魔王美樹の大冒険(旧:来水美樹が異世界召喚された件) 作:魔王信者
ひどい仕打ちを受けたら、怒るだろう。
殴られたり痛いことをされたら、怒るだろう。
武器で攻撃されれば身の危険を感じるだろう。
モノを盗まれれば取り返したいと思うだろう。
身近な人間が殺されたら殺意を覚えるだろう。
危害を加える相手が居れば、ソレに対して反撃したり、害意や殺意を抱いたことだろう。
それら全ては破壊の衝動のもと、一つのものとされた。
まるで区別がつかない。
それが正当な害意なのか、破壊衝動がもたらす害意なのか。
だからどんな仕打ちをうけようとも耐えて、耐えて、耐えきった。
もしも、
耐えるべき破壊衝動が無くなったら。
新たに生じる害意―
つまり怒ってもしょうがない事態が発生したら、その害意はどこへ向かうのだろうか。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
世の中には理不尽が多く蔓延っている。
自分自身の経緯も理不尽だし、現状も理不尽だ。
――彼は、誰だったか。
「だから、俺が守ってやるから俺の女になれよ~」
彼女の外見は14歳か、もう少し幼く見えるはずだから、
20歳近くの彼からすればロリコンかそれの類縁であろうか。
「え、あの。健太郎くんが居るので、いらないよ…」
「その彼は何処に居るっていうんだよ、今此処に居ないやつなんて頼りにならないだろう?」
声をかけている彼は確かC級の剣士。F級の彼女を保護…もとい級数が下の女性を良いように手篭めにしたいと考えているのだろう。
F級ならば万に一つも反逆されないし、力でどうにでも捻じ伏せられるだろうから。
E級な雑魚の彼も大いにマウンティングされ、手下のように顎で使われていた。
「あの、やめてくれますか?」
彼女の手を取り逃がすまいと力いっぱい握り、威圧する。
全く効果ないが、傍目では迫っているというより脅迫しているように見える。
「いいから、俺の女になれって言ってんだよ。」
近くの壁を叩き、壁ドンしつつ追い詰める。
まあ、このレベルであれば某鬼畜主人公のほうが酷いのかもしれない。
彼女はむっとした。
したが今まで破壊衝動を抑え込むのと同じ様にそれらの衝動を抑え込むと、困ったふうに苦笑いするのだった。
まだ、正当な怒りと、破壊衝動は別れていない。
気がつけば、派閥ができていた。
光戦士の下に
B級の騎士、風魔法使い、大槍士
C級僧侶、D級奇術師
僧侶以外男。
元のグループで集結しただけだがいいバランスだった。
聖女の下に
B級大弓士、火魔法使い、水魔法使い、白魔法使い
C級槍士、戦士
全員女。
対男性用に2グループくらいが寄り集まった形となる。
セクハラが酷いのだ。
魔導士の下に
C級錬金術師、薬師、祈祷師
魔導士以外が女だが、力で捻じ伏せた感じである。
B級連合中心の集まりで
B級大剣士、大戦士、土魔法使い、黒魔法使い
C級剣士、弓士、闘士
全員男となるが、他のA級に声をかけたり交流をしている。
抜ける可能性が高い者たちだが集まって活動している。
そしてその他だが全員D級以下。
自然とグループ化していったが寄り集まっただけであり、脅迫されればひとたまりもない。
生産職やその他ジョブが多い。
獣使い、シーフが男
レンジャー、召喚士が女
そして
雑魚になし
である。
彼女と同室なのはこのレンジャーと召喚士そして、魔導士派閥の薬師となる。
早くもクラスカーストが形成されており、A級と含むグループが上位。
その他が最下層となるのだろう。
そうなれば必然、イジメが発生する事となる。
訓練を開始してからもジョブにより強さが異なるとは言え、一ヶ月も経てば目に見えて差が出てくる。
