ポケットモンスターSM Episode Lila   作:2936

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 自分でも一年かかるとは思っていませんでした。
 更新停止中も閲覧、応援して下さった皆様には心よりお礼申し上げます。
 ツッコミどころは多々あるかと思いますが、物語の体は成していると信じて第3.5章完結までの全十九話を順次発送していきたいと思います。


【前回までのあらすじ】

 元カントーリーグチャンピオンの兄を持つ八歳の少年、ヒノキは相棒のユンゲラーと共にジョウト地方のエンジュシティで暮らしていた。
 ある日、彼は青年実業家を名乗る謎の男・エニシダにポケモントレーナーとしての素質を見込まれ、ホウエン地方の離島に完成したばかりのポケモンバトル施設・バトルタワーの完成記念イベントへ招かれる。そこで出会ったのは、同じ歳にしてタワーの主を務める不思議な少年、リラであった。
 当初はあまり友好的とは言えない二人だったが、互いの働きかけにより各々が抱えていた心の燻りを解消し、別れの前日には同じポケモンを初めての相棒とする仲となる。そして、それぞれが目指す頂点に立てた時に再びバトルタワーの最上階で会おうと約束する。




それから、五年。







【過去編第二部】 約束と願い -The days she was there-
41.10年前① Current


 

 

 【六月三十日 深夜】

 

 

 ホウエン本土から南東約二百海里の洋上に位置する、アマミ群島。

 その大小五つの島々の内、最も北にあるその島の南端の岬の袂には、この地方でも指折りの古さと広さを持つ鍾乳洞が口を開けている。

 

 

 

──・・・コツ、コツ。

 

 

 

 その星霜積もり積もった祠は、この天然の迷宮を縄張りとするポケモン達ですら近寄らない洞窟最奥部に、今なおひっそりと建っていた。

 それがいつ、どうして創建されたものなのか、何が祀られているのかを知る人間達は、とうに世を去っている。

 故に、今ではこの祠にかつて自らの使命に殉じた番人(ポケモン)の慰霊以上の存在理由を見出だす者はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ギイィィィィィィィ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まるで断末魔のような音を立てながら、朽ち果てたその扉は今、一対の人の手によってゆっくりと開かれてゆく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不気味に口元を歪めて佇むその手の主が、決して届くはずのない願いを叶えるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ 

 

 

 【七月一日 朝】

 

 

 

 カイナ港を出た高速連絡船タイドリップ号は、夏の陽光が照り輝く海面を滑るように突き進んでゆく。

 その船上で、一人の若者が船内から甲板へと続く扉を抜け、潮風にボーダーシャツの裾をはためかせていた。

 

「ふあーっ、好い天気だなー!!」

 

 彼の名は、トール・カイド。

 アマミ群島の一島を大規模に開発して作られたポケモンバトルの最前線、バトルフロンティアの特別先行公開の取材の為に派遣された、ポケモンジャーナル社の新米カメラマンだ。

 

「お?」

 

 強い風にあおられながら舳先の方へと進むと、そこには先客がいた。

 片手で海と空の間のような色のデニムのワークキャップを押さえ、同じ色のデニムジャケットの裾を潮風に翻しながら、これから向かう方向の水平線を眺めている。

 そしてその傍らには、長い九本の尾を品良く丸めて同じように海を見つめる、美しいポケモンの後ろ姿があった。

 

 共にこちらに背を向けているため、彼らの表情は分からない。しかしその後ろ姿にはカメラマンの性を駆り立てる何かがあり、気が付けばシャッターを切っていた。

 

 

──パシャ。

 

 

 その音に、海を眺めていた少年とポケモンが振り向く。

 

「や、失礼。君たちの後ろ姿がなかなか良い感じだったもんで、つい。」

 

 トールが詫びると、少年は顔の前で手を振った。

 風の音で声は聞こえないが「気にするな」と言っているようだ。押さえたキャップで相変わらず表情はよく見えないが、どうやら同じ年頃らしい。

 その気さくな態度に安心したトールは、彼の元へと歩み寄る。

 

