London bridge is……?   作:かいんせあ

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It is what it is
A bloody little girl


「…これはどういうことだ?」

 

ヴォルデモート卿は新聞をテーブルに叩きつける。底冷えのするような声。顔を見なくても分かる。彼は激怒していた。部屋の隅に控えていたセブルス・スネイプは唾を飲む。彼が激怒している現場には幾度か遭遇したことがあるが、ここまで怒っているのは珍しい。

 

「どういうことも何も──あなた達の方針通りにやってるだけ。何か問題が? ヴォルデモート卿」

 

激怒するヴォルデモート卿。それに対して、その元凶であるメアリーは怒りを露わにしたヴォルデモート卿を嘲るように答えるだけ。部屋の中には濃厚な殺気が満ちる。死を感じる程の殺気。スネイプは額からダラダラと流れる汗を、最小限の動作で拭う。今少しでも音を立てたら殺される。

 

そんなスネイプとは対照的にその殺気を一身に浴びているメアリーは笑うだけ。ヴォルデモート卿は諦めたようにため息をつき、殺気を消した。

 

「この間とは逆じゃない?」

「黙れ。兎も角何故こんなことをしたのか説明しろ」

 

ヴォルデモート卿は先程自らが叩きつけた新聞を手に取り、その一面の大見出しを指す。文字通り活字が踊っている魔法の新聞の見出しにはこう書かれていた。

 

『キングクロス駅 3/4番線 死喰い人に襲撃を受ける!?』

 

見出しの直ぐ下の写真。日韓預言者新聞に勤める動写師(新聞に魔法をかけて動かす専門の職業だ)によって魔法をかけられた動く写真の中では、メアリーと思わしき一人の少女がホームで子供達を見送っているマグル達に向かって腕を振りかざしている。新聞にこの続きがないという事は…ターゲットとなったマグルは無残な死に方をしたのだろう。

毎年ホグワーツの入学式の次の日にはキングクロス駅の写真が新聞に載るが、その内容が襲撃事件になったのは前代未聞だ。ヴォルデモート卿の最盛期ですらホグワーツには決して手を出せなかった。今回の襲撃場所は比較的誰でも入れるキングクロス駅だったこともあるが、警備していた十数人の闇払いをものともせずマグルを虐殺していくメアリーの姿はこの新聞を見た多くの者に恐怖を与えるだろう。

 

「この玩具を試してみたかっただけ。何か文句でも?」

 

暗い血色の杖を弄りながらコテっと首を傾けるメアリーの姿はとても愛らしい。だがその顔に浮かぶ邪悪な笑みがその愛らしさを帳消しにしていた。

 

「俺様に嘘を吐くとは度胸があるようだな。あの芸当は魔法のものではない。」

「だから何?」

「…そこはまぁいいだろう。だが俺様の許可なく動くなと言ったはずだ」

「は?」

 

部屋の温度が明らかに下がる。不思議なことにメアリーの背後には人魂のような形の靄が大量に浮いていた。スネイプは思わず目を擦るが、靄は消えない。どうやら見間違いではないらしい。

 

「いつ私があなたの部下になるって言ったの、ヴォルデモート?」

「ヴォルデモート? 主を呼び捨てにするとはな」

 

先程の謎の威圧で既に一桁に到達していたであろう部屋の温度は、ヴォルデモート卿によって更に下がる。スネイプは目前で行われるやり取りから現実逃避して、今日の夕飯は何を作ろうか、と考えていた。尚、二人が戦いをおっぱじめた場合は夕食以前にこの世からおさらばする可能性があるので逃げる準備は万端である。

 

「死んでくれる?」

「直球すぎて芸がないな」

「私と違ってあなたは顔といい、頭といい、言動といい…完全にウケを狙ってるからそこらへんは厳しいのね」

「…将来有望な部下を殺したくは無かったのだがなぁ」

「安心して。数秒後に死んでいるのは自称 上司の貴方だから」

 

あぁ…この二人の言い合いはいつまで続くのだろう……。

一人頭を抱えるスネイプだった。

 

 

 

 

 

□■□■

 

 

「それじゃあ…ね! …行ってきますパパ、ママ!」

 

その言葉を最後に、愛しの娘は背を向けて列車に向かう。

娘が魔女であり、ホグワーツと呼ばれる全寮制の学校に行かなくてはならないと知った日から早三ヶ月。男は自分の隣にいる妻の顔を見る。病み上がりでまだ顔色は良くないが一週間前と比べると雲泥の差だ。

娘を慈しむ様にいつまでも去って行った方向を見る妻。男はそっと彼女の手を握った。

妻は一瞬驚いた様に手を離そうとしてきたが、握ってきたのが男だと分かると優しく握り返し、ふわりと笑った。

 

男とその妻は人生で最も幸せな瞬間を体験していた。……だが幸せはあっけなく消え去る。そこに辿り着くまでがどれほど長かろうと、積み上げてきたものが崩れ去るのは一瞬なのだ。

