ポケットモンスターSM Episode Lila   作:2936

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【前回のあらすじ】
ラナキラマウンテンで迷子のアローラロコンを保護したヒノキ達は、首輪に記されていた住所へ送り届けることに。そこはシンオウからやって来た女性、ハリエが一人で営むカフェだった。


69.8番道路の祭り

 

「おー、やってるやってる!やっぱいーよな、祭って。」

 

 アーカラ島の8番道路は『恋人達の散歩道』とも呼ばれるアローラ屈指のデートスポットである。

 そんな場所で終わりが見えないほど軒を連ねる出店に、ヒノキがはしゃいだ声を上げた。

 

 恋の祭りというからにはカップルばかりかと思いきや、意外と家族連れやポケモン連れも多く、普通に地域の大きな祭りという雰囲気だ。

 

「虹が出るまでまだ時間あるし、とりあえず一周してみるか。なんかおもしろそーな店もいっぱいあるしな。」

 

「は、はい!」

 

 ヒノキの半歩後ろに着いて、リラも歩き出した。

 なんだかとても不思議な感じがする。

 思えば仕事抜きでこんな風に一緒に歩くのは初めてだ。

 

「おっ!見ろよ、あそこの氷屋のメニュー。『こなゆき みぞれ あられ ふぶき』とか、味なのか氷なのか分かんねーよな。」

 

 右手の前方に見える『オニ甘い!オニ冷たい!オニゴーリかき氷』と書かれた看板の屋台を指して、ヒノキが言った。とても楽しそうだ。

 

「え、ええ。・・・ほんとうですね。」

 

 しかしリラはそんな謎のシェイブアイスより、この先の自分達の事の方が遥かに気がかりだった。

 

 これからどうなるのだろう。

 このまま、恋のご利益があるという虹を一緒に見るのだろうか。

 もっとも、自分達はそもそもそういう間柄ではない。

 でも、それがきっかけで何かが変わることもあるのかな。

 

 改めて、子どものようにはしゃいで歩く目の前の背中を見る。

 たぶん、きっと、おそらく、そういう事はないだろう。

 いや、絶対ないに違いない。

 

 

 けど、一応メイクは確認しておこうかな。

 

 

「ヒノキ、ごめんなさい。私、ちょっとお手洗いに──」

 

「ん?」

 

 リラに呼びかけられてヒノキが振り向いた、その時だった。

 

「やばい、もう一時間前だ。今から行っても間に合うかな?」

 

「なんとかなるんじゃないか?最悪サインは無理でも顔くらい見れるだろ。ロイマ、でかいしな。」

 

「なに!??」

 

 すれ違いざまに聞こえた通行人会話に、ヒノキの目の色が変わった。かと思うと、次の瞬間にはその会話の主達を捕まえ、詳細を訊き出していた。

 

「すまん、なんかもうすぐあっちでロイヤルマスクのシークレットサイン会があるらしいんだ。オレちょっと行ってくるから、今から自由行動な。じゃ、解散!」

 

「え?いや、あの、ちょっと──」

 

 何言ってるのか分からないんですけど、とリラは続けようとした。が、その頃には既にヒノキの姿は雑踏の向こうに消えていた。

 

「・・・・・。」

 

 ロイヤルマスクという人物が、アローラ伝統のポケモンバトル『バトルロイヤル』のスター選手であることはリラも知っているし、ヒノキが彼のファンであったとしても別に不思議はない。

 それ自体は構わないのだが、今この状況でヒノキが彼のサインを求めて行ってしまった事については、全く同意できなかった。

 だってそんなもの、今じゃなくたってククイ研究所に行けばいつでも手に入るでしょう──?

 

 

 残されたリラは、しばし呆気にとられてその場に立ち尽くしていた。が、次第に何とも言えない感情が込み上げてきた。

 

(やっぱり、そんな事ある訳ないか。)

 

 最初から分かりきっていた事ではある。

 ただ、互いに過去と向き合い、その上で一緒にいたいと伝え合えた日から、自分達の何かが少し変わったような気がしていた。

 互いに今までよりずっと気軽に接する事ができるようになり、それが楽しくて嬉しかった。

 

 だから、少しくらいは、そういう心配だって──。

 

 

 ふぅ、とため息をつき、人混みの流れに任せて歩き出そうとした、その時だった。

 

『まま♪』

 