「へえ、良いカメラだな。オレもこーゆーの欲しいんだよな。プロ?」

 

 そう言って、少年はトールが首から掛けている真新しい一眼レフを興味深そうに見た。

 

「まだ駆け出しだけどね。あ、そうだ、何なら、これー」

 

 そう言ってトールは大きな肩かけカバンのポケットから名刺入れを取り出すと、そこから一枚を抜き出して少年へと渡した。

 

「僕はトール・カイド。ポケモンジャーナルホウエン支社のカメラマンで、今日の会見へは来月号のバトルフロンティア特集の取材のために派遣されたんだ。」

 

「へー。結構な大役じゃねえか。期待の新星ってやつなんだな。」

 

「はは、ちがうちがう。記者会見やブレーンへのインタビューみたいな本当に大事なところは、ちゃんとベテランのライターさんの担当(しごと)なんだ。会社で急に会見前の記念試合のチケットが手に入ったところに、暇だったのが僕だけだったもんでさ。勉強になるから行ってこいって遣わされたんだよ。もちろん、ありがたいことなんだけど。」

 

「ふうん。じゃ、言ってみりゃ経験値稼ぎってとこか。」

 

「そういうこと。ところできみは?この船に乗ってるってことは、やっぱりきみも取材関係者なんだよね?」

 

 今日の先行公開はマスコミ限定の特別な催事だ。

 従って、招待状を持たない者はカイナ港で乗船自体を断られているはずである。

 

「んー、まあ、そうっちゃそうかな。あ、でもオレは名刺とか持ってないんだ。わるいね。」

 

「構わないよ、そんなの気にしなくて。あ、でもせっかくだから、所属と名前くらい──わぁっ!!?」

 

 突然、腹の底から響くような汽笛が鳴り渡り、船が急に減速を始めたかと思うと、間もなく完全に航行を止めてしまった。

 

「な、なんだぁ!?」

 

 揺れで海に落ちないよう、二人が身体を柵に持たせかけてどうにか体勢を維持したところで、緊急放送が流れた。

 

『ご乗船中の皆様にお知らせ致します。ただいま、当船の周囲に大規模な『うずしお』が発生しております。つきましては、安全の確認が取れるまで運航の見合わせを致します。皆様には大変ご迷惑をおかけしますが、今しばらく船内でお待ち頂きますようお願い申し上げます。繰り返しますー』

 

 そこで前方を見れば、確かに竜巻が沈んでいるかのような猛烈な『うずしお』が目に入った。それもひとつではなく、ちょうど船が進退窮まる具合に大小無数のものが四方八方に点在している。

 

「うずしおだって?ジョウトのうずまき島周辺のものは聞いたことあるけど…この辺りでも起こるなんて初耳だ。」

 

 訝しがるトールに、デニムキャップの少年が目が回りそうな海面を見つめながら口を開いた。

 

「いや。自然発生のうずしおでこの勢いと数はねーよ。たぶん、こいつは──」

 

 その時、どたどたと、二人の後方にある船内からデッキへ続く扉からがたいの良い老人が駆け込んで来た。そして二人の間に割り込むと、柵から身を乗り出し、巨大な渦をいくつも巻いている海面を凝視した。

 

「はー、こりゃ弱ったな。まさか、こんな日に出くわすとは・・・」

 

 立派な白い帽子と制服、そして髭。どうやら、この船の船長らしい。そんな彼の背に、トールが控えめに声をかけた。

 

「あの、すみません。このうずしおは、一体・・・」

 

「ん?ああ、こいつはおそらく、ハンテールというポケモンの仕業だ。やつらは海中でうずしおを起こし、目を回した魚を食らう習性があるからね。そら、あそこにちらちら見えるあいつらがそうだ。」

 

