ポケットモンスターSM Episode Lila 作:2936
大体前回と同じです。本当にすみません。
【前回の要点】
フーディンと共にバトルタワーへ飛んだヒノキは、覚醒したジラーチが見守る中、リラに成り代わったローレルと戦う。
◇ ◇ ◇
「ライコウ・・・ですか?」
一ヶ月ぶりに帰島した愛弟子が連れ帰った異郷の珍獣に、ローレルは瞠目せずにはいられなかった。
その昔、一度落とした命を
「はい。エンジュシティで雷雨に遭った時、雨宿りをしていた古い塔で出会ったんです。最初は相手にされませんでしたが、ぼくが塔を守っている事を話すと、少しずつ興味を持ってくれて。」
その風格といい力といい、確かに「タイクーンの象徴となるようなハクのつくポケモンを捕まえてきてほしい」というエニシダの注文は十分満たしているだろう。
しかし──。
「しかし、このホウエンにもラティオスやラティアスという存在がいるではありませんか。それでも、わざわざジョウトまで行かれたのですか?」
釈然としないローレルは、彼が連れ帰ってくるであろうと考えていた、ホウエンの双竜の名を出して訊ねた。ほとんど南の果てであるといえど、ここがれっきとしたホウエン地方である以上、やはりタイクーンの象徴にはホウエン固有の種が望ましい。実際、旅立つ前の彼に自分が勧めたのも彼らだ。
しかし、彼は雷獣の素晴らしい毛並みを撫でながらその理由を述べた。
「ジョウトの三獣の名は『
「・・・なるほど。左様でございましたか。」
そう言われれば、確かに一理あると言えなくもない。
しかし、この聞きわけの良い子がここまでこだわりを見せるというのは、おそらく──。
日頃の付き合いから彼の真意を察したローレルは、咳払いをしてあくまでさりげない口調で訊ねた。
「それで?ご友人に会う事はできたのですか?」
途端にぎくりと肩を揺らした少年に、やはりまだ子供だと鼻からため息が漏れた。
◇ ◇ ◇
「・・・なるほど?『お楽しみ』ってのは、こいつの事か。」
昨夜のリラの言葉を思い出しつつ、ようやく目の前の現実を認めたヒノキは呟いた。生後の十年間をジョウトのエンジュシティで過ごした彼は、この雷の化身の事はもちろん知っている。そうそう人間に関心を持たない事も、その知性と誇りの高さに見合った力を持つ事も。
一段と厳しさを増した状況に思わず舌打ちが出た、その時だった。
「てっ!」
突然何かが眉間を小突き、思わず伸びた手がそれを掴んだ。
それは上着のポケットに入れていた、あのリラからのスプーンだった。そしていつの間にか、落ち着きを取り戻したフーディンが隣にいる。
「フーディン・・・。」
その意図を悟ったヒノキは彼に向かって小さく頷き、スプーンを握って目を閉じた。その心地よい冷たさに、不思議と気持ちが落ち着いていく。
やがて、瞼の裏にある光景が映った。
懐かしい
少し寂しそうに微笑む彼に、フーディンがそっと額にスプーンを当てる。
軽く目元を拭った彼は、相棒に向かって笑って頷いた。
「うん。そうだね。」
ぼくたちがまた会おうと約束したのは、バトルタワーの最上階だものね──。
そこでヒノキは目を開いた。
そして再びフーディンと視線を交わして頷き、目の前のライコウを見た。その瞳に敵意はなく、ただ試すような目で自分を見ているばかりである。「さあ、こんな時はどうする?」とでもいうように。
「さあ、どうする?退くのも策の内だ。殊に、勝ち目の薄い相手を前にした時はな。」
奇しくも胸に浮かんだものと同じ言葉がヒノキの耳に届いた。しかし、そんな挑発じみた揺さぶりでは彼はもう揺れなかった。
「んなの、もう言っただろ。」
怯む気持ちはどうしたって拭いきれない。
だが、それでもこのまま折れる訳にはいかない。
「この戦いだけは、何があっても負ける訳にはいかねーって。それに、何より──」
この誇り高い雷獣をここまで従えてきたということは、あいつはその目に適ったということ。
