ポケットモンスターSM Episode Lila 作:2936
私は自分の感性や倫理観というものにまるきり自信がないので約束はできませんが、最終的には幸せな余韻が残る物語にすべく書き進めておりますので、よければ終章までお付き合い頂ければ幸いです。
【前回の要点】
リラと共に岬で謎の襲撃を受けた翌日。ヒノキはブレーン達にこの島に眠る幻のポケモン、ジラーチとそれを狙う者の存在を知らせる。その後、バトルファクトリーのブレーン、ダツラより異常を報せる連絡が入る。
【七月二日 昼】
島の南西に位置するその施設は、
「何があったんだ?」
エントランスを駆け抜けてきたヒノキとリラは、施設の心臓であるマザーコンピューターの前の白衣の人だかりへ向かった。そこでは、『ファクトリー・エンジニア』と呼ばれる施設の専属職員達と、彼らを束ねる
「ああ、リラ、ヒノキ。よく来てくれた。」
二人の到着に気付いた施設の長は、まるでコックピットのような操作盤から振り返ると、トレードマークの赤いハンチングを少し上げて額の汗を拭った。そして、二人をここへ呼んだ理由であるその事実を二人に告げた。
「おれ達もまだ、事の全容は把握しきれていないんだが。しかしとにかく、このマザーコンピューターで管理しているフロンティアの共有ポケモン達のボックスにも
このバトルフロンティアでは、ブレーン戦までの予選は基本的に
「なるほど。で、それってつまり、どういうことなんだ?オレのポケモンみたいに、パソコンから引き出せないってこと?」
そのヒノキの問いに、ダツラはかぶりを振った。
「いや、その逆だ。」
「逆?」
眉根を寄せて訊き返したリラに、ダツラもまた苦い表情で答えた。
「今現在、セキュリティとバックアップのシステムが作動していない。つまり、仮に今このボックスから不正にポケモンを持ち出されたとしても、どのポケモンがいつ、どこで誰によって引き出されたのかが分からず、その記録も残らないということだ。」
「!!」
「おいおい、それって──」
かなりヤバイんじゃないのか、とヒノキが続けようとした、その時であった。
「しょ、所長!あれは──!!」
エンジニアの一人が指差した方向には、この施設で
「これは・・・」
その時、暗く沈黙していたマザーコンピュータの画面に、見覚えのある書体の文章が現れた。
| 知ハ星ノ列ナリヲ万物ニ変エル 名モナキ星々ヲツナギ 勝利ノ座ニ描イテ見セヨ |
|---|
「オレ、ちょっと行ってくる。」
そう言ったヒノキを、二人のブレーンが同時に振り返った。
「待て!あそこに行くのは、まだ──」
「早いってのは分かるよ、罠かもしれねーしな。けど、それだって結局行ってみなきゃ分かんねーだろ。行くぞ、コン!」
そしてボールに入った相棒に呼びかけ、駆け出した。
「だめだ、待つんだヒノキ!」
今度はリラが呼び止めたが、彼は止まらなかった。
そして──。
「ぶへっ」
颯爽とゲートを駆け抜ける、その一歩手前。
そこで突然閉まった扉に勢いのままに突っ込んだ彼は無様にぶつかり、尻もちをついた。
「ってぇー・・・。野郎、このタイミングでおちょくってくるとは、どういう性格してやがる。」
文字通りの門前払いを食らい、座り込んだまま悪態をつくヒノキに、リラが呆れて言った。
「もう、だから止めたのに。これは罠じゃなくて、きみが自分のキュウコンを連れたまま入ろうとしたから、検知システムが作動したんだよ。」
「検知システム?」
「その通りだ。」
きょとんと聞き返したヒノキに、ダツラが説明した。
「このバトルファクトリーでは、挑戦者も俺達もフロンティアで育成された
そこでダツラが左手に携えた小型のノートパソコンをタタタッと叩くと、彼の真横の転送装置に、六つのモンスターボールが現れた。
