ガールズ&パンツァー~地を駆ける歩兵達~   作:UNIMITES

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お待たせしてしまい申し訳ございません。
どうも、UNIMITESです
二週間に一回くらいで上げようと思っていましたが現実の時間が経つのは思いのほか早く、一か月近くたってしまいました。もうすぐ六月ですね。
では本編どうぞ


第8話 劣勢、森林撤退作戦

 ついに始まった一回戦。

 凛祢たち大洗連合は森林内に陣取り敵との遭遇に備えてしていた。

「さて、俺たちはどうするんだ。みほ隊長?」

「はい。今回はフラッグ戦ですからカメさんチームを守りつつ前進してください。戦力差がありますから隊を分散させつつ、各個撃破していきフラッグ車を倒します」

「了解だ」

 尋ねた八尋はみほの指示を聞いてP90の安全装置を解除した。

 Ⅳ号の上に乗っていた凛祢も地図を確認しつつ、所々に印を記していく。

「英治会長の配置をどうするかだな……。単独で狙撃に回すのは危険すぎるが、だからと言って八尋たち突撃兵と一緒に行動しても戦闘に巻き込まれるし」

「なら、いっその事分隊を分けたらいいんじゃないか?たとえばカニさん分隊に凛祢、ジルを入れるとかな」

「それもありだが、難しいところだな」

 翼の提案を聞いた凛祢も顔を渋らせる。

 フラッグ戦ではフラッグ車が行動不能になった時点で、戦車や歩兵の数に関わらず敗北になる。逆に言えば敵戦力がどれだけ強大でもフラッグ車を行動不能にできれば勝利できるという事だった。

 そして、フラッグ戦における歩兵のルールはフラッグ車の随伴歩兵隊長が戦死判定(失格)になることで、すでに戦車が行動不能になっている随伴歩兵とフラッグ車の随伴歩兵も共に戦死判定を受ける事。これも裏を返せばフラッグ車の随伴歩兵隊長が生き残っていれば他の行動不能戦車で戦死判定を受けていない随伴歩兵も戦闘続行することができる。

 つまり、今回フラッグ車の随伴歩兵隊長である英治が生き残っていればフラッグ車が走行不能にならない限り生き残っている歩兵全員が戦闘続行し続けられるということだ。

「どうするべきか……」

「葛城、俺たちは3人で十分だ。お前はⅣ号を守り続けろ、Ⅳ号が残っていれば俺がやられても最悪ヤブイヌ分隊は動き続けられる」

 凛祢の顔を見た英治が責任の重大さを理解しつつも自信ありげに言った。

「それは駄目です。英治会長の戦死は38tの守りが消えることと直結しているんです。最低でも1人くらいは他の分隊から歩兵を配置するべきです」

「だが、他の分隊も手一杯ですよ?」

 凛祢が言うが、宗司もどうしようもなさそうに言っていた。

「……近くに仲間の戦車が居る時は、その中から選出した歩兵を随伴に回しましょう。Ⅳ号といる時は俺が全力で行動します」

「おい、葛城。お前がどうしようと勝手だが、無茶をするなよ」

「わかってる。みんなを信じてるから、やばくなったら助けてもらうさ」

 珍しく俊也が心配そうに言った。

「お前がそんなこと言うなんてな。明日は雪か?」

「八尋、ぶっ飛ばすぞ?いや、銃で後ろから撃った方がいいか?」

「冗談に聞こえないからやめてくれよ」

「断る!後ろから頭を狙い撃ちだ!」

「おいおい、悪ふざけもその辺にしとけよ」

「「わかってるよ」」

 2人を見ていた翼が注意すると息ぴったりに返事して歩いていく。

 八尋と俊也って、会って二か月くらいなのになんであんなに仲がいいんだ?八尋はどんな奴とでも仲良くなれる奴だが、俊也がそんな奴には見えない。むしろ来るもの好まずな性格なのに。

 あの2人の間には共感できる何かがあるのだろうか。

 そもそも真面目な翼といること自体も珍しいって言われているんだよな、八尋って。

 凛祢も3人を見てそんな事を思っていた。

 

 

