処女はお姉さまに恋してる-陰に輝く星-   作:揺れる天秤

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第11話 照星と奉仕会

 -密side-

 週も改まって七月。照星(エルダーズ)としての初会合ということで、放課後に象牙の塔──図書館棟の最上階へと集まっていた。

 

「ようこそ、新照星の皆さま方。改めまして、お世話をさせていただきます紅鶸奉仕会会長、二年の迫水すみれです。本年一年、どうぞよろしくお願いいたします」

 

「さて、投票の票数の如何に関わらず、照星の位階は一学期中間考査の成績順と決まっております。この慣例に従い──呼ばせていただきます」

 

『薔薇の宮、結城密』

『百合の宮、風早織女』

『鈴蘭の宮、正樹美玲衣』

 

「また、三人の照星には序列がございますが、お三方は同格でいらっしゃいます。これはベツレヘムの星に導かれた三人の博士に準えたことによります」

 

 そこへ、一人の生徒が部屋へと入ってきた。その生徒が説明を引き継ぐ。

 

「ただし、その役割には異なるものがあります」

 

 白板に説明を引き継いだ生徒が書き記していく。

 

『薔薇の宮 博士メルキオルに倣い王権を担う。仲裁、三名の間で議論に決着が付かなかった時の最終決定権を担う』

『百合の宮 博士バルタザルに倣い神性を担う。総ての可能性を吟味頂き、まずは肯定を、かなうのであれば救いの手を』

『鈴蘭の宮 博士カスパーに倣い受難を担う。総ての課題に対し、理性的な疑義を与えて論理的な展開を与える』

 

 白板に記された説明をその生徒が改めて話す。三人が頷いたのを見て、生徒はすみれへと視線を移す。

 

「ではこちらへ──象牙の塔をご案内させていただきます」

 

 すみれを先頭に図書館棟の三階へと案内する。

 

「──こちらが生徒会室、通称『象牙の間』といわれるお部屋です」

「これは──また随分と時代がかった装飾ですね」

 

 織女が周囲の家具類を見渡している。

 

「昔、元々生徒会室のあった建物が小火騒ぎで取り壊しになった時に、当時は建設中だった図書館棟の三階へと移転が決定して、火災を逃れた家具類を総て運び込んだのだと聞いています」

「この象牙の間ですが、鍵の管理は皆さまに任せられており、利用内容の如何は問われません」

「それは構いませんが──」

 

 織女の視線がその生徒へと移る。美玲衣も見ているし密もいい加減気にしないようにするのは無理だ。

 

「えっと、どうして刹那さんがすみれさんの説明の補足役をしているのか質問しても構いませんか?」

「そうですね。その前に三人には管理して頂く鍵をお渡しいたします」

 

 刹那は豪奢な平箱を棚から取り出すと、それを密達に向けて開く。

 中には鍵が入っており、ご丁寧に、金、銀、銅、で作られたプレートが付いている。

 それを見た三人が分かりやすく表情を変えた。

 

「鍵自体はまあけっこうですが…色分けされているのは少し品がないでしょうか」

 

 織女の言葉にすみれが説明する。

 

「それについては、卒業なさった照星のどなたかがなさったことと思いますので、必要があれば変えて頂いて結構です。説明することでもないとは思いますが、オリンピックのメダルを模して序列が示されています。どの鍵を誰が使うかは皆さまでお決めください」

 

 それに密はチラリと刹那に視線を移す。無表情を貫いている刹那に、密はふと疑問がよぎる。

 

(序列があって同格であるのが私達、と説明されましたね…。となると──)

「なるほど。迂闊なルールの変更を施すと、後の世代にバカにされてしまうということですね」

「確かに、この飾りが良い例証というべきでしょう、しかし──」

 

 密としてはこれを刹那が取り出してきたのが気になる。これだけのことならすみれで事足りるのではないか…。

 

「つまり『伝統を尊ぶ』のか、『ルールに囚われない』のかを自分たちで決めろ、ということですのね。最初から決断をしろということね」

「基本方針──ということですか。どうですか、密さん」

 

 二人がこちらへと向いた。

 

「…いずれにせよ、大元になっている原則を利用しましょうか」

 

 一度は固辞した身でいきなりリーダーシップを振るうのもおかしな話だ。ならば、照星にある原則を利用するまで。

 

「原則…?」

「討論です。私達は話し合うための三人だそうですから」

 

