ポケットモンスターSM Episode Lila   作:2936

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【ここまでのあらすじ】
 ヒノキの前に国際警察のUB対策本部の責任者として再び現れたアナベル。その正体は、やはり失踪中のホウエンバトルフロンティアのブレーン、リラであった。
 しかし、彼女が当時の記憶を殆ど全て失っているという事実もまた同時に判明し、ヒノキは愕然とする。
 そんな中、そのアナベル(リラ)よりヒノキの元へ、アーカラ島のディグダトンネルにてUBパラサイトの出現が確認されたとの連絡が入る。



13.UB01:ウツロイド 選別と契約

 

 トンネルの内部は、異様な冷気と緊張感が充満していた。

 普段ならいくらでも見かけるであろうディグダやズバット達も、そのただならぬ気配にどこかへ姿を隠してしまっているようだ。

 アナベルの後ろを走りながら、ヒノキはふと、ハンサムの姿が見えないことに気づいた。

 

「そういや、あのおっちゃんは?外で待ってるのか?」

 

「ええ、ハンサムさんはトレーナーではないので、危険な現場に来させる訳にはいきませんから。専ら、情報収集などのバックアップ専門です。」

 

 彼女のその返答に、ヒノキはぎょっとして思わず声を張ってしまった。

 

「はあ!?じゃ、戦力は実質オレら二人ってことか!?」

 

「そうです。ですからー」

 

 その時、先を行く彼女が何かに気づいた。左の腕でヒノキを制し、右手の人差し指を唇の前に立てると、かろうじて聞き取れるほどの低い声で囁いた。

 

「・・・私が囮になって相手の注意を引き付けます。あなたは、その隙をついてください。」

 

 彼女のその動きと指示が意味するものは、もはやひとつであった。

 このカーブを曲がった先に、()()のだ。

 

「囮ならオレがー」

 

 ヒノキがとっさにそう言いかけたのは、この二役では危険の度合いが大きく異なるためである。当然、自ら相手の標的となる囮の方が格段に危険度が高い。

 が、アナベルは首を振った。

 

「あなたは実際にビーストと対峙するのは初めてでしょう?彼らは、その全てがあなたが今までに出会ったどのポケモンとも違う、異質な存在です。私が引き付けている間に十分見て、驚いて、想定できる限りのタイムロスをなくしてから加勢してください。」

 

「だけどー」

 

「それに」

 

 食い下がるヒノキを、彼女はなおも制した。

 

「彼らの気の引き方に関しては、今の段階では確実にあなたより私の方が心得がありますから。今回は私に任せて下さい。」

 

 照明の薄明かりの下の彼女の瞳には、穏やかながらも有無を言わさぬ強い意志が浮かんでいた。

 

「・・・分かったよ。ボスはあんただ。」

 

 ヒノキのその返事にアナベルは満足し、頷いた。

 

「ですから、あなたのことはとても頼りにしていますよ。ヒノキ。」

 

 先ほどの言いかけの言葉をそう続けて、少し笑った。悲壮な覚悟の滲む、強く儚い微笑みだった。

 

「さあ、行きますよ!フーディン!!」

 

 アナベルは素早く飛び出すと、フーディンを繰り出すと同時に、上着の左襟に留められたキーストーンに触れた。

 間もなく、眩い光の卵から孵るようにメガフーディンが現れ、眼前の中空に浮かんでいた「それ」と対峙するように、向き合った。

 

 金魚鉢を伏せたような頭と12本の触手をもつ半透明の身体は、ヒノキの知っている生き物の中ではクラゲが最も近い。が、同時に白いつば広帽子とワンピースを身につけた、長髪の少女のようにも見える。まるでだまし絵のようなUBパラサイトことウツロイドは、そのような奇妙な生き物であった。

 

ー私が引き付けている間に、十分見て、驚いて、想定できる限りのタイムロスをなくしてから加勢してください。

 

 岩陰から思わずその姿に見入ってしまっていたヒノキは、はっと我に返り、先ほどのアナベルの言葉の意味を痛感した。

 

「ロトム!お前の中にある分だけで良いから、あいつの情報をくれ。」

 

 急いでロトム図鑑を起動させ、臨戦体勢をとりにかかる。

 

