ポケットモンスターSM Episode Lila   作:2936

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今更ですが、前回より前話の振り返りである【ここまでのあらすじ】を【前回の要点】に簡素化させて頂いております。事後報告。

【前回の要点】
ヒノキから二人で話がしたいと持ちかけられたリラは、その夜に彼との待ち合わせ場所である岬へ向かう。しかし、そこでヒノキが話を始めたその時、二人は何者かの襲撃を受ける。



43.10年前③ 不吉の兆し

 

 【七月二日 早朝】

 

 すでに明るい陽の光が水平線に煌めく夏の早朝。

 ヒノキは一人、昨夜の襲撃の痕跡を探して南の岬を訪れていた。

 

(確か、この辺だったよな。)

 

 それはすぐに見つかった。

 この岬の下に広がる洞窟、その奥にある祠の番人であったキュウコンの墓所として整備されたその芝の一画に、一ヶ所だけ草とその下の土が激しくえぐられて出来た穴がある。まちがいなく、ポケモンの技によるものだ。

 

 ヒノキがその穴を自前のポケットカメラで何枚か撮っていると、傍らの相棒のキュウコンーすなわちこの墓に眠るキュウコンの子どもーが何かに気づき、岬の縁から下を覗き込んだ。

 

「ん?どうした、コン。」

 

 気になったヒノキも彼の隣に手をつき、同じように崖の下をのぞきこむ。すると、十メートルほど下の波打ち際で何かがびちびちと跳ねているのが見えた。

 

「!あれは・・・」

 

 

 岬を降り、改めて間近で確認したその身体には、新しい火傷があった。その傷も写真に撮った後、試しに空のモンスターボールを押し当ててみると、ニメートル近い巨体はなんなく中へ吸い込まれる。

 

「・・・そら、食え!すげー苦いけどな。」

 

 すぐに放ったそのポケモンに『チーゴのみ』を与え、『いいきずぐすり』も吹きつけた後、今しがた彼を捕らえたばかりのボールのスイッチをぐっと一番奥まで押し込む。とたんにボールはぱかりとふたつに割れ、元気を取り戻したそのポケモンは、何事もなかったかのようにすいすいと大海原へ帰って行った。

 

 その特徴的な長い身体が海中へ消えるのを見つめながら、ヒノキはポケギアを手に取り、昨日番号を登録したばかりの友人へ電話をかけた。

 

「あ、もしもし、オレだけど。今、例の岬の下で火傷して弱ってた()()()ハンテールを見つけたんだ。・・・ああ。たぶんな。」

 

『深海のハンター』の異名を持つそのポケモンなら、あの宵闇の中でも的確に自分達を狙うことが可能であったろう。

 

「とにかく、夕べおまえに話した事をちゃんと他のブレーンのみんなにも伝えなきゃな。・・・分かった、九時にバトルタワーだな。」

 

 左手でギアを構えてそう話すヒノキの右手には、新調して間もない赤い端末が乗っていた。

 今しがたデータを採取したばかりの、そのポケモンのページを開いて。

 

 

 

No.177 ハンテール

 

 しんかいポケモン 

 たかさ1.7m おもさ27.0kg

 

 しんかいに せいそく。 ハンテールが はまに うちあがると ふきつなことが おこるという いいつたえが ある。

 

 

 

 

 

 

「南の岬で野生のハンテールに襲われた?」

 

 午前九時に始まった、バトルタワーの一室でのブレーンの緊急会議。そこで議長のリラからもたらされた奇妙な報告に、他の六人のブレーン達は一同に顔を曇らせた。

 

「・・・ハンテールは深海に生息する、ただでさえ人間と関わりの少ない種。それがわざわざ海から飛び出して陸上の人間を狙うなど、聞いたことがない。」

 

 一同きっての頭脳派であるダツラの分析に、他のブレーン達も頷いて同意を示す。が、一人だけ異を唱える者があった。

 

「しかし。キミ、失礼だが何かハンテールの恨みをかうような事はしなかったかい?昨日、キミが乗っていた船はハンテールの『うずしお』によって足止めを食っていたと聞いたが?」

 

 そう発言したのはバトルドームを管理するヒース・ヘザーである。『ドームスーパースター』なる何とも言えぬ称号の持ち主だが、その指摘は決して思慮の浅いものではない。

 

「オレも最初はそういうことをしようと思ったんだけど、船長さんにご法度だって止められてね。残念ながら、あいつらには『ひのこ』すらふりかけちゃいないよ。」

 

