ポケットモンスターSM Episode Lila 作:2936
リラちゃんポケマス実装おめでとう!!!!(大遅刻)
【前回までのあらすじ】
互いの過去と向き合ったヒノキとリラは、再び相棒として共にUBの保護任務に当たる決意をする。
67.二人の関係
「──チロン、どこ?いるなら返事して。お願いだから。」
南国らしからぬ針葉樹の森に、不安と疲労を帯びた声が響く。
彼女が必死に呼んでいるのは、昨日いなくなってしまった、大切な家族の名前。
「うっ・・・!」
返事の代わりに吹きつけた風の冷たさに、思わず足が止まる。
空から迫る宵闇が、不安を一層掻き立てる。
──やっぱり、わたしじゃダメなのかな。
何度振り払ってもすぐに戻ってくる負の思考が、また頭を占める。
(ううん、そんな事考えちゃだめ。私ならきっと大丈夫。)
本当は誰かに言ってもらいたいその言葉を必死に自分に言い聞かせながら、彼女は迷子の捜索を再開した。
◇ ◇
「ええっと。目撃者の証言によると、確かにこの辺りのはずなのですが・・・。」
細い指で忙しなくタブレットの画面を繰りながら、リラが言葉尻を濁した。
少し声が大きいのは、辺り一帯を吹き荒れる吹雪のためだ。
「うーん、確かにビミョーに反応はあるけど。でも、昨日の今日にしてはちょっと数値が低過ぎるな。やっぱこの天気のせいか?」
右手の小さな機械と睨めっこをしていたヒノキが、やはり張りぎみの声で応えた。それはバーネット博士が開発したウルトラスペースのエネルギー(UltraSpaceRays:通称USR)の計測機で、数値からウルトラホールやビーストの出現あるいはその痕跡を推測できるという優れものだ。
が、残念ながら現在の状況下では、その本来の実力を発揮しきれずにいた。
「ええ、おそらく。この吹雪で大気中のUSRが拡散されてしまっているのでしょう。」
「てことは、裏を返せば『本体』が近くにいても、それに見合った数値が出ない可能性もあるってことか。こりゃ厄介だな。」
計測機をコートのポケットにしまったヒノキは、改めて自分達を取り巻く環境を見渡した。
360度どこを見ても、白、白、白。
方向はおろか昼夜の判断さえつかないような白銀の闇が、美しい光の幕を隔てた先に広がっている。
「しっかし、この南国にこんな雪山があるとはなあ。こんな本気のホワイトアウト、真冬のシンオウ以外で見たことねえよ。もし本当にこの山にUBが潜んでるとしたら、やっぱり氷に耐性があるタイプなのかな?」
移民と原住民の文化が共存するアローラ第三の島、ウラウラ島。
その中央に聳えるラナキラマウンテンはアローラで最も標高の高い山であり、ほぼ全域が一年を通じて氷雪に覆われている。
人の居住域とは対照的なその環境から、この地方の豊かさと厳しさの象徴として、古来より神の棲まう地と崇められてきた霊峰だ。
「もちろん、その可能性もあるとは思いますが。ただ、私達が今こうして『オーロラベール』に守られているように、耐性に関係なく吹雪から身を守る方法もありますし、既知の種に関しても今ある情報が全てではないはずですから。情報の少ない現段階では、無理に相手の像を固めすぎない方が良いでしょう。」
このやり取りこそが、彼らが今この雪山にいる理由だった。
このところ、アローラ各地で日没から明け方にかけての夜間帯に未知のUBらしき生物が相次いで目撃されている。
中でも特に目撃情報が多いのが、メレメレ島のダイヤモンドヒルとこのラナキラマウンテンであるため、寄せられた情報をもとに現場検証を行っていたのだ。
「っと、そうだった。確かにオレ達だって、おまえの存在を知らない人が見たら完全にただの心中だもんな。一部だけじゃ本当の全体像なんて分からないよな、ケオ。」
そう言って、ヒノキは傍らの純白の相棒の頭を撫でた。彼女は俗に『アローラのすがた』と呼ばれるこの地特有の形態をしたキュウコンで、愛称の『ケオ』はアローラの古語で白を意味する。
この、人間には過酷過ぎる荒天の中で二人が殆ど下界と変わりなく行動できるのは、この山で生まれ育ったケオの土地勘と、吹雪を利用した強力な防御壁である『オーロラベール』のおかげだ。
そこに、黒い影が光の幕をすり抜けてきた。
やはりこの山で生まれ育った、リラのマニューラだ。
「おかえりなさい。何か変わった事はあった?」
身体に積もった雪を払ってやりながら、リラが訊ねた。この白い闇夜でも目が効き、かつ敏捷に動ける彼女に付近を探索してもらっていたのだ。
