魔王美樹の大冒険(旧:来水美樹が異世界召喚された件) 作:魔王信者
この世界にも勿論神は在る。
この世界の異界の門は、神が与えたもので、召喚により異世界の者の手助けを受け、この世界の難事を解決するための物だった。
当時の人々では祝福を与え、道を示しても解決しなかった為、安易に外から人を招いたのだ。
その為、あの門を通るときに祝福が与えられる。
すなわち意思の疎通に不便の無い言語能力。
平静に生きるのに不足ないスキル。
問題を解決するためのジョブ。
あの召喚は、ただ一度きり。
そのハズだったが、現地の人間はソレを奴隷収穫装置として運用し始めた。
鍛えれば高い戦闘能力に様々なスキル。
奴隷として使えば便利であり、しかも現地の人間ではない。つまり後ろ盾の居ない異世界の人類近似種。
人間との交配実験をしたが増える心配のないあれらは実に便利で、夥しい数の者が召喚されていた。
神が気が付いた時には、既に社会基盤として成り立っており、新たな問題となっていた。
どのように手を下そうか迷っているうちに、別の問題も発生した。
召喚された中に、異世界から凶悪な魔物が居たのだ。
さて、ここで神の与えたスキル。精神耐性がある。
これは異世界の神が作り出した魔王システムと絡み合い、当初ありえないバグが発生していた。
魔王の血にある破壊衝動とはつまり、メインプレイヤーへの敵対が主である。
そしてここはメインプレイヤーは一人もいない。異世界人はメインプレイヤーではない。
メインプレイヤーが居ない場合はどうなるのだろうか。
魔王の血は完全に矛先を見失った。
バグと相まって機能は完全にフリーズした。
これが、最初の転移時に起こった事だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
彼女らの目の前に、眼前に巨大な壁を備えた要塞都市が現れた。
アレを攻め落とそうというのだ。
普通に無理だろうと思った。
「で、どうする?」
誰かがそう尋ねた。
~~ 選択肢 ~~
――――――――――――――――――
A[このまま突撃]
B[単身で突撃開始して暴れる]
C[雑魚の人の頭にみかんを置く]
――――――――――――――――――
「……なぜ……みかんを置く?」
彼女はCを選んだようだ。
彼は落とさないように馬車の上でバランスを取るが、揺れが激しいのですぐに落ちた。
「はっ!しまった。」
彼女は無意識に行動してしまったようだ。
「とりあえずだ。単身突撃で良いよね?」
「あーうん。そうだね。うちら足手まといだからねぇ」
誰かがそう答えた。
「じゃあ、行ってきまーす!」
「ああ、いってらっしゃい。」
彼女は実に、にこやかに走り出した。
残る彼らはどことなくぎこちない。
3カ月一緒に過ごした仲ではある。
それなりに気心も知れてきた。そんな同じ感覚で今も話ができている。
何やら複雑な心境だった。
さて、走り出した彼女だが、そのうちにふわりと宙を舞う。
押さえていた魔力が展開され、The魔王な姿へと変貌を遂げる。
「町の門は閉めよう。逃がさない。」
そう呟くと、かの門の下を破砕した。
門の外がクレーターとなり容易に出られなくなる。
門は全部で3つあったのでそれぞれ回って潰した。
「いったい何が起きてる!」
「ヒィ!お助け!」
「敵襲!!」
「敵だと敵は何処だ?」
「あれだよ見えねえのか!」
彼女は異様な存在感を醸し出していた。
巨大な圧迫感が闇を伴い近づいてくる。そのまま街を飲み込むのではと錯覚する程だ。
「いったい、な、なんなんだよぉ!」
この世界はずいぶんと平和だなと彼女は感じた。
勿論ルドラサウム大陸と比べてだが。
城壁まで来ると、どうやって登ろうか思案した。
ジャンプしても良いし、飛んでも良い。破壊して突破してもいい。
もうちょっとインパクトが欲しいなぁと思っていると、漫画のマネでもしてみようと唐突に思いついた。
「お、おい。アレ…なにしてるんだ。」
「上っている?いやあれは歩いているのか!城壁を!」
彼女は漫画のマネをして、足を城壁に突っ込み、垂直に歩き出した。
「あー、こういうの一回やってみたかったんだよね。」
今の身体能力になって初めてできる事だろう。
飛び越えるなりなんなりすればいいので、はっきり言って無駄な行動であるが、威圧感は与えられたであろうか。
「ば、馬鹿な。」
「ふはははははー私は人間をやめるぞー」
彼女はかなり棒読みで声上げた。
ついに城壁の上にやってきた。
彼女の周辺には槍を構えた兵士ばかりだ。
(次はどうやろう。恐れさせて降参させないといけないからね。がんばろう。)
不敵に笑う顔の下ではこのような事を考えていた。
(そうだ、良し。ちょっとした強者ロールプレイをしよう!)
