魔王美樹の大冒険(旧:来水美樹が異世界召喚された件)   作:魔王信者

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07 とりあえず出発してみた

 彼女は一種の二重人格に陥っていた。

 

 破壊衝動という難敵を前に、破壊衝動に類する感情に何もかもすべて押し付けて蓋をした。

 意地悪な自分。悪戯好きな自分、嫉妬している自分、恨みに思う自分、怒っている自分。

 

 それらは壊したり、殺したりするのが好きな自分に押し付けて、蓋をした。

 壊したり、殺したりするのが好きな自分なんて居るはずも無い――などという事は無い。

 

 心の中で言う、一万分の一程の比率でそれはあった。

 それがあの日増大し、一緒ったくに閉じ込められた。

 

 一緒に在るのは魔王の血だ。

 

 蓋はヒラミレモン。

 

 あと二年もすればそれは魔王人格としての形ができただろうか。

 

 表の自分は中から外からボロボロになり、最期に爆ぜて消え失せるだろう。

 

 

 これが在りえた歴史。正史。

 

 だが今、その流れは途絶えた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 ~~ 選択肢 ~~

 

――――――――――――――――――

A[とりあえず、教国しばく]

B[とりあえず、街を占領する]

C[とりあえず、ケイブリスしばく]

――――――――――――――――――

 

 

「ねえねえ、どれにする?」

 

 彼女が、お気楽極楽能天気な声でみんなに聞いた。

 

「逃げる選択肢が、ない…だと…」

 

「ケイブリスって誰だよ。」

「敵だよ」

 彼女は目をシリアスにして答えた。

 

「お、おう…」

 シリアスヤバイ。彼女のシリアスが非常にヤバかった。

 

「や、やっぱ逃げない?」

「逃げてどうするの?」

 

「そりゃあ、潜伏して、機を伺いつつ帰る手段を探す?かな?」

「ん~機ってなに?」

 

「なんかのほら、潜入したり何かに便乗してアレコレするんだよ。」

「とりあえず、潜入しなくても正面突破可能!便乗しなくても正面突破可能!!で?機って何?」

「あ、あうあう、なんでそんなに強気になってるんだ。自信満々だな。」

 

「ん~街を全部吹き飛ばせば納得してもらえる?」

「「「いやいやいやいや」」」

 そこは必死に全員で否定した。

 

「潜伏したってどうせ私が単独行動して国を殴り飛ばすんだから、いつだって良いじゃない。」

「そう考えると、そうだな。」

 

「魔王とんでもないな。」

「えっへん。」

 

 今まで散々嫌がっていたのに、覚醒した天然魔王はこの有様である。

 

 

「で、どうするの?」

「どうって…どうしようなぁ」

 

「ん~。とりあえず、拠点が欲しい。町を占拠する方向で行こうか。」

「おっけー」

 

 この町はすでに半壊し、兵士もおらず住人も逃げてまばらだ。

 今は逃げ遅れた人たちが息をひそめている。

 

「拠点にするにしても、壁もそうだが、何もかもボロボロだな。」

「よーし隣町を攻め落とそう!」

 

「なんだとーー!」

 意気揚々と彼女は出発した。

 

「待って待って!」

「え?ここは壊れたから要らないと思うよ。」

「違うよ、物資補給が必要だ。」

「物資…」

「そうそう」

 

 そこで彼女は思い至る。

 特に飲食の必要が無い彼女と違って、彼らは飲食の必要があった。

 補給は大事だと。

 

「わかった、どうすればいい?」

「「そこで待ってて!」」

 

「う、うん。」

 全力で手伝いを拒否られた彼女は、今後の展開について考えている。

 

「所で聞きたいんだけど」

「何かな?」

 

 ネットショップの彼…雑魚の彼が近くにいた。

 落ちている硬貨をネットショップに入れ、課金しているのだ。

 

「魔王というのは分かったけど、どれくらい強いんだ?」

「……さあ?」

 

