魔王美樹の大冒険(旧:来水美樹が異世界召喚された件) 作:魔王信者
見渡せばそこは地獄だった。呻きと怨嗟の声が溢れている。
いったい僕は今まで何を見ていたのか。
もう、躊躇わない。僕は魔王を殺す…!
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勇者は何が悪くて、何が正しいのか分からなくなっていた。
その迷いを断ち切るために、我武者羅になって暴れていた。気が付けばダンジョンを攻略し終えていた。
そのダンジョンをクリアし、教都へ戻ってきたのだが、彼が見たものは見るも無残な廃墟だった。
まるで地獄だった。
人は居る。
ボロボロで崩れかけた壁の裏側に息をひそめる様にして生きている。屋根の落ちた焦げた家で夜露を凌ぐ。
これがあの威容を誇った教都かと思うと物悲しくもあり、これを成した者について怒りを禁じえない。
――誰がこんな事を!!
遠くに見る教城を見据える。魔力を感じる。
魔王が居るならばここからでも分かるだろう。居ない…だが、あの魔王の手下は居る。
あいつか―
激情に身を任せ、城を目指す。
城門は切り捨てた。
それほどまでに人間を辞めていた。
異世界人の兵士が居たがこれらも斬り飛ばす。
彼を遮るものは何もいない。
「あっちか…!」
魔力から居場所は分かった。
まっすぐまっすぐ、ひたすらまっすぐ進むと謁見の間があり…
「待て!」
「止まれ!」
その扉を守る兵士が居たが、怒りに任せ、これも扉ごと切り捨てる。
「!!!」
中は地獄だった。
女性が複数人倒れている。裸で色々汚れていた。
男も複数人倒れている。これも裸で色々汚れているが、血で汚れている方が多かった。
恐らくは、死んでいる。
謁見の間では、玉座に座る幼女を愉しませる為に芸などを披露するための行列があった。
今まさに芸をしている最中の様だ。
「……」
入ってきた彼に集中すると、幼女はほぅっという顔になる。
その後に、
例の勇者だ。さて、どうやって虐めてやろうか。
そんな顔をした。
「お、お前が!」
そう言って一歩踏み出す。
「お前がやったのかーーーーー!」
答えは聞く必要が無い。ただ、この怒りをぶつけるのみ。
あの魔王と違い弱い方だ。
そんな認識で斬りかかる。
馬鹿な。そんな訳あるわけないのに。
列を避け、倒れた者たちを避け、一息に幼女へ向けて斬り付ける。
今迄、触れてきたものは何者をも切り裂いてきた、神の鍛えし聖剣。
邪を祓い、魔を滅す究極の聖剣。
その刃が、平手にて止められていた。
「……やはり……な。」
何事か呟くと勇者を蹴り飛ばす。
「ぐあ!」
殺すつもりで蹴り飛ばしたが、完全防御の結界でダメージにはなっていない様だ。
仮にダメージがあっても問題ないくらいにはレベルが上がっている。
「馬鹿な、斬れなかっただと…」
「クク……そのていたらくで勇者とは。」
幼女はゆっくりと立ち上がる。
芸をする者が委縮しないようにと配慮していやっていた魔力を解放すると、並んでいた者たちが苦し気にうずくまる。
「くっ斬れなかったのは、何か仕掛けがあるに違いない。」
「……良い所に来た………暇つぶしに良い」
「暇…つぶし…だと!」
再度激高し剣を振るう。
ちょっとした思惑があって再度手で受ける。
今度も左手だ。
「うおおおおおお!」
何度も振るうが、幼女は黒い左手のみでそれを迎撃する。
(そうか!左手だけなら!)
