ポケットモンスターSM Episode Lila 作:2936
だんだん自分でもあやふやになってきたので、第二回レセプション日程まとめ開催です。
三日目:参加者全員によるトーナメント戦一日目(初戦のみ)
四日目:トーナメント戦二日目(午前:二回戦 午後:三回戦)
五日目:トーナメント戦三日目(午前:準決勝 午後:決勝)←今回と次回はここ
【ここまでのあらすじ】
トーナメントの準々決勝が行われているレセプション四日目の夕方、リラは自分の練習試合の映像を省みていた。
胸中の様々な思いを押さえてタイクーンとして戦う画面の中の自分と、ただのポケモントレーナーとして心のままに相棒のポケモンと戦うレセプション参加者達と差に、ヒノキに言われた「タワータイクーンのおまえには興味がない」という言葉が突き刺さるが、彼にはそれすら堪えることしかできなかった。
参加者全員によるトーナメント戦も佳境に入ったバトル・レセプション五日目の正午。
昼休みで人気のまばらなタワーを一人足早に、リラは七階のバトルフィールドへと向かっていた。
結局、ここまで一度も「彼」の試合を見ることができないまま、トーナメントの優勝者──すなわち明日の自分の対戦相手の決まるこの日を迎えてしまった。
だからこそ、午後からの決戦の舞台であるこの場に実際に臨むことで、半ば強引にでも腹を括ろうと考えたのだ。
それが、その思いがけない邂逅の経緯であった。
◇
高速エレベーターを降り、いくつかの自動ドアを通り抜けてたどり着いた、節目を告げる少し立派な闘技場。
午前に行われた準決勝が十分前に終わったばかりであり、かつ決勝の開始時刻まではまだ三時間近くもあるこの時点では、当然誰の姿もない。
はずだった。
「・・・・・」
互いの姿に気付いた二人は、すぐに目が合った。が、その後はどうすれば良いのかは、双方まったく分からない。頭が音を立てずに回転する故の沈黙が辺りを支配した。
そこには先客がいた。
彼が誰であるか、リラはもちろん知っている。
他でもない、今日、あと約三時間の後にこのフィールドに立つ予定の少年だ。
そしてそれは、ヒノキ・エニシュではなかった。
「やあ。おつかれ様。」
しばしの黙考の後、リラはこういう時は
「きみは昼食には行かないのか?決勝まではまだ約三時間もある。気合いが入っているのは良いことだけど、こういう時こそ休憩はきちんと取っておいた方がいい。」
思えば、こうして参加者と直に接するのは一昨日の
「それは分かってる。でも、
「あいつ」とはもちろん午後の決勝戦の相手、すなわちヒノキの事だ。
「・・・そうか。でも、きみだってすごい。」
世辞などではなく、リラは心からそう言った。
何しろ彼は、昨日のエニシダとの昼食の席で自分が決勝候補の筆頭として挙げたエントリーNo.62その人物なのだ。
その事を話してやると、ここまで畏縮しきっていた彼の表情が幾分緩むのが分かった。
「ありがとう」
そう言って、少年は微笑んだ。冬のよく晴れた日のような空色の髪と同じ色の瞳が、静かで思慮の深い印象を与える。
なんとなく、自分に似ているとリラは思った。
「じゃあ、今日の試合でおれは
「それは──」
リラは彼のその問いへの返事に窮した。
きみはすごい。ポケモンもよく育っている。ぼくが参加者なら、予選で最も相手にしたくないのはきみだった。
みな嘘ではない。嘘ではないのだが、その評価の比較対象にヒノキは入っていない。リラ自身が彼の戦いを見ていないからだ。
これまで接する機会のなかった挑戦者という第三者の登場によって露わになった自分の立場の重さとそれに対する意識の甘さを、彼は文字通り痛感した。
「・・・分からない、な。実際の勝負は、事前の予想を裏切ることが少なくないから。」
決して間違いではなかったが、リラはそれを目の前の少年の目を見て言うことはできなかった。それはあくまで、この塔の統治者でありながら私情から務めを怠った自身に対する憤りと恥、そして彼への罪悪感からであったが、そのような事情を知らない少年は、タイクーンのそんな様子を別の意味に捉えたらしい。
「さすがだな。そうだよな、タイクーンがどっちが勝つと思うとか、言えないよな。」
裏表のない、あくまでさっぱりとした調子であったが、そこには確かにある種のニュアンスが込もっていた。
「!ちがう、そういう訳じゃ──」
人の心の機微に敏感な彼は、とっさに自分はヒノキの試合を見ていないから、と本当のことを言おうとした。が、それは彼の慰みにならないばかりか、却って事態を混乱させる要素でしかないと判断すると、それ以上は続けられなかった。
「いいんだ。みんなも言ってるし、おれも自分でもそう思う。たぶん、勝つのはあいつの方だって。」
少年は自らその言葉を声にした。しかし、相変わらずその口調に悲観の色はなく、本当にそれでいいと考えているようだった。
