ポケットモンスターSM Episode Lila 作:2936
結構今さらですが、
◇ :同時、あるいはちょこっと前or後(同日の範囲内)
◇ ◇ :ちょっと前or後(日付けをまたぐ)
◇ ◇ ◇ :けっこう前or後(月をまたぐ)
◇ ◇ ◇ ◇ :だいぶ前or後(年をまたぐ)
みたいな意味が実はあったりします。ほぼ感覚ですが・・・
【前回の要点】
カントー・ジョウト地方のチャンピオンとして、開業を控えたホウエン地方のバトルフロンティアを訪れたヒノキ。そこで5年ぶりに再会した友人のタワータイクーンのリラに、二人で話す機会がほしいと持ちかける。
【七月一日 夜】
昼間の雨雲が東へ流れ、日没の遅い夏の空にもようやく星が輝き始めた午後七時半。タイクーンとしてのこの日の務めを終えたリラは、ひとり島の南端の岬への道を歩いていた。
テレポートで行こうと急かす
その理由は、今から約一ヶ月前の、とある出来事にある。
◇ ◇ ◇
「くぅーっ。やっぱバトルで汗かいた後は、コレに限るねぇ~!!」
「ちょっとコゴミ。いつも言ってるけど、それじゃあ今頃ファクトリーかピラミッドで乾杯してるダツラとジンダイだよ。」
「!もー、リラこそ!いつも言ってるけど、花も恥じらう乙女をあんなむさっ苦しいオヤジ連中と一緒にしないでよー!!」
フロンティアの市街地からやや北の外れにある、島で唯一の天然温泉施設『星の湯』。月に一度のブレーン同士の総当たり
「でもさ、なんかすごいよね。」
そんなお決まりの掛け合いで遊んだ後に、不意にコゴミがぽつりと呟いた。
「え?」
「だって、その彼と一緒だったのって、五年前の一週間だけなんでしょ?そんな子どもの頃の約束守って、ほんとにチャンピオンになってまた会いに来るとか。ふつうはそーゆーのって、良い思い出で終わるよ?まあ、チャンピオンになるくらいだから、ふつうの人じゃないんだろうけど。」
今日の鍛練の後にオーナーのエニシダから発表された、一ヶ月後の公開日のデモバトルにおけるトージョウチャンピオンのゲスト参戦と施設体験。それが、彼が自分と友人であることから実現したという背景がある為、エニシダ以外はほぼ誰も知らないその経緯を、リラはこの温泉に来る道中に二人に話したのだ。
「確かに、彼はちょっと変わったところがあるかな。」
五年前、無二の相棒を自分に託して島を去っていった彼を思い出しつつ、リラは続ける。
「でも、チャンピオン自体はもともと彼の夢だったから。だからぼくとの約束のためというよりは、彼が自分の夢を叶えたという方が正しいよ。それに、これはぼくだけかも知れないけど。正直、彼とは『五年前に一週間だけ』っていう感覚じゃないんだ。だってフーディンがいつも彼のことを話してくれたから。だから、うん、何ていうか──」
そこで少し言葉を切ると、湯けむりの向こうの夜空を見上げて言った。
「この五年間も、ずっと一緒にいるみたいだった。」
そう言った彼女の白い背にコゴミの『はたく』が派手な音とともに真っ赤な手形を残したのは、その直後だった。
「いっっ・・・!!?ちょっとコゴミ、急に何!?」
「い~~なぁ!!!あ〜、あたしにもそんなカイリキーの王子様、来ないかなー!!」
「王子、様・・・?」
ひりひり痛む背中を擦りながら気になった単語を復唱するリラに、コゴミはにやにやと笑みを浮かべながら言った。
「えー?だってリラ、ここに来るまでの間もそうだったけど。彼の話してる時、ずーっと女の子の顔だったよー??」
その言葉でようやく彼女の言わんとしている事を理解したリラは、思わず周囲に鏡を探した。が、ここは露天風呂だ。
「ぼ、ぼくは彼をそんな風に思った事は、一度も──!!」
ないのは事実だ。
だから、こうも顔が熱ってくるのはこの長湯のせいに決まっている──と、リラがそんな自己暗示をかけていた、その時であった。
「あら、今まではなくっても時間の問題よ。あなただってもう十三なんだから。 油断してたらいきなり成長したりするんだからね?身も心も。」
そう言って後ろから彼女の脇腹を抱えるように抱き締めたのは、長い髪を洗っていた為に湯に入るのが遅れたもう一人の女性ブレーン、チューブクイーンのアザミだった。
「~~!!」
自分にはまだない大人の女性の身体の感触に戸惑い、そこから抜け出そうと躍起になりながら、リラは抗議する。
「せ、成長したって、彼は友達だよ!それにだいたい、向こうは
「ほんとは気づいてるけど、黙ってるんじゃないの?」
思いがけないコゴミの言葉に、リラは不意にアザミの腕に抗うのを止めて彼女を見た。その顔は相変わらずにやにやと意地悪く、そして楽しそうだ。
「だってリラ、パッと見ただけなら確かにふつーの美少年だけどー。これっくらいの距離で話したりなんかすると、なーんかひっかかちゃうんだよねー。」