『まにゃっ!』
主人の問いに、マニューラは頭をぶんぶん左右に振って答えた。すなわち、ノーだ。
「そう、わかった。ありがとう、ご苦労さま。」
リラはマニューラを労ってボールに戻すと、ヒノキの方を振り返った。
「時間も時間ですし、私達も引き揚げましょうか。これ以上続けても収穫は見込めなさそうですし。」
「だな。ケオも何も感じないって言ってるし。ま、明日に期待だな。」
リラの提案にヒノキも頷いた。
この条件下で全ての感覚において彼女達に劣る
無収穫もまた収穫として、二人は山を降りた。
◇
「ぇっっくましゅん!!」
「大丈夫ですか?」
ラナキラマウンテンの調査を終え、それぞれが宿をとるアーカラ島へと帰る空の道中。リザードンの上でくしゃみをしたヒノキに、並んで飛ぶボーマンダの背からリラが声をかけた。
「ん、ちょっと身体が冷えたかな。でも寒気とかはしないし、大丈夫だよ。帰って寝りゃ治るさ。」
そう言って水洟を啜ったヒノキに、リラは顔を曇らせた。
「ごめんなさい。せっかく手伝ってもらったのに、風邪を引かせただけで終わってしまいましたね。」
「何でおまえが謝るんだよ。さっきのはたまたま会ったから合流したってだけで、全部オレが好きでやった事なんだから。おまえが責任感じる必要なんか一ミリもねーよ。」
実は今夜の調査は
彼らUB対策チー厶の元に、ラナキラマウンテンで謎の生物を見たという目撃情報が寄せられたのは今日の夕方のこと。そこで明朝に現地調査を行う方向で話がまとまり、一同は解散した。
そしてその一時間後、リラはラナキラマウンテンの入山ゲートで、自分と同じように防寒着を着込んだヒノキと鉢合わせたのだ。
「でも、明日も朝からの調査になりますし。念のため、お薬は・・・そうだ!」
そこでリラはぱっと表情を明るくし、楽しげな調子で言った。
「ね。この後、少しいいですか?」
◇
ヒノキがリラに連れてこられたのは、彼女が滞在するモーテルに隣接する8番道路のポケモンセンターのカフェだった。
「やあ、アローラ。今日もおつかれさま。・・・おや。」
白い髭と恰幅が立派な色黒のマスターは、リラに声をかけてから隣に立つヒノキを興味深げに見た。
「はい、アローラ。マスター、いつものをふたつ、お願いしますね。」
どうやら二人はすっかり顔馴染みらしい。
オーダーを済ませたリラがそのままマスターの前の席に腰を下ろしたので、ヒノキもその隣の席に座った。
「いつものって、そんなにしょっちゅう飲んでるのか?」
「ええ。先日、モーテルへ移ってきた日にマスターが勧めてくださったのがとても美味しかったので。それからは毎日、一日の終わりの楽しみとして頂いています。」
確かにこのカフェでは夕方以降は酒類の提供がある。しかし、この生真面目な彼女が毎日『仕事終わりの一杯』をやっていたとは思いもよらなかった。
と、ヒノキがそこまで考えた、その時だった。
「はい、おまちどうさん。特製エネココア、二人分ね。」
目の前に置かれた白いマグカップの中身は、ほわほわと湯気を立てる熱いココアだった。真ん中には、可愛らしいエネコの絵柄のついたマシュマロがひとつ、ぷっかり浮かんでいる。
「・・・もしかして、『いつもの』ってこれ?」
「はい。オハナ牧場産のモーモーミルクがたっぷり入っているので栄養満点ですし、身体も温まるのでよく眠れるんですよ。」
そう言われて、ヒノキは隣のリラと目の前のココアを交互に見た。今のところ、彼女の体型に特に変化はない。
「・・・ま、ほのおとこおりを半減しない程度にな。」
「!ちょっと、それ、どういう意味です?」
「はっはっは。お二人さん、楽しそうだねえ。そんな仲良しさん達にはこれをあげよう。」
そう言って、マスターは二人の前に一つずつ小さな赤い包みを置いた。このカフェでは、ドリンクを注文すると日替わりのお菓子のサービスがある。この日マスターが二人に選んだそれは、その名の通りハートの形をしたイッシュ地方の高級チョコレート、ハートスイーツだった。
そうしてふたつ並んだ赤いハートに、リラの頬にほのかに赤みが差した。
「え?ち、違いますよ!私たちは別に、そういう関係では──ねえ!」
マスターの
「ん?なんか言っは?」
返ってきたのは、口をもごもごさせた間の抜けた顔と言葉だった。これは多分というか絶対、それがどういうニュアンスで供されたか気付いてないし、そもそも今のやり取り自体聞いていなかった顔だ。