ロールプレイをしなくても強者ですが、彼女の素はそんな風ではないですね。
「どうしたの?敵が攻めてきたんだけど、何もしないの?」
そう声をかけるが誰も動けなかった。
当然だ。
例えばそう、5%魔王で超弱体化していたジルですら、一般人なら委縮してしまうほどの魔力があるのだ。
100%状態の魔王が目の前では普通に動けない。
「あれ?思いの外、威圧できているのかな?」
そのように思い悩み、仕方ないので領主かこの町の主の居そうな所を城壁から探る。
中央に大きな建物があり、やはり大きな壁と堀に囲まれていた。
「あそこかな?」
動けなくなった兵士達を尻目に、城壁からぴょんと飛び降りその館へ歩みを進めた。
目抜き通りを進むも、彼女の異様な魔力から、人々は遠目で見守るだけだった。
障害となる障害が現れない為、意外に思いつつ進んでいると警邏隊のような者たちが現れた。
(こいつらは治安維持に必要。殺しちゃダメだね。)
そんな風に思って彼らの出方を待つ。
「と、止まれ!!」
「た、隊長やばいっすよ、普通に無理じゃないですかね?」
「いいからお前らも構えろ。」
混乱しつつ立ちふさがる彼ら。
その滑稽ぶりからクスリと嗤う。
「ヒィ」
「と、止まれ!止まれ!!」
そんな命令に従う謂れは無い為どんどん距離を詰める。
そして道を塞ぐ隊長の前まで来ても止まる気配はない。
「邪魔」
突きつけられた槍を手で払うと、槍を引き突き立ててきた。
喉に突き立てられた槍は、何かに弾かれるように右下に流れた。
攻撃を意に介さず、目の前にある邪魔な体も手でどける。
彼女からすれば丁寧に。彼らからすれば乱暴に押しのけられた。
「う、うわあ!」
確かに命中した。何かに当たった手ごたえはあった。
だがそんな彼の渾身の一撃も、蚊に刺されたような感じで体も押し退けられた。
何も通用しなかった。
生きているのが不思議なくらいではあるが、逆を言えば命を取るまでもない存在でしかないと突きつけられたかのようだった。
怖さよりも悔しさの方が先に出た。
再度槍を握ろうかとしたが力が入らなかった。体はいつしか震えていた。
体は恐怖に屈していたのだ。
そんな一兵士などなんとも思っていない彼女はずんずんと、かの館へと歩く。
だいぶ時間がかかったが、障害と言える障害は例の警邏隊だけだった。
門の前に差し掛かった所で横合いから声がかかった。
「なんだ?随分と可愛らしい化け物じゃないか。」
若い剣士と、後ろに女性の魔法使い。
勿論そんな声掛けで足を止めるわけもなく、歩いていく。
「ち、歯牙にもかけないとは、見くびられたものだな。俺様が退治してくれる!そしてS〇Xだ!」
あまりのセリフに、思わず足を止めてしまった。
勿論ルドラサウム大陸ではいないので彼らは現地の戦士だ。
随分と腕が良さそうではあるが。
「とりあえず、はったおす!」
剣ではなく蹴りがきた。
やはりS〇Xしたいのは本当なのだろう。致命傷を与えてからではできないだろうから。
「やかましい。」
この世界の魔法、火炎Iを使って燃やす。
燃えた。良く燃えた。
火の発生源が敵の真ん中なので、射撃する必要が無いのがこの世界の魔法の良い所だ。
「ギャー――」
下品な戦士は死んだ。
「ああ!アクス様!」
やはり斧ではダメらしい。騎乗槍でなければダメなのだろう。
そんなやり取りを無視して歩みを進め、館の前に着く。
館の前には兵士が50人ほど整列して槍を構えていた。
「き、き、貴様は何者だ!一体此処に何の用だ!!」
隊長らしき男が彼女に声をかけた。
やっとまともな誰何が来たものだとほっと胸をなでおろす。
「私は魔王。ちょっとこの町を貰いに来た。」
「な、何ー!」