 ヒノキの答えにヒースが口ごもったところで、リラが口を開いた。

 

「そして、その点以上に気にかかるのが、そのハンテールの一撃に託されていた、この手紙(メール)だ。」

 

 そう言ってリラが卓上のプロジェクターを起動すると、既に天井から降りてきていた前方のスクリーンに、短い文章が映し出された。

 

 

 

 

   我ガ願イヲ妨グ者ニ告グ   

 

   ソノ力 我ニ及バザレバ   

 

   千年ヲ数エシ夜ニ   

 

   志ハ破滅ノ願イトナリテ   

 

   ソノ身ニ降リカカレリ   

 

 

 

 

 撥水仕様の特殊な紙に認められた脅迫とも警告ともとれるその手紙に、室内はしばし衝撃を伴う沈黙に包まれた。

 

「なにこれ、きもちわる・・・。しかも、何言ってるか全然意味分かんないし・・・。」

 

 年と性格相応の率直な感想で沈黙を破ったのは、アリーナキャプテンの称号をもつブレーン、コゴミ・ガッソである。現在十七才の彼女は、七人のブレーンの中ではリラに次いで二番目に若い。

 

「・・・他のみんなも、コゴミと同じ感想かな?」

 

 そう言って、リラは他のブレーンたちを素早く見渡した。その限りでは、それぞれに頷く五人の様子に不自然さが滲む者はない。

 

「正直なところ、ぼくも同感だ。今の時点では、この手紙の送り主が誰で、その人物が何を企んでいるのか、皆目見当がつかない。ただ、ひとつだけ判っている事がある。」

 

「・・・宛先、か。」

 

 一番端から辛うじて聞こえたパレスガーディアンのウコンの呟きに、リラが頷いた。

 

「その通り。つまりはこの冒頭の『我ガ願イヲ妨グ者』を指す訳だが、もしそれがぼくであったなら、これは最初からこのタワーのポストにでも入れておけば良い話だ。・・・だから、ここからはその張本人に説明を任せようと思う。」

 

 そこでリラが隣席の友人を見やると、ブレーン達の視線も一斉にリラから彼へと移った。

 

「ま、今の流れで何となく察してもらえたかと思うけど、つまりはそーゆー事。・・・なんだけど、予めことわっておくと、オレ自身もまだこいつの正体も目的も見当がつかない。だから、今オレが話せるのは、そんなオレがなぜこいつの『願イヲ妨グ者』としてここにいるのか、そのことだけだ。そこはオッケー?」

 

 全員の了承を確認したところで、ヒノキも頷いた。

 

「よし。それじゃあまずは、こいつの説明からいくぜ。」

 

 そう言うと、プロジェクターの映し出す画像を先ほどの不気味な手紙から、あるポケモンのデータ画像へと切り替えた。

 

 

 

No.201 ジラーチ

 

 ねがいごとポケモン

 たかさ0.3m おもさ1.1kg

 

 きよらかな こえで うたを きかせて あげると1000ねんの ねむりから めを さます。ひとの ねがいを なんでも かなえる という。

 

 

 奇妙な帽子を被った、幼子のような姿。

 そんな不思議なポケモンの画像を前に、にわかにブレーン達の間でざわめきが起こった。

 

「ねがいごとポケモン・・ジラーチ・・・?」

 

「おい、知ってるか?」

 

「いや。見たことも聞いたこともない。」

 

 しかし、ヒノキはそんなブレーン達の反応を冷静に受け止めた。

 

「だろうな。このポケモン図鑑の解説にもあるけど、何しろこいつが生物として活動するのは千年に一度、それもたった七日の間だけだ。その期間を過ぎれば、再び千年の眠りにつく。珍種を通り越して、幻のポケモンと呼ばれる由縁だよ。」

 

「幻の、ポケモン・・・。」

 

「しかし。その幻のポケモンが、今回の件に一体どう関わっているというんだ?確かに、『願イ』という単語は手紙の中に見受けられるが・・・」

 

 まだ話が見えないという風に、ヒースが首を傾げる。

 

「それは、こういう訳さ。コン!」

 

 そこでヒノキが手にしていたモンスターボールのスイッチを押すと、唯一手元にいるポケモンのキュウコンを繰り出した。

 

「キュウコン・・・?」

 

「ああ。こいつは五年前まで例の岬の下の洞窟の祠を守っていたキュウコンの子ども、つまり後継ぎだよ。・・ここまで言えば、もう大体見当がつくだろ?」

 

「・・・なるほどな。そういう事か。」

 

