ポケットモンスターSM Episode Lila   作:2936

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【ここまでのあらすじ】
 深夜のシェードジャングルで発生した、謎の森林火災。その原因は、UBライトニングことデンジュモクが引き起こした落雷であった。
 翌日の昼、再び姿を現したライトニングと対峙したヒノキ達は駆けつけたライチと三人のキャプテンの協力によってその捕獲に成功するが、戦いの後、ライトニングの標的となったアナベルが倒れてしまう。



20.Fall(フォール)

 

 目を覚ましたアナベルが最初に見たものは、白い天井とそれを楕円形にふち取る、クリーム色のベッドカーテンであった。

 

(・・・?)

 

 ベッドから身体を起こしてそっとカーテンを開けると、すぐ隣にある応接スペースで、ヒノキとハンサムが椅子に跨がってテレビを見ている。

 

「おっ、気がついたか。具合はどうだ?」

 

 彼女が目を覚ましたことに気づいたヒノキが声をかけた。

 

「ここはどこですか?私は一体、どうなったのでしょう?確か、UBライトニングと戦って、シェードジャングルにいたはずですが・・・。」

 

「ここはそのシェードジャングルの入り口のアーカラ第四ポケモンセンターです。ボスはライトニングとの戦いの後、疲労から倒れられたのですよ。」

 

 戸惑うアナベルにハンサムが説明した。

 彼の奥に見える窓の向こうの水平線には、既に夕陽が沈みかけていた。

 

「・・・そう、でしたか・・・。」

 

 そう言って彼女がうつ向いて瞳を翳らせたのを見たヒノキは、急いで明るく言った。

 

「ま、でも医者も睡眠と栄養を取れば大丈夫だって言ってたし。とりあえず、晩メシ食いに行こうぜ。」

 

「そうだな。ボスもお腹が減っているでしょう。クチナシがカンタイシティ内のシーフードレストランを予約しているそうなので、今からみんなで参りましょうぞ。」

 

 しかし彼女は、二人のその誘いを断った。

 

「・・・すみません。私は今日はこのまま、モーテルに戻って休ませてもらってもよいでしょうか。」

 

「そうですか、わかりました。では、何か軽食でも買ってー」 

 

「いえ、まだ食欲もあまりないので。お気持ちだけで十分です。お二人こそお疲れでしょうから、しっかりと栄養をつけてきてくださいね。もう少しだけ休んだら、私も八番道路のモーテルへ向かいます。」

 

 穏やかな口調だったが、その言葉は頑なな意思をはらんでいた。

 

「モーテルでいいのか?休むんなら、エーテルの自分の部屋の方がいいんだろ。ボーマンダがまだ調子悪いんなら、送ってやるよ。」

 

 しかし、彼女はヒノキのその申し出にも首を横に振った。

 

「いえ。私が倒れて戻った事が知れたら、ビッケさんが大げさに心配してしまいますから。大したこともないのに、余計な気遣いはさせたくないので。」

 

 そう言って、少し微笑んだ。

 

「・・・そうか、分かった。でもまあ、ほんとに無理はすんなよ。」

 

「ええ。ありがとうございます。」

 

 そしてハンサムとヒノキは、もう少し休みたいと言った彼女を残して部屋を後にした。

 

「やはり、だいぶお疲れのようだな。」

 

 廊下を歩きながら、ハンサムが言った。

 

「そうだな・・・。」

 

 しかしヒノキはその相づちとは裏腹に、彼女に元気がない理由は他にもあるような気がした。

 

 

 

 

 カンタイシティにあるシーフードレストラン『オーヒア・レフア』の個室では、すでにクチナシが席に着いて待っていた。

 

「なんだ、お前らだけか。リラはどうした。」

 

 当たり前のようにその名を口にするクチナシに、ヒノキの胸は思い出したかのようにちくりと痛んだ。

 

「今日は食欲もないから、もう宿に戻って休むってさ。」

 

 彼にその事を悟られないように、ヒノキは努めて何気なく言った。

 

「ふん。ならもっとしけた店にすりゃよかったな。」

 

「ひっで。オレだって、これでもアローラの平和のために日夜命がけなんだけど。」

 

 そして料理を待つ間に、ヒノキは先刻のライトニングとの戦いの一分始終を二人に話した。

 

