London bridge is……?   作:かいんせあ

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ー 人柱 大規模な建築工事などの難事を成し遂げるため、生きた人間を神への供物とすること。神の加護を得るため、あるいは工事が行われる場所にまつわる穢を祓うための人身供犠の一種と考えられる。ヨーロッパで、橋や建物の土台や壁の中に人間を埋めたという伝説が多くあり、実際に人骨が発見されることもある。ー



London bridge

グレートブリテン及び北アイルランド連合王国 通称イギリス 首都ロンドン。

 

どんよりと曇った空と、雨を含んだ薄墨色の雲の下を一人の男が歩いていた。

日曜日の真っ昼間というのに不自然な程に人気が無い路地を歩く男。男の不気味な容姿は、薄気味悪い天気と丁度よくマッチしていた。気味が悪いほどに白い肌、蛇のようなのっぺりとした顔。そして何よりも彼を不気味にみせるのは、鮮やかな赤でありながらも、黒が混じった様な朱殷の瞳だった。赤黒いその瞳は、時間を経た血を連想させる。

 

 

 

狭い路地には音がよく響く。足音すら立てずに静かに路地を歩いていた男は、不意に囁くように歌を歌い始める。不気味な男が路地で童謡を歌う姿は、さながらホラー映画のワンシーンだ。

 

 

 

 

 

“ London bridge is falling down, Falling down, falling down, London bridge is falling down, My fair Lady.”

          

ロンドン橋落ちた

 

“Build it up with wood and clay, Wood and clay, wood and clay, Build it up with wood and clay, My fair Lady.”

 

マザー・グースの中でもきらきら星と並び特に有名なこの曲だが、

 

“Wood and clay will wash away, Wash away, wash away, Wood and clay will wash away, My fair lady.”

 

こんな御伽噺を聞いた事があるだろうか?

 

“Build it up with bricks and mortar, Bricks and mortar, bricks and mortar, Build it up with bricks and mortar, My fair lady.”

 

ロンドン橋落ちる、には隠された真実があると

 

“Bricks and mortar will not stay, Will not stay, will not stay, Bricks and mortar will not stay, My fair lady.”

 

ロンドン橋に限った事では無いが、子供が歌う童謡の多くには残酷な真実が隠されている事がある

 

“Build it up with iron and steel, Iron and steel, iron and steel, Build it up with iron and steel, My fair lady.”

 

そんな歌には嘘で塗り固められ、隠されていた血色の過去がある

 

“Iron and steel will bend and bow, Bend and bow, bend and bow, Iron and steel will bend and bow, My fair lady.”

 

残酷な運命に翻弄された五人の少女と哀れな魂

 

“Build it up with silver and gold, Silver and gold, silver and gold, Build it up with silver and gold, My fair lady.”

 

彼らの怨みは今尚消えない

 

“Silver and gold will be stolen away, Stolen away, stolen away, Silver and gold will be stolen away, My fair lady.”

 

彼らの望みはただ一つ

 

“Set a man to watch all night, Watch all night, watch all night, Set a man to watch all night, My fair lady.”

 

 

 

故に…

 

 

 

 

ー帝王は復讐者(新たな仲間)を迎え入れるー

 

 

歌い終わると同時に、男は路地を抜けた。

太陽が分厚い雲に覆い隠された今日、薄暗いのは路地でもひらけた場所でも変わらない様で、路地を抜けた先のテムズ川に沿った作りの遊歩道もまた、昼間とは思えない程に暗く、活気が無かった。

普段この時間帯にペットの散歩をする御婦人方はいない。大人ぶってベンチに腰掛け新聞を読む読む子供もいない。まるで人を避ける魔法でも掛かっているかのように、男の進む道には人は存在しない。男はそのことに動揺する様も無く、ただ目的地へ向かって歩き続ける。

 

──数分程経ったのだろうか?