 西へと偵察に出たM3とヤマネコ分隊は、森林を抜けて丘へと辿り着いた。

「一旦停止!」

「アキラ、歩。どうだ?」

 梓の声に合わせて桂里奈が戦車を停止させ、ヤマネコ分隊も低い体勢で周りを警戒する。

「こちら、アキラ。正面には敵影あり、シャーマン3両と歩兵が30人……多いな」

「敵さんは、しっかり陣取ってるみたいだな」

「こちら翔。ちょうど準備OKだよ」

 双眼鏡で周りを見渡していたアキラと歩、少し離れた後方では罠を仕掛けた翔がインカム越しに報告する。

 森林地帯を活かし、隠れて行動をするヤマネコ分隊。

 丘の上には、3両のシャーマンの姿と30人にも及ぶ随伴歩兵の姿があった。

「てか、いいなー。あんな銃使ってて、俺たちもM4カービンとか使ってみて―」

「でも、葛城先輩は新しいものよりも使い慣れた武器を使った方が強いって言ってたよ?」

「だってさー。あれ、グレネードランチャーもついてるんだろ?俺たちもトンプソンサブマシンガン、改造してグレネードランチャー付けてもらおうぜー。アーサー先輩も剣作ってもらってたし」

 アルバートの銃を見た歩と礼がそんな会話を始める。

「確かにグレネードランチャーが付いてるって凄くない?」

「あれって戦車とかにつけられないのかな?」

「あー、確かM3って砲が二本ついてるから片方をグレネードランチャーに変えたらいいんじゃない?」

「それって凄くない?M3LeeGRとか呼ばれそうじゃん」

 あゆみ、桂里奈、優季、あやも会話に混ざる様に通信を始める。

「ちょ、ちょっとみんな!」

「そんなこと言ってる場合か?」

 梓と亮がやれやれと通信を聞いていると隣にいた銀がメモ帳に書いた文を亮に見せてきた。

『グレネードランチャーがついてたら強そう。てか、強い!』

「銀、お前もか……。梓さん、そろそろ」

 亮はため息をついて梓に指示を求める。

「そうだね。ウサギさんチームよりあんこうチーム及びヤブイヌ分隊へ。ポイントB65地点で敵部隊を発見。シャーマン3両とその随伴歩兵部隊が30人。これより誘い出します!」

 亮の通信に答えるように梓がみほに通信を送り、ウサギさんチームとヤマネコ分隊が行動を始める。

 その時、発砲音と共に銃弾が亮の右肩を掠め、近くの木に命中した。

 全員が驚きの表情を浮かべる。

「全員戦闘態勢!」

「急いで退避!」

 亮と梓の声が全員を束縛から解き放ったように他の生徒も動き出す。

 M3とヤマネコ分隊は後退を始め、シャーマンとアルバート歩兵隊が追いかける形で。

「マジかよ!?」

「気づくのはえーよ!」

 アキラと歩がそんな言葉を漏らして、後退する。

 敵部隊には狙撃兵と砲兵もいる上に軍用車両のジープに搭乗している。ただでさえ軽装備な歩兵に技術も初心者レベル、迎え撃つどころか、このままでは10分と持たずに一年生チームは脱落する。

 さらに状況は悪化し、後方だけでなく前方からもシャーマン3両が現れる。

 よってウサギさんチームとヤマネコ分隊はシャーマン6両と随伴歩兵60人、サンダース&アルバート連合の戦力半数に包囲されつつあった。

「こちら、ヤブイヌ分隊隊長葛城凛祢。ウサギさんチームとヤマネコ分隊に状況報告を求む!」

「こちらウサギさんチーム!挟み撃ちにされました、シャーマン6両に随伴歩兵多数!」

「敵は半数以上の戦力を回しています!これでは対応できません!ほぼ包囲されかかってます!」

 凛祢の通信に答えるように梓と亮の声がインカム越しに響いた。

 全速力で逃走するM3とヤマネコ分隊を追いかけるシャーマン軍団とアルバート歩兵隊。

「礼、いくぞ!俺たちで食い止めるんだ!」

「仕方ないよな……亮、M3は任せたよ」

 歩と礼が走力を緩めて始め、M3やヤマネコ分隊との距離が空き始める。

「歩、礼!なにを……!」

「亮、止まるな。このままじゃ全滅する、桂里奈さんも止まらないで!」

 亮も振り向いて足を止めようとした。

 しかし、アキラが無理に亮を前に進ませる。

 桂里奈もアクセルを踏み込み、M3を走らせる。

「あい!」

「駄目だよ!歩君、礼君、戻って!」

 梓も必死に指示を出す。

「こうなってしまった以上、どっちにしても全員で逃げるのは不可能だよ。誰かがやらないとね」

「悲しいけどこれ戦争なんだよな……一度言ってみたかったんだ!つーわけで殿はやってやるよ!」

 礼と歩は梓の指示を無視するように足を止め、M3の進行方向とは逆に走り出す。

 向かうべき方向からはM4カービンやウィンチェスターM70から放たれた無数の銃弾が飛んでいる。

「歩!」「礼君!」

 亮と梓の叫びを背に2人は敵へと向かって行った。

 勇敢……というべきなのだろうが、その姿は無謀な歩兵と言わざる得なかった。

 

