処女はお姉さまに恋してる-陰に輝く星-   作:揺れる天秤

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第21話 千歳の写真収集

 -密side-

 水泳の授業から数日後。緊急の照星会合が開かれるということで放課後に象牙の間に来たのだが…。

 

「大変申し訳ございませんでした…!」

 

 象牙の間に入るなり新聞部部長である真紗絵さんに土下座されている。

 

「あの日から休み時間になる度に生徒達が津波のように集まっては抗議をしていって…」

 

 真紗絵さんは明らかにやつれている。隣には千歳さんが若葉ちゃんに付き添っているようなのだが…。

 

「休み時間、昼休み、放課後関係なくひっきりなしに新聞部の部室やそれぞれの教室に人が集まるようで…。他の生徒もおののくほどの狂乱が起きているそうなんです」

 

 すみれさんからの説明になるほど、そんな状態になってしまえば新聞部の活動どころか学院生活が送れない。

 

「それで、私に土下座しているのは構いませんが具体的にどうするのですか?」

 

 真紗絵さんは頭を上げない。本当に今の状態は彼女にとって辛いのだろう。とはいえ、自分一人で決めていいのだろうか。

 

「まあ…、制裁そのものはすでに受けておられるようですし」

「今回の裁定に関しては薔薇の宮である密さんにお任せします。鮮やかな解決でしたから」

 

 他の宮二人は今回のことは自分に全て任せる気でいるようだ。しかし、鮮やかな解決と言われてもやったことは思いきり力業である。

 

「そうですね。すでにけっこうな制裁は受けているようですし、奉仕会の方と今回のことに関しての提載に関する誤報に対する謝罪文を作りましょう」

「い、いいんです?」

「ええ。期末試験も目前に迫っていますし、これ以上の混乱は他の生徒達にも大きな問題が発生する可能性があります」

「なるほど。では、真紗絵部長は隣の奉仕会室の方へ」

 

 副会長の深夕に連れられる形で真紗絵部長が隣の奉仕会室の方へ入っていく。

 

「密さん。いいんですか」

「ええ。私は私自身で身の潔白は示せましたし、これ以上の混乱は学院の生徒の誰も喜べません」

 

 現在、学内は噂が嘘であったことで生徒達の怒りが全て新聞部へと向いている。この状態から照星と奉仕会が許すことで落ち着きを取り戻すだろう。

 

「…で、今日の緊急会合は終わりかしら?」

「いえ。実は刹那お姉さまの方からもう一つ議題にあげてほしいとお願いされていることがありまして」

「珍しいね。刹那さんが会合に口を出すなんて」

 

 美海は刹那のことをこの中では知っている部類の人間である。刹那は基本的にこういう場で自分が中心に立つことは避ける傾向にあると感じていた。

 

「ちょうど新聞部の人を呼び出せるこのタイミングがよかったんです。千歳と若葉さんの二人を呼び出せるタイミングが」

「千歳さんはなんとなくわかりますが、なぜ若葉さんまで?」

「千歳と真紗絵の直弟子ですよ、彼女」

 

 全員の視線が若葉に集まるが、若葉はただ全員の視線に合わないように目線を外している。

 

「まあ、若葉さんには釘を刺したいだけなのでこの場に呼んだともいえます。──さて、この場の皆さんに聞きたいのですが『百合の深窓』と呼ばれる秘密グループが存在しているのは知っていますか?」

「『百合の深窓』?」

「初めて聞く名前ですね」

 

 織女と美玲衣の二人はわからないのか首を捻っている。しかし、美海は知っているようで苦笑していた。

 

「また意外なタイミングでその名前聞いたね」

「美海さんは知っているんですか?」

「まあ、去年も何かと世話になったからね。で、刹那さんはなんで『百合の深窓』を議題にあげたのさ?あれっていわゆる写真屋じゃん」

「写真屋、ですか?」

 

 周りの人はお互いに見合わせて首を傾げる。

 

「えっと、具体的には何をしているグループなのでしょうか?」

 

 すみれは知らなかったのだが『写真屋』ということは写真に関するグループなのはわかる。では、何が問題なのか。

 

「『百合の深窓』は昔から学内に存在しているグループらしいのですが、二年前、千歳さんがグループのリーダーを引き継いでいたそうで」

「えっ?」

 

 美海が千歳を見る。千歳はその視線を受けて意味深に笑う。

 

「おやおや。まさか刹那お姉さまにバレているとは思いませんでした、が…今年はまだ出品は一枚もしていませんよ」

「「「出品?」」」

 

 照星三人の声が重なった。今、なぜか三人の背中に悪寒が走った。

 

「『百合の深窓』は学内で撮った写真を取引する場になっているんです。もちろん、レアな写真であればなかなかなお値段で取引されますし、なかには『盗撮では?』といわんばかりの写真が出品されたりします。問題は、いつ頃行われているのかが不明なこと」

「去年は照星の一人が日程を突き止めて奉仕会数名で現場を押さえにいったんだけど、土壇場で日程を変えてきてさ。現場を押さえられなかったんだよね」

 

 去年、美海と刹那は現場に向かったのだが、ギリギリ取り逃がしている。

 

「ですが、グループリーダーが千歳だとわかれば現場を取り逃がしてしまったことにも理解ができます」

「あの話し合いの時に紛れ込んでたってことか」

「ええ。その通りですよ」

 

 苦々しい表情で千歳を見る美海と刹那に、千歳は楽しそうに笑っている。

 

「で、私に何を聞くのですか?言っておきますが、日程・場所を私はしゃべりませんよ?」

「今さら現場を押さえようとは思っていません、が。出品される写真を見てみたいと思ったんです。毎年、あそこで出品された写真はそれきり個人の懐に入ってしまうと見れなくなってしまうので」