 

不意にチョイチョイと背後から服の袖を引っ張られた男は振り返る。引っ張っていたのは真っ黒なワンピースを着た綺麗な黒髪の少女だった。

 

「ねぇねぇオジサン」

「なんだい?」

「オジサンも魔法が使えない人?」

 

あどけない笑みを浮かべている少女に、男は答えた。

 

「あぁ、そうだよ」

 

男は妻の手を離して、少女と同じ目線になるように軽く屈んだ。そう、男は妻の手を離してしまったのだ。…もし離していなければ妻の異常に気付いていたのかもしれない。そうすれば…いや例え気付いていても、怪物(少女)からは逃げれなかったのだろう。

 

 

 

一方、男と話している少女を視界に入れた男の妻は恐怖のあまり体を震わせていた。彼女は一月ほど前から眠る度に悪夢を見ていた。

 

目の前の少女に男が殺される夢を。

 

「…ぁっ…ぁ…っ」

 

口が動かない。足も動かない。どんなに男に逃げろと言いたくても、それが伝わることは無かった。

 

 

 

「…へぇ、そうなんだ♪」

 

綺麗な形をした唇が、三日月型に歪む。ニィと。

男は恐怖を感じた。本能が、生存本能が逃げろと言っている。だが何から逃げる?目の前のこの少女からか?

 

「あ、あぁ。君はご兄弟の見送りに来たのかい?」

「ううん」

 

少女は首を横に振る。唇は相変わらず三日月型に歪んだまま。恐怖を紛らわす様に、男は少女に話しかける。

 

「じゃあ君は──」

「オジサンマグルなんだ。…残念。バイバイ」

 

男は更に言葉を重ねようとしたが、それは出来なかった。一瞬少女の手が動いたかと思うとーー男は、いや正確には男の首から上の部分は宙を舞っていた。男は首が落ちても人間は数秒間生きている、という話を思い出していた。男は回転しながら地面に落ちていく。

怒声、悲鳴、泣き声、笑い声。温かい家族の風景で一杯だったホームは一瞬で混沌とした空間に様変わりする。

地面に落ちる寸前、男が最期に見たのは、泣き崩れる妻と、血しぶきを浴びて一人嗤う少女だった。

 

 

□■□■

 

 

血塗れな駅のホームに横たわる十一の遺体。それに縋るように泣き叫ぶ家族の姿。

発車時刻は疾うに過ぎているというのに、紅色の列車は未だホームに残ったまま。

 

ニンファドーラ・トンクスは呆然と立ち尽くしていた。

 

あのアラスター・ムーディーに直々に鍛えられて、突然変異の七変化持ちで…トンクスは自分は強いと思い込んでいた。だが現実は…無情だ。

 

突然現れてマグルを次々に殺していった少女。トンクスは最初の犠牲者となった男の死ぬ瞬間を見てしまった。止めようとしても間に合わなくて…。次の犠牲者はトンクスの後ろに立っていた女だった。お腹を守るように死んだ彼女の腹の中には新たな生命がいたのだろう。今度こそ、と止めに入っても少女は気にもとめずトンクスの呪文を全て封殺した。対処法を考えている間にも死者は増えていき……。

 

気が付けば周囲はこの有様だった。

 

「…ぁぁあああ!!」

 

守りたくて…守りたくて闇払いを目指したのに……自分は何も守れず突っ立っているだけだった。

トンクスは地面に崩れ落ち、咽び泣く。堅く閉ざされた瞼の隙間を通り抜けてきた、透き通った美しい涙はトンクスの頬を伝い地面に落ち、地に染み込んでいった。

 

 

トンクスは自分を嘲笑う。守れなかったお前が何を泣き叫ぶんだ、と。

だからトンクスは決めた。……強くなると。もう二度と自分の前で殺させないと。

 

強く、悲痛な叫びはトンクスの声が枯れてしまうまで続いた。

 

 

□■□■

 

 

「ふむ…ではヴォルデモートはその少女を自らと同等の存在と考えている、と?」

「暗喩しているような言動はしばしば見られました」

 

スネイプの言葉を聞き、アルバス・ダンブルドアは長い髭をさする。ダンブルドアには昔から考え事をする時は髭をさする癖があった。仇敵であり、親友でもあった男に言われて初めて気が付いた癖だが、もう直せそうにないな、と内心苦笑する。

髭をさすりながら考え事をしている自分の様が、はたから見れば策略を幾重にも張り巡らせる老獪な策士の様だということはダンブルドアにとって大きな悩みだった。他人から見れば小さな事かもしれないが、本人にとっては大きな問題なのだ。

 

ダンブルドアは自分が策士ということは認めていたが、本当は優しげな好々爺といった存在でいたいのだ。……例え自分の本質は英雄を造る(・・)ために友を、教え子を見捨てる血も涙も無い人間だとしても。

 

