処女はお姉さまに恋してる-陰に輝く星-   作:揺れる天秤

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第16話 お互いのこと

 -刹那side-

 寮に帰ってから自室で気持ちを落ち着かせるように黙々と読書を続けていた。

 すみれが夕食だと呼びにきて、リビングへと下りて、夕食を取る間も誰と話すでもなく、黙々と食べ進める。

 それからまた自室で読書の続き。正直なところ、内容は頭には入っていない。

 

 どれだけ時間が過ぎたのか、控えめなノックが部屋に響いた。

 

「入って構いませんよ」

 

 本を閉じる。開いた扉からは幾分か落ち着いたのか血の気が戻った密が入ってきた。静かに立ち上がると、近くに置いていたイスに座るようすすめ、部屋に置いてあるティーポットの準備を始める。

 

 お茶ができ、それを渡して自身もイスに座る。

 

「──さて、それでは説明を願いましょうか、密さん」

「…はい」

 

 そうして、私は私が見たものについての説明を受けた。時間にして一時間ほどだろうか。

 説明を終え、お茶を飲んで一息ついた密は──

 

「以上が、僕がここに通うことになった経緯です」

 

 『結城密』という男性の真実を語り終えた。

 

「──なるほど。ですが、そうであるならなおのことわかりませんね。なぜ、貴方が必要なのか。正直なところ、鏡子だけでも十分な気はしますが」

「その辺りのことは…すみません。僕自身、こうなるなんて思っていなかったので…」

「なるほど」

 

 ボディーガードの一人として結城密を派遣した。しかも丁寧に女装までさせて。

 しかし、肝心のものが聞けていない気はしないでもないが、現風早総帥本人でもなければわからないこともある。これ以上の詳しい話は聞けそうにはないだろう。

 ──まあ、女装云々の話でいえば私としては二人目だから気にするだけ無駄な気もするが…。

 

「さて。私が取れる道はいくつかあるのですが」

「・・・」

 

 意味深に指を複数本立ててみるも密はただ俯いている。様子としては死刑宣告を待つ被告人に近い。

 

「まず、私としては密さんをいますぐ断罪する気はありません」

「──えっ?」

 

 こちらの言葉がさすがに不思議だったのか、上がった顔は呆けたように口が開いている。

 

「これでも私は貴方を照星に推した経緯もあります。今更貴方が『男性』だっただけでその地位から追い出すわけにもいきません」

「いや。それは、どうなんですか?」

「また、貴方を断罪する場合、風早織女さんに貴方のことがバレますが私とて必要以上に断罪されてほしいとは思っていません。バレた場合、確実に追い打ちが入るでしょうし」

 

 再び俯いてしまった密に、刹那は少し思う。

 確かに知った当初は身体の芯が冷えるほどの怒りを抱いたものではあるが、時間を開けて『密という人物像』を改めて見直した時に感じたのは、怒りを抱いた理由とはまるで違うものだった。

 では、なぜあれほどに怒りを抱いたのか。そこに意識を向けてみると、自分はひどく子どもじみた気持ちを抱いていたことに気がつけた。

 

「私はね、密さん。貴方を断罪しないと決めている理由として、貴女がこの学院を良くする一因になると考えているから、とも思っています」

「僕が、ですか…」

「こういう言い方をすると貴方が傷つくとは思いますが、春先から約3ヶ月…誰も貴方を男性だと疑いませんでした。もちろん、私もそうです」

 

 『アレ』を見たから男だとわかったわけで。刹那自身『アレ』を見なければ未だに密を女性として扱っていただろうことはよく理解している。

 そして、この返事に前にいる密がひどく落ち込んでいる。

 

「あの、僕はそんなに男には見えませんか…」

「どちらかといえばしっかりと必要なことをすれば女性にしか見えないというべきでしょうね。実際、化粧とかもしてはいるのでしょう?」

「してますけど…」

「まあ、そうですね。極端な例になりますが私達は貴方のような男性に女性として負けていることになります。そんなの、悔しいじゃないですか」

「そのために、ここにいろ、と?」

「ええ。あとは、身体能力的に私と対等に立てる人は少ないので、そういう方面でも密さんに居なくなっては困ると思ってはいます」

 

