魔王美樹の大冒険(旧:来水美樹が異世界召喚された件)   作:魔王信者

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序章 来水美樹が異世界召喚された件
01 異世界から帰ってきたのに、異世界に召喚された件


―― LP 0003年某月

 

やっとの思いで帰ってきた。

彼、そして彼女はようやく帰ってきたのだ。

 

 長い旅路の末ではあるし、問題を抱えての帰宅ではあるが、帰ってきたのだ。

 

「やっと帰ってこれたね。」

「うん、そうだね。」

 

 彼らはとりあえず武装を隠し、帰路につく。

 帰還する際に通った異界の門は山間の神社にある裏庭だった。おかげで、目撃者も居らず騒がれずに済んだ。

 

「あ、ここの駅からだと3っつかな、あんまり遠くなくて良かった。」

「でも電車に乗るお金ないね。」

「歩いて帰れるだけマシだよぉ、今まで、いったいどれだけ歩いて移動したことか。」

「ははは、そうだね。」

 

 歩いて移動することなんて、もう慣れっこだった。

 異世界にさらわれたのが4年前であるから、当時16歳だった彼は20歳だ。もういい年齢であり精悍になっていた。ヘタレだが。

 最も彼女は成長も無いので、当時のままだが。

 

 

 程なくして来水家まで到着する。

「……美樹!」

 家に居た母親に感極まって抱きつかれる。

「お、お母さん」

 やっと帰ってきた実感と共に涙が溢れた。

「ただいま」

「おかえり、おかえり」

 二人は涙を流し、しばらく抱き合っていた。

 

「うう、よかった美樹ちゃん」

 彼もその光景を見て良かった良かったと涙が出た。

 

 

「それで、一体今まで何処に居たの?」

「それが…」

 

 攫われた事。異世界に行ったこと(信じてもらえなかった)

 攫われた先から逃げ出したが、ずっと追われていた事。逃げながらずっとがんばって帰ってきた事を説明した。

「信じられないけど、とにかく帰ってきてくれて良かったよ。」

 

 彼が助けてくれたことも説明した。

「君も頑張ったね。助けてくれてありがとう。」

 

 彼、健太郎も来水家の人と一緒に小川家に帰宅する。

 同様に安堵されたが、仕事と学校から帰ってきた父親と弟に殴られてから抱きつかれた。

 

 一つの旅が終わったのだ。

 

 

 

 

 

 一段落して

 

「それで、これからどうする?」

 そう聞かれた。

 

「え?これから?」

「あんたら中卒だよ?美樹は卒業すらしてないね。」

 

「「あっ…」」

 

 そうなのだ、行方不明が解除されたとしてもその件が残っていた。

 中学校に関しても年齢が年齢(18歳)のため、再度通うのが躊躇われた。

 

「必死に勉強して高卒認定試験取って進学するか、就職するか…中卒は就職厳しいからねぇ」

 異世界からの帰還者には厳しい世の中だった。

 

「う、うーん。今までやってきたことと言えば…戦闘?」

 物騒な話である。

 

「一体何と戦うんだ?」

「こう…敵と?」

「何の敵だよ!」

 

 しばらくは休みたいと思った二人だったが、思った以上に元の社会に馴染めない予感がした。

 当面は様子見と社会復帰、進学か就職かは悩んでいたがとりあえず保留。一週間後に決めようとなった。

 

 

 

 

 旧友に会った。

 すっかりと変わっていた。

 

 旧友に会った。

 ずいぶんと大人びていた。

 

 『旧友』なのだなと理解した。

 

 そうこうして徘徊していたら町中で彼がチンピラに絡まれた。

 チンピラが全然怖くなかった。

 怖くないことに怖くなった。

 

 彼が飄々としていたのでチンピラに殴られた。

 全然痛くないようだ。

 殴り返すと、数メートル先に吹き飛んだ。

 元の世界の人間は随分と弱かった。

 

 彼女たちが強くなったのか、適応したのか。

 

 幸い人気もなかったのでそのまま立ち去った。

 吹き飛んだチンピラが生きているかどうか不安に思ったがどうしようもない。

 もしかしたら、ボクシングでチャンピオンになれるかもねと言って彼は笑った。

 彼女もそれで笑った。

 お互い乾いた笑いだった。

 

 

 なんだか生きていくのが辛くなりそうだった。

「私、とりあえず試験受けるよ。勉強する。」

「…うん。」

 

 大検なら一年頑張れば行けるだろうか。

 彼女は大検を受けるための学校を探したら、塾のカリュキュラムにあったので塾へ通うことにした。

 

