ポケットモンスターSM Episode Lila   作:2936

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5.バトル・バイキング② 奇妙な女

 

「カイリキー戦闘不能、そこまで!勝者、ジュナイパー!」

 

 わっと歓声と拍手の湧いた観衆(ギャラリー)に、ヒノキは右腕を突き上げて応える。

 

「おめでとうございます。それではお客様──」

 

 審判を務めたヘッドウェイターが、にこにこと彼の元へと歩いてくる。その間にヒノキはざっと身なりを整え、この後の来る質問に思いを巡らせた。

 

(やれやれ、今のお気持ちを一言で、か。そうだな、ここはパフェだけに甘いコメントをクールに決めて、機知の効いた笑いを取っー)

 

「この後の決勝戦のアナウンスで使用させていただきますので、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

 ん?

 

「決勝?今のがそうじゃなかったのか?」

 

 思わず口をついて出たその心の声は、たちまち計算外の笑いを誘ってしまった。

 彼としては、後はもうヒーローインタビューとパフェの贈呈式を残すのみというつもりであったからだ。

 しかし有能な司会者は、そんな若者に最初の説明を聞いていなかったのか、とはもちろん言わない。

 

「左様でございます。これまでの試合は、この二階フロアの代表を選出するための予選でして、見事勝ち抜かれたお客様には、一階フロアの代表ともう一戦交えて頂きます。そちらが決勝戦となります。」

 

 穏やかな笑顔で丁寧に説明してくれた。

 が、その気遣いがまた彼の肩身を狭くする。

 

「あ、そうなんすか・・えーと、じゃ、カイジュでお願いします。」

 

 ヒノキはとっさに苗字を名乗った。ヒノキという名前に比べてあまり知られていないので、こういう時に便利なのだ。

 

「かしこまりました。それではカイジュ様、決勝の舞台へとご案内しますので、どうぞこちらへ。」

 

 そう言ってヘッドウェイターは、背後の高速エレベーターの上矢印ボタンを押した。間もなく、ピンポンという音とともに、鏡のように磨き上げられた銀色の扉が静かに開いた。

 

「いや、なんかすいません。あ、いいスいいス、後は一人で行けますんで。ありがとうございます、がんばってきまーす・・」

 

 その場から逃げるように、ヒノキはそそくさとエレベーターへと乗り込んだ。

 

 

 ◇

 

 

(くそ、いらん恥をかいてしまった。)

 

 ぐんぐん上昇するエレベーターの中で、彼は一人ごちた。これは何としても、これからの真の決勝で名誉を挽回しなければならない。

 

 やがて上昇が止まり、静かに扉が開くと、エレベーターの内部は一瞬でアローラの光に満ちた。

 ヒノキは素早くポケットからサングラスを取り出した。

 

 そこは屋上だった。

 遮るもののないアローラの太陽のもとに整備されたバトルコートがあり、それを取り囲むように、南国の多種多様な植物が植わっている。まるでちょっとした公園のようだ。そしてそのコートには既に、彼の対戦相手が待っていた。

 

──またなんか特殊な奴がきたな。

 

 サングラス越しにでも分かる、黒いスーツに黒い手袋、黒いショートブーツ。こうなると、あの黒いサングラスはおそらく南国の陽光以前の理由があるのだろう。まるでSPだ。その全身の内で黒くないのは白いYシャツと肌、そして色は分からないが、くせのある豊かな髪くらいのものである。

 なんとなく近づきがたい雰囲気があったが、それでも彼はトレーナーの礼儀として、彼女のもとへ歩み寄った。

 

「どうも、アローラ。焼けるところで待たせちゃって失礼。よろしく。」

 

 そう簡単に挨拶し、黒い指ぬきグローブをはめた右手を差し出した。普段は常時着用しているが、このアローラでは蒸れてしまうので試合の時のみ着けるようにしている。

 

「ええ。よろしくお願いします。」

 

 彼女もまた黒い手袋に包まれた右手を差し出し、彼の手を取った。装いとは裏腹に女性らしい、ほっそりとした華奢な手。それが唯一、その握手で文字通り彼の手に入った情報だった。

 

(なんか、変な女だな。)

 

 自陣に戻りながら、ヒノキは引っかかる何かを感じた。が、それについて考える間もなく、コートの隅に設えられたスピーカーから、元気いっぱいの若い女声のアナウンスが流れた。

 

『みなさま、大変長らくお待たせいたしました!各階の代表が出揃いましたので、これより、いよいよ決勝戦を始めたいと思います!』

 

 同時にコートの横の大型モニターに電源が入り、二分割された画面にコート上の二人が映し出された。

 

『ルールは通常のバイキングバトルと同じく、交替不可の1対1!泣いても笑っても、選んだ一匹が全ての出たとこ勝負です!』

 

 どうやらモニター越しの彼女が審判も兼ねているらしい。巻き込みを気にせず戦えるようにという配慮だろうか。

 

『それでは両者、所定の位置について!レディ・・・』

 

 空気が一気に張りつめた。

 二人の手は、既に選んだポケモンの入ったボールにかけられている。

 

 

『ファイト!!』

 

 

 パフェも名誉挽回も、すでにヒノキの頭から消えていた。

 ただポケモントレーナーとしての血が騒ぐままに、彼はその頂上決戦の幕を切って落とした。

 

 

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