 

 通信を聞いた凛祢とみほが同時にお互いの顔を見る。

「みほ、ウサギさんチームとヤマネコ分隊より救援要請だ!敵は半数以上の戦力でM3を包囲しようとしている!」

「はい、わかりました。ウサギさんチームの元に向かいます!アヒルさんチームも向かってください」

「ウサギさんチームとヤマネコ分隊、どうにかしてポイントF70地点まで辿り着いてくれ。そこを合流地点とする!」

 凛祢とみほが再び指示を出して大洗連合は一斉に動き出す。

 みほもこれは予想外だったのか表情が少し曇りつつあった。

 まさか、サンダース&アルバート連合が半数以上の戦力を森林内に回していたとは……。

 完全に予想外だった。普通、圧倒的な戦力を有しているのなら、その戦力で直接フラッグ車を潰しに来ると思っていたからだ。

 そもそも自分の経験上、その戦術が最も合理的だから。

 しかし、自分と考えることが違った。こうなることは僅かながら予想していたはずだった。

 俺の、俺のミスだ……。

「凛祢、どうする?」

「なんとしてもM3を助け出す!」

 翼の問いに返事をして合流地点を目指す。

 こちらとM3の合流までは10分はかかる。ヤマネコ分隊を誰も戦死させずに合流できる確率はかなり低い。

 凛祢は苦虫を噛み潰したような苦しそうな表情を浮かべる。

 しかし、不意に凛祢の頭に記憶が蘇った。

 過去に予想外のピンチなど何度もあった、それでもなんとかしてきただろう。

 記憶が、そう訴えている気がした。

「……そうだ、まだ間に合う!みほ、急ごう!」

「はい!みなさん、これより対戦車戦闘と対歩兵戦闘が予想されます!各自、臨機応変に対応してください!」

「了解!」

 凛祢の声を聞いて、自信を取り戻したみほは全員に通信を送り戦車を前進させた。

 その後を追うようにヤブイヌ分隊が進軍する。

 そして、アヒルさんチームとオオワシ分隊も同様に合流ポイントを目指して進軍を開始していた。

 

 