そう言って、人差し指でリラの小鼻をつんつんと突きながら距離を詰めてくる。
「そ、そうなの・・・?」
そこに、後ろからアザミも絡んできた。
「そうよ。それに、最近は男の子の方がロマンチストだったりするんだから。全然そんな素振りを見せずに油断させておいたところで、突然将来の約束をもちかけてきたりするのよ。」
前から詰め寄るコゴミに、後ろからより腕を締め付けてくるアザミ。そしてその為に先ほど以上にもろに押し当たる彼女の身体の起伏に、さらに顔が熱くなる。
これ以上、妙な方向へ流されてはたまらない。
そう判断したリラはたまらず湯に潜り、からかう歳上の二人からダイビングで離脱した。
「な、何、それっ・・・!?」
勢いよく潜ったために少し温泉水をむせ込みながら今の言葉の意味を訊ねるリラに、アザミは澄ました笑みで答えた。
「さあ。それは、あなたが彼の口から直接聞くことね。」
◇ ◇ ◇
間もなく、約束の場所が見えてきた。
満天の星空の下の、人気のない夜の岬。
そんな
そこは、かつてこの下の洞窟の奥にある祠の番人であったキュウコンの墓所でもある。墓というよりは何かの記念碑のような立派な墓碑の前に、二体の新旧の相棒と並んで座る少年の姿がある。こちらに背を向けているため、自分にはまだ気付いていないらしい。
その姿を見たせいか、リラは再び胸がざわめき始めるのを感じ、思わず足を止めた。
頭の中では、記憶の片隅に『ふういん』したはずのコゴミとアザミの言葉が勝手に飛び出し、まことしやかに囁きかけてくる。
(まさか。そんなこと、あるはずがない。)
頭を振って饒舌な臆測達を振り払うと、ヒノキに気付かれないよう、静かに深呼吸をした。
そして意を決して彼に声をかけようとした、その時であった。
「──はい。もしもし。どした?」
三度目の着信音が鳴る前に上衣のポケットからポケギアを取り出したヒノキは、すぐ後ろのリラには気づかないまま、通話を始めた。
「ああ、無事にちゃんと着いたよ。遅刻もしそうでしなかったし。いや、マジで大丈夫だったって。・・・分かったよ、またカントーに戻ったらそっちに寄るから。うん、うん。はいはい。おやすみ。」
そうして短い通話を終えた彼がふう、と一息着くのを待ってから、リラは改めて声をかけた。
「お待たせ。遅くなってごめん。」
「よお、おつかれ。悪いな、仕事終わりに。」
「いや。構わないよ。」
そう。
そんなことは、全く構わないのだけれど。
「・・・今のは、友達?」
ポケギアの向こうからかすかに聞こえた声から、電話の相手が女性であることはリラにも分かった。そして、その事実によって何かが胸を掠めたことも。
「ああ、カントーのジムリーダーのな。『フロンティアには無事に着けましたか?』だとさ。まったく、オレのお節介焼くよりやる事がいくらでもあるはずなんだけどな。」
「・・・そう、なんだ。」
ヒノキの何の気なしの一言から漠然と悟った彼らの関係に対して、リラはそう呟いた。しかし、それを自分がどう考えようと、全く仕様のないことだ。
「それで、ぼくと話したいことって?」
わき上がる雑念を振り払って平静を取り戻すと、彼は自ら本題を切り出した。
「ん、ああ。そうだな。」
そう言って、ヒノキはちらちらと辺りに視線を走らせた。そうして確かに人気がないことを確認したところで、口を開いた。
「あのさ、リラ。」
「うん。」
昼間と同様、急に改まった彼の口調と表情には気が付かないふりをしながら、リラは努めて何気ない調子で答えた。
そしてそんな彼の内なる葛藤に本当に気付かないヒノキは、構わずそのまま続けた。
「いきなりこんな話をされても、おまえが混乱するのは分かってる。けど、全部本当で大事な事だから、ちゃんと聞いてほしいんだ。」
「え・・・」
もはやヒノキに聞こえてしまうのではないかと思われるほどに、胸の鼓動は高鳴っていた。今しがた胸を掠めたばかりの何かさえ消え去り、頭の中は温泉でのアザミの言葉にすっかり占められている。
まさか。
本当に、
──ザパン。
遠くで水面の破れる音がした次の瞬間、ヒノキの腕がリラの肩に伸びた。
そこに、強い力がかかった。
「伏せろ!!」
頭の上で、フーディンのリフレクターが衝撃から自分達を守る音が響く。
「コン!かえんほうしゃ!」
キュウコンの放ったその弾状の『かえんほうしゃ』は、宵闇を切り裂いて攻撃が飛んできた方向へと消えた。そして間もなくその先から痛々しい叫び声と大きな水音が返ってきたかと思うと、辺りは再び静寂に包まれた。
「おい、大丈夫か!?」
「う、うん・・・」
ヒノキによって地面に伏せられていたリラが、そう答えて身体を起こそうとした時だった。
鼻の先に見えるえぐれた地面に、何かが刺さっている。
「これは・・・」