処女はお姉さまに恋してる-陰に輝く星-   作:揺れる天秤

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第26話 旅行~一日目~-③-

 -密side-

 刹那さんとの散策を終えて旅館へと帰ってきたタイミングで、釣竿片手にバケツを持った千歳さん達に出会いました。

 

「そちらは釣りですか?」

「ええ。ものの見事にボウズですが」

 

 笑いながら空のバケツを見せてきた千歳の後ろで、ブツブツとなにやら怒り気味の鏡子の姿。

 

「どうかしたんですか、鏡子さん」

「いえ。アタリはあったんです。なのに、皆さん一匹も釣ることができませんでした」

「そのわりには周りにいた釣り人の方々はひょいひょい釣っていましたの。何かコツでもあったんでしょうか?」

 

 釣り側はその後もああだこうだ言いながらついてくる。食事処の二階へと到着すると織女さんが見慣れない男女と楽しそうにしている。

 こちらに気がついたのか織女さんが手を振っている。そばにいた男女もこちらへと振り向く。

 

 ───と、刹那さんが足早に男女へと近づいていく。

 

「なぜ、居るのですか?」

「なぜとは失礼だな。久しぶりの休暇なんだから母さんと一緒にここへ予約を取ったんじゃないか」

「確信犯ですよね」

「あらあら。刹那さんは怒っているかしら?」

「あの、刹那さん。こちらの方々は知り合いなんですか?」

 

 妙に親しげに話し始めた刹那に織女は気になって話しかける。刹那は小さくため息をつくと──

 

「私の父と母です」

天形宗玄(あまがたそうげん)という。刹那の友人方、娘が世話になっている!」

天形神楽(あまがたかぐら)と申します。刹那さんの友人の方々、はじめまして」

 

 全員が固まるなか、刹那はただただ深いため息をついていた。

 

 

 

 ★

 

 

 

 部屋の方から花ちゃん先導の下、美玲衣さん達が食事処へやってくると改めて二人は自己紹介を行う。

 しばらくすると料理が次々と運び込まれ、天形夫妻の周りには数名の屈強な男が座っていた。

 

「貴方達もグルですか」

「グルたーひでー言い方っすよ、姐さん。俺達はたまたま天形殿に護衛頼まれたからついてきただけでさ」

「そもそもこの旅行。いつ計画されていたんですか」

「刹那が帰ってくる半月ぐらい前だよ。行き先は刹那がこの旅館に決めた時点で切り替えたんだがね!」

「確信犯じゃないですか」

 

 父親である宗玄と喧々諤々やり合う刹那を密達は料理に舌鼓をうちながら見守っている。そこへ母親である神楽が近づいてきた。

 

「改めまして。刹那の母親である天形神楽と申します」

「これはご丁寧に。風早織女といいます」

「結城密です」

「あら?貴女が密さん…?」

「えっ、はい…」

 

 神楽さんはしばらくこちらを眺めていたが──

 

「そうですか。貴女が…」

「あの、何かありますか」

「いいえ。刹那さんのお話にはよく『密』というお名前があがりますので。どのような方なのか、気になっていたもので」

「はあ、なるほど…」

 

 ふと気がつくと織女さん以外は少し離れて料理を食べている。『天形一家の対応は任せた』という言外の判断だろうか。

 しかし、二人──茉理と美玲衣は近づいてきた。

 

「私達も参加していいかな、密さん?」

「ええ。大丈夫ですよ」

「はじめまして。正樹美玲衣といいます」

「はじめまして~。中邑茉理っていいます」

「美玲衣さんと茉理さん、ね。はじめまして」

「ねぇ、神楽さん。どうして刹那さんの名字は二人と違うの?」

 

 誰もあえてしなかった質問を、茉理は迷わずにまず質問する。それに対して、返ってきたのは優しげな笑い声だった。

 

「貴女方が知っているのかは存じませんが、『天形』という名前は一部の方々にとってはあまり聞きたくのない不吉な名前とされています。そのため、刹那さんは学院に通うにあたっては私の旧名──『雨水(あまみ)』の名を使うようにしているのです」

「あの、やはり天形というのはあの、天形SPの…」

 

 織女の質問に神楽は頷く。

 

「はい。我が家は《天形SP》。『天形-security police-』の天形ですとも」

「やはり、そうなんですか…」

「織女さん。やはり、というのは…?」

 

 美玲衣は聞き慣れない名前で聞き返す。しかし、密と織女は知っている。

 

「天形SPは民間で運営されている『SP』の中でも全世界トップクラスの警備会社。過去の要人警護ではアメリカの大統領やローマ法王の護衛についていたこともある、知る人は言葉の通り『向かい合ってはいけない』人達です」

「風早グループではあまりお願いしたことはありません。そもそも天形ともなれば日本国内においては完全な過剰戦力です」

「そうですね。私達は日本国内での運用は想定には入れてはおりません。要人警護程度であれば問題なく行えるとは自負しておりますが」

 

 話を区切り、お茶で一度口を潤す。

 

「もし、皆様の周りで我々の力が必要であると感じるようなことがあれば、刹那さんの方から話を通していただければ格安でお受けいたしましょう」

「あ、あはは…」

 