「それにしても」

 

 話し終えたヒノキが、お通しのゆでマメをつまみながら呟いた。

 

「何なんだろうな、あいつへのあの過剰反応は。思い返せば、最初のパラサイトやこないだのスラッシュの時もそんな感じだった気がするし。ビーストは若い女に興奮するとか、そういうタチなのかな?」

 

 いやでもそれならライチのねーさんはともかくマオやスイレンにも反応するか、とヒノキがぶつぶつ言っている前で、クチナシとハンサムがひそかに目を合わせた。

 

「そりゃあ」

 

 一呼吸置いて、クチナシが答えた。

 

「あいつが『フォール』だからさ。」

 

「フォール・・・?なんだそりゃ。」

 

「簡単に言えば、UBを引き寄せる体質の人間のことだ。まるで、UBに対し『このゆびとまれ』をしているかのようにな。」

 

 ハンサムがおしぼりで手を拭きながら、簡単に説明した。

 

「そんな体質があるのかよ。先天的なやつか?」

 

 ヒノキの言葉に、ハンサムの手の動きが不意に止まった。

 

「詳しいことは、まだよく分かっていない。」

 

 それは、真実ではなかった。

 しかしヒノキは、その事に気づかない。

 

「ふーん・・。それで、あいつ自身はその事知ってんの?つーか、そんな奴をビーストと直接関わるような任務に就かせていいのかよ?」

 

 ハンサムは視線をヒノキの目から下げながら、やや険しい表情で言った。

 

「彼女自身は、自分がそのような体質であることはまだ知らない。しかし、国際警察はその事を知った上で、彼女をUB対策本部に任命した。」

 

 その言葉に、ヒノキのマメをつまむ手が止まった。

 

「・・・どういうことだよ、それ。」

 

「撒き餌だ。」

 

 クチナシが入ってきた。

 

「利用してんだよ。リラのフォールとしての体質を、バケモンどもをおびき寄せるエサとしてな。まったく、国際警察もロクなもんじゃねえ。」

 

 一瞬、ヒノキの胸に国際警察に対する激しい憤りが渦巻いた。しかし、それがまさにライトニングとの戦いで自分がシルヴァディにさせたのと同じ事だと気付くと、何も言えなくなってしまった。

 

「その見方は半分は正しいが半分は誤りだ。彼女がこの任務に就いたのは、自らの意志だ。」

 

 ハンサムはそう反論したが、彼自身もまた、その事に完全に納得している訳ではないようだった。

 

「にしたって、本当に真っ当な組織だったらそんな志願は許可しねえだろ。あの上層部の連中のことだ、むしろ需要と供給が一致して喜んだくらいだろうよ。」

 

 そう言ってクチナシがぐいとあおるようにグラスの水を飲み干した時、店員が料理を運んできたために話は中座した。

 

「お待たせしましたぁ!こちら、バクガメスの甲羅からとった出汁で煮込んだ、当店自慢のバクガメスープカレーになります。」

 

「あ、オレです。」

 

 ヒノキが手を上げると、独特の形をした土色の鉢が目の前に置かれた。中では、メニューの写真以上に赤みの強いカレーがまだぐつぐつと音を立てている。まるで、火山の火口付近からマグマが煮えたぎるのを見ているようだ。

 

 店員がそれぞれの席にそれぞれの注文の品を置いて行ってしまうと、ヒノキは話を再開しようとした。が、一口すすったカレーのあまりの辛さに、言おうとした事を忘れてむせ込んでしまった。

 

「かっら。」

 

 涙目でゆっくりと水を口に含む内に、彼はあることに気付いた。

 

「ここ、シーフードレストランだよな?バクガメスってたしかー」

 

「細けえ事は気にすんな。」

 

 自分の頼んだヤドンのしっぽのみそ煮込みに取りかかりながら、クチナシが簡単に答えた。

 

 

 

 

「おっちゃん、ごちそうさま。おかげでだいぶましになったし、そろそろ行くよ。」

 

 カウンターの向こう側で洗い物をしているマスターへそう声をかけると、ヒノキは床に据え付けられた丸椅子から立ち上がった。

 

「それはよかった。ちなみに、あのバクガメスープカレーは別名アーカラカレーとも呼ばれてるって、知ってたかい?」

 

