魔王美樹の大冒険(旧:来水美樹が異世界召喚された件)   作:魔王信者

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02 ネットショップが思った以上に使えない件

 魔王の破壊衝動について似ている衝動がない。

 比べようが無い。

 

 だがその衝動を抑えるのもヒラミレモンが無ければ、3日と持たないだろう。

 何時もは平然としているが、ヒラミレモンを使ってさえ、常人ならば発狂しているくらいの負荷がかかっていた。

 最早、生き物を殺す事への拒絶感は既に粉砕され、見る影もない。

 化物や悪人がどれだけ死んでも、悲しむ心は黒い心の沼へ消えた。

 

 最後に残った恋心。

 それだけを頑迷に守り続けている。それが基点となり、心の崩壊を防いでいた。

 もしも告白される前に拉致され継承されていたのならば、きっとここまで耐えられなかっただろう。

 

 そうして耐えた。

 耐えるのに慣れすぎたため、感情が負の方面に振られない限り漏れ出ることもない。

 

 また、あらゆる欲求の不満は大きすぎる破壊衝動が取って代わる。

 空腹を耐えるなんて、破壊衝動を耐える事に比べればとても容易い。

 サウナにいるのに、汗をかいてはならないから汗をかくな。という位には耐えなければならない。

 そんな無茶をし続けた。

 

 4年耐えた。

 夜寝て、朝起きたら荒野で起きるのではないかという不安すら捻じ伏せて寝る。そんな終わり無い日々。

 

 

 そんな耐えること事態に発狂しかねない衝動が。

 

 ―――無い。

 

 

 朝起きて、思った感想は

(あー…私覚醒しちゃったのかぁ)

 だった。

 

 4年間ずっと無かった快適な目覚めだった。

 衝動に耐えるという事をしているので、寝ると言う行為を完全にはしていなかったのだ。

 

 

 何故か無い破壊衝動。

 惰性で今も魔力を抑えつけているが、そんなもの熟睡していても完璧に抑圧できた。

 むしろ抑えつけているのが日常だ。

 

 

 違和感の正体が分かった。破壊衝動は無い。素晴らしい。

 久しく忘れていた開放感のある気持ちい朝。

 

(殺したいとか壊したいとか思わないなら、別に覚醒しててもいいかー)

 

 耐えて耐えて耐えていたものから開放されたため、人間を辞めていても良い心持ちになっていた。

 

 開放感は良いがまだ異世界だという事態を思い出し、すぐにげんなりした。

 

(うう、はやく帰りたいよぉ~。

 健太郎くん、…いや居ないんだから頑張らなきゃ!)

 

「えいえい、がんばるぞーー!」

 

 空元気を総動員して彼女なりに気合を入れた。

 

 そして同じ部屋で寝ていた子が、いきなりの声でびっくりして起きた。

 

 

 

 

 

 

 召喚翌日ではあるが早速勉強が開始された。

 

 なんでも今は日本語ではなく何故か大陸共用語なるものを話しているようで

異世界を渡る際に自動的に刷り込まれたものらしい。

 

 朝食を食べ勉強。そして昼食後に訓練し、夕食となる。

 

 そこからはフリータイムとなるのだが、そこで郷愁の念が出た。

 ホームシックのようなものだろう。

 すなわち、現代の危機や物品。食事に関してだ。

 

 

 異世界のメシがマズイ

 

 

 異世界で娯楽が無い。

 

 だから必然だ。

 ネットショップ目当てで皆、雑魚の彼へと集まった。

 

 ネットショップでさぞ、日本の品物を頼めるだろうと皆一様に期待していたのだ。

 期待していたのだが…

 

「つかえねー終了」

「がっかりね」

「雑魚が雑魚スキルしか持っていませんでしたよっと。」

 

 ああ、まさかこの世界のものしか買えないとは思わなかった。

 しかも現在いる場所(町)の相場に合わせた価格でだ。

 

 つまり遠隔のものを取り寄せて買うことが出来ない。

 Lvが上がれば別かもしれないが、この分だと期待できるかどうか怪しいものだった。

 

「い、いや待ってよLvがあがれば買えるかもしれないだろう!?」

 

 その理屈は概ね正しい。未知は希望だ。そうなるかもしれない。そんな希望に満ちた賭けだ。

「買えるようになったら教えてちょーだい。そんときはインセンティブも払うからサー」

 

