ポケットモンスターSM Episode Lila 作:2936
リラちゃん復刻おめでとう!!
【前回のあらすじ】
ラナキラマウンテンで迷子のロコンを保護した翌日、ヒノキとリラは仕事終わりに8番道路の虹祭を訪れる。想定外の展開に一喜一憂しながらもそれぞれに祭を楽しんでいた最中、会場でポケモンの誘拐事件が起きる。
翌日の昼。
午前中の任務を終えたUB対策チームの三人は、再びウラウラ島の森のカフェ『acacia』を訪れていた。
彼らが今日もこの店へ来たのは、昨夜ヒノキがハリエを送った際に「助けてもらったお礼がしたいので、是非またみんなで来てほしい」と言われたためだ。
「おまたせしました、本日のフリーズドライカレーのランチセットです。ごゆっくりどうぞ。」
ハリエの運んできた三人分の昼食がテーブルに並ぶと、例によってヒノキとハンサムが歓声を上げた。
「おお、今日のもまた美味そうだな!サラダとスープが前と違うし、こーゆーの地味に嬉しいんだよな。」
「うむ!では早速いただくとしよう。さ、ボスも早く手を合わせてください。」
「え?あ、はい。・・・いただきます。」
男二人に急かされる形で、リラもスプーンを取った。新雪のように白く冷たいカレーは、相変わらずとても不思議で美味しい。
なのに、今日はちっとも心が弾まない。
「どした?まあ、早く食わなくてももう冷めてるけど。あんま腹減ってないのか?」
リラのスプーンの進みが遅いことに気付いたヒノキが、不思議そうに訊ねてきた。
見れば彼の皿は既に半分以上減っている。
「い、いえ。別にそういう訳では・・・」
そう返しつつ、リラはそれとなくヒノキの様子を伺った。
別段昨日までと変わったところはないし、ハリエとの間に特別な親密さを感じる訳でもない。
にも関わらず、どうしても彼の存在が壁一枚隔てたように感じてしまう。
「失礼します。お水、お注ぎしておきますね。」
そこにちょうど、ハリエがピッチャーを手に三人のテーブルへとやってきた。そして彼女がヒノキをグラスを手に取ったところで、リラは思わず彼女に訊ねた。
「そ、そういえばハリエさん。例の誘拐事件は結局どうなったのですか?」
リラの質問に、ハリエは表情を陰らせた。
「実は私も、その件についてお話ししたいと思っていたのですが・・・少し、お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
「よろしいも何も、オレたち今日はそれを聞くために来たんだから。あ、もちろんふつうにメシも食いたかったけど。」
ハリエは頷き、空いていた席に座った。そして昨夜の事件について、三人がまだ知らない情報を話し始めた。
「アローラ種の窃盗団・・・?」
「はい。昨日被害に遭ったのは、コラッタやディグダ、ニャースやサンドなど、いずれもアローラ特有の姿をしたポケモンばかりだったと警察の方が仰ってました。そういうポケモン達は他地方では珍しいので、大金を支払ってでも手に入れたがる人が多いのだとか・・・」
「ふむ。確かにポケモンの窃盗は近年増加傾向にあると聞く。最近は偽造したトレーナーIDを使って
食後の紅茶を片手に、ハンサムが呟いた。
ちなみに昨夜は趣味のSNSで祭りのグルメ情報を発信する『グルメ探偵836』として会場にいたので、事件の事は何気によく知っている。
「ふうん。それでそーゆーポケモン達を一気に乱獲できる祭りを狙ったって訳か。『
ヒノキの言葉にハリエは頷き、続けた。
「中でも、ロコンは特に人気が高いらしくて。犯人が捕まっていない以上、今後も狙われない保証はないと言われました。もちろん、付近のパトロールは強化して頂けるのですが。」
「でも、まだ詳しい犯人像は分かっていないのでしょう?もし、お客さんのふりをして来られでもしたら──」
リラが訊ねた。
彼女とヒノキの事は気になるものの、それはそれとして、やはり事件の事は心配だ。
「そうなんです。いずれもゴーストタイプのポケモンの犯行とは分かっているのですが、指示を出すトレーナーの目撃情報はなくて・・・。なので、お店はしばらく休業するか、常連さんだけの予約制にした方が良いと言われました。でも、何もしないと余計不安になるので、当面はランチの予約営業のみにしようと思います。もちろん、皆さんは大歓迎ですので。」
そう言ってハリエは少し笑った。
しかし、無理をしているのは誰の目にも明らかだった。
「ちなみに、こちらにチロン以外のポケモンは?」
少しの間の後に、念の為にリラが尋ねた。