「それは…構いませんが…」

 

 千歳は周りを見渡していた。全員が『自分達も見たい』といわんばかりに目を輝かせている。なんだかんだといえど全員女性(一名除く)。気になって仕方ないのだろう。

 

「わかりました。では、とりあえず一枚」

 

 千歳は懐から一枚の写真を取り出してテーブルの上に置いた。皆がのぞき込む中、一人、表情が青くなる。

 

「あやめさん、ですね」

「食べているのは…プリンでしょうか」

 

 写っていたのは至福の表情でプリンを食べているあやめ。風景からして寮のリビングのようである。

 しかし、写真の中には少々気になるものが写っていたことにすみれが気づいた。

 

「あやちゃん。後でゆっくりとお話しましょうか?」

「す、すみちゃん。言い訳を、言い訳を聞いてくださいな…」

 

 静かに怒りだしたすみれの様子に周りが驚く。何が起きているのかと思うが、密はすみれが怒りだした理由に気がついた。

 

「あやめさんのプリンの容器に何か書いてありますね」

「どこですか?」

「ほら、手元の辺りに──」

 

 見てみると手で一部が隠れているが『…みれ』と見える。それだけで全員が察した。

 すみれに詰め寄られて頬をつねられているあやめを横目に、千歳は次の写真を取り出した。

 

「では、次はこれにしましょうか」

 

 テーブルに置かれたのは──

 

「えっ!?ちょっと、見ないで~…!」

「はいはい。大人しくしましょうね、茉理」

 

 次なる写真は茉理だった、が。ヴァイオリンに頬ずりしている茉理の写真。場所はおそらく音楽室。

 

「何をしているんですか、茉理は…」

「うぅ~、こんな写真いつ撮ってたの~」

 

 呆れた目で見る美玲衣の横で茉理は涙目だ。

 

「放課後、何かネタはないかと歩いていた若葉さんが偶然にも出くわした一枚だそうで──」

「すみません。つい──」

 

 写真に写る茉理の顔は蕩けている。実際にこの場を見ればドン引きものの絵面だったことだろう。

 

「だって~、良い音が出るヴァイオリンだったんだよ~」

「だからといって頬ずりしているのはどうなんですか…」

「しかし、残りも似たようなものが続くのですか」

 

 密の見る先──千歳は何枚も写真を取り出している。

 たった二枚で室内では突っ伏して動かなくなった者が二人。恥ずかしいのだろう。

 

「まだ見ますか?」

「…皆さんはどうしますか」

 

 刹那の問いかけに全員が頷く。その反応に千歳は三枚目をテーブルに置いて───

 

「──っ、見ないでください!」

「ブロックします」

 

 写真を取ろうとした織女を刹那が止める。

 

「は、放してください!これが誰かの手に渡るなんて許容できるわけありませんっ!」

「あの時の、ですね」

「撮られていたとは思いませんでした。しかも、こんなローアングルで…」

 

 写真に写るのは食堂で密に『あ~ん』してもらっている織女。頬を薄く赤く染めているのも綺麗に写っている。

 

「織女さん。これを奪っても千歳の下にネガがある以上、量産可能のはずですよ」

「ええ。百合の宮の『あ~ん』写真。さぞや良い争いが見られると確信しています」

 

 千歳の発言は端から聞いていても外道でしかなかった。

 突っ伏して動かなくなった者が三人目。こちらは小刻みに震えているので羞恥に耐えようとしているのかもしれない。

 

「では、せっかくですから鈴蘭の宮の写真をば」

 

 四枚目は確かに美玲衣の写真だった。ただし、うずくまり目尻に涙をためて上目遣いで誰かに手を伸ばした写真で──

 

「刹那お姉さま提供『怖がり美玲衣』だそうで──」

「なんでこの時の写真があるんですかぁ!」

「適当な位置にスマホをつけてタイマーセットしてから手を差し伸べればいいだけ。良い写真でしょう?」

 

 実はもう一人外道がいたというオチだ。美玲衣も突っ伏して動かなくなった。

 

「じゃあ、最後の一枚を…」

 

 テーブルに置かれたのはつい先日の写真。刹那が密をお姫様抱っこしている写真。

 

「やはり撮っていましたか」

「当然です。あのような激写の瞬間を見逃すなんてできませんよ!」

「密さん、綺麗に撮れてますね」

「あの、これも売られるのですか?」

「いえ。これはさすがに保管です。刹那お姉さまに殺されかねませんから」

「失敬な。そんなことしませんよ。嫌がらせはしますが」

「にしても、密お姉さまはあまり動揺していませんね」

「動揺するほどのものではないから、でしょうか。すでにクラスメイトには見られていることですし」

「なるほど。確かにいわれてみれば」

「しかし、どうするんですかこの惨状は」

 

 鏡子の示す先にはテーブルに突っ伏して動かなくなった四人の被害者。

 

「まあ、この写真を世に出したくないなら千歳さんを買収するしかないわけで」

「しかし、この四枚のうち宮様二人の写真はお値段わかりませんよ。たぶん、お互いのファンの方々には垂涎の一枚でしょうから」

 

 テーブルからゆっくりと織女と美玲衣が立ち上がる。

 

「それでも──」

「そんな写真、出回らすわけにはいきません」

「えっ、あ、あの、お二人共…。何か目が怖いのですけど…」

「では、我々はお暇いたしますか。美玲衣さん。私の撮った分はその現像品一枚ですから安心してくださいね」

 

 後日、ホクホク顔の千歳を鏡子は見かけることとなった。

 

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