ガールズ&パンツァー~地を駆ける歩兵達~   作:UNIMITES

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遅くなってしまってすみません。
忙しくて執筆の時間が取れずにいました。
今後も頑張って書くので読んでもらえたら嬉しいです。
では、本編どうぞ


第7話 1回戦、サンダース&アルバート連合

 サンダース大学付属高校とアルバート大学付属高校の学園艦から脱出した凛祢たちが定期便に乗り込み、一時間ほど過ぎた頃。

 三人はほんの少しの安息の時間を過ごしていた。

「葛城殿、坂本殿。収集してきたデータを見せてください」

 コンテナの裏に隠れて息を潜めている優花里が鞄からPCを出した。

「どうするんだ?」

「少し、編集するんです」

 優花里は凛祢の持っていたUSBメモリと塁のカメラから移したデータ、自身の撮影データを一つのデータチップにまとめて、編集を始める。

「手慣れてますね、こういうの得意なんですか?」

「まあ、なかなか使うことなかったんですけど……」

 塁が興味深そうに見ていると優花里はPCを操作しながら答えた。

 すると凛祢の通信機が鳴る。

「っ!?」

 凛祢だけでなく優花里や塁も鳴り続ける通信機を見る。

 警戒しながらも通信に応じると、聞こえた声は校内で助けてくれた声だった。

「良かったわね、三人共脱出できて」

「お前は一体何者なんだ?今通信してきたってことはお前もこの定期便に乗っているのか?」

「ええ、私もあなたたちと同じ船の上よ。私もサンダースとアルバートに潜入していただけ、そしたらあなたたちも同じことしていたからね」

 女の声は凛祢の質問に答えてきた。

「貴方はおかしいと思わなかった?資料室への扉の鍵が開いていたこと、不自然にも用意されていたアルバート校の制服、資料内に重要なデータベースにアクセスするためのパスワードがあったこと……」