 時を同じくして歩は手に持つトンプソン・サブマシンガンを発砲する。

 礼も煙幕手榴弾を2つ投げつける。

 一瞬にして煙幕が立ち込め、シャーマンやアルバート歩兵隊の視界を奪う。

 それによってアルバート歩兵隊の攻撃も止まった。

「煙幕か……無意味なことをするものだ」

「この程度なら問題ない、全速前進だ!」

 煙幕を無視するように前進を続ける。

 そう、シャーマンの乗員やアルバート歩兵隊に迷いなどない。

 ヤマネコ分隊など恐れる敵ではなかったからだ。

「やっぱり、無理だな……対戦車武器のない俺たちじゃ」

「どうする?銃を撃ち続けるか、突撃するか」

「歩兵の一人でも倒したいよな、選択肢は3番撃ち続けて自爆特攻だな」

「了解」

 歩と礼の2人は腰のベルトに取り付けられた2つの手榴弾からピンを抜いた。

 爆発までは数十秒。

 そして、全速力で敵の方へと向かって行く。

 数秒後、煙幕を抜けたジープ2両が現れる。

 同時にアルバート歩兵隊数人と歩、礼が発砲する。

 無数の銃弾が空中ですれ違い、お互いの歩兵を目指して飛んでいく。

 数十発の銃弾はジープ1両の右前輪に命中し、激しい音と共に態勢を崩したジープが地面を滑る。一方、数発の銃弾は歩の上半身を捉える。

 それでも、礼が前進を続ける。

「ぐっ!うぁぁ!飛べー礼!」

 全身に痛みを感じながらも歩が力を振り絞り、腰の手榴弾を投げる。

 答えるように礼は無傷で前進ジープの数メートル前で跳躍した。

 狙うように歩がホルスターから引き抜いたコルトM1851を数発、発砲する。放たれた銃弾は次々に空を滑るが、1発の銃弾が手榴弾に命中し手榴弾が爆発する。

 手榴弾の爆風をバネに礼は、ジープのボンネットになんとか着地した。瞬時に腰の手榴弾の時間が訪れ起爆する。

 轟音と共に、ジープに搭乗していた歩兵5人と地面に倒れる礼、歩から戦死判定のアラームが響いた。

 ジープも無傷とはいかず1両は前輪を失い、1両はエンジン部分が炎上し始めていた。

「「……後は、任せたよ」」

 礼と歩が力なく呟いた。その横をシャーマン3両とジープ1両が前進するため走り抜けていく。

「……無謀な事をしたものだ」

「同感だね、こちらの戦車は一両もやられていないし」

「といっても、ジープを1両失ったのは大きい」

「まあ、相手は乗り物がないし一緒だろ。急いで前輪を交換しろ!」

 前輪を失ったジープに搭乗していた歩兵たちはそんな台詞を吐いて、炎上し始めるジープから取り外したタイヤを交換していく。

 3分。時間を稼いだがその時間はたった3分だけだった。

 一方、爆発音を聞いたウサギさんチームとヤマネコ分隊は一瞬だけ振り返った。

「2人の通信が切れちゃった……」

「そんな……」

 通信手である優季の声に砲手のあゆみが信じられないという様子で声を漏らした。

 そんな一年生チームに追い打ちをかけるように発砲音が響く。続いて砲弾が近くの地面を抉った。

「もう、ついてこないでよ!」

「エッチ!変態!」

「ストーカー!」

 逃走しているM3の車内では悲鳴が上がっていた。

 戦場に立つのは2度目だが恐怖心は完全には消えていない。

 それでも、必死に撤退していく一年生チーム。

「どうすればいいの……この状況じゃ逃げることも」

「しっかりするんだ、梓さん!君たちのことは俺たちヤマネコ分隊が守り抜く、命に変えても!」

「そうだな、亮の言う通りだぜ!」

 不安を抱えていた梓を勇気づけるように亮が言った。

 続くようにアキラや銀も頷いた。

 不意に爆発音が響いたかと思うとM3が通過した後、道を塞ぐように樹木が倒れてきた。

「え?ちょ、なに!?」

「どうなってるんだ!?」

 道を塞がれ急停止したシャーマンの車内ではケイが混乱する。隣を走行していたジープに搭乗するレオンも驚く。

 続くように爆発音が響き、もう一本樹木が倒れ走行中のジープの道を塞いだ。

 状況が理解できていないのはサンダース&アルバート連合だけではない、ウサギさんチームとヤマネコ分隊も驚いていた。

「間に合ったみたいだな。ふーよかったー」

 そんな間の抜けた声がインカムや通信機から響き、ようやくウサギさんチームとヤマネコ分隊は理解した。

 声の主、そしてこの状況を作ってくれたのは同じ分隊の翔だった。

「翔、おせーよ!でもナイスだったぜ!」

「悪い悪い。でも、あれを立案したのは葛城先輩だけどな」

 翔は周りを警戒しながら樹木から降りてM3に合流する。

「葛城先輩が?」

 アキラの問いに翔は簡単に説明する。

 樹木にC-4爆弾などの手動で起爆できる爆弾を仕掛け、敵を待ち伏せして樹木や電信柱等で強襲する戦術であった。

 今回の様な逃走の際にも、少しだが時間稼ぎになる。

「さすが、葛城先輩!そんな戦術を思いつくなんて諸葛孔明かよ!」

「いや、中学歩兵道ではよく使われる戦術らしいよ……」

「あ、そうなの。それでも凄いぜ!」

 翔が苦笑いして言うがアキラは興奮気味にガッツポーズを見せる。

「おい、まだ追いかけられてるん――だっ!」

 今も響き続ける戦車と歩兵たちの発砲音。亮が注意を促そうとすると同時に銃弾が背中に命中する。

 亮は一瞬、何が起きたのか分からなくなったが、すぐに被弾したことに気づく。

 全力疾走していたため、激しく転倒してしまい噎せる。まるで肺の空気をすべて吐き出したような感覚だった。

「亮!」

「……!」

 アキラと銀が急いで駆け寄り、亮の体を起こす。

「亮君、大丈夫!?」

「やっぱり、相手のチーム強いよー」

「みんな弱気にならないで!もう少しで合流ポイントだから」

 弱気になり始めるウサギさんチームを奮い立たせるように梓が指示を出す。

「ゲホ、ゲホ。……悪い」

「馬鹿、悪くねーだろ!」

『仲間なんだから助け合うのは当たり前!』

 アキラや銀の言葉に亮も、すぐに態勢を直して走り出す。

「やはり、狙撃兵の攻撃はキツいな……」

「急げ!何としても先輩方と合流するんだ!」

 亮とアキラは銃を撃ちながらM3の撤退を援護する。

 しかし、敵のシャーマンやアルバート校の歩兵も阻止しようと必死に追いかける。

 