 そう言って、船長は一番近い渦の周りを指した。

 確かに、白い波の切れ間から鮮やかなオレンジの斑点をもつブルーの痩身が見え隠れしている。

 

「やっぱそうか。なら、ポケモンでどうにかすることはできないかな?なんならオレも手伝うけど。」

 

 相棒の金色の耳の後ろを撫でながら、帽子の少年が提案した。が、船長は大きなため息をついて頭を振った。

 

「それがそうもいかんのだよ。ハンテールは希少種で、ここらの海一帯が特別保護区域に認定されているからな。戦闘はもちろん、捕獲なぞしようものならこっちが警察のお縄に捕まることになる。」

 

「そりゃ笑えねーな。てことは、大人しくやつらのハラがふくれるのを待つしかないってわけか。」

 

「すまないな。ハンテールは『深海のハンター』とも呼ばれるように、普段はもっとずっと深いところにいるポケモンだから、こういうことは稀なのだが。きみたちも会見に行く報道陣だろう?時間は大丈夫かい?」

 

 船長に懸念されたトールは、左手の腕時計に目をやる。

 

「そうですね。今が十時半で、開会が十三時からだから・・・ここからだと、所要時間はどれくらいになりますか?」

 

「今日はこれから少し天候が崩れるとの予報が出ている。それを考慮して、約一時間というところだな。」

 

 船長のその見立てに、帽子の少年はうーんと伸びをしながらのんびりと言った。

 

「じゃあまだ一時間半あるって訳だ。ま、そんだけありゃさすがに腹いっぱいになるだろ。あの身体じゃきっと食も細いだろうしさ。」

 

 

 

 

 同じ頃、そのバトルフロンティア。

 本日の特別公開のメイン会場であるバトルドームの控室に、空色のアロハシャツを着た男がなだれ込んできた。

 

「リラ!えらいことになった!」

 

 入り口に背を向け、丹念に相棒の髭を梳かす少年に鏡越しにそう言うと、男は手近にあったパイプ椅子を引き寄せて、どっかりと腰を降ろした。

 

「?どうかされましたか、エニシダオーナー?」

 

 男につられて慌てることもなく、リラと呼ばれたその少年は手を止め、きちんと櫛を置いてから向き直った。

 

「どうしたもこうしたも。見るんだ!」

 

 少年にエニシダと呼ばれた男は、部屋の隅の天井近くに設えられたテレビの電源を入れる。そうして画面に映ったのは、ホウエン本土とこの島をつなぐ連絡船が突如発生した渦潮に足止めを食っているという速報であった。

 

「ああ、なるほど。」

 

 しかし、その臨時放送に触れてなお、彼の落ち着きは揺るがない。その事が、却ってエニシダの焦燥感を煽り立てた。

 

「なるほどって・・・きみ、彼はこの船に乗っているんだろう!?もし、十三時からのきみと組む記念試合(デモバトル)に間に合わないなんて事があれば──」

 

「大丈夫ですよ。」

 

 そう言ってリラは再び櫛を取り、相棒のフーディンの髭をとかし始めた。そして、さらりと付け加えた。

 

「その頃には、彼はちゃんとここに居ますから。」

 

「・・・それは、『このフーディンがそう言っているから』か?」

 

 エニシダの口調には、明らかに苦々しさが含まれていた。

 無論彼はこの五年間、このフーディンの『みらいよち』が一度として外れた試しがないことを知っている。しかし、その対象が五年ぶりに会える元主人ともなれば、いくらかの私情がその精度に影響するのではないか──そのような疑念がどうしても拭い去れないのだ。

 

「そうですね。もちろん、それもありますがー」

 

 リラはもちろん、そうした雇用主の疑念とその背後にある今日の会見への思い入れの強さを知っている。

 その上で、明言した。

 

「何より、彼自身が必ず来ると言ったのなら。きっと来てくれますよ。」

 