「!!」

 凛祢も潜入作戦の事を思い出す。

 言われてみれば、誰もいないのに資料室への扉に鍵が掛かっていないわけがない。情報管理室にはしっかりと外から鍵がかかっていた。

 それに制服が資料室内にあったのも、個人情報とも言えるデータベースにアクセスするパスワードが誰もが見る資料の中にあったのも。

 少し変だ、という事に気づいた。

「それはつまり」

「ええ、全部私が前もって用意しておいたの。安心しなさい、情報はすべて本物よ。私は貴方たちの手伝いをしただけ」

「なんで、そんな回りくどい事を?」

 凛祢は問い掛ける。

 彼女の意図がどうしても分からなかった。

「別に目的なんてないわ。情報が大洗に届けばそれでよかったの、それに貴方たちのおかげでいい情報も手に入ったわ」

「だが、それなら俺たちを助ける必要はなかっただろ?俺たちが逃げ回ってる間に情報を持って逃げることもできたはずだ」

「それこそ意味がないわ。貴方たちは最後の希望だもの」

 女の言葉が凛祢には引っ掛かる。

 通信する凛祢を見ていた塁と優花里も顔を見合わせた。

「それはどういうことだ?おい、答えろ!」

「少し話過ぎたわ。今回手に入れた情報をしっかりと持ち帰る事ね。葛城凛祢君……」

「おい、待て!まだ聞きたいことが――」

 女はそう言って通信を切ってしまった。

 凛祢の問いに答えが返ってくることはなかった。

「……」

 凛祢は通信機を置いて優花里の方を向く。

「あの、大丈夫ですか?」

「なにか言っていたんですか?」

 塁と優花里は凛祢の顔を見て問い掛ける。

「……いや、なんでもない。あいつも大洗の人間だったってことだ」

「え?そうなんですか?」

「誰かが情報を欲していた、もしかして生徒会か?」

「生徒会、その可能性はあるかもしれませんね。あの人たち勝利に執着してるようでしたし」

 塁も凛祢の考えに賛成するように考える仕草を見せる。

 どちらにしても本人に聞いてみなければわからない。

「俺は戻ったら生徒会に当たってみる。二人は情報をみほにでも渡しておいてくれ」

「僕も行きます!」

「いや、俺一人で十分だ。塁、今は優花里と情報を届けてくれ」

「……わかりました」

 凛祢はそう言って、コンテナを背に少し眠りについた。

「凛祢殿、眠っちゃいましたね」

「葛城殿も疲れていたんですよ。グロブリの試合も全力でやっていましたから。あ、決して他の方が手を抜いていたと言っているわけではありませんよ」

「分かってます。僕も凛祢殿の役に立てるように頑張らないと、いつまでもチームのお荷物でいるのは嫌ですから」

 塁が空を見上げると、空は少しだけ赤くなり始めていた。

「お荷物なんかじゃありませんよ、坂本殿はいつだって自分にできる最善を尽くしているじゃないですか。今回だって坂本殿が居なければどうなっていたか」

「僕は八尋殿や俊也殿みたく射撃が得意なわけじゃないし、凛祢殿みたくCQCが得意なわけでもない。翼殿だって、もう銃の扱いに慣れている。なのに僕は……」」

「坂本殿、一つ言っておきます。葛城殿は坂本殿を信頼していますよ、前に聞いたことがあります。『塁はチームに必要だ、あいつは誰よりも歩兵道に詳しい上に自分たちを支えてくれてる。八尋にも翼にも、俊也にもできない事をやってのける』そういう奴だって」

 優花里は塁の顔を見て、真剣に言った。

 塁は少し照れたような顔を見せる。

「凛祢殿が……そんなことを?」

 塁は眠っている凛祢に視線を向けた。

「はい、気づいていないけど無意識にやってるって。坂本殿、大事なのは最善を尽くす事ですよ」

「自分にできる最善……ですか。ありがとうございます優花里殿、僕は僕にできることをやってみます!」

「はい、その意気です!」

 いつもの塁に戻った様子を見て、優花里も笑って見せた。

 その後も二人は会話を続け、定期便は大洗の学園艦を目指すのだった。

 

 

