魔王美樹の大冒険(旧:来水美樹が異世界召喚された件)   作:魔王信者

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06 身勝手に召喚する奴らが、非道くないなんてことは無い

 負の感情を遠くに感じていた。

 

 追い詰められていたあの頃と違い、今心は平穏だ。

 

 元の世界に帰って平和に暮らしたい。

 

 そう願うも召喚した彼らは一体勇者に何を求めているのだろうか。

 

 

 

「今日は移動となります。」

 

 神官と複数人の護衛。2台の馬車。

 

 春の訪れと共に彼らは現れた。

 

 常識とやらの勉強はだいたい終わった。

 

 だからというわけでは無いだろうが、実地演習とかで移動となるらしい。

 

 特に聞かされていないのでなんとも言えないが、全員で移動となった。

 

 

 

 朝からでかけ昼頃、大きな建物の前にいる。

「こちらです。」

 

 促されるままに移動する。

 

 なにかしらの控室のような所へ入ると点呼が行われた。

 

「一体何が始まるんだろう?」

「なんだろうなぁ」

 

 上の方からは何やら大勢の人間が居る賑わいを感じる。

 

「順番にお願い致します。ノスさん」

「…あ、はい」

 

 いきなり呼ばれてかの神官の前へ移動する。

 

「こちらへどうぞ」

「なんだ?一体何が始まるんだ?」

 

「ええ、ちょっとしたお披露目ですよ。弱い子からご紹介させていただきます。」

「お披露目!?ちょっと待って、私は勇者にはならないって言ったじゃない。」

 慌てて彼女は反論する。

 

「いえいえ、召喚された全員を紹介させて頂くので、勇者とか関係なく紹介させて頂くイベントでございます。」

「それ、私は要らないって言ったよ。」

 

「いえ是非に出て頂かねばなりません。」

「だから嫌だって…」

 

「なりません」

 

 押し問答だったが、最後は面倒になって了承した。

「はぁ…まあいってきます。」

「あ、ああ」

 

 皆と別れ護衛と案内のものと一緒に進む。

 護衛多いなと、彼女は思ったが会場に出てお披露目とやらの場に姿を現した。

 

 促されるように中央に歩みを進める。

 コロシアムを120度だけ切り抜いたかのような会場だった。

 半円状の奥に行くほど高くなる段々の客席。舞台の中央に彼女は立った。

 

 

「さて!皆様お待ちかね!」

 

 司会が居た。道化姿だ。

 その道化姿の司会が彼女を高らかな声で紹介する。

 

「半年前に召喚された異世界の勇者だー!」

 

 わーっと、歓声が上がる。

 

 なんなんだと目を丸くしていると更に司会の言葉は進む。

 

「残念ながら弱い順でのご紹介だ、彼女は残念ながらF級のジョブなしスキルなしだ!」

 

 弱いなら紹介しないでよと、彼女は思った。

 

「とりあえず世界の常識は叩き込んだところだが、まあ何はなくとも容姿は良いだろう?

 自己申告ながら多分は処女!!運試しになるよ~では、10,000Gから開始です!」

 

―20,000!

 

(は?)

 

 彼女は一瞬何を言われたか分からなかった。

 

―30,000!

―100,000!

 

「え、どういうこと?」

 

―150,000!

 

 周りを見る。客席は緩めの真剣な表情。舞台裾ではニヤニヤとしている神官と護衛…いや監視達だ。

 

 彼女は思わず神官に駆け寄ろうとして、

 

―200,000!

 

「【動くな、ノス】」

 

 神官が手に持ったステータスプレートから魔法の波動がし、彼女のポケットにある魔血魂が震ええる。

 

―300,000!

 

(え、どういう…)

 

 思わず動きを止めた彼女に神官が言った。

 

―1,000,000!

 

「黙ってお聞きなさい。ここは勇者の即売会です。貴女は今から競りにかかり販売されるのです。」

 

「は、販売!」

 

―2,000,000!

 

「そうです。良かったですね、容姿が良いのでそれなりに高く売れるのではないですかね。」

 

(販売…え、人身売買?売られる?私が―)

 

―3,000,000!

 

 彼女はようやく理解した。勇者が何なのか。

 勇者はつまり…この世界では奴隷。であると。

 そんな事される謂れはない。召喚されるだけでも理不尽なのに、こんな理不尽は無い。非道いと思った。

 

―4,000,000!

 

 彼女は俯き、耐えるべき事象ではないと認識しつつも耐え、最後の一縷の望みを賭けて訊ねた。

 

「ね、ねえ。こんなことやめようよ。なんでこんな非道い事ができるの?」

 

―4,100,000!

 

「はっはっは、異世界猿を収穫して、販売しているだけだ。人の言葉をしゃべるなよ猿。」

 

―4,200,000!

