魔王美樹の大冒険(旧:来水美樹が異世界召喚された件) 作:魔王信者
全部混ざった。
平和な生活で平穏に暮らしている内に、蓋は外れた。
今まで抑えつけていたもう一つの感情は次第に融合し、
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「兵士が足らない」
占領して3日。
兵士は総辞職していた。
何故彼女は大半が残ると思ったのだろうか。
「どこからか調達する必要があるね。」
「獣使いさんと召喚士でどうにかならない?」
腕を組みうんうん唸りながら会議を続けている。
「ネットショップでそういうの売ってないの?」
「なぜ兵士がネットショップに売っていると?」
「ほら、ペットとかさ。」
調べると馬は売っていた。
豚も売っていた。鶏も売っていた。食用だが。
そして、奴隷も売っていた。
「あ、奴隷なら買えるかな?買う?」
「奴隷かー」
それも有りかなと皆思い始めていた。
「とりあえず屋敷を維持するための人員が足らない。」
「門を守る兵士も足らない。警邏の人間も足らない。」
「美樹ちゃんは凹んだ土地を修復しに行ってるけど、あのクレーターが直ったら兵士とか住人逃げるんじゃないか?」
「違いない。だけど住人の大半は残るんじゃないかな。逃げる先もないし今の所命の危険も無い。」
「とりあえず、奴隷一人買ってみて決めよう。」
そうして、奴隷を買うことが決定された。
ネットショップで奴隷を買うと、ぽんと軽い音がして奴隷がソコに現れた。
奴隷の証である、ステータスプレートが、雑魚の人の手の内に現れる。
「…あれ?」
いきなり檻から屋敷の中に現れたので、奴隷も驚いている。
それよりも…
「ステータス…プレート。」
「どういう事だ?」
「元々奴隷用のアイテムだったって事か。」
「あの、貴方がたは?」
買われた奴隷が訊ねた。
「ああ、私たちはなんというかね、この人の能力で君を購入したわけだ。つまり、これからは私たちが主人というわけだ。理解したかい?」
「能力で…はい。理解いたしました。」
即座に跪く奴隷。
「なんか、こういう風に人を使うより、使役するって感覚が無いから、なんともむず痒いね。」
「だね」
「とりあえず、この屋敷の維持をお願いするよ。」
「…え?」
「え?」
「えーと、やることは分かるよね?」
「いえ、一体何をすれば?」
「ちょっと、屋敷の維持がわからないってどういう事だろう。」
「待って待って、屋敷の維持って行ったって一人じゃ無理だし、具体的に何をしろって云う話なんじゃ?」
「ああ、とりあえず…掃除とか?」
「そうそう。」
「なるほど。」
「ということで、まずは館内の掃除をお願いします。」
「は、はい。
館内といいますと…どこからどこまでで、どう掃除したら良いでしょう。」
「…なるほど、これは使う方も慣れが必要そうだね。」
「だね。まあ適当にって丸投げできないのか。」
「複数人雇って監督する必要があるのか。」
彼らが奴隷を使う事について難儀だなと思っている傍ら、雑魚の人はステータスプレーを見入っていた。
「お、おい…」
「どうした?」
「君の名前は『タナカユキヒコ』というのかい?」
「は、はい。」
「おい、それって。」
「異世界人…勇者!?、いや『日本人』か。」
「え?」
「教えてくれ、君は日本人なのか?」
「は、はい。もとはそのような場所に居た矮小な猿でございます。」
「ど、日本人は他にもいっぱいいるの?」
「居るも何も、日本人…異世界人は例外なく奴隷ですが。」
「なんだって!」
思いもかけない状況に彼らは絶叫した。
「い、一体どれくらい奴隷がいるんだ!?」
「さ、さあ?」
「く、そうだ美樹ちゃんが戻ったら奴隷を強制徴収しよう。そして解放だ。」
彼女が戻ったのはそれから2時間後の事だった。
「もどりましたよー」
「おかえりー」
かの奴隷、タナカも例の魔力に威圧され恐怖していたクチだが、それが目の前の彼女から発せられていたとは想像もつかない。
彼女は見知らぬ人間が居ることで誰なのだろうと首をかしげる。
「え?奴隷を買ったの!?