 大洗の学園艦に到着し、凛祢は塁、優花里と別れて一人学園を目指した。

 大洗男子学園、生徒会と書かれたネームプレートが填っている部屋の扉をノックもなしに開ける。

 室内には英治、宗司、雄二の姿があった。

「葛城?」

「どうしたんですか?もう下校時間は過ぎてますよ?」

 声を掛ける雄二と宗司を無視して、英治の机の前に立つ。

「サンダースとアルバート校の学園艦に行ってきました」

「なに!?」

「葛城君、何を言っているんだ!?」

 凛祢の言葉を聞いた雄二と宗司が驚きの顔を見せる。

 それもそのはず、今日だって大洗男子学園が普通通りの一日を送っていた。

 生徒たちは朝から登校し授業を受けていた。

「情報はいっしょに行った塁と優花里に預けています。俺たち以外にもサンダースとアルバートの校内に潜入していた人間がいた、その人間を知っていますか、会長?」

「……知っていると言ったら?」

「会長は……俺たちに隠していることはありませんか?彼女は俺たちが『最後の希望』だと言った。その意味を知っているんじゃないですか?」

 凛祢は真剣な表情で英治の顔を見る。

 英治もいつものクールな表情を浮かべている。

「隠していることはない。そもそも、彼女が……セレナがなぜそんな事を言ったのかは俺にもわからない」

「なら、そのセレナって女に確認してください!」

 凛祢は思わず机を叩く。

「彼女は口が堅い、俺が聞いたところで無駄だ。だが確かめるくらいはしてやる、だから今日は帰れ」

「……でも!」

「葛城、俺にも本当に分からない。セレナがなぜそんな事を言ったのか……」

「……わかりました」

 これ以上言っても答えてくれない英治を見て、凛祢は生徒会室を後にした。

 すぐに凛祢の出て行った扉から一人の少女が室内に入室する。

「帰ったのか、セレナ」

「ええ。でもよかったの?本当のことを話さなくて」

 大洗女子学園の制服に身を包んだ紫髪の少女、セレナは生徒会室の備品のソファーに座る。

「いいんだ、知らない方が幸せなこともある。よく葛城たちを逃がしてくれたな」

「彼を失うことはできないもの。貴方も杏も、嘘つきね。本当のことを言わないなんて」

 微笑みながらセレナが持ってきた鞄からUSBメモリを英治に投げ渡す。

「それは仕方がありませんよ、セレナさん。私たちの学園を守るには葛城君と西住さんの力が必要だったんですから」

「そもそも、お前が余計なことを口走るからだろ」

 宗司がお茶を入れて、テーブルに置く。

「役立たずは黙ってなさい、貴方はお呼びじゃないわ」

「なっ!おま――」

「雄二、落ち着いて」

 紅茶を飲んだセレナの言葉に反応する雄二を宗司が引き留める。

「セレナ、今回の事は本当に感謝してる。みんなが聞けばなんて言うかな、生徒会が揃って嘘を言っているなんて」

「はぁ、本当に手間がかかる仕事ね。貴方の手伝いをするのも楽じゃないわ」

 英治はUSBメモリのデータをPCで確認しながら言うとセレナもため息をつく。

 宗司と雄二もそんな二人の様子を見て、人を騙しているような罪悪感を感じていた。

 

 

 それから一回戦前日までの一週間は、すぐに過ぎた。

 自宅に帰ってきた凛祢は英子と共に修行を行っている。

「はっ!」

 凛祢の素早い右掌底打ちを英子は受け流し、華麗に背負い投げした。

 土の地面を凛祢の体が跳ねる。

「うっ!くそ……まだだ、まだ!」

「凛祢、今日の修行は終わり。明日は一回戦でしょ」

 英子はそう言って家のベランダに腰かけた。

「まだ、無拍子ができて――」

「言ったでしょ、今日の修行は終わり。お姉ちゃんにも言われてるから、明日の試合に支障が出るような無理はさせない」

 凛祢の発言を遮る様に言った英子はミネラルウォーターのペットボトルに口をつける。

「凛祢、今日までの修行で少しは成長した。無拍子を打てないけどそれでも十分戦えるわ、だから……」

「……わかった」

 凛祢もベランダに座ってミネラルウォーターを一口飲み、一息つく。

「どうしてそこまで必死なの?」

「自分でもわからない……」

 凛祢は息を整えて空に目を向ける。

 分からなかった。自分でも必死になる理由が。

 でも、感じるんだ。やらなければ失うものがある、そんな気が。

「貴方は誰よりも頑張っていると私は思う。必死にやって、誰よりも努力してるじゃない」

「そんなことないよ。鞠菜が居なくなって、いままで自分から逃げ続けてきた」

「へー。でも、お姉ちゃんは嬉しかったと思うよ。貴方がもう一度『歩兵道』という名の戦場に戻ってきたことがね」

 英子も空を見上げてそんな事を口にした。

 凛祢はそんな英子の顔を見る。

「それは、どういうことだ?」

「だって周防鞠菜さんの弟子がもう一度歩兵道をやる気になった上に自分の家の流派を学びたいって言いだした。あんなお姉ちゃんだけど、実は喜んでるのよ」

「そっか。照月教官がそんな風に思っていたとはな」

「凛祢、頑張って……貴方があなたらしくあるために」

 英子はそう言って立ち上がる。

 鞄を持って帰る準備をしていく。

「じゃあね、今日はちゃんと休むのよ」

「わかったよ、気をつけて帰れよ英子」

「うん、明日は私も見に行くわ。不甲斐ない姿を見せないでね」

 凛祢に見送られ、英子は静かな足取りで帰っていった。

「俺らしく……か、鞠菜もよく言っていたな」

 凛祢はもう一度空を見上げると、星が輝き始めていた。

 

 

 ついにやってきた全国大会、一回戦の試合。

 会場は草木の生い茂る森林地帯。

 相手はサンダース大学付属高校&アルバート大学付属高校連合。

 用意された観客席は多くの人で賑わっている。

 新調した紺色のパンツァージャケットに身を包む大洗女子学園の生徒たちと新調した黒と青を中心とした色合いの特製制服に身を包む大洗男子の生徒たちが試合前の最終確認を行なっている。