『まかせロト!コードネームパラサイト、正式名称はウツロイド。強力な神経毒によって相手に寄生し、自分の身を守るように仕向けるらしいロ。しかもこの神経毒、寄生した相手の能力を最大限まで引き出す、恐ろしい覚醒作用を持っているロト。』

 

 そのパラサイトの全身から、突如、目に見えるほど赤く不気味なオーラが噴出した。

 

「なんだ?あのオーラは?」

 

『詳しいことはまだ分かっていないロが・・・どうもウルトラホール内に存在するエネルギーで、ウルトラビーストの潜在能力を増幅させる作用があるみたいだロ!』

 

 すると、驚いた事にたちまちアナベルのメガフーディンにも同じオーラがみなぎった。

 これがメガフーディンのとくせい『トレース』の発動によるものと考えると、あのオーラはウツロイドのとくせいということになる。

 

「フーディン、サイコキネシス!」

 

 メガフーディンは両手で念を練り上げると、ウツロイドめがけて強力なエネルギー波を放った。

 が、ウツロイドの一番手前の左右二本の触手で作られた楕円形の鏡のような盾が、それを跳ね返した。

 

(あれは・・ミラーコート!?)

 

 とっさのテレポートにより、アナベルとフーディンはすんでのところで返り討ちをかわしたが、威力を増したその一撃は地面をえぐるに留まらず、ボールのように跳ね返り、トンネルの天井を直撃した。その衝撃は天井の一部を崩し、二人をめがけて、隠れていたズバットの豪雨を降らせた。

 

「リフレクター!」

 

 夥しい数のその群れをリフレクターの盾でかち割り、なんとか凌ぎきろうとしたその時であった。

 

「!?」

 

ーぞく。

 

 アナベルとメガフーディンが背筋に異様な悪寒を感じた次の瞬間、鮮烈な禍々しさを伴ったどす黒いまなざしが、二人をいすくめた。

 そこに、ウツロイドを被った最後の一体がリフレクターをすり抜け、メガフーディンの左肩にどくどくのキバを立てた。

 

(隠れた『すりぬけ』のとくせいを引き出したー!?)

 

 隠れとくせいは、本来全てのポケモンに備わっている力である。が、潜在能力であるそれを発揮できるのは、特別な訓練を受ける機会のない野生のポケモンでは、全体のおよそ一割にも満たないと言われている。

 

 たちまち猛毒が回り、その上ボールに戻せない呪いを受けたメガフーディンは急速に弱りだした。

 そんなメガフーディンの状態を把握したかのようにウツロイドはズバットから離れると、自身の触手からとどめのベノムショックを放った。

 

(寄生される!)

 

 弱りきったメガフーディンに寄生すべくウツロイドが迫り、触手を伸ばしたその時であった。

 

──パァン。

 

 両者の間を一筋の煌めきが走ったかと思うと、間もなく数十メートルの彼方からガラスの割れるような音がした。

 

 アナベルがそちらを向いた時、それは既に砕け散ったウツロイドの触手の破片を伴ったしみとなっていた。

 しかし、目の前を横切った一瞬、その巨大な四方の刃が触手を叩き斬ったのが、確かに見えた。

 

「お疲れ。交替だ。」

 

 声の先には、ヒノキと巨大なみずしゅりけんを携えたゲッコウガの姿があった。なんとゲッコウガまでが、かの赤いオーラをまとっている。

 

「見かけに寄らず、なかなか頭良いじゃねえか。それとも、あれが潜在能力を最大限まで引き出すって意味か?」

 

『うーん・・・隠れとくせいの『すりぬけ』を引き出したり、あの個体(ズバット)がまだ習得していない『どくどくのキバ』を繰り出せたのは、間違いなくウツロイドの能力だロ。だけど、あんなに効率的な使い方が判るかどうかは・・・不明ロト。』

 

 ロトムの言わんとしていることは、ヒノキにも分かった。ウツロイドのこの一連の動きは、あまりにも流れが出来すぎている。まるで、誰かが陰から指示を出しているかのように。

 

(なるほど、まさに未知との遭遇だな。)

 

 ヒノキがそんな事を思っていると、まるでゲッコウガが『なりきり』でコピーしたオーラに惹かれるように、ウツロイドがこちらへ向き直った。そして頭を向けて照準を合わせると、残った触手でトンネルの壁を蹴り出し、ロケットのような勢いで突っ込んできた。