 

 もう此処に至っては問答は意味が無いと理解した。

 

「他にいらっしゃいませんか!」

 

「ははは……そっかぁ~」

 

「ククク」

 神官は悲嘆する彼女。絶望するその表情を見て大いに昂ぶっていた。

 

「我慢する必要。全然なかったんだ。」

「はい、では731番様に420万で落札でg」

 

 その瞬間、司会が爆ぜた。

 全部消し去ろうかと思ったが、そうすると同じ被害者である召喚された仲間が死んでしまう。彼らは助けなければいけないとブレーキがかかった。

 

「な、え?」

「キャ―――――」

 

「…しんじゃえ」

 

 客席に向かって無造作に手を振る。

 

 次の瞬間には客席が爆ぜ、爪を引っ掻いたような跡ができた。客席はおびただしい血で溢れかえった。

 

 彼女は神官の方へゆっくりと歩を進める。

「ななな、【止まれ!ノス】【止まれ!】【止まれ!】なぜ止まらん!」

 

「ああ、ノスはね。コレ。」

 ポケットから魔血魂を取り出すと見せつけた。

 

「ハ?え?」

 

「私の名前は来水美樹。よろしくね?」

 首をこてんを傾げて名を告げた。

 その名で操ろうとしても真名は違うから何ら影響はない。

 

「な、今まで我々を謀っていたと云うのか!」

 

「悪いように言わないでよ。そっちだって勝手に呼び出して、勝手に隷属させて、勝手に販売しようとしたんでしょう?非道いなぁ」

 

「おおお、お前はなんなんだ!」

 

「あー。この世界のステータスには、魔法使いのジョブと、精神耐性がついてたわね」

 

「そ、それで!こんな大それた事ができるか!」

 

「あーでも、貴方が言ってた私が人間じゃないっていうのは、まあ正解かな。」

 

「なんだと?」

 

「おめでとう。神官様。」

 

 

 

 そしてついて神官の前に到達した。

 

「君たちの願いは叶なったよ。世界の敵。魔王は此処に居るよ。」

 微笑って自分の示すよう彼女は手のひらを自分の胸に置いた。

 

「あなた達はついに世界の敵。異世界の魔王を召喚したのでした。やったね。」

 

「なっ!」

 

 神官が後ずさり、その言葉を理解しようとする。その前に、後ろに居た護衛達。聖騎士達は動いた。

 

 全力で魔法を放ち、全力で切りつけた。

 

 無防備にソレを受ける彼女。衝撃があるので少し後ろへ流れたが、彼女は全くの無傷だった。

 彼らは知る由もないが、この世界に載らないステータス外ステータス。ジョブである魔王と魔王の特性である無敵結界。

 それにより攻撃を完全に無効化していた。

 

 

「うんうん。神官さんは殺さない。殺すより生きていたほうが辛いと思うから、生かしておいてあげるね。」

 

 楽しそうに語る彼女の床下背後から黒い影が立ち上る。

 それは黒い衣となり彼女の外套となった。

 

 画像検索で「魔王 リトルプリンセス」と打てば出てくるような姿だった。

 

「あーあ。本当に覚醒しちゃってたんだぁ…」

 

 覚醒はしていても、破壊衝動は無かった。彼女を敵に回したのは彼らで、この姿を顕にしたのも彼らのせいだ。

 

「な、まるで効いてない、だと!」

 

 護衛達はいつ使われたのか、火の魔法で焼き尽くされた。

 

「アハハハハ!魔王だからね、勇者の力でしか傷つかないんだよ!?」

 

 今まさに販売しようとしていた者たち。それが彼女を倒すために必要になった。

 彼女なりのフォローでもある。わざと攻撃を受け、彼らが必要であることを認識させ、売られないようにした。

 

 咄嗟に思いつきだったがうまくいくかなぁと気楽に考えている。

 

 そして、そのための生き証人だ。

 

「はい、じゃステータスプレート出して。」

「え、あ・・・何を?」

 

「だから、ノスと下の皆のステータスプレートよ。」

「え、あ…」

 

 理解が及ぶ前に彼女が彼の身ぐるみを剥ぎ、ステータスプレートを奪取した。

 8枚ちゃんとあった。

 

「んーーえい」

 ステータスプレートを割るとかかっていた魔法が霧散したようだった。

 

 ほうほうと感心していると、増援の聖騎士達が現れる。

 

「な、なんだこいつは」

 

 それがその騎士の最後の台詞となった。

 

「こっちは使えるかな、ファイヤーレーザー!」

 

 四条の熱線が騎士たちを貫く。

 本来はこんな貫通してその次の人間まで貫かない。

 だが来援した8名を尽く貫いた。

 

 彼は神官を残し彼らの部屋に向かった。

 

 

 一方、待合室では、周りの護衛たちが皆出払ってしまい、どうすればいいのか分からなかった。

 何か尋常ならざる事態となっているが、移動も退避場所もわからないのだから。

 

 だが感じる。なにか得体も知れないものが近づいている。正確には巨大な魔力を感じてビビっている。

 

 次に扉が開いた時闇が溢れ、それは―

 

 ゆらりと、音もなく現れた。

 

 

「がっ…」

 全身を貫く恐怖。

 コレには勝てない。逃げることも不可能。そう本能が告げる。

 