 話し合えばいい。まずは三人の互いの性質を見てみればいいのだ。

 

「鈴蘭の宮は課題に際し、必ず疑義を提示する役を担う、でしたね」

「そうですね。私はお二人のやることなすことに反対すればいい──そう思うと楽な仕事かしら、と思っていましたが…」

「命題は『色分けされた鍵に意義はあるか』といったところでしょうか。否定側は美玲衣さんにお願いするとして──肯定は」

「私が承ります。百合の宮は神性を──つまり理性を司るそうですから」

「お願いします。では、始めましょうか──」

 

 

 

 ★

 

 

 

 -刹那side-

 『色分けされた鍵について』討論を始めた密達から離れて、刹那とすみれは状況を眺めていた。

 

「まあ、この三人なら間違うこともないでしょう」

「『伝統に囚われない』ことが正しい、ですか。しかし、刹那お姉さま。だからといって本当にお手伝いに来られずとも良かったのですが…」

「密さんを説得した際に立ちはだかるとも、共に努力するとも応えた私が怠けるのも違うでしょう。それに、私自身、今年の照星にはとても興味が持てています」

「興味、ですか?」

「はい。伝統に疎いからと固辞した『薔薇の宮』。去年までとは別人のように変わっていく『百合の宮』。二人を見て自身も変わろうとある『鈴蘭の宮』。去年・一昨年とは違う、良き照星になるだろうことは目に見えて明らか。そこへ、昨年の照星達から見守るよう仰せつかっている立場を利用したくなるのも、わかるでしょう?」

 

 楽しそうに笑う刹那にすみれは少し困ったように、討論を続ける三人へと視線を移す。

 

「今年は、波乱の一年となりそうですね」

「諦めなさい。私が精力的に動くと決めている以上、波乱なのは当然です」

「お姉さまには、自重を覚えていただきたいものですね」

「私が自重、ですか。あり得ませんね」

 

 二年間、照星に噛みつき続けてきた自分が今さら自重するだなんてあり得ない。

 そうこうしているうちに三人の話し合いが終わったようだ。結論としては『伝統には囚われない』ということ。

 それにすみれが過去の照星による試験だったことを説明。本来の役割のアクセサリーを付け直して三人へと渡す。

 

「まあ、予想通りですね」

「刹那さんは知っていましたよね?」

 

 密から小さな文句が出るが、刹那は小さく肩を竦めて返す。

 

「では宮さま方。改めまして、私ども奉仕会は皆さまを歓迎致します」

 

 すみれのあいさつの後、他の奉仕会メンバーが紅茶を入れてそれぞれが自己紹介を行う。

 

『副会長 高城本深夕(たきもとみゆ)

『会計 堀川香苗(ほりかわかなえ)

『書記 迫水あやめ(さこみずあやめ)

 

「それで、刹那さんはどういう立場の方なのですか?」

「密さんは随分と私を気にされますね」

「ええ。見たところ奉仕会の役員という感じではありませんし、かといってこの部屋へ入室するための鍵は持ち合わせているようで。先ほどの説明に倣うのであれば、この部屋へ入室できるのは奉仕会の役員と照星三人のはず」

「よく覚えていらっしゃいますね。感心いたします」

「刹那お姉さまのことなのですが、お姉さまは先代の照星方から鍵を複製して頂いているようで…。基本的には私がお預かりさせて頂いています」

 

 すみれがポケットから取り出したのは先ほど三人に配られたものと同一の鍵。ただし、アクセサリーとして付いているのはなぜかトランプのジョーカーが描かれている。

 

「またオドロオドロしいアクセサリーがついていますね…」

「先代のイタズラのようで。お姉さまは気に入っているとかで替えていないそうです」

「私がジョーカーなのは事実でしょう。去年の目安箱のトップ投書人で奉仕会庶務についていましたから」

「…そうなのですか?」

 

 説明に疑義を挟むのは織女。

 

「はい。お姉さまは先代の奉仕会庶務です」

「まあ、基本的に何でも屋といった感じでしたし、会長が美海さんでしたから好き勝手やっていましたよ」

「美海さんが先代の奉仕会会長だったんですか。──で、刹那さんの立ち位置はなんでしょうか?」

「こだわりますね、密さんは。まあ、相談役みたいなものですよ」

 

 苦笑して答える刹那に密は笑顔を浮かべる。それに、密としては美海が学院の事情に精通していることの理由がわかった。それよりも──

 

「すみません。目安箱、というのは?」

 

