ポケットモンスターSM Episode Lila   作:2936

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【前回の要点】
ダツラから受け取ったノウレッジシンボルをフロンティアパスに嵌めた瞬間、ヒノキはジラーチの現状と思われる映像が脳裏に浮かぶ。一方、リラはポケモンバトルの師であると共にバトルタワーのヘッドトレーナーを務めるローレルの元へ行き、これまでに起きた出来事を報告する。
 


47.10年前⑦ 蛇と女王

 

 

 【七月三日 朝】

 

 

(ずいぶんと趣味の良い建物だな。)

 

 バトルファクトリーでの騒動から一夜が明けた翌日。

 フロンティア島内のとある施設を見上げながら、ヒノキはそんな事を思った。

 多少の個性はあれど、他の施設が全て建築物をモチーフとしている中で、唯一ポケモン──それもどくへびポケモンのハブネークを忠実に模して設計されたその外観は、控え目に言っても異色の一言に尽きる。

 たとえそこが、バトル()()()()という名を持つ場所であったとしても、だ。

 

「なあ。これ、傍から見たら絶対オレ達から食われに行ってるみたいに見えるよな。」

 

 そう呟いたヒノキの隣にいるのは、リラではない。

 彼は今日は本土から応援でやって来た警察の対応があるとの事で、代わりに頷いたのは美しい九尾の相棒である。

 

(やっぱ裏口はケツに当たるんだろうか。)

 

 そっちから出るよりかはマシか、などと考えながら、ヒノキは文字通り大口を開けている大蛇へと進んでいった。

 

 

 ◇

 

 

 施設内に足を踏み入れたヒノキは、外観とはあまりにも雰囲気の異なるその内装に面食らわずにはいられなかった。壁一面を幔幕のように覆う瀟洒な赤いカーテンに、骨董感のある調度品が設えられた、きらびやかな空間。そして、何より──。

 

「お待ちしておりました、ヒノキ・カイジュ様。ようこそバトルチューブへ。」

 

 そう言って彼を迎えた彼女達──すなわちチューブ・メイデンと呼ばれるこの施設の専属職員達は、いずれも小さな顔に大きな目をもち、その華奢な身体はいわゆるメイド服がきちんと似合っていた。本当に、誰が何を思ってこんな異質な空間を作り上げたのだろう。

 

「あ、ども・・・すいません、大した用件じゃないのに、こんな大層な出迎えをしてもらって。」

 

 横一列に整列し、恭しく頭を下げている彼女達の前でヒノキが戸惑っていると、真ん中から一人が進み出た。

 

「いえ。私どもの主人であるクイーンから、今回の件についてはどんな些細なことでも協力するよう言われておりますので。申し遅れましたが、私はアマリィ。このチューブ・メイデンの長を務めております。では、どうぞこちらへ。」

 

 そう言われ案内されたのは、入り口近くに設けられた応接間であった。その部屋もまた、やはり赤で統一されている。蛇の口の中、という意味なのだろうか。

 

「すぐ主人もこちらへ参りますので。差し支えなければ、先にご用件をお伺いしておいてもよろしいでしょうか?」

 

「あ、はい。えーと、ここの施設の事でちょっと聞いてみたいことがあって。具体的に言うと、ここにハンテールってポケモン、いたりします?」

 

「?ハンテール、ですか・・・?」

 

 その質問に、アマリィが首を傾げた時だった。ソファーに座るヒノキの頬にさらりと何かが触れたかと思うと、すらりと長い指が顎の下に差し入れられ、後ろへ傾けられた耳元に、濃密な女性の気配が迫った。

 

「ふうん。てことはつまり、私達を疑っているのね?」

 

「!!?」

 

 弾かれたようにソファーから立ち上がり、振り返ったヒノキが目にしたのは、密かに部屋に入っていたチューブクイーンその人であった。先ほど頬を掠めたのは、どうやら彼女のその艶やかな黒髪らしい。

 

「・・・あいつの代わりにね。悪いとは思ってるんだけど。」

 

 メイドのアマリィはヒノキのその言葉の意味を今一つ掴めなかったらしく、再び首を傾げた。が、彼女の主人であり、このバトルチューブのブレーンであるアザミ・シストルは、そこに含まれた彼の思いを十分に汲み取っていた。