 

『ヒノキ、気をつけて!あれはただの『ずつき』じゃないロ!おそらくはさらに強力な『もろはのずつき』ロト!』

 

「了解。コウ!『みがわり』でかわせ!」

 

 しかし、それはゲッコウガを狙った攻撃ではなかった。凄まじい勢いで突っ込んできたウツロイドはゲッコウガの頭上をかすめると、その背後にあった小岩を粉砕した。直後に、岩の中から悲鳴のような鳴き声が響いた。

 ヒノキが急いで振り返ると、ちょうどウツロイドが気絶したダグトリオに被さり、侵しにかかっているところであった。

 

(ハナからこいつが狙いか!)

 

 予想外の展開となった。このままダグトリオに寄生され、じしんやマグニチュードを起こされたら大惨事になりかねない。

 

「コウ、もういちど『みずしゅりけん』で叩っ斬れ!」

 

 ウツロイドをダグトリオから引き離すべく、ヒノキはゲッコウガにそう命じた。が、今度は再生した二本の触手で作られたミラーコートに弾かれてしまった。

 

(ダメだ。もっとこう、抑えの効かない感じのやつじゃないとー)

 

 その時、ヒノキは足元がかすかにではあるが、確かに蠢くのを感じた。とたんに、ある考えが閃いた。

 急いでリュックから覇気のない顔の描かれた玉を取り出すと、ゲッコウガに放ってよこした。

 

「信じてるぜ、お前らの連帯感!」

 

 ゲッコウガのみずしゅりけんに託されて放たれたそのビビり玉は、覆い被さったウツロイドを突き抜け、見事にダグトリオへと直撃した。

 

 

『デデデデッ!!!』

 

 

 渾身の力で仲間を呼ぶ声がトンネル中に響きわたった。

 たちまち地面が揺らぎ出したかと思うと、トンネルの四方八方から無数のディグダやダグトリオが現れた。そして未知の生物に侵された仲間の姿を見るやいなや、怒りをあらわに、一斉にウツロイド目掛けて力の限り『どろかけ』を放った。

 

「伏せろ!」

 

 座り込んでいるアナベルとメガフーディンの前に回ると、ヒノキはゲッコウガにたたみがえしを命じた。

 直後に、機関銃のような泥の流れ弾が幾度となく二畳のたたみを撃った。

 

 やがて、奇妙な断末魔のような声が響いた後、辺りは静かになった。

 

「おーおー。これがホントの()()()、ってか。」

 

 たたみの陰から出たヒノキは、数分前とはすっかり変わり果てた光景を見て、思わず呟いた。天井という天井、壁という壁に厚い泥の層ができ、そこに広がっていた空間は明らかに幾分狭まっていた。ウツロイドやダグトリオやその仲間の姿は、既に消えている。

 

「しっかし、あんだけがっつり被さっても寄生しきれてなかったってことは、あいつの神経毒ってのは意外と大したことないのかな?」

 

 結果的に、ダグトリオは寄生されずに仲間を呼ぶことができた。その事実からヒノキはそう考えたが、その楽観視をアナベルは肩で息を付きながら、いえ、と否めた。

 

「アローラのディグダやダグトリオには、はがねの第二属性がありますから。おそらく、神経毒が完全には回りきらなかったのでしょう。」

 

 かなり体力を消耗しているらしい。壁にもたれ掛かり、片膝を立てて座り込んだままである。

 

「お、おい、大丈夫か?後はオレが引き受けるから、あんたは先に外へー」

 

 ヒノキはまだウツロイドが一時的に姿を隠しただけと考えていた。

 しかし、彼女は首を振った。

 

「その心配は無用です。気配が完全に途絶えましたから。あのパラサイトはもう、このトンネル内にはいないでしょう。」

 

(・・・?)

