処女はお姉さまに恋してる-陰に輝く星-   作:揺れる天秤

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第12話 イタズラ好きな二人

 -密side-

 外はすっかり夕暮れに染まって、校舎がその大きな影を校庭に落としている。

 

「そうですね」

 

 夕暮れを見ていてふと、さっきの投書のことを思い出した。その様子に織女が首を傾げる。

 

「どうかしたのですか、密さん」

「いえ。そろそろ先ほど読んだ幽霊の出る時間帯かと思いまして…。今から見に行けば何かわかるかしらと」

 

 場所は部室棟の音楽室という話だったし、そんなに遠くはない。今から行ってもそんなに遅くはならないだろう。

 

「「えっ…?」」

 

 密の言葉を聞いて、織女と美玲衣は驚いたように密を見る。

 

「い、行くの…ですか」

「今から…ですか?」

「え?ええ。そうすれば、懸案もひとつ片付いてちょうど良いかなと思ったのですが…」

「ふむ。面白そうですね。密さん、私もついていきますがいいですか?」

 

 刹那は楽しそうに笑っている。

 

「ええ。構いませんよ」

「そ、そうですか。私は、もう遅いですから帰らせて頂きますわ」

 

 織女の声は少し上擦っているような感じだが、密はそんなことに気づかない。

 

「あ、はい。刹那さんも手伝ってくださるようですし、一緒に帰れなくて申し訳ありません」

「いえ、そんな…ではあの、お任せしますね」

「ええ。大丈夫です。ご機嫌よう、織女さん」

「はい…では、ご機嫌よう」

 

 織女は申し訳なさそうに帰っていった。密は首を傾げている。

 話が聞こえていたのか、帰り支度をしていたすみれが近づいてきた。

 

「薔薇の宮さま自ら出向かれるのですか?ご指示頂ければ私どもで調査致しますが」

「いえ、これは私が…だって、すみれさんだって馬鹿馬鹿しいとは思うでしょう?」

「それは…まあ、はい。そうですね」

 

 少し頬を赤くして答えるすみれ。

 

「美玲衣さんもよければどうでしょう?薔薇の宮一人と私では口裏合わせできたりと悪巧みできてしまいますが」

「またそういう…。──わかりました。私も行きましょう」

「美玲衣さん。別に二人もいれば大丈夫ですよ」

 

 密の返事に美玲衣は小さく首を左右に振る。

 

「いいえ。さすがに刹那さんと密さんが不正を行うとは思いませんが、私も特に急ぎの用事などはありませんし…。まあ、もし本当に不正をされても困りますので」

「美玲衣さん…」

 

 そう言う美玲衣の頬はほんのりと紅い。疑ってはいないが、疑っていることにした方が美玲衣としてはありがたいからそうしたい、といった感じだ。

 

「わかりました。それでは美玲衣さんも同行のほう、お願いいたします」

「はい、はーい。そういうことでしたらあやめも一緒に行きたいですわ!」

「ふむ。奉仕会から役員一名がついてきていただけるのもありがたいでしょうか。すみれ会長、あやめをお借りしても?」

「本人が行きたいと言っていますからお願いいたします。刹那お姉さまもいますからハメを外したりはしないでしょう」

「わかりました、監督役を務めましょう。よろしいですね、薔薇の宮」

「刹那さん。密、でけっこうですよ」

「ふふっ。では、行きましょうか」

 

 そうして四人は象牙の間から出ると部室棟へと移動する。

 

「そういえば、音楽室は鍵はかかっていますでしょうか?」

「それもそうでした。では、あやめが職員室より借りてまいりますわ!」

 

 元気な返事とともにあやめが廊下を走り出す、が──

 

「あやめさん、廊下は走らずにお願いしますね?」

「──っとと。わ、わかっておりますわ…」

 

 急ブレーキをかけて止まったあやめが静かに急ぎ足で歩いていく。その背中を眺めて、刹那は小さく息をついた。

 

「まったく…。淑やかさとはあやめは無縁なのでしょうか…」

「それにしても刹那さん。ずいぶんとお腹から響く声が出ましたね」

「そう、ですかね?」

「ええ。思わず背筋が冷えました…」

 

