ポケットモンスターSM Episode Lila   作:2936

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【ここまでのあらすじ】
共に任務にあたり、アナベルとの距離が近づくにつれて、彼女との向き合い方に思い悩むヒノキ。
このままアナベルという他人として割り切るのか、それともかつての友人・リラとして向き直るのか。
記憶喪失という壁に本心を阻まれながらも、彼はクチナシに言われた「覚悟」について自問し続ける。



19.UB04:デンジュモク 青天の霹靂

 

──もういっぺん、ちゃんと整理して考えてみろ。

 

 その夜も遅くまでクチナシの言葉を考えていたヒノキは、オハナ牧場の自室の机に突っ伏したまま、いつの間にか寝入ってしまっていた。

 数時間後、無意識に感じる腕や尻の痛みから目を覚ました彼が最初に見たものは、ブラインドを下ろし忘れた窓の向こうの、ぼんやりと赤みがかった空だった。

 

(やべ、もう夜明けか。)

 

 まだベッドで横になれる時間はあるだろうか。そんなことを思いながら手探りで携帯をつかみ、時間を確かめる。午前二時四十六分。午前二時四十六分?

 

 いくら何でも陽が昇るには早すぎる。何より、そもそもこの窓は確か西向きのはずだ。

 

(・・・?)

 

 ヒノキは寝ぼけ眼をこすり、改めてその方向を見た。そして間もなく、その明るさが朝日ではなく、巨大な炎によるものであることを知った。

 

(火事か!)

 

 任務用のPHSに着信は入っていない。が、念のためポケットに入れて窓からリザードンに飛び乗ると、火災現場の燃え盛るシェードジャングルへと急行した。

 

 

 ◇

 

 

 シェードジャングルの入り口にあるアーカラ第四ポケモンセンターは、人間とポケモンの両方の避難者や負傷者でごった返していた。

 

「あ!ヒノキさん、来てくれたんだ!」

 

 センターの職員に混じってポケモンや人間の看護を行っていた、緑の長い髪を二つに分けて結んだ少女がヒノキに声をかけた。アーカラ島のくさタイプ使いのキャプテン、マオ・マーロウだ。今燃えているシェードジャングルは、本来なら彼女が島めぐりの試練を行う場所である。

 

「おお、マオ。原因は何だ?野生ポケモンの火か?」

 

「ううん、それがまだ分からなくて・・・あ!ライチさん!ヒノキさんも今来てくれたよ!」

 

 マオがヒノキの肩越しに見える人物に声をかけ、その名を聞いたヒノキはぎくりと肩をすくめた。

 

「全く。どうしてあんたまで来てるんだい?まだビースト絡みと決まった訳じゃないから、誰も連絡はしてないはずだけど。」

 

 彼がおそるおそる振り向くと、そこにはアーカラ島のしまクイーン、ライチ・レイシィが怖い顔でヒノキを見つめて佇んでいた。

 

「たまたまだよ。なんとなく目が覚めたら宿の窓から火が見えたもんで、つい。」

 

 言い訳めいた口調で話すヒノキに、ライチは呆れたようにため息をついた。

 

「まったく、あんた達ってほんと仕事中毒だね。せっかくアタシが激務の身を気遣って朝まで連絡を待とうとしたってのに。」

 

「せっかくだけど、そういうのをローバシ・・あ、いや。それより、さっきから思ってたんだけど。あんた()()とか()とかって、まさかー」

 

 ライチは答える代わりに、ちょいちょいと親指でロビーの一角を指した。その先には、スーツの上着を脱ぎ、シャツの袖をまくって怪我をしたナゲツケサルの応急処置を行うアナベルの姿があった。

 

「なんでボスまでここに・・・」

 

 ヒノキは彼女の元へ駆け寄って尋ねた。というのも、彼女はこのところはモーテルではなく、エーテルパラダイスの自室へ帰っているはずだからだ。

 

「八番道路のエーテルベースから、シェードジャングルで原因不明の火災が発生したとの緊急連絡が入ったので。UBによる可能性がある以上、来ないわけにはいきませんから。」

 

 慣れた手つきで患部に包帯を巻きながら、彼女が答えた。どうやら、そのスキルもエーテルパラダイスで培ったものらしい。

 

「さあ、あんたも来た以上は手伝ってもらうよ。水タイプは消火班、炎に耐性のあるポケモンは救助班のヘルプだ。」

 