 

男は目的地に到着し、足を止める。男の目的地は何も無い川の近くのただの空き地だった。寂れた屋敷でも無く、手入れの行き届いた豪邸でも無く、ただの空き地。だが、ここに男の目的は眠っていた。…否、彼女たちは眠れなかった。そして今も眠れずに苦しんでいる。死という名の永劫の眠りにつくことは許されず、片手に蝋燭を、片手にパンを持たされ、樽の中に押し込められた彼女たちは魂の安らぎを得ることなく、永遠に苦しみ続ける。

 

だがそれも今日までだ。

今日この日。今日この日を持って、彼女たちは苦しみから解放され現世へと蘇る。男の──帝王の手によって。

 

男は、ヴォルデモート卿は禁忌の儀式を始める。死者を蘇らせる技。

不死の技と並び、太古より多くの者が追い求めた禁忌の術。だが実際の所それが成功した例はヴォルデモート卿の知る限り一回も無い。……しかし魔法に、ヴォルデモート卿に不可能は無い。出来ないなどあり得ない。

傲慢、実に傲慢だ。自らよりも魔法を知り、魔法に愛された者はいないと信じきっているからこそ吐ける暴言。自らに並ぶ者など存在せず、自らが絶対的な頂点に立っていると思い込んでいるからこその妄言。

 

だがその自惚れこそが、ヴォルデモート卿の最大の強さであり弱点でもあった。圧倒的な自信は、ヴォルデモート卿の能力を倍増させる。元より闇の魔法に関してはこの世界の誰よりも熟知していたヴォルデモート卿だ。手掛かりに辿り着くまでにそう時間はかからなかった。

ヒントになったのは自らが肉体を取り戻した時の術式。あれも蘇りの術程ではないが、肉体を創造しそこに魂を移し入れるという高度な闇の禁術だ。注目したのは魂の移し替え。蘇りに必要なのは、肉体と生命力、そして魂。本来であれば魂の入手で手詰まるのだが、そこは人柱の呪いによってクリア。となると最大の障壁となるのはそれを新たな肉体に入れることだった。

 

 

試行錯誤を繰り返して早一年。漸く蘇りの術が実用化レベルになった。

 

ヴォルデモート卿は杖を振る。瞬間、どこからともなく一人の少女が現れた。

10代前半程の小さな少女は、宙から転がり落ちるように出現し石畳の地面に叩きつけられる。衝撃による苦痛で顔を歪ませた少女は堅く閉じていた目を開く。

 

美しいグリーンの瞳。

…少女がヴォルデモート卿に選ばれたのはそれだけの理由だった。

 

少女は自らの瞳にヴォルデモート卿が映ると、怯えた様子で後退ろうとする。だがそれは不可能だった。逃走は許されない。ヴォルデモート卿は無言で、尚且つ杖を使わず少女の身体の自由を奪った。逃げられない事を悟った少女は、その大きな瞳から大粒の涙を零す。

少女の両親は純血主義の元死喰い人だったが、魔法を使えないスクイブの娘を愛してくれた。だが運命はそれを許さない。復活したヴォルデモート卿は自らを裏切り幸せな生活を送っていた家族に命令した。「一人娘の命を差し出せ」と。抵抗した両親は一切の慈悲を与えられる事なく殺された。自分を必死に逃がそうとした両親の願いは叶わなかった。

 

ヴォルデモート卿は杖を振るう。躊躇なく放たれた服従の呪文により、少女の意思は消え去った。操り人形と成り果てた少女の瞳には、もはや何も映らない。生気の無い、虚ろな表情をした少女にかつての面影はなかった。

 

「始めるとするか」

 

下準備を終えたヴォルデモート卿は空き地の中央に目を向ける。マグルやただの魔法使いならば存在にすら気付かないであろう魂。だがヴォルデモート卿にはどす黒い魂が確かに見えた。

その地に染み付いた怨みと魂。ヴォルデモート卿は言葉を紡ぎ、その二つを解き放つ。

 

「永劫の呪いは解かれる。受け継いだ者の血は魂を解放する」

 

銀のナイフが白い手首に触れる。切れ味の良いナイフは軽く掠っただけというのに、ヴォルデモート卿の手首を切った。切り口から溢れ出る血を一滴、大地に垂らす。次の瞬間には手首の傷は綺麗さっぱり消えていた。

解放された魂は、輪廻の輪へと戻ろうとする。が、当然のようにそれは阻まれる。

 

「解放された魂は宿り木を追い求める。肉体は目の前に」

 

輪廻に戻ることのできない魂はまるで操られるかの様に肉体の、少女の方へ向かう。数秒間 躊躇うかのように近寄っては離れてみるという動作を繰り返していた魂はゆっくりと肉体の中に入っていく。

 

「蓄積された怨みによって死者は蘇る。怨みは敵を滅するまで止まらない」

 

たとえ魂があろうとも、ただ肉体に入るだけでは蘇ることはできない。生への執着心がない魂は蘇れない。ヴォルデモート卿は怨みを利用する。マグルへの怨みを何百年にも渡って抱き続けていた魂は目を覚ます。

