ポケットモンスターSM Episode Lila 作:2936
ピカブイと共に家にやって来たswitchの小型かつ高性能ぶりに、お前は風間さんか!とつっこまずにはいられない今日この頃です。(Wトリガー連載再開記念つぶやき)
それでは、第三章【試練】開始です。
22.事件[前]
メモリアルヒルでの二体目のライトニングとの戦いの後、アローラではしばらくUBの出現が途絶え、UB対策チームにとっても平穏な日々が続いていた。
ヒノキがその夢を見たのは、そんな時期のある休日の午後、オハナ牧場の自室で昼寝をしていた時の事であった。
──さあ、ヒノ。もういいぞ。目を開けてごらん。
その兄の言葉に、この日七歳の誕生日を迎えた少年の期待と興奮は、最高潮に達していた。何しろ、この目を開けた瞬間に、自分の生まれて初めての
(オレの、初めてのポケモン・・・!!!)
小さな胸を爆発しそうなほどに高鳴らせながら、彼は固くつむった両目を一気に開けた。
そして、そのまま数回瞬きをした。
「・・・・・」
いかにも非力そうな、ひょろりとした黄色い身体。そのわりに頭は大きく、尾は長い。ほとんどない肩は防具のようなもので被われている。
そんな、動物のような姿で人間のように座っているその不思議な生き物は、新たな主人を目の前にしても何の反応も示さなかった。というより、その目はそもそも開いていなかった。
「・・・こいつ、寝てるんだけど。」
それが、生まれて初めて自分のポケモンを目にしたヒノキ・カイジュ少年の第一声だった。胸の高鳴りは、しゃっくりみたいにいつの間にか消えていた。
「ははは。そりゃあ、こいつは一日18時間眠らないといけないからな。でも、眠っていても危険が迫れば逃げるし、腹が減ったらメシを食うぞ。何しろ、エスパータイプだからな。」
彼にそのポケモンを贈った四歳上の兄は、そう言って朗らかに笑った。
「ふーん。変なやつ・・・。」
そう呟いた少年は改めてその寝顔をまじまじと見つめ、そっと頭を撫でてみた。相変わらず気持ち良さそうに居眠っており、その目が開く気配はない。が、ぴょこんと突き出た三角の耳は、彼の手の動きに合わせてひょこひょこと動き、その動きが何ともおもしろかわいく、そこで少年は初めて笑った。
「なあ、マキ。こいつ、名前なんて言うんだっけ?」
少年は兄の方を振り向いて訊ねた。
「ねんりきポケモンのケーシィだ。初めてトレーナーになるお前にぴったりのポケモンだよ。」
そう言った兄の顔は、半分が歪な空白となっていた。
まるで、何者かがその辺りを空間ごとかじってしまったかのように。
そこで目覚めたヒノキは、弾かれたように飛び起きた。そして、ベッドに持たれてむにゃむにゃと口を動かすスリープの顔を両手で引っ掴んだ。
「こら!今の夢は──!!」
しかし、そう言いかけてすぐ、彼はその手を緩めた。
(・・・もう、その方がいい、か。)
それからしばらくの間、彼はベッドの上に座ったまま何かを考えていた。が、やがて何かを決心したかのようにきびきびと身支度を整えると、リザードンの背に乗ってエーテルパラダイスへと向かった。
◇
同じの日の同じ頃。
やはり休日であったリラは、一人ハウオリシティのショッピングエリアを歩いていた。特に買うものがある訳でもない彼女がそんな場所を訪れていた理由は、前日のヒノキとのやりとりにある。
「そういやお前、休みの日って何してんの? 」
明日はUBの出現がない限りは、共に休日である。そこでヒノキは、ふと興味本位で彼女にそんなことを訊いてみたのだ。
「そうですね・・・溜まったデスクワークを片付けたり、パラダイスの保護区のポケモン達を見回ったり、あ、あと職員の方達にバトルの稽古をつけてほしいと頼まれれば、相手をしたりもしますよ。」
それが世間一般の休日の過ごし方だろうといわんばかりにごく自然に答えた彼女に、ヒノキは驚き、そして呆れた。
「それが23歳の女の休日か?もっとこう、年相応の過ごし方ってのがあるだろ。例えばハウオリシティでショッピングとかさ。給料だって別に悪くないんだろ?」
