ポケットモンスターSM Episode Lila 作:2936
【ここまでのあらすじ】
主人公・ヒノキと謎の女性トレーナー・アナベルによるバトルバイキングでのバイバニラパフェ争奪戦は激闘の末、引き分けに終わる。
二人は互いの強さを称え合った後、試合に感銘を受けたチーフシェフの計らいによって半分ずつに取り分けられた賞品のパフェを手に、それぞれの席へと戻っていった。
「ただいま戻りました。」
彼女のその声に、男は料理をタッパーに詰める手を止めて顔を上げた。そして、テーブルに置かれた不完全で不格好な巨大パフェを見て、眉をひそめた。
「ボス。これも何度も申し上げておりますが。いくらアイスが溶けると言えど、こうした店で歩きながら食べるのはお行儀が悪いですぞ。それではまるでバイバニラパフェではなく、バニリッチパフェではありませんか。」
確かに、彼女には片手で食べられる軽食やスイーツは席に着く前に手をつける傾向がある。彼がパフェの不完全なビジュアルを彼女のその悪い癖によるものと考えたのも、無理はなかった。
「いえ、それが違うんです。引き分けだったので、相手の方と半分こになったんですよ。」
「ひ、引き分け!?は、半分こ!!?」
何より。
彼の知る限り、彼女のポケモンバトルの戦績は無敗無分けである。だからこそ、彼女も取り分け用のスプーンを落として瞠目する彼に試合を見ていなかったのかとは言わない。
むしろ、自身ですら見なくとも分かると思っていたほどであった。
「まさか、相手は男ではないでしょうな!?」
男は唾を飛ばしながら、彼女に詰め寄った。
幸い、詰めかけのタッパーはその飛距離の圏外にある。
(そこ?)
それより先に聞くことがあるであろうと思いつつ、彼にボスと呼ばれるその女──もといアナベルは、部下ではなく年配者としての彼を立てた。
「ええ、そのまさかです。見た感じでは、ちょうど私と同世代くらいの方かと。」
「なんと!で、ではまさか、そのグラスからそのスプーンで半分食べた残りをボスに──!?」
「違いますよ!これはちゃんとお店の方が取り分けてくださった分です。もう、ハンサムさんたら何を心配なさってるんですか?」
少し語気を強めた彼女の言葉に、ハンサムと呼ばれた男はようやく安心した様子を見せた。
「そ、そうか、それなら良かった。しかし、ボスがポケモンバトルで引き分けなど、国際警察に入って以来のことでは?」
「そうなんですよ。だから私も、まだなんだかドキドキしていて。・・・はい。どうぞ、マニューラ。」
アナベルは手持ちポケモンの一体であるマニューラを出すと、冷たいものと甘いものが好きな彼女にパフェを半分取り分けてやった。ドキドキしていると言いつつ、その表情は心なしか嬉しそうに見える。
「ふうむ。しかし、国際警察屈指の腕前であるボスと互角の実力となると、その男、ただ者ではありませんな・・・一体何者でしょう?」
「それは」
彼女はちょっともったいぶるように、そこで言葉を切った。
「じきに分かりますよ。」
そう言うと、自身もスプーンに山盛りのホイップクリームを口に運んで、ふふ、と笑った。