 結局、あの女……セレナの言葉の意味は分からないままだ。

 それでも、今は目の前の事に集中する。

「凛祢。また、こえー顔してるぞ」

「え?ああ、ごめん」

「緊張してるのか?まあ、緊張くらいするよな」

 八尋や翼に声を掛けられ凛祢は我に返った。

 二人共いつも通りの様子だったが。緊張してるのか、何度も銃に弾倉を差し直している。

「俺の単位がかかってんだ。集中しろ」

「行きましょう、僕たちの戦場に!」

「ああ、行くぞ」

 塁と俊也の顔を見て、凛祢も不安を振り切る。

「葛城、これを」

 そんな凛祢に英治が黒い布のような物を差し出してくる。

「これは、なんですか?」

「整備部が余った資金と物資をかき集めて作ったマントだ。防弾加工されてるから銃弾の衝撃を軽減してくれるらしい。素材はTNKワイヤーとかいうものが使われているとか」

 凛祢が、それを広げてみると確かにマントのように羽織れるような形状をしている。

 英治の言う素材とはおそらく『ツイストナノケブラーワイヤー』。特製制服はこれよりも強固な素材が使われているが、これでも十分に銃弾を防げるだろう。特製制服に仕込まれている電極は衝撃を感知して、その数値が一定数値を超えた時アラームが鳴る。

 要するに被弾しても衝撃を殺せれば少しだけダメージを軽減できるということだ。

「へー、うちの整備部って凄いですね。整備部お手製の防弾加工外套と言ったところですか」

「大変だって言っていました。会長が早急に作らせていましたから」

 宗司も苦笑いしながら言うと凛祢もここにはいない整備部に心の中で感謝する。

 英治の羽織っているものも同じものなのだろう。

「で、なんで俺に?」

「お前が、我々歩兵の第一戦力だからだ」

「そういうことですか」

 雄二の言葉に思わず凛祢はため息をついた。

「今回のフラッグ車は38tだからなー」

 隣にいた八尋が言った。

「……俺も嫌だなんだよ。フラッグ車の随伴隊長は簡単に失格できないから」

「仕方ないですよ会長。……葛城、経験者のお前が戦線離脱すれば我らは敗北同然だ。頑張ってくれよ」

 英治と雄二はそう言い放って、去って行く。

 凛祢はホルスターのコンバットナイフとFiveseveN、手榴弾、バックパック内のヒートアックスの確認を終えて防弾加工外套を羽織る。

「葛城君、かっこいいぞ!」

「似合ってんな、俺も欲しいくらいだ」

 アーサーとジルがそんな声を掛けてくる。しかし、顔は笑っている。

「やめろ、俺を見るな……」

 凛祢もそう言って顔をそむける。

 周りから見れば黒マント中二病少年と呼ばれても仕方がない姿を自分はしているのだ。

「葛城ー、仮面付けて俺はゼロだ!とか言って」

「写メを撮っとこう」

 景綱もそんな事を言って笑っている。

 更にシャーロックは携帯端末のカメラで撮影までしていた。

「やめろ、お前ら!」

「凛祢、落ち着けって。シャーロック、後でグループLINEに貼っとけよー」

「八尋!」

 凛祢が必死に抵抗するが、両手を掴み動けないようにした八尋がそんな事を言った。

「貴様ら、いつまでふざけている!準備は終わったのか!?」

「うお、女子広報がお怒りだ。ヤブイヌ分隊、準備は終わってまーす!」

 やり取りを見ていた桃が怒りを露わにして叫ぶ。

 八尋は答えながら、すぐに凛祢から離れる。

「オオワシ分隊も準備完了です!」

「ワニさん分隊、いつでも出陣できるよ!」

「ヤマネコ分隊も行けます!」

 オオワシ分隊の分隊長辰巳、ワニさん分隊の分隊長アーサー、ヤマネコ分隊の分隊長亮が続くように返事をしていく。

 凛祢もみほの元に向かおうとした時、サンダース校の副隊長二人とアルバート校の副隊長二人が姿を見せた。

「呑気なものね」

「そんな状態で戦線に出てきたのか。随分無謀だな」

 大洗の様子を見たアリサとピアーズが言った。

「そう言うなよアリサ、ピアーズ。……ブラッドどうかした?」

 ナオミが言うと、二人は何も言わずに大洗の生徒たちを見た。

「いや。そこのお前」

 ブラッドは凛祢の顔を見て、呼び止める。

「っ!……なにか?」

 凛祢は一瞬驚きながらも返事をする。

「どっかであったか?」

「……いえ、初対面だと思いますが」

「そうか、ウチのジル・バレンタインって生徒と似てると思ってな」

「「え?」」

 ブラッドはそう言ってアリサに話を進めるよう促す。

 その様子を見た塁と凛祢が驚く。

 マジか。このブラッドって奴、自分がジルと名乗ったことに気づいていないのか?