 彼は就職する事にした。

 体力だけは人並み以上だからだ。力仕事も苦もなくできるだろうと。

 

 日常へ回帰し、日常生活を始める。

 復帰は難しいが、魔物に追われてた日々よりはマシだろうと笑いあった。

 

「がんばろう、美樹ちゃん」

「うん。頑張ろうね。健太郎くん」

 

 

 

 翌日

 

 彼女が塾の教室に行くと、結構な人数が居た。

 30人くらいだろうか。みんな自分より大人びている。

 当然だ。14歳のままの自分と18歳前後の皆ではまるで違う。

 

「おや?ここは大検クラスだよ?」

 親切な髪を茶に染めたお姉さん(同い年くらい)の方にそんな事を言われるくらいには違った。

 ところで彼女のピンク色の髪はみんなにどう見られているのだろうか。

 

「子供っぽく見えちゃうんです。」

 もう大人な年齢なのだと、しっかりしなければと気を引き締めた。

 服装は何時も通りだが。

 

「ふーーーーん?」

 珍しいものを見るようにジロジロ見回している。

 

 そもそも途中での入塾みたいなものなので、だいたいグループが固まっているようだった。

 みな一様に中卒か高校中退なのだろう。

 中学中退は自分だけかな―と彼女が思って授業らしきものが始まるのを待っていると、唐突に床が光る。

 

「え?」

 それは魔力の波動。彼女にはすっかり馴染み深い魔力だ。

 

 その床が唐突に真っ暗になるとストンと床が抜けた。

「キャーーーー」

「な、なんだ!?」

 

 落下する。

 

 教室内全員が落下し、どさどさっと石畳の床に落ちた。

 

 それはなにかの儀式の場で上に魔法陣らしき何かが光っている。

(異界の門?え?)

 周囲を見渡せば騎士らしきものが剣を手にし包囲している。

 

「な、一体何なんだ?」

「ちょ、いくらなんでもテンプレすぎるでしょ」

「あ?なんだこれ」

「ステータスオープン…ちっ開かねえ。」

「ここ何処よ?」 

 

(最悪だ、戻ってきちゃった。健太郎くんも居ないのに。)

 彼女は、またあの世界だろうと思った。

 

 それはそうだ、異世界と言えばあの世界だったのだから。

 

「静かになさってください。」

 使っている言葉は違った。だが理解出来た。

 その時点でおや?っと思ったが何も言わなかった。

 

 そんな事よりも体そして心に違和感があったからだ。

 おかしいと思っても、どうおかしいのか理解しきれない。

 

 それ故に慎重に周囲を警戒、情報収集しつつ今後の成り行きを見守る。

 

-------

調べる→上

 

 上に展開されていた異界の門は既に閉じ、退路はないと思われる。

 

 

調べる→周辺

 

 騎士たちが囲んでいる。神官ぽい人が一塊で居る。

 

 

調べる→神官

 

 何か見下したような、達成感を得たような顔をしていた。

 男の人で白系に金色の刺繍が入ったアリス教みたいな格好をしていた。

 ※彼女の主観であり、かなり違っている。

 

 

調べる→被害者

 

 静かにしろと言われてから、どよめきは減り、周囲を警戒しつつ神官を見ているようだ。

 

 

調べる→違和感

 

 わからない。

 

(わからないなら仕方ないなぁ)

 

 

考える→帰れるかどうか

 

(また、異界の門を探して帰ろう。)

 前回はそうやって帰ってこれたのだ。今度だってやれるはずだ。

 

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 彼女なりにコマンド選択(?)していたが場が動いたようだ。

(イベントが始まったのかな?)

 

 

「ようこそおいで下さいました。勇者様方」

 

 神官がそう告げると、再びどよめきだした。

 

「どういう事だ、勇者?」

「一体何なの?」

 

(…ゆうしゃ?え、どういうこと。まさか私が?)

 彼女からすれば、ものすごく滑稽であった。

 

「まず、おいで下さいました勇者様方には、一つ選択をしていただきます。その選択如何によって待遇が変わると考えてください。」

 

「選択?」

「待遇ってなんだよ。」

 

「その選択とは、勇者として生きるか、それとも違う道を選ぶか。でございます。」

 

 その神官は大仰にお辞儀すると、まずはステータスを確認しましょうと言った。

 

(ええ!?ステータス!?やばい・・・私のステータス見られたらヤバイよ。勇者の中であんなもの見つかったら、殺されちゃうよ~)

 

 彼女はおおいに動揺した。動揺したがそれまでだ。

 いままでであれば、抑えつけていた魔力が表に溢れ出たはずだ。

 魔力は魔王の力。破壊衝動とセットになっているものだ。

 破壊衝動と同様に、それを全力で抑えつけているのだ。

 今までなら内側から出よう出ようとする力も強い。

 だから動揺したり思ったり悲しんだりと、心が大きく揺れると漏れ出てしまうのだ。

 

 だから、動揺したにも関わらず何も漏れ出ていないのが不思議でしょうがなかった。

 

(おかしい…いやそれよりステータスどうしよう。)

 

 困っていると、神官たちの配っているステータスプレートとやらを渡された。

 

 

「それでは、そのステータスプレートに血を一滴垂らしてください。」

 

(…あ、そうか、勇者にならないぞって言って、だからステータスも見ないって言えば良いんじゃないかな?)