 

 轟音とも呼べる爆発音と森林内での変化を感じる大洗の生徒たち。

 おそらく戦場に立つ全員が森林内で起きた事に少なからず驚きを感じているだろう。

「……これほど早く、アレを使ってしまったのか」

 凛祢だけは理解している。

 翔は自分の教えた戦術を実行した、これほど序盤に。それほどマズイ状況だったのだろう。

 あの戦術は森林という比較的、死角の作りやすい場所において、成功率が跳ね上がる。

 しかし、場所の制限が多く、使えば使うほど敵に読まれて成功率も下がると言う欠点がある。なにより、樹木が戦車の上に倒れても装甲という絶対的な壁には無意味だということだ。砲をへし折ることで走行不能にすることはできるらしいが、期待する方が愚かだ。

 元々、対歩兵用の戦術であるため歩兵には有効である。戦車道と歩兵道が一体となった高校歩兵道において、この戦術を取る学校はかなり少ないと聞く。そんな戦術だからこそ、第一回目の成功率が高い。

 こちらにとって、戦術とは切り札とも呼べる数少ない作戦だ……切れる内に切るが定石だが、切らないことに越したことはない。

 戦術は多ければ多いほどいい、それはいつの時代も変わらない、現在も古来も。

 この試合に置いて、さっきの作戦はもう使えないと考えた方がいいだろう。

 それに状況的に作戦は成功に傾いたと考えていいはずだ。1両も倒せていない以上、戦力的にこちらが二歩も三歩も不利だが。

 一瞬、右に向けた凛祢の視線の先に赤と黄色の浮いている物体が確認できたが、見間違いだと思い気にせず合流地点に足取りを進めた。

 

 

 試合を観戦している聖グロ、聖ブリの生徒たちは少々、驚きの顔を浮かべていた。

「流石、サンダース。数にものを言わせた戦い方をしますね」

「俺は、ああいう戦術は好きじゃないな……やり過ぎだろ」

 オレンジペコとガノスタンがそんな感想を漏らした。

 2人はそう言っているが、戦車1両と歩兵1分隊に対して戦車6両と歩兵6小隊を投入することはルール違反になどならない。

 むしろ、数で圧倒し1つずつ確実に潰していく作戦もまた戦術だからだ。

「こんなジョークをを知ってる?アメリカ大統領が自慢したそうよ。我が国には何でもあるって」

 不意にダージリンが話し出し、オレンジペコやガノスタンの視線がダージリンに向いた。

「そしたら、外国記者が質問したんですって……地獄のホットラインもですか?って」

「……」

 ダージリンは満足気に呟いた後、紅茶に口をつけた。

「なあ、ダージリンって時々変なこと言うけど。意味わかんねーんだけど」

「実を言うと私も分かりません……ケンスロットならわかるんじゃないですか?」

 聞いていたモルドレッドがアグラウェインはケンスロットに質問を投げかける。

「ダージリンのアレは通話料金の話だ。それにしても、木々を倒しての戦術か。大洗は珍しい戦術を使うものだ」

 ケンスロットはそう言って戦場に視線を戻した。

「通話料金とか、ますますわからなくなったぞ」

「アメリカは地獄との通話料金が高い……ってことじゃないですか?」

 頭を抱えるモルドレッドにアグラウェインも苦笑いしながら答える。

 

 

