新聞部の起こした騒動からすでに十日を過ぎ、学院内は期末試験の勉強に慌ただしくなっていた。
再び試験争いでもしているのか織女の気合いは高く、また密は密で中間の頃と同じように周りに教えながら勉強に励んでいた。
──そして、結果発表の日。
『一学期 期末学力考査』
『成績優秀者発表』
『第三学年』
首 席 結城 密
二 位 雨水 刹那
二 位 風早 織女
四 位 正樹 美玲衣
五 位 畑中 美海
六 位 高山 香澄
七 位 茨 鏡子
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「意外な結果、とみればいいのでしょうか」
結果を見に来ていた織女と密は少し変わった結果に驚いていた。
密の学力が高いのは前回でわかっているため驚きは少ない。しかし、なぜか刹那が織女と並んでしまっている。
「そういえば刹那さん。今回の期末ではすみれさんやあやめちゃんにも勉強を教えていましたね」
「そうなのですか?」
「ええ。リビングに集まって茉理さんも交えて四人でしていました」
「なるほど。あまり自分の勉強時間を取っていなかったのかもしれませんね。だとしても、です…」
それでも織女自身は今回もすごく勉強したのだ。それでこの結果なら、少なくとも刹那にはまだまだ及んでいないことになる。
「おや、密さんと織女さん。今回も争っていたのですか」
「やっほ~。密さんと織女さん」
そこへ歩いてきたのは茉理と刹那。二人も成績の結果を見に来たようだ。
「むっ。今回は密さんに負けていますか」
「そうは言いますが、今回の刹那さんは本気を出していないでしょう。教える方に回っていたのを見ていましたから」
「お、おおお…」
「茉理?」
なぜか茉理が震えている。密達は成績表をもう一度見直す。そして、その名前は確かにそこにあった。
『十八位 仲邑 茉理』
「やった~!今までの最高順位~…!」
「やりましたね、茉理」
「刹那さんのおかげだよ~」
感極まっているのか刹那に抱きついている茉理は泣いている。そんな茉理を刹那は優しく頭を撫でている。
「二学期からは私も刹那さんに教えてもらおうかしら」
「美玲衣さん」
美玲衣とその取り巻きがいつの間にか結果を見に来ていた。結果を見る美玲衣は小さなため息をつく。
「茉理の成績の延び具合を見るとつい、そう思ってしまうわね」
「せっかくですし夏休みは一緒に勉強しますか?茉理はする気のようですから」
「そうですね。日程が合えば参加しようかしら。では…」
美玲衣はすぐに離れていった。数人の取り巻きはこちらをしばらく見ていたが、美玲衣が見えなくなる前についていく。
「美玲衣も大変ですね。しかし、次回はもう少し勉強に時間を割り当てるべきでしょうか」
「密さん。次は必ず追い抜いてみせますから」
「こちらこそ、簡単に負けては織女さんに落胆されても悲しいですし、受けてたちましょう」
そうして、それぞれの教室へと歩いていった。
★
-刹那side-
本日は照星の会合の一学期最終日。あやめ達はケーキを朝早くから準備していたようだが、それならば自分も用意せねばなるまい。
別に意地とかではない。後輩の労いが嫌なわけでもない。ただ、やはり性格的にしてもらうだけでは落ち着かないのだ。
そういう次第で、昨日の夜から両親に頼んで本場のチョコレートやらを空輸してもらい、朝に守衛に頼んで受け取ってもらっている。
会合への多少の遅刻は許してほしいものだが。
遅れていくこと三十分ほど。象牙の間ではケーキは配り終えて各々が食べ始めている。
ただ、あやめだけは二つのケーキを確保して待っていた。
「刹那お姉さま。遅かったようですが…」
「申し訳ありません。守衛に頼んで受け取っていただいていたこちらを取りにいっていたのですよ」
手元の袋を持ち上げる。中身を取り出して箱を開けると、色とりどりのチョコレートが並んでいる。
「これは──」
「毎年、奉仕会が照星にお疲れ会をするのは知っていますが、今年ぐらいは私から奉仕会へのお疲れ会の物をと思いまして。夏休み以降も忙しくなるでしょうから」
「お姉さま…。ありがとうございます」
あやめが頭を下げると他の奉仕会役員も頭を下げていた。刹那はそれぞれの頭を優しく数度撫でると、チョコレートの箱を勧める。