 普通は気づくだろ、いくらなんでも鈍すぎるぞ。

「ところでどうして大洗の方に?」

「あ、えっと。ウチの隊長が呼んでるからさ」

「ケイが?」

 ナオミの言葉に杏が首を傾げる。

「試合前の交流だとさ」

「ふーん、なら行こうか。葛城、お前もこい」

「え……この格好でですか?はい、そうですよね行きますよ」

 ピアーズの誘いに答える英治を横目に見ながら凛祢は後追う。更にあんこうチーム、カメさんチーム、ヤブイヌ分隊、カニさん分隊のメンバーもついてくる。

 

 

 数分ほどでサンダース&アルバート連合の待機している地点に到着した大洗連合。

 そこには救護車にシャワー車、ヘアーサロン車。そしてファーストフードをはじめとする四種類以上のフード車が駐車していた。

「おいおい、サンダースとアルバートは遠足でもしにきたのか?」

「リッチな学校ってこんなもの用意するんですね……」

 俊也と塁がやれやれという様子で言った。

「うおー、このアップルパイうめー」

「こっちのホットドックもいけるな」

 そんな中、八尋と翼はフード車で購入したものを食べていた。

「なにをやっている!ここは敵陣だぞ!」

「えー、せっかく来たんだからいーじゃねーか。塁、お前も食うか?うまいぞ」

「店員さん、アメリカンドックもう一本!」

 桃が叫ぶが二人は聞く耳持たずという感じで食事を続ける。

 翼の注文に店員も笑顔で返事をする。

「沙織、八尋たちを連れ戻してくれ」

「え、うん。わかった、華、麻子行こ」

 凛祢のお願いを聞いた沙織は華や麻子を連れて行く。

「ハーイ。アンジー、エージー」

「アンジー?」

「杏会長の事だ」

 ケイの挨拶を聞いた雄二が言うと、英治が小声で教える。

「ケイ、相変わらずだな」

「何でも好きなものを食べてって、OK?」

「OK、OK。もう食べてる生徒いるし」

 ケイの好意に答える二人の会長。

「あ、そうそう。貴方たち、このあいだはどうもね」

「そっちの奴もだろ……」

 ケイが塁と優花里の二人を見るように、隣にいた男が凛祢を見た。

「「ははは……」」

「気づいてたのか……」

 塁と優花里が乾いた笑いを漏らすが、凛祢もその男を見た。

 男の名は、レオン。アルバート校の歩兵隊隊長であり、『アメリカの星』という二つ名を持つ男。

「気づいていないのはブラッドとケイくらいだ……ピアーズやナオミたちは気づいている」

「そんなことないわよ、レオン。私も気づいていたって」

 レオンの発言を否定するようにケイがウインクする。

「気づいてなかったろ……それにしても変わった格好してるな」

「この格好については聞かないでくれ」

「フッ、お互い苦労してるな」

 レオンはマントを羽織った凛祢を見て、何か共感できるものを感じていた。

「ま、いつでも遊びに来てね。ウチはいつでもオープンだから」

「えっと」

 ケイの言葉に戸惑う塁と優花里。

「もう二度とこないだろ」「もう二度と行かないだろ」

 そんな二人を見かねたレオンと凛祢の声が重なる。

「あら二人とも仲がいいわね」

「別に……これだから女は」

 ケイの言葉に不服そうな顔をするレオン。

「隊長はいい人そうですね」

「確かに」

「フレンドリーすぎる気もするがな」

「そうだな」

 ケイを見ていた優花里、みほ、俊也の発言に凛祢も同じ感想を抱く。

「なになに何の話?」

 沙織の声が聞こえて振り返ると八尋と翼、華、麻子も戻ってきた。

 麻子は販売されていたアップルパイを現在進行形で食べている。

「麻子、食べるのやめなって」

「せっかく、八尋が奢ってくれたんだ。食べないのはもったいない。沙織もさっき食べてたろ」

 麻子は口を動かしながらアップルパイを一つを沙織に渡す。