 サンダース&アルバート連合の追撃を受けていたウサギさんチームとヤマネコ分隊は逃走を続けていた。

 次々に放たれる砲弾と銃弾の雨。

「翔!さっきの作戦はもうないのかよ!?」

「無理だ!言っただろう、あれは準備もなしに使えるもんじゃないんだ!」

 アキラの言葉に翔も策は尽きたと答える。

「撃てー!」

「後、数十メートルだ。グレネードを使え!」

 アルバート歩兵隊もM4カービンに取り付けられたM203グレネードランチャーを撃ち放つ。

 一直線に飛んで行く榴弾は吸い込まれる様にM3に接近していく。

「桂里奈さん、回避!」

「駄目、間に合わない!」

 亮と梓の声が響く。

 しかし、耳に響く発砲音と共に飛んできた2発の榴弾は空中で爆発した。

「なに?」

「誰が当てやがった?」

 アルバート歩兵隊も驚きを隠せなかった。

 撃ったのはヤマネコ分隊、銀とアキラの2人だった。

「よし、これで!」

「……」

 だが、放たれた榴弾は3発。残りの1発は逃走中である2人の真後ろに着弾し、爆発する。

 爆発音の後に、アキラと銀から戦死判定のアラームが響いた。

「嘘だろ……」

「あとは、俺たちだけか。それでもやるしかないんだ!」

 2人は再び、トンプソンサブマシンガンを連射してM3の撤退を援護していく。

 

 

 救援に向かうあんこうチームとヤブイヌ分隊は森林内を全速力で走り抜ける。追いついたアヒルさんチームの八九式とオオワシ分隊の歩兵も共に進軍する。

「……!?」

 いつもの様にキューポラから上半身を外に出しているみほが何かに気づいたように左を向いた。

 直後、砲弾がⅣ号と八九式の隣に着弾する。

 更に、いち早く気づいた凛祢も飛んできた狙撃を、体を捻るような動きで回避した。

「交戦準備!」

 凛祢の声が通信機とインカムに響いき、オオワシ分隊も臨戦態勢に入る。

 森林にはアルバート歩兵3小隊にシャーマン2両と……ファイアフライの姿があった。

「なんか一両だけ、やばそうなのがいるぞ」

「ブラッドを含めた対戦車砲兵部隊か。Ⅳ号と八九式を守りつつ、前進!」

 凛祢はできる限りの指示を出して、コンバットナイフとFiveseveNを引き抜き、進軍する。

「北東から6両、南南西から3両……凄い!全10両の戦車の内、9両をこの森に投入ですか!」

「随分、大胆な戦術ですね」

 優花里や華も声を上げた。

「力で敵を踏み潰すって戦術だな」

「38tを置いてきて正解だったな」

 八尋と翼も皮肉を言うように呟く。

「フラッグ車は目視できないぞ、葛城隊長」

「これは敵の主力だろうから。フラッグ車は単独で動いていると考えた方がいいだろう」

 辰巳の報告に凛祢は答えると脳内で状況を整理していく。

「ウサギさんチーム。このまま進むと危険です、停止できますか?」

「無理でーす!」

「ヤマネコ分隊も残り2人で、止まっている暇もありません!」

 みほが通信を送るが瞬時にウサギさんチームの返事が返ってくる。

「ウサギさんチーム6両に集中砲火浴びてるって!」

「分かりました。ウサギさん、アヒルさん。あんこうと、まもなく合流できますので合流したら南東に向かってください!それぞれの歩兵隊の皆さんも続いてください!」

 沙織の報告を聞いたみほが瞬時に指示を出した。

「南東に2小隊回してください」

「了解した!」

 その指示に合わせてシャーマンと随伴歩兵隊の隊列を変えていく。

「あ、居た!せんぱーい!」

「なんとか、合流できた。みんな落ち着いて!」

「よし、合流できた。が、状況はよろしくないか」

 ようやく、合流できたウサギさんチームとヤマネコ分隊を連れて南東に進軍していく。

「翔、爆弾は全部使ったか?」

「いえ、最後の2つが残ってます」

「全部、よこせ!」

 凛祢は翔からリC-4爆弾を受け取る。

 2つを組み合わせて大きめな球体型に整えて、電管を刺し地面に落とした。

 さらにヒートアックスにも電管を刺して2つ地面に落とす。

「全員、戦車の援護しつつ撤退!」

 凛祢の指示と共に大洗歩兵隊も銃を発砲する。

 Ⅳ号の目指す先にシャーマン2両とジープが現れた。

 こちらの逃走先を読んで、回り込んで来たのだろう。

「回り込んできた!」

「どうする?」

「撃っちゃう?」

 目の前の光景を確認した典子や梓が声を上げる。

「その必要はない!」

「このまま全力で進んでください!」

 凛祢とみほは前進するように指示を出した。

 この場にいる大洗の生徒は皆驚きを隠せなかった。

 このまま進めば最悪敵戦車と正面衝突する可能性すらあるからだ。

「マジかよ……」

「ワンオーワンみたく、ギリギリで避ければいいんだよ!」

 弱気な翔とは、対照的に辰巳は走力を上げて行く。

「凛祢、流石に無茶じゃねーか?」

「俺が何の策もなしに突撃するわけないだろ」

「え、それって――」

 八尋の顔を見た後、腰のリモコンを手に取りスイッチを押した。

 瞬時に前方と後方で同時に爆発音が響く。

 後方はさきほど、凛祢が落とした爆弾を起爆させたことでシャーマン1両の履帯を切断することに成功。更にジープを1両横転させ乗員を戦死判定にさせた。他にも爆発に巻き込まれたアルバート歩兵が何人かいた。