「おまえはこの六体の中から三体を選び、そのポケモン達と共にバトルを勝ち進む。休憩は七戦ごとに十五分。一試合毎に回復と入れ換えの機会はあるが、負ければそこまで。これが、このファクトリーの
「・・・マジで?オレ、そいつらの事、なーんも知らねーけど。」
冗談だろうと言わんばかりに引きつった半笑いを浮かべるヒノキに、ファクトリーヘッドは顎をしゃくって傍らの機械を指した。
「
そう言うと、彼は再びエンジニア達が額を寄せ合うマザーコンピューターの元へと向かった。
◇
ニ十分後。
ヒノキはマザーコンピューターの前のダツラの元へ行き、キュウコンの入ったボールを預けた。
「では、スターティングメンバーはその三体で良いのだな。」
そう念を押して、ダツラは少年の腰についた三つのボールにちらりと目をやった。そこには、彼がリラのアドバイスを元に選出した三体が収まっている。
「ああ。まあ、どこまで行けるかはわかんねーけど。やれるだけやってみるさ。」
「よし。では、ゲートを開けるぞ。健闘を祈る。」
ダツラがそう言い終わると同時に、再びゲートが開いた。
その中を、今度は落ち着いた足取りと心持ちでヒノキは進んでいった。
◇
観戦席を兼ねた二階のギャラリーから、リラはヒノキの予選を見守っていた。
最初にダツラからこの施設の戦い方を告げられた時、彼は少なからず戸惑っていた。当然だ。
ポケモントレーナーの強さとはすなわち、自身が育てて鍛え上げたポケモンの強さ。そんな通説を真っ向から覆す、レンタルポケモン同士の戦い。
それでいて、自身で育てたポケモンを使用するよりはるかにトレーナー自身の実力が顕れる──このバトルファクトリーの戦いを、リラはそのように捉えていた。
施設の完成時にエニシダが言った「ある意味このフロンティアで最も過酷な戦場」という、その言葉のままに。
(にも関わらず、だ。)
そこでリラは、ふっと笑みをこぼした。
そこには淡く明るい苦さが含まれていた。
「よっしゃ!いいぞオドシシ、戻れ!」
眼下のフィールドに立つヒノキの声が、広い空間によく通る。
少年らしい快活さに溢れた声で発せられるその指示が、ポケモン達の胸にも明るく響いていることは表情で分かる。
「キレイハナ!頼むぜ!」
決まった主を持たず、誰にでも従うことが求められる共有ポケモンには、自然『まじめ』や『がんばりや』といった性格の個体が多い。だからこそ、共に戦う事が嬉しく思える人間に当たった時、その喜びは無意識の内に動きや表情に現れる。そして両者は自分達が出会ったばかりであることを忘れ、その戦いの全てを共有する。
「そこで『メロメロ』だ!」
先のオドシシに『でんじは』と『あやしいひかり』を浴びせられてなお攻勢を構えた相手のホエルオーに、キレイハナの『メロメロ』が決まった。自身の魅力を振りまいて異性の戦意を奪うこの技は、相手の注意を引いていなければ当然効かない。
相性や特性や技の効果といった基本的な事柄はもちろん、実戦における技の繰り出し方やタイミング、特定の状況下における変化事項への対応。そうしたポケモンバトルに関するあらゆる「知識」を試されるのが、このバトルファクトリーなのだ。
(それにしても)
まひ・こんらん・メロメロの三重苦を負い、もはや事実上戦闘不能といえるホエルオーの前で、キレイハナは悠々と小さな太陽を作っている。それが完成次第、彼は特性由来の驚異的なスピードと
そんな状況を作り上げた、一時間前には見えない敵の性格を罵っていた友人を見ながらリラは思う。
──きみも十分性格が悪いよ、ヒノキ。
当初は次話と合わせて一話の予定でしたが、それだと15000字近くになってしまうため、ここで一度切ります。
そしてその切れ目が3300字と11600字の間であることには私も胸が痛みますが、他に良いところが作れませんでした。すみません。