 

呪文を唱え終えたヴォルデモート卿は、額の汗を拭う。一見簡単そうだが、蘇りは外部からのサポートなしでは不可能。死者を蘇らせるためのサポートはヴォルデモート卿をも苦戦させた。

だが結果は…

 

ヴォルデモート卿はニヤリと笑った。彼は賭けに勝ったのだ。

 

 

宿り木となった少女の肉体は変化していく。赤かった髪の毛はその魂と同じように黒く染まり、年の割に小さかった身長は大きく伸び、一気に十代後半に変化する。

 

「ん…うぅん……」

 

長い睫毛が小さく揺れる。ゆっくりと開けた瞳はヴォルデモート卿と同じ色をしていた。明らかに纏う雰囲気の変化した少女にヴォルデモート卿は声をかける。

 

「死から蘇った気分はどうだ?」

「…最悪」

 

普段のヴォルデモート卿ならば少女の不遜な態度に怒り狂っていただろう。だが相手は自らと並び戦う者。ヴォルデモート卿は力ある者には寛容だ。

 

「今日のところは不遜な態度も許してやるが、これからは気を付けろ小娘」

「小娘じゃない」

「では何と?」

 

名を聞かれた少女は考え込む。少女は復活の儀式を見ていたし、なにより目の前の奴が関わり合いになりたくない人物なのは確定だ。なら本名を教えてやる必要はないだろう。

 

「…メアリー」

「ファミリーネームはないのか?」

 

嘲るようなヴォルデモート卿の問いに、メアリーは苛立つ。メアリー相手に家族の話はご法度だった。

 

「こちとら家族に売られて殺されたの。今更ファミリーネームなんて名乗るわけない」

「そうかそうか」

 

メアリーはヴォルデモート卿を睨む。彼は愉悦の表情を浮かべていた。

 

「取り敢えず蘇らせてくれたのには感謝する。けどアンタのどうでもいい主義に応じるつもりは無いから失せて」

「まぁまぁ、そう慌てるな。俺様はお前に復讐の機会を与えてやろうとしているにだぞ?」

「黙って。アンタに手を貸してもらう必要はない。自分一人でやり遂げる」

「この世界にマグルが何億人いると思っている?」

「そんなことどうでもいい。私は存在するマグル全てを殺してから死ぬ。文句ある?」

 

二人の話は平行線状態。目的が一致しているのに協調性はゼロだった。だがヴォルデモート卿の提案によってその状態は終わりを迎える。

 

「いい加減にして。邪魔するなら殺──」

「マグルを滅ぼしてもお前のお仲間は救われないぞ?」

 

空気が凍る。圧倒的な殺意がヴォルデモート卿に降り注ぐ。常人なら泡を吹くような異常な空間で、彼は口角を上げて歪な笑いをするだけだった。

数十秒程経ち、己の殺意がヴォルデモート卿に一切干渉できていないことを理解したメアリーは殺意を消す。彼のいう仲間たちはメアリーの中にいた。確かに彼女たちを、妹たちを護るのには自分では力不足だった。メアリが可愛らしい顔に似合わない舌打ちをすると、ヴォルデモート卿は「交渉成立だな」と右手を差し出す。

 

メアリーの目的はマグルを滅ぼすことだが、それ以上に妹たちを護ること。どんなにムカつく相手でも妹たちを護るためならば協力してやってもいい。

 

脳内で瞬時に損得勘定を行ったメアリーは左手を出し、ヴォルデモート卿と握手する。……それは相手の骨を折る勢いで。

 

 

 

こうして復讐者と帝王は手を結んだ。

互いの目的を果たす為の関係だがそれなりに長い付き合いにはなるだろう。メアリーはなんとなくだがそう感じていた。

 

 

 

これは愛と希望に満ちたハッピーエンドの物語…などでは無い。

闇の呑まれた者でもなく、闇に抗う者でもない、蘇った復讐者が怨みを晴らすために、ひたすらにもがき、殺す。それだけの物語。

結末は誰にも分からない。だが一つだけ言えるのは…物語は皆が望むハッピーエンドでは終わらない。それだけだ。

 

 

これは絶望によって始まり、絶望によって終わる最悪の物語。

 





ロンドン橋は昔にアメリカに移転されて、今あるのは新しく建てられたものだそうです。
メアリーたちは長い年月の間に完全に忘れ去られ、橋が移転された時も気付かれること無く地中に埋められたままでした。
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