そこまで考えたところでダンブルドアは思考を止める。歳をとるとどうも発想が自虐的になってしまう。死ぬ前にどうにかして自分の犯した罪を清算しようとしてしまうのかもしれない。そんな事を考え、ダンブルドアは自分の黒ずんだ右腕を見ながらゆっくりと言葉を発する。

 

「その少女がキングクロス駅の殺人鬼の正体というわけかの?」

「どうやらその様です。……どう対処すれば?」

 

スネイプの疑問は最もだろう。

計画は既に大詰めのところなのに、幾人もの闇払いを相手に圧倒的強さを見せつけたという謎の少女が突如現れたのだ。

分かっているのは魔法以外の謎の力を使えて、ヴォルデモートに同等と見做される程の魔法の腕もある、ということのみ。何故マグルに憎悪を向けながらも純血主義には興味がないのか、そもそもどうしてヴォルデモートに目をつけられたのかさえわかっていない。

 

実行役であり、最大級の危険を常に抱えているスネイプからしたらダンブルドアの指示を仰ぎたかったのだろうが……そのダンブルドアも対処法は思いつかなかった。現状ではスネイプが少女との接触の中で謎を解き明かしてくれるのを待つ他ないだろう。……その前にスネイプが少女とヴォルデモートとの喧嘩に巻き込まれて死ななければ、だが。

 

セブルスにはきつい任務を頼んでばかりだ。ダンブルドアは胸の奥のチクチクとした罪悪感をおくびにも出さず、飄々とスネイプに返答する。

 

「どうするもこうするも無いじゃろう。お主の情報で分かる限りでは推測の域を出ないが、十中八九その少女は純粋な人ではないの。太古の怪物の血が入っているか、闇の魔術で人をやめたか、はたまた滅びた筈の夜の王の末裔か……。今あげたものならまだ良いが、最悪人では太刀打ちできない可能性すらある。任務の内容がバレないように常に警戒する他ないじゃろうて」

「……暗に死ねと?」

「お主に死なれてしまっては儂は大変困るのぉ、セブルス。まだお主には儂を殺すという任務とハリーを導く任務があるのじゃから。儂としても出来る限りのサポートはしよう。ともかく今は不確定要素を潰すのが先決じゃ」

「分かりました」

 

音も無くマントを翻して去っていくセブルスをダンブルドアは憐れみの目線で見送る。ダンブルドアは自らの贖罪の為に今もこうして闇の勢力と戦っているが、同じく贖罪の為に戦っているスネイプはダンブルドアの目にはどうしようもなく哀れに見えてしまった。

遥か昔から続いている蛇と獅子の仲違いによって、希望に満ちた未来を破壊された若者がどれ程いることか!

 

セブルス・スネイプもその一人。勇気はさることながら、狡猾で大事な人のためならばなんでもする彼はその本質故に、かつての主を裏切り自分の元で日々命を擦り減らして二重スパイをしている。生きる希望も、夢もなく愛した人の息子を守るためだけに生きる彼にはいっそ憐れみを覚える。もしこれから先の戦いを彼が生き延びれたとしても、「その先に待っているのは幸せ」なんて考えは甘いだろう。

 

 

ダンブルドアは留めなく溢れ出てくる後悔を心の奥底にしまいこむ。長く生きていればその分後悔もたくさんあるが、ダンブルドアの人生は後悔だらけだった。だが過去に戻ることは誰にも出来ない。ーー正確に言うと過去に戻れても、過去を変えることは出来ない。だからこそ、ダンブルドアはより多くの人々を救う為に闇と戦い続けるのだ。それを贖罪として、罪を償おうと。

 

だがダンブルドアは時々不安になる。自分は結局何も変わってないのでは、と。

多くの人を救う為に、少数を切り捨てる自分の方針は「より大きな善のために」行動したあの頃と同じなのではないかと。

ダンブルドアの内に巣食う、その疑問に答えるものはホグワーツの校長室にはいなかった。唯一その疑問に答えられるであろう彼は、自ら造った牢獄の中で朽ち果てるのを待つばかりーーの筈だ。

だが……何故なのだろうか? ダンブルドアは審判の時は目前に迫っている事を感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

 




フラグをばら撒いてみたが…回収できる気がしない…。
尚、さりげなくトンクスの強化フラグが立ちました。個人的にはかなり好きなキャラです。
そして同時にグリンデルバルドさん脱獄フラグも出ました。作者が思うに騎士団よりにせよ、闇よりにせよ、オリ主が最強ポジにいると必然的にグリンデルバルドさんの需要が高まるんですよね。魔改造しても闇の魔術だから問題ナッシングなヴォルさんと違って校長先生は安易に強化できないんでオリ主が闇陣営(ないしは第三陣営)だとかつての親友ペア(恋人?)が立ちはだかる壁として最適だと思うんですよ。

と、まぁ長々と語ってしまいましたが何が言いたいかと言うと──ファンタビ楽しみやな!!
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