「当然ですが、照星用もありますよ」
「これなら私達も何か用意すべきでしたでしょうか…?」
困ったように笑顔を浮かべる織女に刹那は首を横に振る。
「今日のお疲れ会は奉仕会からの慰労ですから照星達がそれほど気にすることではありません。私が役員を慰労するのは私の勝手ですから」
「それはそうでしょうけど…」
「織女さん。刹那さんに何を言っても言いくるめられて終わりますよ」
横からチョコレートの箱に手を伸ばした美玲衣は肩をすくめつつもチョコレートを口に運ぶ。
「織女さん自身、言いたいことはあるのでしょうが、刹那さんを相手に正論を並べたところで針を通すような穴を付かれて論破されます。こういう時に刹那さんを出し抜くなら事前に情報を持って機先を制するしかありません」
「美玲衣は私のことをわかってきたようですね」
「ええ。正論だけでは勝ち得ない。かといって奇策を用いるには私達では技量がたりない。であれば、まず必要なのは情報です。今回のような時に刹那さんに一矢報いるならそうするしかありません」
「よく学んでいます。しかし、こういう催しは照星達も好きにすればよいのです。そこへ、奉仕会役員を招けばいいのですから」
「…そうですね」
ひとまず織女は納得したのか、チョコレートをつまんでいる。しばらくの間、お茶会の静かな雰囲気の中、密のピアノ演奏や茉理のヴァイオリンを聴くことでのんびりと過ごす。
茉理のヴァイオリンが終わり、茉理がひと息入れたところで、織女が切り出す。
「ところで、皆さんは夏休みはどう過ごしますの?」
各々にわずかに黙る。まず発言したのは刹那。
「そうですね。とりあえず両親の元へ顔出しした後は去年と同じように過ごすでしょうね。一人旅で日本をあちこち回ると思います」
「ちょっ!?去年、寮生が日々の飯に苦しんでた時に一人旅なんかしてたの?」
「そうですよ、美海。夏休みまで寮生のご飯作りなんて真っ平ごめんでしたから。そもそも、食事の用意を誰も手伝おうとしないのにご相伴に与ろうとする人しかいないではありませんか」
「うぅ~…」
自覚はあるのだろう。美海はそれ以上言葉を重ねることはない。
「しかし、今年はどうしましょうか。両親に顔を出しに行くのは決定ではありますが、その後は寮に戻るべきでしょうか」
「あら、何かありますの?」
「今年は密さんもいますし茉理の相手もしたいですからね。後は、皆さんの都合が合えばどこかへ出かけるのも面白そうではあります」
「うーん、私はできるならヴァイオリンの練習とかはしたいんだけど~」
「さすがに毎日それをさせていてはせっかくの順位も落ちるでしょう。そんな悲しい結果にさせる気はありませんよ」
「だよね~…。はぁ…」
茉理のため息に刹那は茉理の頬を引っ張っている。
「勉強については茉理から言ってきたことでしょう?」
「ふえ~。忘れてないから放して~」
「美玲衣さんはどうですか?」
じゃれている二人は放っておいて織女は美玲衣に話を振る。
「私ですか?今のところは特に何も…。早めに課題を終わらせておこうとかその程度しか決まっていません」
「なるほど。密さんはどうですか?」
「私は刹那さんと同じような感じでしょうか。お世話になっている方に顔を出すくらいしか予定は決まっていません」
「夏休みって予定で埋まっているものかと思いましたけど、そういうわけでもないんですのね」
「小学生では無いのですから、毎日が遊びで埋まるわけでもありません。それに、ほとんどの方が受験を控えています。遊びばかりに目を向けているわけにもいかないのでしょう」
織女の嘆息に鏡子が補足する。確かに今年はここにいる半数以上が受験に勤しむ者だ。遊びにばかり行ってはいられない。
「まあ、せっかくですから何か計画できないか考えておきましょう。参加者はその都度募ればいいのでしょうし」
「刹那さん、何か算段がおありで?」
「ええ。一つだけ。ただ、先方に確認等を取らないといけませんし、何名なら可能かも確認しないといけませんから」
「楽しみだね~」
ようやく頬を解放してもらった茉理が自分で頬を撫でながら同意を示す。
「まあ、なんにせよ。夏休みは楽しみましょうか」
皆でお茶を飲んだりしながらのんびりと。そんな夏休みも悪くないだろうと刹那は思う。