 そう言って、若きフロンティアの頂点はにこりと笑った。

 

 

 

 

 

 

「ねえきみ。さすがにそろそろ・・・」

 

 今や大雨の降りしきる空と同じくらい表情を曇らせたトールが、デッキ前の廊下で果報を寝て待っていた少年の肩を叩いた。現在時刻は、十二時八分。

 

「そうらなあ」

 

 起こされた少年はふあああ、と巨大なあくびをした後、依然としてうずしおの渦巻く海を見て言った。

 

「あいつら、あんな歯ぁあるくせにほぼ丸飲みだから、満腹中枢が刺激されねーんだろうな。あるいはうずしおの消費カロリーがでか過ぎるか。まあなんにしろ、さすがにぼちぼち行かねーとな。オレも約束してるし。」

 

 そして、よいしょ、と腰を上げ、ふたたびデッキの方へと歩き出した。

 

「行くって・・・まさか、この嵐の中傘でもさして飛ぶ気!?」

 

 そんな彼の腹づもりが、トールにはさっぱり分からない。

 

「まさか。そんなポケモンもオレもかわいそうな事するかよ。つーかこの雨風じゃもうカサとか要らんだろ。逆に。」

 

「じゃ、どうやって・・・」

 

「決まってるだろ。傘をさす気も失せる雨となりゃ、迎えに来てもらうんだよ。」

 

 そう言って彼はデッキの庇の下まで出ると、ボールに戻していたキュウコンを再び繰り出した。

 

「で、でも。ここはまだ通信機器の電波も圏外の海域だよ?」

 

「ああ。だからこーやって、距離とか位置とかを()()()に知らせるのさ。・・・コン!」

 

 少年に『コン』と呼ばれたそのキュウコンは、大きく息を吸うと顎を天に向け、口から淡い紫色の火の玉をこしらえた。そしてそれを風船のように大きく膨らませると、船の上空目がけて打ち出した。

 

「それは・・・『おにび』?」

 

 トールはポケモントレーナーではないが、妖力を備えた炎がいくらか水に耐性のあることは知っている。

 

「ん。ま、こいつの場合はどっちかっつーとキツネ火ってやつかな。」

 

 そう答えた少年は、どことなく楽しそうであった。

 

 

 

 

「タイクーン。そろそろお願いします。」

 

 ブレーンの代表として開会の挨拶を行う自分を呼びに来たドームスタッフの言葉に、リラは頷いた。

 

「それじゃあ、ぼくはちょっと行ってくるから。」

 

 そう相棒に声をかけ、再び頭上のテレビを見上げた。

 その画面の中央に映る連絡船は、相変わらず動く気配はない。

 そしてそんな船の上空で(セント)エルモの火よろしく風雨の中に灯る不思議な炎を確認すると、フーディンの頬を少し撫でて言った。

 

「頼んだよ。」

 

 五年の歳月を共に過ごした主人の言葉に、彼はこくりと頷いた。

 

 

 

 

「・・・・」

 

 トールはもはやカメラを構えることさえ忘れ、呆気に取られていた。

 風雨の吹き荒れるデッキに突然現れた、額にうっすらと星の浮いたフーディン。それは事前に上司から渡された資料にあったフロンティアブレーンの長、タワータイクーンの無二の相棒に相違なかったからだ。そしてそんな自分を全く意に介さず、デニムキャップの少年はどこまでも自分のペースで事を運び続けている。

 

「んじゃ行くか。あ、そーだ。これ、オレの代わりに降りるときに船の人に渡しといて。海に落ちてない証拠に。」

 

 そう言って彼はジーンズのヒップポケットから自身の搭乗券を引っ張り出し、トールの手に握らせた。

 そこでようやく、トールは再び口を開くことができた。

 

「・・・きみ、本当に取材人?」

「おお、ほんとほんと。ま、ただ、強いて言うんなら──」

 