 ライチがパンパンと手を叩いて、ヒノキに声をかけた。彼女の話では、マオと同じくこの島のキャプテンであるスイレンとカキも、それぞれ消火と避難誘導に当たっているらしい。

 

「了解。」

 

 ヒノキは頷いた。

 それからライチの案内で現場に出動し、地元民や自分の手持ちのリザードン、ゲッコウガと共に、夜通し消火と救助活動に明け暮れた。

 そうして空が白み始め、本当の夜明けが訪れた頃に、ようやく火は鎮まったのだった。

 

 

 ◇ ◇

 

 

「あーあー。こりゃひでーな。」

 

 火事から一夜が明けた、その日の午後。

 すでに晴れ渡っている空とは対照的にまだ煙のくすぶる焼け野原を歩きながら、ヒノキが呟いた。

 

「本当に。人間・ポケモンとも重篤な負傷者や死者が出なかったのが、不幸中の幸いでしたね。」

 

 彼の隣を歩くアナベルはそう言って、煙のために軽く咳き込んだ。

 

「しかし、原因が雷というのは本当なのか?昨夜はこの辺りは発雷確率0%、聴き込みをしていても、誰もが雲一つない満天の星空だったというぞ。そんな空から雷など、まさに星天の霹靂だ。」

 

 二人の一歩後ろを歩いて訝しがるハンサムに、ヒノキは振り返って答えた。

 

「オレだってそう思うよ。だけど、()()は確かに雷だった。それが自然現象なのか、不自然現象なのかは別としてね。」

 

 

 話は、それから数時間前に遡る。

 

 

 ◇

 

 

 ジャングルの火が鎮火し、救助活動にも終わりの目処が立つと、ライチはアナベルとヒノキを早めに上がらせてくれた。ちょうどそこにハンサムが朝食の差し入れを持って駆けつけたので、三人はポケモンセンターのカフェスペースの一画で食事休憩を取ることにした。

 

「それで、原因はまだ分からないの?」

 

 房から一本外したトロピウス・バナナの皮を剥きながら、ヒノキがハンサムに尋ねた。

 

「うむ。何しろ場所が場所な上に、時間が時間だったからな。現在も聴き込みは続けているが、これといった情報はまだひとつもない。」

 

「そうでしょうね・・・この辺りは民家もほとんどありませんし、バックパッカーや旅行客にしても、さすがに深夜のジャングルを観光していた人はいないでしょうから。むしろ、あの時ジャングルにいたポケモン達の方が何か知っているかも知れませんね。」

 

 マトマ・スープのカップを両手で包むアナベルの何気ない一言に、バナナを頬張っていたヒノキが食い付いた。

 

「そーだ、それだ!何でポケモンには聴き込まないんだよ。どう考えても人間より見込みあるだろ。」

 

「いやいや。徹夜明けの君にはピンと来ないかもしれないが、そこには異種族間言語という名の断崖絶壁があってだな・・・」

 

「んなのロッククライム使えばいいじゃん。エリート刑事ならそれくらい余裕だろ?」

 

「ぐっ・・・!わ、わかった。君がそこまでいうのなら、一度、やって──」

 

──ヤレヤレ。

 

 それは確かに二人のやり取りを聞いていたアナベルの所感であった。が、その呟きの主は彼女ではなく、その後方のポケモンセンターのロビーからこちらを見ていた、一体のポケモンだった。

 

 白い長毛に覆われたヒトのような体躯に、羽織るようにまとったローブ風の紫の毛衣。右手にヤツデの葉でつくった団扇を構えて床にゆったりとあぐらをかき、やたらと風格がある。

 

「ム!なんだ、あの偉そうなポケモンは・・・?」

 

「シェードジャングルに生息する、ヤレユータンというポケモンですね。とても知能が高く、森の賢者とも呼ばれているそうです。」

 

 けしからんと言わんばかりに眉をひそめるハンサムに、アナベルが解説した。

 

「おお、丁度いいじゃん。昨日のこと何か知ってるか、聞いてみようぜ。」

 

 しかしヒノキが出向くよりも先に、なぜか当のヤレユータンの方が三人の席へと歩み寄ってきていた。

 

「なあ、ヤレユータン。ちょっと聞きたいんだけど・・・」

 

 ヒノキがそこまで言いかけたところで、ヤレユータンの長い指が、すっと食べかけのトロピウス・バナナを指した。

 

「ん?ああ、これが欲しいのか?」

 

