ポケットモンスターSM Episode Lila 作:2936
肝心なところで更新が途切れてしまい、申し訳ありませんでした。遅くなりましたが、本日より隔日でラスト三話をお送りします。但し今回の57話と次回の58話は本作としてはかなり長めなので(約11000〜12000字程度)、しばらくは上下に分割して公開し、頃合いを見て一話にしようと思います。
また、前回のバトルと会話が交互に進行する仕様に加え、今回は更に一人称、回想及び視点切り替えによる場面転換も多々ある為、より読みづらい可能性があります。すみません。
おさらい↓
◇ :同時(視点切り替え)、またはちょこっと前or後(同日の範囲内)
◇ ◇ :ちょっと前or後(日付をまたぐ)
◇ ◇ ◇ :けっこう前or後(月をまたぐ)
◇ ◇ ◇ ◇ :だいぶ前or後(年をまたぐ)
【前回の要点】
ウコンとの戦いを経てスピリットシンボルを受け取ったヒノキはジラーチの覚醒とバトルタワーの異変を知り、現れたフーディンと共にタワーへ向かう。
「おい、リラ!大丈夫か!?何があった!?」
目にその場所が映るより先に、ヒノキは吠えるように叫んだ。
バトルフロンティア第一の施設、バトルタワー。
フーディンに連れられて瞬間移動をしたヒノキが立っていたのは、その70階のバトルフィールドだった。
しかし、正面の相手側のコートには誰もいない。
「なんだ、どうした?」
辺りを見回すヒノキの上着を、フーディンが引っ張った。
そして、握っているスプーンの先で天井の方を指した。
「!あれは──。」
そこには不思議なポケモンの姿があった。
星を被ったような頭に、小さな白い身体。
背からは一対の帯が羽根のように伸び、きらきらと光りながらたなびいている。
「ジラーチ・・・。」
ねがいごとポケモン、ジラーチ。
昨日までは星の繭の中で眠っていた伝説の存在は今、完全に開いたそのつぶらな瞳で千年ぶりに世界を見ていた。そしてそのジラーチの傍らにはもう一体、ハミングポケモンのチルタリスの姿がある。何者かにジラーチをそこに留める役割を与えられているらしく、半透明に輝く『しんぴのまもり』の結界でジラーチを囲っている。
(そうだ、確か──)
先ほどスピリットシンボルを嵌めた時に見た映像を思い出したヒノキは、急いでジラーチの星形の頭部を注視した。ジラーチが願いを叶えられる数を示すというその短冊は、やはり二枚しかない。それでいて、願いを叶える時に開くはずの腹部の眼は完全に閉じている。となると、それは願いを聞き届ける度に開閉するということだろうか。
と、ヒノキがそこまで考えた時であった。
──コツ、コツ。
どこからか静かな足音が近づいてくる。
心身を緊張させながらその方向を辿ったヒノキは、やがて正面奥のゲートに、一人の人物の姿を見つけた。
ふわっとした豊かな淡紫の髪。
その髪と同じくらい薄い色合いの装い。
そして、その真実を知った今だからこそ納得のいく、儚い細さをした身体。
「リラ!!」
無事だったんだな。
ヒノキはそう続けようとした。
が、その薄紫の双眸を見た瞬間、その言葉は喉元で立ち消えた。
(・・・?)
何がと言われれば分からない。
しかし、間違いなく何かがおかしい。
口をつぐんで警戒するヒノキとは対照的に、その人物はゆるりと唇を緩めた。
そして、穏やかな口調で言った。
「遅かったな。待ちかねたぞ、挑戦者よ。」
◇
「・・・誰だ、てめぇ。」
『私』の相棒と共に現れたその少年は、まるで追い詰められたポチエナのようであった。圧倒的な恐怖に怯む心を、怒りでどうにか奮い立たせて牙を剥く。「刃向かう」という言葉があまりにもなじむ、中々のご挨拶だ。
だから『私』も、それ相応の返事を返す。
「不思議な事を言うのだな。たった今、お前自身がその名を口にしたではないか。そう、リ──」
「ざけんな!
