ポケットモンスターSM Episode Lila 作:2936
この辺りからそろそろと伏線の回収が始まるのですが、絶対に何かひとつは回収し忘れる自信があるので、最後まで終わった時に「え、あれは?」みたいな事があればぜひ教えて下さい。
【前回の要点】
リラは最近夜中に現れるという幽霊の真相を確かめるべく、フロンティア病院を訪れる。一方、ヒノキは友人であるダイゴからジラーチの前回の覚醒時についての伝承を聞く。
【七月六日 昼】
島の北西の端に位置するその施設は、フロンティア随一を誇るその
まるで、今しがた行われたひとつのトーナメントの頂点を決する勝負など、ありはしなかったというように。
「ふう。」
額の汗を拭いながら人影一つないスタンドを見渡した男が、ため息をこぼした。
「やはりどんなに熱い火種を起こそうとも、それを大きく扇いでくれる
寂しそうにそう呟く姿からは、彼の称号でもある『スーパースター』というキャラクターが決して作りものではないことが分かる。
自身の輝きを引き立てるのは静かな闇ではなく、怒涛のような熱狂と目の眩むような照明であると心から信じている。このバトルドームを預かるブレーン、ヒース・ヘザーはそういう星なのだ。
「オレも無観客自体は別に構わないんだけど。でも、このでかさになると、流石にちょっと空しいな。」
ヒースの前に立っていたヒノキも、改めて朝から今まで戦っていた会場をぐるりと見回した。初日には各地からの取材陣で賑わっていたその客席は、今は耳が痛くなるほど静まり返っている。誰もいないのだから当然だ。
「ま、でもオープンしたらきっとすぐにこの静かさが懐かしくなるよ。そん時にはまた改めて、あっついの点けてやるからさ。」
そう言って、ドームスーパースターに向けてにっと生意気に笑った。
バトルフロンティア第六の施設、バトルドーム。
挑戦者の『戦略』を試すこの施設は、ブレーン戦までの予選が全て挑戦者同士のトーナメントで行われるのが最大の特徴だ。が、試合そのものは公式ルールに則って行われるため、このフロンティアではバトルタワーに次いでオーソドックスな仕様と言える。
「・・・そうだな。その時を楽しみにしていよう。だが、その時に勝利の星としてこのフィールド上で輝くのはきみではなく私だ。それだけは明言しておく。」
さらに。
ここでは対戦の前に相手の編成だけでなく参加者内でのランクや育成・戦術の方針といった情報をも確認できるため(もちろんそれは相手にとっても同じであるが)、これまでの施設と比べると格段に策が立てやすい。
おまけに今回はオープン前という事もあり、ヒノキの予選の相手は全てバーチャルトレーナーだった。彼らの仕様は他施設と同じく、あてがわれた共有ポケモン達を分析して組み立てた戦法の実行に留まる為、本物の
「さあ。これが、きみの『戦略』がこのトーナメントを制した証であるタクティクスシンボルだ。」
そう言って、ヒースが『T』を象った銀色のシンボルをヒノキの掌に乗せた。
「ありがと。じゃあ、行くよ。」
受け取ったシンボルをパスに嵌め、感覚を研ぎ澄ますべく目を閉じる。
いつものように、脳内に深海のような、宇宙のような暗闇が映る。
その、真ん中に。
「・・・!」
瞼を閉じたまま眉の根を寄せたヒノキに、見守るヒースは願い星にまた何らかの変化があったことを悟った。
「・・・どうだい?」
少し緊張した声で、ヒースはヒノキに訊ねた。
「目はまだ閉じてるけど、『星の繭』は半分くらい砕けて、身体の見えている部分が淡く光ってた。今までの一日ごとの変化の具合から見ても多分、明日ってとこじゃないかな。」
「・・・そうか。では、施設内の見廻りと警戒を一層強化しよう。
「ああ、その方が良いだろうな。リラにはオレから伝えるよ。」
そう言って、ヒノキはポケギアを手に取ると短縮ダイヤルを押して耳に当てた。
タイクーンとして、友人としてここまで可能な限りヒノキのシンボルチャレンジを見守ってきたリラは、今日はこの場にはいない。
今朝早くに病院から入院中のローレルの容態の変化を伝えられ、今もそちらにいるためだ。
そしてヒノキの元に五つ目の施設への挑戦を促す恒例の文書が届いたのは、ちょうど彼からその報せを受けている最中だった。