 実際にここまで身体を鍛え上げている女性などアスリート選手でもなければいないぐらいには刹那も鍛えている。

 そんな刹那相手では並の高校生男子ではついてこれない。ボディーガードとして鍛えている密だからこそ、とも言えるのだ。

 

「そういういろいろな要因があるので私としては今すぐに密さんをどうこうする気持ちはありません」

「そう、ですか」

 

 安心できたのか、密から力の抜けたため息が漏れる。今日一日は気が気ではなかったのだと容易に想像がつく。

 ふと時計を見上げると夜も更けてきていた。

 

「さて、それでは密さん」

「──?はい」

「お風呂に行きましょうか」

 

 

 

 ★

 

 

 

 刹那が湯船につかる隣で、密は顔が真っ赤になりながらも入っていた。

 

「あの、刹那さん。私は『男性』なんですが…?」

「ええ、わかっています。しかし、お風呂も入らずに寝るのは『淑女』としては如何なものかと」

「そうじゃなくてですね…。恥ずかしくないんですか」

「なにをいまさら。何度、湯を共に入っていると思っているのですか?」

「そ、それは──」

 

 なんだかんだと密との話は基本的にここ、湯船ですることがほとんどだったのだ。今さら密が『男性』だからといって刹那が恥ずかしがる理由がわからない。

 

「いや、その理屈はおかしくないですか」

「おかしくありませんよ。それに、私は半陰陽の関係で他の人とは少々歪んでいるので余計に気になりません」

「半陰陽?」

「おや。ご存知ありませんでした?」

 

 頷く密に、刹那は説明する。

 

 ──『半陰陽』とは。

 生まれながらに染色体──特に雌雄を決める染色体に異常が生じることで性別があやふやな状態の子が生まれることがある。

 

「──私は性別としては『女性』ですし、ちゃんと子宮などの女性の器官も有しています。しかし、ホルモンバランスは著しく異常な数値を示しており、骨格・筋肉等は男性に極めて近く、しかし成長度合いは女性に寄っているなどの弊害を生んでいて結果として『成人男性クラスの出力を有した肉体を持った女性』というアスリート選手顔負けの身体が手に入りました」

 

 また、このホルモンバランスの異常によって胸は大きくならなかったのは刹那としては少し悲しいところなのは内緒だ。

 

「なんといいますか…。すごい人だったんですね」

「まあ、半陰陽は出生率としては生まれ落ちる可能性は他の異常よりは格段に高いと言われています。むろん、生まれてから性別に関して悩む方々がいることは知っていますが、幸いにも私は『女性らしさ』の方が少し高かったので悩む必要はありませんでしたが」

 

 胸は大きくならなかったが。大事なことだから二回言う。

 そんな刹那の目線は密の胸元に注がれていた。

 

「だから、その胸が羨ましく思っていました」

「えっと…。任務が終わってから貸しましょうか」

「いえ。今は偽乳だとわかった以上は羨ましい気持ちは落ち着きました。まあ、そんな複雑怪奇な身体をしている関係で私は並の人間よりは性欲とやらは抑制されているようなのです」

「直球ですね」

「密さんには隠すようなものではなさそうなので」

 

 二人してゆったりとつかる。

 

「刹那さん」

「なんでしょうか」

「今後は力添えしていただくわけにはいきませんか?」

「元よりそのつもりです。ですが、照星たる薔薇の宮には手は抜きませんよ?」

「はい。わかっています」

「ならば、いいです。当面は水泳の授業でしょうか」

 

 今日は自分に女装がバレたことで異様に血の気の引いていた関係か見学していたのは知っている。しかし、そうほいほいと授業を休めるものかと刹那は考える。

 

「水泳の方はその、生理…ということにしようかと」

「ああ。なるほど。確かにその手がありますか。私は軽すぎてそのようなこと思いませんが、重い人には休む理由になりそうですね」

 

 自分にはわからないものでも生理が大変なのは身内にいる。いい口実とは言えないが、それを口実にするための理由付けは偶然にも初回の水泳で体調不良と間違えられた密にはもってこいの話だ。

 

「でしたら、同じ寮住まい。話を合わせることで対応しましょう」

「よろしくお願いします」

 

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