先の低く怯えた声から一転、今度は感情を露わにした怒声で『私』の言葉を遮った。大声といえどもたったの一言で息が上がっているのは、興奮と緊張、そしてこの現実のためだろう。
「・・・なんでだ?」
はあ、はあと、呼吸が落ち着かない内から彼は問う。
「
彼のその心の叫びは、私の胸にとても素朴に響いた。
私の願い。それは今まさに彼の言った通りだ。
それがなぜ、こんなことになったのか。
「なんで、か。」
声に出してなぞったその言葉に、思わず少し笑ってしまった。
なぜなら、答えは余りにも簡単だからだ。
「それはもちろん、私の宿願を叶えるためさ。今お前が口にした、『
そう。
人が変われば願いも変わる。
全てはただ、それだけの事なのだ。
◇
「お、おい、フーディン!?」
相手の放ったボールが開く前に傍らから頭上高くに瞬間移動した
それは彼の指示ではなかった。
一秒でも早く本物の主人を取り戻したいが為の、フーディンの独断だった。
しかし、ジラーチを護るチルタリスに肉迫した彼が一撃を入れようとしたその時、下からの影の豪速球がそれを阻んだ。
「どうした。私はそんな指示は出していないぞ。」
その瞬間、ヒノキは思わずこめかみを抑えた。
隣に戻ってきたフーディンのα派が荒れ狂った為に、頭に割れるような痛みが走ったからだ。しかし、今の『奴』の言葉に憤りが滾ったのは彼も同じだった。
柔らかなくせのある淡い紫の髪に、同じ色の瞳。
その聡明さが表れているかのような、静かな整った顔立ち。
それは正真正銘、タワータイクーンとしてこのフロンティアの頂点に立つあのリラに違いない。なのに。
こいつは、あいつじゃない。
険しい顔で唇を噛むヒノキとは対照的に、
「まあ良い。しかしおまえがそちらに着くというなら、こちらも対応が要る。すなわち、このカビゴンをおまえの代わりの先鋒とし、
そして先ほどシャドーボールを放った傍らのいねむりポケモンと、上空のチルタリスを順に見やった。
ジラーチに手を出したければ、まずは自分に勝て。
奴はそう言っているのだ。
その言葉に、フーディンはカビゴンに向かって攻勢を取り直した。が、
「フーディン。」
一歩前に出たヒノキが腕で彼を制した。
「おまえはちょっと下がって瞑想でもしてろ。あいつはシャドーボールが使える。」
少し震えてぎこちないものの、その言葉はフーディンに自身の過熱を気付かせるには十分な落ち着きを持っていた。彼は既に激情を堪えて目の前の戦いに集中している。そして五年ぶりに自分の
懐かしさと共に平静を取り戻したフーディンは、テレポートでフィールドの外へと退いた。そしてそこで座禅を組み、目を閉じた。
彼が戦闘を離脱したのと同時に、ヒノキは手にしていたボールを放った。現れたのはジョウト原産のみのむしポケモン、フォレトス。
「フォレ、『まきびし』だ!」
身体の四方に備わった噴射口から無数の硬く尖った実が放たれ、フィールドを埋め尽くす。足裏の肉の柔らかいカビゴンなら、これでかなり動きを制限できるはずだ。
その機を利用して、ヒノキは偽者を探った。
「この七日間のオレはさぞ滑稽だったろうな。何しろ、あんたとウコンさんが実はグルで、『海の民』としてカイオーガの覚醒を目論んでるんじゃないかって。さっきウコンさんからあんたとの約束の話を聞くまで、それがあんたの『破滅ノ願イ』だと思ってたんだから。」
その自嘲を含んだ言葉を、リラの姿をしたローレルは微笑をもって応えた。
「いや。あながち全くの見当外れという訳でもないさ。」
そしてカビゴンに『はらだいこ』を命じてから、その詳細を続けた。
「確かに私の望みに
その問いに、ヒノキはこの二日で得た知識から言葉を選んで回答を作った。
「・・・古代ポケモンのカイオーガを守り神とし、年間を通じて海の上で生活を送る海洋民族。千年前、狂信的な思想を持つ若者達が海を拡げるために呼び覚ましたカイオーガと『陸の民』のグラードンの争いは歴史に残る大災厄として有名。その後も度々似たような者が現れては同じ事を試みるが、いずれも失敗に終わっている。最近では、『アクア団』を名乗る海洋保護団体の幹部がこの一族の出身であることが分かっている。」
「その通りだ。だが、我々当事者にとっては重要なのはそこではない。」
リラもといローレルは静かに答えた。
「今お前が言った通り、千年前、我々の先祖たちはこのホウエン全土を未曽有の危機に晒す過ちを犯した。そのため一連の騒乱の終息後、社会からの報復や迫害を恐れた彼らは、それまでの本土近海から遠く離れた現在のキナギの場所に居を移した。すなわち、キナギとは
「落人・・・?」
「そう。しかし、先にお前も述べたように、実際に事を起こすのはいつの世も一部の極端な思想を持つ者に過ぎない。殆どの民は海と静かに生きる事を願う、凪のように穏やかな人間だ。そしてそれは千年前も例外ではなかった。が、世間はそうは考えぬ。・・・ここまで言えば、私の『夢』がどういう願いの元に生まれたものか、何となく察しがつくだろう?」
そう言って、ローレルは若い薄紫の瞳を遠い日へと馳せた。
◇ ◇ ◇ ◇
「さあ、じきに朝日が水辺を照らす頃だ。漁師たちと鉢合わせないよう、おれはもう行くよ。」