 肩を竦める密に腕を組んでやや腰の引けている美玲衣。別段、驚かせるつもりは刹那にはなかったのだが、声が底冷えしていたようだ。

 

「まあ、怒っているつもりはありません。怒りを乗せる方法を知っているだけですから」

 

 これくらいなら練習すれば誰にでもできること。必要だったから身につけたスキルでしかない。

 

「女性の声で男性に勝つにはいろいろと必要なスキルでもあるのですよ。痴漢などはこの声で圧すればそれだけで制圧できる時もあります」

「なかなか過激な発言ですね」

「あら。密さんや美玲衣さんなら痴漢にあってしまうのでは?」

「無いことはないですが…」

「私はノーコメントで…」

 

 密としてはコメントしがたい。ただ、確かにこの姿で公共の機関を使えば痴漢にあうかもしれない。

 

「まあ、こういった技術は使う機会を持たないかぎりは覚えるようなものでもありませんし」

「つまり、刹那さんにはそういう技術を学ぶ機会があったということですか?」

「ええ。お話はできませんが」

 

 しばらくするとあやめも戻ってきた。音楽室へと向かって歩いていく最中、だんだんと日が暮れてきた。

 

「ふむ。逢魔が時とはよく言いますが、こうなってくると怪談物が映えますね」

「刹那さんは怪談物は…」

「気にしない人間です。むしろ、好んで他人に語る人間です」

「怪談物といえば、学校とかですとよく七不思議という怪談話が有名ですが、あれはなぜなんでしょうか?」

 

 あやめの言葉に刹那と密の視線が一瞬、交錯する。小さく笑う二人。

 

「そうですね…。諸説ありますが一番よく語られるのは学校を建設するにあたっては広大な土地が必要になる、ということが要因になりますね」

「えっと、広大な土地が必要なのは当然ですが、なぜそれが要因になるのですか?」

「明治に入る頃にあった廃仏棄釈のことですよね、刹那さん」

「ええ、密さん。まあ、あとは広大な土地をサクッと手に入れる簡単な方法としては元墓地の土地は比較的安価で手に入るという背景が関係したりしていますね」

「簡単にまとめると廃仏棄釈によって寺院等が取り潰されたり墓地が埋め立てられた土地はその由来から他の平野部などと比べると安価で手に入る土地だったのです」

「当然ながらそんな土地に学校を建てようというのですから地鎮祭なども行われていないことなども重なって、晴れてそういう土地に出来上がった学校はそういった不可思議なことが蔓延する場所になってしまった──というのがですね──」

「──っ、きゃああぁぁぁ…!」

 

 楽しそうに笑って話す刹那と密の話を聞いていた美玲衣が悲鳴をあげて座りこんでしまった。

 座りこんで、耳を手で塞いで背中を震わせている。

 

「あの、美玲衣お姉さまは怖い話が苦手、なのですか?」

「う、ううぅぅぅ…!」

「く、くくっ、くくく…!」

 

 あやめに図星をつかれたからか、うめき声を漏らしながら震える美玲衣と、それを見てお腹を抱えて笑う刹那。

 

「刹那さん。わかってて話を合わせましたよね?」

「くくく…。いや、申し訳ありません。しかし、密さんも平然と乗ってきましたよね」

「ええ、まあ。面白そうでしたから」

「お二人とも、意地の悪い笑みが浮かんでいますわね…」

「ふふっ。申し訳ありませんでした、美玲衣さん」

 

 縮こまって震える美玲衣に密が手を差し伸べる。若干涙目の美玲衣はおずおずと密の手を握ると立ち上がる。

 ようやく笑いの波が落ち着いたのか、笑いすぎで目尻に涙をためた刹那が近づいてきた。

 

「いや、申し訳なかったです。怪談話云々と言った時に美玲衣さんの顔が強張って見えましたから、密さんに話を合わせていただきました」

「…意地が悪いですよ、二人とも…」

「「申し訳ありませんでした」」

 

 二人が謝って、三人は顔を見合わせて小さく笑った。

 その様子をあやめは楽しそうに笑って見ていた。

 

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