 突然、視界を遮ったピンク色の球体に、リラははっと我に返った。

 

「あなたは・・・アマカジ?」

 

 目線に跳ねて注意を引いたのは、フルーツポケモンのアマカジだった。シェードジャングルに生息するくさタイプの種だが、(あたま)につけたこのピンクの花飾りには見覚えがある。

 そうだ、この花は確か──

 

「リラさーん!こっちこっち!」

 

 自分を呼ぶ元気な声の方を向くと、前方の出店のひとつから鮮やかな髪の少女が二人、大きく手を振っていた。この島のキャプテンのマオとスイレンだ。

 

「今さっきヒノキさんが走ってくのが見えたから、もしかしたらって思ったんだけど。やっぱり一緒に来てたんだね!」 

 

 アマカジとおそろいの花飾りをつけたマオの言葉に引っかかるものを感じたが、あえてその点には触れないことにした。

 

「え、ええ、まあ。最近はずっと8番道路のモーテルに泊まりがけなので、仕事帰りに見ていこうかと。」

 

「そうなんだ、おつかれさま!それじゃ仕事終わりの一杯が要るね!アマカジ、お願いね!『はねる』!」

 

『あままっ!』

 

 アマカジがその場でぴょんぴょん弾み出すと、まもなくその丸い身体に甘い香りのする滴が伝い始めた。そしてマオがそれを手早くカップに集めると、スイレンの用意した冷たいモーモーミルクに注ぎ、軽くかき混ぜてリラに差し出した。

 

「はい、おまち!恋祭り名物のアマカジミルクでーす!」

 

「はあ・・・。」

 

 特に待ってはいなかったそれを、リラは半ば付き合いという気持ちで口にした。

 が、すぐにその味の良さに驚いた。

 

「これ、美味しい・・・!」

 

 柔らかなピンク色とはなやかな香りは目と鼻にも味わいが深く、まろやかなミルクがアマカジエキスの元気な甘酸っぱさをふんわり包み込む。

 飲んでいるそばから自然に笑みがこぼれてしまうような、とても可愛らしい味だ。

 

「でしょ?今はポケモンセンターのカフェの裏メニューにもあるけど、元々はこのお祭りの飲み物なの。」

 

「飲むと誰でも甘酸っぱい、幸せな気持ちになれる事から『初恋の味』と言われているんです。」

 

 リラの率直な感想に、二人とアマカジが得意げな笑顔を見せる。そんな彼女達と『初恋の味』に、自然とリラの気分も明るくなった。

 

「どうもごちそうさまでした。アマカジもありがとう。えっと、お代は──」

 

「あ、いーのいーの!それは私達からの祝杯だから!」

 

 マオの謎の言葉に、スイレンがうんうんと頷く。心なしか、二人の目が輝いて見える。どうも雲行きが怪しい。

 

「あの、一体何のお祝いでしょう?全く心当たりがないのですが・・・」 

 

 リラが訊ねると、マオとスイレンは揃って目を瞬いた。が、すぐに顔を見合わせて、意味ありげにくすくす笑い合った。

 

「もー、やだなぁ。そんなの決まってるじゃん!」

 

 カウンターから身を乗り出したマオが、弾んだ小声でリラに囁いた。

 

「だからぁ、ヒノキさんとのこと!いわゆる『公私におけるパートナー』ってやつでしょ?おめでとう!」

 

「は!?!」

 

 寝耳に水でっぽうを食わされたような話に、思わず大きな声が出た。

 

「そ、そんな事実ありませんよ!一体誰がそんな事を──」

 

「え?誰っていうか、みんなフツーにそう思ってるよ?だってリラさんがヒノキさんにおそろいの島めぐりのあかしをあげたっていうから、『あ、そういう事なんだー』って。ね?」

 

「はい。それにこの前、アセロラからも『マオとスイレンもあの二人のこと応援してあげてね!』と頼まれたので。そういう事だと思ってました。違うんですか?」

 

 二人の言葉に、リラは胸ポケットのPHSにつけた『島めぐりのあかし』を一瞥し、胸の内でため息をついた。

 

「これはあくまで任務上の相棒の証であって。それ以外の意味も、それ以上の意味もありません。」

 

 そう言い切ると、驚いているマオの手にジュース代を押しつけて店を後にした。

 

 

 そうだ。

 パートナーというのはあくまで仕事上の話であって、プライベートでは一人の友人に過ぎない。

 責任者の立場にある自分が公私を混同してどうするのだ──。

 