 前方でも激しく爆発が起きるが2両のシャーマンは無事だった、ジープは同様に横転させられ、乗員ともろに爆発に巻き込まれたアルバート歩兵隊が戦死判定を受けていた。それぞれから、アラームが響いている。

 やはり個々のC-4爆弾では戦車へのダメージはないか……。

 凛祢はそんなを考えながら突っ込んでいく。

「「すげー……」」

「これが工兵の戦術ってやつか……」

「「このまま前進!」」

 驚く亮や翔、辰巳を背に、みほと凛祢の声を聞いて大洗の戦車と歩兵たちはスピードを上げて撤退していく。

「逃がすな!」

 アルバート歩兵隊の狙撃兵が狙撃銃レミントンM700を構える。

 しかし、草むらから投げ込まれた煙幕手榴弾がサンダースの戦車やアルバート歩兵隊の視界を奪い、追撃を防ぐ。

 草むらから姿を現す塁も後を追うように撤退する。

 前方のシャーマンと大洗の戦車が僅か数㎝の間ですれ違っていく。

「あばよー、アメリカ野郎共!」

「八尋、やめろって」

 八尋と翼が吐き捨てるように言うと、大洗の戦車と歩兵たちは丘を越え、撤退を完了していく。

「逃がしたのか、追うぞ!」

「ブラッド隊長、落ち着いてください!」

「落ち着いていられるか!こっちはもう歩兵を20人以上やられているんだぞ!」

 ブラッドは状況を整理しながらイラ立ちを見せている。なんとか小隊内でなだめようとしているが収まりそうになかった。

「よせ、ブラッド。こんなところで言い合ってもなんの解決にもならない!それよりも隊を再編成し、次の戦術を考えることだ!」

「くっ、なら次はどうするってんだよ?」

「お前も気づいているだろ……大洗は俺たちの歩兵戦力を着実に減らしている。現にシャーマン2両分以上の人員を削られた、だが戦車はどうだ?履帯こそやられたが、1両も撃破されていない」

 落ち着かせるために話に割って入ったレオンの言葉にブラッドは一つの答えにたどり着く。

「まさか、大洗には対戦車用の武装はないってことか?」

「ああ、戦車の砲なら撃破できるだろうが。歩兵には戦車を沈めるだけの力はないと考えていいだろう」

「それなら、話が早い。おまえらさっさと隊を再編成しろ!」

 話を終えたレオンとブラッドはそれぞれ次の作戦準備を進めていく。

 そんな中、レオンは一人状況を確認する。

 最初に見せられた木々を使った戦術、次にさっきの包囲状態を打ち破った地雷戦術。

 いずれも初心者とは思えない手口に、工兵の戦術であることは明白だった。

「レオン、次の戦術はOK?」

「ああ、大丈夫だ。これはまずいかもな……本気で戦わないと」

 ケイの問いに答えたレオンも次の準備に取り掛かる。

 

 