「もしもし、オレだけど。ああ、さっき終わって、今もらったんだ。それで、ジラーチの事なんだけど──うん。」
ここまでの状況を報告し、今後の対応について確認した後、ヒノキは通話を切った。
「それで、リラは何と?」
「ん。今からメーリスも回すけど、各ブレーンは改めて非常時対応を職員と確認して、些細な異変でもすぐ報せてくれってさ。で、申し訳ないけど、ヒースさんはパレスをよろしく?だって。そう伝えてもらったら通じるって言われたんだけど・・・大丈夫?」
しかし、ヒノキには全く意味が分からないその依頼を、ヒースはこともなげに快諾した。
「ああ。バトルパレスのブレーンのウコンさんは『使えんものを持っていても仕方ない』といって自分のポケナビを施設の職員に預けているからね。もしもウコンさんが釣りに出ていたなら、
その説明に納得したヒノキは、以前から抱いていたちょっとした疑問をぶつけてみた。パレスと聞いて思い出したのだ。
「そういやここ、『王』って二人いるんだな。」
「え??」
目を丸くして瞬くヒースに、ヒノキはその根拠を述べた。
「え?だって、パレスの職員さんってウコンさんのこと『
その言葉で、ようやくヒースはああ、と手を打って理解した。
「ちがうちがう。あそこの『おう』は王様の王じゃなくて
「へ??城を守る兵・・・?」
思いがけない情報に、今度はヒノキが目を丸くした。
「ああ。オーナー曰くは元々別の称号を用意していたらしいんだが、それをウコンさんが固辞したそうだ。私がここへ来る前の話だから、詳しくは知らないけどね。」
ヒノキは急いで他のブレーン達の称号を思い返した。
いずれも、各々の施設の主であることを明確に示す格を持っている。エニシダが当初ウコンに用意していた称号も、おそらくはその類のものであったろう。
しかし、ウコンはそれを拒んで
ヒノキは再びポケットからギアを取り出した。
そして、その詳細を知るであろう彼らの雇用主へとつないだ。
『ああ、もしもし、ヒノキくんかい?どうだい、事件の方は?』
間もなく、エニシダの声が聞こえた。
事件の経緯はリラから日々報告を受けているはずだが、悲観的な雰囲気は全くない。本当に自分達に任せていれば大丈夫だと思っているのだろう。
「その事で、至急エニシダさんに聞きたい事があるんだ。今からオフィスに行くけど、いい?」
性急に通話を終えたヒノキは、ヒースへの挨拶もそこそこに、バトルドームの玄関を出た。
ところが、そこには思いがけない人物の姿があった。
「ウコン、さん・・・?」
それはまさに今、ヒノキの頭を占めていたバトルパレスの主、ウコン・オレナその人だった。
ここまで飛んできたのか、傍らにはこうもりポケモンのクロバットが控えている。
「どうしてここに・・・」
そのヒノキの疑問に答える代わりに、老人は一枚の紙片を差し出した。
願イ星ハ暁ノ信念 叶ウコトヲ信ズルナラバ 七日夕刻ニ己ガ魂ヲ仲間へ重ネヨ
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「先ほど釣りをしていたら、飛んできたキャモメが落としていった。明日の夕刻にという事だから、15時にパレスへ来い。」
そう言ってクロバットに掴まろうとする老人の背に、ヒノキは再び疑問を口にした。
「なあ、ウコンさん。あんたが
訊ねながら、ヒノキにはその答えについてひとつの予想があった。しかし、当人から真相が聞けない内は、あくで憶測でしかない。
老人は足を止めた。
そして、背後の少年には背を向けたまま、ぽつりと呟いた。
「老兵は語らず、ただ消え去るのみ。」*1
「ん??」
なんだかものすごくどこかで聞いた気のするセリフだが、はてどこであったか──と、ヒノキがそこまで考えたところで、老人が振り返った。
「知りたくば調べるがよい。わしは元より全てを知らぬ上に、その多くを忘れてしまった。そんな不確かなものを不完全に得るより、おまえが自身で一から知る方が真実への近道となろう。」
そうして今度こそ、南へ向かって飛び去って行った。
◇
エニシダのオフィスを出てホテルの部屋に戻ったヒノキは、パソコンの前でポケギアを構えたまま、苛立ちを募らせていた。
一刻も早く頼みたい事があるのに、それを頼める唯一の存在であるダイゴと連絡がつかないのだ。
(くっそ。あいつ、こんな時にどこで石ころ拾ってんだ?)