 

 ◇

 

 

 どこもかしこも賑わう露店街の中に、ひときわ人だかりの大きい店がある。リラが興味本位で覗いたそこは、ハートのウロコを使ったアクセサリーを売る、ライチの出張ジュエリーショップだった。

 

「やあ、アローラ。久しぶりだね。仕事終わりかい?」

 

「はい。今日は日中の調査でしたので。」

 

 店主と簡単に挨拶を交わした後、リラは改めて店先に並ぶ商品を眺めた。

 

「素敵ですね。これ、みんなライチさんが作られたんですか?」

 

 建前ではなく、心からそう述べた。

 あるものは大胆に、あるものは繊細な加工が施されたブレスレットやピアス、ネックレス。

 素材の持つ個性が柔軟に活かされたそれらは、着飾る事に執心の少ない彼女にも、とても魅力的に見える。

 

「というか、むしろこっちが本業なんだけどね。昔はハートのウロコをプロポーズの時に渡す風習があって、今でも好きな相手に渡すと想いが届くって恋のお守りになってるんだ。そうそう、余りのウロコをタダであげてるんだけど、あんたも要る?」

 

 最後に添えられた言葉に、リラは一瞬またかとびくりとした。が、さらりとした口調や表情に、マオ達のような含みはない。からかっているのではなく、本当に必要かどうか訊いているみたいだ。

 

「い、いえ、大丈夫です!私にはそういう人はいませんし、このお祭りもモーテルへの帰り道に寄っただけなので・・・」

 

 慌てて首を振るリラを、ライチの切れ長の瞳がじっと見つめた。美しくて鋭い、まるでナイフのような瞳だ。

 

「そうかい。でも、もうじき出る虹は必ず見ておきなよ。恋がどうとか、そんなの関係なしに見る価値があるものだからね。そうだ、一人で静かに見られる穴場を教えてあげよう。ちょっとした崖の上だけど、あんたならいけるだろ。」

 

 そう言って、ライチは紙に簡単な地図を書いて渡してくれた。

 リラはその心遣いに礼を述べ、ボーマンダの背に乗ってその場所へ向かった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「わあ・・・。」

 

 ライチの地図に記されていた場所は、海に面したシェードジャングルの端の高台だった。

 空からでなければ到達の難しいそこは、360度海を見渡せる絶景ポイントでありながら、人の姿は全くない。強いて言えば、近くの木にドデカバシのつがいが一組止まっているだけだ。 

 

 最高のビュースポットにいたく感激したリラは、ポケットからスマートフォンを取り出した。この贅沢な空間を独り占めするのがもったいなくて、ヒノキにも教えてやろうと思ったのだ。

 

 しかし。

 

(あれ?でもそれって──)

 

 ふと思った。

 こんな場所で、ふたりで恋が叶う虹を見ようなどと誘ったりしたら。

 

 

 それはもう、ただの告白ではないか。

 

 

「・・・・。」

 

 数秒の迷いの後に、リラはスマートフォンをポケットへ戻した。余計な誤解を招いて任務に支障が出ては困るし、自分達は仕事上のパートナーだとマオ達にも言ったばかりだ。責任者である自分が、周りに示しのつかない行動を取る訳にはいかない。

 

(ライチさんだって、静かに見られる穴場として教えてくれたんだから。)

 

 今回はそうやって楽しもう。

 そう自分に言い聞かせて、近くにあった手頃な倒木に腰を下ろした、その時だった。

 

「!フーディン・・・。」

 

 自らボールを開いて出てきたフーディンが、当たり前のように主人の隣に腰掛けた。そして彼女の腰の残り4つのボールを指し、それらもまた外へ出たそうにうずうずと揺れている事を教えた。

 

「・・・ありがとう。」

 

 そうしてリラは4つのボールを開いた。ムウマージはふわふわの気体を寄せ、マニューラは喉を鳴らして膝の上に乗ってきた。カビゴンはみんなの背中を預かり、ボーマンダは翼をたたんで大好きな空を大人しく眺めている。大きさも体温も質感もバラバラだが、みんなあったかい。

 

「ほら。もうすぐみたいですよ。」

 

 いつの間にか日は沈み、藍色の空には無数の星と大きな丸い月が輝いていた。そしてその月の真下に広がる光景に、思わず息を呑んだ。

 

 

(・・・・!)