 一方、圧倒的劣勢の状況でも撤退に成功した大洗は30分ほど走行し、停止した。

「あー疲れた。どんだけ走らせるんだよ……」

「でも、なんとかなったな」

 八尋と俊也がそんな事を言うと、歩兵たちは皆息を荒くしながら足を止める。

「決して、いい結果とは言えないが塁のほうも絶妙だった」

「いやー、たまたま敵が罠の真上で停止してくれただけですよー」

 なんとか撤退は成功したが、ヤマネコ分隊は4人の歩兵を失った。状況を見れば、小さい犠牲だったが。大成功だったとは言えない。

「おい、西住と葛城」

「なんですか?」

「どうした?」

 不意に声をかけた俊也に返事をするみほと凛祢。

「さっきはこちらが先に罠を張っていたからよかったが、おかしくなかったか?敵はなんで、俺たちの行く先に陣取っていた?」

「トシ、それは歴戦の勘ってやつだろ?ある程度予測して陣取るくらいするだろ?サバゲ―でもよくやるしな」

「確かに、歴戦の勘と言って片付けることもできる。だが、それにしては随分ピンポイントで陣取っていたものだな」

「……!」

 俊也の言葉にその場にいるあんこうチームとヤブイヌ分隊は言葉が出ない。

「……まあいい、これは俺の思い込みだ――」

「いや、そうでもないかもしれないぞ」

 その声を聞いて視線が凛祢に集まる。

 そして、隣にいた塁が携帯端末を操作し1枚の写真を見せる。

 赤と黄色の気球の様な物体が写っている。

「これって……」

「その前に通信を切れ」

 凛祢が口元に指を当てて指示を出すとあんこうチームとヤブイヌ分隊が通信を切り、再び視線を2人に向ける。

「……これは通信傍受機。塁が単独行動していた時に発見し俺に画像を送ってきた。正直、確証はなかった。だが、俺は塁に連絡をする際に、インカム通信ではなくチャットを使ったんだ」

「それで、僕はチャットで指示された通り、あの場所に罠を仕掛けて身を隠していた。実際、僕の存在は敵に知られていませんでした」

「これだけでは通信傍受されていると考えるには材料が足りなかった。でも、さっきの戦闘と俊也の不信感で確証に変わった。あれは正真正銘通信傍受機だ」

 凛祢は犯人を見つけ出した探偵の様に言い放つ。

「待て待て待て!通信を傍受するなんてルール違反だろ?」

「お前馬鹿か?ルールブックの76ページ、通信関係のことが記載されているが『通信傍受機を打ち上げてはいけない』なんて書いてねーんだよ。違反行為のページにもな」

 納得の行かない八尋に俊也が言い放つ。

「俊也、よく覚えてんな……ページ数まで」

「違反行為ギリギリですけどね」

 俊也の説明に翼や塁も苦笑いを浮かべる。

「酷い!いくらお金があるからって!翼君、撃ち落として!」

「そうだ翼、狙い撃て!」

「いや、でも……」

 怒りの顔を見せる沙織と八尋が翼に指示を出す。が翼は戸惑いを見せる。

「あー、そっちの武部も八尋もやっぱり馬鹿なのか?」

「あ?じゃあ、お前はこんな事を許しておくってのか?」

「違う、葛城はもう答えを決めてるだろ」

 やれやれと俊也は凛祢に視線を向ける。続くように八尋と翼も視線を向けた。

「あれを逆に利用する。作戦はこうだ……」

 凛祢は数分で作戦を説明すると、八尋も納得したように笑みを浮かべた。

 そして、38tとⅢ突のいる地点に向かい合流する。

「へー、敵がそんな事を考えていたとはね」

「通信を傍受するとはいいところに目を付けたな。だが、種が分かればこっちのものだ」

 38tの随伴歩兵である英治と宗司が小さく呟く。

 通信傍受という手品を見破った凛祢たちの説明を聞いて、対策をした大洗連合も次々に動き始める。

「全軍、ポイントR985の道路を南進!ジャンクションまで移動して!敵はジャンクションを北上してくるはずなので、通り過ぎたところを左右から狙います」

 みほの声が通信機、インカムを通して響く。

「了解です!」

「こっちも了解!」

 続くように梓とエルヴィンの声が響く。

 

 

「目標はジャンクション。左右に展開しているわ。囮を北上させて!本体は左右から包囲!」

 大洗の通信を聞いていたサンダース校の生徒、アリサはケイに指示を出す。

「OKOK!でもなんで、そんなことまでわかっちゃうわけ?」

「女の勘です」

「アハハハ!そりゃ頼もしい!」

 アリサの指示は確かに凄い。丸でその場を見ているかのようだったからだ、それでも仲間を信じているからこそ従う。

 情報通り、隊列を変化させる。

「おい、ピアーズ。アリサの指示おかしくないか?」

「俺も思っていました。なんか、敵の配置を把握しすぎているような気がするんですが。おそらく歴戦の勘だと思われます、彼女の指示はさっきも的確でしたから」

「そうか、わかった。なにかあったら教えてくれ」

 レオンも不信感を抱きながらも通信を終えて、進軍する。




今回で、サンダース戦は終わると思っていたのですが、前編後編という形になってしまいました。
アルバート校の三人はバイオのキャラを元になっているんですよね。
レオンといい、ピアーズといい。学校名もウェスカーの名前が元なんですよね
次は六月の十四日くらいに上げれたらいいと思ってます。
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