「分かるんだ。おれの相棒もエスパータイプだからさ。他のやつらは、あのユンゲラーがエスパーだからあんな風にできると思ってるみたいだけど、そんな簡単なもんじゃない。あれは、本当に何にもできないところからポケモンと一緒に考えて、いちいち試して、そのたび反省して、そうして前に進んできたやつだからできるんだ。」
そこで彼は、今しがた最終調整を終えたばかりのその相棒が収まった左手のボールに目を落とした。ほんの一瞬、きゅっと寄った眉と色の変わった指先が何かを叫んでいるようだったが、すぐにまた静かな微笑を見せた。
「ジムリーダーをやってるおれの師匠がいつも言うんだ。努力に勝る超能力はないって。だからおれも毎日自分なりに頑張ってる。でも、だからこそ分かるんだ。ほら、言うだろ?ちりも積もれば山になるって。おれとあいつの山は、高さ自体は同じくらいに見える。けど、その山を作っている
リラには目の前の少年が不思議でならなかった。
そこまで決定的な差を直に感じながら、決して曇ることはないその表情が。
ここまで言う彼に、その選択肢がないことが。
「・・・そう思うなら。きみはどうしてそれでも戦うんだ?負けるために戦うとでもいうのか?」
「え?どうしてって・・・」
そんなリラの問いに、少年は目を丸くした。
が、すぐに合点がいったという風に頷いた。
「そっか。あんたはどんなやつが相手だろうと、絶対に勝つしかないもんな。」
リラを見てそう言いながら、彼は少し気遣わしげに瞳を翳らせた。それから数回瞬きをして、再び光を宿して言った。
「そりゃあもちろん、勝ち負けが全く気にならないって言えば嘘になるけど。でも、おれはとにかく自分が納得できる戦いがしたいから。それができたなら、その結果はどうであっても構わないんだ。」
衝撃が、納得を伴ってリラの腑に落ちた。
戦う者でありながら、驚くほど勝敗から解き放たれている。なぜなら彼らは、相棒と共に積み重ねた時間の中で、既に勝敗以上の価値あるものを手にしているからだ。
そしてそんな連中の名を、リラは既に知っていた。
「おれはポケモントレーナーだから。たとえどんな結果が待っているとしても、おれを信じて戦ってくれるポケモンのために逃げずに精一杯戦いたいんだ。」
ポケモントレーナー。
彼らはこの何の地位も権威もない肩書に、なんと誇りを持っているのだろう。
「やっぱり、きみはすごい。」
今度はその眩しさの為に彼から目を伏せながら、リラは呟くように洩らした。
「ぼくには、決してできないことだ。」
「え?」
再び、少年は目を丸くして目の前のタワータイクーンを見つめた。そして、言った。
「何言ってるんだよ。おれにそう思わせてくれたのは、あんたのあの練習試合だぞ?」
「え・・・?」
今度は、リラが少年に向かって目を見開く番だった。そんな彼に少年は、まああんたは戦ってたから分からなかったかもしれないけど、と前置きをした上で話し始めた。
「あのボーマンダ、途中からはっきり顔が変わったんだよ。それまであった不安とか迷いとかが、ちょうど霧と一緒に吹き飛んだみたいに消え失せてさ。本当に、驚くほど良い表情になったんだ。」
今やリラはただ少年の目を食い入るように見つめ、その言葉に聞き入っていた。
「それで思ったんだよ。トレーナーはポケモンをこんな風に変えられるんだって。だからおれも、あんな風にポケモンに自分の力を信じさせてやれるトレーナーになりたいってさ。」
──ま、でも。それでおまえがやっぱすげーやつだってのは分かったよ。
リラはふと、一昨日の朝に去り際のヒノキに言われた一言を思い出した。あの言葉にも、そうした意味が込められていたのだろうか。
なんだか胸が熱くて、心の震えが止まらない。
「だからさ。あいつとの試合でおれがそんな風に戦えてるか、また見ていてほしいんだ。」
たとえその全力が勝利には届かなかったとしても。戦いに託した思いは、見る者の胸に届くかもしれない。
「へへ・・・誰かが自分のことをちゃんと見てくれてるって、嬉しいもんだな。」
照れ笑いを浮かべながらそう言った彼の言葉と気持ちは、今のリラには分かりすぎるほどよく分かった。
「約束する」
美しいアメジストの双眸をまっすぐ少年に向けながら、リラは頷いた。
先ほどまでその胸中に霧のように立ち込めていた迷いは、嘘のように晴れていた。
勝利も敗北も、そしてその間にある、挑戦者達一人一人の思いも。この塔で繰り広げられる戦いの全てを見届け、受け入れる。自分にはその責務がある。
なぜなら自分は、このバトルタワーの
今回登場したエスパー使いの少年のイメージはスタジアム2(≒初代)のサイキッカーですが、彼自身はサイキッカーではありません。(ここ重要。詳細は次回にて)
ちなみにこのレセプション編自体は『四月は君の嘘』をモチーフとしております。
母の命に従って才能の全てをコンクールで勝つ為に費やす公正(=リラ)、そんな彼をそれぞれの思いから肯定する者、否定する者・・・うまく言えませんが、大体そんな感じです。
今回は本編が短めだったので、ちょっと余談でした。