 ヤレユータンが頷いたので、ヒノキは房からもう一本バナナを切り離して、ヤレユータンに手渡してやった。彼は眼力でその皮を剥いて美味しそうにバナナを食べると、おもむろに右手の人差し指をヒノキの額に当てた。

 

「なんだ?オレのデコに何か──」

 

 そこでヒノキは言葉をのんだ。

 闇夜のジャングルで、青白く発光する奇妙な黒い木に落ちる雷。そこからあっという間に周囲の草木に延焼し、成長する炎。

 半日前にヤレユータンが見たのであろうその光景が、ヒノキの脳内に鮮やかに再生されたのだ。

 

「雷だ。」

 

「え?」

 

 ヒノキの呟きに、ハンサムとアナベルが同時に聞き返した。

 

「ジャングルへ行こう。必ずあの落雷の痕跡があるはずだ。そこに、きっと何か手がかりもあると思う。」

 

 

 ◇

 

 

 一行は焼け残った植物の残骸の林を抜けると、やがて周囲が少し開けた場所に出た。

 

「!ここだ!ほら、あの地面の変な跡!」

 

 ヒノキがそう言って指差した先には、一際地面が色濃く焦げた場所があり、そこにはまるでコンセントの差し込み口を思わせる奇妙な溝が残っていた。

 

「おお、確かに妙な焼け跡があるな!」

 

 三人がその焼け跡に近づき、詳しく調べようとした時だった。

 一瞬の閃光が辺りを支配した後、耳をつんざくような雷鳴が轟き、軽く地面が揺れた。そして間もなく、三人のいる地点より更に奥から、ギャアギャアとポケモン達の不穏な悲鳴が響き渡ってきた。

 

「今のって・・・」

 

「奥の方からですね。行きましょう。ハンサムさんは戻って、念のためにキャプテン達としまクイーンのライチさんに連絡をお願いします!」

 

「わ、分かった!」

 

 散乱する植物の燃え殻にしょっちゅうつまずきながら、ハンサムはジャングルの入り口へと走っていった。

 そして残った二人は共にアナベルのボーマンダの背に乗り、まだ鬱蒼とした熱帯雨林の広がる、ジャングルの奥地へと向かった。

 

 

 ◇

 

 

 目指すべき場所はすぐに分かった。大きな炎はまだ見えないが、すでに白く太い煙が狼煙のように上がっている。そして、やはり空は青い。

 

「あそこですね。煙を吸わないよう気をつけて。」

 

 アナベルはヒノキにそう声をかけると、いったん風上に回ってから慎重にその場所へと降りた。

 

 そこは円形に開けた空間で、ちょうど先ほどヒノキ達が調査していた場所に酷似していた。

 ただ、その中央に周囲の植物とは明らかに異なる何かが生えているという一点を除いては。

 

「あれだ!!夕べヤレユータンが見た、雷の落ちた樹!」

 

「え?・・・!!」

 

 ヒノキの声に、アナベルもその樹木を見た。そして背筋に走った凶暴な気配に、一瞬にしてそれが樹木などではないことを悟った。  

 

「ヒノキ!このUBは私が相手をします!あなたはゲッコウガと周囲の消火にあたってください!」

 

 彼女がそう叫ぶと共に、空間の中央に生えていたその何かがグネグネと蠢き出し、地面から飛び上がって赤いオーラを噴き出した。

 

 

──ショオオオォッ!!

 

 

 二階建てほどの高さの、結束バンドで束ねられた電気ケーブルのおばけ。それが、その容姿に対するヒノキの率直な感想であった。

 胴体もなく、直接頭部から伸びるあれは手なのか足なのか根なのか、それさえ分からない。が、何にせよ、それがエーテルパラダイスの資料で見たライトニングというUBであることだけは疑いようがなかった。

 

「わかった。コウ!」

 

 ヒノキはボールからゲッコウガを放つと、言われた通り広場の周囲の消火に当たらせた。そして自分は向き直り、さらにひとつのボールを開いた。

 

「シル!!」

 

 シルヴァディ。

 UB対策の切り札としてエーテル財団が秘密裏に開発した、全ての属性になりうる可能性を秘めた人工ポケモン。UB保護任務に就いたヒノキが、最初にエーテルパラダイスを訪れた時にビッケに託されたものだ。

 

「そのポケモンは・・・!」

 

 アナベルは直接見たことはなかったが、噂には聞いていた。パラダイス地下の研究室で対UB用の生物兵器として二体のポケモンが開発され、そのうちの一体を代表の息子・グラジオが連れて家を飛び出したのだと。

 