 いち早く察したダツラがそう呟き、その内容を一同に明かした。

 

「つまり。あの祠にはこのジラーチというポケモンが祀られていて、そのキュウコンの先代は祠の創建者から次の覚醒までの番をする使命を与えられていた。キュウコンという種は大変な長寿で、病気やケガにさえ見舞われなければ、およそ千年は生きると言われているからな。」

 

 そこに、重大な事実に気付いたジンダイが割り込んできた。

 

「おいおい、まてまて。じゃあ、あの祠にそのジラーチがいて、この『願イヲ妨グ者』がおまえ達だというなら──」

 

「ああ。近い内に、この手紙の言うところの『千年ヲ数エシ夜』、つまりジラーチが千年の眠りから醒める夜が来る。そしてそのジラーチのあらゆる願いを叶えるという力に目をつけ、良からぬ事を企んでるのが、この手紙の送り主って訳だ。」

 

 再び、張りつめた沈黙が流れる。

 

「・・・では、昨日からのバンクシステムの異常も?」

 

 ダツラが静かにその可能性を口にした。

 

「それはまだ証拠がないから何とも。でもまあ、おそらくはそうだろうな。」

 

 そこで、重い雰囲気を振り払うようにコゴミが明るい声を出した。

 

「で、でもさ!ジラーチはまだその祠で眠ってるんでしょ?それならずっと祠の前で見張ってれば、確実にー」

 

 しかしその楽観に、ヒノキは首を横に振った。

 

「それが、そうは行かなくなったんだよ。」

 

 そう言って、ヒノキは数枚の写真を並べて見せた。

 そこに写る様々な角度から撮られた両開きの祠は、いずれももぬけの殻となっていた。

 

「夕べ、襲撃を受ける前にオレが祠を確認しに行った時には既にこの状態だった。休眠中のジラーチは『星の繭』と呼ばれる通り、ほぼほぼ岩石だ。その状態では自分から動く事はできないから、おそらく奴に持ってかれたんだろうな。」

 

「では、奴は既にジラーチを手に入れており、今は時が来るのを待っている状態という可能性が高い。そういうことだな?」

 

 ウコンの言葉に、ヒノキは頷く。

 

「そんな!それじゃあ、その悪い奴が願いを叶えちゃうのはもう時間の問題じゃない!」

 

 コゴミの焦りをはらんだ一言に、しばらく黙って一同のやり取りを見守っていたリラが口を開いた。

 

「いや。それに関してはまだ、そうとも限らないんだ。」

 

「え?」

 

 コゴミがリラに向かって大きな目を瞬かせる。

 

「確かに、ジラーチ自体は既に敵の手に渡っていると考えた方が良いだろう。だけど、実際にその力を発揮してもらうには条件があるんだ。」

 

「条件・・・?」

 

 その疑問には、ヒノキが答えた。

 

「ああ。一度、ジラーチのデータ画像に戻るぜ。」

 

 リラがプロジェクターの画像を先ほどのジラーチのアップに切り替えると、ヒノキはジラーチの腹部を横切るように伸びる、一本の緩やかな曲線を指した。

 

「実はここに、『腹眼』とか『第三の眼』と呼ばれる巨大な眼が一つあって。ジラーチに願いを叶えてもらうには、この目が開いている状態で願をかける必要があるんだ。そしてこの眼が開くのは、ジラーチがその願いに理解を示した時とされている。 」

 

「なーる。つまり、実際に願いを叶えてもらうには、まずジラーチのお眼鏡にかなう必要があるって訳だ。」

 

 合点が行ったという風に、ジンダイがぽんと手を叩いた。

 

「そ。それに、こいつの力もある。」

 

「キュウコン?」

 

 キュウコンの頭を撫でたヒノキに、コゴミがきょとんとした表情で訊ねた。

 

「ああ。こいつは母親から特別な『ふういん』の力を受け継いでいてさ。ジラーチは本来なら三つの願いを叶えるか、七日間の覚醒を経ないと眠れないんだけど、こいつの『ふういん』ならその条件を満たさずともジラーチを眠らせる事ができるんだ。千年前に母親がジラーチ自身の力で授けられた特殊な力だよ。」

 

「ということは、仮にジラーチが覚醒しても、奴が腹の目を開ける前にそのキュウコンの『ふういん』を施せれば、どんな野望であろうと未然に防げるという訳か。」

 

「その通り。長くなっちゃったけど、オレからは大体こんなとこかな。ご静聴、感謝するよ。」

 

 そんなヒノキと入れ替わるように、アザミが新たな疑問を口にした。

 