それが、今のあいつのトレーナーとしての地点。
「あいつがそこにいるんなら。オレも行かなきゃならないんだよ。必ず。」
少年の言葉に、思わずローレルの口元が綻んだ。
嘲笑でも失笑でもない、挑み挑まれる快感からこみ上げる笑み。こんな心地は、遠い昔のウコンとの勝負以来だ。
「ならば私が試してやろう。おまえの『才能』がおまえをどこまで連れていけるのかを!」
ライコウが天に向かって轟くような咆哮を上げた。
彼もまた、目の前の少年を試すことに高揚を感じたようだった。
◇
フーディンに相手を分析する為の
かつて、ケーシィを探すために侵入した焼けた塔での出会い。
スクールの授業で地元の郷土史研究家から聞いた伝承。
ポケモンリーグを制した後、改めてジョウトを巡る旅の中での幾度かの邂逅。
それらの情報の全てが、この現状に対しては同じ結論をヒノキに示していた。すなわち、「あの雨雲を抑えろ」と。
「フーディン!」
ヒノキは一旦フーディンを呼び戻し、その旨を伝えた。
どうやら彼も小手調べの中であの発電器官が敵の肝と覚ったらしく、頷いて同意する。
問題は、それをどうやって遂行するかだ。
「どうした。来ぬならこちらから行くぞ!」
件の紫雲がバチバチと火花を散らすと共に、ゴロゴロと不吉な音を響かせ始めた。雨雲が雷雲になろうとしているのだ。
「・・・だから、そこでこいつを叩き込めばいけるんじゃないかって思うんだけど。どうかな?」
扇動を意に介さず、ヒノキはポケモン図鑑の画面を指してフーディンに自分の案を伝える。そこに表示されているのは、フーディンが今覚えている技の一覧だ。
フーディンは目を瞑ってその策の可能性を計算した。
そして目を開くと、こくりと頷いた。
「おーし。頼むぜ、相棒。」
知能指数5000の相棒の同意を得たヒノキは、その痩せた背中をばんと叩いて再びフィールドへ送り出した。
◇
「ライコウ、相手はおそらく短い『テレポート』で撹乱を図ってくる。惑わされぬよう気をつけろ。」
牽制戦から見立てた予測をポケモンに伝える。端的に、そして具体的に。
「そうだな・・・。こちらもフェイントを交えるのも面白かろう。まあ、お前の思うようにやればいい。」
ライコウに対しては、私はあくまで必要最低限の指示しか出さないよう心がけている。それは信頼もあるが、何よりもこの雷獣の誇りの高さを考慮しての事だ。
ポケモンも人間と同じようにそれぞれに性格があり、個性がある。だからトレーナーはその個性を尊重し、特徴を活かして最大限の力が出せる方法を模索しなければならない。
(楽しいものだな。)
何だろう。
この、内側から呼び覚まされるような感覚は。
(いや、内側からだけではないか。)
今、こうして私を揺さぶっているのは。
「フーディン!奴は距離に合わせて
なぜ彼らは、ああも当たり前のように息を合わせられるのだろう。あの年頃の五年といえば、成人後の数十年に匹敵する隔たりのはずだ。
──絆。
ふと浮かんだその言葉に、胸が澱んだ。
たちまち美しい感情に翳りが差し、どす黒い雷雲へと変わってゆく。
「ライコウ、『めいそう』だ!目ではなく相手の体内を巡る電気で位置を追え!」
人間同様、殆どのポケモンにはその生命活動を支える為に体内に微弱な電気が通っている。いわゆる電気信号というやつだ。
尤も、普通のポケモンならばその感知は難しいだろうが、電気に感度の高いポケモンなら、少し集中力を高めることでそれは可能となる。
「フーディン!」
私の策は功を奏した。
視覚や聴覚ではなく電気で相手を追うことでライコウの反応速度が上がり、ついにその身体に『かみなり』を落とす事ができたのだ。しかし、この戦いはそれで終わりとはならなかった。
(向こうも『めいそう』が効いたか。)
やがて煙が晴れ、身体のあちこちを焦がしながらも佇むフーディンの姿が現れた。どうやら、第一試合の間に場外で積んでいた『めいそう』の効果らしい。だが、次の一撃を耐え切れないのは一目瞭然だ。