「う、そうだけど。美味しかったんだけどさ……」

 麻子の言葉に反論できない沙織。

「気にしないで、じゃんじゃん食っていけ」

「本当にサンダース校のアップルパイうまいですよね」

 見ていたブラッドとピアーズがそんな事を言って笑っている。

 すると、試合開始十分前の合図のサイレンが響き渡る。

「時間ね……今日は正々堂々戦いましょ」

「はい!」

 ケイはそう言って自分たちの戦車がある方へ去って行く。

「俺たちも力の限り戦おう!」

「ああ」

 レオンもそう言って去って行く。

「私たちも帰るよ」

「ああ、行こう」

 杏の声を合図に凛祢たちも急ぐように大洗の待機地点に向かう。

 

 

 賑わいを見せている観客席。

 人ごみをかき分けるように英子は歩いていく。

 ようやく観客席の裏までたどり着いた。

「……英子。お前も来たのか」

「お姉ちゃん」

 英子の前には壁に寄りかかる敦子の姿があった。

「私は仕事で来たが、お前は来る必要はなかったんじゃないか?」

「別に、やることがなかったから見に来ただけ」

「そうか。葛城の修行はどうだった?無拍子が打てると思うか?」

「ううん。多分、凛祢はまだ無拍子を使えない。でも、覇王流の技は少しだけど習得した」

 敦子の質問に答える英子。

「間に合わなかったか。仕方ないよな」

「お姉ちゃん。もしも凛祢が……大洗が勝利したなら修行を続けさせて」

「好きにしろ。大洗が勝てたらだけどな」

 敦子はそう言い残して亜美のいる役員席に向かった。

 英子も観客席の階段を登り、空いている席に座る。

「間に合ったみたいね」

 英子がそう言った時、不意に声を掛けられる。

「隣いいかしら?」

「構わないけど」

 英子は声の主を見てため息をつく。

 そこには自分と同じように大洗の制服に身を包むセレナがいた。

「セレナ。戦車道や歩兵道に興味ないんじゃなかったの?」

「それは貴女も同じでしょ?」

「私は……友人の試合を見に来たの」

「私も同じようなものよ」

 お互いに納得していないがそう言うことにしておくという感じに質問をやめる。

「どっちが勝つと思う?」

「それはサンダースとアルバート連合でしょ」

 セレナから帰ってきた答えは予想通りのものだった。

「普通はそうよね。普通なら」

「でも、彼なら不可能を可能にするわ」

 二人はそんな言葉を交わして試合を見ていた。

 

 

 二つのチームが所定の位置に着き、試合が始まろうとしている。

 その様子を観客席とは異なる場所で見ているグロブリ連合。

「始まるみたいだぞ」

「結果は見えていますが大洗の勝利を信じたいですね」

 ガノスタンとオレンジペコが言うと、ダージリンが紅茶を一口飲んだ。

「勝ってもらわなきゃ困るんだよ。アーサーの野郎に負けたままだからな、勝ち逃げなんてさせねー」

「そうだな、俺も葛城君には負けたままだから大洗には勝ってもらいたい。騎士の誓いを果たすためにも」

 モルドレッドとケンスロットも試合が始まるのを待ちながらコーヒーを飲む。

「この絶対的不利を覆せるとは思えませんが。『戦略が戦術に負けることはない』という持論を唱えた人物も過去にはいます」

「それはつまり、戦力差があろうと戦場全体を把握し的確に対応していけば勝利の可能性はあるということですねアグラウェイン」

 アグラウェインの言葉に説明するようにルクリリが呟く。

「データの上で大洗の勝率はわずか1%です」

「その1%を掴み取るのが、みほさんと凛祢さんだと私は思うわ。試合は最後まで分からないもの」

 タブレットでデータを確認したアッサムが言うが、ダージリンはそんな発言をした。

 彼女は信じている大洗の可能性を。

 

 