 そんな感じでみな一様に去っていった。期待が大きかった分がっかりしたのだろう。

 

 それでも数人は残っている。

 有用なスキルであることには変わりないのだ。

 

「それで一体何が売っているんだ?いくらだろう、お金はどうやって投入するんだ?」

 現地の文化に興味津々な者が残っている。6名ほどだが、居ないよりはマシだった。

 

「あーうん。僕らの持っているお金でも有効みたいだ。勿論現地のお金も有効だよ。」

 全員いなくならなくてと胸をなでおろしている。

 

 そんなネットショップの有様で去らなかった中に彼女は居た。

 欲しいものもあったので居ただけだが。

 

 皆一様に調べ終わって満足したのか、またねーと言いながら去っていく。

 今はまだ買う気がないようだったが興味は残っている感じだろう。

 

「あのー」

「君はなにかある?」

「あのね、ステータスを見るスクロールとかあるかな?」

「ステータスを?一体なn…」

 

 そこで何かを察したらしい彼は口をつぐむ。

「うん、1000Gだって。」

 単位は不明だ。Gはなんの略なのだろうか。

「こっちのお金入れるといくらになるのかな?」

 そう言って、なぜかルドラサウム大陸通貨のGOLDを差し出した。

「え、一体これは?」

「いいからいいから」

 

 なんだかんだで色んな人(主にリーザス)から貰っていたお金を渡したのだ。

 全部で100万GOLDくらいあった。

 

 もちろん全部投入する。

「おお・・・なんでか200万Gになった」

「なんでだろう?」

「レートかな?円だといくらになるのやら」

 

 彼は、おおよそ金属の価値で値段が決まったような気がしたが、そこは押し黙った。

 なお1円は1000G、10円が100Gと、通貨の額面は無視している。

 1000円札は0Gだった。

 

「じゃあ買うね。」

「うん。」

 

「あ、買った後にレベルアップ…詳細ステータスっていうのが出たよ。」

「ん、じゃあそっちもお願い。」

「10000Gだね。」

「うん。」

 

 Lvアップできて彼は喜んだが故郷の品は出てきていないようだ。

 

「うん、うん。」

 彼女はスクロールを見て満足気だ。

 

「それで、残りはどうする?」

「現地の通貨にしてもらえるかな?」

「あーーできるかな?」

 

 問題なく残金が出てきたが…

「なんで1889,550Gなんだが…」

「手数料とられたのかな。ちょっとむっとくるね?」

「そうだねぇ」

 

 手数料に戸惑ったが、彼女は、とりあえずの活動資金が出来た。

 

「じゃ、またねー」

「あ、待っ…行っちゃった。」

 

 あわよくば彼女の真のステータスを確認しようとしたのだろう。

 雑魚の彼は何かしら察してステータスを誤魔化したと感づいたようだ。

 

 だが、そんな彼にでも教えるわけにはいかないのだ。

 スキルかジョブに魔王があるかもしれないから。

 

 

 宛てがわれた自室に戻ってきた。

 いちおう4人部屋で同室者が居るが、今は出払っているようだ。

 

(ふう…さて、どうなるんだろうな私のスキル。)

 

詳細の方を試してみた。

羊皮紙で作られた魔法が発動し、その羊皮紙に記載される。

 

名前 リトルプリンセス

職業 魔法使いLv1 / ∞ B級

スキル 精神耐性LvMAX

 

 

(なにこれー)

 

精神耐性…なぜか付いていた精神耐性。

詳細とつけてもLv1 / ∞となり限界レベルが見れるかのようだ。限界が無さそうだが…

 

(ステータスに魔王が無いのは良かった。多分魔王の破壊衝動はこの精神耐性でどうにかなったんだよね?)

 

(と、そんな事より…私の名前がおかしい。

 なんでリトルプリンセスなの!?私の名前はどこー!!)

 

 覚醒済み魔王という意味だろうかと思い悩む。悩んだ末にとりあえず羊皮紙を燃やした。

 

「うーん。コレどういうことかなぁ。」

 

 ジョブで魔法使いだから、魔法を使ってみたくなった。

 

 以前にも魔法は習った。(抑えながらなので制御できなかったが)

 この世界のも習って見る気分になった。

 

 本人は何故か気がついていないが、羊皮紙はそんなちり紙を裂くように破くことは出来ないし、燃やして灰にならないかなぁって見つめただけじゃ燃えない。また燃え尽きるまで持ってたら熱くて火傷してしまうだろう。

 

(ここには健太郎くんが居ないし、一人でどうにかしなきゃ。精神耐性で、壊したりしたくなる気分が無くなったからきっとどうにかなる!) 