隣のホエルコの背から仄明るくなった水平線を見渡す友人に、ウコン・オレナはその言葉に相応しい返事が返せなかった。
「なあ、ムスカル。」
十五年来の友人の見慣れない憂顔に、呼びかけられたムスカル・ジャコウは目を見開いた。
「どうしたウコン。深刻な顔をして、柄でもない。」
その澄んだ瞳に、ウコンは一瞬話すのをためらった。
が、意を決して口を開いた。
友人だからこそ、伝えるべきだと思ったからだ。
「昨日、流星の民の里から来た行商人に聞いたんだ。どうも最近、『陸の民』の間で
しかし、ムスカルはそんな親友の心配を笑って退けた。
「本土の人間の民族不信は今に始まったことじゃない。そんな事を言っていたら、いつまで経っても旅立てないよ。だいたい、そこで日和ってしまっては、それこそ後ろ暗い事があると自分で言っているようなものだ。」
「・・・そうか。そうだな。」
その言葉にウコンは頷いた。そして、ポケットから貝殻で作った鈴を取り出した。どこか不思議なその音色が響き渡ると共に水面が揺らぎ、やがて長い身体に鮮やかな斑点を持つポケモンが顔を出した。それは彼らの海の友人だった。
「おまえが行った後、こいつとカイナの方向へ『うずしお』を起こす。それで漁師たちは遠ざけられるはずだ。こいつも、おまえのことを応援していると言っている。」
「助かるよ。・・・なあ、ウコン。」
「なんだ?」
「この先も、お前には少なからず迷惑をかけることになる。すまない。」
「何を謝ることがある。おまえの夢こそおれ達の未来だ。一流のトレーナーとなったおまえがこのキナギに
改まった調子で頭を下げてきた友人に、わざとらしくならない範囲でウコンは明るく言った。
そう、すべてはその未来が来るまでの一時の辛抱なのだ。
この先本土で彼を待ち受けているであろう苦難も、郷里における裏切り者の烙印も。
「そうだ。さっき言った流星の里の行商人から面白いことも聞いたんだ。ここからサイユウまでの途中にあるアマミ群島のどこかに、流星の一族の神を祀った古代の祠があるらしい。帰ってきたら、一緒に探しに行かないか。」
ウコンの年相応の若者らしい提案に、ムスカルも白い歯を見せて応えた。
「それは面白そうだ。そうとなればなおさら、早く身を立てて帰って来なければな。」
◇ ◇ ◇ ◇
再び視線を現在に戻したローレルは、淡々と続けた。
「移住後の先祖達の暮らしは過酷そのものだった。それまでのように各地の港を巡って交易することも出来なくなり、物理的にも社会的にも孤立してしまったからだ。もし先祖達にポケモンがいなければ、我々が今日まで血を繋ぐことは到底できなかっただろう。」
『まきびし』の海の向こうから、カビゴンが次々と『シャドーボール』を放り込んでくる。『はらだいこ』で最大限のパワーを得ている為に、その勢いは凄まじい。
が、フォレトスはそれを『まもる』ことで尽くはね除けていた。
「常に貧しさと死が隣り合わせの日々の中で、先祖とポケモン達は常に魂を寄せ合うように生きてきた。そうした特殊な環境が、やがて特別な力を備えた者を生み出すようになったのだ。すなわち、『キナギの
初めて知る真実に、ヒノキはウコンがその力を持つことに納得した。特殊な自然環境や歴史的背景を持つ土地には、しばしば特殊な力を持つ人間が現れる。カントーのトキワ出身者の間で稀に発現する癒やしの力はその代表的な例だ。もしかしたら、ポケモンと対話ができるリラもそうした人間の一人なのかもしれない。
「数奇にも同じ年に生まれたウコンと私にも宿ったその力は、やがて他者と心を通わせ信じることの意味、そして真の絆で結ばれる喜びを教えた。そうした体験を経た私は、次第にこの郷と外の世界も同じようにつなげられはしないかと考えるようになったのだ。」
カビゴンは『シャドーボール』を連投し、相手のガードが崩れるのを待っている。が、フォレトスの防御は要塞のように堅い。本来の属性と異なる技を放つ為にどうしても発動に時間がかかり、その間に防御壁を張り直されてしまうのだ。
「先にも触れたように、当時の世間が我々を見る目は偏見に満ちていた。しかし、実際にはいかなる者であるかを知れば、変わることがあるのではないか。そんな思いに駆られるようにして、あの日私は暁の海を後にしたのだ。・・・だが」
その続きが語られるまでに少しの間があった。
その間に、彼は苦々しげに表情を歪めた。
「飛び出していった先の世界で私を待っていたのは、ただただ無情な現実だった。何も知らぬ内は友好的であった人々は、私が海の民であると知るや否や、目の色を変えた。憎悪、警戒、恐怖、猜疑・・・そんな色にな。」
もはや努めて平静を装っている事が明らかな声で、それでも彼は自身の経験した怒りと失望を語り続けた。
「やがて私の噂が広まると、道では露骨に蔑まれ、
カビゴンが影の球を投げる手を止めた。
このままでは埒が明かないと悟ったのだ。
「そうして私は、自分の夢が手の届かぬ高さで輝く星であったことを知った。しかし、掟を破って郷を抜け出した手前、何も為さぬ身で帰ることも出来ない。やむなく素性を偽って各地を転々とし、最終的にはカイナでポケモンセンターの機械のメンテナンス業と海の博物館の職員を兼業して生計を立てていた。・・・そうして月日が流れたある日、あの男が現れたのだ。」