「ああ。ウルトラボールに続く、財団の素晴らしい財産その二だ。シル!行くぜ。」

 

 ヒノキが彼の首の後ろの挿入口から土色のディスクをセットすると、頭部を覆う鎧兜からはみ出した立派なとさかが同じ色に変わった。

 

「マルチアタック!」

 

 大地のエネルギーをまとったシルヴァディの突進は、ライトニングの横っ腹ーそれが腹であればの話だがーに見事に直撃した。

 

「よし!・・・っと!」

 

 興奮したライトニングが、その長い腕を鞭のごとく振り回した。が、妙なことに、その矛先は攻撃したシルヴァディよりも背後にいたアナベルの方に向けられ、彼女のボーマンダがその盾となった。

 

(・・・?)

 

 そこで、ヒノキはふと気付いた。

 どうも、最初からライトニングはポケモンより彼女に反応しているように見える。かといって、消火活動をさせているゲッコウガになりきりでオーラをコピーさせて引き付けることもできない。

 

 ヒノキは必死に、一週間前にエーテルパラダイスで見た資料の記憶をたぐった。

 

(確か、電気を喰うとか書いてあったっけ。)

 

「シル!」

 

 ヒノキはシルヴァディを呼び寄せると、そのディスクを入れ替えた。すると、土色のとさかが今度は黄色く輝くと共に、身体の周りを軽く電気が弾けた。

 

「シル!けしかけて、あいつの気を引き付けるんだ!」

 

 電気をまといながら周囲を跳び回るシルヴァディに、ライトニングは確かに食指を動かせた。が、それは五本のうちの一本のみの追跡であり、支柱の一本以外の残り三本の腕は、依然として執拗にアナベルを追い回している。

 

「くっ・・!ボーマンダ、はかいこうせん!」

 

 彼女のボーマンダがはかいこうせんを放ったと同時に、ライトニングは腕から電気の粒子のシャワーが吹き出し、そのはかいこうせんを丸々電気エネルギーに換えて取り込んでしまった。そして、得たばかりのその強大なエネルギーを雷に変え、致命的な一撃としてボーマンダへと落とした。

 

「ボーマンダ、戻って!・・・あっ!!」

 

 アナベルの短い悲鳴が響いた。ヒノキがそちらを振り向くと、そのケーブルの束のようなライトニングの腕が、守る者のいなくなった彼女をついに捕らえたところであった。

 

「ボス!!」

 

 しゃあねえな、とヒノキは帽子のつばを引き上げた。力押しは好きではないが、もはやそんな事を言っている場合ではない。

 

「シル!交替だ!」

 

 ヒノキの指示に、シルヴァディがライトニングの方からこちらへ向かって戻ってきた。そのすれ違いざまに、相手の戦意を削ぐ『すてぜりふ』を残して。

 

「リー!久々に行くぜ!!」

 

 ヒノキはシルヴァディと入れ替えにリザードンを繰り出すと、シャツの胸ポケット越しに、そこにあるキーストーンに触れた。

 たちまち光を放ち始めたそれは、リザードンのもつメガストーンと反応し、青銅色の身体に深紅の翼を持つメガリザードンXへとメガシンカさせた。

 

「『ドラゴンクロー』!」

 

 爆発的な力を得たメガリザードンの爪が、アナベルを捕らえた腕をその半ばほどから一撃のもとに斬り落とした。

 切り口からは血の代わりに電気が迸り、骨の代わりに太い導線のようなものが覗いている。

 

「ボス!大丈夫か!?」

 

 ヒノキが身体が痺れて起き上がれない彼女に駆け寄ろうとした、その時だった。

 

「ヒノキ!こちらに来ては──!」

 

 いけない、と彼女が言い終わらない内に、不気味な長く太い影が頭上からヒノキの全身を捕らえた。

 

「!?」

 

 彼がはっと顔を上げた時にはすでに遅く、その黒い触手は自分に向かって落ちてくる最中であった。

 

「!やべ・・・」

 

 もはや腕で顔を庇う間もない、その瞬間。

 流星のごとく現れた何かが両者の間に割って入り、直後にすさまじい音と共にライトニングの腕が弾き返された。

 

「お前は・・・!」

 

 ヒノキは流れ星の正体を確かめた。

 そこには宝石の原石のような姿をした一体のポケモンが浮かんでおり、小さなかわいらしい姿に見合わない、強靭なリフレクターで彼を守っていた。

 

「やれやれ。」

 