 とりあえず比べた事が無かった。

 今、全力全開を出すとどうなるのだろうか。

 

「まあ、ここの教国は勝てるよ。よゆう。」

 ぐっと手に力が入る。

 

「そ、そうか。」

「でね、思ったんだけど」

「うん?」

 

 

「物資全部課金にしちゃえば、物資はいつでも買えて幸せなんじゃないかな?」

「!!!」

 

 そうである。販売さえしていれば水でも買える。

 そのあたりは持ち運んでも良いかも知れないが、手ぶらで移動できて、物資はいつでも取り出し可能だ。

 勿論、街の機能が生きていることが条件となる。

 売買されていない場所だと、ネットショップでも売買できない。

 

「いいアイデアだ。とりあえずかさばって持っていけないモノを中心に換金しよう。そして課金しよう。」

「やったねアキ君、レベルが上がるよ!」

「うおーーーー」

 

 4時間後。昼を回り午後二時くらいだろうか。

 物資は集め終わり、馬車にある程度積んで出発準備ができた。

 

「じゃ、街を占領するって事でしゅっぱーつ!」

「ぉぉ~」

 テンションが高いのは彼女だけで、他はなんだかんだで不安だった。

 

「こっちかな?」

 首都とは別方向に移動を始めた。適当に決めたのでこんなものだ。

 

 この街道は、いくつかの村を経由し、城塞都市に到達するだろう。

 この移動時間を考えると、馬車で4日という所だった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 神聖ユーディス神国は、出現した大きな魔力に騒然としていた。

 

 ここは会議室の一室である。教皇と他の枢機卿数名が、例の神官から報告を聞いていた。

「それで、ハミルトン卿。貴殿が言うには例の無能。それを装っていたノスではなくクスルミキとやらが魔王で、競売所を破壊したと。そう言っているわけだが、本当かね?」

「はい…間違いありません。」

 

 例の神官。ハミルトンは抑揚に答えた。

 

「俄かに信じがたい。今、確認の者をやっているが、何か騒動が起きたのではないのか?卿は何か重大な事実を隠蔽しようとしているのではないかね?」

「いえ、違います。」

 即座に否定するが、現場に居て唯一無傷の者だ。疑うに余りある。

 

「ふーむ。しかし聖騎士が10人がかりでも傷一つつかなかったというのは、それこそ誇張ではないか?」

「奴は…防御すらしていなかった。彼らの攻撃は風が当たった程度の…そんな感じに無視しておりました。」

「やはり信じられん。何か白昼夢でも見ていたのでは無いか?」

「どうあれ、私が見た通りのことをお伝えするほか御座いません。」

 

「しかし、街の半壊。警備隊の全滅。これらは一体なんなのかね。ドラゴンでも襲ってきたのではないか?」

「アレが暴れている場面は見ておりませんでしたが、確実にアレが暴れた証左でございます。」

 

「なるほどなるほど…まあ残りの証言と照らし合わせ、真実を導いていくとするよ。」

「ありがとうございます。」

 

 とはいえ、生き残りは運の良い観客十数名に逃げ出した町人。建物内のスタッフも町から逃げ出していた為良く解らない状態だった。

 兵士は全滅。逃げる所も執拗に攻撃された。

 

 今やあの町は穴だらけだ。

 

「それで、奴らはどちらへ逃走したのだ?」

「国境の方を向かって馬車が出たそうでございます。」

 

「ふむ、ではいったん城塞都市にたどり着くか。」

「メッセージ召喚獣に逃走者達の情報を報せよ。」

 

「ハッ!」

 

 こうして、真実はまだ闇の中。

 上層部は何か軍部の事件、またはドラゴンのような大型の魔物だと思っていたのだった。

 

 この世界はまだ、魔王の出現を確認していない。

 




基本的なコンセプトとして天然な魔王が欲しかったんです。
天然書ききれてないケド。

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