 

「うお!ステータスだ!?」

「わーナニコレ」

「さすが異世界だぜ」

 

 ステータスを見て喜んでいる者も居れば、警戒して血を付けない者も居る。

(あれ?なんで・・・)

 

 血を付けない者は少数ではある。

 そんなこととは別に、何故躊躇なく血を垂らせるのか不思議だった。

 そこはまあ、テンプレ異世界召喚カルチャーが蔓延したからではあるが、その間本当に異世界に行っていた彼女には分からない。

 

「そちらの方は、なぜ血を付けないのですか?」

「いや怖くって。」

「この針でちくっとする程度でございますよ?」

 

 様子を見ていると、どうにも神官がステータスプレートに血を付けることを推奨しているようだ。

(何かおかしい、違和感があるなぁ)

 

 

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考える→なぜ血を付けないのか

 

(健太郎くん、今頃何しているかなぁ~)

 

 

考える→なぜ血を付けないのか

 

(なんで血なのかなぁ)

 

 

考える→なぜ血を付けないのか

 

(他の人も何か危険な匂いを感じているんだね。

 ―何か悪い予感がする。)

 

 

見る→ステータスプレート

 

 何かしら魔法がかけられているようだ。

 

 

見る→ステータスプレートにかけられた魔法

 

 ステータスを表示するだろう魔法だろうか。

 

-----

「そちらの方も血は辛いですか?」

「え?あー勇者になる気は無いから、別に作らなくても良いかなーって」

 

 神官に話しかけられていた。

 

「なんと、もう決められましたか。しかし有用なスキルやジョブを得られているかもしれません。申し訳ございませんがステータスだけは作っていただきたいです。

 そして有用であれば勇者の道へ進んでいただきたいのです。」

「は、はぁ…」

 

(本当かなぁ~なんか嫌な気分だよ。健太郎くん!助けて!)

 

 助けを求めても健太郎は現れない。

 当然だ、異世界には一緒に来ていないのだから。

 

(うう、健太郎くん…どうしようどうしよう)

 

 

 ふと…血といえば魔血魂なんてものがあったなぁと思った。本当に脈絡もなく思った。

 

 思ったら手の中に魔血魂があった。

 

(あ、いいやコレ使っちゃえ。)

 

 初期化された魔血魂。これを傷つけて血を滴らせた。

 初期化済みでなければ中の人の心が壊れたことだろう。

 

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見る→ステータスプレート

 名前 ノス

 ジョブ なし Lv1 F級

 スキル -

 

----

 

(よし!)

 

 名前が違うが、ヤバイステータスも無くほくそ笑んだ。

  

(ノスって誰だろう、あ、この魔血魂のひとかなー?)

 

 

 初期化されても名前は残っていたようだった。

 

 

「それでは、ステータスの確認させてください!」

 

 

 神官や騎士達が順番になるよう誘導し、並んでいく。

 

1人目

 火魔法使いLv1 B級 スキル 火魔法Lv16

 

2人目

 戦士Lv1 C級 スキル 剣術Lv10

 

 

(B級とかC級とかなによ?スキルLvって3までじゃないの!?)

 彼女がそう思うのも無理はない。今まではLv0が普通、1でエリート 2で達人 3で英雄だったのだ。

 

(前の基準では考えないほうが良いみたい。)

 

10人目

 光戦士Lv1 A級 スキル 光剣術Lv25

 

「おお!まさにまさに勇者にあるべき素晴らしいジョブとスキルだ!」

 神官達がほめそやす。

 それに満更でもないような笑みを浮かべて受け入れているようだ。

 

(勇者だから、やっぱり敵になるのかなぁ。)

 

13人目

 聖女Lv1 A級 スキル 神聖魔法Lv20

 

 先程と同じ様に聖女に対しても、露骨に褒め称える。

 よほど稀なジョブなのだろう。

 

 

22人目

魔導士Lv1 A級 スキル 全魔法 Lv19

 

(だいたいA級からD級ジョブなのね。Eは一人もいないのかー

 そして全員Lv1ってことは、コレが普通のLvになるのかな?