「だけど、この手紙の送り主はまだこの島にいるのかしら?私だったら、ジラーチを連れてさっさと遠くの安全な場所へ逃げるけれど。」

 

「問題は、そこなんだ。」

 

 今度はリラが答えた。

 

「アザミの言うように、奴が既にこの島を離れている場合に備えて、既に警察と全ジムリーダー、それにホウエンリーグ本部には事情を伝えて協力を要請してある。だが、ぼく達は現状においては犯人・ジラーチともこの島のどこかにいる可能性が高いと考えている。」

 

「その根拠は?」

 

 ダツラが問う。

 

「ジラーチが発するエネルギー派だよ。」

 

 再び、ヒノキが説明した。

 

「このポケモン図鑑には、ジラーチの繭本体が発していたエネルギー派、つまり放射性物質の分析データが入っていてさ。それを元に、ジラーチの存在を感知することができるんだ。それによると、同量の同物質がいまだこの島から観測できている。ただ、それがごく微量だから、厳密な位置まではまだ分からないんだけど。」

 

 そこに、リラが補足をした。

 

「そして奴が今この島のどこかにいるとすれば、『ここを離れられない何らかの事情』がある可能性が高い。ぼくたちその場合に備えて、直ちに行動する必要がある。」

 

 冷静で淡々とした、しかしどこかぎこちない口調。

 それは平時の彼を知るブレーン達に、彼がいかに()()()()()を重く見ているかを知らせるに十分な異変だった。

 

「とにかく、ぼくとヒノキは今からオーナーと今後の対策について話してくる。みんなは、それぞれの管理する施設に戻って、ジラーチや不審な人物の手がかりがないか確認を頼む。何かあったら、いつでもすぐに連絡してくれ。」

 

 そして一同は解散し、リラの指示通りそれぞれが長を務める施設へと戻って行った。

 

 

 

 

 二人から幻のポケモンをめぐる一連の出来事の経緯を聞かされたエニシダの反応は実に単純(シンプル)で、その指示は明解であった。

 

 

──おのれ賊め!さては私に代わって、このフロンティアのオーナーの座に着くことを目論んでいるにちがいない!ヒノキくん、リラ、何としてでも奴の正体を突き止め、野望の実現を食い止めてくれ!もちろん来月のオープンまでに!

 

 

「まったく、さすがというか、何というか。まあでも、変に取り乱されたりするよりはかえって良かったよな。」

 

 島の北にあるエニシダのオフィスからの帰り道。

 良くも悪くもこのフロンティアの事しか頭にないあの男らしい指令をヒノキはそう評し、隣を歩くリラにこぼした。

 

「ああ・・・そうだな。」

 

 浮かない微笑を浮かべてそれだけ答えた親友に、ヒノキはたちまちその胸の内を覚った。そこで、あえて彼の不安を言葉にした上で、励ますように言った。

 

「そんなしんきくせー顔すんなって。確かに、犯人(ホシ)がまだ目星もつかないのはもやっとするけど。でも、だからこそまだフロンティア(こ こ)の誰かと決まった訳じゃねーんだ。」

 

「うん。・・・分かってる。」

 

 確かに、あのハンテールが野生のポケモンであった以上、外部犯の可能性も低くはない。昨日からのゲスト用のバンクシステムのエラーも、単に間の悪い偶然なのかもしれない。なのに、どうしても薄暗い不安が影のようにつきまとう。それに、あの手紙の最後の一文──。

 

「・・・ねえ、ヒノキ。きみは──」

 

「ん?」

 

 しかし、リラの言葉の続きは、彼のポケットの携帯用通信端末『ポケナビ』の着信音に遮られた。

 

「もしもし。ああ、今オーナーのオフィスを出たところだよ。ファクトリーで何かあったのか?」

 

 その一言で、声は聞こえずとも通話の相手がバトルファクトリーのブレーン、ダツラであることはヒノキにも分かった。

 

「・・・分かった、すぐに二人でそっちへ向かう。とにかく、職員の身の安全を第一に行動してくれ。」

 

 通話を終えたリラは、ボールからフーディンを繰り出すと、緊迫した面持ちでヒノキに向かってひとつ頷いた。そして次の瞬間には、二人と一体の姿は、既に目指す場所へ向かって消えていた。

 

 




 
好きな方はもうお気付きかと思いますが、ハンテールの図鑑説明は第七世代のものです。こんな感じでちょくちょく他世代の要素を都合良く忍ばせますが、それを探すのも一興ということでご容赦ください。
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