処女はお姉さまに恋してる-陰に輝く星-   作:揺れる天秤

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第9話 照星(エルダースター)選挙に向けて

 -すみれside-

 奉仕会室。そこは照星がいずれ集まる部屋であり、照星の決まっていない間は奉仕会会長が預かっている部屋でもある。

 書類仕事に勤しむすみれはノックをして入ってきたあやめが紅茶のカップを机に置いたところで一息ついた。

 

「ありがとう、あやちゃん」

「いえいえ。会長もこれからは忙しくなると思いますから少し息をつかせようと思っただけですわ」

「そう…」

 

 紅茶に口をつけて、すみれは小さなため息をつく。

 

「すみちゃんとしては今年の照星はどうなると思います?」

「そうね。すんなり決まるようなものでもないと思っていたのだけれど…」

 

 密の転入で流れは少し変わったともいえる。首席の成績を修め、容姿端麗、性格も問題ない。間違いなく照星候補筆頭である。

 

「密お姉さまと『姫』、あとは美玲衣お姉さまの三人が候補筆頭でしょうか?」

「すみちゃん、刹那お姉さまは?」

「あやちゃんもセラール新報は見たのでしょう。刹那お姉さまは照星候補に挙げられても真っ先に辞退するわ」

 

 そのことは新学期が始まる前に刹那本人から直接聞かされていた。さらに、ちょっとした頼み事もされている。

 このまま照星選挙の方が進めば、刹那の頼み事はすみれとしては飛びついてもいいようなことでもある。

 

「刹那お姉さまが照星になるのもそれはそれでいい方だと思いますわよ?」

「刹那お姉さまがそれを望むとは思えないわ。あの人は善くも悪くも芯が通ってる方だもの。新報にあった通りなら、必ず辞退されるでしょう」

「そうなると、密お姉さまと『姫』、美玲衣お姉さまの三人で決まりでしょうね」

「密お姉さまが照星の緩衝材になると嬉しいのだけれど…」

 

 そうはならないとすみれは感じている。なにせ、壁となる刹那がいるのだから。

 

「今年も楽しそうですわね」

「平穏には終わらないでしょうね…」

 

 今年も心静かに学院生活が終わることはないだろうと、小さなため息をつくしかないすみれだった。

 

 

 

 ★

 

 

 

 -密side-

 今日も1日が平和に終わり、密は自室のベッドのうえでボーッとしていた。

 

「────」

 

 ただボーッとしていたわけではない。考えなくてはならないことは多すぎて処理能力が限界に来ている。

 まず、風早織女の護衛の件。これはもはや友人として付き合っていくと決めた以上どうすることもできない。流されるのは良くないとはわかっているが他に手段もないので諦めている。

 喫緊の課題は『照星候補』に挙がっていること。クラスメート達から説明を受けたことからわかるが、要は学院における学生の最終意思決定者みたいなものであるということ。そして、学院生徒達の憧れの存在になるということ。

 

 別に最終意思決定者になってしまうことは諦めている。問題は、学院生徒の憧れの存在になる、という点。

 そもそもにおいて自分は『男』なのだ。それが何の罰ゲームのごとく女生徒の憧れとして立たねばならないのか。

 一応、鏡子には文句を言ったが『密さんが織女さんを勉学で倒すことを決めた時点でこの事態は確定していたようなものですから』とあっさりとした答えが返ってきた。

 

 引き返せない場所に自分で踏み込んでいたのは理解できたが、実際問題として選ばれた場合の不測の事態はどれだけあるのかわかったものではない。

 

 とはいえ、自分がどうにかできる地点はすでに通り過ぎているようだ…。

 

「とりあえず、お風呂に入ってこよう…」

 

 このまま部屋で悩み続けても答えは出ないどころか思考の沼に沈みかねない。気持ちを切り替えるためにもお風呂でも入ろうと浴室へと向かう。

 

 ──まあ、思考の沼にはすでに沈みかけてはいたのだろう。脱衣場の確認をしっかりしていなかったことからもそれがよくわかる。

 

「おや、密さんも今からお風呂かい?」

 

 密が浴室の扉を開けた先にいたのは全裸の刹那。タオルで身体を隠すことすらしていない。

 思わず見惚れて固まった密に刹那は笑顔を返す。

 

「まあ、そこでボーッとしていても仕方ないだろう。お風呂に来たのならせっかくなのだし一緒に入りましょう」

「えっ、あ…はい、そうですね」

 

 湯船に浸かる刹那の隣に密も入る。刹那は他人から身体を見られることに何も思わないようで、チラチラと密が見るのにも気にした様子もなくリラックスしている。

 

「──それで。密さんは何か悩み事ですか?」

「───っ。なぜ、わかりますか?」

「別に理由があるわけでもありませんよ。ただ、転入数ヶ月の密さんが照星候補になれば困惑するのでは、と思いましてね」

「はい、そうです。刹那さん。刹那さんから見て『照星』とは何でしょうか?」

 

 クラスメートに照星について教えられていた時に度々刹那のことが話題にあがった。曰く、学院において刹那は照星の『敵』のような存在だと。

 

「私から見た照星のことか。今日は妙に同じようなことを聞かれますね」

「えっ?」

「いえ、こちらの話です。そうですね、私から見た照星というのは──」

 

 答えようとした刹那が固まる。どうしたのだろうかと顔をのぞきこむと悩んでいる様子で、まるでどう伝えるべきかを迷っているようにも見える。

 

「──これから照星になられるかもしれない密さんにはなんとも言いがたくはありますが、本年度の照星に関していえば、私とともに成長してほしい人達であってほしいところでしょうか?」

「刹那さんとともに、ですか?」

「ええ。新報にも書かれてはいたと思いますが、私は照星の壁として向かい合う役目を先代照星達から頼まれました。しかし、私自身も未熟者であるのは事実。であれば、照星のためにも私のためにも、私は彼等の前に立ち塞がる者とすることが望ましいということですよ」

「それは私のような人でも?」

「密さんがどうしてそこまで自身を下に見ているのかまではよくわかりませんが…。密さんであれば一緒に成長したいと思います」

 

 刹那は湯船から上がり、身体を洗うために座る。

 

「密さんがどうしても照星にはなりたくはない、と思っておられるのなら私は何もいえません。しかし、少しでも悩んでいるのならやってみてもよろしいのではないでしょうか?」

「刹那さん…」

 

 密は振り返ることなく自身の身体を見下ろす。

 

「少しは考えはまとまりましたか?」

「…ええ。ありがとうございます、刹那さん」

「いいえ。お気になさらず。さて、私はこのままあがりますから密さんはごゆっくりどうぞ」

 

 烏の行水のごとく、手早く身体を洗ったのか刹那は浴室から出ていく。それを見ながら密は天井を見上げる。

 

「私は、どうするべきなのでしょうか…」

 

 のぼせないように気をつけて密は浴室から出ていった。

 

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