彼女の出している魔力が周囲を威圧している。彼らは本能的に勝てないと理解していた。
理解していたが、立ち向かわない訳にはいかなかった。
「じゃ、そういう事だから、どいてくれる?」
さらりとそう言うが、彼らは動けないし、声も出せない。
近づいてくる化け物に隊長は攻撃命令を出した。
「か、かかれーー!」
「おおおおおお!」
一人では押しつぶされそうな威圧。
だが此処に立つ以上、戦わなければならない。
彼らは勇気を振り絞り、槍を突き出した。
勿論だが攻撃は効かない。槍は彼女に当たるも効果は無い。
「殺さないように吹き飛ばせるか不安だけど、死んじゃったらごめんね。」
魔法ではない。ただの魔力塊をぶつけた。
彼らは町の衛兵だ。ここで
魔力塊に吹き飛ばされ、彼らは全員戦闘不能となった。
門は別に直せばいいかと殴って開けた。
彼女は、やればできるもんだと感心している。
「さーて、町長さんはどこかなー」
ここを治めているのは、普通に領主で貴族である。そして多分に漏れず神官である。
外門を突破し、玄関先に至る。
玄関も固く閉じている。
普通に開けようとしたが、硬く閉じていた。
次にノックしたが、やはり反応が無かった。
下の門と同じ様に殴って開ける。
「こんにちはー」
「ば、化け物が…何をしに来た。」
この者が領主だろうか。他に人は居ない。
「この町ちょうだい?」
彼女はおねだりする様にかの領主に答えた。
「誰がやるものか…!」
「じゃあ、勝手に貰うね?」
「どうするつもりだ?」
勝手に貰うと言っても、ただ言うだけでは意味が無い。
実効支配しなければならないのだから。
「領主様はすでに落ち延びられた。お前が叫んだ所でこの町はお前のモノにはならないぞ!」
この目の前の男は領主ではなかった様だ。
それに応えてふーんと、返す。
「大丈夫、ちゃんと占領するから任せて!」
威圧感と恐怖感だけが支配するこの場で能天気に答える化け物。
ラスボスが気狂いの様に見える様相だと、なんとも不気味に感じるものだ。
狂瘴気ではないが、ただただ魔力にアテられるだけで気分が悪くなる。それが能天気に嗤うキチガイであればとても不気味に感じた。
彼女は館に誰も居ない事を確認すると
「じゃあ、ここに住むから部屋を用意して。」
と、当然の様に、目の前の彼に言うと表へ歩き出した。
「あーあ。この扉も修理しないとね。」
自分でやった事なので、気恥ずかしそうに表へ歩いてく。
「ま、待て」
部屋を用意するよう言いつけられた男はようやく言葉を口にした。
「なぜ、こ、この私が部屋を用意しなければならないのだ!」
くるりと振り返った彼女は意外そうな顔をしていた。
「え、あなた…この屋敷の使用人じゃないの?」
「た、確かに使用人だ。だが私の主人はここの領主であるセオドラ卿だ。」
「じゃあ、今日から私の使用人で。」
「な、何を」
ふざけた事を続けようとして、彼女と目が合う。
拒否は死か。
そう思うとその続きは答えらが出なかった。
受けるフリをして逃げよう。と思った。
ゴクリと唾を飲み込むと。小さく。頷いた。
その動作に納得行ったのか、彼女は表へ出ていった。
姿が見えなくなって彼はへたりこみ、その後慌てて逃げだした。
彼女は自ら街中を歩き回る。
「この町は魔王が占領したー」
「今まで通りの生活は約束してやるが逆らえば命が無いぞー」
「兵士とかも引き続き雇ってやるぞ~。ただし辞職は自由だ、辞めたくなったら言うがいい~」
と、特に緊張感のない声を張り上げながら練り歩いていた。
ただ、声だけであれば子供の悪戯である。
それが得体の知れぬ強大な魔力を伴っての行進であればどうだろう。
本気にはするだろう。
被害は無いが、こうしてこの城塞都市は魔王(笑)によって占領された。