処女はお姉さまに恋してる-陰に輝く星-   作:揺れる天秤

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第24話 旅行~一日目~-①-

 -刹那side-

 父上から旅館の予約が取れたと連絡をもらってから五日。今、私達は旅館の前にいる。

 

「「「「いらっしゃいませ!」」」」

 

 出迎えるは両サイドに列を成して挨拶をする割烹着を着た女性と、ラフな着物を着ている男性の従業員。

 ここの従業員は良い品物を使っているのが一目でわかる。この歓迎もとても気分がいい。

 

「行きましょうか」

「え、ええ。そうですね」

 

 振り返った先では寮の皆さんが旅館を見上げている。どうやら茉理や美玲衣、織女さんも同様のようだ。どうしたのだろうか?

 

「織女さん。この旅館、確かすごく有名な旅館では…?」

「はい。確か、数年後まで予約で埋まっていて、たとえ大富豪の人間でも容易には予約など取れない、はず…です」

「刹那さんの家がすごいところだと確認させられる一面、でしょうか…」

「そう、ですね。風早グループでもここの予約を取るのは至難だと思います…」

 

 なにやら後ろの二人は難しいことを話している。別に数年後まで予約があっても、この旅館は常時、突発的な利用者のために数名分の予約枠を確保してくれているらしい(父上談)。

 

「お久しぶりです、刹那お嬢様」

「ああ。お久しぶりです、館長」

 

 一人だけ執事服を着た初老の男性がこちらに会釈している。この旅館の館長であり、父上の古い友人らしい。

 

「今回は急な予約に対応していただき、ありがとうございます」

「いえ。刹那お嬢様が数年ぶりにうちを利用してくださるとご連絡いただいた時は大層驚きました。ましてや、学院の学友の方々と旅行するためとも。そのためにうちを使っていただけるのであれば、私としてもこれほど嬉しいことはありません」

「久しぶりに会うというのに、おおげさが過ぎますよ。それに、このお出迎えもそうです」

「いえいえ。今日は刹那お嬢様以外にも大口の宿泊客がいらっしゃいますので。一番最初に来られたのが、刹那お嬢様達だったというだけのことですよ」

「なら、いいのですが…。では、館長。お部屋へのご案内、お願いできますか?」

「かしこまりました」

 

 館長が数名の従業員を呼びつけると、すぐに館内へと案内された。向かったのは館内三階の大部屋。

 

「こちらは基本的には団体客のお客様の宴会などに使われている大部屋になります。今回は皆様の食事を用意させていただく部屋になりますので、覚えておいてください。個別のお部屋に関しては一部屋が二人ずつのお部屋になっており、こちらの大部屋からの並びになります。

この階で宿泊されるお客様は皆様だけになりますので、お部屋を間違えた場合でも問題のないようさせていただきました」

「ありがとう。部屋には私達で分かれますから、ここまででけっこうです」

「わかりました、刹那お嬢様。では、皆様。今日より三日、よろしくお願いいたします。何かご用命の際は各お部屋備え付けの内線よりご連絡ください。我ら従業員がすぐに参ります」

 

 恭しく頭を下げて、従業員達は去っていく。

 

「さて、部屋割りを決めましょうか?」

 

 

 

 ★

 

 

 

 部屋につくと荷物を置く。部屋の間取りとしては和室が二部屋と窓際のくつろぎスペースが一部屋。冷蔵庫、テレビ完備。

 

「久しぶりに来たのですが、内装はほとんど変わっていないようですね」

「あの、刹那さん。どうしてこの部屋割になったのでしょうか?」

 

 刹那の相方は密だ。というのも──

 

「本来であれば密さんには鏡子さんと同部屋の方がいいと思ったのですが、鏡子さんから『諸事情あって千歳さんと同部屋にしてください』と聞いていますから。そうなると密さんの秘密のことを考えると私しかいないでしょう?もちろん、バレる覚悟で織女さんと同部屋というのもありだとは思いましたが」

「いえ、ありがとうございます。ところで鏡子さんのいう『諸事情』とは?」

「さあ。それこそ私にはわかりませんよ。密さんの方がわかると思ったのですが…」

「いえ…。私もわかりません」

 

 そうなると千歳と鏡子の間で何らかの密約みたいなものでもあるのだろう。さすがに刹那とてそこまで首を突っ込むつもりはない。

 

「さて、荷物は置いたわけですが。密さんはこのあとどうしますか?うかうかしていると織女さん辺りに温泉に拉致されかねないと思いますが」

 