 才能限界レベルはどこにあるんだろう。見えない?もしかして存在しない?)

 

23人目

白魔法使いLv1 B級 スキル 神聖魔法Lv14

 

(あ、教室に入った時に声をかけてくれた人だ。ユカタさんって言うんだ~)

 

 

26人目

雑魚Lv1 E級 スキル ネットショップ Lv1

 

「うはー雑魚だ!雑魚が居た!」

「待て待て、ネットショップは有用だろう!?」

「これは引っ張りだこ案件だな。」

 

 

 雑魚というジョブがあることに驚愕するも、ネットショップは有用なため特に見下されはしなかった。

 だが、力をつけなければ奪われるために囲われる運命にあるだろう。

 

(ネットショップってなんだろう?)

 そんなネットの力をあんまり理解する前に異世界に飛んだ彼女は、よくわからなかった。

 

「それにしてもE級がいるんだなぁ」

 

 蔑すんだ目でも見られている。若しくは獲物や道具を見る目であろう。

 

30人目

 なしLv1 F級 スキル -

 

(はい、はーい私です!F級だよぉ~)

 

「うっは、雑魚より雑魚が居たーーーー!」

「なにあれー」

 

 人は下を見て、不幸を見て悦ぶものなのだろう。人一倍騒いでいるのは、確かC級だったと思ったがすぐに忘れた。

 

(まあ、警戒されるよりはいいか。勇者からそっと抜け出せるだろうし。)

 

「まあまあ、勇者様方。ジョブなしLv1ですが、よく平民にありがちなジョブですので。とくに悪いというものでもありませんよ。」

 神官はそうフォローするも、心の中で赤子ならねと続けた。

 

 フォローはされたが先程のE級以上に蔑みの目で見られている。

 当然だ、有用なスキルも無いのだ。単なる無能。それが彼女への評価である。

 正直正体がバレたら土下座案件であろう。

 

 

(うーん。なんだかなぁ)

 

 そんな他者からの評価よりも重要なのが、心と身体の変化である。

 何故あんなにも平然としていられるのか。何故取り込んでいた魔血魂を表に出せたのか。

 答えの出ない問に悩まされていたが…

 

「ノスさん?ノスさん?」

 

 考えていると、神官に声をかけられていた。眼の前で話しかけられたので気がついた。

 

(あれ、ノスって誰だろう。)

 そう思ったが、そう言えばノスのステータスプレートだった事を思い出す。

 

(そういえば皆の前で自己紹介する前だから…名前を偽っても分からない!?)

 都合よく偽名が名乗れた。

 そう考えるとラッキーとしか思えなくなった。

 

「あ、はいなんでしょう?」

「皆さん移動されましたよ?」

 

 よく聞いていなかったが食堂の方に移動するようだった。

 

 食堂に移動すると、席順はA~Fとランク別となっていた。

 

(はは、解りやすいなぁ。)

 

 

「さて皆様、ステータスの方は把握されましたでしょうか。

 それではこれから勇者として生きるか、それともならないかを選んでいただきます。」

 

 神官はそう告げると、例のE級ネットショップの者が手を上げていた。

(確かアキ君だったかな)

 

「なんでしょうか?」

「家に帰りたいんだが、還してはくれないのか?」

 

 当然ながらの質問だった。

 むしろいままで無いのが問題だったが、一連の流れで動揺していたためか出ていたなかったのだろう。

 

「大変恐縮ですが、それはできません。」

「なぜ?」

「喚ぶことしかできないからです。」

 

 皆一様に帰れない事に動揺する。

 

「ふざけるな!!」

 他から当然の叫びが出る。不満は一々最もだろう。

「家に帰れない!?」

 

 ざわざわとざわめき静まらない。

 

「勇者か、勇者というがなんだ?魔王でも倒せというのか?」

「…いえ、そうではありません。魔王は居りませんので。

 召喚されし皆様には、世界を渡る際に恩恵が得られます。

 そのため、その力を以って世界に貢献していただきたいのです。」

「拉致した上に強制労働かよ!」

「無理やり戦わせるのかも…」

 

(ホントに勝手な人たちだなぁ。)

 

 ざわめきが更に広がる。

 だいたい把握してきたと言うべきだろうか。

 

「いえいえ、勿論勇者を選んで戴いた方は、それ相応の待遇で持て成させていただきますとも。

 衣食住はもとより、高度な教育、さまざまな特典がございます。」

 

 もう帰れない。

 その上で放逐?されるか勇者の道を選ぶかが強制的に選択肢と現れる。

 