「いんや、知らない。なんで?」

 

「食べたら誰でも、『ああ、から!』って言っちゃうからさ。」

 

「んだよそれ、しょーもねえ。ちなみにオレは言ってないからな。」

 

「はっはっは。でも、これでばっちり舌も冷えただろう?」

 

 レストランでの食事後、クチナシ達と別れたヒノキは、一人カンタイシティにあるポケモンセンター内のカフェを訪れていた。バクガメスープカレーによる口のマヒなおしには、カフェの裏メニューであるアマカジミルクが効くらしいとハンサムに教えてもらったからだ。

 会計を済ませて店を出ようとしたヒノキの目に、ふとレジ下のショーウインドーのカラフルなフルーツサンドイッチが目に止まった。

 

──あいつ、何か食ったかな。

 

 いくら食欲がないといっても、病み上がりの身体で何も食べないのも良くないだろう。

 

「おっちゃんごめん、やっぱこのサンドイッチもテイクアウトで用意してもらっていい?あと、パイルジュースもひとつ。」

 

 もし本当に食べられなければ、手持ちのカビゴンにでもやればいい。

 

「ああ、かまわないよ。夜食かい?」

 

「オレのじゃないけどね。」

 

 そしてヒノキは彼女のためのその夜食を携え、八番道路のモーテルへと飛んだ。

 

 

 

 

 モーテルに着いたヒノキは、彼女の名義で三ヶ月丸々借りきっている二番目の部屋の扉を控え目にノックした。しかし、中からの反応はない。

 

(ほんとに寝たのかな?)

 

 再び、今度は少し強めにノックしてみた。が、やはり扉の向こうは静まり返ったままだ。

 

(ドアにかけとくか?いやでもサンドイッチだしな。)

 

 すぐに食べないのなら冷蔵庫に入れて置いた方がいい。かといって、彼女の任務用ーすなわち緊急用PHSにかけて起こすのも、自身のライチュウのねんりきで鍵を開けて中の冷蔵庫に入れに行くのもためらわれる。

 どうしたものかと扉の前でヒノキが思案していると、右の方から声が飛んできた。

 

「あの。そちらのお客さんでしたら、まだお戻りじゃないですよ。」

 

 声の主は、フロントから身を乗り出した受付の中年女性だった。

 

「本当に?三時間くらい前に、疲れたからここに戻って休むって言ってたんだけど。まだ一度も戻ってないの?」

 

「ええ。カギもずっとここにありますから。ほら。」

 

 彼女が振りかざす目の前の部屋の鍵を見るやいなや、ヒノキは携帯を取り出し、30メートル先のアーカラ第四ポケモンセンターへ問い合わせた。

 

「あの、すいません。今日、人間用の救護室を使わせてもらった国際警察の者の連れなんですけど。まだそっちで休ませてもらってるんですかね?」

 

 電話番はヒノキ達がいた時と同じ職員であるらしく、それだけで事情を察してくれた。

 

「ああ、紫の長い髪の女性の方ですね。あの方なら、皆さんが出られた30分ほど後に帰られましたよ。」

 

「・・・なるほど。分かりました、ありがとうございます。」

 

 電話を切ったヒノキは、彼女の行きそうな場所について、頭をフル回転させた。

 別れる前のやり取りから考えて、エーテルパラダイスに戻った可能性はないだろう。しかし、ひとりで食事に行ったというのもピンと来ない。こういう時はー。

 

「ロトム!アローラ!!」

 

 ヒノキが背中のリュックでスリープしていた図鑑(ロトム)にそう呼びかけ、起動を促すと、たちまち赤いボディが元気よく飛び出してきた。

 

「ヒノキ、アローラ!ご用件は何だロか?」

 

「ボスのピッチのGPSから、現在地を割り出してくれ。」

 

「おやすいご用ロト!」

 

 最新モデルだけあって、ロトム図鑑にはポケモン図鑑以外にも様々な機能が搭載されており、このGPS機能もそのうちのひとつだ。

 そうしてロトムが示した検索結果に従い、ヒノキはポニ島へと向かった。

 

 

 

 

 アローラ第四の島、ポニ島。

 その面積の実に95%が未開地であるという事実が示す通り、アローラ随一の野生ポケモンの楽園である。特に島の中央に広がる荒野は、好戦的でレベルの高いポケモン達の棲みかであることから、古くから腕に自信のあるアローラトレーナー達の修行の場として知られている。