「一応、力仕事を手伝ってくれる父のワンリキーがいます。でも、私も彼もバトルはした事がないので・・・」
「自衛は難しい、か。できればそれがベストなんだけどな。警察もさすがに24時間は張ってくれないだろうし。」
その時、ハリエの足元にチロンが身体を擦り寄せてきた。幸い、昨日の事は気絶していた為に覚えておらず、特に怯えている様子はないという。
「情けないですよね、自分のポケモンも守れないトレーナーなんて。私、小さい頃からポケモンの戦いが怖くて、スクールのバトルの授業もずる休みしていたくらいなんです。でも、こんな事ならちゃんと勉強しておけば良かった。」
チロンの頭を撫でながら呟くハリエに、ハンサムが神妙な顔で頷いた。自分の無力を嘆く彼女に、相棒を失った過去が重なるのだろう。
──と、リラがそう思った、その時だった。
「そうだ!それなら、ヒノキくんとボスがしばらくハリエさんにバトルのコーチングを行うというのはどうだろう?」
「え??」
ハンサムの唐突な提案に、他の三人が同時に彼を見た。
「あの、ちょっと、ハンサムさ──」
「ああ、そう言えばハリエさんはまだご存知ありませんでしたな。この二人、今はポケモンの生態調査業に従事しておりますが、実はかなり腕の立つトレーナーでして。きっと初心者でもアローラナッシーばりに成長できるよう指導してくれますぞ!」
そこでハンサムがようやく一息ついたので、リラは勝手に話を進める彼を注意しようとした。
ところが。
「おお、それ普通にアリだな。おっちゃんもたまにはいい事言うじゃん。あ、でもそれならオレだけでいいよ。リラは報告書作ったりとか、調査以外にもいろいろ仕事があるだろ。その点オレは現場業務だけだし。」
これまた勝手なヒノキの賛成で、急な展開にさらに拍車がかかった。とはいえ、その案は唐突でこそあれ、それだけで却下できるほど突飛ではなかった。
「で、でも!それならポケモンはどうするのです?チロンはまだ子どもですし、お父様のワンリキーにしても、急にバトルを教えられても戸惑うのでは?」
どうにかこの流れにブレーキをかけたくて、リラは咄嗟に思いついた問題をそのまま投げつけた。
「あー。確かにそういやそうだな。」
「うむ、私もそこまでは考えておりませんでした。部下の至らぬ点を即座に見抜くとは、さすがはボス!」
流れに水を差した後ろ暗さはあるものの、リラはひとまずほっとした。
だいたい、初心者にバトルを指南するとなれば一日や二日の話ではないだろう。この二人の間にそんな習慣が生じるなど、簡単に認める訳にはいかない──あくまで責任者として任務に支障を来さないために。
が、幸いその問題はすぐに解決した。
「そーだ!だったらケオをしばらく貸してやるよ。そしたらこいつを持ちポケとしてバトルの練習ができるし、チロンの事も守ってくれるから警察の目がない時も安心だろ。」
「!?」
「おお、そいつはグッド・アイデアだ!ハリエさん、どうですかな?」
「そんな・・・私はとても嬉しいですけど、本当に良いのですか?ご迷惑では・・・」
「それをいうなら、何もせずにそいつがまた攫われる方がよっぽど後味悪くてご迷惑だよ。よし、そうと決まれば早速今日から始めよう。今からはまたタレコミ現場の調査があるから、夕方頃にまた来るよ。」
そう言ってヒノキはリラの方を振り返った。
「──ってな感じならどうだ?異議は?」
「・・・いえ。特になにも。」
腹立たしいほど見事なカウンターに、リラはもう、そう言うしかなかった。
◇
「ふうーん。それでヒノキがハリエちゃんにバトルを教えることになったの。」
「ええ。今日から毎日、仕事が終わった後に一時間。『スクールでサボったところから教えてやるから大丈夫』だそうですよ。」
その日の仕事終わり。
リラは例によって8番道路のポケモンセンターのカフェに立ち寄っていた。しかし向かいにいるのはヒノキではなく、ウラウラ島のキャプテンのアセロラと、彼女から譲り受けた手持ちのムウマージである。
「なるほどねー。それで心配で元気がないって訳か。」
久々に会ったムウマージにポケマメをやりながら、アセロラが頷いた。
普段はウラウラ島で生活している彼女が今この島にいるのは、例の誘拐事件がゴーストポケモンの犯行である事から、有識者の意見を聞きたいとアーカラ署に呼ばれた為だ。
「それはそうでしょう。自分のポケモンが狙われていたら、誰だって不安に──」
「もー、ちがうよぉ!ハリエちゃんじゃなくって、リラの方!!」
「え?私?」
アセロラの指摘に、リラは少し混乱した。
心配で元気がないのは自分の方?どうして??