 そこでフーディンが少し顎をしゃくり、時間が迫っていることを告げる。そんな送迎者に少年は頷くと、キャップの下からにっと笑って続けた。

 

「するんじゃなくてされる方、だけどな。」

 

 んじゃ、お先。

 そう言って彼はフーディンの肩に腕を回し、消えた。

 

 

 残されたトールは、デッキでしばし呆然と雨と風に打たれていた。が、やがて我に返ると、少年から託されたくしゃくしゃのふねのチケットを広げた。

 そこには、ついに聞きそびれた彼の名が記されていた。

 

 

 

 

 開会の挨拶を終えたリラは、控え室のドアの前まで戻っていた。その向こうからは、先ほどまでは聞こえなかったはしゃぎ声がする。

 

 

──ふぅ。

 

 

 にわかに高鳴り始めた胸を深い呼吸で落ち着けると、ゆっくりと扉を開けた。

 

 

 

 

 

 同時刻のバトルドーム放送席。

 間もなく始まる記念試合(デモンストレーションバトル)の実況担当であるコゴミ・ガッソは、隣のオーナーの貧乏揺すりの激しさに辟易していた。何しろ、信頼する自分達の長の、知能指数5000の相棒が大丈夫だと言っているのだ。一体何をそんなに憂慮する必要があるというのだろう。

 

「そーんなに心配なら。オーナーが自分で出ればいんじゃないすかぁ?」

 

 くああ、とあくびながらにぼやいたその一言は、彼女としてはあくまでほんの冗談のつもりであった。

 

「!それ、それだ!!よし!コゴミ、実況(こっち)はきみに任せる!」

 

 ところが、当の雇用主はそうは捉えなかったらしい。

 

「へっっ!?ちょっと!オーナー!?・・・」

 

 放送席のある三階からスタジアムへの通用口のある地下一階への階段を駈け降りながら、エニシダはシャツの襟元に留めたインカムのマイクを口元に引き寄せ、試合を控えたタワータイクーンに呼び掛けた。

 

「リラ、私だ!いいか、試合には彼の代わりに私がサプライズという設定で出る。だからきみは、うまく話をー」

 

 しかし、リラからの応答は実に簡潔なものであった。

 

「その必要はありませんよ。」

 

「へ?」

 

「だって彼ならもう、ここにいますから。」

 

 その直後。

 ドームに響き渡る、コゴミの弾けるような実況が、彼にその事実を彼に報せた。

 

 

『おまたせしましたぁ!!それでは、我らがフロンティアブレーンのリーダー・タワータイクーンのリラと、トージョウの若きチャンピオン、ヒノキ・カイジュのコンビによるダブルバトル、開始です!!!』

 

 

 

 

 

 

「まったく。船が遅れてるからってオレまで遅刻するとは限らないっての。なあ、フーディン?」

 

 そう言いながら五年ぶりに再会した相棒と無邪気に戯れるヒノキに、エニシダはたまらず突っ込んだ。

 

「いやいや、だから普通は遅刻するに限るから!むしろきみはどうしていつも船と一緒に遅れて来ない!?」

 

 結果としてデモンストレーションバトルは何の問題もなく盛況を納めたにも関わらず、エニシダの機嫌は傾いたままであった。

 結局、試合に出ることもなければ実況に戻る事もできず、オーナーとしての最初の見せ場を完全に損ねてしまったからだ。

 

 そこに、試合後に別れたリラが五人の老若男女を引き連れて控室に戻ってきた。

 

「うぃーす、おつかれーっす!でもってはじめまして、チャンピオン!バトルフロンティアにようこそ!」

 

 コゴミのその挨拶を皮切りに、フロンティアブレーン達のヒノキへの自己紹介が始まった。

 

「私はアザミ。バトルチューブという施設で挑戦者の運を試すの。あなたはなかなか《持っていそう》だから、チューブで会えるのを楽しみにしているわ。」

 