「・・・いえ。別に、何もないです。」
「?何だよ。つーかこれ、めっちゃうまいぞ。あ、もしかしてチョコ嫌いか?なら、オレが代わりに──」
ヒノキが言い終わらない内に、リラはさっと包装を解いて中身を口に入れ、伸びてきた手には空になった包み紙を押しつけた。
そんな二人に、マスターはまた楽しそうに言った。
「ははは。そんなに気に入ってもらえたなら嬉しいよ。また明日もあげるから、また二人でおいで。」
◇
カフェを出た二人は、モーテルまでの100メートルほどの道のりを並んで歩いていた。
月の光がアスファルトに柔らかな影を作り、花の香りを帯びた南国の夜風が、二人の間をゆるやかに吹き抜けていく。とても心地の良い夜だ。
「いやあ、『マスター、いつもの』なんて言うから、仕事中毒の上にアル中なのかと思って心配したぜ。どんだけストレス溜まってんだよって。」
そう言ってヒノキはからからと楽しそうに笑った。
しかしその能天気さが、隣のリラの機嫌を損ねていた。
「それはご心配をおかけしてすみませんでしたね。どうせ仕事中毒の糖分過多ですよ。」
小さなどくばりを仕込んだ返事をしながら、リラは胸の内でため息をついた。
まったく、この男はどうしてこうなのだろう。
さっきのハートスイーツといい、もう少し状況に合った、気の利いた言葉は言えないものか。
と、そう思った時だった。
「でもおかげでほんとに温まったし、元気になったよ。ありがとな。」
その言葉に、リラの胸に小さな丸い灯が灯った。
期待していたのとは少し違うけれど、まあいいだろう。
「いえ。お礼を言うのは私の方ですよ。」
「ん?」
「さっきの調査。
「だから別にそんなんじゃねーよ。オレも自分が気になったから、明日の下見がてら行ったってだけだし。」
ヒノキはそう言ったが、リラにはむしろそれが嬉しかった。
こうして、同じ熱量で同じ目標に向かって任務に取り組んでくれる相方がいること。それだけで心が強くなって、明日も頑張ろうという気力が湧いてくる。
間もなく二人はモーテルに着いた。
ヒノキは空いたパーキングスペースへボールを放つと、現れたリザードンの背に乗った。
「じゃ、また明日な。おまえも風邪引かないように気をつけろよ。」
「ええ、ありがとう。あなたも気をつけて。おやすみなさい。」
ヒノキは片手を上げて応えた。
そしてリザードンは翼を広げ、夜空へと飛び立っていった。
◇
ヒノキが見えなくなってからも、リラはしばらくそこに佇んで空を見上げていた。
いつ見ても美しいアローラの月が、なんだか今夜は特別綺麗に見えるからだ。
──ピリリリリリリリ。
そこに、自作の島めぐりのあかしを提げたPHSが鳴った。
小さな画面に表示された名前は、今しがた別れたばかりの相方だ。
「──はい。どうしました?」
緊急連絡用の電話に入った着信に、リラは何があったのかと少し声を緊張させた。
が、それは全くの杞憂だった。
『いや、全然大した事じゃないんだけどさ。なんか今日の月、すげーきれいじゃね?』
「へっ??」
UBのUの字もない情報に、リラは困惑した。
『え?あっ!すまんミスった、これピッチだな。スマホと間違えた。』
ヒノキの慌てぶりに、リラもようやく彼が任務用のPHSと私用のスマートフォンを間違えた事を理解した。
同時に、いつも緊迫したやり取りしかしないPHSでののどかな会話がおかしくて、つい笑ってしまった。
「いえ、構いませんよ。それに──」
任務用の携帯を耳に当てたまま、リラも再び夜空を仰いだ。
まるで心がエネココアを飲んだみたいに、胸にほっこりと甘い温もりが広がっていく。
「ちょうど私も今、同じ事を思っていましたから。」
今日は十三夜。天気が良ければ明後日は満月だ。
その時は一緒に見られると良いなと思いながら、欠けてなお美しい月をもうしばらくの間眺めていた。
ご無沙汰しておりました。
第四章は全11話を不定期でお送りする予定です。
お久しぶりの方も初めましての方もよろしくお願いします。そしてポケモンマスターズEXというアプリゲームが今はなかなか面白くなっていますので、そちらもぜひよろしくお願いします(布教)
【アローラグルメずかんNo.01】
マスターとくせいのエネココア:
さいごに マシュマロを うかべるので ココアじたいは あまさひかえめ。おとなようには かおりとふうみをよくするため ラムのみでつくったおさけが ちょっぴりはいっている。