「そ!このままあの二人が仲良くなっちゃわないか心配で、気が気じゃないってカオしてるよー?」
それは一体どんな顔かと思わず窓に顔を映してみたが、全くもって分からない。しいて言えば、この頃食欲が湧かないせいで少し痩せたような気はするけれど、それも他人が分かるほどの変化ではないと思う。
「ま、そりゃ気になるよねー。ハリエちゃんかわいいし、聞けばラブレインボーも一緒に観てたっていうし。」
「どうしてそれを・・・」
「マオとスイレンが教えてくれたの。キャプテンどうし、じょーほーきょーゆーは大事だからね。」
果たしてそれはキャプテンとして共有すべき情報なのだろうか、とリラが首を傾げたところで、アセロラが再び口を開いた。
「それでリラはどーなの?ほんとにこのままあの2人がくっついちゃったらどーする?」
どきりと心が揺れたはずみで、リラのロズレイティーのカップを持つ手が震えた。不安定な紅い水面に映る顔を見たくなくて、思わずカップをテーブルに置いた。
「・・・別にどうもしませんよ。たとえそうなったとしてもそれは彼らの自由ですし、任務の就任規約にも異性との交際を禁じる項目はありませんから。」
そう言って、アセロラの視線から逃れるように傍らのムウマージを撫でた。それでも、心の奥まで見透かされそうなまんまるな瞳に「そーゆーコトじゃないんだけどなぁ」と言われている気がした。
「ふうーん。ま、リラがそれでいいならべつにいーんだけどさ。でも、ほんとはそうじゃないなら、ヘンにごまかしたりしない方がいいと思うよ?だってほら、『まーれいん・まーれいんぼー』っていうじゃん!」
「?ま、まーれ・・・?なんです、それ。」
聞き慣れないまじないのような言葉をリラが聞き返した、その時だった。
「それをいうなら『NO RAIN,NO RAINBOW』だね。アローラの古いことわざだよ。『雨が降らなきゃ虹はかからない』とも言うね。」
そう補足してきたのは、アセロラが追加注文したミックスオレを持ってきたマスターだった。
「雨が降らなきゃ虹はかからない・・・?」
「そう。一般的には、辛いことの後にはきっと良いことが待っている、という意味で知られている言葉だよ。だけど、本当はね・・あ、ちょっと失礼。」
そこでちょうど他の客が手を上げてマスターを呼び、同時にアセロラのワンピースのポケットから着信音が鳴った。
「もしもーし!はーい、もう着いてますー!じゃ、今から行きますね!」
ゲンガーを模したおもちゃのような携帯でそう答えると、アセロラは届いたばかりのミックスオレを一気に飲み干した。
「ごめんね、アセロラももうおまわりさんのとこに行かなきゃ!お代はここに置いとくから、あとよろしくね!ムウマージ、リラのことお願いね!」
そういって空のグラスを置くと、つっかけサンダルをぱたぱた鳴らしながら慌ただしくカフェを出ていった。
そうしてひとりその場に残されたリラは、マスターとアセロラが置いていった言葉を頭の中でなぞってみた。
──雨が降らなきゃ虹はかからない、か。
それが『辛いことの後には良いことがある』を意味するのは、何となく分かる。けれど、アセロラとの会話の流れやマスターの口ぶりからすると、おそらくそれとはまた別の意味があるのだろう。
「・・・でも、それが私とどう関係があるのでしょうか?」
リラはふと傍らのムウマージに訪ねてみた。
しかし彼女は何も答えず、ただただ楽しそうにくすくすと笑うばかりだった。
今月は今回の復刻以外にも究極高難度バトルで瞬殺されたり、ミックスBサーチという究極高難度闇鍋で二人目をお迎えできたりと、ポケモンセンター以外でもリラさんに会えて幸せでした。
先のアンケートに10回くらいリラという単語を書き連ねたのが良かったのでしょうか。
【アローラグルメ図鑑No.4】
なないろミックスオレ:
7しゅるいの アローラさんの きのみを ふんだんに つかった ぜいたくな フルーツオレ。ひとくち のむたびに びみょうに あじがかわる ふしぎさと おいしさで にんき。