 織女はただ笑うに留めた。リップサービスだとしても天形の力を借りられる可能性はあまりにも魅力的過ぎるのは大グループの次期トップゆえだからか。

 結局、夕食は和やかな雰囲気のままに終わっていった。

 

 

 

 ★

 

 

 

 -刹那side-

 皆で温泉にも入り、後は寝るだけという時間になった頃。刹那は密を連れて夕食の広間へと出てきていた。

 

「さて、密さん。もう少しだけお待ちください」

「えっと、何か始まるんですか?」

「ええ。貴女にとっては大切なお話になります」

 

 少しすると千歳を伴って鏡子が現れる。

 

「遅くなりました」

「いいえ、鏡子。まだ相手方は来ていませんから遅くありませんよ。…千歳も来たのですか」

「寝ようと思ったのに鏡子お姉さまに無理矢理…」

 

 欠伸を噛み殺すふりをしながら顔は笑っている。それを鏡子は憮然とした表情でぶった切る。

 

「連れていかないなら織女さんの部屋に突撃してくると脅した相手とは思えない言い分ですね?」

「あはは…。ですが、鏡子お姉さま自身、私を一人で部屋に置いていくことはしたくなかった。私の脅しは渡りに舟でしたでしょう?」

「…ノーコメント、です」

 

 千歳は部屋に置いていくのは怖い。自分の荷物を漁られる可能性はゼロではないのだ。あの、好奇心の塊の前に慢心は厳禁だ。

 

「ところで、私と密さんが呼び出された理由はなんでしょうか?」

「少し待っていただけますか。呼び出した本人がまだ来ておりませんので…」

 

 少しして、呼び出した本人──宗玄が神楽をお供に入ってきた。

 

「お待たせして申し訳ありません」

「ちゃんと連れてきてくれたね、刹那」

「父上に真面目な顔して言われれば連れてこないわけにもいきませんから」

 

 夕食中、私と話す際に垣間見えた顔。あれは前線で指揮を取る者の顔だった。つまり、父上はここに慰安旅行兼仕事で来ていることになる。

 

「まあ、まずは皆座りなさい。神楽、すまないが旅館長にいって何か飲み物を用意させてくれ。アルコール以外で頼む」

「かしこまりました」

 

 母上は頷くと襖を静かに開けて去っていく。私達は車座になって座る。

 

「さて、神楽が頼みにいってくれている間にも軽く説明はしておこう。まずは我々、天形SPは慰安旅行としてこちらに来てはいるが、実は仕事も受けてきている。仕事の内容としては本来であれば守秘義務からも君達に話すべき内容ではないのだが、現場に二つの戦力が用意されている以上、認識のすり合わせはしておくべきだと判断した」

「認識の、すり合わせですか…?」

 

 なるほど。つまり、父上達は──

 

「風早幸敬社長から仕事の依頼を受けてここへ来ているということですか」

「「───っ!?」」

 

 鏡子と密さんが一度こちらを見てから父上に視線を戻した。父上はこちらを見て笑っている。

 

「鋭いね、刹那」

「食事前、父上は慰安旅行の先を私の行き先へ合わせたと言いました。そして、先ほど『仕事も受けてきている』と言いました。つまり、当初のところ仕事を受ける予定は無かったといったところでしょう」

 

 その言葉に父上は素直に拍手を返してきた。

 

「その通りだ、刹那。私達は当初は別の場所へ慰安旅行を考えていた。そのため、依頼も断るつもりをしていた。だが、刹那が友人達と旅行に行くといい、その中に『風早織女』がいて、旅行先を私達に打診してきたことで考えが変わった」

 

 そこまで話して母上が一名の従業員とともにお盆を持って戻ってきた。それぞれの前に温かいお茶が並べられ、父上の隣に母上が座る。

 

「私達は刹那と久方ぶりに旅行がしたい。幸敬社長は織女さんの護衛を頼みたい。この二つの事柄を刹那さんが持ってきた旅行計画によって繋げることができました」

「まあ、そんなわけでね。当初は依頼を断るために幸敬にはデカイ額をふっかけていたんだが、私達には渡りに舟の話がきたから『ふっかけた額の半値で受けよう』と言ったら即決されたよ」

 

 相当な額をふっかけていたのだろうな、と思う。が、いきなり『半値にする』なんて言われれば頼みもするだろう。

 ようやく話が見えてきたのか、鏡子が発言する。

 

「つまり、この旅行中に限っては織女さんの護衛は貴殿方もいるということですか」

「むしろ私達がいるから君や密さんは旅行を満喫するといい、という大人からのささやかな支援だよ。普段から護衛もしていれば気苦労も絶えないだろう」

「それは、ありがたくは思いますが…」

「上からのことが心配かい?あまり考えすぎないことだ。私達も仕事である以上は手を抜かない。それに、ここは普通の旅先と比べると格段に安全だからね。君達も、旅行を楽しみなさい」

 

 お茶を飲みきると宗玄は立ち上がる。

 

「刹那もそういうことだから、明日・明後日はよろしくお願いするよ」

「わかりました。せっかくですからしっかりと遊ばせていただくとしましょう」

「刹那さん。私達とも遊んでくださいね?」

「茶目っ気出さなくてもかまいませんよ、母上」

 

 静かに去っていく二人を、刹那達は廊下へと出て見送った。

 

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