処女はお姉さまに恋してる-陰に輝く星-   作:揺れる天秤

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第13話 怪談の正体

 音楽室に到着する少し手前から、それは響いてきていた。

 

「これは、楽器の音でしょうか?」

「──ですね。誰かが使っているのでしょうか?」

「で、ですが、音楽室の電気は消えているようですけど…」

「か、鍵もここにありますよ…?」

「あの、二人とも。両腕にしがみつかれると歩きづらいのですが…」

 

 音楽室の方向から何かの楽器の音が響いている。怖がりの美玲衣とここまで来てまさか投稿通りに聞こえてきている事態に腰が引けたあやめの二人が密の腕をそれぞれにしがみついている。

 怖いのはわからなくはないが歩きづらくて困る。

 

「しかし、確かに音楽室の灯りは消えていますね。なのに聞こえてくる楽器の音。怪談話もあながち嘘ではなかったということでしょうか?」

 

 念のために扉を動かそうと試みるが、やはりというか鍵がかかっている。

 

「とりあえず、開けてみますか?」

「そうですね。これで誰もいなければめでたく怪談話の完成なわけですし」

「せ、刹那さんはどうしてそんなに楽しそうなんですか…?」

「私は不可思議なことが大好きな人間ですから。幽霊がいるのなら会ってみたいですし、UMAが存在するなら是非とも捕獲してみたいという人間ですので」

 

 楽しそうに笑ってあやめから鍵を借りる。鍵を開けて音楽室に入ると、音も止まる。しかし、暗闇の中に誰かいる。

 

「密さん、電気をお願いします」

「はい」

 

 電気をつけるとそこには──

 

「あれぇ~、どうしたの、刹那さん、密さん」

「おや、茉理。なぜ貴女がここに…」

「茉理さん?」

 

 灯りのついた音楽室に佇んでいたのはヴァイオリンを構えた茉理だった。

 

「いやぁ~、そんな話になってたんだねぇ」

 

 茉理から説明された内容としてはすごく単純なことだった。どうやら音楽室の担当教師もグルで、放課後のこの第二音楽室を茉理のリハビリ用に貸していたらしい。

 しかし、勝手に使っているのも事実なのでできるだけ人には見つからないように電気を消して演奏していたらしい。

 

「当然、こういった時期になれば話題としてあがるようになりますね。『放課後に聞こえてくる音楽室からの謎の音』という怪談話に…」

「あはは…。ごめんね~、そこまでは考えてなかったよ~」

「しかし、そうであるなら教師も奉仕会に連絡ぐらいはしておくべきなのでは?」

「さすがにそれはちょっと…。吹奏楽部などからは『練習時間をもっと確保したい』という要望も出ていますの。この状況で茉理お姉さまの練習時間を容認しては他の部活の方々に怒られてしまいますわ」

 

 現在はコーラス部と吹奏楽部が時間を区分けしながらお互いに気兼ねしつつ使っている。ここに部活に所属していない茉理がリハビリのために練習時間が欲しいといっても、許可は下りない。

 だからといって無許可で行われるのも問題ではある。

 

「さて、密さん。どういたしましょうか?」

「そうですね…。今のまま、茉理さんに音楽室を使っていただくわけにも参りませんし…」

 

 一人、黙考していた美玲衣はあやめへと目を向ける。

 

「あやめさん、いくつか確認したいことがあります」

「は、はい。なんですか、美玲衣お姉さま」

「象牙の間は防音に優れているとの説明がありましたが、具体的な例とかありますか?」

「そう、ですね。何代か前の照星の方で象牙の間で演奏会を開いたりしていたというのは聞いたことがありますから、それなりの防音性はあると思います」

「なるほど。であれば──」

 

 美玲衣は茉理の方へと向く。

 

「茉理さん。貴女に一つ、提案があります」

「私に?」

「はい。照星には一人、補佐役を選ぶことができます。そこで、茉理さんに私の補佐役となってもらい、ヴァイオリンの練習は象牙の間で行ってもらう、というのはどうでしょうか?」

「えっと、補佐役って、なに?」

「茉理、私から説明しましょう」

 

 刹那が茉理に照星に関することを簡単に説明する。

 

「へぇー。じゃあ、密さんと美玲衣さんは照星で、照星には補佐役が一人付けられて、補佐役はその象牙の間?って部屋に入れるからそこで練習したらいいってこと?」

「ええ。そうなります」

「だけどー、その補佐役って私でも大丈夫かなぁ…?私、美玲衣さんと会ったの、今が初めてだと思うんだけど…」

「私は構いません。茉理さんが気にしないというなら、補佐役をお願いしたいと思います」

「うーん、でもなぁ~」

「茉理としては何か不都合があるのですか?」

「そうじゃないよ。そうじゃないんだけど…」

 

