ソードアート・オンライン ~悪魔の剣と光の剣士~ 作:桜花 如月
SA:Oクローズドβテスト12日目
オルトラム城砦:神殿への通路
ハルキ目線
「ハヅキ、プレミア!スイッチ!」
「うん…!」
ジェネシスと戦っているうちにどこかに行ったもう1人の巫女を追いかけるため奥に進んだ俺達は通路を塞ぐように歩いているNMモンスターを3人で討伐しようとしていた。
───
NM:スカルキング
Lv.38
───
「俺がこいつを引きつける、そのうちにお前らで攻撃してくれ!」
「分かった!」
俺は投剣スキルを骨型NMモンスターに向かって使い、タゲを俺に向かせて攻撃を全て受止めそのまま弾き飛ばした。
「お前らの攻撃で倒せる、やれ!」
「はぁぁぁ!」
ハヅキ&プレミア:細剣SS シューティングスター
2人のSSで倒した……と思ったがギリギリ体力が残り、NMモンスターはハヅキ達の方にタゲを向けて攻撃をしようとした。
俺はモンスターの攻撃が振り下ろされる前にハヅキたちの前に立って攻撃を止め、弾いて直ぐにSSを放ちトドメを刺した。
「まさか残ったとは……大丈夫か?」
「うん、それよりここって……」
「あぁ、いつの間にか奥に進んでたみたいだな」
俺達は気が付かないうちに奥に進んだらしく、最奥だと思う部屋の手前に立っていた。
そしてさらに奥には祈りを捧げる祭壇のようなものの前にもう1人の巫女が立ってこちらを見てきている。
「やっと来たんですか、人間」
もう1人の巫女の元まで近づいたところで黙っていたもう1人の巫女は口を開き俺たちにそう言った。
こいつから感じられるのはNPCの言動ではない、そんな感じが───
「なぜジェネシスは大地切断を起こそうとしたんだ、何を企んでたんだ」
「……あの方は何も持たない私を連れ出し、戦う術を、この世界で生きる術を教えてくれた、そして私を《ティア》と名付け、存在する意味を教えてくれた」
ティアは俺の質問とは別にジェネシスに関しての話を始めた。
招待組や他のプレイヤーの情報だとジェネシスはNPCのことを《モブ》と呼んでいたはずだ、だが何故この子だけは名前を……?
「だけど人間達は彼を否定した、彼のやっている事
「それは……」
確かに、ジェネシスのやっている事は聞いてきただけでは悪事を働くプレイヤー、だがそれだけならこの子に戦闘の仕方なんて教えるはずがない。
「私は初めて私を受け入れてくれた彼を失った、また、私は1人……」
ティアの表情は少しずつ険しくなり、そして───
「あの人の言っていた通り、人は恨むべきもの、人の存在が私たちを悪くする、人の存在がこの世界を醜くする………私たちを拒絶する世界なんて必要ない、私たちを拒絶する人々なんて必要ない!」
「「それは違う!」」
ティアの人に対する否定的な発言を聞いた俺はそれに反発するように言葉を発した、ハヅキも同じ考えだったらしく俺と同時に言葉を発した。
「あなた達にはわからない、さぁ、もう1人の私、一緒に祈りを……それが何も出来ない私たちにできる唯一の役目なのだから」
「(P)私は……世界の崩壊は望みません」
プレミアが俺の前に出てティアの誘いを断った。
「(T)なぜ?人々がいることでこの世界が醜くなるなら消してしまった方がいい」
「(P)あなたや私の都合でこの世界の人を消してしまう訳には行きません、それに私はみんなが持ってる《可能性》を守りたい」
「(T)なぜ人間を守らなければならない!ジェネシスや私を拒絶した人間達を!人がこの世界に来なければこんな思いはしなかったのに……!誰も私を受け入れてくれなかった!」
「(P)受け入れてくれる人だっている、お互いが分かり合えたかもしれないのにその可能性を彼は消すことを選んだ!」
「(T)拒絶するだけの存在と分かり合えるはずがない!私はただこの世界で一緒にいたいだけだったのに!」
ティアはそういった後、祭壇に登り、俺たちの方を向き一言放った。
「(T)あなたがやらないなら私だけでもこの世界を崩壊に導いてみせる」
「待て……っ!」
俺は祭壇の階段を登って剣を取り出し祈りを始めたティアに向けて攻撃をしようとした、だが俺の攻撃は謎のバリアのようなもの……《破壊不能オブジェクト》によって防がれ、俺は階段の下まで吹き飛ばされた。
「こんな世界……消えてしまえばいいんだっ!」
「やめろ……ティア!」
俺の声は既にティアには届かず、ティアは祈りを再開した、するとハヅキのストレージから4つの聖石が、残り2つはティアのポケットからティアの周りに円を描くように現れ、ティアの髪は白に変わり、そのままティアはどこかに消え……いや、転移した。
ティアが転移したと同時に地震が起こった。