それに、A級のもてなされ方は異様とも言える感じで、聖職者たちからちやほやされている。
今彼女に声をかけているのはB級連合でC級の剣士。
ちやほやもされず、上からは命令され訓練では良いところがない。
所詮はC級。上位級の大剣士にどんどん差をつけられている。
そうなればその捌け口は下へ向く。
丁度目に入ったのが、F級の彼女だ。容姿も良いし手頃な弱さだった。
彼女がどうしようかと迷っていると、その男は顔を近づけてくる。
唇を奪うつもりらしい。
咄嗟に下をすり抜け、握られていた手も振り切った。
「あ、てめえ!」
なんとなく、荒事が嫌になって逃げ出す。
あの世界で経験を積んだだけあって、逃げることは得意なのだ。
逃げた先のエリアに聖女グループがたむろっていた。その部屋を抜けるため、たむろっているエリアを迂回して別の出口へ向かう。
「あら、無職の子じゃない?挨拶もなしに通り過ぎるの?」
その人は確か水魔法使いだったか、わざわざ立ち塞がって来る。
後ろからは例の剣士。
「えーと、こんにちは!」
取り急ぎ挨拶をしてその水魔法使いの横を抜けようとした。
だが通せんぼをされてしまい、また足が止まる。
「なんなの?そんな挨拶で済むわけ無いでしょう?」
そうこうしているうちに後ろから剣士が到着。
「おう、俺の女に手を出すんじゃねえよ」
なんだか所有宣言をしている。彼女は不快に思うも訂正すればいいかと口を開こうとして
「何かと思えば雑魚剣士じゃない。下は非戦闘職しかいないんじゃないかしら?」
「なんか臭いのよね」
「ざこーい」
「きもいわ」
1言えば10は帰ってくるのではないかというほどに集中砲火を浴び、反論もできず逃げていった。
彼女らはセクハラ等に関しては一致団結して立ち向かうのだ。
彼女はほっと一息ついていると
「ほら、あいつを撃退してもらったんだから、何か言うことはあるんじゃないの?」
「え、あ。ありがとうございます。」
素直に感謝の言葉を述べた。単純だしああ、そう言えばというレベルだったのでそう返した。
「ハァ?なに突っ立ったまま言ってんのよ。」
地面を指差し
「土下座して感謝しなさいよ、この雑魚以下が」
一瞬何を言われているのかわからなかったが、数人で取り囲み、早く土下座しろと強制してくる。
「え、え?なんでそんな事を」
「立場がわかってないんじゃない?無能さん?」
もみくちゃにされる。
実際の所、彼女は攻撃されていた。
打撃の衝撃によりフラフラしているし、極小な魔法攻撃も食らっていた。
痛くも痒くもないから、もみくちゃにされているとしか思っていないのだが…
業を煮やした水魔法使いが彼女を突き倒すと、近くの花瓶にあった水をぶちまけた。
そうして鼻を鳴らして去っていく。
―腹がたった。
だが破壊衝動を抑圧していた頃によくある感情の一つだったので即座に堪えた。
「なんか、ひどいなぁ~」
この場には助けの手を差し伸ばしてくる者は居ない。
同じ様に最下位グループは適度に抑圧され、イジメられていた。
それを神殿の神官達は見ていたがすべて黙認された。
このグループだけではない。
光戦士グループも魔導士グループもB級連合グループも全員、彼、彼女らを抑圧しときには攻撃した。
召喚されて一ヶ月もしないうちにイジメが始まり、エスカレートが始まった。
抑圧されたストレスがあったのだろうが、法律という後ろ盾が無い今、ストレスの捌け口として丁度いい相手なのだ。
我慢して我慢して我慢する。
彼女にとって破壊衝動を抑圧する以下の我慢だった。
今はまだ、正当な怒りと破壊衝動が不可分だから起こり得ていること。
他の被害者に関してもまだ水面下の出来事だった。
これが、召喚されて一ヶ月も経たずに起こったのだった。