「ええ、でも生活に必要なものは頼めばみんな国際警察から支給してもらえますし、個人的に特に欲しいと思う物もないので・・・」
思えば、彼女は失踪前のタワータイクーン時代にも同じような事を言っていた。必要な物はフロンティアで用意してもらえるし、欲しい物は別にないから買い物など行ったことがない──と。
そんなところも昔のままなのかとヒノキはつくづくあきれたが、もちろん彼女はそんなことは知らない。
「いやいや、そこは別に欲しいものとかなくても、とりあえず街に出るんだよ。そんであの服かわいいとか、あのおばさん連れてるグランブルにそっくりだなとか、そんなの見てるだけでも結構リフレッシュできるもんだ。それに、思いがけず欲しくなるような物が見つかる時もあるからな。いわゆる衝動買いってやつだ。」
「とりあえず街に、ですか・・・。」
そこで試しに、とりあえず街に繰り出してみたという訳だ。
◇
土曜の昼下がりという事もあり、アローラ屈指のショッピングスポットはその集客力の本領を存分に発揮していた。
「ねー、あれ、買う人いると思う?」
「思った!絶対SHIRONAだから似合うやつだよね。客寄せ用じゃない?」
ある高級ブティックの前で、同年代と思われる女の子の二人連れが、ショーウインドーに展示されている水着を指してそんなことを話しているのが聞こえた。
(どれどれ。)
興味が湧いたリラは、二人が去った後、そのショーウインドーの前に立った。ガラスの向こうには、艶かしい黒のホルターネック・ビキニに絶妙な丈と角度でパレオを合わせたマネキンが飾られており、足元にはその一式を着用したモデルが写った雑誌のグラビアページが開かれている。
その、腰まで届く金髪の美しいモデルが先ほどの二人の言っていたSHIRONAなのかは分からないが、そのグラビアを見る限りは、確かにこれら全ては彼女にあつらえて作られたオーダーメイド品としか思えない。
──と、リラがそんな事を考えていた時だった。
「アローラ。よければこちら、ご試着もできますよ。」
全身を店の服でコーディネートした女性が、にこやかに彼女に声をかけた。
「あっ、いえ!少し見ていただけですので・・・ごめんなさい。」
そう言って、この日もスーツにネクタイを締めていたリラは、慌ててその場を離れた。
緊急の呼び出しがある場合に備えて、彼女は休日でも大概この姿をしている。その為、私服ですら滅多に着る機会がないのに、あんな大胆な水着なんてもっての他だ。
しかし、かと言って彼女はその事に不満があるわけではない。むしろこういう格好の方が、この店に並んでいるようなお洒落で女性的な服よりも性に合っている。そんなことをヒノキに言えば、また呆れられるだろうか。
(やっぱり帰ろう。)
こういう華やかな場所は、どうも苦手だ。
そう思って、ショッピングエリアを抜けようとした時であった。
「・・・・」
彼女の足が、ある小さな土産物店の軒先で不意に止まった。
◇
昨日のヒノキの言葉を思いながら、目に止まったその品を片手にリラが店へ入ると、カウンターで帳簿をつけていた中年の婦人が顔を上げて微笑みかけた。
「はい、アローラ。」
「あの、すみません。これって──」
そう言ってリラは店頭に並んでいた、コルクがし製のストラップのようなものを見せた。
「ああ、『しまめぐりのあかし』ですね。こんなところで売っていたら、おみやげ用のレプリカだと思うでしょう?でも、ちゃんと守り神様たちの祭壇に祀って力を肖った、本物なんですよ。」
その言葉に、突然浮かんだ楽しいアイデアで胸が弾み出すのを感じながら、リラはそのふたつの島めぐりのあかしの購入を進めた。
「では、このふたつを頂いてもよろしいでしょうか。あ、包装は一緒で構いませんので。」
「かしこまりました。では、小分け用の袋をおつけしておきましょうか?」
「いえ、それも自分で用意しようと思います。」
「そうですか。それでは、はい、アローラ。」
「・・・そこも、アローラなんですか?」
初めて聞いたアローラの使い方に、リラは思わず聞き返してしまった。