『ハ……君!……え……』
「セブン!すまない……大地切断が起きた」
『やっと聞こえた……けど手遅れみたいね……とりあえずそこから出て上空を確認してみなさい、そ……』
何かを言い終える前に地震の影響か開発途中の機能だからかわからないが通信が途中で途切れてしまった。
俺がセブンと話している間にハヅキが転移結晶を用意してくれたらしく俺達はそのままはじまりの街に転移した。
はじまりの街:転移門広場
「なんで……あれって……」
街に戻った俺たちの目に入った景色、それは──
「浮遊城アインクラッド……」
セブンが本サービス開始と同時に開始する予定だったグランドクエスト、そのクリア後に登場させる予定だった《浮遊城アインクラッド》が1人欠けた状態の祈りによって創造させられてしまった。
「ハルキ、ハヅキちゃん、プレミアちゃん、とりあえず宿屋に来て!」
転移門から転移してきた声の主、シズクは俺たちにそう言って直ぐに商店通りの方に向かって走っていった。
俺達もあとを続くように宿屋に向かった。
商店通り:宿屋(カフェスペース)
宿屋には俺が無理言ってログインしてもらった招待組のみんなが待っていた。
「お前ら……ごめんな」
「謝ることは無いよ、ハルキ達は頑張って戦ったんでしょ、話したいことはあるけど状況をまとめようよ」
「あぁ……とりあえずこっちから説明する」
俺は神殿内で何が起こったのか、ティアとジェネシスが何を考えていたのかを全て説明した。
「人に拒絶……か」
「それでシズク達が確認したのはどうだった?」
「………酷い有様だった」
俺の質問を受けたシズクは急に暗い表情になりウィンドウを開いて俺とハヅキに見える位置に移動させた。
そして、そのウィンドウに映っていたのは……
「シズクと手分けして撮ってきたアインクラッドが創造された場所の周辺、元々はNPCの集落がいくつかあったけど……」
巨大な穴の周りに散乱した瓦礫や半壊した家のようなもの、所々に武器のような物が落ちているように見える。
そしてNPCの集落ということはその場にいたNPCは──
「俺が止めていれば……」
アインクラッド創生に行われた場所にあった集落は3つほど、全て合わせれば30前後のNPCがアインクラッド創生に巻き込まれたと考えるべきだ。
「ハルキのせいじゃないよ……?」
「……お前ら、とりあえず今日はもういい時間だからログアウトしてアインクラッド攻略は明日からやるぞ」
「分かった、だけどハルキ、自分を責めないでね」
「あぁ、そのつもりだ」
既に現実時間はいい時間になっているのを確認し、招待組全員にログアウトするように言ったあと、ライムが俺の心配をしてくれたのを軽く答えてそれに安心したのかフィリア達と一緒にログアウトしていった。
「ハヅキ、先にログアウトして俺の病室で待っててくれ」
「……うん、わかった」
ハヅキも有無を言わずにそのままログアウトした後、残った俺は向かいに座っているプレミアを誘ってフィールドのとある場所に移動した。
リューストリア大草原:見晴らしの良い高台
「……ここなら誰も来ないか」
誰かに話を聞かれる可能性を考えてプレミアと一緒に移動した俺はプレミアにとある質問をした。
「プレミア、お前は何をしたい?」
「私は……み───私はやりたいことなどはありません」
何かを言おうとした
だがそれは彼女の本心ではない、彼女には普通のNPCとは違うものがある、だからこそ本心を聞く。
「お前の本心を教えてくれ、何か、叶えたいことがあるだろ?」
「私は……わた…し……は…」
プレミアは俺の質問に戸惑ったのか、言葉に詰まって俯いた後、しばらくして本心を言葉にした。
「私はあなた達と一緒にいたい、みんなと一緒にいたい…っ!」
このプレミアの本心の叫びと共にクエストNPCとしてのクエストマーカーは消滅した。
「俺が、俺と招待組のみんながお前と一緒にいる、お前のやりたいことを叶えさせるよ」
「ありがとうございます……ハルキ」
「あぁ、どういたしまして」
この時、1人のNPCは1人の少女として生まれ変わったのだった。
そして街に戻った俺は待たせてるハヅキのためにログアウトをした。
現実世界:病院
春揮目線
「……なんで上に乗ってるんだ?」
「遅いからつい……」
現実に意識を戻した俺のちょうど腹のあたりに葉月がまたがるように乗っていた。
ティアと名づけられたNPC、彼女とジェネシスの思いは春揮達、他プレイヤーには届かず、ついには争いを引き起こしてしまった。
そしてその結果、最悪の事態を引き起こしてしまった。
果たして春揮達、そしてプレミアはティアを止めることが出来るのだろうか?