 他の場所でもグロブリと同様に試合を見に来た黒森峰連合の四人の姿があった。

「サンダース&アルバート連合に勝てるわけないわ!副隊長と超人が居たとしても」

「エリカ、うるさいよ。静かに見てよ」

 エリカが結果が見えた試合に不機嫌そうにしている。

 そんなエリカに悠希が文句を言いながら、持参したドライフルーツを食べていた。

「悠希、また食ってんのか?うまいか、それ?」

「うん、普通の果物よりこっちの方が好き。保存も効くし」

 聖羅が問うと悠希は返事をして、食べ進める。

「聖羅はどっちが勝つと思う?」

「大洗には凛祢がいる。今のあいつの実力は知らんが場合によっては結果がひっくり返るかもな」

「お言葉ですが黒咲隊長。大洗が勝てるとは思えません。どうして葛城凛祢を買っているのですか?二年も歩兵道から離れていた者には少なからずブランクがありますから勝つなんて不可能です」

 聖羅の言葉にエリカはどうしても納得できなかった。

「エリカ、聖羅が言っている事は間違ってないよ。歩兵のことは歩兵しかわからないんだよ」

「なによそれ!」

「エリカ。試合は最後まで分からない。大切なのは諦めない事と逃げ出さない事だ」

「た、隊長まで……」

 悠希だけでなく、まほまでそう言いだした事がエリカには分からなかった。

 大洗はみほと凛祢がいるからといってそこまでの強豪になるとは思えない。

 チームの大半は初心者なのに勝てるわけがないからだ。

 エリカは考えを曲げぬまま試合を見ていた。

 

 

 試合始まりのアナウンスが響き両校の軍は一斉に動き出す。

 サンダース校の戦車シャーマンやアルバート校の歩兵たちが歩みを進めていく。

 歩兵たちが乗る小型論輪駆動車『ジープ』は4,5人乗りで10両用意されている。

 大会ルール上、歩兵用の軍用車両も戦車と同様、終戦までのものに限定され数は戦車の車両数以下までと決められていた。

 しかし、大洗を上回る戦車と歩兵たちは圧倒的だった。

「さあ、みんな!行くよー!」

 ケイの声が響き、サンダースの士気が上がる。

「第2小隊から選出した歩兵を第1小隊へ移行する。第2から第10小隊は戦闘準備をしつつ警戒態勢を!」

 ブラッドの指示で歩兵隊が動き、それぞれの配置についていく。

「ブラッド、ピアーズ。今年こそ優勝するぞ」

「当たり前だ!」

「了解です!隊長!」

 隊長であるレオンの声に、強気なブラッドと返事するピアーズも銃を握りなおす。

「戦力は十分。……負ける要素はないと思うが」

 レオンはそんな事を口にして戦場を進む。

 

 

 森林地帯にいた大洗連合は慎重に進み、軍を配置していた。

「敵の数は十両、歩兵はそれぞれ10名ずつの小隊。例外としてフラッグ車には20名、ファイアフライにも15名の随伴歩兵が居る」

 38tの上に乗っていた防弾加工外套を羽織る、黒マント姿の英治が支給された地図を見ている。

「ここは森林地帯を最大限生かすべきだと思います。直接対決では数、質。そして砲兵の居るあちらが有利ですから」

「そうですね。アヒルさんチームとオオワシ分隊を森林の西に配置。ウサギさんチームとヤマネコ分隊は東に」

 優花里の助言にみほが指示を出していく。

「葛城隊長。C-4爆弾の使い方はこれでいいんですよね?」

 漣が問い掛けてくる。

「ああ、大丈夫だ。使うべきだと思ったなら積極的に使ってもらって構わない」

「「了解です!」」

 漣と翔は返事をして、それぞれ離れていく。

 二人は視野が広く、分隊内で最も罠を仕掛けられる素質がある。

 場合によっては敵の戦力を削ぐ有効打を出せるかもしれない。

「では、僕も行きます!」

「塁……生きて、合流しろよ」

「……了解であります!」

 塁は一人で隊を離れる。塁のバックパックにも持てるだけのC-4爆弾が入っていた。

「行くぞみんな!全軍オーバードライブ!」

「私たちは、私たちにできる事をしましょう!パンツァーフォー!」

 凛祢とみほの声が戦場に響いた。




ようやく、全国大会一回戦までたどり着きました。
戦力差が圧倒的なサンダースとアルバートに大洗はどう対抗するのか。
今後も読んでいただけたら嬉しいです。
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