 

 なぜ、そんなことが分かるのだろう。最初にウツロイドの気配を察知した時もそうだったが、彼女には何かビーストに対する特別な勘がある。ヒノキにはそう思えてならなかった。

 

「ヒノキ」

 

「全てはこの通りです。もちろん出来る限りの配慮はしますが、結論から言えば、私はあなたに何の保証もすることはできません。睡眠も、プライベートも、命さえも。」

 

 突然のアナベルのその告白の意味を、ヒノキは即座に理解した。

 

「・・・そーいうのって、ホントは戦いが始まる前にオレに説明して同意を得てなきゃいけないんだろ?死んでも文句は言いませんって誓約書にサインさせたりとか。結局、コトが起きた時に責任を問われるのはあんただぞ。」

 

 それは、先刻のモーテルでのやり取りの中で彼が抱いた疑問の答えでもあった。

 

「ごめんなさい」

 

 彼女はうなだれたまま、今にも泣き出しそうな声で絞り出すように呟いた。

 

「もう、信じて裏切られるのは嫌だったから。」

 

 ヒノキは鼻でため息をついた。なんとなく、察しはつく。大方、就任の契約を交わした後に逃げられた事があるというところだろう。それも、一度や二度ではなしに。だから、契約よりも先にその向こうにある現実を持ってきたのだ。

 覚悟の有無を測るために。

 

 ヒノキがかける言葉を探していると、彼女はなおも片膝を立ててうつむいたまま、右手を出した。

 

「・・・余計な気遣いは要りません。正直な気持ちで、この条件には耐えられないと思うなら。今、ここであなたに渡したPHSを返してください。」

 

 黒い手袋に包まれた華奢なその手は、微かに震えていた。

 

 ヒノキはそれをポケットから取り出して見つめた。

 まだ極めて新しく、使用感はほとんどない。これまでに何人の人間の手に渡り、そして返されてきたのだろう。

 

 やがて、アナベルは伸ばした掌にぽん、と何かが乗せられるのを感じた。

 意を決して握ったそれは、PHSにしては柔らかく、温かく、そして大きかった。

 

(・・・?)

 

 予想外の感触に彼女が思わず顔を上げると、そこに乗っていたのは、広い掌が黒いグローブに包まれた、ヒノキの右手だった。

 

「保証ができないのはお互い様だ。」

 

「要はディグダ達(あいつら)と一緒だ。仲間に助けを求められたからって、必ず助けてやれるとは限らない。オレが約束出来るのも、せいぜい呼ばれたら駆けつけて一緒に戦うとこまでだ。それでもいいか?」

 

 アナベルは乗せられた手をじっと見つめ、そしてこわごわ彼の目を見た。

 

「本当に・・・?」

 

 そして、ゆっくりとためらいがちにその手を握り返した。

 

「我が身かわいさに困ってる女と戦力外のおっちゃんを放って逃げたとなりゃ、オレの経歴と良心にキズがつくだろ。」

 

 そう言うと、ヒノキは右手にぐいっと力を込め、彼女の手を引いて立たせた。

 

「さあ、そうと決まったら面倒事はさっさと済ましちまおうぜ。契約書でも同意書でもサインしてやるよ。死なねーけど。」

 

 さて、出口はどっちだったかな、とヒノキが向きを変えた隙に、彼女は急いで左手で目を拭った。それからすぐに、彼に握られている手を強く握り返した。

 

「ありがとうございます!では、これからよろしくお願いしますね!」

 

 そして、出口はこっちですよ!と元気よくヒノキを率いて、光の射す方へと向かった。

 

 

 ◇

 

 

 その夜。

 正式に就任契約を交わしたヒノキは、歓迎会をしたいというアナベルが上層部への報告を終えるのを待っていた。

 モーテルの前の階段に腰かけてぼんやりと夜の海を眺めていると、どこからかハンサムが現れ、隣に座った。

 

「ボスから話は聞いた。全てを承諾した上で引き受けてくれた事、本当に感謝している。」

 

 そう言って、近くのポケモンセンターのカフェでテイクアウトしてきたらしいグランブルマウンテンをヒノキに手渡した。

 

「まったく、オレだって半端な気持ちでここまで来た訳じゃないんだから。回りくどい芝居なんか打たないで、最初からありのまま話してくれれば良かったんだよ。」

 

 コーヒーを飲みながら、ヒノキは照れを隠すように答えた。そんな彼の横顔をハンサムはしばらくじっと見ていたが、やがて静かに話し始めた。

 

「・・・これは、君が引き受けてくれた今だからこそ話せるのだが。」

 

「ん?」

 

「実は君に今回の依頼を断られていたら、彼女は国際警察を辞めるつもりでいたのだ。」

 