「私はこのバトルドームを預かるヒースだ。フーディンの『ほのおのパンチ』を『もらいび』にして火力を上げたキュウコン、何というかもうあらゆる意味で熱い試合だった!ぜひ私との手合わせも熱く頼むよ!」

 

「ありがとう。オレも明日からの皆さんの施設体験、本当に楽しみにしてます。」

 

 そんな彼らの交流にエニシダはようやく機嫌を直し、満足げに眺めていた。が、やがて自身がホウエン各地から集めた精鋭が一人足りないことに気づき、その人物の名をこぼした。

 

「おや?ダツラはどうした?もう会見の十分前だぞ。」

 

「ああ、なんでも管理(バンク)システムに異常が出たとかで。試合が終わる少し前に、ファクトリーへ走って行きましたよ。」

 

 彼と特に仲の良いピラミッドキングのジンダイがそう答えた時だった。ガチャリと控室のドアが開き、赤いハンチングと白衣が目を引く男性が慌ただしく入ってきた。

 

「あ、ダツラ!ちょーど今噂してたとこだよ!ほら、こっちが例の──」

 

 コゴミがヒノキを紹介すると、ダツラと呼ばれたその男は、少し額の汗を拭ってから筋肉質の逞しい腕を差し出してきた。

 

「ああ、遠いところをよく来てくれた。おれはダツラ、ブレーンの一人でバトルファクトリーという施設と、このフロンティアのポケモン管理(バンク)システムの責任者をしている。・・・のだが、三十分ほど前から急にゲスト用のボックスに不具合が生じて、きみが試合前に預けたポケモン達が引き出せない状態になっている。今、急いで原因を調べているところだ。すまないが、もう少し時間をくれないか。」

 

「大丈夫ですよ。どうせしばらくはここに厄介になるんだし。」

 

 マスコミ対象の先行公開は今日一日限りだが、ヒノキは特別ゲストとして、そのまま明日から七つのバトル施設を視察という形で体験する予定となっている。そしてその体験記(レポート)をHPに掲載すれば、彼の本拠地(ホーム)であるカントーやジョウトからの集客につながるはず──というのがエニシダの算段であった。

 

「よし、休憩明け五分前だ!みんな、そろそろ袖へ移動しよう!それじゃヒノキくん、明日からまた頼むよ!」

 

 揃った七人のブレーン達にエニシダが声をかけると、記者会見の為に一行はぞろぞろと控え室を出ていく。

 そこで、しんがりのリラが先にこの日の役目を終えたヒノキに右手を差し出した。

 

「お疲れ様。今日は本当にありがとう。ぼくも、とても楽しー」

 

 そこで彼の言葉は途絶えた。

 ヒノキがその細い手首をぐっとつかんで、自分の方へ彼を引き寄せたためだ。そして、ふわりとした淡紫の髪から覗く小さな形の良い耳に、早口に囁いた。

 

「ちょっと、二人だけで話したいことがあるんだ。今日、どっかで時間作れるか?」

 

 突然の頼みに、リラは思わず正面からヒノキの顔を見つめる。

 そこに先ほどまでの朗らかさはなく、その内容が至って真面目な類のものであることを伝えていた。

 

「・・・あ、ああ。夜でも構わないなら・・・」

 

 リラのその返事に満足したヒノキは頷き、彼の手に十一桁の数字が並んだ紙切れを握らせて言った。

 

「オレはいつでも大丈夫だから。これ、ギアの番号な。じゃ、待ってる。」

 

 そう言って表情を元通り和らげると、後は何事もなかったかのようにキュウコンを連れて部屋を出ていった。

 

 

 

 その一連の行為が、残された「彼」の胸にどれほどの動揺をもたらしたかも知らずに。

 

 




 
ブレーン達のキャラクターは基本ポケスペ仕様です。
その為未読の方にはちょっと違和感があるかもしれませんが(特にダツラ)、スペダツラの男前ぶりに免じてご容赦ください。
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