処女はお姉さまに恋してる-陰に輝く星-   作:揺れる天秤

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第27話 旅行~二日目~

 一夜開けて、二日目。

 

 朝食を終えたタイミングで織女さんから『今日はみんなで川で遊びませんか?』との提案で、全員水着を持って近くの川縁へと来ていた。

 更衣室に入り、一番早くに外に出てきたのは千歳と刹那。

 

「相変わらず思いますが、あの早着替えどうやっているのです?」

「企業秘密です」

 

 頭から被るタイプのバスタオルをかぶったと思った一瞬後にはスク水に着替えた千歳が立っているという手品か何かと見間違う手腕に、織女さん達は自身の着替えを一時中断していた。

 ───その陰でそそくさと着替えていた者もいたが。

 

「そういう刹那お姉さまもどうしてそんな色気もへったくれもないスポーツ水着なんですか」

「すみませんね。身体に合う水着となるとなかなか難しいんですよ。どうしても図体がデカイせいで」

 

 普通のパレオだとかワンピースだとかの水着に憧れがないわけでもないが、いかんせん上背があって男性なみに図体がよい自分に合う水着となるとどうしてもスポーティーなものに限られてくる。

 

「まあ、これはこれで人目は引きますか」

「何を皮算用しているのかは知りませんが写真は許しませんよ」

「わかってますよぉ~……チッ」

「予想通りの反応しますね」

 

 少し遅れて出てきたのは鏡子と密。密は腰に布を巻くパレオで鏡子は健康的な四肢を見せるかのような確か…セパレーツという種類だったでしょうか。

 

「やはり密さんはそういう水着なんですね」

「さすがに他のはちょっと…」

「似合うと思います…、よ?」

 

 楽しそうにからかい口調で千歳が話すのを、おもむろに鏡子が引きずっていった。

 

「どうしたんでしょうか?」

「さあ…」

 

 鏡子の暴挙に密も首を傾げている。最近あの二人、妙に仲が良いように見えますが…。

 

「お待たせしました」

 

 ようやく着替え終わった他のメンバーも出てくると織女はすぐさま川辺へと走っていく。

 

「さあ!遊びましょう!」

 

 密が走っていくのを見送って、美玲衣と茉理を見る。

 美玲衣はタンキニという水着。茉理はワンピースタイプ。

 

「よく似合っていますよ、二人共」

「えへへ~。ありがとう。刹那さんも似合ってるよ」

「ありがとうございます」

 

 はにかむように笑う美玲衣に刹那は手を差し出す。

 

「この辺りは危ないですからね。手を、繋いでおきましょう」

「え、えぇ…」

「じゃあ、反対は私っ!」

 

 手を取る茉理と美玲衣に優しく笑って、刹那は密達の方へと歩いていく。

 

 先に走っていった組はすでに川へと入ってお互いに水をかけあっていて、涼しそうだ。

 

「私達も行こうよ!」

「はいはい。少しは落ち着きましょうね、茉理」

「ふふっ。行きましょうか、刹那さん」

「美玲衣?──っ!」

 

 二人に引っ張られて川へと入っていく。足を入れた瞬間は冷たさに驚きはしたが、すぐに慣れた身体でザブザブと入っていく。

 

 

 

 ★

 

 

 

 -千歳side-

 着替えを終えた途端に鏡子お姉さまに引きずられつつも川辺を眺める。

 

「なかなか涼しげな場所のようで…」

「──この辺りでいいでしょう。千歳さん、少しお話があります」

「なんでしょうか?」

 

 まあ、一人別で引きずられてきたのだから何かあるとは思っていましたけど。

 

「今回の旅行、貴女はどこまで知っていたんですか?」

「何をですか?」

 

 白々しく聞こえていることだろうとは思うも聞き返す。本当は最初から知っていた。

 

 ──天形の人達が来ていることも。風早織女の命を狙っている相手がいることも。

 

「織女さんが狙われていたことにです」

「そうですね。実のところ、織女お姉さまの命を狙っているのはどうやら複数人いるということ。それぞれに思惑が違っているらしいことも調べはついていますが、学院内では刹那お姉さまが目を光らせていることもあって手が出せていないようですが」

「刹那さんが…?」

「ええ。あの人はどうやら『有名人』のようですから」

 

 有名人どころか『裏』に足を突っ込んでいる人からすれば『天形刹那』を知らないのはモグリだ。

 伝説にもなっている彼女の『偉業』を知っていればこそ、彼女の周囲で不審な行動は取れない。

 

「そもそも、風早の次期当主に近づくのなら織女お姉さまの命を狙う理由に説明がつきません。息子がいるならそれを送り込んだ方が安全な策といえるはずでしょうし」

「なるほど。確かにそうですね」

 

 しかし、身内から命を狙われている様子はないからそういう意味では風早グループの人間はまともな部類なのだろう。

 