 

 かなり気楽に考えた。

 

(最悪、ネットショプの彼を拉致って逃げよう。)

 

 そう、山に逃げ込んだ引きこもり生活も、きっとネットショップなら耐えられるだろうから。

 どこまでも逃走者な思考だが、常識を知るまでは耐えようと思った。

 

(逃げ隠れするのには慣れてるんだから!)

 

 全然誇れない事実に気づかず意気を燃やした。

 

 

 

 翌日、雑魚の彼と合流しネットショップについて検証を進めた。

 なお集まったのはこの二人だけだった。

 数日で成長するとは思っていないのだから仕方がない。

 

「というわけで、図書館の本が買えるか検証!」

「その視点は良い。だけど残念!…販売していないものは買えないみたいです」

「むう…Lvがあがればどうかなぁ」

 

「可能性はあるかも。というレベルだね。正直元の世界から買えないんじゃないかと思ってる。」

「え、そうなの?」

 

「だって、元の世界にはどうやってアクセスするの?」

「あっ!」

 

 例えばそう。ちゃんと接続しないとPCはインターネットにアクセスできないのだ。

 今はローカルエリアのみの接続と言った所だろうか。

 

「僕の方でも検証したんだけど、僕のものであれば物品の販売…換金ができるみたいだよ。」

「えっと、どういうこと?」

 

「えーと、つまり僕が持っているもの所有権のあるものは換金できる。

 譲渡されたものを含めてね。」

「ふむふむ」

「引きこもって狩りをしたり、農業した上がりでネットショップを経由して必需品を買う。

 つまり、完全に隔離された秘境でも生きていけるってことさ!」

 

「おお~」

 まさかの田舎引きこもりライフは否定されなかったようだ。

 

 

「でも総評すると、思いの外使え無い。」

 引きこもった先の相場を優先するため、割高になる傾向になるからだ。

 これなら町にお出た方が効率が良いというものだ。

 

「あ、そういえば詳細のステータススクロールどうでした?。」

「え、うん。詳細だと成長限界Lvが追加で表記されたよ。」

「それだけなのかぁ」

 

 安いほうだとLv表記の無いジョブと名前しか出てこないので十分詳細である。

 

「あと魔法使いLv1だったよ!」

「おお!おめでとうございます!」

 

 へへへーとにやけるが、お互い秘密にすることで同意する。

 

「それでノスさんは訓練はしないのですか?僕も…だけどさ。」

「魔法は憶えたいなぁ。でも訓練には混ざりたくないかも。」

 

「あーそうだね。ジョブで魔法使いあるからね。雑魚な僕でも憶えられるかなぁ」

「民間に流れてる魔法のスクロールとか無い?」

 

「ああ、あったね。高いのから安いのまで。」

「ほー」

 

 安いと言っても1000Gが最低ラインのようだ。おそらく羊皮紙自体の値段もあるのだろう。

 

「よし、全部買いだ!…と言いたいけど一個づついこう。」

「お、おぅ」

 

 全部買えるほどの金額は持っていたので仕方ない。

 まあ、全部買うと破産するが。

 

 

 こうして、簡単な魔法を習得していった。

 スクロールを持って『習得』と唱えれば、なんとなく使い方がわかるというへんてこな物だった。

 しかも使い回しができるので雑魚の彼も使用することができた。

 使用することは出来たが、ある一定以上の値段から覚えることができなくなった。

 恐らくは何かが足りないのだろう。

 彼女の方はすべて憶えられたというのに、これも雑魚の宿命なのだろうか。

 

 ―都合60個くらいの魔法を憶えて市場の魔法もネタ切れになる。

 最後の一個などは100万Gもした。

 『火炎IV』という火炎シリーズの4番目である。

 

「うーん。憶えたからには使いたいなぁ」

「こっそり練習したいけど、どうしよう。」

 

 結局深夜に練習するしかないのでは?という、おおざっぱな方針で終わる。

 また買い物途中でネットショップがLv3になったので、どう変わったか見てから解散となった。

 

 

 翌日、学習の後に図書館へでかけたら、憶えた魔法のスクロールが全部あって憤慨したのだった。

 

 尚、お金はスクロールを販売することで転用できたので、50万G程手元にあるような状況である。


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