「・・・マジで?」

 

 ハンサムの言葉に、ヒノキは思わずコーヒーをむせ返しかけた。

 まさかそこまで思い詰めていたとは思わなかった。

 しかし、そうなるとあの大胆な選別(テスト)にも合点がいく。

 

「マジだ。そもそも彼女は、最初からUBの保護を志願して国際警察に入ったのだからな。それが叶わないとなれば、これ以上この組織にいる理由はない。」

 

 そう言って、ハンサムは訥々とその経緯を語り始めた。

 

「察しはつくかと思うが、このUB対策本部は最初から我々二人であった訳ではない。設立当初はもちろんそれなりの人員が配置されていた。が、公私も昼夜もない激務に、念を押して交わした契約は次々破られていった。もちろん、法的には拘束は可能だったよ。しかし、一度戦意をなくした者が命がけの現場で死人以外の何になれる?」

 

 ハンサムはそこでいったん言葉を切り、自分のグランブルマウンテンを一口飲んだ。

 

「加えて、UBに関しては上層部のほとんどが殲滅派だ。連中はとかく保守的で面倒事が嫌いだからな。本部からのサポートが極めて薄いのもそのためだ。」

 

「ま、無理もないわな。リスクは山のごとし、リターンは霧のごとし、となりゃ。」

 

 ヒノキの言葉にハンサムは頷き、さらに続けた。

 

「いくら国際警察屈指の腕前と言えど、一人で数種のUBと戦い、さらにそれに関する膨大な量の事務処理を行うには、さすがのボスにも限界があった。パラサイトの出現前に契約を交わさなかったのも、君に後からやはり無理だと言われるのがよほど恐かったのだろう。許してやってくれ。」

 

 ヒノキは何も言えなかった。

 未知の生命体だけではない。

 他人を信じる不安や裏切られる恐怖とも、彼女はずっと一人で戦っていたのだ。

 

 

──変わってないんだな。

 

 

 ふと、ヒノキの脳裏に遠い日の彼女の影がよぎった。

 ディグダトンネルで片膝を立ててうなだれていた姿に、かつて夜空の下で言葉を詰まらせ、肩を震わせていた少女が重なった。

 

「昼間電話した時にさ。『今の彼女はきみの知るリラじゃない』って言ってたじゃん。」

 

「ん、ああ。それがどうした?」 

 

「確かに今のあいつは、オレのことはもう何にも覚えていないけど。でも、やっぱりあいつはオレの知ってるリラだよ。人間、記憶を失くしても変わらない部分はあるんだな。」

 

「・・・そうか。」

 

 やはり君に頼んで正解だった。

 ハンサムがそう口にしようとしたところで、背後の扉が勢いよく開いた。

 

「ごめんなさい、お待たせしました。お二人とも、何か食べたいものはありますか?あ、でもあなた、食べ過ぎで調子が良くないんでしたっけ?」 

 

 そう言ってヒノキの方を向いたアナベルの瞳には、すっかり活気が戻っていた。ヒノキは腰を上げ、ジーンズについた砂を払った。

 

「もー色々あり過ぎて治ったわ。もう何でも食えるよ。」

 

「分かりました。では、あなたの今日の任務は『私たちの歓待を受け、しっかり栄養をつける』に変更しますね。」

 

「ガッテン。」

 

 そう言って、このやり取りにふと既視感を感じたヒノキは、おそるおそる浮かんだ疑問を口にした。

 

「・・・でも、もしメシ食ってる間にまたあいつらが出てきたら?」

 

「その際はもちろん、任務完了後、以下同文とーー」

 

 きびきびとそう話す彼女に、ヒノキはただただ絶句するしかなかった。

 

 

(・・・ま、オレ一応主人公だし。死にはしない・・よな。)

 

 

 かくして、ヒノキとアナベルもといリラのアローラの平和を守るための戦いが始まったのであった。

 

 




 
今話にて、第一章【再会】は完結です。
閲覧・評価・お気に入り登録・ご感想をお寄せくださった皆様、本当にありがとうございます。
やはり人様に読んで頂けるというのは書き続ける上で何よりの励みになります。
拙さしかない文章ではありますが、これからも楽しんで頂けるよう精いっぱい頑張りたいと思いますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
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