた。

 窓のない室内は一瞬にして暗闇に包まれる。

「塁、優花里!左の扉から逃げろ!」

 ベルトの通信機を手に取り叫ぶ。

「優花里殿!」

「あ、はい」

 通信を聞いた塁は優花里の手を引いて暗闇の中で走り出す。

 二人は勢いよく扉を開き、出ていく。

 凛祢も通信機を隠しながら別の扉から出ていく。

 五分も経たない内に、学園内にサイレンが鳴り響き始める。

「他校のスパイが侵入した!捕まえよ!」

 スピーカーからそうアナウンスが流れる。

「急ぎましょう!」

「は、はい!」

 塁は全力で走る、優花里もなんとかついてきている。

「いたぞ!」

「捕まえろ!」

 アルバート校の生徒が二人を追いかける。

 それでも、塁と優花里は必死に逃走する。

「塁、職員棟二階の男性用トイレの通気口から戦車倉庫に出られる。どうにかして辿り着いてくれ」

「分かりました」

 凛祢からの通信を聞いた塁は角を曲がり階段を下りていく。

 一方、通信を入れた凛祢はアルバート校内に戻っていた。

 情報管理室に再度侵入し、ジャージに着替える。

「よし」

 制服を戻して、武器庫を目指す。

「これより、警戒態勢をサンダース校内だけでなくアルバート校内にも広げる!何としてもスパイを発見せよ!」

 アルバート校の通気口を通っていると放送が響く。

 どうやら捜索範囲を広げたようだ。

「マズイな……」

 ようやく通気口を抜けて、武器庫までたどり着いたがアルバート校の生徒が四人、武器庫内を見張っている。

 これでは、脱出ができない。

 段ボールの山に身を隠しながら様子を窺う。

 すると、通信機が小さく鳴った。

「こちら凛祢」

 通信機を口元に近づけ小声で返事をする。

「お友達は脱出できたみたいよ。貴方も早く脱出した方がいいわよ」

「っ!」

 通信機から聞こえたのは塁でも優花里の声でもない。

 聞き覚えのない女の声だった。

「お前は誰だ?なぜ、この周波数を知っている?」

「そんな事を気にしている場合なのかしら?もうすぐお迎えの船が来ちゃうわよ、ジル・バレンタインさん」

「な!」

 彼女は今、ジル・バレンタインと言った。凛祢がブラッドの前で名乗った偽名だ。

 しかし、ブラッド以外には名乗っていないはずなのに。

「……お前を信じていいのか?」

「嫌ならいいけど。時間がないけどね」

「……わかった。どうすればいい?」

 凛祢は問い掛ける。

 彼女を信じてもいい保証などない。だが、信じるべきだと思った。

「三分後、放送が鳴るから同時に逃げなさい」

 彼女に言われ凛祢は動けるように準備する。

 数分後、校内放送を告げる合図が響く。

「スパイをサンダース校内にて発見。至急、捕まえよ!」

 そんなアナウンスが響いたかと思うと武器庫内の生徒たちは武器庫を後にしていく。

「本当に行きやがった」

 凛祢はそう口にして扉から外へ出ていく。

 

 

 アルバート校の敷地内から脱出し、指定された場所まで走ると塁と優花里の姿があった。

「塁、優花里!」

「凛祢殿!無事でしたか!」

 塁と優花里も凛祢に視線を向ける。

「助けてくれたあの通信は、誰だったんでしょうか?」

「優花里たちも聞いたのか?」

「はい、名乗ってはいませんでしたが」

「感謝はしている、だが戻っている暇はない。通信に割り込めるような奴だ、きっと脱出してるさ」

 凛祢はそう言って定期便を見つめる。

「坂本殿、行きましょう」

「はい……」

 三人は隠れて定期便に乗り込み大洗の学園艦へと帰還するのだった。

 その様子を隠れて見つめる少女の姿に気づかぬまま。




読んでいただきありがとうございます。
今後も執筆を続けるので読んでいただけると嬉しいです
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