「それで、織女さんは旅行中安全だと思いますか?」

「はい。正直、天形の人間がいる以上──並の戦力では相手にならないでしょうね」

「気になっていたのですが、天形SPの戦力ってどんなものなんでしょうか?」

「調べられたかぎりでは、一個小隊もいれば米国の軍隊一師団ぐらいなら足止めしますよ。あの人達は──『天形の人間は人間に在らず』と言われるほどの化け物軍団みたいですから」

 

 まあ、表層的な情報しか集められないほどに天形の情報プロテクトは強固で、ここまでの情報を集めるのに自前のパソコンはカウンターで二台オシャカにされた。

 

「まあ、鏡子お姉さまの心配もわかりますが旅行中は心配するだけ無駄かと。風早現社長が天形に護衛依頼をしている以上、手を出せば間違いなく死ぬより大変な目に合うでしょうから」

「刹那さんの家は魑魅魍魎でも飼っているんでしょうか…」

 

 おそらく化け物のトップは刹那お姉さまですよ、とは千歳は言い出せなかった。

 

 皆さんのいる場所辺りに帰ってくると川辺に日除けのパラソルを差して、その下でシートを広げて寝っ転がっている美海お姉さまと月子さん。

 川の方では、少し浅瀬の辺りで密お姉さまと織女お姉さま、花さんが何か探している。

 

「おや、刹那お姉さまや美玲衣お姉さま達の姿が見えませんね」

「刹那さん達なら少し離れた──ああ、あそこにいますよ」

 

 織女さんの指差したのは他より明らかに深くなっている場所に浮かぶ浮き輪に茉理お姉さまが乗ってプカプカと浮いている。それを引くのは刹那お姉さまと後ろから美玲衣お姉さまが押している。

 

「なかなか楽しそうですね」

「千歳さんもいきますか?」

「いえ。さすがにあの中に混じろうとは思いません。ですが、そちらの探し物が気になるので参加させてください」

「えっと。とくに何かを決めて探してはいませんよ?」

 

 そうは言うが織女お姉さまや花さんの手には妙に綺麗な石や透明度の高い歪な半球体があるじゃないですか。

 

「上流から流れてきているみたいで、綺麗な石がいっぱいあるのであとで水切りをするように集めているんです」

 

 答える織女お姉さまに私は笑う。水切りなど幼い頃にやって以来だ。確かギネス記録とかもあるはず。

 今の自分ならどのくらいできるのか楽しみになるのもわかる。

 

「お手伝いします。鏡子お姉さまもどうですか?」

「そうですね。他にやることもありませんし…」

 

 

 ★

 

 

 -刹那side-

 その後、天形家護衛組の準備によるバーベキューをしたり、集めた石での水切り大会。

 各々が楽しんでいるうちに日も暮れて、旅館へと帰ると大浴場に向かうのだが…。

 

「密さーん…。ダメですね、起きません」

「ダメそうですか?」

「叩き起こしましょうか?」

「いえ。そこまでするのはさすがに…」

 

 部屋のベッドで一息ついていたはずの密はいつの間にか小さな寝息をたてて眠りこけていた。一瞬、皆で行くわけにはいかないからと狸寝入りを決め込んだのかと思ったのだが、何をしても起きないので完全に寝入ってしまったようだ。

 

「仕方ありません。密さんも疲れているのですから置いていきましょう」

 

 部屋へと呼びに来た織女もさすがに起こそうとは思わなかったのか、私だけついていく。

 大浴場を通り抜けると、少し涼しい露天風呂へとたどり着く。そこには美玲衣と茉理、鏡子の三人が入っていた。

 

「あら。千歳さんは来ていないのですか」

「部屋へと戻ってからいつの間にかいなくなっていました。まあ、いちいち探すのも面倒なので気にしないことにしました」

 

 他のメンバーから少し離れた位置に落ち着くと空を見上げながら一息つく。

 

「刹那さん」

「うん?」

「隣、いいかな?」

「ええ、構いませんよ」

 

 すぐに茉理が近寄ってきて隣に座る。

 

「楽しかったね、旅行」

「まだ1日ありますよ」

「そうなんだけどさ。明日は帰りのこともあるからゆっくりは遊べないでしょう?」

「まあ、そうですが…」

「刹那さんは楽しくなかったの?」

「私は──」

 

 久しぶりにゆっくりとした時間を過ごしたという意味でも有意義な旅行だった。こうして、茉理とも旅行に来たのは初めてで──

 

「──ああ」

「どうしたの?」

「いえ…」

 

 入学してから間もなくして友人となった『仲邑茉理』。気がつけば隣にいることが当たり前になっていて、いつでも気軽に会える親友との初めての旅行。

 

「楽しかったですよ」

「そっか。良かった~」

「ええ、本当に」

 

 これからもそばで、そのほんわかした笑顔で隣にいてほしいと想えるほどに…。

 

「えっと、刹那さん。急に頭なんか撫でてきてどうしたの?」

「なんとなくですかね」

 

 私は『仲邑茉理』という女性が大切な相手になっていたのだと、気づく切っ掛けになった。

 


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