 バケモノ。

 

 眼の前のバケモノの前に生き残ることを断念させられた。

 心は折れた。

 

 もはや絶望だk

 

「やっほーい。助けに来たよ―」

 

 そんな恐怖の相手から、脳天気な良く聞いた声が聞こえた。

 

「え…」

 

 心を鎮めて、しっかりとした双眸でバケモノを見据えた。

 

「あれ?」

「え、あれって…」

 

 次第に落ち着きを取り戻すが、反対側の入口から聖騎士が入ってくると事態は変わった。

「あそこに居たぞ!」

「やれ!」

 

 震える声。おそらくは彼らも恐怖しているのだろうが、バケモノを倒すのは彼らの本懐。民を背にして逃げることは出来ない。

 

「ファイヤーレーザー!」

 

 が、駄目。

 

 軽く使った魔法。その炎の光線に貫かれ全滅した。

 

「の、ノスさん?!」

 

「あ、美樹です。」

 

「え?」

 

「いままで嘘ついてたの。ごめんなさい。とりあえず、ここは勇者即売会会場でした。だから暴れてきちゃった。」

 

「え、え?」

 

「とりあえず逃げよう!いくよー」

 

 魔王な姿で脳天気な声を出し、皆を外へ誘導した。

 

「ちょ、勇者即売会会場って、え!?」

 

「なんかね、奴隷にして売るみたい。召喚された人間は人間じゃなくて、お猿さんなんだって。だから人身売買じゃないんだってさ。」

 

 ぷんすか怒るが、その姿はぜんぜん怖くない。

 怖くはないが彼女はヤバイ。

 その魔力が恐ろしく強いから何処に居たって分かってしまうだろう。

 

「そんな、一体なんだって」

 

 理解する間もなく彼女についていき、外へ出ると…

 

「出てきました!」

「総員構え!!」

 

 数千の兵士が取り囲んでいた。

 

「邪魔ね、消えなさい!」

 

 消えたのは兵士ではない。

 

 町の一角が消えたのだ。

 

 横に展開していたので左右の兵士たちは無事であったが、それでも爆風で飛ばされ平気なものは誰も居ない。

 

「ちょ、ナニコレーーーー」

 

「ノス…いや美樹ちゃん。君は一体」

 

(あーあ。そうか。ここで拒否られるのは想定外)

 

 もしかしたら付いてこない可能性に関して思いを馳せる。

 

「うん。まあ不思議に思うのも仕方ないよね。」

 

「そうね、怒涛の展開でついていけないわ。」

 召喚士の彼女が答えた。

 

「私ね、あの塾へ来る前まで異世界に居たの。」

「え?」

「その異世界で魔王を継いじゃってね。」

「え?」

「つまり、異世界の魔王美樹ちゃんなのです。じゃーん」

 

 ちなみに、彼女もいっぱいいっぱいになっており、ヤケになって言っている。

 

「えーーーーーーーー」

 

 

 彼女をとりあえず放って置いて相談する。

「ちょっとまってて!整理するから!」

「おk」

 

 

「で、どうするよアレ」

「どうって、マジモンにしか見えない。」

―どーん。 兵数-120

「魔王いないっていってたのに、外から呼び出したんじゃ、自業自得としか。」

「デスヨネ―」

「この世界のことはともかく、俺らどうする?」

―どーん。 兵数-80

「勇者即売会ってマジなのかな?」

「マジっぽい。チラシとか読んでみたけど、アタシら販売予定だったらしいよ。」

「うへえ、マジかぁ。」

―どーん。 兵数-60

「てことはあれか、無能だと思ってたけど魔王な彼女が最初だったから助かったと。」

「そうっぽい。」

「じゃあ、とりあえず確認。1、彼女は魔王」

「うんうん。」

―どーん。 兵数-30

「2、ここは勇者即売会会場で売られるとこだった」

「うんうん。」

「3,只今絶賛交戦中ってか楽勝?」

「そうね、後ろでどーんどーん煩いけど迎撃しているのよね。」

「で、これからどうする?」

―どーん。 兵数-25

「逃げるべ」

「逃げましょう」

「逃げよう。」

「同意」

―どーん。 兵数-5

「ということで、次は物資だな。」

「だな。馬車、水食い物、寝具他になにかあるか?」

「武器」

「OK武器防具と。」

「待って、そんなに1台に乗る?」

「複数台ならいけるじゃ」

「3台くらいで行こう。水優先で2台、残りで1台だ」

「そんなに水要る?」

「水最重要。井戸とか川とか見つからなきゃ死ぬぞ」

「お、おうけい」

「じゃあ迎撃終わったら確保で。」

「終わったかな?」

 

 

 

「終わった?」

「終わったよぉ~、それでどうなった?」

「みんなで逃げることに決定しました。」

 

「え?」

「え?」

 

「なんで?逃げるの?」

「え?逃げないの?」

 

「いいんじゃん、滅ぼそうよ。国」

「ええええ!」

 

 

 

 

 

 


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