 

「いいわよ。むしろ、当然の事だもの。本当に良い友達なのね。」

 

 そう言って、切れ長の目を少し細めて笑った。

 

 

 

 ◇ ◇

 

 

 

「あまり、犯人探しのようなことはしたくないんだ。」

 

 あくまで、ジラーチの発見と保護という方向で進めていきたい。それが、昨夜遅くにリラからかかってきた電話の内容だった。彼はそれ以上は語らなかったが、その事が却って、仲間を疑いたくない彼の思いの切実さをヒノキに伝えた。

 

「・・・そうか。」

 

 すぐには、それ以外の言葉が出てこなかった。

 彼の気持ちを理解する一方で、ヒノキ自身の考えは逆だった。もし相手が内部の人間であったなら、まさにそうした仲間意識(よわみ)につけ込んでくるだろう。ましてや相手が何を企んでいるか分からない上にジラーチは既に手中に収めていると思われる今、最高責任者の考えとしてそれは甘すぎる。

 

 しかし、そんな思いとは裏腹に口をついて出たのは次の言葉だった。

 

 

「分かった。任せろ。」

 

 

 あいつがしたくないのなら、オレがそれをすればいいだけの話だ。

 そんな風に考える自分もまた、他人から見ればどうしようもなく甘いのだろうと思いながら、ヒノキは短い通話を終えた。

 

 

 

 ◇ ◇

 

 

 

「昨日の夜、リラから島の全職員に宛てた通達があったの。『今回の事件に関して、自分は犯人が確定するその瞬間まで決して誰の事も疑わない。だからみんなも、そのように行動してほしい』とね。」

 

 改めて向かいのソファーに着いたアザミが、その事をヒノキに教えた。

 

「あいつらしいね。」

 

 おそらくは、自分への電話の前の事だろう。そんな事を考えながら、ヒノキは短く返した。

 

「でも、オレも別にまだ疑ってるってほどじゃないんだ。ただ、バトルチューブ(ここ)には身体がひょろ長い野生ポケモン達が色々いるって聞いたから。もしハンテールがここにいたなら、ここから盗まれた可能性もあるんじゃないかと思ってさ。とにかく今は、何でもいいから前に進むための手がかりがほしいんだ。」

 

「悪くない発想だわ。」

 

 その時、メイドのアマリィが紅茶の入ったポットと二つのティーカップ、それに茶菓子をのせた盆を持って入ってきた。そして二人の間のローテーブルに盆を置き、それぞれのカップに紅茶を注ぐと、軽く一礼してまた部屋を出ていった。

 

「そう、発想自体は全く悪くないのだけど。ただ、残念ながら今うちにいる水タイプのポケモンはミロカロスだけなのよね。一応、ハンテールも候補には挙がっていたんだけど。」

 

 シュガーポットからブラウンの角砂糖をひとつ取り出し、カップに入れて掻き回しながらアザミが言った。

 

「んー、やっぱいないかぁ。まあ、稀少種で保護種って時点で見込みは薄いかとは思ってたんだけど。」

 

「別に、合法的な入手法がないからというわけではないのよ。パールルに『しんかいのキバ』を吸収させて進化させる方法を取った個体なら、一般人にも普通に所有は認められるわ。ただ、ハンテールって深海に棲んでいるでしょう?そんなポケモンが()()()()()元気に生活できる環境を用意することがどうしても難しかったのよね。モンスターボールに入れられるなら、そんな事は考えなくても良かったんだけど。」

 

 そこまで話終えたところで、アザミはティーカップを取り、静かに一口飲んだ。容姿にしても振舞いにしても妖艶という言葉が似合い過ぎる彼女だが、優雅に紅茶を飲む姿はシンプルに美しく、思わず見入ってしまう。が、そんなヒノキの様子をアザミは別の意味に捉えたらしい。

 

「あなたもどうぞ。心配しなくても毒なんて入ってないし、万一入っていたところで私が『めんえき』を持っている訳でもないしね。安全性はご覧の通りよ。」

 