 ウンウン唸って悩む茉理に、刹那はなんとなく悩む理由がわかった気がした。

 

「…友人でもない赤の他人の自分を補佐役に置いてまで象牙の間を使わせたい理由が美玲衣の方には無いから、悩んでいる感じですかね?」

「──っ!そう。そうなんだよっ!」

 

 茉理は刹那の説明にウンウンと頭を縦に振っている。その様子に美玲衣は少し考えて──

 

「そうですね…。理由は、いくつかありますがどうやらこの場においては私と茉理さんは知り合いではないようですから、これから親しくなるためにも近くに置いてみたい、友達になりたいというのはいかがでしょうか?」

「とも、だちに…?」

「嫌、ですか?」

「ううん!全然、嫌じゃないよ!」

「はい。では、今日から友達ということで」

「うん!よろしくね、美玲衣さん」

 

 美玲衣の手を楽しそうに掴んで振る茉理に刹那と密は優しい笑みを浮かべていた。

 そんな二人に気づいたのか、美玲衣は頬を薄く朱に染めて睨む。

 

「なんですか、その顔は」

「いえいえ。微笑ましい光景だな、と思いまして」

「そうですね。美玲衣さんは優しい人ですから」

「…いいですよ、もう…」

 

 拗ねた様子で二人から視線を外した美玲衣に、刹那と密は忍び笑う。

 

 

 

 ★

 

 

 

 -刹那side-

「それでは、私は二人を駅前まで送ってきます」

 

 幽霊騒動にも決着が着いたということで時間も遅くなりつつあり、刹那は美玲衣と茉理を駅まで送り届けるべく、街を歩いていた。

 

「しかし、茉理もおかしな騒動を起こすものですね」

「まさかそんな噂になっているなんて思わなかったんだよ」

「少し考えてみればわかることでしょう。放課後、開いていない暗い音楽室から毎日のようにヴァイオリンの音が響いてくるなど、ホラー以外の何物だと言うのですか」

「それはまあ、そうなんだけどさ…」

「しかし、刹那さんは茉理さんとはずいぶんと仲がよろしいようですけど…」

「私と茉理は、少々特殊な存在といえますからね」

 

 刹那が話すのは茉理のヴァイオリンの腕前と刹那がこの学院に来てから起こしたことの数々。

 

「『提琴の君』として入学当初から有名人だった茉理は比較的人の少ないところを好むようになったようで。私はといえば入学当初から様々な逸話がつくほどの立ち回りをしていたためか、周りの方々には怖れられていたようですから…周りにはあまり人が寄りつかなかったのですよ」

「ああ、なるほど…」

 

 有名人としていることを嫌がった茉理(エトランゼ)と逸話を築き続ける刹那(エトランゼ)

 偶然にも二人の中で利害が一致したのだ。

 

「刹那さんの近くにいると人は集まってこないから、人避け代わりによく隣にいてもらってたの」

「代わりにといってはなんですが、茉理には私の話し相手になっていただいていました。まあ、そうなると必然的に友好は深まるものですよ」

 

 奇妙な出会いはすぐに友好へと変わり、長く付き合う内にお互い遠慮がなくなった。

 

「気がついてみれば三年近くも楽しい親友という感じになりました」

「刹那さんといると話題に事欠かないからね」

 

 二人の様子に美玲衣は理解する。この二人は根本ではおそらく、似た者同士なのだ。

 

「でも、美玲衣さんも良かったの?私みたいなのをその、照星としての補佐役にして…」

「ええ。私にもいろいろと思うことがありますから」

「取り巻き連中では薔薇の宮や百合の宮との衝突は必至。集まる度に諌めるのは諌める側も面倒になりますものね」

「刹那さん…。気がついていたんですか…?」

「ええ、薄々は。まあ、美玲衣は優しいですから茉理の練習場所を確保してあげたいというのも本音だとはわかっていますが」

「…かないませんね、刹那さんには…」

 

 両手をあげて敗北宣言する美玲衣に茉理は嬉しそうに微笑んでいる。

 

「しかし、これで茉理の演奏は象牙の間に連れていけば聴き放題ですか。嬉しい誤算もあったものです」

「あの、刹那さん。私の演奏、綺麗じゃないよ?」

「知っていますよ。知っていて言っています。茉理の演奏は好きなんですよ、私」

 

 茉理はその病気の関係でまともな演奏は出来ない。でも、刹那にそんな些細なことは関係ない。

 

「友人の演奏は何度聴いても良いものなのですから」

「そう言われると、私も気になってきますね。茉理さん、今度演奏お願いしますね」

「もう、美玲衣さんまで悪のりしてきたよ~」

 

 アハハ…!と楽しそうに笑う三人は駅に着くまでいろいろな話に花を咲かせていた。

 

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