 質問にはすみれが答えた。

 

「正確には投書箱ですが…。普段は象牙の塔の入り口前に設置されています。これは奉仕会への様々なリクエストの他に、照星の皆さまへの相談ごとなども受け付けています」

「昨日はこんな感じのものが入っていましたー」

 

 そういって、あやめが持ってきたのは数枚のレポート用紙と封書。

 織女や美玲衣、密はそれぞれに手にとって中身を確認する。

 

「『幽霊が出ます』…?まあ、そろそろ怪談が盛んになる時期ではありますが」

「こちらは友人との交友についての心配事の相談のようですね」

「一部は無記名のようですが」

 

 密の質問に答えるのは深夕。

 

「『忌憚なく意見や要望を募る』というのが前提となっていますので、記名の是非は問うていないのです」

「また、制限も設けられていませんのでこういった信憑性の疑わしい投書や個人的な相談ごとも持ち込まれます」

 

 深夕の説明に香苗が補足する。

 

「それで、その…こういったものも調査しなくてはなりませんの?」

 

 なにやら美玲衣は少々顔が青い。それには気づかず香苗が答える。

 

「一応、お言いつけ頂ければ執行部の方人員を割いて調査致しますが…」

「こういった荒唐無稽の案件については無記名の場合はとりあげられなくとも已む無し──というのが通例でしょうか。先代は刹那お姉さまのおかげで随分と苦労させられておりましたが」

 

 刹那の投書は基本的に記名。よって、刹那への確認に来ては調査させられていたのだ、先代の照星達は。

 その話に三人の視線が刹那に向く。しかし、刹那は柔らかい笑みを浮かべながら──

 

「そう心配することもありませんよ。今年はかき回さなくても何かと起きるでしょうから」

 

 密の転入からわずか2ヶ月たらずでかなりの話題は起きていた。今さら自分が先陣切っても意味がないのは刹那自身がよく理解している。すみれが軽く咳払いを入れる。

 

「あと、説明が前後しましたが照星の皆さまは各自一名ずつ補佐役を置くことができます。これは投票に関係なく、皆さまの友人関係からお選び頂いて構いません」

「何をする役目なのですか?」

「一応は、名目上は照星の補佐、欠席時の議決権代理などを担うとはされていますが──実質上はこの部屋への入場権のようなものと考えて頂ければ」

「なるほど。友人だからといって、おいそれとこの部屋を訪ねるのは難しいでしょうね」

「登録は後日、ご友人に相談の上でご一緒にお連れください」

 

 後は──と考えていたすみれに深夕が先んじて説明を始める。

 

「基本的な業務は私ども奉仕会執行部にお任せ頂きます。また、執行部の活動に疑義がおありの場合はいつでもお声かけを。活動内容は総て、隠すことなく宮さま方に開示いたします。

 宮さま方には月曜、そして木曜の放課後についてだけはこちらへ駐在して頂ければと思います。緊急の判断を要するものがない限りは、執行部からの呼集がかかることはないとお考え頂いて構いません」

「なるほど。それなら照星とは──と言いたいところですが、先ほどの投書の話に戻るわけですね」

 

 投書には友人関係の相談ごとなども入っているのであれば、執行部が動くわけにもいかない。

 

「そうですね。相談ごとには明確な正解がありませんし、なによりこれは照星としての私たちからの答を期待されている」

「正に『生徒(ひわ)たちを照らす星』としての仕事が求められている──ということですか。いささか気の重い話ですね」

「確かに…自分の悩みですら、簡単には解決のできない身としては」

 

 三者三様に照星への感想が漏れる。

 

「それでもすがりたい、という対象が照星。選ばれた密さん達が気に病む必要はありません」

「そうですね。前向きに考えるようにしないとやっていけませんね」

 

 刹那の言葉に密は小さくため息をついた。

 

「本日はこれで説明の方は終わりたいと思います。もし、漏れているところがあれば、それはまた後日改めてということで」

「わかりました。お手数をおかけしましたね、執行部の皆さん──これから一年間、よろしくお願いいたしますわ」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 

 織女の言葉に役員達が席を立ち、それぞれに頭を下げる。

 

「刹那さんも、よろしくお願いいたしますね」

「ええ。お互いに良き一年間にいたしましょう」

 

 刹那にだけ織女が改めて声をかける。それに刹那は令嬢のようにスカートをつまんで優雅なお辞儀を返した。

 

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