 

 

 無数のハート型のシルエットが飛び交い、霧状に烟った海面。

 そこに満月が柔らかな光を落とし、淡い虹をかけていた。

 昼間、雨と太陽によって生み出されるものとはまた違う、神秘的で幻想的な、自然の奇跡だ。

 

 

「きれい・・・」

 

 

 そんな月並みな言葉ではこの美しさは到底言い表せないと分かっていても、やはり口にしない訳にはいかなかった。

 アローラには他の地方では味わえない、この地球(ほし)の美しさとでもいうべき絶景がいくつも存在する。

 しかしこの虹は、それらの絶景の中でも一際異彩を放つだろう。

 

 

 

 やがてラブカス達の跳躍がまばらになり、海面を包んでいた飛沫が晴れるにつれ、虹は少しずつ薄くなっていった。

 そうして完全に虹が消えたのを見届けたところで、リラは再びスマホを取り、今度は迷うことなくヒノキに電話をかけた。

 

──♪♪

 

 耳に響くコール音に少し緊張するものの、さっきまでの躊躇いはない。

 恋がどうとか、そんな事はもうどうでもよくて、今はただ純粋にこの感動を共有したかった。ちょうど一昨日の夜、彼が自分に月が綺麗だと電話してきたように。

 

──♪♪♪

 

 傍らでは、ムウマージとマニューラがきゃっきゃと楽しそうにはしゃいでいる。二体が共に♀であること考えると、女の子のロマンチックなものへの憧れは人間もポケモンも変わらないようだ。

 

──♪♪♪♪

 

 木に止まっていたドデカバシ達が飛び立った。

 思えば、あの二羽も案外友達同士なのかもしれない。ただ気の合う者同士で、美しい景色を見に来ていただけかもしれない。自分達も、きっとそれで良かったのだ。

 

 

──♪♪♪♪♪

 

 

 それにしても出ないな。

 リラがそう思い始めた、その時だった。

 

 

『はい、オレです。悪いけど今ちょっと出れないか出たくないかのどっちかなんで、オススメは程よく時間を空けてからもう一回──』

 

 繰り返していたコールが、とうとう留守電に切り替わった。念のためもう一度だけかけ直してみたが、結果は同じだった。

 

──また、何かあったのだろうか。

 

 リラの胸に不吉な予感が過った。

 というのも、ヒノキは以前にも電話で捕まらなかった事があり、その時はちょっとした事件に巻き込まれていたからだ。

 

「ごめんなさい、ボーマンダ。もう一度、8番道路まで飛んで貰える?」

 

 他のポケモン達をボールに戻し、リラは再びボーマンダの背に乗った。そして自分の不安が杞憂であることを祈りながら、急いで8番道路へと引き返した。

 

 

 ◇

 

 

 メインイベントが終わっても、8番道路は相変わらず大勢の人でごった返していた。しかし、なぜかあちこちで警察官が聴き込みを行っており、先ほどまでとは明らかに雰囲気が違う。

 

「すみません。何かあったのですか?」

 

 近くにいた警官の一人を捕まえ、事情を訊ねた。すると、思わぬ答えが返ってきた。

 

「誘拐だよ。さっきの虹が出ていた時間を狙って、複数箇所で同時にポケモンが拐われる事件が起きてね。幸い、殆どは保護できたんだけどあと一体だけまだなんだ。お姉さんもトレーナーなら気をつけて。」

 

 信じがたい事件の報せに、リラの胸に強い怒りが込み上げた。

 被害に遭った人やポケモンは、きっとあの神秘の光景に見惚れていた事だろう。その隙を狙って悪事を働くなど、どれほど性根の曲がった人間の仕業なのか。

 

 

 そう思って眉をひそめた、その時だった。

 

 

「リラ!悪い、そいつを押さえてくれ!」

 

「え?」

 

 唐突に背後から飛んできた声に、リラは咄嗟に反応できなかった。が、自ら飛び出したフーディンが、主人の影に潜んだ『そいつ』を念力で引きずり出した。

 

「!これは──」

 

 フーディンの念力で地面に押さえつけられていたのは、ゆきぐにポケモンのユキメノコだった。その袂には、小さな白いものが覗いている。

 

「ナイス、フーディン!ジュナ、逃がすな!」

 