彼は魔法を使い左手に迎撃させると、逆側から剣を振るう。
「貰った!!」
幼女は右手でそれを防いでいた。
「ふふっ………残・念……」
「くっ。ぬおおお!」
それでも、反撃が来ないので、防ぐだけで精いっぱいと見ていた。
幼女は次はどうしようかと舐めプに徹している。
「……どうした?……そろそろ……反撃……するか?」
「このこのこの!」
傍から見るに、人外の戦いだ。
その速度に力についていける者はいない。
(黒い部分。手足に攻撃は効かないと見るべきか。)
勇者は落ち着きを取り戻し、冷静に分析する。
「……飽きてきた……な。」
仕上げをするために、更に手を抜く。
「これで、どうだ!!」
勇者特有の必殺技を放つ。
怒涛の8連斬が放たれる。
さしもの幼女も両手では抑えきれず、6連撃を食らってしまった。
「どうだ!」
「……」
だが、斬り付けた場所は斬れるわけでもなく。赤く蚯蚓腫れになるでもなくただ前のままだった。
斬った、そして当たったという手ごたえはあった。だが斬れた手ごたえは無い。
様子を見るに蚊ほども効いていない。
効いていない幼女に、勇者は焦りだす。
(まるで…効いていないだと!)
「………すまない。」
愉悦を含んだ顔で、勇者に近づく。
彼は先程と同じように剣を振るい幼女へ攻撃するが、今度は防御すらせずその斬撃を受け入れた。
「!!」
首に当たったその剣は振り抜けず、そこで止まっていた。
「……実は……効かぬのだ。」
クスクスとその言葉に顔色を悪くしていく勇者。
「嘘だ!…効かないなんて!」
今度は光の魔法で、幼女を撃つ。属性選択は間違っていない。
幼女は闇属性に強い耐性がある一方、光属性には弱い。
だが無防備にその魔法を受けるが効いた様子はない。
「この……無敵結界……それがある限り…傷は……負わぬ。」
ニヤニヤと幼女は語る。
弱点属性があろうと、無敵結界がある以上それ以前の問題だ。
「無敵…結界…」
幼女は攻撃が止まった勇者を無造作に叩き付ける。
一度目はチャージした完全防御で。二度目は剣で、三度目は鎧に受けて吹き飛んだ。
壁際まで転がると、次は衝撃波が襲う。
「ぐああああああ!」
壁を貫き、隣の部屋まで転がった。
控室のようで…色々な死体が転がっている。
「!!!」
「……どうだ?………絶対に敵わない相手に斬り付ける気分は。」
愉悦中の幼女は饒舌に語りだす。
「どうだ?………どうだ?」
攻守は逆転する。
連打によって完全防御をチャージするための盾は取り落とした。
鎧はベコベコに凹んでいる。
勇者は控室の隅まで、またもや追いつめられる。
剣を握る腕も、幼女の拳で折れたようで自由に動かない。魔法で治療しようにも発動に重ねて甚振ってくる。
神に認められた勇者が、何故ここまで追い詰められるのか…
「こ、こんなの嘘だ…Lvだって200はあるのに…」
殴り続けていたら、勇者はすっかり戦意を喪失していた。
当然だ。体のあちこちが折れ、魔力はあっても使うだけの暇もない。
「Lvか…そちらは…512あるぞ。」
倍以上のレベル差に更に絶望感が増した。
もう勝てない。勝てっこない。そんな思いが心中に渦巻く。
「無様だな………お前は……何しに…来たのだ?」
「こんな非道を重ねた…奴を…倒しに来た。だけだ。」
「非道………非道を働いていた連中に……罪を償わせていた………だけだ。」
ピンク髪の異世界魔王の大儀名分を使わせてもらった。
「それでも!こんなのはやり過ぎだ!!」
「……それだけの事を………したのだ。」
(まあ、私は関係ないが)
「どれだけ……どれだけ恨まれているんだ!!」
「共存は……出来ない……なら滅ぼすほか無い。
………滅びよ。ニンゲン。」
もう滅びるしか道は無い。勇者である自分も、こんな魔王の手下(誤解)にすら敵わない。
そう絶望し絶望して、ついに諦めた。
「くっ………」
「どうだ?………悔しいか?」
その言葉に声も無く、ただ涙だけが溢れ出た。
最早動くこともままならない体。どう足掻いても助から無い。
死はもう避けられないようだと、諦めた心で判断した。
(この上は辱めを受けるよりかは、潔く死を選ぼう。)
「…………殺せ。」
こうして、勇者は生きることを諦めた。
それを聞いて、幼女はこの上ない笑みを浮かべるのだった。
(良い。良いな。キュンキュンきた。
この勇者頂こう。
…性的に。)
サブタイトルはコメントにあったのを使ってしまった。
というか、もうそれしか考えられなくなってたんだ。