「はい。アローラという言葉が持つ意味は、何も『こんにちは』だけではないのですよ。『ようこそ』に『ありがとう』、『どういたしまして』に『さようなら』。それに──」
そこで彼女は言葉を切ると、同じ袋に入れたふたつの島めぐりのあかしを差し出して、ふふ、と意味ありげに笑った。
「?」
◇
リラが買い物を済ませてエーテルパラダイスの自室に戻ったのは、青藍の空に星の瞬きが見え始める、宵の口の事であった。
「ただいま。遅くなってごめんね。今日はゆっくり瞑想できた?」
そう言って、出迎えたフーディンを軽く抱きしめた。休日に一人静かな場所で瞑想をするのは、彼女のフーディンの大切な習慣である。
そのフーディンは彼女の腕の外から右腕を挙げると、自分より少しだけ背の高い彼女の額に、そっと手のスプーンを当てた。
──明日の12時。ヴェラ火山公園に、パラサイト。
「!」
フーディンからその未来予知の報せを受けたリラは、彼から腕をほどき、上着の胸のポケットから任務用のPHSを取り出した。
「ありがとう。すぐにハンサムさんとヒノキに知らせますね。」
彼女がその名を口にした瞬間、フーディンの耳がぴくりと動いた。しかし、既に電話をかけていた彼女は、彼のその僅かな動揺に気が付かなかった。
◇
ハンサムにはすぐに連絡がついた。しかし、ヒノキは何度PHSにかけても応じない。PHSを忘れて出かけているのかとプライベートの携帯の方にも連絡してみたが、結果は変わらなかった。
──二台とも忘れて出かけることなどあるだろうか。
その可能性も絶対にないとは言えない。が、それならばむしろ、電話は持っているが何らかの事情で出ない、あるいは出ることができないと考える方が自然だ。
「ボーマンダ!」
宿舎の外へ出た彼女は、腰からハイパーボールをひとつ外し、今しがた自分をここまで運んでくれたばかりの飛竜を繰り出した。
「ごめんなさい。もう一度、アローラまで飛んでくれる?」
漠然とした不安に駆られた彼女は、ヒノキが逗留しているアーカラ島のオハナ牧場を目指し、再びアローラへと飛び立った。
◇
「飲みに行って、帰ってこない?」
牧場を訪れたリラは、牧場主の孫のナギサから聞いたその事実に、不安がにわかに緊張感を帯びるのを感じた。
「・・・ヒノキが?」
「うん・・・。なんか、夕方にどこかから帰ってきてすぐ、じーちゃんにこの辺で酒が飲める店はないかって聞いてて。それで、じーちゃんはバトルロイヤルの周りにはそういう店が多いって教えてたから、多分その辺りにいると思うんだけど・・・。」
そこでナギサは言葉を切ると、気になる言葉を付け加えた。
「なんか、元気なかったんだ。」
そう話す彼もまた、心配からいつもの元気を失っていた。彼が居候のヒノキを兄のように慕い、なついていることはリラもよく知っている。
「大丈夫。私が今からそこに行って、探して来ますから。あなたが心配していると知れば、きっとすぐ戻ってきますよ。」
ナギサの頭をなでながら、彼女は努めて明るくそう言った。それは彼だけでなく、自分自身にもまたそうであると信じ込ませる為であった。
◇
牧場からロイヤルアベニューへとつづく六番道路を足早に歩きながら、リラは契約の際にヒノキと取り決めた、あるルールを思い返していた。
「・・・それから、お酒に関してですが。できれば任務期間中は控えて頂きたいのですが、強制はできないし、したくもないので。飲む時は事前に一言連絡を頂いてもいいでしょうか?なるべく配慮はしますので。」
「了解。まあ、多分ないと思うけどな。オレあんま強くねーし、そんな飲みたいとも思わないからさ。」
そう約束したのに。
ただ単に忘れてしまっただけなのだろうか?
しかし、どうも胸騒ぎがする。
そんな『むしのしらせ』めいた予感に彼女は更に歩調を早め、夜の繁華街へと急いだ。
新章の一話目で言うのも何ですが、お土産屋のアローラおばさんのくだりは頭の片隅に残しておいて頂ければ、次章にて0.5~1.5倍の効果を発揮する可能性があります。サイコウェーブ的な。