 というより、間違いなく捕まるだろう。彼女のことだからこういったタイミングを逃すとは思えない。

 

「やはりそう思いますか…?」

 

 密もそこは気になっているようだ。まあ、旅館に着いた最初の行動として温泉に向かうのは汗を流す意味でもありだろうし。

 

「どうでしょう?私は久しぶりのこの辺りを散策しようと思っているのですが…」

「お供いたします」

「では、織女さんが来る前に行きましょうか」

 

 他の方々が訪ねてくる前に密さんを連れて旅館を出る。受付に散策に行く旨は伝えておく。

 

「──さて、周辺は変わっているのでしょうか」

 

 刹那も前回来たのは五年以上も前の話だ。周辺がどうなっているのかはわからない。わからないからこそ、楽しみだ。

 

 

 

 ★

 

 

 

 -鏡子side-

 部屋割はごまかしこそしましたが千歳さんと一緒にさせていただきました。千歳さんの口が固いのはよくわかってはいますが、何か起きてからでは困ります。

 密さんには悪いとは思いましたが、刹那さんがいることですし旅行中の密さんのフォローは丸投げしておきましょう。

 

「──で、千歳さんは何をしているのですか?」

 

 部屋に着くなり本人が持ってきていた旅行鞄の内の長細い方を開けている。

 

「刹那お姉さまに聞いていたのですが、この近くには川があってその上流の辺りにいけば釣りが出来るとのこと。こういう機会でないとなかなかできませんからね、釣りなんてものは」

 

 鞄から取り出したのはバラバラのパーツに分けられた釣竿のようだ。しかも、少なくとも数本は用意しているように見えた。

 

「釣り、するんですか?」

「ええ。釣りは昔からの趣味でして。釣り糸垂らしてボーッとしているの、けっこう好きなんですよ。鏡子さんも来ますか?釣竿だったら貸しますよ」

「そうですね…」

 

 目の前の相手は今からでも出ていく気満々だ。元々、見張りのために部屋割に口出ししたのだし──

 

「わかりました。ご一緒しましょう。しかし、私は釣りなんてほとんど経験ありません」

「そこは私が教えましょう。釣り仲間が増えるかもしれないのですから」

 

 鞄を閉じるとそれを肩に掛けて千歳が立ち上がる。二人並んで部屋から出たところで、隣の部屋からすみれさんとあやめさんが出てきた。

 

「千歳さん、鏡子お姉さま、どこか行くのですか?」

「千歳さんに誘われてこれから川釣りに行くところです」

「まあ。面白そうですわね。すみちゃん、行きません?」

「え、ええ。私達も一緒に行っても構いませんか?」

「ええ、ええ。釣り仲間が増えるのは大歓迎です。釣竿は私的に持ってきているのが複数本ありますから四人で行きましょう」

「ところで、千歳さん。釣りのできる場所までの道は知っているのですか?」

「『受付で聞けばいい』と刹那お姉さまから聞いています。その辺りは大丈夫ですよ」

 

 受付に向かうと地図を渡されて懇切丁寧に釣り場所までの道筋を教えてもらえた。それとどうやら刹那さんと密さんはすでに散策に出かけていると受付の従業員から話が聞けた。

 どうやら出かける際は受付でどこへいったか伝えておけば、他のメンバーが聞きにきた時に伝えるシステムを取っているようだ。

 

「こちらの川では主にヤマメやニジマスなどが釣れますが、もし数が釣れたようでしたら戻ってきていただきました際に受付にお預けください。夕食時に塩焼きなどで提供させていただきます」

「わかりました。その時はよろしくお願いします」

「それでは、いってらっしゃいませ」

 

 受付から離れて旅館から出る。夏真っ盛りだというのにこの辺りはずいぶんと涼しい。

 

「ここから離れてはいますが、避暑地があるとのことですしそういった場所にあるのでしょうね」

「さて、この四人でいくつ釣れるでしょうか」

「千歳さん。貴女と違って私達は素人なのですから釣果があるとは思わないでください」

「わかっていますとも。最低限の数が釣れなければリリースして帰るつもりですから、今日は楽しむことを優先しましょう」

 

 ウキウキと楽しそうに歩き出した千歳の後ろを鏡子達はついて歩く。

 

「釣りはどんな感じなのか、楽しみですわね、すみちゃん」

「そうね。初めてだけど、釣れるといいわね、あやちゃん」

(まあ、やったことのないことですし、純粋に楽しんでみることにしましょうか)

 

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