 そんな「ポニのこうや」で、この夜もまた、四体の野生ポケモンが一人のトレーナーとそのポケモンを月明かりの下に囲んでいた。

 

 最初に突っ込んできたのは、正面のケンタロスであった。

 

『ゴーストダイブ!』

 

 アナベルのその指示に、ムウマージは自身の影へと潜んだ。勢い余ったケンタロスは、そのままムウマージの背後にいたオコリザルへ、全力の『しねんのずつき』を叩き込んでしまった。

 

『ムギー!!!!』

 

 正面からの不意打ちに吹っ飛ばされたオコリザルは怒り狂った。それも、あたりどころが悪かったらしく、とくせいの『いかりのつぼ』が発動したらしい。猛然とケンタロスへ飛びかかると、極限まで高まった攻撃力での『クロスチョップ』によって、自分の倍以上の重さをもつ暴れ牛を一撃の元に葬り去った。しかし、その怒りはまだ収まらない。

 

「ムウマージ!『おどろかす』!」

 

 その指示と共に、ムウマージがオコリザルの影から現れ、背後からユーモラスな鳴き声と妖しい光の不意打ちを食らわせた。

 文字通り驚いたオコリザルは、怒り心頭で次のターゲットをムウマージに定めた。

 

「しっかり引き付けて!もう一度『ゴーストダイブ』!」

 

 ムウマージが再びラッタの前で自身の影へと消えた。

 すると、まるで先ほどのケンタロスのように勢い余ったオコリザルはラッタへ『げきりん』を食らわせてしまった。

 

(これで、二匹。)

 

 オコリザルは反撃の余裕もなく倒れたラッタの前で跳びはねながら勝利の雄叫びをあげていた。が、その隙だらけの背中を、空中の静観者は見逃さなかった。

 

『フギッ・・・!?』

 

 見えない空気の刃が、一瞬のうちにオコリザルを仕留めた。バルジーナの放った『エアスラッシュ』が急所に決まったのだ。

 

 やがて、バルジーナが気絶したオコリザルを連れ去ろうと降下してきた。

 それが、この戦闘の最後のターンだった。

 

『マジカルシャイン!』

 

 倒れているオコリザルの影から現れたムウマージが呪文を唱えると、バルジーナの周りで無数の不思議な光が弾けた。全ての光が弾けてしまうと、その大きな翼の持ち主は無言のまま力なく地上に落ち、動かなくなった。

 

 やがて戻ってきたムウマージが、魔法使いの帽子のような頭をアナベルに傾けてきた。大好きな主人に、がんばりを褒めてもらうためだ。

 

「ありがとう、ムウマージ。お疲れさまでした。さあ、戻って。」

 

 わずかながら周囲の空間と感触の違うその気体を撫でてやった後、アナベルはムウマージをボールに戻した。

 

──ふぅ。

 

 額の汗を拭い、一息つくように彼女がため息をついたその時だった。

 

「よお。今日はもう休むんじゃなかったのか。」

 

 背後からの声に、アナベルの肩がびくりと揺れた。

 

「・・・もう、良くなったので。」

 

 背を向けたまま答えた彼女に、今度はヒノキが鼻でため息をついた。

 休んでもいないのにか、と呟く代わりに。

 

「別に鍛えるのがムダだとは言わねえけどさ」

 

 よっこらせと近くの岩に腰かけながら、彼は続けた。

 

「それだけじゃ望む成果は得られないと思うぜ、オレは。」

 

 少しの沈黙があり、その後に彼女が口を開いた。

 

「・・・前回のスラッシュの時も、今回のライトニングも。私は捕獲はおろか、自分の身を守ることさえままならなかった。」

 

 その言葉には歪な抑揚があり、ところどころ震えていた。

 

「自分の無力さが悔しくて、不甲斐なさが情けない。」

 

 絞り出すような一言だった。

 

 

──やっぱり、あいつだ。

 

 何度も短く鼻をすすりながら目を拭うその後ろ姿に、ヒノキは「彼女」を思わずにはいられなかった。

 真面目で、責任感が強くて、そのために他人を頼るのが下手で。

 いつも自分の背丈よりずっと高い壁を一人で必死に越えようとしていた。そして、今も。

 