(なんだろう、もやもやする。なんか――酷いなぁ。)

 彼女はぼんやりとそんな感想だった。例の世界から帰還するのも大変だったができた。

 だから今回もなんとかなる。そう思っては居た。

 

(今回も賢者さんとか居れば良いんだけど。)

 前は最果ての塔に居た賢者から教わっての帰還だ。今度は一人で探さなくてはならないかとため息を吐いた。

 

 理詰めだろうか、詐欺師の手管だろうか。それとも洗脳だろうか。

 あの手この手で勇者しか道がないように、その心理を狭めていく。

 放逐のデメリットを説き、勇者のメリットだけを突きつける。

 特典はかなり良いものだと説明される。

 

 そして終局…考える間を与えず結論を聞く。

「それでは、勇者にならない方はいらっしゃらないと思いますが、お尋ねします。

 勇者にならない方はいらっしゃいますか?」

 

 そんな解説をまったく聞いていなかった彼女は、(あ、質問された。)と思って返事を返した。

「あ、はいはーい、勇者になりませーん!」

 

 あっけらかんと。気軽に応えた。

 それに神官は一瞬理解できなかった。

 

「え?勇者にならないのですか?

 あなたのようなF級の方が、高度な訓練や教育の後、低級でも勇者であれば優遇されるのですが?」

 

「あ、元の世界の帰り方探すんでいりませーん」

 

 むしろこの世界との決別を考えていたようだった。

 

「僕も…勇者にはならない。まあ、所詮雑魚だからな。」

 自嘲気味に例の雑魚。アキは答えた。

 

「な、貴方のスキルは有用です。であれば勇者の道を目指すのが当然ではないでしょうか。」

「胡散臭い喋り口には慣れてる。僕は放っておいてくれ。」

 

「いえいえ。あーわかりました。」

 神官が思い悩んだフリをし妥協案と思われるものを提示する。

 

「わかりました。勇者にならない。それも選択です。

 しかし、この世界のことを少しも知りもせず放逐するのは気が引けます。

 これから2年程訓練と学習期間が設けられますので、是非学んでいってください。

 その頃にはまた、心変わりがあって勇者になると言うこともあるでしょう。

 如何でしょう。」

 

 この流れから、雑魚のアキは相手が放逐する気がない。そのように受け取った。

 むしろ強行する事でデメリットが生じそうだと感じた。

 

「確かに雑魚なのは仲間としてどうかとは思うが、ネットショップは有用だ…居てくれ。たのむ!」

 Aクラスの光戦士は頼んだ。むしろネットショップしか見てない宣言ではあるが、表面上は頼み込んだ。

 

「ふぅ…解りました。この世界のことを勉強する必要はありそうですし、勉強期間は了解しました。」

 雑魚の彼は説得の末、しぶしぶ了解した。

 

「そんなのいいから放逐して!外に出たい!」

 微妙な空気など読めない天然な彼女はそう宣った。

 

 みんな、一様に え、そこで拒否るのかよ? というような感想だった。

 

「あ、いえこの世界の常識をですね…」

「えーとハニーとかきゃんきゃんとかいるんですよね?リーザスとかヘルマンとか国があって」

「一体何の話を…」

 

「え?違うの?」

 彼女は根本的に、ルドラサウム大陸世界の話だと思っていたようだ。違う異世界だとは思っていなかった。

 

「違いますよ、なんですかハニーとかきゃんきゃんとは…リーザスなる国もありません。」

「えーそうなんだー」

 

(そういえば、魔王も居ないって言ってたっけ。)

 

「それではノスさんも2年間常識を学んでいただくという事で宜しいですね?」

「あーうーん。わかりました。」

 

 渋々了解した彼女は、違う異世界に到達した事を思い至った。

(そういえばステータスも違うもんね。)

 

「それでは、今日はここで食事と、これからの流れについて説明いたします。」

 

(とりあえず、ノスってことで頑張ろう。というか、社会復帰一日目から復帰活動が停止したよ。元の世界で暮らせないって事なのかなぁ)

 

 彼女は説明を聞いていなかった。

 

 

 流されるままに宛てがわれた部屋に到着する。そして明日から勉強に訓練が始まるのだった。

 

「あーあ、異世界から帰ってきたのに、また異世界に来ちゃった…健太郎くん。さみしいよぉ」

 

 

 

 

 

 

 




勢いのみで書きました。
てか二次創作は勢いのみで書かないと私はだめです。技工とかそんなもん無い。
コンセプト?蹂躙かな。

いちおうランス10に絡む予定はありますが今はこんな感じ。

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