 ヒノキが反射的に身をすくめてしまう、聞き覚えのある女性の声。それが、応援部隊の到着の合図だった。

 声の方を振り返ると、そこにはライチを先頭に、アーカラ島のキャプテンのマオ、カキ、スイレンの姿があった。

 

「メレシー、よくやった。スイレンは消火、マオはアナベルの介抱にあたって!カキ!」

 

 ライチのてきぱきとした指示に、青と緑の髪の二人の少女がそれぞれの方角へ走り、カキと呼ばれた半裸の色黒の青年が一歩前へ進み出た。

 

「はい。ガラガラ!」

 

 ほのおタイプの使い手であるカキが、ガラガラを繰り出した。

 それは、手にしたホネの両端に妖しい火の玉を宿した、ヒノキにはなじみのうすい姿──すなわち、アローラのすがたのガラガラであった。

 

「!おい!そいつはじめんタイプじゃないんだろ?あいつの電撃はー」

 

 ハンパじゃないぞと言おうとしたヒノキに、カキは自信ありげに白い歯を見せて笑った。

 

「大丈夫です。任せてください。」

 

 やがてライトニングも真っ向から突っ込んでくるカキのアローラガラガラに気付き、強烈なほうでんを放った。しかし、ガラガラは全く怖れる様子がない。それどころか、数万ボルトになろうかというほうでんを自らもろに浴びたのだ。

 

「そうか、『ひらいしん』か!」

 

 全く電撃の影響を受けることなく動き回るガラガラを見て、ヒノキも理解した。

 

「ええ。これでライトニングの電撃は無効化できるはずです。」

 

 一方のライトニングは放つ電気が悉くガラガラに吸い寄せられるにも関わらず、彼が全くの平気であることに混乱し、躍起になっているようであった。

 そうして電力を浪費し続ける内に、やがて限界が見え始めた。

 

「さあ、今のうちだよ。ここからはあんたたちの仕事だ。」

 

 ライチの言葉にヒノキははっと我に返り、急いでリザードンに指示を出した。

 

「リー!もう一度、ドラゴンクローだ!」

 

 まるで開口した竜のようなメガリザードンの三本の爪が今度はライトニングの足元の土をえぐり、その4メートル近い身体を宙へとすくい上げた。

 

「かーらーの・・」

 

 ヒノキが拳を握ってサインを送ると、その口から吹き出ているのと同じ青い炎がメガリザードンの全身を包み込んだ。

 

「フレアドライブ!!」

 

 すでに落下しつつあったライトニングを、巨大な青い火の玉となって飛び上がったメガリザードンが真下からさらに突き上げる。

 

「ガラガラ、頼むぜ!」

 

 ヒノキが振りかぶってガラガラへとウルトラボールを投げると、彼はバッターよろしく、手にしたホネでそれを宙空で炎上しているライトニングにヒットさせた。

 そして落ちてきたライトニング入りのウルトラボールをカキが無事キャッチしたところに、ゲッコウガと共に消火を終えたスイレン、そしてアナベルの痺れを癒していたマオが、彼女に肩を貸しながら戻ってきた。

 

「大丈夫?なんだか限界みたいに見えるけど。」

 

 もはや立っているのもぎりぎりという様子のアナベルを見て、ライチが眉をしかめた。

 

「うん・・・キュワワーのアロマセラピーで痺れは取れたと思うけど、ケガや疲労はそのままだから。早く、ちゃんと病院に行った方がー」

 

 心配そうにライチにそう告げるマオにアナベルは首を振り、彼女の肩から離れた。

 

「ありがとう。でも、心配には及びませんから。」

 

 そして、全員の方へ向き直った。呼吸を整えて笑顔を作るのに、少し時間がかかった。

 

「みなさん、助かりました。おかげで、こうして三種類目のUBを保護することができました。本当に──」

 

 ありがとうございました。

 おそらくはそう言おうとしたのだろう。

 しかしその先は言葉になることなく、膝を折って崩れるように倒れた彼女の胸に留まった。

 

「ちょっと、大丈夫!?」

 

「おいボス!しっかりしろ!!」

 

「とにかく、近くの休めるところへ運びな!医者はそこに呼べばいい!」

 

 そしてにわかに場の空気が慌ただしくなり、アナベルは自分の身体が誰かの手によって何かの背に乗せられ、どこかへ運ばれていくのを漠然と理解した。

 

──また、みんなに迷惑かけちゃうな。

 

 薄れゆく意識の中で彼女がなおも気にしていたのは、そんな事だった。

 

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