「前にさ」

 

 ヒノキは静かに口を開いた。

 

「オレの最初の相棒だったユンゲラーを預けた友達がいるって言ったじゃん。そいつが昔、オレに言った事で、今でも忘れられない言葉があるんだ。言葉っていうか、質問かな。何だか分かるか?」

 

「・・・?」

 

 そこでアナベルはようやく振り返り、なおも涙の溜まっている目の端に指をやりながら、首を振った。

 

「『きみは何のために戦うんだ?』って。すげーこと聞くだろ?当時8歳の子どもがさ。」

 

 ヒノキは少し笑ってから続けた。

 

「その時はまあオレもガキだったし、フツーに楽しいからみたいな感じで答えたんだけど。でも、今の何でも屋の仕事をするようになってからは、答えのない戦いみたいなのが多くなってさ。進むべき道を見失いそうになる事が結構あるんだけど、そんな時にいつもこの言葉がめざましビンタになってくれるんだよ。」

 

「何の、ために・・・。」

 

 アナベルがそう呟くと、ヒノキは頷いた。

 

「周りに迷惑かけたくないとか、自分は責任者だからとかっていうあんたの気持ちも分かる。だけど、今回の戦いの目的はあんたが強くなることじゃなくて、ビースト達の保護だろ?」

 

 それは、今の彼女には紛れもない急所だった。波立つ心をぐっと抑えて、アナベルは認めた。

 

「・・・はい。」

 

「一対一の勝負なら、確かに自分の実力が全てだ。でも、今回はそうじゃない。それぞれの強みを持ったキャプテンや島ボスや守り神達が味方なんだ。自分一人でできないなら、誰かを巻き込んで手伝ってもらえばいいんだよ。」

 

「誰かを巻き込んで・・・。」

 

 その言葉で、アナベルはカプ・コケコを始めとするメレメレ島のポケモン達の力を借りて保護に成功したビューティー戦を思い出した。

 

「そ。とはいえ、それをするにも他人を頼るのが下手なあんたにはやっぱり訓練が必要だ。そしてオレはそんなあんたにぴったりの訓練方法(メニュー)を知っている。気になるだろ?」

 

 迷いもわだかまりも捨てて、アナベルは素直に頷いた。

 

「それはだな」

 

 ヒノキはもったいぶるように言葉を切ってから、ゆっくりと言った。

 

「『四つの島を巡って、周りの人間やポケモン達と助け合いながら、自分の限界を超えていく』。」

 

 その言葉に、彼女は目を見開いた。

 

「それって・・・」

 

「そう、いわゆる島めぐりだ。もっとも、ハンコはもらえないけどな。あ、ちなみにライバルはオレだから、よろしく。」

 

「あなたが・・・?」

 

「ああ。実はオレもアローラに来た次の日に、ククイ博士に言われたんだ。誰かの力を借りることは決して弱さじゃないって。多分、そういう言葉が必要なように見えたんだろうな。」

 

 そう言って、ヒノキはにっと笑った。

 

「つまりこの任務は、実はオレたちの23歳の島めぐりなんだよ。」

 

 彼女に言葉はなかった。

 しかし、まるで夜が明けるように少しずつ明るくなっていく表情が、その答えだった。

 

「そうと決まれば、だ。」

 

 そう言ってヒノキは座っていた岩から飛び降りると、提げていたカフェの袋を手渡した。

 

「腹が減っては試練はできないからな。これ、オレが夜食に食おうと思って買ったけど、やっぱ太るからあんたにやるよ。まだ食欲がないんなら、カビゴンにでもやってくれたらいいさ。」

 

 しかし袋の中を見たアナベルは、すぐにそれが(てれかくし)だと察した。

 今朝の食事の席で、自分が酸味の後に来る辛味が好きだと言ったパイルジュース。ヒノキはそれを苦手だと言っていた。

 

「・・・いえ、あの子は最近少し食べ過ぎなので。これは私が頂きます。ありがとう。」

 

「なんだそりゃ。カビゴンに食い過ぎない時があるのかよ。」

 

 そう言ってヒノキが笑うと、彼女も笑った。

 その顔に、もう涙は見えなかった。

 

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