 そう勧められ、慌ててヒノキも紅茶をすすった。それから、餃子を二つ折りにしたような不思議な形の茶菓子をひとつ手に取った。

 

「それにしても悪かったわね。せっかく来てもらったのに無駄足になっちゃって。ああ、それはフォーチュンクッキーといって、中におみくじが入っているから。先に割って取り出した方がいいわよ。」

 

 アザミの勧めに従い真ん中で軽く力を入れると、ぱきっと小気味の良い音を立ててクッキーは二つに割れた。そしてその中から、確かに小さく折り畳まれた紙片が出てきた。

 

 

「・・・いや。どうやら、そうでもないみたいだ。」

 

 

 そう言って、ヒノキは広げたその紙切れをアザミに渡した。

 そこには、次の文章が書かれていた。

 

 

 

 願い星は幸運の星

 掴み取りたくば そのツキ我に示せ 

 

 

 

 ◇

 

 

 

「それじゃ、改めてこのバトルチューブについて説明するわね。」

 

 そう言ったアザミがヒノキを従えて立っていたのは、エントランスを抜けた次の広間であった。

 

「このフロンティアの施設は、大きく分けてバトル型とダンジョン型の二つのタイプがあるの。バトル型とは、あなたが昨日挑戦したファクトリーのように、ポケモンバトルを勝ち進むことによってブレーンを目指すというもの。それに対してダンジョン型というのは、施設内の様々な仕掛けをくぐり抜けてブレーンの待つ部屋を目指すという仕組みになっているわ。そして、このチューブは──」

 

 そこでアザミがパチンと指を鳴らすと、前方の壁を覆っていた赤い幕がさあっと開き、その奥からぽっかりと暗い通路が現れた。

 

「ご覧の通り、後者というわけ。具体的には、大部屋にある三つの扉から一つを選んで先の小部屋へ進み、それを繰り返して私の待つ最後の部屋を目指していくの。ただ、もちろんその道中、つまり小部屋の中には仕掛けがあって。様々なイベントがランダムで起こる仕組みになっているわ。運が良ければ回復をしてくれるAI(バーチャルトレーナー)や何も起きない部屋に当たるけど、そうでなければ野生ポケモンが襲ってきたり、ダブルバトルを仕掛けられる事もあるの。」

 

「なるほどね。それでオレが試されるのは、ポケモントレーナーとしての『運』って訳か。」

 

「そういうこと。ただ、全くのノーヒントという訳ではないの。迷った時は、それぞれの大部屋にいる女の子達が気になる一部屋について情報をくれるわ。それを参考にして、よく考えて決めることね。そこを選ぶのか、選ばないのかを。」

 

 アザミがそう言い終えた瞬間、彼女のすぐ隣の壁の幕が開き、指紋認証システムを備えた自動ドアが現れた。

 

「じゃ、私は一番奥の部屋で待っているから。幸運を祈るわ。」

 

 そう言ってアザミがドアを抜けると、赤い幕が何事もなかったかのように再びそれを覆い隠した。そして、そんな彼女と入れ替わるように二人の後方で待機していたアマリィがヒノキの前に進み出た。

 

「それではヒノキ様。ただいまを持ちまして、ラックシンボルを賭けたバトルゲームへのチャレンジ開始といたします。準備はよろしいですか?」

 

「ああ。連れていく奴らも選んであるし、もういつでも行けるよ。」

 

 ヒノキは落ち着いた調子でそう答えた。

 挑戦者の運を試すバトルゲーム。略して運ゲーだ。

 そう思えば、昨日のファクトリーのようなプレッシャーは湧いてこない。

 

「承知いたしました。それでは、お気をつけて行ってらっしゃいませ。」

 

 

 こうして、二つ目のシンボルを賭けた挑戦が始まった。

 

 




 
丁度今朝テレビで見知って嬉しくなったので記念に。
薊(アザミ)の花の名の由来は驚くという意味の古語『あさむ』で、きれいな花だと思って手折ろうとしたら棘があって驚いた・・・というところから来ているそうです。
蛇の中にメイドさんという謎すぎるチューブの仕様も、意外とその辺りから着想を得ているのかも知れませんね。
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