「『ほうでん』で中距離を牽制しつつ『かみなり』を狙え。奴はそれで落ちる。」
基本的に、技の消費エネルギー量というのはその威力に比例する。一度の戦いで大技がそう何度も使えないのは、それだけエネルギーの消耗が大きい為だ。が、このライコウにはその枷がない。
雲という、非常に効率的な電力供給システムを備えているために、一般的なポケモンのようにエネルギー源の摂取や休眠といった
ライコウの放つ『ほうでん』が自然と相手の移動を制限し、『かみなり』の狙いを定めさせる。背の雷雲はいよいよ激しく弾け、不吉な音を響かせる。
その時だった。
「『
私は一瞬、自分がその技の名を聞き違えたのだと思った。
しかし、フーディンは躊躇う事なく左手の匙を宙へ放り投げた。
直後、稲光が閃く。そして──
「・・・!!」
再び、辺りが灰色の厚い煙に巻かれた。
その煙に咽せながら、私は叫んだ。
「ライコウ!電気反応に集中しろ!そうすれば、必ず──」
相手を捕えられる。
しかし、私はそう続ける事ができなかった。
その相手がついさっき、数十万ボルトの電撃を浴びた事を思い出したからだ。
(まさか。電気反応を追えなくするためにわざと──?)
そこまで考えた時だった。
あの生ける雷の、雷鳴のような叫びが響き渡ったのは。
「!?どうした、ライコウ!」
煙はまだ晴れないため、その身に何が起きたのかはわからない。だが、フーディンは自らの身代わりの被雷針として、自身のサイコパワーの源であるスプーンを一本手放した。すなわち、力が半減した技など、決してライコウが叫び声を上げるほどの威力にはなり得ないはずだ。
──そう、それが
「何・・・!?」
ようやく煙の晴れたフィールドの中央に現れたのは、想像もしなかった光景だった。
完全に凍りついたライコウの雲。
その真ん中に刺さるフーディンの右腕。
そしてその細腕に、凍てつきながらも上体を捻って必死に牙を突き立てるライコウ。
「『れいとうパンチ』だと・・・!?」
確かに、あの子は最近フーディンの戦術の幅を広げる為にジョウトで入手した技マシンを試していると言っていた。
だが、こんな技まで覚えさせていたとは知らなかった。
「雲の成分は水だからな。凍らしちまえば何とかなるかもって思ってさ。・・・まあ、予定ではもうちょっと凍結が早くて、こうやって肩を噛み砕かれる事もなかったんだけど。多分、電気で体温が上がってたせいだな。」
そう言って少年は手を出した。
その手に向かって、私は黙ってフーディンのボールを投げた。
「分かってんじゃん。さすがはこいつのトレーナーだ。」
「ふん。さすがにこれだけ嫌われていたら分かるさ。そいつが私の放ったボールを拒むことくらいな。」
少年の手によって、フーディンは素直にボールに戻った。
絆という言葉が再び私の胸を締めにかかる。
「さあ、これで互いに残すはあと一体ずつだ。私は宣告通りあいつを使う。・・・来い、チルタリス!」
嫌な思いを振り払うべく、私は声を張った。
まもなく、呼ばれたハミングポケモンがジラーチを結界ごと引き連れて降りてきた。結界はそのままバネブーに引き継がせる。
「オッケー。じゃあ、不公平にならないようにオレも予め見せとくよ。」
そう言って、少年は最後のボールを放った。
「自分のポケモンの事をよく分かってるあんたなら。きっとこいつの事も分かるよな?」
少年の皮肉まじりの言葉に眉をひそめる前に、ボールの起動光が切れた。
そうして露わになった姿に、私は目を疑った。
「・・・!!」
少年の隣に現れた、一体のポケモン。
それは、今私の隣に控えているのと寸分違わぬ姿をした存在──ハミングポケモンのチルタリスだった。
当初は流れ(銀シンボル仕様)に沿ってリラの伝説枠はエンテイの予定でしたが、諸々の事情によりライコウになりました。
エンテイファンの皆様、申し訳ありません。