 ヒノキと共に駆けつけたジュナイパーが、目にも留まらぬ速さで矢羽根を放った。が、それより一瞬早くユキメノコは抱えていたものを手放し、隠し持っていた『けむりだま』を放って消えた。

 

「チロン!!」

 

 騒動を見守っていた人垣の中から一人の女性が飛び出し、ユキメノコが置き去った白いもの──すなわち気絶しているアローラのロコンを抱きしめた。

 

 その思いがけない人物の姿に、リラは目を瞠った。

 

「ごめんね、ごめんね。私がしっかりしていれば・・・」

 

 そこに数人の警官が現れ、人の流れを滞らせていた野次馬を解散させた。が、リラはそこに立ち止まったまま、警官と話すハリエから目が離せずにいた。

 

「おーい。リラ、フーディン!」

 

 背後から聞こえたヒノキの声で、ようやく我に返った。

 

「ヒノキ・・・」

 

「悪かったな、いきなり巻き込んで。けど、助かったよ。」

 

「いえ、私は別に何も・・・」

 

 二時間ぶりに会った彼に、特に別れる前と変わった様子はない。なのに、なぜか異様に胸がざわざわする。

 

「それより、一体何があったのですか?しばらくこちらを離れていたので、状況がよくわからないのですが・・・」

 

「あ、そうなのか?じゃ最初から話すか。オレ、おまえと別れてからすぐロイマのサイン会に行ったんだけど、その後会場の近くでハリエが店出してるのを見つけてさ。ほら、一昨日店で飲ませてもらった、あの紅茶を売ってたんだよ。」

 

 そこまで聞いて、リラの胸のざわめきが一層激しくなった。

 これ以上聞きたくないと思ったが、聞かない訳にもいかなかった。

 

「で、しばらく喋ってたら虹が出てきたから、そのまま一緒に見てたんだけど。10分くらい経った頃に、ハリエが抱いてたチロンが急に消えたんだ。そしたら、周りでも同じ事が起きて──」

 

 あまりに気軽に語られた事実に、リラは混乱した。

 一緒に見てた?

 あの言葉にできない絶景を、二人で見ると末永く結ばれるという虹を、ハリエと一緒に見ていた??

 

「──んで、ゴーストポケモンが人の影伝いに逃げてくのが見えたから、追ってたって訳だよ。・・・あ、話終わったみたいだな。」

 

 ハリエと話していた警官が彼女から離れていくのを見て、ヒノキはやはり自然な調子で言った。

 

「オレ、あの子を家まで送ってくるよ。きっとまだ不安だろうし。モーテルは近いから大丈夫だと思うけど、おまえも気を付けて帰れよ。」

 

 そう言われて、リラは「あなたも気を付けて」と返そうとした。しかし、なぜか声が出てこなかった。

 

 

 なんだろう。

 この、心が淀むような、軋むような感覚は。

 

 

「あ」

 

 数メートル先にいたヒノキが、突然足を止めて振り返った。

 

「そういや、さっき何回か電話かけてきてたよな?何かあったのか?」

 

 そう言われて、リラはすっかり忘れていたその事を思い出した。

 が、もうこれ以上何も思い出したくなかった。

 

「いえ、大丈夫です。大した事じゃないので、気にしないでください。」

 

 波立つ心を覚られないよう、とっさに笑顔を作った。

 しかし、あまりうまく笑えている自信はなかった。

 

「そうか?んじゃ、また明日な。」

 

 そう言ってヒノキはハリエの元へ走り、リザードンを放ってその背に乗った。そして彼女に手を貸して自身の後ろへ引っぱり上げたところで、リラは踵を返した。

 

 

 一体、自分は何を動揺しているのだろう。

 彼らが一緒に虹を見たのは偶然出会った上でのなりゆき上のことだろうし、ヒノキが事件に巻き込まれた彼女を心配して送っていくのも自然な事だ。

 

 

 なのに、どうしてそれがこんなに胸に突き刺さるのだろう。

 

 

 そうして今まで経験した事のない不安を抱きながら、ひとり足早に恋人たちの道を後にした。

 





個人的にロイヤルマスクはサンタさんみたいなものだと思っています。

【アローラグルメずかんNo.03】
アーカラじまのアマカジミルク:
そのままでは さんみがつよい アマカジエキスが モーモーミルクと あわせることで まろやかなあじわいに。そのあまずっぱさから はつこいのあじと よばれているよ。
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