『貧乏暇なし』と言えど、金持ちが必ずしも暇でないことは無論ヒノキも知っている。まして彼は、一地方のチャンピオンであり大企業の若社長だ。それらの務めの為に連絡が取れないのであれば、仕方ないと思う。
しかし。
『おかけになった電話番号は、現在、電波の届かないところに──』
この下りが聞こえてしまっては、彼の岩石収集癖を知る身としては、何よりもまずその可能性を疑ってしまう。
実際、前回このガイダンスが聞こえた時は、彼はえんとつ山ことフエン岳の山頂付近にいた。
どうしても彼に会う必要があったヒノキが苦労してその場所を突き止め、こんな所で何をやっているのかと苛立ちで熱くなった口調で問うと、それを上回る温度で冷めた新鮮な溶岩が手に入った喜びを小一時間語られた。
彼と友人であるという事はすなわち、その石変人ぶりに振り回されなければならないという事だ。
『おかけになった電話番号は、現在、電波の届かないところに──』
自身がこの島を離れられない今、ヒノキにとって島外における行動はダイゴが頼みの綱だった。もちろん、異郷といえど他にまるきり知り合いがいない訳ではない。
しかし、今回のように特定の個人の情報、それも何十年も前の過去の事を大至急調べてほしいとなれば、誰にでも頼む事はできない。
この地方の人間で、人脈も人望もある上にフットワークが軽く、かつ気のおけない友人がいるなら、どうしたってそいつを頼るに越した事はないのだ。
にも関わらず、そんなヒノキの思いを乗せた電波は何度かけ直しても一向に届かない。
こういうときは──
(しゃーねぇ。アイスでも食お。)
とりあえず、気分を転換しよう。
そう考えたヒノキは、ギアをしまい、エニシダの話とインターネットの情報を元に作成した『調べてほしいことリスト』を置いて部屋を出た。
一階の売店はまだ営業していないので、買い物をするには近くのフレンドリィショップまで行く必要がある。
そのため、エレベーターを降り、フロントに会釈をして、ロビーを抜けようとした時だった。
「あ、サイフ。」
肝心な物を部屋に忘れてきた事に気付いた。
もちろん、今から取りに戻って出直すということは可能である。あくまで理論的には。
(・・・いや。まて。)
こんな時にフーディンがいたらなどとつい考えつつ、ヒノキは上下衣類の全ポケットに手を突っ込んだ。というのも、彼にはこうしてジュースやらお菓子やらを買う習慣があり、その釣り銭がしばしばどこかに入っていたりするからだ。
(ん?)
そんな彼の手が普段使わない上着の胸ポケットをまさぐった時、角の尖った薄く硬い何かが指先に刺さった。
「?なんだこりゃ。」
そうして引っ張り出したものに、ヒノキは目を瞠った。
◇
キンセツシティの一等地に建つビルにある、ポケモンジャーナル社ホウエン支局の編集部。そのオフィスの片隅のデスクで、トール・カイドはこの日も椅子の上で膝を抱えながら、卓上のしわくちゃの紙きれをヌケニンのような目で見つめていた。
「おまえ、まだ引きずってるのか。あれからもう五日だぞ?気持ちは分からんでもないが、いい加減諦めて元気出せ。な?」
通りがかった先輩記者が、そう言ってしょげた背中をばんと叩いた。が、彼はそんな先輩を悔し涙の滲んだ目で睨みつけ、負け犬のように吠えた。
「元気なんか出せる訳ありませんよ!!試合前のゲストチャンピオンと二時間も一緒にいながら、収穫は後ろ姿とこのチケット一枚だなんて──!」
あの日、バトルフロンティア行きの船を囲んだ『うずしお』が消滅したのは、特別公開の来場受付が終了する十分前。
そのため、トールはなすすべなく船の向かうままにカイナへと引き返すしかなかった。
かの少年から押しつけられたふねのチケットから、その正体を知ってしまったにも関わらず、だ。
「お、おお。なんだ、結構元気じゃないか・・・。んじゃ、お先。」
最初に彼の顔を見た時、確かにどこかで見たような気がするとは思った。しかし、そこからチャンピオンの六文字を連想するには、その雰囲気はあまりにも親しみやすいというか緩過ぎた。
また、他地方の人物という事で、名前こそ知っていても顔には馴染みが薄かった事も不運だった。
そうしてトールが、引くように去っていった先輩からデスクのしわくちゃのチケットへと視線を戻した時だった。
「・・・はい。こちら、ポケモンジャーナルホウエン支局のトール・カイドです・・・?」
チケットの隣に置いていたポケナビに、見知らぬ番号からの着信が入った。
イシヘンジンと石変人は同音異義語です。当然です。
イシヘンジンかわいいですよね。こう、四角くて。
同じく四角いコオリッポもかわいい。でも実は丸いのもやっぱりかわいい。
ちなみにうちの愛リッポの名前は『ひややっこ』っていいます。
なのでたまに間違えてひややっぽって言います。
ひややっぽ変人です。