え!日本人!拉致被害者!?奴隷にされて!」
彼らから説明を受けると、ゴゴゴっと思わず魔力が怒りを伴って漏れる。
「ヒィ!」
彼女を知らぬタナカは突然の魔力にアテられ恐怖した。
「あ、ご、ご、ごめんなさい。」
慌てて魔力の流出を止める。
「許せないね。許せない。」
「そうだね、だから奴隷を全部徴収しようと思うんだけど…」
「賛成!?」
即座にソレに賛同した。
その日から奴隷が徴収され、開放されていった。
~一週間後~
そこには日本人の志願者でできた警邏隊、領主館保全の使用人、門を守る兵士が揃って居た。
此処に居た奴隷たちは、兵士側の戦闘奴隷もいたし生産職もいたし、同郷であるという感覚。奴隷から開放された感謝。そして今までこき使われて来た恨みと国民性も相まってすぐに意志の統一がなされた。
都市部の人口2万人のうち実に6000人が奴隷であり、一部平民や裕福層の生活が崩壊したが、だいたい元通りの生活に戻っていった。
常駐していた兵士5000人程は撤退し、逃げ出した民と共に移動している。
今、人口は15000人(元奴隷含む)となっていた。
兵数は防衛用の3000人で、スキルや戦闘能力が高い異世界人で構成されていた。
一ヶ月後には都市の機能も十分に回復し、平静さを取り戻すだろう。
なお農村部にも奴隷は居ると思われるので順次回収していく事となる。
「何もしてないけど、なんかうまくいった。」
彼女からすれば奴隷を開放したら、ソレが知識豊富な異世界人だった。本来型の奴隷であれば知識など欠片も無かったのだろうが、ソレが幸いし、即戦力として使用できた。
同時期、教国側。そして他国もその動きを察知しており、『魔王』が人類の敵として現れた事を再認識したのだった。
「セオドア城塞都市が落ちただと!?奴らは他国へ逃げるつもりではなかったのか!?」
「どこに占拠する兵力があった。」
陥落の報を受けた教皇と近くに居た高司祭は、そう叫んだ。
「ま、魔王が単身こう攻めてきまして、壁を垂直に登って侵入致しました。」
まとまりのない報告だったが、驚異を知らせるのは事足りた。
「兵士たちは一体何をしていたんだ!」
「それが…まったく歯が立たず、こう軽く排除されておりました。」
「一体何なのだ。本当に魔王だとでも云うのか?」
「報告では、オークションのあった町は半壊。それはすべて魔王の仕業であったとか。」
「むう…俄には信じられぬ。とりあえず魔王というのが居る。それは理解した。」
「…」
「だが魔王とは呼ばぬぞ。異端者。奴らにはその呼称が相応しい。」
教国ではそのように呼ばれたが実質、魔王の存在が認識された瞬間だった。
他方
隣国にあたる、ギシリマ国。教国に恭順を示し生き延びている小国だった。
「なに?セオドア城塞が落ちた?何の冗談だ?」
冗談なんて言っていない本当だった。
「この報告書にある魔王とは一体何だ?」
「ともかく、少数精鋭で落としたのは間違いないようで、町を守っていた兵士たちが四方に逃げております。」
「ふむ。どこの誰だか知らないが、逆襲戦は発生するか。とすれば参戦要請が来るか。」
「はい。」
「なら出陣の用意をしておけ、そんで魔王ってやつをもっと詳しく調べろ。」
「はっ!」
他国でも距離があるため伝わりにくいが、次第にその情報が各国を駆け巡っていった。
さて、この一週間、彼女が何もしてない訳がなく、いろいろ考えた末にあることを実施させた。
「異界の門が開けないなら、知っている人を喚べば良いんだよ!」
そう考えたのは、召喚士たる彼女がいたからで、何が召喚できるかに想いを馳せていたからだ。
「ここの人たちみたいに迷惑はかけられないよね、『暇』をしていて『召喚にも快く応じて』くれて、『異界の門』に詳しい人を召喚!」
「ざんねん、魔力が足りません…」
「私の魔力でどうにかできないかな?」
そのように一週間試行錯誤して、どうにか召喚が可能となった。
現れた異界との裂け目。そこから現れたのは、一人の幼女?だった。
彼女は全裸で、手足が黒く、髪は青白く、身長より長い長髪で、見開いた目は赤く怪しく光っている。左右の目の焦点は合っていないようだ。
雰囲気が異様であり、瘴気のような魔力は、彼女以外を蝕むように苦しめた。
「……はぁ…血。ほしい」
幼女はそう呟き、獲物を求めた。